(゚、゚トソンの1日のようです |
- 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 00:52:55.55 ID:hTGPihTaO
- 誰かよろしく
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 01:08:58.28 ID:C/7s0ViK0
- 私の一日は、温かいコーヒーから始まる。
基本的に私は、インスタントのコーヒーが許せない。 何が哀しくて、あんなものを飲まなければいけないのだろうか。 あれを飲むぐらいなら、スターバックスのコーヒーを飲んだ方がましである。 ちなみに、私はコーヒーを豆から選び。 そして、自分で挽く。 面倒くさいが、これが美味しいコーヒーを飲む為の近道であるのだから仕方が無い。 さて、そんなこんなでコーヒーが出来あがった。 (゚、゚トソン 朝に糖分を摂るのは非常に重要である。 大さじ二杯の砂糖を入れ、スプーンで軽く混ぜてやる。 ミルクを入れないのは、私なりのこだわりだ。 コーヒーの香りを楽しむなら、やはりミルクは厳禁。 朝の日差しがカーテンから漏れ、部屋を照らしている。 1LDKの小さな部屋に、朝の気配があった。
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 01:14:10.29 ID:C/7s0ViK0
- 私の一日は、朝日を浴びることから始まる。
人間、光を浴びずに生活してもろくな事にはならない。 カーテンを勢いよく開け放ち、私は部屋に朝日を入れてやった。 朝日が照らし出したのは、最低限の家具しかない私の部屋。 残念ながら、私に浮かれた話題が無い。 しかし、それとこれとは別の話だ。 恋をすれば女は変わると言うが、眉唾な話だ。 まぁ、恋をした事が無いから何とも言えないが。 (゚、゚トソン 人生に潤いは大切である。 だれだったか、そんな事を私に教えてくれた事があった。 しかし、人に個性があるように。 人生の潤いという奴にも個性がある。 私の場合、その潤いのほとんどはこの朝の時間にある。 最初に断っておくが、ラジオ体操などでは無い。
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 01:20:31.23 ID:C/7s0ViK0
- 私の潤いは、観葉植物に水をやることから始まる。
口数が少ない私にとって、数少ない話相手である。 乙女チックな趣味と笑われるかもしれないが、私はそうは思わない。 植物は人間と違い、非常に繊細である。 水をやり過ぎれば腐るし、あげなければ枯れてしまう。 口が利けない彼らを世話するのは、母性本能に近いものがあった。 少なくとも、男を世話するよりもサボテンを育てる方がいい。 彼らが花を咲かせた時、何とも言えない気持ちになるのだから。 (゚、゚トソン 丸くて可愛らしいサボテンに、霧吹きで水をやる。 朝日に反射して、その雫がキラキラ輝いた。 サボテンの育て方の一つに、ある変わったものがある。 誰だったか、サボテンは人間に一番近い植物だとか言っていた。 それが本当なら、この育て方は間違っていないし。 理にかなっている。
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 01:25:56.38 ID:C/7s0ViK0
- 私の潤いは、観葉植物に話しかけることから始まる。
最初は恥ずかしかったが、今では日課となっていた。 昨年の今頃、その成果を目で見て私は確信した。 黄色くて小さな、弟のように可愛らしい花が咲いたのだ。 水でも肥料でも、環境でも無い。 他ならない、寂しがり屋の弟だから。 私は話しかけるのだ。 時には音楽を共に聴き、共に月見もした。 (゚、゚トソン「おはようございます」 気のせいかもしれないが、サボテンは小さく返事をしてくれた。 コーヒーカップを片手に、私はサボテンを撫でる。 サボテンもコーヒーを飲めればいいのだが、それをしたら本当に枯れてしまう。 だから、せめて。 私は、サボテンにコーヒーの香りを優しく伝える。 出来るだけ近くで話しかけて、コーヒーの香りだけを伝えるのだ。
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 01:32:28.50 ID:C/7s0ViK0
- 私の潤いは、窓を開け放つことから始まる。
朝の新鮮な空気を、部屋中に取り込む。 この温かい空気は、昼ごろには灼熱の空気となるだろう。 私の頬を、風が撫でた。 さて、私が窓を開け放ったのは何も空気の入れ替えの為ではない。 事前に用意してあった米粒を手に取り、ベランダに身を移す。 まだ寝間着姿ではあるが、近所の人たちは皆寝ているだろう。 まぁ、仮に見られていたとしても別にどうという事は無いのだが。 (゚、゚トソン 手に持った米粒を、ベランダに撒く。 しばらくすると、鳥のさえずりが聞こえた。 これが、私の数少ない潤いの内のその2である。 ここまで来るのに、2年の歳月を要しただけあった。 ベランダの手すりに数羽の雀がとまる。 そして、私は彼らに話しかけた。
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 01:37:55.15 ID:C/7s0ViK0
- 私の潤いは、雀と会話することから始まる。
如何に野生と言えども、餌づけをされれば人間にも慣れる。 今日は3羽の雀が来た。 内一羽は、まだ幼さがある。 どうやら、お父さんとお母さんに連れてこられたのだろう。 両親が私にさえずり、子もそれに倣う。 まだぎこちなさが残るその姿は、微笑ましかった。 挨拶をすませると、三羽は米を撒いた場所に降り立つ。 (゚、゚トソン「ちゅん、ちゅん?」 おはよう、最近景気はどう? と尋ねる。 それに対し、両親が米をついばみながら答えた。 どうやら、最近鳩が多くて敵わないらしい。 野生の世界は厳しいようだ。 大変だね、と慰める。
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 01:43:10.49 ID:C/7s0ViK0
- 私の朝食は、トーストとヨーグルトから始まる。
雀との会話を終え、私はトースターにパンをセットする。 私なりのこだわりで、パンは近所のパン屋さんから丸々一つを買う。 自分好みの大きさに切る楽しみもそうだが。 私はパンの耳が大好きなのだ。 あの固さ、適度な甘み。 今日は少し機嫌がいいので、一番恥っこの耳の部分を切り落とした。 パンが焼きあがるまで、少しの時間が余る。 (゚、゚トソン その間に、私は冷蔵庫からヨーグルトを取り出す。 友人から分けてもらったカスピ海ヨーグルト。 これがなかなかに美味しく、尚且つ経済的であった。 何せ、牛乳と菌を少量を入れるだけで大量に出来るのだ。 トッピングは蜂蜜のみ。 ほんらいなら、ナタデココが欲しいところではあったが、昨日で切れてしまった。
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 01:48:52.48 ID:C/7s0ViK0
- 私の朝食は、いつもゆっくりとしている。
食事に時間を掛けるのは常識であり、私のポリシーである。 焼きあがったトーストに、薄くバターを塗る。 この時、溶けたバターから漂う香りが私は好きだ。 さくっ、さくっ と子気味のいい音を立て、私はパンを食べ始めた。 焼いた時、パンの部位で一番歯ごたえのあるのはやはり耳だ。 弊害として、カスが多く出てしまうのだが。 (゚、゚トソン 2、3口食べると、私はコーヒーを口に含んだ。 甘いコーヒーが、私の思考を透明にする。 ほっと溜息を吐き、私は食事を再開した。 さくっ、さくっ やはり、あのパン屋は腕がいい。 今度はフランスパンでも買ってみよう。
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 01:56:08.61 ID:C/7s0ViK0
- 私の朝食は、ヨーグルトで終わりを告げる。
