mesimarja
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( ^ω^)と魔女狩りの騎士のようです
1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 17:51:16.45 ID:ot5p3W1U0

ちゅうい

・長い
・横にも長い
・エロゲのオマージュではない
・かぶってた

では投下します



2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 17:53:00.23 ID:ot5p3W1U0


     prologue. 彼と彼女のプロローグ、


     「何だ、それは……」

     「あら、助けてあげたのにその言い草は酷いんじゃないかしら」

     「質問に答えてくれ。その力は、何だ?」

     「え? ……どうせこんなの、言ってもわからないわよ?」

     「頼む」

     「…………魔術を狩る力、って言えばいいと思う。わけがわからないなら聞き流してくれていいわ」

     「………そうか、………ああ……そうなのか、君が、」

     「なに? なに? なんなのその表情……私の顔にすっごい宝物でも見つけた?」

     「……ああ、そこに見つけた。不躾で悪いが、君についていかせてくれないか」

     「いやいやいきなり何言ってるの? ナンパはいらないし、護衛なんてもっと要らないんだけど」

     「君は僕の希望だ。いいや、君はこの世界の人々にとっての大きな鍵となる人物だと、胸を張って言い切れる」

     「うっわ……なんかいきなり世界規模の宣言をされちゃったよ……」

     「頼む。君がこれから往く道を、僕も一緒に歩かせて欲しい―――」

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 17:55:08.42 ID:ot5p3W1U0







      ξ゚⊿゚)ξ「―――じゃあ語尾に『お』って付けろ、下僕」











           ( ^ω^)と魔女狩りの騎士のようです








4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 17:56:49.95 ID:ot5p3W1U0
 ep1. 薄幸の少女 

    「きゃああああああ!」

女性の、それもまだ幼げな悲鳴。
声はこの広くはない村を突き抜けるように響き、日の落ちた暗い空を駆ける。

( `ハ´)「フヒヒ、観念するアルwwwwwwwwwwwwww」

<ヽ`∀´>「ニダニダ、おとなしくするくニダwwwwwwwwwwww」

(*;-;)「いや、いや、」

ぼろぼろの布に身を包んだ男二人は、悲鳴の元である少女を囲んでいた。
少女の背後は彼らの拠点で、逃げ場も到底見られない。
彼らは自身の考案した思い通りの流れに、思わず黄色い歯まで覗かせて。

<ヽ`∀´>「ほら、もう諦めるニダ!」

エラの張った一人の男がその小さな肩を勢いよく掴んだ。
少女は咄嗟に、ひっ、と声を漏らすが、それは男たちの興奮剤にしかならない。

( *`ハ´)=3「フヒ、ちっちゃい声でしか鳴かなくなったアルwwwwwwwwwww」

<*ヽ`∀´>=3「はやく家に連れてくニダwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

少女の様子に鼻息を荒げる男たち。
しかしそれを阻むものが背後から飛んできたのを、その興奮が理由により、全く気付くことができなかった。

=三( ゚ ω゚)「ひぎぃぃぃぃぃぃぃぃっぃぃぃぃぃいいぃぃぃ!!!!!!!」

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 17:59:06.07 ID:ot5p3W1U0
   「エラが刺さるお」

=三( 。ω<;ヽ`∀> 「ニダッ!?」
     デュクシッ

(*;-;)「え……?」

転がるように地面を滑り、エラの男は背後の壁に激突。
凄まじい勢いで飛んだ来たものと一緒に頭を打ち付けた。

(;`ハ´)「ニダァアァァァァァ!!!!!!!!!!」

ξ#゚⊿゚)ξ「あんたもぶっ潰す!」

仲間の安否を気遣う最中、もう一人の小柄な男にも小さな影が声を発して迫る。
声は若い女のもので、そこには張りつめた糸のような繊細さがあった。

(`ハ´;)「誰アルか!」

ξ#゚⊿゚)ξΞ⊃「めり込めッ! 我が鉄拳!」

Ξ⊃)ハ´;)「なびッ!」

発言の通り拳はめり込み、女は拳を男の顔ごと、地面に向けて叩き下ろした。
小柄の男は仰向けに潰れるように倒れ昏倒し、瞬く間もなく、意識を飛ばす。

ξ゚⊿゚)ξ「っし! あなた、大丈夫?」

(;゚-゚)「あ、はい……大丈夫です……」


7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 18:03:02.40 ID:ot5p3W1U0
「なんだ? ニダー! どうした!」

「野犬にでも噛まれたのか?」

(;゚-゚)「……あ! あの! こっちに逃げてください!」

ξ゚⊿゚)ξ「へ?」

少女は女の手を引き、誰もいない方向を指差した。
家の方から声がしたのを恐れ、逃げ道へと走り出したのだ。

ξ゚⊿゚)ξ「ブーン! 荷物持って走る!」

( ^ω#)「おk……」

そのへんの壁でぶっ倒れていた男も立ちあがり、女性の横に置いてあった大きな袋を拾うと、その後を追い駆ける。

(*゚-゚)「はやく来てください!」

ξ゚⊿゚)ξ「ちょっと! おそいよ!」

( -ω-)「ツンがその子抱えて走ってるからだおー、僕さっきので足外れたんだおー」

走る方向は今居た小さな塊村を抜けた山の斜面。
どうやら目的地は茂みの向こうのようで、少女は枝葉を押しのけながら突き進む。

(*゚-゚)「あ! ここです、ここに入ってください!」

山の茂みを抜け出た先は僅かにひらけた場所と、木造の小屋があった。
斜面に不格好に立てられており、若干曲がっていて、隠れ家のようにひっそりと佇んでいる。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 18:06:52.72 ID:ot5p3W1U0
( ゚ω゚)「あぁ、しんどかった……」

ξ゚⊿゚)ξ「嘘つけ、体力バカのくせに」

到着し中に入ると一息、さっそく軽口をたたく二人。
その姿を眺めながら戸棚の缶箱を取り、少女は小屋の明かりである蝋燭を取り出す。

(;゚ー゚)「先程は本当にありがとうございました……」

ξ゚⊿゚)ξ「いいのいいの、旅は道連れ世は情け?」

明かりのもとに現れたのは、美しいブロンドの女性。
癖なのかくるくるとした髪質らしく、その金色を強調するかのようにふわりと巻かれた髪だ。
真っ黒い装束のようなもので全身を多い、色を変えれば旅の修道女に見えそうな。

( ^ω^)「それなんか違うお」

男の方はあまり長くないちくちくとしていそうな黒髪の、冴えない男。
ぼろぼろでこの国の旅人がよく着込む茶色の防寒ローブを纏い、中のくすんだ茶色の服がちらりと覗く。

(;゚-゚)「あの、旅のお方なんですか? 私はシィと言います、まずはこちらに座ってください」

シィは部屋の隅に重ねてあった丸椅子を引っ張り出し、二人の手前に置いて手を伸べた。
椅子は二つしかないのか、シィだけはその場で片腕を握り、窺うように立ちつくす。

ξ゚⊿゚)ξ「……ブーン、」

( ^ω^)「了解だお。シィ、君は座るお」

ブーンと呼ばれた彼は席をシィの前に置きなおし、先の彼女のように促した。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 18:10:54.08 ID:ot5p3W1U0
(;゚-゚)「え、でも……」

( ^ω^)「ぬふふ、じゃあ僕の上に座るかお?」

ξ-⊿-)ξ「おい耳ちぎるぞー」

( -ω-)「いやそれはちょっとやだお……」

(;゚-゚)「え、え、あの」

ξ゚⊿゚)ξ「いいのよ、そいつは疲れを知らない男だから」

( ^ω^)「だおだお。君、足震えてるし」

男が指を向けた先の足はまるで枝、そしてそれは確かに、極寒の大地に立ったかのように震えていた。
忘れようと追いやった襲われかけた恐怖が、形となって表れていたのを彼女自身が示していたのだ。

(;゚-゚)「きゃっ」

それに気付いたことで、シィは木の床に、膝を折って崩れ落ちた。

( ^ω^)「まあ、僕らがいればもう大丈夫だお」

にこやかな男は自らシィに触れることはせず、諭すような声と、大きな手を差し伸べる。

(*゚-゚)「………」

先程の、『男』に対しての怖さは彼には存在しない、そう言いきれるほどの柔らかい笑顔。
まるで人とは思えないほどに不純な色が見えず、何か造られた像のような印象すら受ける。
やがてシィは少量の息をゆっくりと吐き出し、その彼の手を握ると、立ち上がった。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 18:14:01.19 ID:ot5p3W1U0
(*゚-゚)「――あの、急いでこの村周辺からは離れた方がいいです」

丸椅子に座り直すと、はっきりと言い切ったシィ。

ξ゚⊿゚)ξ「どうして? 私、この辺にちょっと調べものがあるんだけど」

(*゚-゚)「先程の男たちとまた出くわすようなことがあれば、きっと大変なことに……」

ξ゚⊿゚)ξ「あー、大丈夫よあんなやつら、何人いようが血祭りよ」

(*゚-゚)「違うんです、彼らの親玉が……すごく強いんです」

( ^ω^)「僕らは多分、それ以上に強いお?」

(*゚-゚)「違うんです。本当に、彼はすごく強いんです……人とは思えない力を振りかざして……」

ξ゚⊿゚)ξ「ふんふん」

(* - )「村にやってきた山賊も、皆殺しにするくらい、強くて……」

ξ゚⊿゚)ξ「うんうん」

(* - )「本当は優しい人なのに、昔とは全然違くて……」

ξ>⊿<)ξニア「びっ!」

(;゚-゚)そ 「!!」

ξ゚⊿゚)ξ「そこんとこ、詳しくお願いできる?」


13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 18:18:05.02 ID:ot5p3W1U0
(;゚-゚)「え、え、っと……彼が変わってしまったのは、村の事件がきっかけで……」

( ^ω^)「彼? 仲、良かったのかお?」

(*゚-゚)「はい、私の幼馴染で、おにいちゃんみたいな人でした……」

椅子から垂れた足を、確かめるように床に押し付ける。

(*゚-゚)「村が昔、山賊に襲われた時から……彼は……」


 最初に山賊がやってきたのは四年前、村の米の収穫祭の日。

 (,,゚Д゚)「シィ! 来年からは俺が祭りの主催だ!」

 (*゚ー゚)「うん、頑張ってね!」

 祭事は次代の村長が仕切る手筈で、その時は彼の父が担当していました。

 ミ( ,,^Д^)彡「祭りじゃ祭りじゃー! 収穫祭じゃー!」

 彼の父は健康的で、それはもう村人の度肝を抜くような凄まじい舞いを踊っていたんです。
 悲鳴が起こったのは、その踊りの最高潮、片足で側宙をする大技の時でした。

 ( ,, Д )「はぐっ」

 側宙二回目の着地の時、その額に回転する手斧が突き刺さったんです。 
 噴き出す血は不謹慎ながら祭りの収穫を祝う花弁のようで、皆は揃って息を止めました。

  (#゚д゚ )「祭りは終わりダァァァ! わしらがこの村を乗っ取るんじゃアァァァァァ!!!」

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 18:22:05.82 ID:ot5p3W1U0
 そこからはまさに、地獄でした。見た分だけですら、私の口からは、とても。
 すぐに私達子供は村の人に鍵のかかる納屋に避難させられ、その悲鳴に怯えていました。
 でもギコ……彼だけは、違ったんです。

 (,#゚Д゚)「あの野郎共……ふざけんなよ……!」

 (;゚ー゚)「だめだよ! 殺されちゃう!」

 (,#゚Д゚)「親父が殺されたのに……黙ってろってのか!」

 怖かった。あの時の彼は、まるで山にはびこる猛獣のような顔でした。

 (*;-;)「ギコ君まで、殺されちゃう……そんなの、やだ……」

 (,#゚Д゚)「だからってなぁ……!」

 でもその時は、子供たちみんなで彼を止めたんです。
 彼まで居なくなったら、もしも最悪の場合になった時、村をまとめられる人が誰もいなくなるのがわかってたから。

 そして騒ぎが小さくなった頃、私達の納屋が開けられました。

 ( ゚д゚ )「出て来い、ガキ共」

 顔を出したのは、山賊の一人で。
 逃げ出したい衝動を、泣きだしたい情動を、噛み殺して。

 山賊は労働力となる男の人をごく少数、耕作の知識がある者を中心に残して、屈強な人達は皆殺しにました。
 私の父も、みんなのほとんどのお父さんも、その中に含まれていて。 
 あとの女性は山賊が連れ去り、おばあさんと私達子供しか残されませんでした。


16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 18:26:06.35 ID:ot5p3W1U0
 それから山賊は、その何人かを定常的に村に置いて、村を支配することにしたんです。
 毎日が彼らに見張られる生活で、あの時は本当に、一番辛かった。

( ^ω^)「……」

 転機はその一年後、ある商人が村にやってきてからです。
   _
 ( ゚∀゚)「どもー! 旅する恋する少年商人、ジョルジュ君でーっす!」

 その人は小さな馬車から降りてきた、くたびれた青年でした。
 彼は見張りの山賊を無視して、いきなり私達に向かって話を始めたんです。
   _
 ( ゚∀゚)「……君達、助かりたいかい?」

 (,,゚Д゚)「なんだと……?」

 それを不審がった山賊も、その人が渡した小さな袋を見ておとなしくなったりして。

ξ゚⊿゚)ξ「むー……?」
   _
 ( ゚∀゚)「助かりたいならこいつを首にかけて、願うんだ。『あの憎い山賊達を、殺してやる』って」

 (;゚-゚)「ギコ君……こわいよ……」

 (,,゚Д゚)「うさんくせえ野郎だな……」

 私達も疑ってかかったのですが、山賊をおとなしくさせたその人の道具は本物なんじゃないかって。 
 そこでみんなで相談して、すがれるものにはすがる、たとえそれが妙な首飾りでも、という結論に至ったんです。

 (,,゚Д゚)「――じゃあ、俺がそいつを使ってやる」

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 18:30:00.16 ID:ot5p3W1U0
 首飾りを受け取った彼の顔を見て、商人は馬車に戻り、満足そうに去ってゆきました。
 物々交換もせず、本当に救世主なのかも、なんてみんなで思ったりして。

 でも、その夜は、本当に恐ろしいことになりました。

 (,, Д )「ウゥゥゥゥゥウウゥゥウゥ……」

 急に彼が、私達子供の詰められている小屋を飛び出して、見張りの山賊に襲いかかったんです。
 耳は伸び、狐のように白い毛に覆われた姿で、二人の山賊の首を噛み千切っていました。
 
 (;゚-゚)「どうしちゃったの!」

 (,, Д )「シィか……?」

 (;゚ー゚)「そうだよ、わたし! 落ち着いてギコ君!」

 (,, Д )「ダメだ……奴らを……殺さなきゃ……」

 (;゚-゚)「それは……! でも、ギコ君が無理してやらなくていいの! お願いだから、落ち着いて!」

 そこで止まってくれることを望んだ私の声は、彼には届きませんでした。
 彼はその毛むくじゃらの姿で、山に向かって走り出してしまいました。

 その夜は、本当にとても寒い夜で。彼までいなくなったら、村はどうなるんだろう、って。

 (,,゚Д゚)「シィ!」

 (*゚ー゚)「ギコ君!」

 でも、朝には彼も、お母さんたちも帰ってきて、本当に、その日は、嬉しくて………。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 18:33:56.75 ID:ot5p3W1U0
(*゚-゚)「この先は、あまり話したくありません……」

ξ゚⊿゚)ξ「いいわ、かいつまんで説明して。今の状況になった理由は?」

(*゚-゚)「きっとその山賊がもっとも大きな勢力だったんでしょう。
    それからは次々と、村を別の山賊が襲い、彼はそれを一人で撃退し続けました」

聞きながら、小声で囁き合う二人。

( ^ω^)「確かにその彼むちゃくちゃ強いお」

ξ゚⊿゚)ξ「商人の話からして、あまりにも臭いわね」

(*゚-゚)「そこで山賊の一部が彼に屈して、子分となることを望んだんです」

ξ-⊿-)ξ「あー……大体理解したわ。大方、その彼が子分に力のおいしい使い方を吹きこまれたんでしょ?」

( ^ω^)「それで夜はあんなに静かなのかお? さっき初めて来たのに、君らの声しかしなかったお」

(*゚-゚)「一応、実質的な防衛も兼ねてはいるんです。けれど、かなり彼は横暴な態度を取るようになって……」

ξ゚⊿゚)ξ「女の子が総出でヤられちゃったり?」

(;゚-゚)「え」

( ^ω^)「……配慮が無さ過ぎるお。お前アホかお」

ξ゚⊿゚)ξ「別にいーじゃん、シィちゃんの目はまだちゃんとしてるし。ね、ね、ムリヤリされちゃったクチ?」

(*∩-∩)「そんな……でも私、彼以外はずっと逃げてきましたよ……!」

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 18:38:14.01 ID:ot5p3W1U0
ξ*゚⊿゚)ξ「だったらいいじゃない! 知ってる人間なら全然マシよー! 私なんか」

( ^ω^)「ツン、もういいから」

ξ-⊿-)ξ「おっとすまねえ、言い訳はしないぜ」

(*゚ー゚)「もう、やめてくださいよ、えっ、と?」

ξ゚⊿゚)ξ「あ! ちゃんと自己紹介してなかったね」

( ^ω^)「そういえばなんて呼んでもらうかも言ってなかったお」

(*゚ー゚)「ツンさん、で大丈夫ですか?」

ξ゚⊿゚)ξ「呼び捨てでもいいけど? こっちはブーン・ホルスタイン。ブーンでいいわよ」

( ^ω^)「何と勘違いしたんだお」

ξ゚⊿゚)ξ「家畜」

( ^ω^)「ごめん家畜」

(*゚ー゚)「ふふっ、仲良いんですね。お二人の旅のお話も聞かせてもらいたいです」

ξ゚⊿゚)ξ「ほんと? 超つまんないからやめたほうがいいよ?」

(*゚ー゚)「じゃあ、ここに来た理由だけでもお伺いしたいですよ」

ξ゚⊿゚)ξ「ああ、さっきの話に関わることになっちゃったんだけどね、
       ここらの山賊を殲滅した者の正体が知りたかったのよ」

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 18:42:23.08 ID:ot5p3W1U0
(*゚-゚)「……」

少しだけほころんでいた口をまたも閉ざすシィ。
彼女はこの意味を瞬時に、なんとなくではあるが理解した。
先程のツンの強さと、昔話をしている時の二人の目を思い出して。

(*゚-゚)「もしかして、その元凶を? 彼、を……?」

その先は彼女には言えなかった。
それを言ってしまうと、この二人が自分の考えたくはない方向に行ってしまいそうな気がした。

ξ゚⊿゚)ξ「ま、そういうことかな? ホントはそっちの商人のが気になるけど、首飾りも確認しといたほうがよさげ」

シィにはツンらの事情はわからない。
けれど、それはどうしても避けたい、という気持ちが先走る。
次いで口をつくのは自分が最も悲しまない線への問答で、彼女はそれしか望んでいなかった。

(;゚-゚)「だめですよ! 彼は本当に強いんです! あなた達でも敵わないかもしれない!」

( ^ω^)「ツンの使命は、相手の強さなんて関係ないお」

(;゚-゚)「そんなの知りませんよ! あなた達のような人が傷つくのは嫌です! 彼と争うのなんて見たくない!」

ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ、あなたはこのままでいいの?」

(;゚-゚)「かまいませんよ! 私が少し辛くたって、今は、誰もいなくなったりはしないんですから!」

ξ゚⊿゚)ξ「あなた以外の人達は、彼を恨んでいるのかもしれないのに?」

(;゚-゚)「それ、は……」

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 18:46:37.00 ID:ot5p3W1U0
シィも確かに、他の村人からの不満は聞いていた。
寝ている間に家を燃やそうだとか、そんな物騒な話をしている人もいた。
しかし、それは今の親玉がギコであり、奴隷のように扱われていないからこその口だ。

本当に圧制されていれば、そんな発言すら出ない。それこそ、いつかのように。
ギコは現在、理由ははっきりわからないが、中途半端な形で村を拘束している。
それはある程度の自由、つまり反逆を企てられるだけのゆとりを持たせてしまっていることになる。

実際に彼らの拠点を焼いたりしないのは、ギコだから、という側面もあるのだが、
このままの状況が続けば、身内だから、なんて理由は取り払われるかもしれない。

ξ゚⊿゚)ξ「私達みたいな部外者が戦うのを止めたとして、その先は?」

(;゚-゚)「……」

開けないシィの口。

ξ゚⊿゚)ξ「もしもあなた達同士で争った結果が、本当に最悪な、救いの無いものとなるのかも知れないのに?」

(*;-;)「それは……」

結局何も言い返せず、涙をこぼしてしまう。

( ^ω^)「やめるお、ツン。ここでこの子をいじめて何になるんだお」

ξ゚⊿゚)ξ「現実を見て欲しいのよ。ここ、あまり大きくない集落だし」

( ^ω^)「ったくもう……シィ、僕らの読みが正しければ君達村人は、きっと大きな怪我は負わなくて済むお」

(*;-;)「え……っ?」

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 18:51:04.37 ID:ot5p3W1U0
ξ゚⊿゚)ξ「そうね、おそらく彼が商人から受け取った首飾りは『魔導具』だから」

(*゚-゚)「まどうぐ?」

聞き慣れない単語に、シィは首をかしげた。

( ^ω^)「だお。僕らはそれを作りだしたヤツを追ってて、ここの山賊を殲滅したのもそれ関係かなぁ、と」

(*゚-゚)「それって、どういったものなんですか?」

ξ゚⊿゚)ξ「使用者の負の感情を喰って、人に強大な力を与える道具」

(;゚-゚)「それって危険なんですか? いま彼は、」

ξ゚⊿゚)ξ「まあ、私が即座に感知できないレベルの魔導具みたいだし、大したことないと思うけど」

( ^ω^)「んで、魔導具には様々な種類があって、中には使った人の体を変化させたりするものもあるんだお」

(;゚-゚)「ギコ君の体が、獣になったように?」

( ^ω^)「だお。っていうかギコ君っていうのかお」

ξ゚⊿゚)ξ「こんな田舎まで浸透してるなんて、やっぱり流通を押さえるべきなのに」

ツンは椅子から両足を投げるように振り、イラついたような声を出す。

(*゚-゚)「あの、それでギコ君はどうしたら怪我をしないで済むんですか?」

ξ゚⊿゚)ξ「簡単な話よ。私がそいつをぶっ壊せばいい」


24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 18:55:12.97 ID:ot5p3W1U0
(*゚-゚)「それってやっぱり危険なんじゃ……」

ξ-⊿-)ξ「だーいじょーぶよ、私達を誰だと思ってるの?」

(;゚-゚)「え、ごめんなさい、わかりません……」

ξ゚⊿゚)ξ「私はラウンジ正教、魔女狩りの騎士の第四翼よ?」

(;゚-゚)「ラウンジ、正教……騎士……さま?」

片田舎のシィですら、その名は知っていた。
過去には村にも修道士がやってきて、村の広場で難しい話をしていたこともあったのだ。
それはこの土地を含む国々を覆う世界最大の宗教団体勢力であり、諸国に多大な影響力を持つという。
その支部教会は今や旅の宿として一般の旅人にも広がりを見せ、現在もその教えは多くの人間の支えであった。

そして、その力の証明ともいえる絶対的な武力を備えた者たち。彼らを『騎士』と呼ぶ。
『魔女狩り』のほうは今や過去の歴史、というのがシィら一般人の通説ではあるので、ツンの言葉は微妙に引っ掛かるのだが。

(;゚-゚)「でも、魔女って今も実在するものなのですか?」

ξ゚⊿゚)ξ「ええ。もっとも、今は世界にたった一人しかいないけど」

(;゚-゚)「はぁ……」

( ^ω^)「そいつがクソやっかいで、ツンとかがこっそり動いてパッと始末しようってところなんだお」

ξ゚⊿゚)ξ「『騎士』くらい知ってるでしょ? まあ要するに、私超強いから」

(;゚ー゚)「ええと、よくわかりませんけど……すごいですね……」


25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 18:59:17.64 ID:ot5p3W1U0
誰でも知っている巨大な団体の、おそらく中核を担う人間がここにいる、という現実感の無さ。
シィは思わず、自分の頬を引っ張った。