食べ終えたパンの皿を端にのけ、私はヨーグルトの入った皿を持ちあげた。 スプーンで一杯。 それを口に運ぶ。 蜂蜜とヨーグルトが混ざり合った部分が、何とも言えない味を出していた。 酸味のあるヨーグルトと、甘い蜂蜜の組み合わせは病みつきになる。 粘り気の強いカスピ海ヨーグルトと、蜂蜜の組み合わせは私のお気に入りだ。 バナナがあれば尚いい。 ナタデココがあれば最高だ。 (゚、゚トソン はもっ、もみゅっ そんな音を立てて、私はヨーグルトを咀嚼する。 ヨーグルトと言えど、やはり噛まないと気持ちが悪い。 それに、このヨーグルトは噛むだけの価値がある。 のみ下し、私は更にスプーンを進めた。 時折コーヒーを飲み、頭を目覚めさせる事を忘れない。
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 02:03:54.27 ID:C/7s0ViK0
- 私の仕度は、非常に短い。
食べ終えた食器類を片付け、私は寝間着に手を掛けていた。 社会人である私は、当然の事であるが仕事を持っている。 そして私は、その仕事に誇りを持っている。 今の世の中ではなく、未来の為の仕事だ。 ただし、非常に大変である。 それでも、遣り甲斐のある仕事だった。 世間一般に言う、"先生"と呼ばれる職業である。 (゚、゚トソン 黒のスーツに身を包み、私は身だしなみを整える。 先生たる者、生徒の見本とならなければならない。 身だしなみは、非常に重要である。 まぁ、反面教師ならば身だしなみに気を遣わなくてもいいだろうが。 私は普通の教師である為、そうもいかない。 スカートを履くのが今の主流だそうだが、私は長ズボンを履いている。 スカートの不便さは異常であるからだ。
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 02:10:01.69 ID:C/7s0ViK0
- 私の学校は、電車と徒歩で15分ほどの距離にある。
駅までは徒歩3分。 そろそろ出発しよう。 カバンを片手に、私は家を出る事にした。 靴を履きながら、誰もいない家に向かって振り返る。 数年前までは、一人では無かった。 そんな事を考えると、悲しくなってしまう。 だから、私はそれを打ち消すために声をだすのだ。 (゚、゚トソン「いってきます」 聞こえるはずの無い返事に期待しつつ、私は戸を閉めた。 鍵を閉め、施錠されている事を確認する。 先日、この辺りに変質者が出たそうだ。 用心するに越したことは無い。 まぁ、私の所に来る事は無いだろう。 私は駅に向かって歩き出した。
- 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 02:17:04.08 ID:C/7s0ViK0
- 電車の中は、非常に混んでいた。
まぁ、席に腰かけている私には関係ないが。 サラリーマンの方々、ご苦労様です。 と、内心で応援する。 職場で罵られ、家庭内でも罵らる人がこの中にいるのだろう。 何とも理不尽な話だ。 家事をするよりも職場で仕事をする方が大変だというのに。 まぁ、私には関係ない事だ。 (゚、゚トソン ふと、視界の端に見過ごせない人を見つけた。 すっと席を立ち、その人の肩を叩く。 推定80歳だろうか、老婆が視界の端で立っていたのだ。 ここは譲るのが人情というもの。 私が老婆を席に案内しようとして。 問題が起きた。
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 02:22:39.73 ID:C/7s0ViK0
- 世の中は、ときどきおかしい。
人に常識を説く者が率先して常識を破る。 それは例えば、国会議員であったり。 大統領だったり先生だったり、人生の先輩だったりする。 問題を起こしたのは、人生の先輩だった。 私が席を立った隙に、私の席に腰かけたのだ。 齢50代。 世間一般に言うオバサンだった。 (゚、゚トソン「すみませんが、その席はこちらの方にお譲りするのです。 そこをどいてはくれませんか?」 出来るだけ、私は丁寧かつゆっくり。 そして大きな声で言った。 私の言葉に、オバサンは無視を決め込んだようでした。 どうにも、こういう輩は苦手です。 とはいえ、私はここで泣き寝入りをするような性格をしていません。 少しだけ語気を強めに、もう一度同じ事を口にする。
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 02:32:05.03 ID:C/7s0ViK0
- 私の性格は、思った事を口にしなければ気が済まない性質だ。
だから時々、トラブルを起こします。 外出先であれ、学校であれ。 敵を作りやすい性格だそうで、非常に難儀な話です。 私は別に、好んで敵を作る趣味はありません。 しかし、本当の事を言われて腹を立てる輩とは仲良くする気はない。 非常に残念ながら、今回の相手はその手の輩でした。 私の言葉に、唾を飛ばしながら文句を言ってきます。 (゚、゚トソン「話は後で聞きましょう。 今は、そこをどいてください」 逆効果でした。 変な進化を遂げたオバサンと言うモノは、何とも哀れな物です。 憐れむ目で見ていたのが分かったのでしょうか、オバサンは尚も何かを口にする。 いい加減、私にも限度と言うモノがあります。 そろそろ、周りの方にも迷惑だろう。 私がそう思った時でした。
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 02:34:22.94 ID:C/7s0ViK0
- ねぇ?
おれはこれを書いた方がいいの? そろそろ寝たいんだけど
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 02:40:38.50 ID:C/7s0ViK0
- じゃあ残ってたら書くよ
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 07:29:04.44 ID:C/7s0ViK0
- なんで残ってるかな……
- 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 07:44:30.40 ID:C/7s0ViK0
- 私の生徒は、変わり者が多い。
例えば、そう。 今まさに、私の代わりにオバサンに食ってかかった男子とか。 変わり者の中でも、まず筆頭に挙げられる。 お世辞にも頭がいいとは言えないが、とても素直な生徒だ。 名前は、ミルナ。 世間一般に言う"不良"に分類される彼だが、私はそうは思わない。 何せ、彼は本当に心優しい子なのだ。 (゚、゚トソン「おはよう、ミルナくん」 何事も無かったかのように私が挨拶をしたのは、何もオバサンが鬱陶しくなったからではない。 生徒に挨拶をするのは、教師として当然の事だからだ。 軽く挨拶を返したミルナは、オバサンに席を退くように言う。 まぁ、彼の様な容姿をした者に対してオバサンと言うのは、非常に弱い。 オバサンは影ではあれこれ言うが、面と向かっては何も言えないのだ。 テレビ相手に鍛えた毒舌も、三次元相手には通用しないという事である。
- 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 07:52:57.76 ID:C/7s0ViK0
- 私の生徒は、変わり者が多い。
見事オバサンを撃退したミルナが、老女に席に着くよう促す。 最初は困惑していた老女だったが、流石は長い人生を過ごしているだけある。 ミルナの内面を理解し、老女は席に着いた。 何度も何度も頭を下げるので、ミルナは困っていた。 世間から冷たく扱われるのには慣れているが、優しくされるのには慣れていない。 見ていてとても面白い光景だ。 彼は"不良"ではなく、ただ不器用なだけだとつくづく思う。 (゚、゚トソン「ありがとうございます、ミルナくん。 でも、もう少し言葉遣いを練習しましょう。 喧嘩をするわけじゃないんですから」 最近の若い男の子は、意識せずとも乱暴な言葉遣いをしてしまう。 それでも私が彼と初めて会った時に比べれば、大分良くなった方だが。 無駄に語気を荒げたり、汚い言葉を使ったり。 典型的な若者だった。 それが悪いとは言わないが、もう少し優しい言葉遣いを心掛けてほしい。 先のオバサンが撤退する時、ミルナに向けていた周囲の複雑な目線はその為だ。
- 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 08:00:49.97 ID:C/7s0ViK0
- 私の生徒は、素直な子が多い。
例えば彼、ミルナとか。 教師と登校をする生徒は、今日減っている。 しかし、彼は嫌がる事も無く共に登校してくれた。 目的の駅に到着し、私は彼が友人と登校するものだとばかり思っていたのだが。 彼から登校の誘いを受けた。 断る理由もない為、私は彼と登校する事にした。 そして、今に至る。 (゚、゚トソン「ミルナくん、どうしてそんなにズボンを下げて履くのですか?」 他愛のない会話。 それでも、生徒と交わす会話は非常に重要である。 彼らの心理状態、健康状態を知ることも教師の仕事である。 勉強の事は、その次で十分。 私は、縦横の関係は嫌いだ。 教師も生徒も、共に横の関係であってもいいと思う。 考え方が人それぞれなら、この考えも間違ってはいない。 数が多い事の方が正しい。 それは間違いだ。 私は、彼ら生徒にそれを教えたい。 ―――私の一日は、こうして始まる。
- 50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 08:05:33.51 ID:C/7s0ViK0
-
(゚、゚トソンの1日のようです
- 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 08:07:06.61 ID:C/7s0ViK0
-
人生は長いのだろう 貴方のことも思い出すのだろう 人生は長いのだろう また誰かの肩を抱くのだろう 鬼束ちひろ【Sweet Rosemary】より抜粋
- 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 08:14:08.83 ID:C/7s0ViK0
- 学校に着いた私は、ミルナと別れを告げて職員室へと向かった。
教師と言う仕事は、いろいろと面倒な事が多い。 いちいち校長の"ありがたい話"を聴かされたり、教師同士の朝会があったり。 生徒の方が大変という事を耳にするが、教師はその倍は忙しい。 不審者に対する警告を生徒にしろ、とか。 そろそろ卒業式が迫っているから問題を起こさせないように、とか。 耳にたこができる程聞かされ、ようやく私は開放された。 あんなつまらない話、聞いていても何の役にも立たない。 (゚、゚トソン 一時間目の授業の前に、まずは受け持っているクラスでHRをしなければならない。 この時間が、私は気に入っている。 私のクラスは、とても教えがいがあるし。 何より、彼等はとても愉快なのだ。 口下手な私にも優しく、非常に温かいく温かいクラスである。 彼らの為なら疲れる甲斐があるというもの。
- 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 08:28:40.10 ID:C/7s0ViK0
- 私の受け持つ学年は、最高学年の3年。
今は非常に難しい時期だ。 受験を終えた者、まだ終えていない者。 それぞれが、次のステップへと踏み出す準備をしている。 まるで、彼等は雛鳥だ。 巣立ちが不安で、時には泣いて親を困らせる。 でも、いつかは必ず巣立つのだ。 そのきっかけの一つが、卒業式である。 (゚、゚トソン 手にした出席簿。 もうボロボロになったクラス帳。 それも、あと少しで無くなる。 まるで、チョークのように。 でも、ここにいたという証は残せる。 どこにでも、残せるのだ。
- 57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 08:34:00.32 ID:C/7s0ViK0
- 私のクラスは、二階にある。
学年が上になるにつれ、クラスは下の階になる。 つまり、最上階は四階ということだ。 正直、この制度は正しいと思う。 歳をとると、四階まで上がるのは一種のスポーツになってしまう。 生徒ではなく教師の事を考えたに違いない。 クラスの前に来るまでに、数人の生徒と挨拶を交わす。 腕時計は、そろそろHRが始まる時刻を指していた。 (゚、゚トソン「ほら、教室に入りなさい」 元気のいい声で返事をするが、果たして間に合うのだろうか。 そんなに念入りに髪型を気にしなくてもいいのに。 そうこうしている内に、鐘が鳴った。 この学校はチャイムを使わずに、本物の鐘楼を使用している。 一体どんなこだわりか知らないが、私は気に入っている。 まるで、自分も学生に戻ったかのような気になるから。
- 60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 08:38:57.87 ID:C/7s0ViK0
- 私のクラスは、二階の一番端っこにある。
三年一組。 残念ながらアルファベットで振り分けられていない。 当然、ロン毛の国語教師もいない。 クラスの前でたむろしていた生徒が、私の姿を見るや否や。 慌てて化粧道具をしまい始めた。 そんなに邪魔なら、最初から使わなければいいのに。 私は彼女達に促す。 (゚、゚トソン「早くしないと、遅刻にしますよ?」 これが冗談や脅しだと思っている生徒はいない。 一年時、この警告を洒落や冗談だと思った生徒が留年した。 丁度いい訓戒になったらしく、私の言葉に逆らう生徒は少なくなった。 まだ中学二年生並みの思考を持つ生徒が時々、反発するぐらいだ。 まぁ、私のクラスにはいないから別にいい。 私はスライドドアに手を掛け、ゆっくりと開けた。
- 63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 08:46:34.24 ID:C/7s0ViK0
- 私のクラスは、非常ににぎやかだ。
と、言えば聞こえはいいかもしれないが、言葉を換えれば騒がしい。 生徒の元気の良さを否定する気は無いので、少し静かにするように言う。 徐々にではあるが、クラスが鎮まる。 見渡す席に、空席は一つもない。 今日も順調。 よしと頷き、私は手にした出席簿を広げる。 ボールペンで丸を付け、誰も欠席していない事を記す。 (゚、゚トソン「さて、みなさん。 卒業式まであと何日か分かりますか?」 出席簿を閉じ、私は皆に問うた。 クラスのあちらこちらから、その日数が告げられる。 しかし、どれもバラバラの上、間違っていた。 彼等は本当は分かっている。 でも、それを進んで言いはしない。 何故なら、とても悲しくなってしまうから。 出会いと別れ。 その別れが、後少しである事を再認識させられてしまうから。
- 66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 08:52:21.66 ID:C/7s0ViK0
- 私もあえて、その答えを言う事は無い。
ただ、教師という立場上どうしても言わなければならない事が多々ある。 変質者然り、卒業式までは行儀良くしている事。 一通りの伝達事項を終え、私は溜息を吐いた。 卒業式までの間しか、彼らと過ごせない事を考えると寂しい。 でも、それは彼等も同じなのだ。 掛替えのない友との別れ。 もう二度と戻らない日々。 (゚、゚トソン その時、私はどんな顔をしていたのだろうか。 生徒の目が、私の顔を見ている事に気付いた。 無理やりに顔を元に戻し、私はもう一度溜息を吐いた。 どうにか会話をしなければとも思うが。 どうやら、言葉はいらないようだ。 ―――皆、同じ気持ちだったのだから。
- 67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 08:56:36.21 ID:C/7s0ViK0
- ごめん、そろそろ俺出かけるからさ、後はもう好きにしちゃってくれ
書き溜めしてないし、帰ってくるのも6時くらいなんだ ごめんね、昨日から付き合わせちゃって
- 109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 19:00:59.03 ID:1vFw+/+D0
- 待たせたましたね!