(*゚-;>「ふびびびびび」

ξ;゚⊿゚)ξ「ちょ、何してるの?」

(*゚-;>「いえ、こんなことってあるんだな、って」

ξ゚⊿゚)ξ「最近じゃ珍しいことじゃないわ」

(*゚-゚)「そうなんですか……」

( ^ω^)「……ま、とりあえずギコ君は死なないお! 不安にならなくていいお!」

心強いブーンの言葉を、鵜呑みにするようにして安堵する。
実際、彼らの話が全て本当ならば、心配するようなことは何も無いはずなのだ。

ξ-⊿-)ξ「………ん?」

そうしてシィが膝を握る手に力をぐっ、と込めていると、ツンが急にきょろきょろし始めた。

(*゚-゚)「どうしたんです?」

ξ゚⊿゚)ξ「この感じ……魔導具が発動してる……? 弱くてはっきりわからないけど……」

(;゚-゚)「えと、それって、もしかしてギコ君が?」

ξ゚⊿゚)ξ「わからない。けど、さっきのあなたの悲鳴を聞いた村人が発起したなら、『そうなる』流れもありえなくは……」


26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 19:03:09.90 ID:ot5p3W1U0
(;^ω^)「ちょ、シィ!」

シィは小屋を飛び出した。
ツンの言っていた、自分達の破滅を招くような、そんな愚かな争いを止めたいがために。
もちろん、自身の力がそれを止めるに足るものだとは思っていない。
考えなどなく、ただ感情だけが足を前へと向かわせる。

途中、山の茂みで肌を切るが、関係が無かった。
ただその場所へ、ただ、自分が生まれ育った、心から愛する村へ。

しかし、

( ^ω^)「待って欲しいお」

それは上からの、肩に落ちてきた圧力によって止められた。
大きな男の手で無理矢理、シィの意志に反して。

(* ― )「離してください」

口の奥で顎をぎりぎりと締める。
どうして止めるのか、今のシィには理解できない。
シィは純粋に村のために、起きてしまっているかもしれない事故を止めたいだけなのに、
この今日初めて会った男は、人の気も察さずに止めようというのか、と。

( ^ω^)「僕が見てくるから、ツンとさっきの小屋で待っていて欲しいんだお」

(* ― )「これはあなたたちには関係のないことじゃないですか……」

ξ゚⊿゚)ξ「ねえ、さっきの話聞いてた? そう言うなら、あなたの事情だって私達には関係が無いわ」


28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 19:08:08.19 ID:ot5p3W1U0
(# ― )「……!」

ξ゚⊿゚)ξ「今回の魔導具に人を食らって強くなる特性があるとしたら、最低限、人を近付けたくないのよ」

(# ― )「だからなんだっていうんですか……さっきあなただって、村人同士で争うのは最悪だって……」

ξ゚⊿゚)ξ「ええ、最悪。魔導具は人の負の感情を喰うのよ? 身内で殺し合うことで、どれだけの感情が捲くと思っているの?」

(# ― )「私はそれを止めるために今……!」

ξ゚⊿゚)ξ「無理よ。あなたには何もできない」

(# ― )「みんな本当は話せばわかる……優しい人たちなんです」

ξ゚⊿゚)ξ「現実は本当にそんなに甘いものかしら。だったら、どうしてあなたは泣いているんでしょうね?」

     「…………………………」

自分の非力さ、無力さを、目の前の彼女は白刃のように突きつけてくる。
事実、シィも理解はしていたのだ。もし一度暴動が起きたら、まともに止まることはあり得るはずが無いことを。
自身の中にも微かに渦巻いている、過去から積んできた腐った感情も、枷が外れたらどうなるか想像がつかない。

しかし、ここで生きてきた村人の一人として、どうしてそれを黙って見過ごさなければいけないのか。
指をくわえて皆が死ぬのを見ていろというのならば、その中に飛び込んで喚く方がましだ。

意味がないからなんなのだ、それがどうしたというのだ。
ここから円満な結果なんて望んでいないし、望めない。何もできない自分がそれを望むなど、おこがましい。
ただ、自分が納得できる最期が欲しい、それだけのこと。なのに、

     「ぅ……ぅっ………くっ……」

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 19:12:25.75 ID:ot5p3W1U0
ξ゚⊿゚)ξ「小屋に戻りましょう」

嗚咽は止まらず、引きずられる。
シィは枯れ木のように縮んだ心と、枯れ枝のような細い体を、ツンに預けた。
枯れていないのは涙だけで、それはシィの内部をも枯らす意志を持ったかのように、ただただ流れ出していた。

小屋に帰っても、何も感じなかった。
部屋の隅でツンが自分を抱きかかえているのだと知るのは、少し間を置いてからのことだ。
全てを亡くしたような自分を、そのぬくもりの中で、締め殺して欲しくなった。

     「私は、どうしたらいいんですか……」

それでも、そんなことを頼むこともできず、汚い自分は未だ助けを求めようとしていた。
あまりに醜く愚かだと、開き直ることすら怖くて、ただ無心に手を伸ばし、すがりつこうとした。

ξ゚⊿゚)ξ「一般論は知らないから、個人的な見方で答えるけど、」

低い声の彼女に、返事ができなかった。
この短時間ですら、彼女は強い人間だと窺い知ることができるほどだったのに。
その彼女の言葉は、自分にとってどれだけの重みがあるか、全くの未知。単純な恐怖とも言えた。

ξ゚⊿゚)ξ「私としては、どんなに辛いことがあってもしっかり生きていて欲しいな」

     「え………」

ξ゚⊿゚)ξ「私ね、三年間の旅でいろいろな世界を見てきたんだけど、逃げる為に死ぬ人が一番嫌いなの」

シィはそれを考えていた。終着点の見えない負の連鎖ならば、どんなに最悪でも、自分が納得した結果で、と終わりを迎えようとした。

ξ゚⊿゚)ξ「自由にできる命を、たった一度の、いいえ数千度の失敗でも、逃げて終わらせるなんて絶対に許せない」

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 19:16:21.71 ID:ot5p3W1U0
言葉に反して、怒気は含まれていないように感じた。
それは彼女が本心からその言葉を言っているのか、シィの判断を惑わせる。

ξ゚⊿゚)ξ「たとえば、『人を殺して自分も死ぬ』なんて、全く理解に苦しむわね、殺したいなら殺して、ずっと笑っていればいい」

     「よく、わかりません………」

ξ゚⊿゚)ξ「あー、例えが悪かったわね。要するに、好きなことやって本能的に生きれば最高なのに、なんで死ぬわけ? って」

人はそんなに単純なものではないことも、彼女は理解しているはずなのに。
こんな『好きなように生きればいい』なんて、子供のような考え方を持っているとは意外であった。

ξ゚⊿゚)ξ「失敗したから? 何かを失ったから? それがどうしたっていうのよ」

「どうした」というその度合いは、人それぞれ違うはずなのに、

ξ゚⊿゚)ξ「生から逃げずに、全うな現実をぶっ壊して泥水すすっててもね、生きていることは楽しいのよ」

言いきる彼女の表情は何故か誇らしげだ。
この表情で、彼女がどうやって生きているのか、垣間見られた気もした。

ξ゚⊿゚)ξ「ま、泥水をすすっても楽しいってのは、ブーンの受け売りなんだけどね。私は泥水はイヤ、だったらスリでもするわ」

ふふっ、と鼻で笑う息がシィの髪にかかる。
そしてツンはシィをゆっくりと、まるで細く伸びた氷柱を労わるように、再度抱きしめた。

ξ-⊿-)ξ「要するにね、シィ。あなたが今どれだけ辛くても、へらへらしていればいつかはなんとかなるの。
       それは……私の相方が、形を持って証明してるんだから」

言葉も、肌も、息も、全てが暖かくて。それはシィを一瞬、先の見えない深い闇から解放したかのような。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 19:20:38.68 ID:ot5p3W1U0
( ^ω^)「うん、昨日の夜は別に何もなかったっぽいお」

翌朝シィが目を覚ますと、ブーンとツンが朝食を食べていた。
二人は床に座ったまま、なにやら丸いパンをだるそうにかじっていたのだ。

(*゚-゚)「えっ? じゃあ……」

( ^ω^)「それから一応今朝まで見張ってたけど、村の人は普通に耕作を始めていたし」

(*゚ー゚)「それは……よかったです! 嬉しいです!」

ξ゚⊿゚)ξ「やっぱりねぇ。騒ぎがまったく聞こえなかったから変だとは思ってたけど、一体何だったのかしら」

( ^ω^)「練習?」

ξ゚⊿゚)ξ「でも、魔導具は不安定なのよ? 練習もなにも……」

( ^ω^)「そんなの普通知らないお」

ξ゚⊿゚)ξ「それに感情が昂らないと発動すらしないのよ? おっかしいわねー」

頭を悩ませる二人を見て、シィは小屋を出、その裏手に回る。
裏には小川が通っており、そこに突っ込むように置きっぱなしになっているシィの腰ほどの太さと高さの、金属の器を持ち出した。

(*゚ー゚)「だいじょぶかな? たぶんまだいけると思うんだけど……」

( ^ω^)「……なんだおそれ」

彼女が部屋に持ち出してきた大きめの物体に二人は目を丸くした。
ツンが不審そうに眺めて爪先で蹴ったりするが、乾いた金属音が響くだけだ。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 19:24:34.65 ID:ot5p3W1U0
(*゚ー゚)「昔私達が適当に作ったヤギのチーズです。ずっと前に食べた時はおいしかったので」

言いながら、器の天頂、取っ手の付いた丸いふたを取る。
と、

( ゚ω゚)「おぶ……」

ξ; ⊿ )ξ「ひ……っ」

(* Д )「ぁ………」

死肉を貪る肉食獣の吐瀉物を鼻の中に詰められたような、全ての絶望を内包した悪臭が漂った。
死神のその臭いは一瞬で部屋を蹂躙し、ツンはたまらず戸を蹴破って飛び出していく。
死を生み出す容器の至近距離にいたシィを助けようと、ブーンはふらふらと彼女を担ぐのだが、

(* Дオボロロロロロドボボボッボロロロ゚ω゚)「ぬわあああああああっ!」

そこへ後頭部への、さながら艦隊の接近のような波が彼を襲った。
たまらず外に向かって倒れこむと、さらにべしゃりべしゃりと、シィの胃にダメ押しが入る。

ゲロω゚)「びっ、あっ、くっ、せっ………おっ……神は、死んだ……っ………!」

ξ;゚⊿゚)ξ「胃酸で髪も死にそうね……」

ゲロω-)「うまく、ない……お……」

ξ; ⊿ )ξ「ブゥゥゥゥゥッゥウゥゥンッ!!!」

(;゚-゚)そ「はっ……一体何が………ああっ! ブーンさんがなんか大変なことに!」


41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 19:28:54.78 ID:ot5p3W1U0
ゲロを小屋に立てかけてあった箒と、適当な雑巾で処理をした二人。
その間ブーンは一人、小川で必死に体を流していた。

( ^ω^)「寝不足だったけど目が覚めたお」

(;゚-゚)「ごめんなさい……」

( ^ω^)「いやいや。シィは僕らをもてなそうとしてくれたんだから、構わないお」

(*゚-゚)「本当なら、もっとおいしいものを用意したいんです……村の中ならもっと何かあったんですが……」

ξ゚⊿゚)ξ「あ、村の中といえば、そろそろ村はシィが居ないことに気付くはずよね?」

( ^ω^)「ていうか、ギコ君達が探し始めてないのが不思議だお。昨日ちょっとあったのに」

(*゚-゚)「彼らは基本的に村から出ないんですよ。山菜獲りに村人を駆りだしていくことはありますが」

ξ゚⊿゚)ξ「出ないの? 見張りとかは?」

(*゚-゚)「一人、だと思います。だいたいはずっと村の中に閉じこもって、たまに女の人を家に連れ込んで、という、」

ξ゚⊿゚)ξ「……なんかどっかの成金みたいね、適当っぷりとか」

(*゚-゚)「そんな中では、やはり村の人たちの不満は多いです。けれど危害を加えることは多くありません。だから、」

と、無表情に情報を流していた口をつぐんだ。

( ^ω^)「うーん……」

ξ゚⊿゚)ξ「あ、その顔、『しっくりこない』でしょ?」

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 19:34:05.64 ID:ot5p3W1U0
( ^ω^)「山賊の入れ知恵があるなら、その強い力で勢力の拡大とかに動くのが一般的だお」

ξ゚⊿゚)ξ「うん。魔導具を持っているなら、その辺の地域一帯を支配しに動いたって不自然じゃないわね」

(*゚-゚)「持っているなら? どういうことです?」

ξ゚⊿゚)ξ「あのね、昨日、魔導具は負の感情を喰うって言ったじゃない?」

(*゚-゚)「はい。それを使って力を振るうんですよね」

ξ゚⊿゚)ξ「そ、理解が早くて助かるわ。ところで、シィは骨折とかしたことある?」

(*゚-゚)「え? 私はありませんが、友人が腕を折ったことなら」

ξ゚⊿゚)ξ「骨って折れると、その部分が太くなったりするでしょ? 人間の自然回復ってやつ」

(*゚-゚)「ああ、……はい」

ξ゚⊿゚)ξ「それ、魔導具に対する負の感情も同じなのよ」

(*゚-゚)「ん、っと?」

ξ゚⊿゚)ξ「アレよ、『誰かを殺したい』って感情で使われた力は、
       その感情を負の方向にさらに拡大した形で、新たに力を強めるの。『人を殺し尽くしたい』って感じに」

(;゚-゚)「えっと、食べられた負の感情を補うように、さらに大きな感情が生まれる、ってことですか?」

ξ゚⊿゚)ξ「あ、そう言った方がいいわね。そう、だから魔導具は使えば使うほど、喰われる感情が増えて、力が強くなる」

(;゚-゚)「それを使っているギコ君も、どんどん怖い人に変わっていくんですか……?」

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 19:38:46.49 ID:ot5p3W1U0
つまり、彼はもうシィの知っている彼でなくなっている可能性が高い。
三年前から彼は村にやってきた山賊達を撃退し続けていたのだ。
そこで負の感情を糧にして戦っていたのなら、既にかなり大きなものが彼の中で渦巻いているかもしれない。

(;゚-゚)「そんな……」

ξ゚⊿゚)ξ「大丈夫。使用中の魔導具を破壊すれば、少なくとも魔導具によって増えた感情は全て決壊する」

(*゚-゚)「でも、それで本当にギコ君は元に戻るんですか?」

今までのことがあれば、彼は自分を責めてしまうのではないか。それはまともな感情を取り戻したところで解決するものだろうか。
力を失った彼に対して、村人はどんな態度を取るだろうか。彼の『それから』を想像をするのはあまりにも、容易い。

( ^ω^)「それは――」

ξ゚⊿゚)ξ「私は……逃げる為に死ぬ人が嫌い」

ツンはブーンの声を遮り、今の言葉を告げて、小屋を出ていった。

(*゚-゚)「………」

( ^ω^)「おい……」

ツンの背中を横目で見て、次にブーンはシィを見つめた。
その彼の眼は少しも揺れておらず、そこから明確な言葉をシィに伝えようとしているようであった。

( ^ω^)「……シィ、そうなったとしたら、できるなら君も、」

(*゚ー゚)「あの、私……頑張ろうと思います。昨日、ツンさんに勇気をもらったんです」


46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 19:43:34.66 ID:ot5p3W1U0
それ以上の言葉は必要なかった。
シィは、揺れないブーンの瞳をはっきりと見返した。

( ^ω^)「……そうかお」

シィの決して強くはない笑顔。
しかし、彼女自身の不安を打ち消せるほどのものではある。

( ^ω^)「ちょっと、ツンと話してくるお」

振り向いたブーンの背を陰に、小屋の戸は閉じた。

(*゚-゚)「……」

一人。

(*゚-゚)「頑張れると、思うから」

こぼす。

(*゚-゚)「それくらいなら私にも、頑張れるはずだから」

でこぼこの小屋、丸太の壁をさすりながら、シィは自分の言葉を噛み締める。
あの人たちが助けてくれたら、この不格好な家で彼とひっそり暮らしていけばいい。

彼やみんなで一生懸命作った、本当ならみんなの隠れ家。
誰かが泣いて逃げ込んだり、喧嘩したりしたこの家。
バカみたいにはしゃいで、たくさん笑ってきたこの家。

ずっと使われていなかったこの場所を通じて、思い出と一緒に取り戻していけば、いいのだ。

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 19:48:41.52 ID:ot5p3W1U0
( ^ω^)「お、」

かさり、と茂みに座りこむブーン。
隣には小川に指先を突っ込み、憂鬱そうにそれを見つめる横顔があった。

ξ゚⊿゚)ξ「なによ」

( ^ω^)「魔導具の処理にはいつ行くお」

ξ゚⊿゚)ξ「今日でいいでしょ? そんな悠長にやってられないわ」

( ^ω^)「シィが、かお?」

ξ゚⊿゚)ξ「違う、私達の話」

( ^ω^)「あんまり、ここに居たくないのかお」

ξ゚⊿゚)ξ「違う」

( ^ω^)「………ツン。言っておくが、彼女はお前じゃない」

ξ゚⊿゚)ξ「何言ってるの? そんなの当たり前よ」

( ^ω^)「魔導具を使ってきた人間と、それにまがりなりにも支配されてきた人間が和解できるはずがない」

ξ゚⊿゚)ξ「……なによ。そうだとしたらなんなの? また説教垂れようってわけ?」

( ^ω^)「これから彼女が享受できる筈の平穏を、お前の理由で踏み潰すな」

ξ-⊿-)ξ「はっ。頭が風化したバケモノには、こんなのわからないことでしょうね」

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 19:52:57.10 ID:ot5p3W1U0
その夜。

(;゚-゚)「本当に大丈夫ですよね?」

ξ゚⊿゚)ξ「だいじょぶだってば」

小屋の前で、二人とシィが向き合っていた。

( ^ω^)「あとのことは、シィだけじゃなく君達村の人間で、話しあって考えてくれお」

(*゚ー゚)「……はい!」

ξ゚⊿゚)ξ「………」

小屋を離れ、村へと向かう茂みへ。
ブーンが先を歩きながら、話しかける。

( ^ω^)「一応下っ端どもも片付けるお」

ξ゚⊿゚)ξ「はーい、そうですね」

( ^ω^)「で、着いたらあいつらの拠点に僕をぶん投げてくれお」

ξ゚⊿゚)ξ「へいへい」

歩いた先は、やはり静かな村。
家の微かな明かりが見えるのはただ一軒のみで、他はもう寝静まってしまったのだろう。
二人はその家の手前まで歩くと、それぞれで体を鳴らす。

ξ゚⊿゚)ξ「さて、行くわよ」

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 19:58:01.96 ID:ot5p3W1U0
ツンがブーンの両足を脇腹に挟みこみ、その場で彼女を中心にぐるぐると回り出した。
踏ん張る足の回転はブーンの重さをもって、あっというまに加速する。

(;^ω^)「ちょっと速い! ちょっと速い!」

ξ#゚⊿゚)ξ「うっさい! さあ、行って来い!」

( ゚ω゚)「ほぐぅぅぅぁああああ!」

ツンは地を深く踏みながら、両腕のブーンの足を放った。
遠心力は既に相当なもので、人を飛ばすにはあまりに十分なもの。
ブーンは飛び立つ。地面と水平方向に、仰向けの上体で。

<ヽ`∀´>「ニダ?」

戸はブーンの後頭部によって木を裂く鈍い音とともにへし折れた。
突き刺さった木片から血を噴き出したブーンが滑り、先日のエラの張った男の足元へと到達した。

(;`ハ´)「はっ! こいつこないだのやつアル!」

(,, Д )「あぁ……?」

ξ゚⊿゚)ξ「あら? 随分少ないわね」

中に居たのは三人のみ。
小さな木テーブルを中心に低い椅子を囲み、山菜を煮たような料理が人数分、小皿に取り分けられていた。

(,, Д )「随分久しぶりだなぁ……どこの山の奴らだ……?」

その中、ツンらの知らない一人が椅子をゆっくりと立ち上がった。眼の下のえらく濃い隈が目立つ、虚ろな顔だ。

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 20:02:25.27 ID:ot5p3W1U0
ξ゚⊿゚)ξ「あんたの首飾りを破壊しに来たわ」

隈の男の首には、骨のような装飾の首飾りがかけられていた。
そこからは微弱に、ツンの体の感覚にも直接訴えてくる奔流、魔術の香がある。

ξ゚⊿゚)ξ「それが魔導具ね、ちっちゃ」

(,, Д )「あぁ……?」

( ^ω^)「いてて……」

<;ヽ`∀´>「うわ起きたニダ! 死ねニダ!」

エラの男が座っていた椅子を持ち上げ、やっと体を起こしたところのブーンに振り下ろした。

(  ω )「なっとく!」

腰で拳を固め踏ん張っていたブーンの頭に直撃する。
椅子が壊れるほどの衝撃により、額の皮膚が割れ血が流れ落ちる、しかしブーンに怯む様子はない。

(#`ハ´)「フィッツ!」

もう一人は追撃に、テーブル下に刺さっていた手斧を横ぶりにブーンに叩きつけた。
鈍い音を立てて左肩に突き刺さり、腕を切り落とすとは言えないが、その半分ほどまでめり込む。

( ^ω^)「効かねえお」

それでも立っていた彼の体、額から肩から多量の血を滴らせる彼の表情。それらには、微かな歪みすら見られない。

(;`ハ´)「ヒッ! こいつバケモノアル!」

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 20:06:24.65 ID:ot5p3W1U0
(,, Д )「ちっ、こいつの出番か……」

首飾りを握る彼。
だが、

ξ#゚⊿゚)ξ「ちょっと面貸せやぁぁぁぁぁぁぁ!」

戸の近くに居るはずだったツンが速攻を決める。
速度は人間のものとは言い難く、床を踏み砕く勢いで駆けた足からの、顔面に向けた小さな拳。
直撃した男の体は頭からきりもみ回転して吹っ飛び、木の家の壁を容易く突き破った。

(,, Д )「ってえな……」

ぱらりと木屑が落ちる。
貫通した穴から、金髪を掻きあげたツンが不敵に笑った。

ξ゚ー゚)ξ「邪魔が入るのは嫌いなのよねぇ」

(,, Д )「そいつは、同感だぜ……」

倒れたまま彼は、首飾りを再度握りしめた。
握った手から血が飛んだのが見え、痛々しい。

(,, Д )「あ、あ、………ぐぅぅうぅうぅぅうぅぅぅぅぅ……」

徐々に伸びる鼻、尖ってゆく耳、首からは、おそらく全身へと広がる灰色の毛。
唸るような声もさながら狼のような響きへと変わり、空気が冷たくなってゆく。
魔導具を握っていた手の爪は伸び、だらしなく開いた口からは牙が飛び出した。

やがて体中の骨をめきりと鳴らして、四つん這いにツンを睨む姿。それはまさに、人狼と呼べるものであった。

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 20:10:38.41 ID:ot5p3W1U0
ξ゚⊿゚)ξ「あら、聞いてたより随分ケダモノっぽくなっちゃって」

ぐるる、くるる、と唸る顔は横に裂け、ねばねばとした唾液を垂らす。
狼はツンを観察するように目玉を走らせると、首をゆらりと傾けた。
四肢は魔導具により、隆々とした筋肉に覆われて、丸太のような太さとなっていた。
狼はその前足で地面を踏みしめ、今にも噛みついてきそうな姿勢を示し、

     「死ね」

はっきりとした声を飛ばした。
それは、ツンの眼前に迫る顎と同時。

ξ゚⊿゚)ξ「嫌よ」

だがツンは怯まない。
彼女の小さな顔を噛み砕きに伸びた狼の頭を、右に回転しながら素早く避ける。
回る勢いはそのまま、拳を狼の脳天に叩き下ろし、狼を這いつくばらせた。
さらに追撃として、穴のあいた家の明かりで浮き上がっていたあばらの隙間を、振りかぶった爪先で蹴り込む。

ξ゚⊿゚)ξ「くーびくび、っと」

蹴りにひくつく狼の首をまさぐるツン。
が、首飾りは長い毛に覆われていて、無理矢理にしようにもなかなか引っ張り出せない。

ξ゚⊿゚)ξ「ちっ」

もたついていると、狼の震えが止まりかけていることに気付く。
あまり至近距離に居ては、あの大きな体の一撃をもらってしまうだろう。

ξ#゚⊿゚)ξ「…………しゃらくせえ」

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 20:14:30.74 ID:ot5p3W1U0
試しに手を振ってなんとなく挑発をしてみるツン。
すると狼は痛みにようやく立ち上がって、伺うようにツンの周囲を歩きだした。

ξ゚⊿゚)ξノシ「こういうタイプ、ほんと合わないわ……」

ツンは肉体を使って戦うのは苦手ではなく、むしろ得意なほうである。
しかし今のように、明らかに物理的な力の差があるとそうはいかない。
どんなに強い武術家でも、馬車の衝突には耐えられないのと同じだ。

ξ゚⊿゚)ξ「ブーンまだかな……」

相棒の名をこぼしても、来ていないということはまだなのが当然である。
それに構わず、今度はツンの視界右側から走りこんでくる狼。

脳天への一撃が効いていたのか最初の飛び込みよりも少し遅い。
ツンはそれに向かって低姿勢で滑り込み、先程蹴り込んだあばらの位置を殴り飛ばす。

牙の間から、ぎっ、と短い悲鳴が聞こえ、地面の砂を飛ばしながら横転する姿は情けなく見えた。
そこに、次こそは、とツンが手を伸ばすも、子供がしつけに抵抗するかのように狼は暴れ出した。

ξ゚⊿゚)ξ「いったいわね……」

暴れる腕から伸びた爪がツンの手を僅かに引っ掻いた。
狼はそれによって怯んだツンを見ると、すかさず山の方へ。

ξ;゚⊿゚)ξ「うっわ、めんどくさ! 待てバカ!」

さすが人狼といったところで、走る足は突風のように凄まじい速度をもっていた。
しかし逃がす訳にもいかず、ツンは今居ないブーンを回収に向かい、魔導具への感覚を頼りに追うことにした。

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 20:18:09.00 ID:ot5p3W1U0
(;゚-゚)「どうしよ……」

シィは二人を見送ってから小屋の椅子にじっと座っていた。
一旦寝ようと決心していたのに、なかなか寝付けず。

特にすることもなく、できることなど心配程度。
蝋燭片手に座り、二人が戻ってきたらすぐに点けようとか、そんなことを考えていた。

(;゚ー゚)「ん?」

小川の流れ、虫の声、それだけが聞こえるこの小屋内。
普段からこの音しか聞こえないこの辺りでは、それ以外の音がやってくるとそこに耳が向く。

そこでシィが聞いたのは、茂みを割る音。

がさ、がさ、と大きめの動物が歩いているのだろうか。
そういえば、あの男性の背はなかなか高いので、彼らが帰ってきたのかもしれない。

(*゚ー゚)「よしっ」

椅子を立ち、戸を開ける。
二人を迎えて、今日はとにかく、ぐっすり寝よう。

(;゚-゚)「あれ?」

茂みの音はもう聞こえない。だが、小屋の周囲には誰もいない。
勘違いのはずがないのだが、勘違いなのだろうか。
少し戸から出て、暗がりを目で確認する。

が、やはり誰も居ない。

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 20:22:26.57 ID:ot5p3W1U0
(*゚-゚)「やっぱり気のせいかな……」

小屋へと戻ろう。
そう思い、身を翻した。

ぐるる、くるる、

(;゚-゚)「えっ」

小屋の前には、何かが居た。

ぐるる、くるる、

これは、獣だ。
昔も何度か見たことがある。
この山にはまれに人里の近くまで降りてくる獣が、狼が、いるのだ。

(;゚-゚)「どうしよう……」

完全に目が合っている。もう逃げることは絶対に許されない。

狼は集団で狩りをするもの。今は一頭だが、おそらくはそこらに居るに違いない。
ならば撃退しなければ、いとも簡単に殺されてしまう。
しかし今のシィにはそんな道具も武器もない。
小さな蝋燭はあるが、火がないと何の意味もない。

そして狼は、シィの小さな体に向かって牙を見せつけた。
腹を空かせているのか涎が垂れ、それは、空から降る月光を存分に照らしていた。

シィが立ったまま縮こまり、その恐怖におののく瞬間には、牙はもう、彼女の目前だった。

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 20:26:42.94 ID:ot5p3W1U0
そこに突然、シィの真後ろの茂みから一つの影が飛び出してきた。

(;>-<)「いやっ」

尻もちをつくシィ。
その目の前を、灰色の毛で覆われた大きな獣がついた。
理由は不明だが、シィは助けられたらしい。

(;゚-゚)「え、どうしよ、どうしよ、」

シィの動揺をよそに、周囲から狼の遠吠えが響く。
その数はかなりのもので、数える気力を奪われるほど。
声は止み、灰色の大きな獣を、茂みから現れた黒毛の狼達が睨む。
統率されているようで、シィと獣を中心に置くと、狼はそれぞれ円を描き出すように歩き始めた。

(;゚-゚)「どういうことなの、これ」

    「逃げてきた先までこれなんて、まったくついてねえ……」

その声は、一体どこから聞こえたものか。
知っているのに、その主の姿は見えない。
必死にシィは頭をきょろきょろさせるが、周りには狼と、今飛んできた灰色しかいない。

    「……ああ、これが罪ってやつか? くだらねえ教えでも、納得できる理由にはなりやがる……」

(;゚-゚)「え? え?」

    「……ごめんな」

(*゚-゚)「あなた、ギコ君……なの?」

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 20:31:06.54 ID:ot5p3W1U0
シィのたった一つの問いには、肯定の言葉も、否定の言葉もなかった。
それは狼の群れが既に狩りの準備を始めていたからだろうか。
円の中心の獲物の上を飛び交い、一瞬の隙をつく、この狩りを。

(;゚-゚)「ねえ、ギコ君なの? ギコ君なんでしょ? ねえ、応えてよ、あなただって! ねえ!」

                   ぐるる、くるる、    ぐるる、くるる、

こちらを伺ってくる狼達に対し、シィの目の前の獣は、四肢を地面に食い込ませるほどに、力強く構えた。

          ぐるる、くるる、    ぐるる、くるる、

円の開いた間を埋めるよう、一つの影が跳躍する。
黒の毛の一頭が、動きを見せない灰色に向かって飛び込んだのだ。
先鋒をきっかけにして、二頭、三頭、四頭と、噛みつける場所に次から次へと噛みついてゆく。

(;゚-゚)「ギコ君ってば!」

容赦は野生の世界には存在しない。肉食の、腹を空かせた狼なら尚更だ。
その数が九を越えた頃には、先程狼が形作っていた円は消えさり、その中心は、血だまりと、黒の毛。

    「うそ………」

やがて聞こえるのは、

ぽたり、と、獣から流れ落ちる血液が、地面を叩いていく音。

    「やめてよ…………いや……」

数瞬の後、怯えるシィの耳を突くのは、狼の牙が、生きた肉を侵食する音。

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 20:35:18.86 ID:ot5p3W1U0
(;^ω^)「ちょっ、」

ξ#゚⊿゚)ξ「余程、餌にありつけなかったのかしら!」

突然、茂みを切り裂いてきた二人。
先頭の男の背中を蹴り上がり、女が宙を舞う。
落下の加速を背負う月光に照らされた金髪が、一頭の狼に飛び蹴りを叩きこんだ。
着地と同時、彼女は自分の目につくものから順に蹴飛ばしてゆき、やがて最後の一匹まで、暴れ倒す。

ξ#゚⊿゚)ξ「ああ、もうっ!」

そして赤に塗れた灰色の首に、苛立った彼女が手を伸ばした。

ξ#゚⊿゚)ξ「この程度なんだったら、無理矢理剥がせばよかった!」

すると、白い発光とともにシィの目の前で突風が起きたような感覚が走った。
何かに体を押されているようなもので、しかし周囲の葉などは影響を受けていないようだ。
ギコの灰色の狼の首から全身に向かって枯葉を粉々にするような亀裂が走り、毛が剥がれ落ちると、
変質していたごつごつとした大きな体もみるみるうちに縮小していく。

    「ギコ君、ギコ君、ギコ君、」

現れた姿に向けて、両手を震わせたシィはその名前を呼び続けた。
無残にも肩の下や太腿から剥き出しになった赤白い線と、小さく連続して穴の開いた肉を、見つめながら。

    「はっ、ぁ……おい、なん、でっ、逃げ……か、っ、」

    「だって……すぐ、目の前に、ギコ君が……いたから……、」

隣に座り込んで、シィはギコの手を握ると、念じるように額を押し付けた。

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 20:39:53.20 ID:ot5p3W1U0

    「ば、か。……く、な、みんな、にも、謝って、おい……って、て、かっ、」


    「やだよ、ギコ君はまだ、」


    「く、き、………っ……、」


血液の流出は既に致死量を越えていた。
ギコがシィに僅かな言葉を告げられたのは、魔術による肉体変化のずれ、偶然だ。
大きかった体から、小さな体へと移る際の、微かなずれ。
その偶然の結果が、シィにとってどんな意味をもつのか。


    「ぁ―――――ぁ―――!」


小川の流れと、虫の声と、シィが悲痛に叫んだ声は、夜の闇に。

シィはギコを抱きしめたまま、そこに。

満月は沈み、太陽は昇り。

朝が来ていたことを彼女が知ったのは、涙が枯れてから。

その直前まで一晩中そばに立っていた、もう居ない旅の女に、枯れてしまったシィが気付くことは、なかった。


78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 20:44:10.89 ID:ot5p3W1U0
( ^ω^)「さっきあの子分二人を吐かせたら、一応納得ができたお」

道の途中、行商人を上手く言いくるめ、馬車の荷物置きの上に乗せてもらった二人。

ツンは一応偉いさんであるため、教会お抱えの人間アピール、
つまり検問所などを一発で通れる教皇直々の手形を見せたりしたのだ。
その後は布教のためとかそんな風に言うと、納得してしまう商人だったわけである。

ξ゚⊿゚)ξ「何のよ……」

( ^ω^)「この前の夜」

ξ゚⊿゚)ξ「ああ……」

( ^ω^)「ギコ君は以前から子分の山賊を食って、徐々に減らしていってたらしいお、もしもの時のために」

ξ゚⊿゚)ξ「もしも?」

( ^ω^)「村人が反乱を起こした時、自分の側が押し勝ってしまわないように」

ξ-⊿-)ξ「はっ。なにそれ……」

( ^ω^)「察するに、村を支配したギコ君が魔導具に喰われていたのは悲しみだお。あのひどい隈、覚えてるかお?
      きっと自分の壊れた感情に、心が押し潰されそうになってたんだお。で、あの二人はよく相談されてたみたいで」

ξ-⊿-)ξ「もう、なんなのよ、ホントに……」

( ^ω^)「何がだお」

ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ、私達が来たせいで彼らはああなったんじゃないの……」

79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 20:47:49.45 ID:ot5p3W1U0
( ^ω^)「……それは違うお」

ξ゚⊿゚)ξ「は? 何が違うの? そのまま行けばあの村――」

はっとした顔で、ツンが口を閉ざす。
そう。そのまま行けば、あの村は闇討ちでギコらを焼いて、また元の生活に戻っていった、はずなのだ。
しかしそれは二人の訪問によって、結果は似たようなものでも、過程はほんの少しだけ、違えることになった。

ξ#゚⊿゚)ξ「チッ、あ~~~~~、チッ、チッ、あ~! 毎回毎回……こんなのばっか!」

( ^ω^)「なんでやたら舌打ち……」

ξ#゚⊿゚)ξ「舌噛み切って死ね」

( ^ω^)「死ねない体だってわかってるくせに」

ξ#゚⊿゚)ξ「じゃあ川で溺れ死ね」

( ^ω^)「気付いたら水中で呼吸できるようになってたお」

ξ#゚⊿゚)ξ「老衰で死ね、平穏につまらない最期を遂げろ」

( ^ω^)「そうなるつもりはないお」

ξ#゚⊿゚)ξ「ぬぅぅぅぅううあぁーっ!! ったく……早く出て来いってのよ! 『枯木の魔女』の腐れババアが!」

いつものように悪態をつき続けるツンを尻目に、ブーンは道の先を眺めた。
次の街に到着するまではまだ掛かりそうで、少なくともそれまでは、この不機嫌な彼女といなければならないようだ。

 ep1. 薄幸の少女 おしまい。

84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 21:00:36.18 ID:ot5p3W1U0
 ep2. 一族最後の女

商業都市ニュー速。
あまりに人の多いこの街では、様々な思惑を携えた人間が回る。

たとえば、一つの目的を持って旅商に手を伸ばし、各地の街の商工会に参入する足掛かりとしてここを選んだ向う見ず。
たとえば、新たな歌の下地に、誰かとの有意な繋がりや、自分とは違った視点での言葉を求める、旅の吟遊詩人。
たとえば、初めて街にやってきたそんな彼らを狙って、自らの至福を肥やそうとする、愚かしい悪人。

   「どこだ………どこに居る……」

たとえば、人の多いこの街に、誰かを探してやってきた、女。
女は人混みを全く避けようともせず、その長い黒の髪と、全身を覆えるほどの、艶のある黒の繊維のローブを纏って歩く。
街を歩き、正面から男がぶつかってこようが、小さな子供が膝に当たろうが、無視。女の眼はその中のどこにも向いていない。

「おい、どこ見て歩いてんだ?」

人の多いこの街、ぶつかってしまった際の反応は、十人十色。
そのまま歩いていってしまうものもいれば、その逆だって、当然いるのだ。

川 ゚ -゚)「貴様は……誰だ?」

肩を掴まれ、振り返ったその姿。
長い睫毛と白い肌。振り返りざまの黒髪は、甘い香りをふわりと生んだ。
真っ黒の瞳はどこを見ているのか、肩を掴んだ男の、顔の裏側を見ているような。
そんな彼女の質問は、男にとってはあまりに腹立たしいもので。

「……んだとこのアマ、舐めてんのか」


85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 21:04:28.87 ID:ot5p3W1U0
肩を掴んだ手と、開いていたもう一方の手は握られた。
それにより片方はその怒りの大本を掴み、片方は石のような固さを得た。

振りかぶった拳は大振り。
女の顔面に向けて勢いよく振るう、が、

('A`)「やめとけよ、おっさん」

それを止めたのは、骨ばった顔の痩せた男だった。
憤る中年が持ちあげていた腕に彼は自分の腕をすばやく絡め、力づくで固定していたのだ。

川 ゚ -゚)「貴様は……ドクオか……!」

('A`)「え? 違――」

「邪魔だガキが!」

(゚A(#)「ブエッ!!」

中年は女を掴んでいた手を離し、男の頬を打ち抜いた。
あまり屈強とはいえないその男の体は、人混みをどこかの逸話のように割って、倒れ込む。

(;A;)「いってえなチクショウ……ウツダ……」

川 - )「やはり、貴様も情けないか………」

そして肩の手を解かれた女は、倒れた男の目前まで歩いてきた。
中年は無視されたことにさらに憤るが、女は完全にそれを無視し、

涙目で地面に倒れる男の顔を真横から、それもかなりの勢いを持って薙ぐように蹴り飛ばした。

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 21:08:32.55 ID:ot5p3W1U0
(; A )「ハ……ァ?」

転がりながら野次馬の中に突っ込み、男は固い白の破片を口からこぼした。
同時に滴るのは鮮血、震える手で掬ってみるが、どろりと流れ出している。

川 ゚ -゚)「殺してやる」

ひっ、という短い悲鳴は、視線を向けられたその男のものだけではなかった。
周囲の人間も、男を蹴った段階で彼女がかなりの使い手であると察することができ、
何より、その瞳の暗さが本当に深遠なもので、『殺害』に対する説得力が余りあるものだったからである。

「お、おい、ちょっとやめとけよ……」

先程の中年も、殴る気はあっても殺す気など毛頭ない。
女の肩をまたも掴むが、今の意味合いは全く違う。
彼も殺しの立会人にはなりたくないのだ。

川 ゚ -゚)「どけ」

しかし彼女は止まらない。
手を掴み、中年を引き寄せ、その片目に親指を挿し入れる。
瞳の水がぺちゃりと飛び、同時に真っ赤な血が噴き出し、野次馬は絶叫、人の流れが、彼女を中心として一気に離れていった。

「っぁ、っ、ぁぁ、ぁっ、」

声にならない声を漏らし、中年男は片目を押さえてその場にうずくまった。
先程まで見えていた世界の一部を、一瞬にして奪われてしまった衝撃に震えながら。

川 ゚ -゚)「邪魔する人間は、皆殺しだ」


89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 21:12:39.54 ID:ot5p3W1U0
( ^,ω^)「やっぱ金持ってると違うお」モシャモシャ

ξ-⊿-)ξ「はっ、私の財力を舐めちゃいけないわ」

ブーンが食べているのはウサギの肉、しかも首から尻にかけて棒を貫通させた丸焼きだ。
切り分けて買うのが面倒だ、というツンの言葉から、いっそ一羽を買えばいい、となってしまった結果である。

ツンは一応『騎士』という存在なので、街それぞれの商工会や金貸しに話を通し、教会付けで金を幾らか借りることができる。
なので実質的に、ある程度大きな街ならばどこに行っても、余計な出費をしない限りは彼らが金に困ることはない。

ξ゚⊿゚)ξ「ね、ちょっとちょうだい?」

( ^,ω^)「いいお、ほら食うお」

半分をむしゃむしゃ食べながらまだ無傷の半分を、首を曲げた妙な体勢で差し出すブーン。

ξ;゚⊿゚)ξ「食べづらい……」

ウサギ越しに顔を突き合わせて歩く体勢は、あまりに不自然なものだ。

     ㎜
  :3兎◇:  ←こんな感じ。
     ㎜

ξ#゚⊿゚)ξ「ああもう丸ごと寄こしなさいよ! 首がだるいわ!」

棒を奪い取り、ツンもちびちびと食べ始めた。
なかなか胡椒が利いていて香ばしく、焼き立てということもあり、噛めば肉汁が噴き出してくる。

( ´ω`)「うー、あー、はー、らー、減っ、たー、せっかくだし海産物とかもなんか………お?」

92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 21:16:54.98 ID:ot5p3W1U0
( ^ω^)「なんぞ」

ブーンは市場の食べものを探す頭を道の先に向けた。
そこは突きあたりで直角二股に道が分かれているのだが、
「逃げろ!」「きゃあああ!」「殺される!」なんて悲鳴が、その道の右から、左へ駆けていく。
顔面蒼白で二人の方に曲がってくる者達も居て、道の先で何か事件が起こっているらしい。

ξ゚⊿゚)ξ「さーね。私達には関係なさそう」

手に持つ兎を人を避けるため頭上でくるくるさせて、ツンはつまらなそうに言った。
彼女が感じる『魔導具』の感覚がしないということはその表情が示していた。

そのまま人の波に逆らって今日の宿への道を歩く二人。
まっすぐ歩くと、今述べた突きあたりに到達するのだが。

(;'A`)「やべえ、本気で、やべえ」

ちょうどそこで顔を貼らした男がブーンの足元に抱きついてきた。
息も絶え絶えに、宛てのない、誰かの助けを求めた腕をたまたまブーンに絡めてしまったようだ。

( ^ω^)「そうかお」

(;'A`)「おいあんた旅の人間か? なあ、礼は弾むから助けてくれ!」

その表情はまさに必死であった。あたかも、死神に追われているような余裕の無さ。

川 ゚ -゚)「それは……貴様の仲間か?」

ブーンが声のした方、すなわち右方向には、見るに美しい黒と白の女性が首を捻って立っていた。
足元の男の震えが大きくなったところ、おそらく彼女が、彼の死神なのだろう。

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 21:20:48.80 ID:ot5p3W1U0
ξ゚⊿゚)ξ「どーせくだらない痴話喧嘩よ。ブーン、無視しましょ」

( ^ω^)「お」

(;'A`)「待てよ俺の相棒! 絶対俺を守るって約束じゃねえかよ!」

なぁ、なぁ、とブーンの靴に噛みついてきそうな剣幕で男は吠えた。
もちろんこんな男はブーンは知らないし、最近では誰ともそんな約束はしていない。

( ^ω^)「何を、そんなの知らな、」

川 ゚ -゚)「どけ、デカブツが」

声はブーンの真横に居た。それはまるで氷槍のような鋭利さを弾き出しながら。
動きは時間を感じさせない本当に瞬間的なもので、しかし彼女は確かにそこに居た。

ξ;゚⊿゚)ξ「うそ、」

ばちん、と生肉を叩き落としたような音が街の石畳に大きく響く。
ツンのあまり高くない位置にある白い顔に、下から飛んできた血飛沫がかかった。

(;'A`)「うわぁぁぁぁあっ!」

男はごきぶりのようにそこから離れた。かさかさ、という音を鳴らしていそうな、そんな四肢の動きだ。
そしてブーンはその男がいなくなった足元に、眩暈を起こしたかのように倒れ込んだ。

川 ゚ -゚)「何ならお前も、死ぬか?」

やはり冷たい圧力を持った視線を、女は地面の、ブーンの足に向ける。
そこには無残にも火薬で吹き飛ばしたかのように破れた靴と、肉が裂け飛んだ足があった。

99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 21:24:59.56 ID:ot5p3W1U0
ξ;゚⊿゚)ξ「生身で、あの速さ?」

ツンは驚きを顔に浮かせる。飛び散ったブーンの血を拭う余裕すらない。

今までに見たことがなかったのだ。
魔導具を用いない純粋な肉体のみの力で、自分でも追い切れるかわからないほどの身のこなしをする人間を。
それもツン自身、普通の人間とは言い難い力を体にもっているのにも関わらず。
これはどう考えても、ツンの知識世界においては明らかな異常といえる。

だのにこの女は、無表情に、無造作に、それが当然のように、
ブーンの足を踏み潰しても、その作りものじみた顔は歪めずに、

川 ゚ -゚)「ドクオ、逃がさんぞ」

たった一瞥を経て、自分の目標のみに向かっていく。

(  ω )「待て」

川 ゚ -゚)「………」

だが、ここで黙っているような男はツンの相棒とは言えない。
足を破壊され倒れていたはずのブーンは、女の足を握っていた。

川 ゚ -゚)「……貴様、何だその足は」

(  ω )「……お前こそ、何だその匂いは」

砕かれた足は地をしっかりと踏みしめ、立ち上がると同時に女とブーンの頭の位置を逆転させた。
足から片手で持ちあげ、先の兎の丸焼きのごとくぐるりと振り回し、ブーンの血が未だ残る地面に、今度は女の頭が、
通行人の息を飲む空気、石畳の亀裂、叩いた点での振動打音を殊更に無視するかのように、激突した。

100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 21:29:33.22 ID:ot5p3W1U0
( ^ω^)「……」

川  - )

女は気を失ったようだ。
しかし出血は一滴すらなく、隣にあるブーンの足だけが未だ血を流す。
とは言っても、すでにブーンの足も白い泡に包まれ、見かけではほとんど元の状態に戻っていたが。

ξ゚⊿゚)ξ「この女、何者?」

( ^ω^)「多分、」

言葉の直前に街の向こうから笛の音が響いた。
この街ニュー速では、『保安隊』という組織がその治安の維持に努める。
二人が聞いたこの笛の音は、その保安隊の意志疎通を図るものであるのだ。

( ^ω^)「……ちっ、こいつ連れてくお」

ξ゚⊿゚)ξ「わかった。、こっちよ」

ブーンは倒れた女を肩に抱え、先に走り出したツンの後を追いかける。
目的地は決まっている。金を借りた商工会から案内されたちょっとした宿だ。
人混みを上手く避けながら、二人は保安隊の目に止まることなくその場を去っていった。

(;'A`)「なんなんだよあいつら……報告、しとくか……?」

男は震え、周囲の目を気にするようにそそくさと逃げ出した。

結局その場には割れた石畳と血だけが残り、ようやくやってきた保安隊は首を傾げることになるのだった。


102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 21:33:41.47 ID:ot5p3W1U0
目を覚ますと、触れたことのないような、何時ぶりかを忘れてしまった心地よさに包まれていた。
背中にあたる柔らかさ、体にかかる温かさ、鼻孔をくすぐるのは、何かスープの匂いだろうか。

ξ゚⊿゚)ξ「こんにちは」

寝床の横には、椅子に座った金髪の女が片手を軽くふらふら振っていた。
こうして寝起きに声を掛けられたのも、何年ぶりのことだろうか。

     「誰、だ……?」

まだ少し痛む額を押さえながら、上体を起こす。
部屋は温かみのある茶色の丸い木テーブル、丸い化粧棚などが置かれ、丸い窓枠の前には男が一人。

ξ゚⊿゚)ξ「私はツンよ。あっちに居るのがブーンっていうの」

はい、といって金髪の女、ツンは手元のスープの容器をさし出す。

川 ゚ -゚)「む、……私は………クー。クー・……いや、クーだ」

クーは受け取りながら、その中を眺めた。
黄色の粒が浮き、見たことのない妙な物体だが、あまい匂いやどろりとした液面が、とても興味深かった。

ξ゚ー゚)ξ「何その表情。コーンスープよ? おいしいから飲みなさいなー」

川 ゚ -゚)「ずず、………君らは、誰だ?」

言われるがままにスープを飲む。やはりあまい。

誰だ、という今の質問は、最初のものとは別の意味があった。
窓の男を襲ったはずなのにも関わらず、今の状況に置かれていることがクーには理解できなかったのだ。

105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 21:38:06.35 ID:ot5p3W1U0
( ^ω^)「お前に質問がある。知っている匂いだ」

窓の外を眺めていた男がクーの寝るベッドの前に歩いてきた。
先程、地面にクーを叩きつけた男だ。
クーが問答無用で踏み潰したはずの足で、いとも簡単に立ち上がった、妙な男。