相変わらずのながらですが、どうぞお付き合いください 途中で飯に消える事ありますので、ご容赦を
- 111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 19:05:55.56 ID:1vFw+/+D0
- 私のクラスは、とても個性的だ。
例えば、そう。 ミルナの友達のトラギコ。 彼は空気を読むことに関して言えば、天才と言っても過言ではない。 クラス中に満ちたこの空気を、真っ先に変えてくれたのは彼だった。 相変わらずの口調で、クラスに笑いをもたらした。 これまで何度、彼に救われてきたことか。 調子に乗らないように宥めながら、私は口を開く。 (゚、゚トソン「まだ授業があります。 ですから、気を抜かないように」 これ以上ここに居たら、私はきっと泣いてしまう。 だから、私はそう言ってすぐに教室を後にした。 鐘の音が、HRの終わりを告げる。 授業まで、まだ少しの時間があった。 一先ず、感傷に浸るのは帰ってからにしよう。 今は、悔いのないように授業をするだけだ。
- 113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 19:12:15.19 ID:1vFw+/+D0
- 私の担当教科は、高校生が嫌いな教科No.2に位置するものである。
そう、英語だ。 一体何のために勉強するのか。 英語が苦手な彼等は、口をそろえてそう言う。 だが、よく考えてみれば皆知らぬうちに英語を使っているのだ。 パソコン然り、テレビ然り、音楽然りである。 若い女子に人気のアイドルグループは、時々めちゃくちゃな英語を使う。 それを指摘した時、クラスの多くから批判を受けた。 (゚、゚トソン「……で、ここの訳は"結局"になるわけです」 卒業が近いというのに、何故勉強をしなければならないのだろうか。 それは、ある意味怖いからだ。 何かしていないと、体が落ち着かない。 心が、落ち着かないのだ。 いつもと違う行動は、慣れるまでに時間が掛かる。 彼等には、その時間が無かった。
- 115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 19:19:07.22 ID:1vFw+/+D0
- 今行っている授業内容は、いつもと違っていた。
だが、それでも英語の勉強である。 いつもは教科書を見て、文法などを学ぶ。 しかし、今は教科書類は一切使わない。 使うのはテレビと、DVDプレイヤーと、耳と目だ。 字幕なし、吹き替えなしの映画を鑑賞。 その後、物語の展開等を話し合うのだ。 この授業は生徒にとても受けがよく、日頃は頭を唸らせているミルナも積極的に参加していた。 (゚、゚トソン「これを馬鹿正直に訳すと、"結局、明日は別の日"になります。 ですが、ここはセンスで訳しましょう。 ミルナくん、どうぞ」 英語教育の場で、生徒が何故英語嫌いなのか。 その答えを教えてくれた生徒を、私は指名した。 堅苦しくて、訳していて訳が分からない文章なんて読みたくない。 なるほど、とても分かりやすい。 ならば、自分なりに噛み砕いて訳すという方法を使おう。 彼のおかげで、私は自分なりの教育方法を見つけた。
- 118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 19:27:35.93 ID:1vFw+/+D0
- 私の教え子は、時々予想外の事を言う。
英語の成績が3のミルナが、そのいい例だった。 今見ている映画は、少なくとも今の世代の生徒が知っているわけがない。 名作中の名作、"風と共に去りぬ" モノクロ映画を見せられていながらも、生徒の目は輝いていた。 まぁ、今の3Dを多様した映画よりは面白いが。 映像に関して言えば、綺麗な映像を見慣れた子からしたらひどいものだろう。 結局、生徒は謎が多い。 ミルナの答えを聞き、私は拍手をした。 (゚、゚トソン「すごいですね。 その通りです。 "明日は明日の風が吹く"、これが最も有名な訳なんですよ。 他に、この訳を言いたい方はいますか?」 高校生ともなると、授業中の発言回数はめっきり減る。 しかし、この授業は不思議と皆参加してくれていた。 数人の生徒の意見を聞き、私は何度も拍手をした。 "結局、明日は誰にもわからないのさ" とキザに答えたトラギコは、やはりクラスの笑いを誘った。
- 120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 19:34:08.34 ID:1vFw+/+D0
- 私の生徒には、面白い背景を持つ生徒が居る。
例えば、そう。 トラギコ、彼の背景はとても面白い。 彼の頬には大きな傷がある。 多くの人はそれを、"ヤクザが格好付けの為に傷を付けた"ぐらいに考える。 だが、実は違う。 彼の義妹に負わされた傷だと聞いた時は、我が耳を疑った。 しかし、よく話を聞くと思わず頷いてしまう。 (゚、゚トソン「ヤンデレ、と言うやつですか。 恐ろしいですね」 学校帰りに、女子が彼をからかっている様子を見た義妹は。 それは"乳繰り合っている"と勘違い。 帰宅すると同時に、激しい肉弾戦が展開。 女で尚且つ義妹ともなれば、如何に喧嘩に自信のあるトラギコと言えども手が出せなかったそうだ。 結局、トラギコは勘違いのせいで頬の肉を持って行かれ、周りの女子が一歩引く羽目になった。 一体何で傷つけたのだろうか、それは今尚謎である。
- 122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 19:48:38.88 ID:1vFw+/+D0
- 私のクラスには、少しばかり複雑な背景を持つ生徒が居る。
例えば、そう。 クラスで一番元気の無いドクオ、彼の背景は複雑だった。 彼には、二人の母親がいる。 父親の浮気相手が、今のドクオの母親。 離婚した母が、ドクオの生みの親である。 両親と三人暮らしをしているドクオは、精神的に非常に不安定な時期があった。 理由を聞いてみると、とても分かりやすいものだった。 (゚、゚トソン「どちらの母親に着くか、ですか」 それは非常に難しい選択であった。 経済的に考えれば、ドクオが本来の母親の元に行けば、苦しい生活が待っている。 逆に、今のままでいれば経済的には豊かだが、心苦しいままである。 教師として、いかなる助言をしたものか。 彼は私を信用しているのだ。 だから私は、彼が夢見た結末への手伝いをした。 結果、彼の希望通りの結末が訪れた。 彼の希望、それは元通りになる事だった。 浮気相手を家庭から追い出し、両親は再婚。 そこに行くまでの過程は、非常に長いので割愛する。
- 126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 20:12:18.81 ID:1vFw+/+D0
- こうして振り返ってみると、私の教師生活は非常に充実してる。
毎日が忙しく、毎日が楽しい。 授業終了を告げる鐘の音が、私の意識を現実に引き戻した。 テレビとその周辺機器の片づけを生徒に任せ、私は職員室へと足を進める。 意外と知られていない事だが、教師には職業病とも呼べるものがある。 あまり大きな声で言えないが、尿道結石や膀胱炎だ。 授業が連続していると、教師はトイレに行けない。 それがたまりにたまって、先日内藤先生が病院送りとなった。 (゚、゚トソン それだけは御免被るので、私はこまめにトイレに行く事にしている。 用を済ませ、私は洗面台の前で手を洗いながら身だしなみを確認する。 よし、いつも通り。 二時間目は授業が無いので、私は職員室の自分の席に行く事にした。 移動しながらも、ハンカチで手を拭く。 生徒にもらった群青色のハンカチは、私のお気に入りだった。
- 128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 20:18:55.25 ID:1vFw+/+D0
- 職員室には、私以外誰もいなかった。
珍しいこともある。 いつもなら一人や二人いるのだが、やはり卒業式間近という事が関係しているのだろう。 静かな事はすばらしい。 私は少しワクワクしながら、自分の席に着いた。 本当に誰もいない事を確認し、私は机の引き出しの一番下を開ける。 そこには、密かに集めた甘味料が入っていた。 お茶受けから駄菓子まで、なんでもある。 (゚、゚トソン その中から、私はマシュマロを選んで取り出した。 イチゴ味とスタンダードのマシュマロがあるが、私はイチゴを選ぶ。 焼いて食べたいところではあるが、ガスコンロで焼くと臭くなる為、ここは我慢である。 隠れるようにして、私は一つ。 口にゆっくりと運ぶ。 そして、口に含んだ。