川 ゚ -゚)「貴様、人間か?」

( ^ω^)「先ずはこちらからの質問をさせて欲しい。ツン、外してくれ」

ξ゚⊿゚)ξ「え?」

( ^ω^)「嫌だというなら、構わない」

ξ゚⊿゚)ξ「……じゃあいる」

むす、といった顔で、金髪は椅子に座りなおした。
どうも少女のような雰囲気を醸しており、かわいらしいとクーは思った。

( ^ω^)「お前はなぜ生きている」

そして、かなりふざけたことを抜かす男。
クーにとってその質問は愚問であるといえるものであるのだ。

川 ゚ -゚)「私はドクオを殺すために生きている」

( ^ω^)「違う、そんなことは聞いていない」

川 ゚ -゚)「私の………一族の話を聞いているのか?」


108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 21:42:11.30 ID:ot5p3W1U0
ξ゚⊿゚)ξ「?」

ツンは不思議そうな顔をしていた。
もう、今を生きる世代では、そんな表情が出るのは当然ともいえる。

( ^ω^)「そうだ。お前たちは『枯木の魔女』を筆頭とした魔術連合に滅ぼされたはずだ」

川 ゚ -゚)「ふん、細々と生き残っていた者達も居たさ。だが、彼らには理由がなかった。だから彼らは消えた」

( ^ω^)「お前には生きる理由があった? そのお前以外は、理由がない為に皆死んだというのか?」

川 ゚ -゚)「そうだ、だから私達一族は、私を残して全員消え、現在も私しかいない」

ξ;゚⊿゚)ξ「なに? え?」

( ^ω^)「……荒巻はどうした? 奴も魔女に殺されたか? それとも、生き残った奴には理由がなかったとでも?」

川 ゚ -゚)「おじい様は私達を連れ、魔女を上手く避けて逃げた。が、その後すぐに私が殺し」

( ^ω^)「お前如きが荒巻を殺せるはずが無い」

川 ゚ -゚)「……私のために、おじい様は命を通して力をくださった。私の宿命を果たすための、糧となったのだ」

( ^ω^)「………………そう、か…………」

男、ブーンは窓の方へ歩いてゆくと、そこでまたクーに向き直った。
少し悲しそうな目をしているように見えたのは、頭を打ち付けた彼女の、不安定な主観を通したものだ。

( ^ω^)「――さて、そちらの質問を聞くお。『吸血鬼』」


110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 21:46:24.87 ID:ot5p3W1U0
ξ;゚⊿゚)ξ「……置いてけぼり!」

部屋で最も先に動いたのはツンだった。
彼女だけがこの空間で完全に取り残され、ブーンの発言により余計に混乱してしまったのだ。

ξ;゚⊿゚)ξ「吸血鬼? え? いや、」

川 ゚ -゚)「どうした?」

ξ;゚⊿゚)ξ「あなた、血ぃ吸うの? 人とか襲うの? あのすごい力って天然?」

川 ゚ -゚)「まぁ、頻繁には吸わんが」

ξ;゚⊿゚)ξ「えぇぇぇぇぇぇぇ!」

川 ゚ -゚)「なんだ」

ξ;゚⊿゚)ξ「吸血鬼って、頭のおかしな狂人団体じゃなかったの? 人を喰らっていたことで魔女と対立して滅ぼされたって」

川 ゚ -゚)「む、心外だな。私は正気だぞ」

ξ;゚⊿゚)ξ「なんか話が噛み合ってないよ……」

( ^ω^)「じゃあ僕から説明でも?」

ξ゚⊿゚)ξ「あんたの口からは聞きたくない」

( ´ω`)「ぇぇ………? それはまた……」

川;゚ -゚)「んんん、なんだかよくわからない娘だな……」

112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 21:49:45.50 ID:ot5p3W1U0
ξ゚⊿゚)ξ「私、ラウンジ正教!」

川 ゚ -゚)「ほう」

ξ゚⊿゚)ξ「私達魔女狩り!」

川 ゚ -゚)「ふむ」

ξ゚⊿゚)ξ「枯木の魔女!」

川 ゚ -゚)「わりと憎い」

ξ*゚⊿゚)ξ「おおおおお!」

( ^ω^)「なーに盛り上がってんだお」

ξ*゚⊿゚)ξ「すごいすごい! 歴史書の一族が実在してるよ!」

( ^ω^)「歴史書と今のやりとり絶対関係無いお……」

ξ゚⊿゚)ξ「でも本当に吸血鬼なのかぁ……単なる脚色、物語の存在だと思ってたのに……」

川 ゚ -゚)「君は魔女狩りなのか……妙な縁だな」

ξ゚⊿゚)ξ「はい、ニンニク好きですか?」

川 ゚ -゚)「風味は好きだぞ」

ξ;゚⊿゚)ξ「ええええぇぇぇぇぇぇぇぇええええ! 雑食!?」


115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 21:54:00.30 ID:ot5p3W1U0
川 ゚ -゚)「やかましいなぁ……」

( ^ω^)「ごめんお、普段はこんなんじゃないんだお」

川 ゚ -゚)「それより貴様が何者なのか聞きたいんだが……」

ξ*゚⊿゚)ξ「ねえねえ、あなたの話が聞きたい!」

川 ゚ -゚)「私には話すようなことは何もないが」

ツンは遠慮をなくしたのか、ベッドに座ってきた。

ξ*゚⊿゚)ξ「昔の魔女がどんな存在だったかとか、聞かせて欲しいです!」

(;^ω^)「おま……歴史書読んでるなら質問考えて……」

川 ゚ -゚)「クズだ」

ξ*゚⊿゚)ξ「吸血鬼って死なないんですか?」

川 ゚ -゚)「滅多なことでは死なん」

ξ*゚⊿゚)ξ「なる! 銀の十字架!」

川 ゚ -゚)「宗教に興味はない」

ξ;゚⊿゚)ξ「えぇぇえぇぇぇぇえぇええ!」

川 ゚ -゚)「そろそろちょっと黙れ。ブーンといったか? 貴様に聞きたいことがある」


117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 21:58:19.68 ID:ot5p3W1U0
ツンを軽く突き飛ばし、覆い重なるようにベッドに押し倒したクー。
その今にも襲ってしまいそうな体勢のまま、窓際で腕を組むブーンに向かって声をかけた。

( ^ω^)「この体のことかお」

川 ゚ -゚)「ああ。貴様の治癒力、明らかに人間のそれではないだろう」

( ^ω^)「ま、僕にも事情ってもんがあって」

川 ゚ -゚)「治癒の様子、速さもおじい様と酷似していた。それに貴様はおじい様と知り合いらしいが、何者だ」

( ^ω^)「治癒のかたちが荒巻と似ているのは、仕方のないことだお」

川 ゚ -゚)「どうして」

( ^ω^)「これは、君達の起源に関わることだから」

川 ゚ -゚)「……なんだと?」

( ^ω^)「今や齢六百を越えた枯木の魔女の最初の秘蹟。それは、乱用すれば生態系を破壊する呪い」

川 ゚ -゚)「いきなり何を言って、」

( ^ω^)「僕に刻まれたその秘蹟は、『不滅不老不壊不死』。それは、人が背負うにはあまりにも大きな枷」

川 ゚ -゚)「???」

( ^ω^)「そして、その呪いを持った者が君達吸血鬼の基盤、要するに君達の原初が、僕と枯木の魔女だお」

川;゚ -゚)「あう、……やべー、さすがの私もついてけねー……魔女が、なに? え?」

120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 22:02:37.56 ID:ot5p3W1U0
( ^ω^)「まあ、話半分で聞いててくれればいいお。ていうか、ここまでの話はその子には――」

ξ* ⊿ )ξ「ハァ……はぁ……っ………!」

川 ゚ -゚)「私の香りでやられているようだ。よかったな」

( ^ω^)「なるほど、吸血鬼の匂いのほかに、新たな特性を備えているようだお」

川 ゚ -゚)「まあ、それを私から使う相手はこの世にただ一人だが」

( ^ω^)「ドクオ、ってやつかお?」

川 ゚ -゚)「そうだ、そして彼を殺すことが、私の生きる理由」

( ^ω^)「……ん、」

川 ゚ -゚)「なんだ?」

( ^ω^)「……あいつは人間だお」

川 ゚ -゚)「そうだが……何だ?」

( ^ω^)「ずっと、あいつを追っていた? お前一人で、仲間を増やそうともせずに?」

川 ゚ -゚)「そうだ」

( ^ω^)「……その意味が、僕には全く理解できない」

川 ゚ -゚)「それはそれ、だ。貴様には理解する必要も、する意味も、してもらう気も、無い」


123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 22:06:54.05 ID:ot5p3W1U0
商業都市の夜は長い。
日が落ちようと灯りは消えず、人々はこぞって、明日への活力を蓄える。
騒ぐ者、食べる者、昏倒するまで飲み続ける者、どれも人々の楽しみで、
三人の泊まる宿の一階でも、それは漏れることはなく。

    ξ*゚⊿゚)ξ⊃Π「フハハハハハハハッ! 我こそはラウンジの騎士ぞー!」

 「いいぞねーちゃん!」「もっと飲めー!」「お、街最強の腕輪のおっさんが出てきたぞー!」  サァサァ(゚∈゚*)))))
       「あの金髪、すげえ大酒飲みだな!」「よっしゃ、俺は女に賭けるぜー!」

( ^,ω^)クッチャクッチャ

川*゚ -゚)「まともな食い物は久しぶりだ! 大大おじ様!」

( ^,ω^)「いや、まじでおおおおおじさま言うな」クッチャクッチャ

=川*゚ -゚)「よいではないかよいではないかぁ! 嫌なら何て呼んでやろう!」

ジョッキを持ったツンがお立ち台に上り叫んでいたり、ワイングラスを持ったクーがブーンに抱きついたり。
周囲の人間も一人残らず飲み食い騒ぎ、ある意味新たな地獄絵図。

( ^,ω^)つクッチャクッチャ(ひいひい孫くらいなの………? わかんね………)

川*゚ -゚)「パパー! それ食べたいぞ!」

( ^,ω^)「おう食え食え、クーはかわいいなあ」

ξ*゚⊿゚)ξノ「あ! ブーン! 私にもおつまみ!」

( ^,ω^)つミ皿

125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 22:10:45.92 ID:ot5p3W1U0
ぱたん。

ξ* ⊿ )ξ「ふー………」

温かい息を吐きだした、ニュー速最強の酒豪を破ったツン。
飲んだ量を総合すれば彼女が溺れてしまうほどの量で、彼女から噴き出す熱気が、それを分解していた。

川*゚ -゚)「酒はうまいなぁ……」

うっとり顔のクーが、そのツンの肩を背負う。
なんやかんやでこの二人、酒の席を共にしてちゃっかり意気投合をしてしまっていた。
ちなみにブーンはといえば、ツンが新たに部屋を取らせ、そこに隔離という形で放置している。

ξ*-⊿-)ξ「くーさぁぁぁん……」

川*゚ -゚)「ん、どうしたぁー?」

間延びした声を通し合い、一緒のベッドに倒れ込む。

ξ*-⊿-)ξ「ねむい」

川*゚ -゚)「ああ、私もだ、な」

ぐったり。
体の力はどこにも入っていない。
二人は波にさらわれた人形のような不自然な体勢で目を閉じた。

ξ*-⊿-)ξ「あ、そだ。くーさんにききたいことがあった」

川*- -)「なんだ? 今ならなんでもこたえるぞ?」

127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 22:14:26.24 ID:ot5p3W1U0
ξ*-⊿-)ξ「くーさんはぁ……吸血鬼一族で最後の一人なんでしょぉ?」

川*゚ -゚)「ああ、そーだな」

ξ*-⊿-)ξ「じゃあさぁ、子供とか、欲しくならない?」

川*゚ -゚)「子供、かぁ……」

子供。
一族最後の吸血鬼、そして最後の女性であるクーが、子供を作る。
それを実現したとしたら、彼女の血族は新しい歴史を刻むことになるだろう。

今まで常に吸血鬼は、親等が遠い者と交わり、その子を増やしてきた。
つまり、一度も吸血鬼以外のものと子を生したことはないのだ。

そこで、クーが誰かと交わる。相手で可能性が高いのは、人間だろうか。
そこで、生まれてくる子供がいたとする。だがその子は世界にとって、どういう存在になるのだろうか。

現在ではほとんど非現実として認知される吸血鬼と人との混血児。
かつてないだけあって、どういうものとなるかは想像もつかない。

あるいは、吸血鬼以外とでは子を生せないかもしれない。

それは、彼女がどれだけ子が欲しがったとしても。
吸血鬼という異形の生物の体は、明確なものを示さない可能性がある。
言うにそれほど簡単な話では、ないのかもしれないのだ。

川*゚ -゚)「私は欲しいなぁ、元気な子だと嬉しいぞ」

ξ*゚⊿゚)ξ「くーさんの子なら、きっと元気でかわいい子だねー!」

128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 22:19:08.08 ID:ot5p3W1U0
川*゚ -゚)「ま、私は子供は苦手なんだが」

ξ*゚⊿゚)ξ「えー? かわいいじゃん子供ー」

川*゚ -゚)「それよりツンはどうなんだ? 子供欲しいか子供」

ξ*゚⊿゚)ξ「すっごいほしい! けどー、私には無理かな―」

川*゚ -゚)「ん? どうして?」

ξ*゚⊿゚)ξ「私さー、こどもつくるとこ壊れちゃってるからねー」

川 ゚ -゚)「な…………んだ、と?」

クーの頭は、彼女自身が意外に思うほど、瞬間で覚めた。
これほど自分が単純なものであったのかと自覚させられるほどの早さで、あっという間に、だ。

ξ*-⊿-)ξ「えへー、それがねー、私が騎士になるためのねー、」

へらへらとしている彼女は、それが当然のことだと、そしてそれをやたらに語りたげな顔で。
クーにはわからないその価値観は、クーの背筋まで、冷ましてゆく。

川 - )「騎士、か………、……………」

ξ*-⊿-)ξ「うんうん、私超頑張ったんだよー? お父様の研究の時にね……あのねー、」

川 - )「ああ……、うん、……ああ……、」

過去、『吸血鬼』は『魔女』に狩られ、『魔女』は『騎士』に狩られ。
『騎士』である彼女の心もおそらく、また『誰か』、『何か』に狩り取られているに違いない。そう、クーは思った。

130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 22:23:33.05 ID:ot5p3W1U0
(;^ω^)「いやいやいや、なんでこうなってんだお」

朝から全裸で抱き合っていたクーは、ブーンの声によって眼を覚ました。

川 ゚ -゚)「ああ、ちょっとな」

あの後、ツンは泣き出した。
酔いもあったのだろうが、自分の過去をクーに垂れ流すように語り、やがて崩れた。
彼女が今まで積んできた感情は、旅の間、どこにも打ちつけられないものであったのだという。

相棒のブーンには全く理解をしてもらえない、女としての彼女の想い。
自分がどうあるべきか、彼に対してどう接していけばいいのか、彼女には未だによくわからないらしい。
騎士としてではない個人の、一人の人間としての彼女を受け止めることが彼にできるのかもわからず、どうしたらいいのか。

そこでクーが思いつきで、無理矢理彼女を慰めにかかった結果、きゃあきゃあ叫びながら服を脱ぎ散らかしてしまったのだ。

( ^ω^)「ま、別にいいかお。それで、君はどうするお?」

川 ゚ -゚)「もうすこしこの街に居る。ドクオはまだ居るような気がするんだ」

( ^ω^)「ふーん。じゃあこの街に居る間は一緒に行動するかお?」

川 ゚ -゚)「ふーむ、」

クーは少し考えてみる。
昨夜のツンの件と、彼女が今日、どう動くか。
彼女が本質的に弱い人間ならば、このまま一緒に居ては依存されてしまうかもしれない。
旅をしている彼女がそうなるのはあまり良いこととはいえないかなあ、といった具合で。

川 ゚ -゚)「一旦、保留で頼む。必ずしも私はこの街に留まるとは言えんしな」

133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 22:28:16.70 ID:ot5p3W1U0
( ^ω^)「おk。あと、ツンからは聞いたかお?」

改めた表情で、ブーンはまたクーに語りかけた。
クーが昨夜ツンから聞いたことを彼は読んでいるのだろうか。
不老不死という鎖に繋がれ続けた人間ならば、人の心など手に取るように把握しているのかもしれない。

川 ゚ -゚)「何をだ」

( ^ω^)「僕らはドクオの仲間じゃないお」

予想外の言葉に拍子抜けをした。クーはこの男の性格が、この発言でほんの少しわかったような気がした。

川 ゚ ー゚)「ふん、………そんなこと、昨日でわかっていたよ。悪かったな」

( ^ω^)「ならいいお。それじゃ、君の目的が果たせることを祈ってるお」

川 ゚ ー゚)「くくっ。祈りなど、貴様のような者には縁遠い言葉だと思うんだが?」

( ^ω^)「まぁ、連れの事情も考えて。こういうのは気持ちの問題だお」

川 ゚ ー゚)「いいだろう。我が先祖の言葉、有難く受け取っておく。私達一族の仇、とってくれれば嬉しいぞ」

そして黒のローブを背負い、全裸のクーは部屋を出ていった。

     「……ああ。僕の贖罪は、必ず」

ブーンは呟きを、もう閉じた戸に言い放つ。
過去のあやまちの結果とめぐりあい、今を共に過ごした奇妙な縁。
不思議と抵抗なく受け入れることができたのは、狂えるほどの時間がそうさせたのだろうか。
しかしそれが去ったことで、その感覚も消え去った。やがて彼に残った想いは、未だかたちを保っていた罪への、後悔。

135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 22:32:24.21 ID:ot5p3W1U0
ξ゚⊿゚)ξ「ほら、市長に挨拶に行くわよ」

正午を過ぎたころ、ようやく起きたツン。
着替えを適当に済ませ遅い朝食を食べると、ブーンの腕を引っ張った。

( ´ω`)「別に僕は行く必要ないお……」

ξ゚⊿゚)ξ「いいから、行くの」

クーが去っていたことには特別反応せず、「ああ、行ったのね」程度の言葉を落としたのみ。
それよりも今は、市長への挨拶が優先らしい。

騎士としてこの街に世話になっているということは、街が少なからず教会側の干渉を受けるということだ。
騎士の影響力は、街によっては市長の支配力を上回り、その運営に支障が出ることがある。
そんなことにはならないように、街それぞれの長が定めている『特別法規』の確認をしに行かなければならない。

もっとも、これは形式的なものである。
これには『街という団体においては、騎士よりも市長が上位にある』という認識をはっきりさせる意味合いがあるだけだ。
わざわざ行われる理由は、過去にある場所で起きた、騎士が発端となった都市内での利権、商取引問題を反省としてのもの。

( ^ω^)「絶対嫌だお」

ξ-⊿-)ξ「ねえ……なんでそんなに嫌がるわけ?」

( ^ω^)「ここの市長が苦手っていうか……」

ξ#゚⊿゚)ξニア)「知ーらーなーいーわよ、そんなの、」

不服そうなツンの表情。彼女は寝そべるブーンの頬を力を込めた指で突き刺し始める。
このままの調子で話しているならば、どちらが折れるかはもう決まっているようなものだ。

138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 22:38:01.75 ID:ot5p3W1U0
(*´・ω・`)「あらあらあらあら! 久しぶりじゃな~い!」

えんじ色の市庁舎の前でツンが警備に手形を見せていると、屋上から声が掛けられた。
昼間から庁舎の上で余裕で手を振っているところ、少なくとも低い立場の人間ではないようだ。

ξ;゚⊿゚)ξ「うわぁ……」

ツンは引いた。残念な貴婦人のような口調のおっさんを、ここで初めて目撃してしまったからだ。
結構遠くから見ているにも関わらず、顎の青いカビ髭が確認できたのも引きどころである。

「はっ! こちらの男性はショボンちゃんの客人でしたか! これは失礼しました!」

警備がブーンに向き直った。
そうなのだ。丁度これから、ブーンの素性について問われるところだったのに、

(*´・ω・`)「そうよ~! 早く上げちゃって!」

「了解しました!」

敬礼を勢いよく、それも鞭打ちになりそうなほどの振りで天に向かって叫ぶ下っ端。
死ねばいい。そう二人は思った。

ξ;゚⊿゚)ξ「ショボンちゃん、って……」

正門から市庁舎に入り、案内通りに正面階段を昇らされる。
手すりもなにかベタベタしているような気がしたので、触った手を裾で拭いた。

踊り場にはきらびやかな油絵とショボンちゃんの肖像画があり、三階まで素直に上がったところ、それを立体化した像があった。
そして階段を上がってすぐ右に、市長室の茶色の大きな扉、その端々には瘴気が出ていそうな薔薇の装飾。
しかもその中から妙な歌声が聞こえたので、ツンは無意識に、歯を食いしばった。

141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 22:42:27.40 ID:ot5p3W1U0
ξ;゚⊿゚)ξつ「……」

( ´ω`)「……」

躊躇う。

この扉は、自分が開けてしまっていいのだろうか、と。
この扉は、魔獣を封印する、抜くことは許されない杭なのではないか、と。

未熟者がその杭を抜けば、その恐怖に呑まれてしまうのではないだろうか、と、ツンは、

「ショボンちゃん市長、ご客人が一名と、教会から騎士様が参られたそうです!」

ξ;゚⊿゚)ξ  !?

 がちゃり。 すんなり案内人が開けた。

 ――しかし、中には誰も居ない。
    聞こえていたはずの歌声も止まっており、思わず、首を回してしまいそうに、なった、

£;゚⊿゚)ξそ  !!!!!!

が、

,ω・*`)「むふっ、君が彼の友達ね……かわいいじゃないの……」ムシャムシャ

奴は、魔獣は、ツンの右後方。
彼女の巻き毛に顔面を突っ込みはみはみしながら、耳に、鼻息を吹きかけて、そこに、居た。

£; ⊿ )ξ「があぁぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁっ!!!!!」

144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 22:47:19.64 ID:ot5p3W1U0
(*´・ω・`)「あら、気絶しちゃったのね」

( ^ω^)「なんで前より女装癖が酷くなってんだお」

(*´・ω・`)「つれないわねえ……二十年ぶりの再会だっていうのに。っていうかそっちはなんで騎士と居るのよ」

ブーンがツンを支え、ショボンちゃんは部屋のソファに促した。
二人を連れてきた案内人は敬礼をし、ぱたりと扉を閉め、残ったのは三人のみ。

( ^ω^)「いや別に。……うーん、それにしてもほんとに変わってないお」

部屋を見回し、天井を見上げ、最後にショボンちゃんを見やる。
二十年という時間は人にとっては決して短くないものであるのに、それらは何も変わっていない。

ショボンちゃんは大きなデスクに座り、後ろに置いてあった植物に座ったまま手を伸ばすと、ひときわ大きな葉をむしった。
それをぎゅっ、と握り潰し、くしゃくしゃの葉で顔を拭うと、ゴテゴテした化粧は取れ、カビ髭も何故か消えていた。

(´・ω・`)「見た目も中身も話し方も、変わるだけの余裕は僕にはなかったんだよ……『魔王』の君とは、違ってね」

ξ;>⊿<)ξそ がっはす!

ショボンが言いきったと同時に、ソファにブーンを枕として寝かされていたツンが口から何かを噴き出しながら目を覚ました。

ξ;゚⊿゚)ξ「あ、あれ? 怪物市長は?」

(´・ω・`)「すまない、それは僕だ。あれはちょっとした遊び心だよ、騎士さん」

ξ;゚⊿゚)ξ  !!!