- 130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 20:24:35.20 ID:1vFw+/+D0
- 口の中に入ってきたマシュマロの舌触りは、とても滑らかだった。
イチゴの風味に味付けされた表面を、私はまず舌で舐める。 すぐに噛んでしまえば、もう二度とそれを堪能できない。 マシュマロの表面は、非常にデリケートなのだ。 火であぶれば溶けるだけあって、舌の上でも少しずつではあるが溶けだす。 そろそろ、良いころ合いだろうか。 奥歯で甘噛し、その弾力を確かめる。 文句は無かった。 (゚、゚*トソン 一気に噛みつぶしたマシュマロから、イチゴ味のソースが飛び出る。 うっすらとした表面とは違い、そのソースはとても濃厚だった。 近所の駄菓子屋の中でも、化学調味料を殆ど使わない老舗の品だけある。 作られたイチゴの味ではなく、本物のイチゴソースの味がする。 幸せだ。 隠れて食べる駄菓子が、この職員室の中で一番おいしい。 あぁ、幸せだ。
- 132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 20:29:44.69 ID:1vFw+/+D0
- ふと、私はマシュマロを食べる手を止めた。
しかし口は止めない。 もにゅ もにゅもにゅ 誰か、近くに居る。 職員室の外か。 ゆっくりとマシュマロの袋を閉じ、元の引き出しに戻す。 普段はあまりかけない鍵も掛け、マシュマロを飲む込む。 (゚、゚トソン じーっ、と職員室の入り口を見る。 人影は見えないが、確実に気配がある。 用務員のおじさんか、はたまた他の教師か。 ペニサスさんなら問題は無いが、他の教師となると厄介だ。 音をたてずに机の上に成績表を広げ、あたかも、 "今忙しい"雰囲気を作り出す事を忘れない。
- 134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 20:35:57.11 ID:1vFw+/+D0
- 控えめにノックされた扉が、ゆっくりと開く。
そこから顔を出したのは、全く予想外の人間だった。 ミルナである。 今は数学の授業があるはず。 何があったのだろうか。 数学の担当はハロー先生だから、授業を忘れている可能性も捨てきれない。 そうなれば、担任が別の授業を開始するのがこの学校の校則だ。 とても迷惑である。 (゚、゚トソン「ミルナくん、どうしました?」 先程までマシュマロの余韻に浸っていた事を悟られないように、わざとらしく成績表を閉じる。 しかし、ミルナは私の手元ではなく私の顔を見ていた。 ミルナが、話があるんですが。 と珍しく私を呼び出した。 はて、何事か。 私はとりあえず、ミルナにこちらに来るように手招きをする。
- 136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 20:42:27.28 ID:1vFw+/+D0
- 辺りを気にして近寄ってくるので、他に誰もいない事を告げる。
すると、ミルナは安心したのかいつもと同じ歩調で来た。 踏み切れた踵を引きずりながら来る様は、並みの教師なら逃げ出すところであろう。 しかし、彼がそのような格好をしている理由を私は知っていた。 手近な席に座るよう促す。 ミルナは今は亡き内藤先生の椅子に腰かけた。 ぎしり 使い古された椅子から、軋む音が聞こえた。 (゚、゚トソン「で、話とは? ここには他に誰もいませんよ」 改めて、今ここは二人しかいないことを教える。 手足が落ち着きなく動いている。 それでも、ミルナの目は私の目を真っ直ぐに見ていた どうやら、真面目な話らしい。 ミルナは大きく喉を鳴らして唾を飲み込んだ。 でも、私は急かさない。
- 138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 20:49:25.71 ID:1vFw+/+D0
- 意を決したのか、ミルナの手足が止まる。
次にミルナが口にした言葉に、私は少し眉をひそめた。 その話は何度も聞いていたが、どうやらその話が深刻化したらしい。 ここで話していいような内容ではない。 そこで、私は彼と一緒に相談室に行く事にした。 この学校には、生徒と対話する為の相談室がある。 外部に一切音は漏れず、中を見られる事もない。 内側から施錠すれば、マスターキー以外では決して開けられない。 (゚、゚トソン「それで、今度は何があったんですか?」 二人で席に着くと、私は開口一番そう言った。 この話は、非常にデリケートなものだ。 ミルナの隣に座った私は、彼と向き合う。 ミルナの目には、いつもの余裕は無かった。 今にも壊れてしまいそうな、そんな目だ。 大丈夫だから、と私は宥める。
- 140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 20:58:05.53 ID:1vFw+/+D0
- 私の生徒には、非常に重い背景を持つ子が居る。
それは、今私の目の前で雛鳥の様な眼をしている生徒。 ミルナ、その人であった。 普段は陽気にふるまっているが、彼ほど深刻な家庭事情を持つ生徒は私のクラスにはいない。 ドクオの方がまだましではないだろうか。 そう思える程、彼の家庭は酷く荒んでいる。 両親は二人とも健在。 しかし、その二人にこそ問題があった。 (゚、゚トソン「ゆっくりでいいですから、ね?」 彼の両親は共働き。 父親は凄腕の証券マン、母親は一流企業の副社長だ。 そして、両親とも一流大学を卒業した学歴がある。 もうここまでくれば、誰でも想像できるだろう。 両親はミルナに勉強を強要し、彼を自分達の道具のように扱うのだ。 更に、互いの教育方針の行き違いで不仲。 それだけではない。 共働きに加え、二人とも夜遅くに帰ってきて早朝に出かけるか。 両親とも一日中帰って来ないかの、三択だった。 一人っ子のミルナに、それは耐えがたいものである。
- 143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 21:05:45.06 ID:1vFw+/+D0
- むしろ、ミルナはよく耐えた。
小学校5年生の時には、ミルナはもう自宅に居なかったそうだ。 代わりに、友人で幼馴染であるトラギコ宅にお世話になった。 そして、身勝手な両親はそれを咎め、ミルナに体罰を加えたとのこと。 ミルナは、給食とトラギコ宅以外で温かい料理を食べた事が無い。 何故なら、彼の両親は食事代の一万円を机の上に置くだけなのだ。 小学校6年生にして、ミルナは非行に走った。 だが、両親は何も言わなかった。 まるで、"家の子ではない"と言わんばかりに。 (゚、゚トソン「……それは、一体どこで知った情報なのですか? それが本当だという証拠はありますか?」 荒みきったと思われていたミルナの家庭に今回起きたのは、両親の浮気だった。 それも、両親二人が揃って浮気をしていると。 もう呆れて言葉も出ないが。 それが本当だという証拠が無ければ、何とも言えない。 噂や勘だけでは、こちらは適切な対応が出来ないのだ。 しかし、ミルナはそう言うだろうと思っていたのか、机の上に数枚の写真を広げておいた。 私は、言葉を失った。
- 146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 21:14:25.88 ID:1vFw+/+D0
- 写真に映し出されていたのは、若い女と手を組んでホテルから出てくる男の写真。
そして、若いと男と腕を組んでホテルに入る女の写真。 男はミルナの父親。 女は、当然ミルナの母親だった。 しかし、私が言葉を失ったのは別の部分だった。 父親が手を組んでいる女は、"明らかに若すぎる"。 せいぜい高校生、最悪中学生だ。 (゚、゚;トソン 別の写真には、大学生かOLの女と。 この写真が意味しているのは、間違いなく浮気だった。 母親が腕を組んでいる男、どう見てもカタギではない。 ホストにしか見えない。 金に物言わせ、様々な男と寝ているのだろう。 私は写真を纏めて裏返すと、深い溜息を吐いた。 最悪だ。 ミルナがこれほど焦っていたのも納得できる。
- 149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 21:20:45.61 ID:1vFw+/+D0
- これでは、"偉大な先生漫画"そのものだ。
しかし、事態はそんなに楽観できるのもでは無かった。 ミルナは、帰る家が無いのだ。 先程のホテルは、家のすぐ近く。 つまり、どちらかが家に連れ込むのも時間の問題だろう。 そうなれば、ミルナは家に帰れなくなってしまう。 私は考えた。 しかし、いい案が浮かばない。 (゚、゚トソン「明日までに、どうにか考えます」 私には、それしか言えなかった。 教師と言うのは、所詮は一人の人間である。 手本には成れても、楯に成る事は出来ない。 私は悔しさに歯噛みした。 どうして、私はこんな時に何もできないのだろう。 どうして、彼等は子を見捨てたのだろう。
- 151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 21:29:30.98 ID:1vFw+/+D0
- 結局、私はその日の勤務を終え、家で考えていた。
時刻は夜の10時30分。 教育免許を取る過程で習った事が、如何に無力か。 私は悔しさでいっぱいだった。 サボテンに話しかけても、返事は得られない。 しかし、一人で考える為には言葉を口にしなければならない。 現実問題として、もうミルナの両親はどうにもならないだろう。 かといって、ミルナを変えることはできない。 (゚、゚トソン「あの子は、優し過ぎるんです……」 そう、ミルナは優しい子なのだ。 誰かを傷つけるのを、ひどく嫌う。 誰も傷つけずに、ミルナを救う方法は無いものだろうか。 まさか、卒業式間近にこんな問題に直面するとは思わなかった。 あの両親なら、卒業式にすら来ないだろう。 どうしたものか。 このままでは、私の1日は無駄に終わる。 ミルナへの回答を導き出せないまま、終わってしまうのか。
- 154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 21:42:58.08 ID:1vFw+/+D0
- 私がそう思った時だった。
インターホンが、来客を告げる。 こんな時間に誰だろうかと思いつつ、覗き穴を覗く。 すると、そこに居たのは、涙で顔をぐしゃぐしゃにしたミルナだった。 急いで扉を開け、私は言葉を掛けようとする。 しかし、こんな時に限って声が出ない。 何と話しかければいいのか、分からない。 どうにか言葉を絞り出す。 (゚、゚;トソン「と、とにかく中に入ってください」 ミルナの肩を掴み、玄関へと連れる。 施錠し、室内に入るよう言った。 どうやら、最悪の事態が起きたようだ。 ミルナの口から洩れる言葉の単語が、それを意味していた。 チェーン、音、女 もう何も言わなくていい、私は彼にバスタオルを手渡す。
- 156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 21:50:16.96 ID:1vFw+/+D0
- バスタオルで顔を隠す様にして、彼は涙を拭く。
展開が早すぎる、トソンは内心で舌打ちをした。 せめて、卒業式までは問題を起こさないでほしかった。 それは、彼ではなく。 彼の両親に対する憤りと、悔しさの舌打ちだった。 知らず、私は拳を握っている。 血が止まるかと思う程、爪が肉に食い込む程強く、強く。 私は、改めて自分の無力さを嘆いた。 (゚、゚トソン「ココア、のみますか?」 居てもたってもいられず、私は台所へと席を立つ。 大きめのマグカップに、ココアパウダーを入れる。 電気ポットからお湯を注ぎ、スプーンで混ぜてやる。 湯気の立つそれを、彼に差し出した。 彼はタオルを被ったまま、それを受け取る。 私は、彼のタオルを取り払った。
- 159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 21:57:07.69 ID:1vFw+/+D0
- タオルの下にあった彼の顔は、涙こそ止まっているが真っ赤だった。
普段の表情は、しばらくは戻る事は無いだろう。 この分だと、学校に行けるかどうかも危うい。 彼は手にしたマグカップを持ったまま、動かない。 彼と同じ目線にしゃがみ込み、私は彼の目を見る。 俯いてココアの水面を見ている。 優し過ぎる。 そして、その姿は悲し過ぎた。 (゚、゚トソン 私は、彼の言葉を促す事はしない。 ただ優しく、彼の頭を撫でてやる。 壊れないように、優しく。 慰めるように、優しく。 それだけが、今の私に出来る事だった。 ただ、ただ。 私は、日付が変わるまで。 彼の持つココアが冷めるまで。 彼の頭を、撫でていた。
- 161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 22:04:57.05 ID:1vFw+/+D0
- 夜が白み始めるころには、彼は寝息を立てていた。
疲れ切った寝顔には、まだまだ幼さが残っている。 果たして、自分は何をしているのだろうか。 すっかり冷めてしまったココアが零れないように、彼の手から優しく奪う。 その中身を排水溝に捨て、私は小さく溜息を吐いた。 彼が一体何をしたというのか。 彼ほど優しい人間が、何故これほど苦しまねばならないのか。 私は、携帯電話を片手にベランダに出た。 (゚、゚トソン「もしもし、ペニサスさん。 朝早くにすみません。 本日、私体調がすぐれないので、休みたいのですが…… はい、はい。 すみません、この借りは必ず。 そう言ってもらえると助かります。 では」 今日は、学校に行って授業を出来る状態ではない。 我が家に迷い込んできた"雛鳥"を、どうにかしなくては。 一先ず、私はシャワーを浴びることにした。 昨夜は一睡も出来なかっただけではなく、風呂にも入っていない。 着替えを取り出し、私は静かに浴室へと向かった。
- 163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 22:11:56.71 ID:1vFw+/+D0
- 脱衣所で、私は鏡を見た。
私が疲れた顔をしてどうする。 部屋着のシャツをまくりあげ、それを脱ぐ。 続いて、ズボンを脱ぎ捨てる。 それだけの動作なのに、私はそれが重労働のように感じた。 彼に心配をかけてはならない。 私は深い溜息と共に、下着を脱いだ。 それを洗濯かごに放り投げ、私は浴室に足を踏み入れた。 (゚、゚トソン 早朝の浴室は、少しだけ肌寒かった。 後ろ手で扉を閉め、私は蛇口をひねる。 シャワーヘッドから、勢いよく水が出た。 頭から水を浴び、私はしばらくそのままでいた。 頭の芯から目が覚めるような感覚を期待したのだが、どうやら無駄の様だ。 大人しく諦めてお湯を出し、私は天井を仰いだ。
- 165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 22:20:49.17 ID:1vFw+/+D0
- 熱湯が、私の疲れ切った全身から力を奪うような感覚。
私はそれに身を委ねた。 蛇口をひねり、お湯を止める。 浴室椅子に腰かけ、私は髪留めを外した。 すっかり濡れていたが、私の髪は重力によって下に落ちた。 留めていなければ、私の髪は肩まである。 ボディスポンジを手に取り、そこにボディシャンプーをしみ込ませた。 優しく、撫でるように腕を洗う。 ( 、 トソン 上半身から下半身にかけて、丁寧に洗う。 泡だらけの全身を、シャワーで洗い流した。 次に、私は髪を洗う事にそた。 目の前にあるシャンプーを二回、手に出す。 それを髪に含ませ、私はわしゃわしゃと髪を洗う。 洗い終えるとそれを流し、次はリンスを一回手に出す。 私は目を閉じたまま、それを髪になじませる。 そして、それも洗い流す。
- 166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 22:26:22.16 ID:1vFw+/+D0
- 全身を洗い終えた私は、洗顔フォームを手にする。
にゅるりとそれを適量、手のひらに出した。 手のひらでそれを泡立て、私は顔にそれを塗る。 力を入れ過ぎないように洗い、私はそれを洗い流した。 もう一度、全身に冷水を浴びる。 そして、私は軽く水気を払うと脱衣所に少しだけ身を出す。 バスタオルを掴むと、私は浴室に戻った。 髪の水気を取り、全身の水気をタオルに吸わせる。 ('、`トソン 少しだけ眠い。 後でコーヒーを飲もう。 全身を拭き終え、私は脱衣所に身を移した。 下着を身につけ、部屋着に身を纏う。 鏡に映る自分の顔は、やはり眠そうだった。 どうしたものか、このままではまともな話し合いが出来ない。
- 169 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 22:32:21.86 ID:1vFw+/+D0
- 彼の元に戻ると、彼はまだ寝ていた。
よほど疲れているのか、あれほどシャワーを使ったのに全く起きる気配が無い。 ならば、丁度いい。 私も寝よう。 ふと、そう思った時だった。 私は、自分が大切な事を忘れている事に気付いた。 彼は着の身着のままでここに寝ている。 とすると、このままだと風邪をひいてしまう。 ('、`トソン この時期の風邪は、非常にまずい。 最悪、卒業式を欠席せざるを得ない可能性だって捨てきれない。 どうあっても彼には卒業式に出てもらわねばならない為、私は少し考えた後。 彼を布団まで引きずる事にした。 残念ながら、私の部屋には布団が一枚しかない。 彼を布団に入れることに成功した私は、またもや気付いた。 このままでは、私が風邪をひいてしまう。