ξ゚⊿゚)ξ「……これは失礼を致しました。私はラウンジ正教第四翼『破』、ツン・デ・レイ・シュトックハウゼンと申します」

147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 22:51:37.96 ID:ot5p3W1U0
(´・ω・`)「ふーん、聞かない名だね」

ξ゚⊿゚)ξ「つい四年程前、我らの名誉を崩した愚か者の後詰めとしてあてがわれたので……」

(´・ω・`)「でも、称号をもらっているんだろう? 不思議なものだ」

ξ゚⊿゚)ξ「それは、父上達の研究成果が教会に認められたためです」

(´-ω-`)「んー………待てよ……シュトックハウゼン、か」

(^ω^ )「……~……」

(´・ω・`)「……そうか、君は錬金術師の? それはそれは随分異色な人事だ」

ξ゚⊿゚)ξ「はい。教会としてもこちらはかなり異例の扱いとなっているので、あまり公にはなっておりません」

(´・ω・`)「なるほど、それで。確かに教会と錬金術師が手を組むなんて、教会側としては面子が立たないね」

ξ゚⊿゚)ξ「あの……失礼ながらそろそろ『特別法規』の確認を……」

(´・ω・`)「ああ、すまない。君があまりに魅力的な女性だったもので、余計な詮索が過ぎたようだ」

椅子に座りなおし、デスクの引き出しをまさぐるショボン。
そこから一枚の薄い紙を取り出し、ツンをこまねき、手渡した。

ξ゚⊿゚)ξ「この紙……変わった手触りですね」

(´・ω・`)「それも確か錬金術の成果だろう? 確認事項はそこにあるから、質問があれば言ってくれ」

一枚に収まる程度の文字量、目を走らせるのにそれほど時間は掛からない。

151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 22:55:28.95 ID:ot5p3W1U0
ξ゚⊿゚)ξ「いえ、特には無さそうです」

(´・ω・`)「それは、よかった」

ふぅ、と一息つくショボン。
その表情には、細かな皺と、本当に微かな安堵の色があった。
彼の知っているところ、騎士には傲慢な人間も多く、『特別法規』に口を挟むことが少なくないという。
それが無かったことに、今の安堵。吐き出しそうになる、深い溜め息。

ツンが見た『ショボンちゃん』と、今のショボンの姿は若々しく、それほど歳を召してはいないように見える。
しかしそれは見た目だけのもので、彼の積年の精神は、ツンには気取られない程度の慎重さを隠し持っている。

ξ゚⊿゚)ξ「ですが、それとは別に、」

(´・ω・`)「?」

ξ゚⊿゚)ξ「少し、この都市の流通を調べさせていただきたい、と私は考えております」

(´・ω・`)「……」

返事に窮し、自慢の下がり眉をひそめてしまいそうになる。
これは、この意図はどう取るべきか、と。
流通はこの都市の要。生命線で、問題があると摘発されれば、街の運営に関わる。

余計なことをされるわけにはいかない。しかし理由もなく拒むのも、それはまた別に、市長の対応として問題がある。
彼女がどういう考えを持っているのか、新米だという情報しかない現状では、想像ができない。
騎士という役、教会の犬として動いているならば、この大きな商業都市をどうにか手中に入れようとするのも不自然ではないのだ。

だが逆に、彼女が自分の目的、例えば流通の穴を見つけてそこに巣食うつもりなら、どうだろうか。
適当な餌を撒いて、適当な得をさせてやれば、切り抜けられるのではないか。

154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 22:59:22.20 ID:ot5p3W1U0
( ´ω`)「ショボン……」

(´・ω・`)「なんだい?」

思考はショボンの旧友が遮った。
そういえば彼女は旧友の相棒だ、ならば?

( ´ω`)「ツンは純粋に仕事をこなしたいだけだお」

(´・ω・`)「あ、ああ……」

曖昧な返事をしてしまう。騎士の純粋な仕事とは、一体なんだろうか。
武力を行使し、信者を掴み、新たに大きな力を振るう、腐った人種ではないのか。

ξ゚⊿゚)ξ「魔導具の流通がなかなか収まりを見せないようなので、この都市にも関わりがあると考えているのです」

(´・ω・`)「なるほど、ね」

彼女の言葉を聞いてショボンは、本当に忘れていたことを、思い出した。

――ああ、そういえば『破』の騎士は、居るんだかいないんだかわからない『魔女』を狩る者だったっけ。

思わず鼻で笑いそうになった。
そんなわけのわからないものに向かって、この美しい娘は馬鹿正直に突き進もうというのか。
本当にくだらない。今の教会勢力が信じるものは、誰も触れることの許されぬ神ではなく、誰もが手を伸ばす汚い金だろう。

ならば二十年前の都市の頭脳、人心掌握を生業とした『魔王』も、一体何を考えているのか。
かつてこの都市、いやこの国の流通を思いのままに支配する卓越した商戦術をもって、なぜ今更金にならない方の『騎士』と。

まさかこの娘に熱を帯び、馬鹿げた幻想に噛みつかれてしまったまま、彼もまた信者と化してしまったのだろうか。

158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 23:03:43.40 ID:ot5p3W1U0
(´・ω・`)「わかった、うちの職員に調べさせる。魔導具なんていうものだ、正規の流通路で流れているはずがない」

簡単に済ませてしまおう。
どうせ、悪寒が走るような気持ちの悪い偶像に違いないのだから。
ショボンは手元に置かれた鈴を、部屋の後部に設置されたパイプに向けて鳴らし、役人を呼びつける。

ξ゚⊿゚)ξ「ありがとうございます」

頭を下げる騎士。
やはり、美しい。そうショボンは思う。
確かに『魔王』が呆けるのも、仕方が無いかもしれない。

彼女の纏う、騎士が着る質素な黒の修道服でさえ、映えているのだ。

(´・ω・`)「結果が出るまでは暇になるだろう。少し、うちの方に来ないかい?」

そこに少し手を加えてみたくなるのは、ショボンの美意識が強いため。

ξ゚⊿゚)ξ「よろしいのですか?」

(´・ω・`)「ああ。宿よりも良い部屋を、個人的に持っているのでね」

「市長、お呼びですか」

丁度役人が部屋に入ってきたので、ブーンとツンは部屋の退出を求められた。


ぱたり、と締め出される二人。先に口を開いたのはブーンであった。

( ^ω^)「じゃ、宿に荷物を取りに行くお」

161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 23:08:00.16 ID:ot5p3W1U0
川 ゚ -゚)「なに、もう去っただと?」

クーは結局、この日には何も得られるものはなかった。
行く場所行く場所で奇異の目を向けられ、ほとんどの人間に無視された。
構ってくれた人はといえば、旅の吟遊詩人だけ。その彼の話だと、彼女は危険な女だと言われているそうだ。

商業都市として動くこの街は、互いの情報交換に余念が無い。
主にそれは商売に関してのことだが、人をいきなり殺しに掛かる人間と関わりたい者は多くはない、とのこと。

その吟遊詩人も今日は、旅人であるという理由でなかなか取り合ってもらえなかったのだ。
腹が立って店の前で唄を歌い始めたところでようやく、ぶん殴られて理由を説明されたということらしい。

「は、はい……市長の家でお世話になるため、すぐに荷物を運んでくれ、という話を受けまして」

とりあえず、無理矢理詰め寄れば会話をしてくれる。ので、クーもそれに倣った。

川 ゚ -゚)「市長……そうか、そこなら場所はわかる」

「ひっ」

掴んでいた主人の胸倉を離し、カウンターの上に軽く突き飛ばす。
彼女の強行手段は、単純な暴力による脅しであった。

川 ゚ -゚)「ふむ、……」

そういえば、自分は二人の目的をあまりよくわかっていないなあ、などと考えつつ。

ドクオの居場所の相談のため、市長の家への道を歩く。
途中で視界の横、街の本道の向こうで火災が発生していたようだが、クーはチラ見で流す。
ツンの様子も少し気にかかっていたので、ついでに、といったように、ふらふらと足を運んでいった。

163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 23:13:13.64 ID:ot5p3W1U0
都市ニュー速には闇の市場が存在する。
そこでは違法な品、例えば騎士が持つ刀剣類などの凶器や、一般の所持は許されていない、火薬などの道具が捌かれる。
この街ではそんな『許されない所持』をし、それを商業的な力の証明として扱う者が居る。

(;'A`)「商長、今日とんでもない奴らに出くわしまして……」

( ゚∋゚)「あぁ?」

暗がりに、小さな明かり。
その奥に座る、酒樽を小脇に抱えた大男。
彼はこの都市においてはなかなか有名な酒豪である。

しかしつい昨日、小柄な金髪女に飲みで敗北し、その牙城は崩れ去った。
彼の誇りは切りきざまれる。たかだか女などに負けたことは、無敗の五年間で築いた地位を、至極簡単にかき消した。

そしてそれは、怒りを生んだ。
許されない所持を大量に抱える彼は、その上に座ったまま、憤りを抱えた。

( ゚∋゚)「……黒髪と、長身の男と、金髪?」

そして報告を聞くと、彼の嵌める右腕の輪は、炎を生んだ。
子分を弄られ、その同日、当然のように酒を飲んでいたという事実に対する感情が、滾った。

(;'A`)「あぁ商長! 落ち着いてください! 衣装が燃えてます!」

彼女に負けた際は、彼には理由が足りなかった。
この憤りと共に揺れる力を振るい、全てを焼き尽くすための。

だが、今はある。それも至極正当な理由、仇討ちだ。
ならばその力存分に、肉の一片も残さぬよう、放たなくてはならないだろう。

165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 23:17:35.27 ID:ot5p3W1U0
(*´・ω・`)「かわいいわぁ~! 食べちゃいたくなっちゃうわよ~!」

从*'ー'从「あらら~、嫉妬しちゃいますよ~」

ξ; ⊿ )ξ「な、な、な、なんなんなななん、なんなんなん?」

( ^ω^)「ほー、確かにかわいいお!」

夜。市長の家。衣裳部屋。

暖色に彩られた部屋には様々な国の着衣が用意され、今まさにその一着を被せられる一人。
それを見つめて両手を挙げて喜ぶ青カビヒゲと、白と黒の水かきのようなヒレのついた服を着るメイド。
そしていやらしく、バカにしたような顔で嗤う、背の高い男。

ξ;゚⊿゚)ξ「どうして!」

大きな姿見の前にツンは立っており、訪問するなりメイドに修道服を脱がされたと思えば、この有り様である。
ピンク色に染められた絹でかたちを作られた、足まで伸びる傘のようなスカート。
胸元には多種類の宝石が縫い込まれ、そこからやはりピンク色に伸びる、ふわふわの袖。
頭には撒かれた金髪に応じるように、きらきらと輝く銀のティアラ。

ξ*>⊿<)ξ「どうして~?」

二度目の疑問の声は腑抜けたもので、にこやかに軽やかに、その場をくるりと回転した。

从*'ー'从「市長~、この子私が食べちゃっていいですかぁ~?」

(*´・ω・`)「ぬふふ、任せるわ! 事後報告はいつもの手記でお願いっ!」

ラジャーハァハァ从'ー'*从⊃ξ*>⊿<)ξ≡「なんぞなんぞぉ~、メイドさんなんぞ~! ブーン! もっと私を見てー!」

169 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 23:22:13.48 ID:ot5p3W1U0
( ^ω^)「ていうか、ほんとになんでだお?」

残ったのはむさくるしい男達。
そのうえ一人は完全な変態である。

(*´・ω・`)「あら、いいじゃないの! かわいかったからちょっかいだしたくなったのよ~!」

変態である。

( ^ω^)「ま、妙な誘いじゃなかったし、ツンも楽しそうだからいいお」

(*´・ω・`)「でしょぉ~? あなたもムラムラしちゃったんじゃなぁい?」

( ^ω^)「ぬふふっ、まさか。僕が人に欲情するわけないお」

(*´・ω・`)「またまたぁ~、あんなに可愛い子は十年に一人の逸材よ?」

( ^ω^)「それを言うなら、六百年に一人の価値を持った子だお」

(*´・ω・`)「うーんさすが『魔王』は了見が違うわぁ~! あだ名まで呼ばせてるし、そんな女今まで一人も居なかったじゃない!」

( ^ω^)「いやぁ、あれは黒歴史だお。いろいろ商業に手を伸ばし過ぎて脳汁出しまくってたし、女遊びを忘れてて」

(*´・ω・`)「じゃあ戻ってきなさいよ! 今もまた新しい革命が起きそうなのよ? 時代は技術をもって、また変わろうとしてるから」

( ^ω^)「その、これから迎えるはずの新しい時代を守るための、僕。そしてそのための鍵となるツンが居るんだお」

(*´・ω・`)「……あらあら? これまた随分遠くを見越しているのね、あなたは」

( ^ω^)「人の未来は、人が作る。だから人が生んでしまった前時代の負の遺産は、全て排除しなければならないんだお」

173 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 23:27:12.91 ID:ot5p3W1U0
(*´・ω・`)「はいはいかっこいいわね~! じゃ、私達は飲みましょうか!」

衣裳部屋を軽い足取りで抜け、ブーンもその後についてゆく。
出た先は大きなホールで、天井にはシャンデリア。高い壁面には、花の蕾のような形の蝋燭棚が点いて輝いていた。

まるでダンスホールのような様相のこの場所には、衣裳部屋の反対側の壁に、おそらくショボンの趣味で作ったバーまで。
そこに腰掛けるようブーンに促したショボンは、カウンターの向こう側へと歩いていった。

( ^ω^)「あれ? お前が作るのかお?」

声を聞いていないのか、ショボンは棚をいじっている。
そこから透明な緑色の瓶を取り、その瓶にかけてあった布に、そこからの液体を染み込ませた。
液体によって濡れた布をぱしりと広げ、自分の顔に当て、擦る。

化粧を落としたショボンは咳払いを一度すると、その辺にあったグラスに背後の棚から引っ張り出した酒を勢いよく入れた。

(´・ω・`)「やぁ、ようこそバーボンハウスへ。このブランデーはサービスだから、まずは飲んで落ち着いて欲しい」

とん、とブーンの手前にグラスを置いたと思えば、今のセリフをゆっくりと言い、どや顔である。

( ^ω^)「……いやこれブランデーじゃねえお、っていうかドバドバ入れ過ぎだお」

(;´・ω・`)「なんだって!?」

ショボンはカウンターに手をついて頭を垂れた。
ブーンに振舞ったグラスに注がれていたのは、何故かウイスキーである。

(;´・ω・`)「くそぉ……せっかくカッコつけたのに! うおお誰か! 僕に酒を作ってくれ!」

知識は一切ないらしい。呼ばれてすぐにやってきたショボンの使いも、微妙な顔をするブーンに苦笑いを向けていた。

174 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 23:31:10.25 ID:ot5p3W1U0
川 ゚ -゚)「む、……また貴様か」

( ・∀・)「~~~♪ あっと、またあなたですか」

川 ゚ -゚)「市長の家は遠いな、まったく面倒だ」

( ・∀・)「ええ、この街の市長はそれはそれは素晴らしいお方だと風の噂で聞いております
      おそらくその力量がゆえ、世俗とは離れた優雅な暮らしをされているのでしょうね」

川 ゚ -゚)「それで遠くに置いていると。むー、仕方ないからそれで納得してやるか」

( ・∀・)「いやぁ……それにしても……」

川 ゚ -゚)「何だ」

(;・∀・)「一曲通して聞いてくれる方が誰も居ない……人が多いならいけると思っていたのに」

川 ゚ -゚)「それは貴様の歌に心惹かれないからだろう」

(;・∀・)「……なかなか非道い。やはり走り始めた初心というものは、人の目にも映るものなのでしょうか?」

川 ゚ -゚)「私も一応聴いてはいるが、詞はつまらない、声も奏もいまいちと、見どころを挙げられんほどだからな」

( ・∀・)「でしたらぜひ、あなたの意見をお聞かせ願いたい。その為に始めたこの旅ですからね」

川 ゚ -゚)「ふむ、……ならば魅力的な女性への愛を詩えばいいだろう。人は単純で共感ができるものを受け容れ易い」

( ・∀・)「魅力的な女性……なるほど。では、本日暴れた貴女に捧げる詩を、今ここに書いてみせましょう」

川 ゚ ー゚)「くくっ、………それだけ柔軟な頭があるなら、貴様が歌で悩むことはなさそうだ」

177 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 23:35:36.83 ID:ot5p3W1U0
(*´・ω・`)「あぁ~酔った、完全に酔ったよホライゾンちゃんよぉ!」

( ´ω`)「わかったから、わかったからもう寝室行けお」

ブーンの肩を組んで瓶を咥えるショボンは完全に泥酔していた。
家の者たちも主人の泥酔っぷりに困惑しているようで、このような彼はあまり見られないらしい。

(*´・ω・`)「ふへへへ、吐きそう」

(;^ω^)つ「まって! それだけはだめ!」

ゲロを吐きかけられるのは慣れないものだ。
ブーンは全力で、先程から様子を見にやってきていたショボンの執事に彼を押しつける。

「おやめください! おやめください!」

執事はショボンをブーンに押し返す。

(;つ^ω^)つ「おまっセバスチャン! こいつ主人だお執事失格だお!」

「セバスチャンでは御座いませんっ! ニュー速の魔王どの! どうか、どうかご慈悲を!」

押し合い圧し合い、十数人のメイド達と執事の間で、ショボンは揺さぶられる。
そしてそんな小競り合いの中、ひそかに屋敷に侵入する影が二つ。

('A`)「商長、奴らなんか騒いでいます、チャンスですよ」

(;゚∋゚)「くっ、なるほど。俺達が情報収集をしてここへ来たことも、同様に情報として流れていたか! なんという!」

勝手に勘違いしていた。

179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 23:39:28.69 ID:ot5p3W1U0
(´゚ω゚`)「やめ、やめ、やめ、」

一方、全力で彼らの輪の中をまわされるショボンの限界は近い。

(つ゚ω゚)つ「お前ら狂ってるお! 僕は客人だお!」

「「「「「「「どうかっ、どうかぁぁっ!」」」」」」」

総勢十六対一、ブーンの限界も、近い。

(´゚ω゚`)「おおおおおおおおっ! いくぞぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

⊂(;゚ω゚)⊃「なっ、昨日のしゅごおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

≡(♯゚∋゚)「さ、せ、る、かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「「「「「「「「「「「「きゃああああああああああああ!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」」

準備万端なショボン、
そのショボンを受け取り、焦った勢いと同時に侵入者に叫ぶブーン、
叫ぶ市長と、ついでに叫ぶブーンを見て、何かの秘策と勘違いした大男は腕輪から怒りの炎を巻き上げ、
ゲロの恐怖とブーンの声と、背後に迫る炎の渦に、それぞれ悲鳴をあげるメイド達。

ξ#゚⊿゚)ξ「待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!! そいつぁぁぁぁ魔導具だろぉぉぉぉぉぉっ!!!」

ホールにとっての四面楚歌には、さらにホールの階段上から飛び降りる主に胸元が乱れたピンクのドレスの金髪女が増え、

(;'A`)「なんだこれ……なんだこれ……!」

それを玄関口から遠巻きに眺める貧相な男は、状況の整理に必死だった。

184 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 23:44:15.90 ID:ot5p3W1U0
ξ#゚⊿゚)ξ「うおらぁっ! 来いやぁぁぁぁぁぁっ!!!」

転がり着地。膝を立て、すぐさま燃え盛る炎に、腕を伸ばした掌を向けた。

(#゚∋゚)「貴様! 昨日の女かっ!! 探したぞ!!」

ξ#゚⊿゚)ξ「あんたっ! 魔導具を持ってたのね! ああくそっ、酔ってたからかなぁちくしょうっ!!」

ツンの出現で、炎は加速する。
男の魔導具の糧は憤怒。対象を捉えたことで、焼き尽くすそれは広がりを見せる。

(#゚∋゚)「子分の仇ィィィっ! 俺の誇りぃぃぃぃぃっ!」

ξ#゚⊿゚)ξ「んなもん知るかァァァァァァっ! この小物がぁぁぁっ!」

だが彼女の掌で、腕輪から迫るとぐろのような炎は留まった。
それは蛇腹を縮めるように圧縮され、小さな火の玉へと変化していった。

(;'A`)「うおお、なんだありゃ! 商長の衣装が!」

(#゚∋゚)「まだだ!」

男は腕輪に手を添えた。彼の炎は怒りの権化であり、止められることで、なお噴き上がる。

ξ#゚⊿゚)ξ「はっ! 舐めんな! 我が父上の錬金術の粋、クソメイドへの怒りとともにあんたにブチ込んでやる!」

掌の先の火球は男の炎を飲みこむことでさらに巨大化した。
そして叫んだツンは、その火球を両手で上下から支え、圧し、潰す。
潰された炎の塊は左右に弾け、赤から白の炎へと、まるで彼女の翼のように広がっていく。
白炎は瞬く間に彼女の肩を覆い、腕を巻き付くように駆け抜け、爪の先に到達すると刃のような様相へと姿を変えた。

187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 23:48:40.22 ID:ot5p3W1U0
(#゚∋゚)「な、る、ほ、どぉぉぉぉぉぉっ!」

男は怯まず、頼みの腕輪に力を込め、消えぬよう祈るよう、ひり出す火炎がまたも走る。

ξ#゚⊿゚)ξ「んなもんっ! 効くか!」

床を弾くように走り出したツンの発光する両腕、爪の先を点とした光が真横に振られ、それを打ち砕いた。

彼女の父の開発した錬金術、それは魔術を変換し、自らの力へと変換する技術。
魔術を操る基本構造を解読し、破壊、再構築する技巧を、錬金術の分解粗製に絡め、ツンの体に刻み込んだ。

それは消えない呪い。
全ての魔術を粉砕し、全ての魔術を狩り殺すため、定められた彼女の宿命。
望んだものではなく、願ったものではなく、強制的に与えられた役割。

しかし、このことをを恨んだことは、怒りに震えたことは、彼女には無い。重たい枷となることは、ごく僅か。
彼女はそれをなによりも誇っている。それが絶対的な力であると信じている、信じられる。
その証明こそが、人の感情を喰う魔導具よりも、その光が、ツンの想いが、勝っているということ。

ツンの誇り、父の誇り。光は、魔術である炎を喰らう。
振るった腕は炎を裂き、裂かれた魔術は形を崩し、崩した男の憤怒は、爪が取り込む。

そして、光は強くなる。

ξ#゚⊿゚)ξ「ぶっ壊れろ!!」

二人の距離はもう無い。爪が襲うものも、極僅かすぐ近く。
すれ違うように駆け抜け、光の爪は男の腕を突き抜けた。

光を纏うツンの力が貫いたのは男の誇り。商業的物理的力の証明であった『許されない所持』、火炎を生む、腕輪。

189 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 23:52:43.29 ID:ot5p3W1U0
(;'A`)「あぁぁぁぁぁっ、商長の腕がっ!」

(; ∋ )「ぬおぉぉぉぉぉっ!!! ぐっ………ざばらああああああああああっ!!」

ξ#゚⊿゚)ξ「うっさいわね……別に大した傷でもねえだろ!」

ツンは駆け抜けた背後からさらに後頭部に飛び蹴りをかまし、大男を転倒させた。
情けない声を出して腕をさする男、その腕には耳の穴程度のものが一つ空いており、少量の血が流れ出していた。

(;A;)「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

(;゚∋゚)「あれ? 思ったよりはそうでもない傷だな……なんで……?」

外へと逃げていく貧相な男を無視して、ツンは大男の横にしゃがみ込んだ。
はだけたドレスが艶やかで、男は無意識にその胸の中を覗くと、あんまり無い。

ξ#゚⊿゚)ξ「ね、あんたの使ってたもの、どういうものかわかってんの?」

しかし目の前の女は美人だ。
あろうが無かろうがそれだけで興奮し、ついついその白い肌を舐めまわすように眺め、
無意識的に、それで満足といったような風で、頷いた。

ξ#゚⊿゚)ξΞ⊃「あっそ、死ね。じゃあどこで手に入れたのか言いなさい」

Ξ⊃)∋゚*)「なるほどぉぉっ! もっと打てぇっ!」

ξ# ⊿ )ξ「なんだコイツ……つかえねー……」

(*´・ω・)=3「あーすっきりした。おっとツンちゃん、そいつは誰だい?」


191 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 23:56:34.63 ID:ot5p3W1U0
ゲロω )「く、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、っ、」

「急げ! 雑巾をお持ちしろ!」

「セバスチャンさん! 雑巾でよろしいのですか!?」

「ゲロの処理だ、客人といえど仕方ないだろう!」


ξ゚⊿゚)ξ「いやーこんちくしょう、魔導具を使ってまして……」

(´・ω・`)「ふーん。そうなんだ、大変だね。じゃあ一緒にお酒でも飲まない?」

ξ;゚⊿゚)ξ「え? えぇ……(華麗にスルー?)」

Ξ从*'ー'从「あ、ツンちゃ~ん! 途中で逃げちゃだめでしょう!」

ξ#゚⊿゚)ξ「ごめんなさい くんな」


「ああっ! みなさん逃げてください!」


(・ω・`)「ん? メイドちゃーん、どうしたんだーい?」


「先の男の炎のせいで、今にもバーが炎上してしまいそうです!」

(;´・ω・`)「なん……だと……?」

194 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/16(金) 23:59:53.63 ID:ot5p3W1U0
川 ゚ -゚)「む……やっと見つけた……」

方向の感が残念なクーはぐるぐると街を周り、ようやく市長の家に辿りついた。
そこは先程の宿から最短距離だと眼と鼻の先にある、大きな屋敷。
家の前で集団が輪を作って何かを話しているが、おそらく彼らの背後で炎上している家に関係があるのだろう。

(;´・ω・`)「――魔術は実在する? そんな馬鹿な……だって存在しないって言ってたのは…………」

(ロ^ω^)「まあ、諸事情で君はそういう風に育ってきたわけだお、残念ながら認めるしかないお」

ξ;゚⊿゚)ξ「……ええと、家の様子を見ていただければ、その被害の程が」

(;´・ω・`)「うーん、家は幾らでも建てればいいんだけどね……」

ξ゚⊿゚)ξ「?」

(;´・ω・`)「君の修道服まで灰になってしまう。これは申し訳ない、流石に修道服は僕にはどうしようもないよ……」

ξ;゚⊿゚)ξそ !!!!