- 172 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 22:38:29.71 ID:1vFw+/+D0
- ここは考えどころである。
担任教師が風邪など、卒業式であってはならない。 さて、何度も言うようだが布団は一枚しかない。 しかし眠い。 先程打たせ湯をしたが、その効果がいつまで続くものか。 湯冷めをしてしまうことを考え、私は一人悩み始めた。 こんな時、私はつくづく思う。 嗚呼、私も結局は女だという事だ。 ('、`トソン 教師と生徒。 この構図は絶対厳禁とされている。 余談ではあるが、女子高に配属される男性教員はそのような事態が起こらないように工夫されている。 男色化や、俗に言うブサイク、おっさんを教員として送り込むのである。 しかし、共学にはその様な抑制システムが無い。 まぁここは、彼を信用するしかない。 私は訳の分からない意を決し、彼の体を布団の端に寄せた。 そして、私も布団に身を潜らせる。
- 175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 22:44:31.38 ID:1vFw+/+D0
- 疲れきっている為、まどろみが私を包むかと思ったが。
世の中はそう上手くはいかない。 背中合わせとはいえ、すぐ横に居るのは男である。 可愛らしい寝息を立て、私の苦悩も知らないで。 その心の声が聞こえたのか、ミルナが寝返りを打った。 音でその事を確認すると、私はどうか聞き間違いでありますようにと祈りながら目を向ける。 どうしてこうも、世の中ままならないのだろうか。 本当に寝返りをっていた。 それも、距離が縮まっている。 ('、`;トソン 落ち着け。 ここで焦って下手な行動をしてしまえば、彼が起きてしまう。 そうすると、後に起きる事態は私には想像できない。 ぎゅっと目を閉じ、強引にまどろみを望んだ。 バクン バクン、ドクン
- 178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 22:49:20.58 ID:1vFw+/+D0
- そんなこんなで、私は結局緊張に包まれたまま眠りに付いた。
どうしてか、背中越しに伝わる彼の温もりが愛しいと思った。 私は夢を見た。 白くて、ふわふわした夢を。 私は夢を見た。 黒くて、とても怖い夢を。 私は夢を見た。 どうしようもなく悲しくて、嬉しい夢を。 ( 、 トソン 私は思い出した。 教師を目指した理由を。 私は思い出した。 教師とはどうあるべきかを。 ―――私は、全部思い出した。
- 181 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 22:54:44.41 ID:1vFw+/+D0
- 目を覚ました時には、既に太陽は真上にあった。
そばに置かれた時計を見ると、時刻は昼の12時45分。 さようなら、授業。 さようなら、皆勤賞。 私はそっと布団から出ると、台所へと足を進めた。 彼はまだ寝ている。 いつもの要領でコーヒーをカップ二杯煎れ、それを運ぶ。 机の上に置き、私はカーテンを開け放った。 (゚、゚トソン 陽の光が、部屋中を照らし出す。 それはまるで、私の心も照らし出しているかのように力強かった。 窓を開け、新鮮な空気を入れる。 台所から持ってきた米粒を、ベランダに撒く。 いつもと同じ、私の一日が始まった。 ―――少しだけ遅めだが。
- 183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 22:59:02.01 ID:1vFw+/+D0
- 入ってきた日光と、風が彼の目をゆっくりと覚ます。
何度か瞬きをして、彼は布団から起き上がった。 どうやらぐっすりと眠れたようだ。 彼の元に歩み寄り、私は目線を合わせる。 朝の挨拶を忘れているのだろうか。 彼はまだ何度も瞬きをしている。 というか、昨夜の事を覚えていない可能性が濃厚だ。 一先ず、デコピンで目を覚まさせることにした。 (゚、゚トソン「おはようございます」 それでようやく本格的に目が覚めたのか、彼は私から大きく距離を取った。 何とも失礼な。 机に置いていたカップを手に取り、私はそれを彼に差し出した。 私とカップを何度か見比べ、彼はそれを受け取った。 一口それをすすると、彼は眉をひそめる。 これ、甘いよ。 と
- 186 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 23:08:05.99 ID:1vFw+/+D0
- 私はその言葉を聞き、少し首をかしげた。
子供は甘いものが好きと、相場が決まっている。 私がそう言うと、彼はムキになって反論した。 俺、もう大人だよ。と カップに手を伸ばした姿勢で、私は固まってしまった。 大人が聞いて呆れます。 それを聞くと彼はそっぽを向いて言った。 じゃあ、早く大人になりたいよ。 (゚、゚トソン「どうして、大人になりたいのですか?」 だって、子供ってカッコ悪いじゃん。 と言う彼。 どうやら、彼は大きな勘違いをしているようだ。 私は、昨晩思い出した事を口にしようか迷う。 その様子を見て、彼は口をとがらせた。 ほら、やっぱりカッコ悪いじゃん。 やっぱり私は、言う事にしました。 思った事を紙に書いたり、思いっぱなしにしておくよりも。 口に出した方が、よっぽどいいから。
- 189 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 23:16:48.59 ID:1vFw+/+D0
- 深く息を吸い、私はゆっくりと言葉を紡ぎます。
(゚、゚トソン「私は思うのです。 子供とは、誰かに依存している人を言い、 大人とは、誰にも依存しない人を言うのだと。 でも、依存は善でも悪でもありません。 子供は、依存して成長するものです。 サボテンがゆっくりと花を咲かせるように、子供は大人へと変わります。 ですから、貴方はまだ子供で良いのですよ。 焦らないで、ゆっくりと。 いつか、綺麗な花を咲かせれば、それでいいのです 私達教師の仕事は、その手伝いをする事です。 だから、私に依存してもいいのですよ」 一気に言葉を並べたが、果たして理解してくれただろうか。 サボテンの例え話は駄目だっただろうか。 私がそんな事を考えていると、彼は言った。 難しくてよく分からない、と。
- 191 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 23:25:33.46 ID:1vFw+/+D0
- それでいいと、私は思った。
貴方はまだ子供、だからゆっくりとでいい。 ゆっくりと、大人になってと。 私は心から思った。 私達は、いつまでも貴方達を助けられないのだから。 せめて、今だけは手助けをさせてと。 それこそが、私が教師である理由だ。 親鳥は、心配性なのだから。 (゚、゚トソン「ですから、貴方はこれからこの家に住んでください」 雛鳥をこれ以上、あの家に置いておくわけにはいかない。 私は、心を決めて言った。 案の定、私の言葉を聞いて彼は目を丸くしている。 どうやら、彼はまだ理解できていないようだ。 どうやって、理解させようか。 私は考えた。 もっと、言葉を砕いて言えばいいのでは。
- 194 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 23:34:18.36 ID:1vFw+/+D0
- (゚、゚トソン「私が、貴方を育てます」
強く、しっかりとした口調で私は告げる。 彼は、困った顔を浮かべたが、私は止めない。 (゚、゚トソン「貴方が卒業するまで、私が貴方を育てます」 もう、私は決めた。 鳩に雀の雛鳥を任せるわけにはいかない。 (゚、゚トソン「貴方が大人になるまで、私が貴方を育てます」 いやしい気持ちは、微塵もない。 後悔の念も、全く無い。 (゚、゚トソン「貴方は、どうしますか?」 強要はしない。 ただ、決して迷わないように。 (゚、゚トソン「貴方が選んだ道に、私は文句を言いません」 雛鳥に、巣と親を選ばせる。 私も後悔しないように、精一杯頑張るから。 (゚、゚トソン「ここが、貴方の人生を決める時です」 どうか、私に (゚、゚トソン「私に、依存してくれませんか?」
- 197 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 23:45:44.79 ID:1vFw+/+D0
- それからどうなったか、ですか?