崩れ落ちそうになるツンの体をメイドの一人が首筋を舐めながら支えた。

川 ゚ -゚)「ツン、ここでの首尾はどうだ?」

从*'ξ;゚⊿゚)ξ「あ、クーさん……。首尾は、多分最悪だと思う……」

川 ゚ -゚)「ほう、奇遇だな。私もなかなか見つからないんだ。手詰まりだよ」

(ロ ω )「あの、あの、僕は…………僕は、ゲロの臭いが、取れないお………」


195 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 00:03:11.43 ID:WznWHEl+0
事態は市長の家が全焼したことで一段落を迎える。
それぞれは市長の手回しによって宿を取り、今日は一旦休むということとなった。
これは吐いた市長を放っておけない執事の判断であり、特に誰かが抗議することはなかった。

( ´ω`)「ふぃー」

ξ;゚⊿゚)ξ「どうしよう……」

川 ゚ -゚)「そういえば、随分な格好だな」

ξ゚⊿゚)ξ「うん、ちょっと不幸があってね……」

( ^ω^)「明日にでも、この街の教会に行くかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「そうね……せめて普通の修道服は借りないと」

川 ゚ -゚)「そのあとはどうするんだ?」

ξ゚⊿゚)ξ「一度教会本部に戻る、かな? 手形も焼けちゃったし」

川 ゚ -゚)「なら、私もついていこう」

(;^ω^)「え? ちょ、え、ちょ……え?」

川 ゚ -゚)「……別にいいだろう? あてが無いんだ」

ξ゚⊿゚)ξ「そっか。じゃ、とりあえずはよろしくね」

(;^ω^)「確かにそいつが重罪人ならもっと探しようもあるのに、って……ああ、いや、うわぁ……お前来るのかお……」


197 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 00:07:13.28 ID:WznWHEl+0
ξ゚⊿゚)ξ「あいつはコソ泥らしいから、これからもずっとコソ泥ね」

( ^ω^)「コソ泥?」

ξ゚⊿゚)ξ「ああ、あの大男に聞いたのよ。なんでも色んな人の世話になってて、街を跨いでしょぼいことやってるらしいわ」

(;´ω`)「そりゃぁ本当にやっかいだおー、うわぁ……はぁ、」

川 ゚ -゚)「それはやはり、私が殺さなければならんな」

ξ゚⊿゚)ξ「コソコソしてて何が楽しいのかしらね。ああいう人種は、きっと生まれ変わってもドブネズミみたいなもんよ」

川 ゚ -゚)「……それは違う」

( ^ω^)「?」

川 ゚ -゚)「生とは常に千変万化、時間とともに変わっていくものだ。
     だからこれから先の未来、あいつがどんな姿でどんな生き方をしていようと。私はあいつを愛し、あいつを殺す」

( ^ω^)「んー……やっぱり意味がわからないお。吸血鬼ってそういうもんなのかお?」

川 ゚ -゚)「これが私の結論だ」

ξ゚⊿゚)ξ「もう結論出しちゃってるんだね」

川 ゚ -゚)「私は一つの結果のもとに生きている。過去の結果というものは、永劫変わることはないんでな」

( ´ω`)=3「うーわぁ、なんかこいつ複雑だお……」

ξ-⊿-)ξ=3「フクザツねぇ……」

198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 00:08:08.69 ID:ot5p3W1U0
翌日の昼前、宿屋の前で落ち合う面々。
朝っぱらからツンは教会へ行き、新しい白の修道服を無事借りることができた。

( ^ω^)「それじゃまたいつか、世話になるかもしれないお」

(´・ω・`)「聖地にこの街の調査の結果が届くよう、手配しておくよ」

アァ从*'Д(⊂ξ゚⊿゚)ξ「ありがとうございます。では、またいずれ」

頭を下げ、三人はショボンと別れる。
魔術の存在を知った彼は、ツンやその周辺に今後どのような影響を与えるだろうか。
何も聞かなかったものとして、今まで通りに商業都市の発展に努めるのだろうか。

本来は『枯木の魔女』以外の人間が使用することのできない魔術。
『魔導具』という器を用いることで、誰もが使える可能性を秘める超常的な力を見て、彼は。

そこで、ツンは考えた。
『負の感情を糧にする』という特性さえ無ければ、魔導具ほど素晴らしい技術はないではないか、と。
ショボンのような大きな力を持った者が優秀な人材を集めてこの研究にかかれば、どんな結果が得られるだろうか。
新たな発展が望めるのではないか、新たな歴史を切り開けるのではないか、これまでの人類史を、塗り替えられるのではないか。

しかし体に刻まれた父達錬金術師の答えは、その可能性を否定し、ツンも気付けば、それを受け入れていた。
クーの言うように人の生が千変万化だというならば、魔術を受け入れ、人類の英知とすることはできなかったのか。
確かに過去の結果は変わらない。しかし、今を生きる者達の『これから』は、どうなのだろう。

自身が体に抱えるのは破壊。だが今、彼女の頭は魔術の可能性を肯定しようとも考えている。
未来へ向けた答えの一つを、誰も掴もうとはしない一つを、『枯木の魔女』は一人で抱えているのかもしれないのに。
そこでふいにブーンらの顔を見るが、よく、わからない。正午へ向け徐々に活気づき始めた街も、それを知らぬ顔で。

 ep2. 一族最後の女 おしまい。

205 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 00:31:35.74 ID:WznWHEl+0
 ep3. 傷だらけの修道女

ξ゚⊿゚)ξ「今日はここでお世話になりましょう。あっちに教会が見えたわ」

ニュー速を発った二人は連れを一人増やし、教会本部、いわゆる聖地への道を往く。
それは商業的に大きな都市から、宗教的に大きな都市への大移動だ。

二つは本来的に、相容れない。
金を集めて自由に生きる者達と、神を崇めて規律に生きる者達。
それは天秤のようなもので、どちらかが栄えると、どちらかは必ず衰える。
人の流れもそのどちらかに偏り、いつしか二つは互いに干渉されない程度の距離を置いて、それぞれの発展を遂げた。

三人はそのどちらともいえない、言うなら少し商業都市寄りの小さな村に辿りついた。
昨日から降り続けている雨はぬかるみを発生させ、足取りを重くしていたのだが、
ツンの見つけた目的、教会を目指すことで、多少は気持ちを軽くしていた。

ミセ*゚ワ゚)リ「あ! あ! トソン! 見て!」

(゚、゚トソン「なんです?」

村の縦に伸びる民家を横目に過ぎ、,村の風景から浮いた教会の前に辿りつくと、そこには二人の女児がいた。
水溜りで遊んでいたのか髪はべしゃべしゃに濡れ、土に塗れた洋服は多色のつぎはぎだらけ。

ミセ*^ー^)リ「旅のお方、ぜひぜひこちらへ!」

女児らは飛びつくように三人の元へと駆けてくると、ツンとクーの手を掴み、引っ張った。
教会のほうへ案内をしてくれるらしく、てけてけと走ってゆく。

防雨の布を全身に被っていたのだが、女児の土塗れの手により袖が汚れる二人。
しかしその汚れをべたべた移されるほどに、彼女たちの柔らかな笑みは大きくなっていった。

208 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 00:36:09.05 ID:WznWHEl+0
ぎぃ、と教会の扉を押しあける、活発そうな茶髪の娘。

ミセ*゚ー゚)リ「シスター! お客様です!」

暗い雨の日、教会堂の内部、正面奥に座す十字と、その手前には無骨な壇。
そこから入り口まで横長の席が置かれており、一番前に、一つ影が座っていた。

     「あぁ…………」

影は立ち上がり、小さな息を吐き出した。片手には何か小さめの厚い本が持たれている。

ξ゚⊿゚)ξ「ラウンジ派の教会だと見受けられたので、こちらに失礼させていただきたいのですが」

茶髪の娘と手を繋ぎながら、ツンがその横まで歩いていく。どうやら手の本は聖書のようだ。
ツンはばさりと雨具を脱ぎ、教会の人間だ、というように白の修道服を見せつけた。

     「大丈夫です……そちらから空き部屋へと繋がっておりますので、どうぞお使いください」

シスターと呼ばれていた女性は愛想の一つも見せず、教会堂内の右奥、小さな戸を指差した。
旅の修道女に支給される、ぼろぼろの修道服を纏い、頭にフードを被って、その顔を見せもせずに。

ξ゚⊿゚)ξ「わかりました。では、」

と、ツンは後ろに居た連れ二人をこまねき、指された方へと歩き出した。
女児二人はシスターの横に残り、彼らに向けて期待の色が入った眼を向けていた。

ミセ*゚ー゚)リ「シスター、あの人たちはこれからここに住むんですか? あの綺麗な人、シスターと同じ服でしたよ」

(#゚;;-゚)「さぁ……どうなのでしょうね。私には、わからないわ」


211 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 00:40:43.77 ID:WznWHEl+0
(;^ω^)「やっぱり三人分となると重いお」

部屋に着くなり、投げるように荷物を下ろしたブーン。
滴る水滴が床をじわりと濡らし、木の床の色を変えてゆく。

教会の旅人を受け入れる体制はどこへ行っても同じでありながら、その広さはなかなかのものを誇っていた。
ベッドは一部屋に六つが基本で、荷物置き、衣紋掛け、部屋の隅には燭台つきの小さな丸テーブルが置かれる余裕がある。
埃も立たないところ、ここはなかなか真面目に掃除もなされているようだ。

ξ゚⊿゚)ξ「ここ、神父が居ないのね」

濡れた雨具を吊るしつつ、ツンはこぼす。
普通、最低でも神父とシスターの二人以上が入るはずなのだが、どうやらここではあのシスターと、おそらく子供二人。
ラウンジ正教とは宗祖が同じで、流れは違っているのかもしれない。少しの違いは、大きな結果を作るものだ。
その違いがあの態度のシスターなのかと思うと、ツンは少し複雑な気持ちになるが。

川 ゚ -゚)「居ない方がいい。神父というと、問答無用で堅苦しい話を聞かされそうな印象だ」

ξ゚⊿゚)ξ「そういう人も多いけど、基本的に旅人には空気読むわよ?」

川 ゚ -゚)「まあ確かにお前がいるし、いきなり教えを説かれるような心配は無さそうだが」

ξ-⊿-)ξ「むー? 私は所属が教会なだけで、そんななんたらーの神様とか大して興味ないわよ」

川 ゚ -゚)「そうなのか、『騎士』なのだからてっきり、聖書を丸呑みしたような人間だと思っていたぞ」

ξ゚⊿゚)ξ「批判的な無神論者みたいに、ばかばかしい、とは言わないけど。私が信じるのはもっと形のあるものよ」

川 ゚ -゚)「……ふむ。そう言われてみると、私の生きている意味もなにか宗教じみているのかもしれないな」

214 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 00:45:07.17 ID:WznWHEl+0
ふいに、とんとん、と軽く戸をたたく音が鳴った。
ツンが会話を切りあげてそれに応えると、ゆっくりと開く。

ミセ;゚-゚)リ「あの、あの、」

(゚、゚トソン「どうして今更緊張しているのですか……?」

先程の娘たちだった。
着替えたのか、汚れてはいない茶色の、服というよりは布をすっぽり被り、二人並んでそこに居た。
一人は茶髪で、顔の横から飛び出すように髪が跳ね、先程とは転じてどもっていた。
もう一人は黒髪で、肩に届かない程度に揃えられ、どもる娘に向かって首を捻っている。

ξ*゚⊿゚)ξ「あらー、どうしたの? こっちに来て話しましょう?」

彼女たちを見たツンは途端に笑顔になり、ベッドに座りながらそこをぽんぽん叩く。

ミセ*゚ー゚)リ「いいんですか! 失礼します!」

跳ねっ毛の娘も対抗するように表情に花を開き、ツンの元に飛び込んだ。
一方ではそれを眺めながら、やれやれといった顔で憮然として部屋の前に立ちつくす娘が腰に両手を当てていた。

川 ゚ -゚)「そうだな、君は私のところに来るか? 懐が空いてしまっているんだが」

(゚、゚*トソン「え、……う……はい……」

よしよし、とクーはすぐさまやってきた娘の黒髪を撫でる。
くすぐったそうに笑うのは、やはり歳相応のものである。

( ´ω`)「チッ……んじゃ、僕は寝るかお。蚊帳の外はさみしいお……」

217 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 00:49:48.32 ID:WznWHEl+0
ミセ*゚-゚)リ「あの、あの、あなたがたは旅をされているのですか?」

ξ*゚⊿゚)ξ「そうよー、色んなところに行って、ちょっとした調べ物をしているの」

ミセ*゚-゚)リ「あの、ここにずっと住んだりはしないんですか?」

ξ*゚⊿゚)ξ「どうかしら? あなた達、なにか困っている事でもあるの?」

ミセ*゚-゚)リ「シスターがずっと寂しそうなんです、だからきっと、同じお歳の話し相手が欲しいんです」

ξ*゚⊿゚)ξ「確かにあの人ちょっと暗いわねぇ。あなた達は仲良しじゃないのかしら?」

ミセ*゚-゚)リ「シスターはまじめで、私達をすごく大切にしてくれます。だから、お母さんみたいな人なんです」

ξ゚⊿゚)ξ「あー、なるほど……ね。お母さんかあ」

大体の理解としては、彼女達は孤児で、あの修道女はこの教会で二人の世話をして、といったところで正しいだろう。

ミセ*゚ー゚)リ「そうだ自己紹介! 私の名前はミセリで、あっちの子がトソ……」

(-、-*トソン「柔らかいです……気持ちいいです……」

川*゚ -゚)「ああ、私も素直な娘は好きだぞ」

さっそく女児を胸に抱きしめるとろけた眼の女は、ツンから見ても、というか同性から見たからこそ変態に見えた。

ミセ;゚Д゚)リ アワワξ-⊿-)ξ⊃「ちょっとクーさん何やってんの……いきなりくっつきすぎだよ……」

川*゚ -゚)「ぬっふ、これも必要な交流なんでな」


219 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 00:54:31.60 ID:WznWHEl+0
結局ツンが止めると、クーはしかめっ面でベッドに寝そべった。
それを見て納得し、ミセリに向き直る。

ξ゚⊿゚)ξ「シスターは普段、どういう人なの?」

ミセ;゚ー゚)リ「えっと、毎日朝と夜、十字架に祈りをささげて、えっと、私達に朝ご飯をつくってくださって……トソン~!」

説明は苦手なのか、両手をふらふら中に浮かせながら、困ったような顔で黒髪を見た。

(゚、゚トソン「はい、本を読んでいただいたり、シスターの過去のお話を聞かせていただいたり、です。
      シスターはやさしいです。昼間は村長の家にお手伝いまで行かれて、疲れて帰っても、私達のお世話を、」

ξ゚⊿゚)ξ「……村長のお手伝い?」

ちょっと変だな、と首を捻るツン。
現時点で聞くところでは普通の、いや、真面目な修道女。ならばその意義も、どういったものかを把握しているはずだ。
望まない教えは驕りだと考える体制なのにも関わらず、修道女がわざわざ村長の村へと行くというのは不自然なのだ。
確かに規模が小さいとはいえ、村への干渉もあくまで教会内に限ったものである、はずなのだが。

(゚、゚トソン「ええ、シスターは人手の少ないこの村の村長の家で、家政婦としても雇われているのです」

ξ゚⊿゚)ξ「あ、そういうことなの……うーん……?」

(゚、゚トソン「そこで得た報酬を私達の暮らしにあててくださって、私達が生活で困ったことは一度もございません」

川 ゚ -゚)「なかなか慈愛に満ちた感心な女性だな」

ξ゚⊿゚)ξ「ええ、変態のあなたとは似ても似つかないわ」

働きづくめで、報酬を得る。それは正しい修道女の姿なのかと、細かい規律に興味を持たないツンには疑問があった。

220 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 00:59:04.49 ID:WznWHEl+0
(#゚;;-゚)「おはようございます」

教会堂内で朝から十字架へ膝を折って祈りを捧げていた修道女。
長椅子にならんで座っていた三人に振り返ると、昨日とは違い顔を出したまま、ゆっくりと礼をする。
顔にはいくつか切り傷のような火傷のような痕が多々あり、なかなか痛々しい。

ξ゚⊿゚)ξ「どうも。私はラウンジ正教のツンと申します」

(#゚;;-゚)「私は………ディ、です」

彼女は考え込むように、じっくりとツンを見ていた。

ξ゚⊿゚)ξ「そちら、宗派はどちらで?」

(#゚;;-゚)「……え?」

ξ゚⊿゚)ξ「あー……私は一応正教派なのですが、そういうところに疎いんです。
      少なくとも私達とは違うようなので、後学のために伺いたいのですが」

不作法なツンに対し、顔を引き締めつつ、手元の聖書を握りしめる。

(#゚;;-゚)「私は…………きゅ、」

ミセ*゚ー゚)リ「おはようございます!」

と、奥の戸からミセリが勢いよくやってきた。
朝から元気なもので、癖毛と寝癖の区別が全くつかない。
そこに焦った様子で走ってきたトソンが、慌てて何度も頭を下げる。

(゚、゚;トソン「あの、すみません、止められなくて、ごめんなさい……」

221 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 01:04:07.73 ID:WznWHEl+0
ふぅ、と息を吐き出しながら、ディは強張っていた顔を緩めた。
そのままミセリの前に歩いてゆき、トソンも手招くと二つの小さな頭を撫でる。

(#゚;;-゚)「大丈夫よ、ちょっとだけ驚いただけだから。それじゃあ、今日は濡れた服を干しましょうね」

そしてディはツンらの方に振り返り、首を傾げながら軽くうなずく。
ツンもそれに対して、しっかり頷いて返した。

二人を連れ、ぱたん、と戸が閉まる。
そういえば昨日、彼らの居住スペースは、ツン達が使う部屋の隣で、全く同じつくりらしい。
おそらくは濡れた服を取りに行ったのだろう。

( ^ω^)「うーん、なんか……」

ξ゚⊿゚)ξ「しっくりこないの?」

( ^ω^)「お」

ξ゚⊿゚)ξ「きゅ、って旧教のほうかしら? そういうところに来るのは初めてなの?」

( ^ω^)「いやそんなことじゃないお。ていうか宗派がどうとか全く興味がないし、知らないお」

ξ゚⊿゚)ξ「じゃあなによ」

( ^ω^)「あの修道女、なんで緊張してたんだお」

ξ゚⊿゚)ξ「はぁ? そんなの簡単よ、あんたがでかいからてしょ」

(;^ω^)「えぇ……別に取って喰ったりしないお……」

222 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 01:09:10.08 ID:WznWHEl+0
ミセ*゚ー゚)リ「今日は天気がいいですね!」

(#゚;;-゚)「そうね、太陽が眩しい」

(゚、゚トソン「今日も、村長の家に行くのですか?」

(#゚;;-゚)「ええ。最近、少し荒いのだけど……」

ミセ*゚-゚)リ「大丈夫ですか? それなのに私達のお世話まで……無理、しないでください……」

(#゚;;-゚)「ええ、辛くは無いから大丈夫よ」

(゚、゚トソン「シスター……」

ミセ*゚ー゚)リ「手伝えることがあれば、なんでも言ってください!」

(#゚;;ー゚)「ふふ、じゃあもうすこしあなたたちが大きくなったら、私は楽をさせてもらうわね」

ミセ*゚ー゚)リ「頑張ります!」

(゚、゚トソン「肉体労働はミセリが中心でおねがいします」

ミセ*゚З゚)リ「それはずるいよ! トソンは口げんか強いだけじゃん! 頭いいわけじゃないもん!」

(#゚;;-゚)「大丈夫よ。村長の家政婦なんて体を遣うだけ。トソンもいっぱい働くといいわ」

(゚、゚;トソン「はぁ……やっぱりそうですか……」

ミセ*^ー^)リ「ほら~! いつか一緒に頑張ろうね、トソン!」


226 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 01:13:55.64 ID:WznWHEl+0
昨日濡れた服はミセリ達がまとめて処理するということになり、やることがなくなったブーン達。
クーが率先して暇そうにすると、ツンも対抗するように暇そうな顔をした。

(  ω )「あ、ほんとうに、なにも、することが、ない、お」

ξ-⊿-)ξ「たまにはいいかな~」

川 ゚ -゚)「私はずっとこんな感じだな……」

ξ゚⊿゚)ξ「ていうかクーさん、ドクオ? はどうやって見つけるのよ」

川 ゚ -゚)「さぁ」

ξ-⊿-)ξ「さぁ……」

川 ゚ -゚)「いや、全力を出せば追いかけることも不可能ではないが……今はいいだろう」

( ^ω^)「さすが吸血鬼、追跡できるなんか技みたいなのでも使えるのかお?」

川 ゚ -゚)「勘だ」

( -ω-)「勘……」

ξ゚⊿゚)ξ「今はいいって、どうして?」

川 ゚ -゚)「お前達と居るのはなかなか興味深いからな」

ξ*゚⊿゚)ξ「ん~? ……楽しい、でしょ?」

川 ゚ -゚)「……それを言ったら負けな気がするから、絶対に言わんからな」

230 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 01:19:15.55 ID:WznWHEl+0
(#゚;;-゚)「それじゃ、私は出掛けるわね」

ミセ*゚ー゚)リ「はい!」

(゚、゚トソン「頑張ってください」

正午になると、ディは二人に読んでいた聖書を閉じ、教会堂を立とうとする。が、

ξ゚⊿゚)ξ「あ、ディさんすいません」

(#゚;;-゚)「……なんでしょうか」

ξ゚⊿゚)ξ「この二人を運ぶの、手伝ってもらえます?」

( -ω-)川 - -) 

長椅子に沿うように、大男と細身の女が倒れていた。
ツンに指示を受け、手に持った聖書をその辺りに置くと、女の方の脇に手を伸ばした。

( -ω-)⊂ξ-⊿-)ξ「すいません……こいつらいきなり寝てしまって……」

(#゚;;-゚)「お気になさらず。仕事を奪ってしまったのが原因でしょう」

部屋に着くとすぐに二人をベッドに寝かせる。
ツンが感謝の言葉を告げると、ディは軽く会釈をして、部屋を後にした。

(#゚;;-゚)「では、今度こそ行ってきます」

ミセ*゚ー゚)リ「はい。シスターに、神の御加護がありますように」(゚、゚トソン


231 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 01:24:17.60 ID:WznWHEl+0
ξ*゚⊿゚)ξ「うんうん、それでブーンがゲロを……」

ミセ*゚ワ゚)リ「あははは! ブーンさんって、世界中のゲロを吐きかけられてきたんですね!」

(゚、゚;トソン「うぅ……それ、最悪ですね……」

ディが出ていった後、必然的に話相手はこうなった。
ツンは昔の旅の話をしながら、二人はツンにべったりくっついて目を輝かせながら頭を突き出す。
二人は今までこの村を出たことがなく、村、街、国をまたにかけるツンの話は楽しくて仕方がないらしい。

ξ*゚⊿゚)ξ「ゲロはあいつの運命そのものよ」

ミセ*^ー^)リ「ぷっ、それは言い過ぎだと思いますよ~!」

(゚、゚;トソン「すごい匂いがしそうです……ブーンさんには近づかない方が賢明ですね……」

ξ*゚⊿゚)ξ「いいねいいね、あなた達に避けられたら、さすがにあいつも落ち込むわよー!」

三人でははは、と顔をほころばせて。純粋な子供たちの声と、いやらしく笑うツンの距離は、昨日よりもさらに近付いてた。
そこでふと、思い出し顔で勢いよくミセリが椅子を立った。

ミセ*゚ー゚)リ「そうだ、そろそろ夕飯の準備を……っとと?」

ツンに向かって立ち上がった向こう、何かを見つけた様子のミセリ。

ミセ*゚-゚)リ「あれ? シスター、聖書を忘れてる?」

彼女が見ていたのは、長椅子に放置された普段からディが抱える分厚い聖書。
今日に限って、というより、どうして忘れたことに気付かなかったのだろうか。
ミセリはそこまで歩いてゆくと、それを手に取り眺める。やはり、ディのものだ。

233 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 01:29:25.75 ID:WznWHEl+0
ミセ*゚ー゚)リ「トソン! これ!」

振り返るとトソンは不審そうな顔をしていた。
それに弁解するように、ミセリはディの聖書を両手で掲げるようにして見せる。

(゚、゚トソン「それは……」

ミセ*゚ー゚)リ「届けた方がいいよね?」

(゚、゚トソン「でも、食事の準備もあるし、シスターも迷惑なんじゃ……」

ξ゚⊿゚)ξ「いいんじゃない? 夕飯の準備は、物のある場所を教えてくれれば私がやるわよ?」

(゚、゚トソン「でも……」

ミセ*゚ー゚)リ「あ! じゃあお願いしてもよろしいですか!」

ミセリには純粋に聖書を届けたいという意志もあったが、先を往くのはディの仕事を見ておきたいという好奇心だ。
近い将来村長の家の家政婦として働くのではないか、という認識でいた彼女は、そのための準備もしておきたいのだ。
トソンは不安そうにツンとミセリを見るが、こういう時の主導権は、大抵の場合ミセリが握る。