泣きましたよ、それはもう。 子供のように泣きましたよ、彼は。 お陰さまで、布団をコーヒーまみれになりましたけどね。 でも、私は正直嬉しかったです。 彼が、私を頼ってくれて。 私に弟はいませんが、きっと。 あれが、仲の良い姉弟なんだなぁ、って思いました。 (゚、゚トソン 色々と取り決めをして、あの後すぐに勉強を始めました。 彼、夢を見つけたって言うんです。 教師として、その後押しをしようと思いました。 英語しか教えられませんが。 嘘みたいな話ですけどそれから、順調にいきましたよ。 彼の両親が全く関心が無い事を、彼はいい加減理解したようで。 もう、あの家には戻らないそうです。 後二年。 後二年すれば、彼は法的にも戻らなくて良くなります。 私はその日を、心待ちにしています。
- 199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/27(水) 23:57:39.61 ID:1vFw+/+D0
- 月日の流れは、早いもので。
無事に卒業式を終えたのは、もう先月の話になります。 卒業式を終え、雛鳥達は新たな世界へと巣立って行きました。 親鳥としては、嬉しいやら寂しいやら複雑な気持ちです。 でも私は、悲しくはありません。 私は仮にも、彼等の親鳥です。 私が居なくとも、彼等は立派に成長するでしょう。 彼らの行く末が解るから、私は悲しくないのです。 (;、;トソン でも、涙は出ます。 やっぱり寂しいですね。 出会いと別れ。 それらの中心に居る教師は、一番辛くて寂しい職なのかもしれません。 でも、一番やりがいのある職だと思います。 嗚呼、嗚呼気付きました。 私がサボテンを好きな理由が。 愛情を注いで育てた子が、立派に育つのが好きなのです。 いつの日かきっと 立派で綺麗な花を咲かせる事を夢見て。 ―――私の1日は、今日も始まるのです。
- 200 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/28(木) 00:02:58.99 ID:+CSzlZvs0
-
―――epilogue――― 私の一日は、温かいコーヒーから始まる。 基本的に私は、インスタントのコーヒーが許せない。 何が哀しくて、あんなものを飲まなければいけないのだろうか。 あれを飲むぐらいなら、UCCの缶コーヒーを飲んだ方がましである。 ちなみに、私はコーヒーを豆から選び。 そして、自分で挽く。 面倒くさいが、これが美味しいコーヒーを飲む為の近道であるのだから仕方が無い。 さて、そんなこんなでコーヒーが出来あがった。 (゚、゚トソン 朝に糖分を摂るのは非常に重要である。 大さじ二杯の砂糖を入れ、スプーンで軽く混ぜてやる。 ミルクを入れないのは、私なりのこだわりだ。 コーヒーの香りを楽しむなら、やはりミルクは厳禁。 朝の日差しがカーテンから漏れ、部屋を照らしている。 2LDKの小さな部屋に、朝の気配があった。
- 201 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/28(木) 00:04:53.72 ID:+CSzlZvs0
- 私の一日は、朝日を浴びることから始まる。
人間、光を浴びずに生活してもろくな事にはならない。 カーテンを勢いよく開け放ち、私は部屋に朝日を入れてやった。 朝日が照らし出したのは、最低限の家具しかない私の部屋。 残念ながら、私に浮かれた話題が無い。 しかし、それとこれとは別の話だ。 恋をすれば女は変わると言うが、真偽のほどは定かではない。 まぁ、それを調べた事が無いから何とも言えないが。 (゚、゚トソン 人生に潤いは大切である。 だれだったか、そんな事を私に教えてくれた事があった。 しかし、人に個性があるように。 人生の潤いという奴にも個性がある。 私の場合、その潤いのほとんどはこの朝の時間にある。 最初に断っておくが、ラジオ体操などでは無い。
- 202 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/28(木) 00:08:35.09 ID:+CSzlZvs0
- 私の一日は――――――――――――――――――――
(゚、゚トソンの1日のようです( ゚д゚) おしまい
- 204 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/28(木) 00:10:09.17 ID:+CSzlZvs0
- 支援、保守ありがとうございました!
お、おわったああああああああああああああ!! ながらなんてもう2度とやらねえぞ! 感想、質問、指摘等あれば幸いです あと>>1さん、のっとってごめんなさい
- 210 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/28(木) 00:15:56.99 ID:faNGY8mk0
- 作者さんが他に書いたものはどんなのがあるのですか?
読みたくなった…
- 211 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/28(木) 00:18:40.76 ID:+CSzlZvs0
- >>210
短編 ノパ⊿゚)は死に場所を見つけたようです o川*゚ー゚)o綺想曲のようです 連載 ('A`)と歯車の都のようです 文体もジャンルも全く違いますが、これです
- 212 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/28(木) 00:20:51.68 ID:faNGY8mk0
- >>211
ありがとう! さっそく読んでみようと思います。 乙でした
- 214 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/28(木) 00:37:29.69 ID:+CSzlZvs0
- どうでもいいかもしれませんが
補足として (゚、゚トソンと( ゚д゚ )は結婚して新居買いました 1LDK→2LDKになってます ( ゚д゚ )の職業は先生 トソンは教員免許も持ってますから、英語と一緒に教えてもらいました (゚、゚トソンの潤いは( ゚д゚ )の寝顔を見る事 ご想像ください 本当にどうでもいいですね、ではこれにて
- 219 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/28(木) 07:43:56.10 ID:LAjSnhLGO
- 乙
ひょっとして、前から書きかけてた短編を仕上げて投下した?
- 221 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/28(木) 09:04:57.11 ID:l2f6Gv4C0
- >>219
残念ながらそれはありません 完全に即興です
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