ξ゚ー゚)ξ「ええ。じゃあ調理場の場所と注意点でもあれば、教えてね」

ミセ*^ー^)リ「はい、こっちです!」

ツンの手を引き、旅人の部屋、彼女達の部屋を過ぎると広めのキッチンに辿りつく。
そこで必要な道具と材料の位置を伝え、ここでの火の扱いを伝えると、すぐさまミセリは駆けだした。

ミセ*゚ー゚)リ「では、大事なお仕事、こなしてきます!」


234 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 01:35:31.57 ID:WznWHEl+0
いってらっしゃい、と手を振るツンに二人は深く頭を下げ、身を翻す。
教会周辺からあまり離れない彼女達には、村への道はなかなか新鮮だった。

ミセ*゚ー゚)リ「村長さまの家はどこかな?」

(゚、゚トソン「うーん、まずは村の中心に行きましょう」

この村の中心とは井戸のことを指す。
二人もまれに、そこへの水汲みに行くディの手伝いで来る場所だ。
しかしそこから先は、全くの未知なのだが。

ミセ*゚ー゚)リ「あの、あの!」

「ん……、なんだい?」

ミセリは井戸に辿りつくとさっそく、水を汲みにやってきたのであろう中年の女性に声をかけた。
女性は一瞬眉間にしわを寄せて二人を眺めたが、ややあって返事をした。

ミセ*゚ー゚)リ「村長さまのお家を教えていただきたいのですが……」

「うん? あなた達が村長さんのとこになんの用だい?」

(゚、゚;トソン「そちらの家政婦の方に、急ぎの届けものがあるんです……」

咄嗟に返したトソン。

「家政婦、ねぇ………? ええと……村長さんの家は、ここから見える山があるだろう?」

一応は納得してくれたようで、女性は道を彼女達に伝えた。
井戸から山に向けて真っ直ぐ、村の道なりに歩いていって、一番大きい家がそうだという。

236 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 01:42:03.24 ID:WznWHEl+0
ミセ*゚ー゚)リ「ここかな?」

言われた通り道なりに、昨日で少しぬかるんだ中を踏みしめていくと、村の外れに大きな家が見えた。
真っ黒な屋根が特徴的で、ミセリ達には、他にはない厳粛な雰囲気が漂っているように感じる。

(゚、゚トソン「わぁ……確かに大きいですね……」

ミセ*゚ー゚)リ「私達がお手伝いすることになったら、すごく大変そうだね」

道を少し外れてその家の敷地があるのだが、二人は今のような会話をしながらなかなか動こうとしない。

実際に目の当たりにして無意識に委縮してしまっているのだ。
物心ついてから育ってきた環境は、教会の中とその周辺に限られた外のみ。
ましてや初めて訪問する家はこの村の村長の家。
未だ十にも満たない年の少女たちの体には、妙な力が入る。

(゚、゚トソン「ミセリ?」

ミセ;゚д゚)リ「はいっ!」

(゚、゚;トソン「緊張するのはわかりますが、そろそろ、行きましょう、よ……」

言葉とは裏腹に、声がどんどん尻すぼみになるトソン。
彼女が驚かせてしまったミセリと同様に、トソンにも緊張が見られる。

ミセ;゚ー゚)リ「でもさ、どうやっていけばいいの?」

(゚、゚;トソン「確か……扉のあたりに呼び鈴? があるはずですよ……」

ミセ*゚-゚)リ「探してみよう……」

237 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 01:47:40.56 ID:WznWHEl+0
遠くから伺うように、徐々に戸へと近づいていく。
そこでミセリが発見したのは、白い戸の横にある花のつぼみのような装飾。
こそこそとトソンに手を振り、それに指を向けた。

(゚、゚トソン「……」

ミセ*゚ー゚)リ「あれってさ、途中の家にもあったものだよね?」

(゚、゚トソン「ですね。伏せたコップのかたちの金属で、中にぶら下がる棒と、何か紐がついています」

ミセ*゚ー゚)リ「引っ張れってこと?」

(゚、゚;トソン「えぇぇぇ……でも違ったらどうするんです……? 防災用だったりでもしたら……」

ミセ*>Д<)リつ|彡「ごめんもう引っ張った!」

(゚、゚;トソン「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

小声で行われる二人のやり取りに、からん、からん、と鐘のような音が響く。
二人は思わず戸の前で小さく縮こまり、しっかりと手を握って歯を食いしばった。

ミセ*>―<)リ「……!」

(>、<;トソン「……っ!」

けれど。

ミセ;゚-゚)リ「…………誰も出てこないよ……?」

(゚、゚;トソン「これは…………安心するところ、なのですかね?」

240 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 01:53:55.40 ID:WznWHEl+0
実際は、呼び鈴を鳴らしている中で人の気配、物音までした。
しかし二人がじっと待ってみても、誰も出てくる様子はなく。

ミセ*゚-゚)リ「おかしいなぁ……」

(゚、゚トソン「お留守なのでしょうか……」

きょろ、とミセリが目をつけたのは、家の大きな窓。
カーテンが敷かれてるが、探せばなんとか覗ける空間が見つかりそうだ。

ミセ*゚ー゚)リ「トソンこっち!」

戸を離れたミセリが軽く跳び、窓の周囲につくと、トソンに手を小さく振った。
トソンは戸とミセリを何度かちらちら確認するが、ミセリの近くへ行くほうに気持ちが優先されてしまう。

(゚、゚;トソン「覗きはだめですよ!」

ミセ*゚ー゚)リ「大丈夫だよ、大きい窓なんだし、近くで見ても一緒だよ!」

(゚、゚;トソン「でも………」

既にミセリは白い窓枠に手をかけて、今すぐにでも飛びついてしまいそうだ。
トソンはそこで何も言えなくなり、黙ってミセリを見つめる。

ミセ*゚ー゚)リ「ほら、トソンも!」

ミセリが手を引っ張り、二人並んで背伸びをして、窓枠に頭を乗せた。
見つけた位置はちょうどカーテンが微かに空いていた場所で、ぐっ、と近付くと中が良く見えた。
薄暗いが、まだ昼間の明かりでなんとか見える。
そして、中に居たのは、二人。

242 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 01:59:49.17 ID:WznWHEl+0
    「ん……?」

人がいる。

それも、男女だとすぐにわかった。

一人は体中が毛むくじゃらの、腹の部分がたるんだ中年男性。
一人は体中が傷だらけの、おそらくまだ若い、すらりとした体の女性。

男の方は、広い部屋の真ん中で仰向けに寝そべり、醜い腹を揺らしていた。
女の方は、その上に跨り、背中に油を塗ったかのように小さな光を多分に反射していた。

どうして男の腹が揺れていたか。
それは、女性が男性の上に跨ったまま、狂ったようにがくりがくりと揺れていたから。

どうして男女の、体中の様子が、わかったか。
それは、二人の姿が一糸まとわぬものだったから。

    「ぁっ……!」

思わず、少女達は息を深く吸い込んだ。
これは見てはいけないものを見てしまっている、そう思わされた。

なぜなら、体を揺らす男の表情が、今まで見たこともないようなものだったから。
そして、薄暗い中見えた女性の後ろ髪、甲高い声が、二人の良く知る、二人にとって唯一の人に、思えたから。

小さな悲鳴に対し、男が揺れる女を止めようというのか、手を挙げた。
やがてその手はゆっくりとかたちを作り、ミセリ達の方へと指を向け

    「トソン、走ろうっ」

245 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 02:05:15.26 ID:WznWHEl+0
一心不乱に走った。

彼女達の胸は恐怖心だけで満たされようとしていた。

ただ知らないことに触れただけなのに、彼女達の小さな心臓は早鐘を打った。

何が心臓を鳴らせているのか、どうして鳴っているのか。

それは本能が告げている、彼女達の日常とはいえないもの。

ふと、ミセリは走る手に聖書を持っていなかったことに気付いた。

隣のトソンが持っているのかと思ったが、手を繋いで走っている上に、もう片手は無心で、全力で振っている。

どうしよう。

一瞬思ったが、どうしようもない。

幼い心は不安を持って、幼い顔は涙をもって。

崩れる。みるみるうちに、崩れる。いとも容易く、あっという間に、崩れる。

どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、

どうすればいいのかわからない、どうしたらいいのか、なにもわかっていない。

無知を自覚することで、逃げ道がなくなっていくような錯覚にとらわれる心。

やがていつの間にか、泣きじゃくったまま教会に飛び込んでいたことに、気付く。


247 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 02:11:16.72 ID:WznWHEl+0
ξ;゚⊿゚)ξ「ちょっと! どうしたの!」

扉への体当たりは教会を大きく揺らし、彼女達の呻くような声はツンを呼びつけた。

    「違うんです、違うんです」

    「私達は、何も見ていないんです」

    「私が聖書をなくしてしまったんです」

    「違います、私がいつのまにか、落としてしまったんです」

ξ゚⊿゚)ξ「落ち着いて。何も言わなくていいから。深呼吸をして」

ツンは切れ切れの、はっきりとした声をかけて二人の背中をさする。
震える少女達は息を引きながら、尚も涙を流す。
本当に大したことではないはずなのに、涙が出る。

ツンにさすられる背中、言葉を思うと、怖い夢を見てしまった時の、あの人を思い出す。
優しく、ゆっくりと言葉をかけて、安心させてくれる、そんな優しい、あの人を。

しかし、

    「っ、っ、あっ、あっ、……うっ、っ、」

あの女性がもし、あの人だったら? 紛れもなくそうだったとしたら?
自分達に見せない、知らない彼女があそこにいたとしたら? 動物のような姿で揺れる女性が、あの人だとしたら?

怖い。言い知れない不安がよぎる。だったら、普段のあの人は本当の姿ではないのかもしれない。
ずっと嘘の姿を見せられて、そこにずっとだまされて、ずっと甘えてきてしまったのかもしれない、そんな怖さ。

248 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 02:16:42.29 ID:WznWHEl+0
二人が次に目を覚ましたのは太陽が沈んでから。
気付けばベッドに寝かされており、二人の手を、ディが握っていた。

(#゚;;-゚)「あなたたち……」

    「「いや………」」

二人は彼女を見ると、同時に声をあげた。
それはディの二の句を潰し、完全に言葉を失わせた。

(#゚;;-゚)「………」

ディの膝には、土に汚れた聖書があった。
その汚れは確かに、あの場所周辺で落としたものだろう。

    「……!」

それを見て、トソンは確信した。

ああ、あの女性はやはりこの人なんだ、と。

途端に頭が昨日の雨のように冷たくなり、気持ちが悪くなる。
あんな醜い男に跨っていた裸の女性が目の前で自分の手を握っていることが、認められなかったのだ。

信じられない。汚らわしい。この人は、どうかしている。

握られた手を、トソンは無理矢理振り払った。
手を布団の中に隠すと、懸命に、流水で手を洗うように、擦った。

それからの長い沈黙の後、ディは座っていた椅子を立ち、部屋を出ていった。

250 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 02:22:58.06 ID:WznWHEl+0
(#゚;;-゚)「……」

( ^ω^)「昼間に何か、あったんですかお?」

部屋のすぐ外には、ブーンが立っていた。

ξ゚⊿゚)ξ「………」

出てきた戸の反対側には、ツンが。
無表情のようだが、ディの額を貫くような視線をもっていた。

川 ゚ -゚)「………」

その隣には、腕を組んだクーが。
彼女の目はディを見ておらず、ディの足元、戸の入り口を見つめている。

(#゚;;-゚)「私は、別になにも……」

ぴくり。その言葉にツンが動いた。

ξ#゚⊿゚)ξ「だったらあの子たちの様子は何……? 二人はあなたのところに向かってたのよ……?」

( ^ω^)「ツン、」

ξ#゚⊿゚)ξ「止めるな、あんたには関係無い」

( ^ω^)「本来的にはこの件自体、お前にも関係が無いお。それに頭から怒っても、いいことないお」

川 ゚ -゚)「ふむ。私は少し、あの子たちと話がしたいな」

252 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 02:29:23.73 ID:WznWHEl+0
ξ#゚⊿゚)ξ「ちっ、」

それでもあからさまに舌打ちを向け、怒りを露わに。

( ^ω^)「ディさん、こっちに」

(#゚;;-゚)「はい……」

そんなツンの視線をブーンが体で遮り、いつもディらが過ごす部屋へと押していった。

ξ#゚⊿゚)ξ「なんなのよ、あの女……」

川 ゚ -゚)「さて失礼する」

少女らの寝る部屋にはツンとクーが入る。
一番奥のベッドはそれぞれ小さくふくらみ、布団を頭からすっぽり被ってしまって顔を見られない。

川 ゚ -゚)「私だ、クーだぞ」

片方に座ると、クーがそこに手を乗せた。

     「いや、」

しかし、拒否する声。

川 ゚ -゚)「何があった?」

     「何もありません、」

ξ;゚⊿゚)ξ「無理に話してもらわなくていいのよ? うーん、と……」

253 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 02:35:15.19 ID:WznWHEl+0
ツンは動揺した。
なかなかどうして、子供というのは扱いが難しい。

子供は純粋すぎるが故に、頑固である。
その頑固さは、『あれが欲しい』と思うと、どんな無茶をしても手に入れようとすることなどによく現れている。
目的の、例えば花を手に入れた後で、体にたくさんの切り傷を作っていたことに気付いたりする、など。

要するにこれは、周りを見て行動をしていない、できない、ということだ。

今回のこの状態も、きっかけは大したことではない、勘違いのようなものかもしれない。
冷静な判断に欠ける子供だからこそ、今のような状況になっている可能性もある。

自分が見た情報を自分の中で集約させ、視野の狭い世界で一つの答えを出している。
それはある意味危険なもので、子供だけでなく、大人もそんな状態に陥ることすらある。

いつかの宗教戦争も、自分の信じるものだけを見ていた結果の、悲惨な事故だといえる。
もっとゆとりのある心、ゆとりのある精神さえあれば、間違いは最小限で済むはずだったのだ。

川 ゚ -゚)「ツン、どうした」

ξ;゚⊿゚)ξそ「あっ、いや少し考え事。どうしよっかなー、って」

頭を掻きながら、ようやくそこを落ち着かせる。
好意的に考えればこれは『勘違い』で済んでくれる。
ディさえしっかり話して、誤解を解くことができればそれで終わりの話だ。

だが、ディの側に非が無い、とは言い切れない。
本当になにか衝撃を受けるようなものを見てこうなっているならば、ツンは彼女達を放ってはおけない。

それは今まで『魔導具』の処理をし続けてきたツンの、他人に対する自己満足でしかないのだが。

254 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 02:41:32.05 ID:WznWHEl+0
いつのまにか夜が明けていた。
ミセリとトソンは、ツンとクーが寝てしまったのを確認して、一緒の布団に滑り込んだ。

  「ねえトソン……」
                               「なんです……?」
  「今日、シスターと話してみよう?」
                               「嫌です」
  「どうして?」
                               「あんなに汚らわしい人、嫌いです」
  「……きっとシスターも理由があったんだよ」
                               「ありません」
  「そんなの、わからないじゃない……」
                               「あんな、野犬のような人と、あんな……」
  「私には、わからないよ……」
                               「じゃああなたは、あれと同じことができるのですか?」
  「わからないよ……」
                               「毛むくじゃらの、気持ちの悪い男と、服を脱いで、」
  「わからない……」
                               「あんな獣のような顔の男と、あんなに近付いて……」
  「わからない……」
                      「私は、絶対に嫌です。ミセリにもできるなら、私は……ミセリも、嫌いです」

ミセ#゚-゚)リ「だから……わからないって言ってるでしょ!! いい加減にしてよ!!」

二人で一緒に被っていた布団は取り払われた。
取り払った一人は、目を見開いて大声をあげていた。
未だベッドにうずくまるもう一人は、小さくなったまま、爪を噛んでいた。

(;、;トソン「怖いんです……私は、わからないから、こわいんです……」


255 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 02:49:23.08 ID:WznWHEl+0
ミセ#゚-゚)リ「もうトソンは本当にシスターが嫌いになっちゃったの?
      あんなに優しいわたしたちのシスターなのに、嫌いになったの?」

(;、;トソン「私は、あんなことをしていたあの人が……」

ミセ#゚-゚)リ「『あんなこと』って何? 私達には何をしてたかなんてわかってないじゃない!
      なんでそんな簡単にそんなことが言えるの!? トソンはシスターを信じてないの!?」

(;、;トソン「だって……だってミセリだって……!」

ミセ#゚-゚)リ「もうしらない! だったらもういい! 私がシスターに聞いてくる!」

ベッドを飛び降り、駆けだそうとしたミセリ。
しかし、すぐにミセリは柔らかい何かに衝突してしまう。

ξ゚⊿゚)ξ「ミセリ、落ち着いて……」

ミセ#゚-゚)リ「ツンさん、どいてください」

ξ゚⊿゚)ξ「トソンと仲直りするまで、どかない」

ミセ#゚-゚)リ「いいんです、もうトソンと私はなんでもないです」

ξ゚⊿゚)ξ「やめなさい。そういうことを言ってはだめ」

ミセ#゚-゚)リ「もうトソンとは関係ないんです、シスターのところに行かせてください」

ξ゚⊿゚)ξ「……ブーンがもう聞いてるから、もう少し落ち着いてから聞きましょう」

ミセ#゚-゚)リ「あなたたち………寝てたんじゃ、なかったんですか…………」

257 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 02:57:01.25 ID:WznWHEl+0
それでも絶対仲直りはしない、というミセリは、必死に隣の部屋へ連れていくよう懇願し、見かねたクーが連れて行ってしまう。
部屋に残るトソンは小さくなったまま、鼻をすすっていたのに。

(;、;トソン「うぅ……ぅぅ……ミセリ……ミセリ……」

ξ゚⊿゚)ξ「……」

ツンは彼女が泣き止むまで一緒に居ることにした。

この状態の彼女は、放ってはおけない。

唯一の親友と違えてしまった気持ちは、そう簡単には取り戻せないはずだ。

彼女はベッドにまるまり、泣きべそをかき続けている。

その涙は何に対してのものか、おそらく彼女にもわかっていない。

しかし原因は確実に、村長の家に行ったことに関係しているのだ。

ならば考えうる可能性、彼女の様子でどうにか想像がつかないものか、

ξ ⊿ )ξ「……ぅっ………」

そこで、彼女の爪を噛む姿、小刻みに震える小さな体に、なぜだか気持ちが悪くなった。

妙な既視感がふいに、よぎった。

彼女のような姿を、ツンは過去に知っていたのだ。

それはツンにとって大きな痛みだと、頭が訴えていて。

259 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 03:04:03.10 ID:WznWHEl+0
(#゚;;-゚)「ミセリ……トソンは……?」

部屋では椅子がディを中心に囲むように並べられていた。
ブーンは仏頂面で、目を閉じたまま腕を組んで待っていた。

川 ゚ -゚)「取り込み中だ。あとで話せばいいだろう」

(#゚;;-゚)「そうですか……」

( ^ω^)「じゃあ、話すかお?」

ミセ*゚-゚)リ「……はい………」

( ^ω^)「落ち着いて聞けば、きっとわかってくれると思うお」

ブーンの語るディの『理由』は、今の不安定な彼女にはあまり理解ができないものであった。
余計な考えを巡らせる彼女に聞こえたのは、『奴隷』、『無理矢理』、『教会』、『村長』、『報酬』、『盗賊』。
そこから総合して考えうること、ミセリが、この場に居て感じたこと。

(# ;;- ) 「ごめんなさい………ミセリ……嘘を、吐いていて……」

話が終わると、母のような存在の彼女が泣いている、それを含めて考えた結果。
言葉をしっかりと捉えられたかは、もう考える余裕すらなく。
「全部、村長が悪いのだ」。ミセリはそう確信して、部屋を飛び出した。

川 ゚ -゚)「おいミセリ!」

クーが出ていった戸に手をかけて大声を出すが、そんな言葉は、ミセリには届いていなかった。

(;^ω^)「僕の説明、そんな深刻に聞こえたのかお……?」

260 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 03:10:28.69 ID:WznWHEl+0
ミセ#゚-゚)リ「トソン!!」

(゚、゚;トソン「ひっ……!」

戸を勢いよく開け、ミセリはトソンの元に駆けてきた。

ξ;゚⊿゚)ξ「ミセリ?」

ミセ#゚-゚)リ「行くよっ!!」

(゚、゚;トソン「えっ」

ミセ#゚-゚)リ「村長の家! シスターを助けてあげなきゃ!!」

(゚、゚;トソン「え? え? きゃあっ!」

腕を無理矢理に引っ張り、教会を飛び出してゆく。
途中、クーやブーンの静止の声があったが、彼女達は、ミセリは止まらない。

ξ ⊿ )ξ「ああ、そう、やっぱりそういうことだったの……そうよね、本当に、汚らわしい……」

ツンは一人、納得したようにその場に座り込む。
震えるトソンの様子は、彼女自身に覚えがあった。
それは過去、小さかったころの自分だ。

錬金術を刻んだ幼少期、彼女の体には刻印とは別の、消えない傷をつけられた。
彼女に起きたことは、父の指示とは全く関係の無い、「ある実験」。
顔をちらりとしか見たことのない、汚らわしい男に無理矢理剥かれた、消したい過去。

ミセリとトソンの様子を見る限り、身を斬るような過去を持つツンに彼女達を止めることはできなかった。

261 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 03:16:09.60 ID:WznWHEl+0
ミセ#゚-゚)リ「あぁ、もう、うぅ……」

走っていた、村の中を真っ直ぐ。

どうすればいいかは何もわからない。

しかし何かを言わなければならない。

シスターを助けて欲しい、シスターを返して欲しい。

それくらいしか思いつかない、でもそれを言わなければ納得がいかない。

だから走った。必死に走った。

村の人が怪訝な顔でこちらを見るが、無視した。

人にぶつかりそうになるが、なんとか避けていった。

けれど、やはりぶつかった。

(>、<;トソン「ごめんなさいっ……!」

手を引いていたトソンだ。少し急ぎ過ぎたのかもしれない。

ぶつかった男は「いいよ」と、トソンの頭を撫でた。すると、
  _
( ゚∀゚)「ん………? ねぇ君達、何か悩みでもあるのかい?」

その男は笑って、背負っていた真っ黒の袋をゆっくりと地に降ろした。


263 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 03:23:15.96 ID:WznWHEl+0
( ^ω^)「どこ行ったんだお?」

川 ゚ -゚)「子供の足だが、もう見失ったというのか」

(#゚;;-゚)「きっと村長の家です! こちらへ!」

ディが二人の先を走る。
服装通りの修道女とは思えない、しっかりとした足取りだ。

川 ゚ -゚)「遠いのか?」

(#゚;;-゚)「あまり遠くはありません! とにかく急ぎましょう!」

( ^ω^)「だお。子供とはいえ、あんまり迷惑かけられないし」

続くように、二人は走った。
もっともブーンとクーはそれほど急ぎ足というわけでもない。
焦っているディの背中を、漫然と追っていた。

川 ゚ -゚)「そういえばツンはどうしたんだ」

( ^ω^)「あ、トソンと一緒に居たはずなのに、確かに見てないお」

川 ゚ -゚)「……なんで来ないんだ? あいつの性格ならすぐに止めそうなものだが」

( ^ω^)「さぁ……ていうかツンは、ディの話聞いてたのかお?」

川 ゚ -゚)「いや聞いていないはずだが」

( ^ω^)「ああ、そっか……だから来ないのかもしれないお。きっとなんか、早とちりみたいな」

265 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 03:30:13.83 ID:WznWHEl+0
ぶつかった男が袋から取り出したのは、小さな分銅が端に付いた鎖だった。

    「君達の事情は知らない。でもこれを握れば、きっと悩みは吹き飛んでしまうよ」

ミセリは言われた通り、分銅を握った。
トソンにも握るようすすめ、もう片方を握らせた。
そのまま、二人はそれを繋いだ手のようにして、一緒に走った。

握れば握るほど、拳に力が入る。
これは、きっとあの村長への恐怖を孕んだもの。

男のくれたこの分銅は、それを補うように、誤魔化すように、力を与えてくれている気がする。
自分達の悩みを、どこかに飛ばしてくれそうな気がする。

隣のトソンの顔がどんどん強張っていくのが見えるが、きっと自分も同じなのだろう。
なぜだか理由はわからないけれど、自分の中の恐怖がどこかに行ってしまいそうになってきていた。

その奇妙な感覚に、トソンも驚いているに違いない。

ミセ*゚-゚)リ「そうだトソン、あの村長を懲らしめなきゃいけないんだよ」

(゚、゚トソン「ええ、そうですね。ミセリの様子でなんとなく、村長が悪いと思っていました」

冷静になっていた頭でトソンに話しかけると、同じく冷静になっているトソンがいる。
表情は硬い、しかしこれは、彼女も自分と同じように確信しているから。

     「「シスター………」」

今なら何かを為せる力を、持っているのだ、と。


266 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 03:37:29.23 ID:WznWHEl+0
ミセ*゚-゚)リ「着いたね」

(゚、゚トソン「ええ」

二人は鎖を介して繋がっていた。
鎖を通じて湧き立つ二つの感情は、底の見え無い泥沼に投げ込んでしまった。
そこで彼女達の想いは泥と混ざり合い、一つのかたちを作ってしまった。

握る鎖が、きり、きり、と揺れる。
それは空気を切断しているような音で、断続的に鳴り続ける。
僅かにそれが黒く濁って見えたのは、おそらく底知れない恐怖から。

分銅を握るトソンはこれは危険なものだと悟っていた。
しかしそれでも今は、必要な力であると理解していた。

トソンの冷静な頭からの判断は、鎖を通じてミセリにも伝わっているだろう。
トソンはそれに恐怖し、また泥の中に恐怖心を投げる。

一方、ミセリは暗い想いで埋められかけていた。

トソンから伝わった恐怖心、それはこの鎖の凶悪さを理解させた。
だがこれを振るえば、シスターを助けられる、そう考えて、その想いを泥の中に投げた。

      じゃあ……………

言葉は必要とされない、伝わっている。それを示すかのように、鎖の音は強くなる。
きり、きり、と鳴る音は、ぎり、ぎり、と重さを増して、二人に力を見せつけた。

少しの間の後、二人は無言で、飛ぶ人の居ない縄跳びを始めるかのように、鎖を回した。


267 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 03:44:49.64 ID:WznWHEl+0
川 ゚ -゚)「む……」

(;^ω^)「……」

(#゚;;-゚)「今、ものすごい音が………」

後僅か、というところで、村に地鳴りのような音が響いた。
それは山の方から聞こえ、火山でも噴火したかと思わされるような大きな音だ。
活火山ではない山、ここから見ればどうにもなっていないのは一目瞭然だが、
三人の視界の端を過ぎる村人達も、何があったのかと空を見上げた。

(;^ω^)「んな馬鹿な………」

着いた先では、未だ渇いていない泥が抉れ飛び散っていた。
泥を吹き飛ばしていたのは黒の木の固まりで、表面が剥がれ突風を受けたような傷が残る。
その黒は落下していたのだ。ある程度の高さから無理矢理落とされた。

そして、その『ある程度の高さ』は、大きな刃のようなもので破壊されているようであった。

(#゚;;-゚)「村長は……村長は!?」

切断面はおそらく一枚、村長の家を貫通、どこかに過ぎ去っている。
家を形作っていた木はその面が過ぎ去った勢いに釣られたのだろう、一方向にへし折れていた。

    「あぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!」

その向こう側で大きな声がする。
ここからではばらばらの家越しでもよく見えないが、悲鳴のようなその声には、未だ幼さが抜けていなかった。

(#゚;;-゚)「あの子たち……が?」

270 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 03:54:37.67 ID:WznWHEl+0
    「ああああ!!」
               「こいつが悪いのに!! どうして!!」
 「わからない、」
            「そんなのわからない、でも、それは、駄目」

二つの想いが反発する。直前までは、揃っていたのに。
どうして、片方は止めようとする、諸悪の根源は目の前に居るのに。
どうして、片方は動こうとする、それがいけないことであるのはわかっているのに。

二人のうちどちらかが止めようとしているならば、片方の分銅を離して鎖を振るえばいい。
しかし、泥に投げつけた意識が叫んでいるのは、もはやどちらのものかわからない。

     「いいのよ、そいつが嫌なら、殺してしまえばいい」

            「「えっ、?」」

耳に、背後からの言葉が突き刺さった。
誰のものか、女性のものだということはわかる。

 ―――ああ、そうか、もしかして。

           「「シスター……!!」」

救われた気がした。
彼女が、それを認めた。
だったらなにを迷うことがある。

そうだ、そうだ、そうだ、

もう一度鎖を振って、目の前のこの男を、殺せばいい。

271 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 04:04:02.06 ID:WznWHEl+0
(# ;;- )「やめて!!」

鎖を後ろに持ち上げた。
あとは、前に向けて、さっきと同じように、

黒い刃が、振られた鎖からふつふつと湧いた。
細切れの世界がゆっくりと、虫の糞のような色をした飛ぶ斬撃が弾け出していくの映す。

その先に居たのが、二人の母であったのに。

ミセ;゚Д゚)リ「「シスター!!」」(゚、゚;トソン

すぐさま二人は鎖を投げ捨てた。が、もう遅すぎた、斬撃は完全に生まれてしまっていた。
それ切り裂く対象は、醜く這いつくばるこの村の村長、だった。
何を思ったか、ディが両手を広げ、その目前に飛び出してしまっている。

止まらない、迫る、宙を飛ぶ刃は殺意を持ったまま、止まらない。

(  ω )「はぁ、」

男が現れた。
割り込んできたディの腹に迫っていた刃が、ほんの少し彼女に食い込んでから。
男はディの肩を無理矢理に蹴り飛ばし、飛んできた黒の斬撃を受けた。

家の半分を吹き飛ばすだけの力、人が盾となったところで防げるものではない。
しかしその男は斬撃を体で受け止め、ほんの一瞬だけ、拮抗したように見えた。

どさり。

それも一瞬。男の上半身は斬撃を粉壊させると同時に、地面に音を立てて転がった。

272 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 04:12:05.42 ID:WznWHEl+0
    「そんな、そんな、ブーン、さん、」
                         「ああ、ああ、」

切り離された体から血が噴き出した。
それは少女たちの顔にも掛かるほどの勢い、出血量で、混乱するさらに惑わせるほどの衝撃を与える。
ぱた、ぱた、ぱた、と。

(# ;;- )「体が……切れ………」

川 ゚ -゚)つ「こうしたほうがいいのか?」

( ^ω^)「頼むお」

クーは無表情に上半身を拾い、血が溢れるブーンの体を、立ったままの下半身につなげた。

( ゜ω゜)「いってええええええええええええええおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

川 ゚ -゚)「凄まじい光景だな」

二つは白い泡を血液に混ぜ合いながら、切れた体を繋げていく。
不死の体の真価は、こんなところで問われてしまっていた。

(;^ω^)「くっ、あ。ディさん、とりあえず、あなたは村長と非難して、傷の手当てをしていてくださいお……」

(# ;;- )「え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、」

ミセ;゚Д゚)リ「………」

(゚、゚;トソン「………」


273 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 04:22:49.97 ID:WznWHEl+0
川 ゚ -゚)「君らは私と教会に帰るぞ」

ミセ;゚-゚)リ「あの、あの、あの、」

(゚、゚;トソン「私達は……」

川 ゚ -゚)「君達には少し話すことが多すぎるが、一旦は落ち着くべきだ」

ディが青ざめた村長の肩を借りて近所の家へと向かって行くのを促しながら、クーは言った。
彼女も茫然としたままのミセリとトソンを手を掴み、有無を言わさずさっさと歩きだした。

( ^ω^)「……」

残ったのは、血まみれの男。

体の泡が取れかかっていたので、彼は身体をぐりぐりまわして、調子を確認する。

やがてひとつ溜め息をついて、顔を振り、

( ^ω^)「……どういうつもりだ」

口を開いた。

それは一人の女に向かって言った言葉。

二人の少女に対し、間違いを肯定するような言葉を投げたことに対しての言葉。

ξ゚⊿゚)ξ「……………」

教会に居たはずの女は、崩れた家の横に無言で立っていたのだ。

275 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 04:30:56.46 ID:WznWHEl+0
( ^ω^)「どういうつもりだ」

ξ゚⊿゚)ξ「……」

二言目。

( ^ω^)「お前は自分が何を言ったか、分かっているのか」

ξ゚⊿゚)ξ「……わかってるわy」

三歩ほど空いていた距離を、男は二歩で詰めた。
そして近づいた勢いのまま、女の顔を殴り飛ばした。

女は拳に耐える気もなく、土に転がる。
白の修道服は、黒くなる。

      「ふざけるな」

大股で歩き、倒れた女の胸倉を掴む。

      「……お前は、子供の魔導具の使用を見過ごし、それを肯定した」

また顔を殴った。今度は平手打ちだった。

ξ# ⊿ )ξ「それが、何だってのよ…………」

      「三年の旅で……お前はまだ理解をしていないのか」

ξ# ⊿ )ξ「はっ、また説教でも始める気なのね……」

276 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 04:37:41.62 ID:WznWHEl+0
     「魔導具は悪だ」

     「わかってる」

     「それを使う人間も、いかなる理由があろうと、悪だ」

     「わかってる」

     「わかっていない」

     「じゃああの子たちはどうしたらよかったのよ……」

     「ああ。どこで魔導具を手に入れたかは知らないが、確かにそれを使えるだけの負の想いがあった」

     「そうよ、あんたでもわかってるんじゃない、」

     「まず、それがそもそもの勘違いだ。だがそれは後で話す、今はそこを問題にはしていない」

     「は……?」

     「魔導具は悪だ。枯木の魔女の作った、人を枯らす負の器」

     「……」

     「それを純粋な、正と負の淀みすら知らない子供が使えばどうなるか、お前はわかっていない」

     「……」

     「精神的に未熟な子供がもしも魔導具を用いて目的を果たしたなら、村や町程度など、簡単に消えるぞ」


277 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 04:45:19.97 ID:WznWHEl+0
     「どうして魔導具が負の感情を喰うように造られているか、以前話しただろう」

     「そんなの、忘れたわよ」

     「人の負の感情には際限が無いからだ。人が生きている以上、必ずそれは生まれ続け、魔導具は使われる」

     「……」

     「ここまで言ってもわからないか」

     「なによ………」

     「お前の生きる理由はその根本を殺すこと、際限無き負の連鎖を利用する器を、全て破壊すること」

     「……っ、」

     「そのお前が一瞬でもそれを肯定することは、絶対にあってはならない」

     「……く………っ!」

     「ましてや子供などという、感情を雪崩のように吐き出す生き物にその使用を促すなど……」

     「―――……こ、、、、の、、、、っ! あんたは…………あんたは、ねぇ……っ!」

     「何だ」

     「この私が人間なんだってことを……ほんの一欠片も理解してないっ………!」

女は男を殴った。何度も殴った。不老不死の男の体を、人間の女の拳で。
手の皮が裂けても、血が割れ出しても。胸の奥から無限に湧き立つ、負の感情のままに。

278 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 04:53:28.24 ID:WznWHEl+0
ξ# ⊿ )ξ「ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅあああああああああ!!」

ツンは積み上げた感情を、必死に叫んで誤魔化した。

そういう問題ではない、そういうことではない。
人にはどうしたって、届かないものだってある。
どうしたって、変えられないことがある。

それを変える為に自分には無い力に頼って何が悪いというのだ。
周囲から見たそれが悪でも、そのときの自分には必要なものなのではないのか。
手を伸ばしても届かないものを掴むには、どうしても道具が必要になるのだ。

わかっている。
本当はそれが正しくないということも、それを破壊すべきとして自分が存在しているのも。
だが、『これがこうであるから、絶対的にこうでなくてはならない』なんて、認めたくない。

認めてしまえば、自分の自我すらをも否定してしまうのではないかと、怖くなってしまうから。
自らが在り、旅を続けられている理由が、自分の意志によってのものではないと、言っているような気になるから。

今、全力で彼を殴る理由も、本当は怒りからのものではない。

どうして彼はわかってくれないのか。
自分がこうして旅を続けていられるのは、与えられた使命のためなどではなのに。
自分がこうして、縛られた運命に絶望していないのは、自分一人の力などではないのに。

ξ# ⊿ )ξ「どうして!! あんたは!!」

人は誰しもが強くあるわけではない。
しかし握った拳をぶつける彼は、何も言わずに、ただ無表情で。
強くあるはずの彼は、彼女の拳に、ただ、打たれ続けた。

279 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 04:59:37.53 ID:WznWHEl+0
川 ゚ -゚)「――さて、こいつの不死身っぷりはそんな感じでいいはずだ。で、次も私か?」

ブーンは疲れ果てたツンを支え、クーらの待つ教会へと。
中で子供たちは長椅子に俯いたまま、黙って手を繋いで座っていた。

( ´ω`)「だって僕じゃ理解できなかったみたいだし……説明してお……」

川 ゚ -゚)「はあ。あー、……ええと、ミセリにトソン。まずお前達のシスターなんだが、彼女は本当のシスターじゃない」

(゚、゚トソン「それって、どういうことですか……?」

 ディは以前、盗賊として小さな組織、でいいか? を作り、日々を過ごしてきた。
 だが、ある日に些細な失敗で、ディ達は大きな盗賊組織に捕まった。なんかすごいそうだ。
 そこから奴隷のように扱われ、嬲られる、簡単にいえば大変な生活だったんだな、うん。
 もううんざりになったある時、ディ達はその組織から逃げようとしたんだ。

 でも、死に物狂いでがんばって逃げられたのはディ一人だったそうだ。大変だな。うんうん。
 そしてここの教会に辿りついた。ああ、ここは本当はもう使われていないところらしいぞ。 
 それからディは、ここに勝手に住みこんで暮らしていたらしい。さすが盗賊、といっては失礼か。
 で、出会うわけだ、あの熊みたいな村長にな。なんで村長がやって来たかは知らん。なんかあったんだろう。

 村長はディを見つけて、ディは見逃してくれるように頼んだんだ。ここに住ませろー、って。
 まあ村長は寛大な男でな、だったらこの村の孤児を世話してくれれば、生活は保障する、という話になったそうだ。
 そう君達だ、ミセリにトソン。君らはこの時、ディに預けられた。運命の出会いだ運命の出会い。
 その後はなんというか、他人のことは言葉にはしにくいというか。

 ディはそのお礼に、既に先立たれた、あー、居なくなってしまった村長の妻のかわりに、村長の世話をするようになったんだ。
 村長は最初は断っていたらしいが、ディがクソ真面目に毎日来るもんだから、その、あれだ。

川*゚ -゚)「ふむ……ときに君らは、人間の交尾について知識はあるかな? 知らないだろう? ふふふ、」

281 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 05:08:02.52 ID:WznWHEl+0
(゚、゚トソン「……?」

ミセ*゚-゚)リ「さぁ……」

川 ゚ -゚)「よし、おいちょっといいk」

⊂(;^ω^)⊃「やめれ! 脱ぐな!」

川 ゚ -゚)「別に入れるつもりはないぞ、この変態が」

(;^ω^)「そういう問題じゃねえお! 教育教育ゥ!」

川 ゚ -゚)「んん……? おそらくこれは今、必要な知識じゃないか?」

(゚、゚トソン「ええと、とにかく、シスターはシスターじゃなくて、
     仮シスターとして私達のお世話をしていて、村長の妻なんですか?」

( ^ω^)「最後が微妙に違うけど、だいたいそれで問題ないお」

ミセ;゚-゚)リ「え、じゃあ私、とんでもないことを……どうしよう、シスターに謝らなくちゃ……」

そう言ったミセリが自分の腕を握った時、ぎぃ、と彼らの背後から音。

(#゚;;-゚)「いいのよミセリ、私が悪かったのよ……」

そこには、腹に包帯を巻いたディと、不安そうに彼女を支える村長が居た。

(#;゚;;-゚)「誤解を与えるようにコソコソしていたから駄目だったの。
     でも、私が盗賊だったことは聞いたでしょう? 私と村長の関係は、村にも内緒で。
     そもそもこの教会に人が居ること自体かなり微妙なところでね……ええと、わかるかしら……?」

282 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 05:17:23.53 ID:WznWHEl+0
ξ゚⊿゚)ξ「……はっ、なにそれ。じゃあ今回のことは全部勘違いだっての?」

(#゚;;-゚)「すみません……それは私達の在り方が、不適切だったためで」

ξ-⊿-)ξ「別に謝らなくていいわよ。『騎士』であるわ、た、く、し、め、が、盗賊のあなたにまんまとしてやられただけ」

(#゚;;-゚)「騎、士……? 何を……」

ξ^ー^)ξ「別に信じてくれなくてもいいわよー。あなたもシスターじゃないんだもの」

(#゚;;-゚)「それは………」

ξ゚⊿゚)ξ「私はね、そこのクソガキ共が使ってた鎖あったでしょ? ああいうのをぶっ壊して旅してんのよ」

(#゚;;-゚)「……………」

ξ-⊿-)ξ「あ~、ホントイライラするわね……何? その顔、まだ何か隠し事でもあるんですか?」

(#゚;;-゚)「子供たちを悪く言うのは、やめてください」

ξ゚⊿゚)ξ「あら今更になって。あぁ、あなたは『シスター』でしたものね、嬲られた盗賊の」

ミセ*゚-゚)リ「ツンさん、いきなりどうしちゃったんですか?」

ξ゚⊿゚)ξ「うっさいわね、元はといえばアンタが馬鹿みたいに騒ぐからこうなったんでしょうが」

(#゚;;-゚)「ツンさん……私のことはどう言っていただいても結構ですから、子供たちのことは、」

ξ゚⊿゚)ξ「はいはいそういう『ごっこ』、やめてくださらないかしら? 背筋が溶けそうなほど吐き気を催すので」


284 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 05:25:49.55 ID:WznWHEl+0
ミセ* - )リ「……」

(゚、゚トソン「……ツンさん、軽蔑します」

ξ゚⊿゚)ξ「どうぞご自由に。私は痛くもかゆくもないわ」

(#゚;;-゚)「あなたは、」

ξ゚⊿゚)ξ「あー、ブーン。荷物持ってきて。この村を出るわよ」

( ^ω^)「わかったお」

ξ゚⊿゚)ξ「クーさん、こいつらに言い残すことはない?」

川 ゚ -゚)「特に無いが」

ξ゚⊿゚)ξ「そ、じゃあブーンが来たらさっさと行きましょうか。こんなゴミ溜めみたいなところ、さっさと出たいわ」

(#゚;;-゚)「…………」

ミセ* - )リ「………」

( 、 トソン「………」

ξ゚⊿゚)ξ「泣くなっての、」

(# ;;- )「あなたは……!」

( ^ω^)「ツン。荷物、持ってきたお」


286 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 05:30:40.17 ID:WznWHEl+0
そうして、三人は村を去った。
ツンを先頭に、逃げるように歩いていった。
教会から出る際も見送りはなく、それは誰にも見られぬ出発で。

ξ ⊿ )ξ「……」

川 ゚ -゚)「別に、あそこまでしなくてもよかったじゃないか」

ξ ⊿ )ξ「だってあれだけのことがあったのよ? あの子たちの意識は、今くらい一点に向けておいた方がいい」

( ^ω^)「どう考えてもやり過ぎだお。あっちにとっても、お前にとっても」

ξ ⊿ )ξ「私だってあんたにあれだけ怒られなかったら、あそこまでしなかったもん……」

( ^ω^)「もん、っておま……子供じゃないんだから……」

ξ ⊿ )ξ「いいえ、私なんて全然子供、今回の一件でよくわかった。思慮が浅すぎるのよ。すぐ、感情的になって」

( -ω-)「あー……それは反省するべきだお」

ξ ⊿ )ξ「でも、すぐには立ち直れない、」

( ´ω`)=3「はぁ………それはあっちに歩きながら整理していけばいいおー」

ξ ⊿ )ξ「やだ」

(;^ω^)「え? ちょ、クー、めんどいから助け舟だせお……」

川 ゚ ー゚)「くくくくっ、すまん、これはちょっと面白そうだ」


287 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 05:35:43.42 ID:WznWHEl+0
ξ ⊿ )ξ「やだ、から、」

後ろでたらたら歩くブーンに、ツンが振り返る。
丁度その時ブーンはクーを見ていて、そのことに寸前まで気付けなかった。

(;^ω^)「っとと、勝手に止まるな、お?」

三人分の荷物を背負ったブーンは思わず後ろに転倒してしまいそうになる。
それは前方から軽く降りてきた圧力のせいで、微かに、雨の匂いがした。

ξ;⊿;)ξ「胸貸せ、バケモノ……」

彼女は彼の胸の中で、今まで見せたことのない弱った姿をぶつけた。
顔を泣き崩して、体を震わせて、心を開いて、彼に全てを委ねた。

彼はその姿を受け入れて、同時に気付いてしまった。
人はどんな役割、どんな力を与えられても、一人の人間でしかないのだ、と。

勘違いをしていたのだ。彼の『希望』は魔術を狩り獲り、世界を在るべき姿に戻す存在である以前に、ただの女性であった。
間違っても自分のような化け物ではなく、か弱い女性であり、うら若き、どこにでもいる人間なのだ。
仲間だから。目的が同じだから。「だから」といって、自分と全く同じ存在であるはずがない、一つしかない命だ。
勝手に踏み躙っていいものでもなければ、弄んでいいものでもない。小さく、弱く、かけがえのない、『彼女』という個。

ぎゅっ、と。彼の胸がきつく締められた。
今、細い声を出した彼女の腕によって。自身が知らず知らずの内に抱えていた、彼女への想いによって。
どうしてここまで気付くことができなかったのか。自分は三年間、一体何に目を向けてきたのか。

ようやく抱き締めかえしたこの腕は、こんなにも温かいのに。

 ep3. 傷だらけの修道女 おしまい。

302 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 09:34:46.50 ID:WznWHEl+0
 ep4. 零距離の聖女

三日間何もないところを歩き続けると、気が遠くなる。
どこまで行けば、目的地に辿りつけるのかと。

旅の経験など大したことはないのだ。
そうなって当然だとは思う、というか、そうなって当然じゃないか。
蓄えはもうないし、外は寒いし、夜には不安感が襲う。

ああ、どうしてこうなってしまったのか。

はっ、そうだこの胡散臭い男に釣られてしまったんだ、簡単な話だった。
疲れていると記憶を引っ張り上げるのにもかなり体力を使うらしい。

うーん、前の村でもっと買い溜めしておけばよかったな。
今、どうしようもないくらい腹が空いている。
天から肉でも降ってくればいいのに。

ああ、けだるい、ああ、けだるい、起き上がれない、起きる気になれない。
  _
( ゚∀゚)「なぁ、起きてくんね?」

ノパ⊿゚)「むり」

この野郎、護衛してやってるこの私に向かって起きろ、とは。
だったら食いもん寄越せっての。こいつが飯売る商人なら、ちょっとは違うんじゃないのかな。

    「あなたたち、道端に寝そべって何やってるの?」

あっと、急にどこから声がかかった、んだけど…………なんかその声、すごく不快だ。

304 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 09:40:23.21 ID:WznWHEl+0
ξ゚⊿゚)ξ「あなたたち、道端に寝そべって何やってるの?」

聖地への路を往くなかで人とすれ違う、なんてことはしょっちゅうあるが、
ツンがこうして声をかけることは滅多にない。たとえそれが大地に寝そべる者だとしても。
もっと、それ以上にツンが気にかける理由が他にあったのだ。

ノパ⊿゚)「……なんすか?」

喉に異物を引っ掛けたような顔をして、道端の草の中から起き上がった肩ほどまで伸びた赤髪の少女。
彼女の身なりが、異常だった。

ξ;゚⊿゚)ξ「なんすかって……いえ、問題が無いなら特に用はないのよ」

頭には鍋のような物をかぶり、肩には鉄の皿と、そこから胸にまで伸びる曲がった鉄板。
腕と足には、関節を防護したいのだろうか、やはり丸い皿のようなものが当てられている。
そして腰には小さな皮の刃物入れが備えられ、防具の下は短い布の服を数枚重ねて着ていた。
  _
(  ∀ )「すいません……なんかすいません……!」

明らかに子供が遊びで作ったような、『鎧』。しかも軽装鎧。
だが、この場所の近くには村は無いはずなのだ。側に死にそうな顔で立っている男も、商人にしか見えない。

ノパ⊿゚)つ「あ、金髪姉御殿、飯くれ」
  _
(;゚∀゚)「やめろよ! 普通に考えてせびっちゃダメだろ!」

歳はツンより二つほど下だろうか。
礼儀を知らないところ、あと一つほどは低いかもしれない。

ξ゚⊿゚)ξ「飯……? もうすこし歩けば、旅の宿があるじゃない」

305 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 09:45:58.31 ID:WznWHEl+0
ノハ;゚⊿゚) そ「なんだと! ジョルジュ! 先行ってる!」

言うと、赤髪は飛びあがり、道なりに真っ直ぐ走っていった。
がちゃり、がちゃり、と体の装備が擦れ合ってやかましいのだが、彼女は気にもしていない。
  _
( ゚∀゚)「あいつ、金持ってねーだろ……」

男、赤髪の様子からおそらくジョルジュという名の彼は、それを見ながら両手をぶら下げ立ちすくんでいた。
背中には人が三人ほど丸めて入っていそうな程とても大きな黒の布袋が背負われていて、これは商売品だろう。
それをよいしょ、と背負い直し、道を踏み、歩き出そうとした。

ξ゚⊿゚)ξ「あの、」
  _
( ゚∀゚)「あーい何ですかシスターさん、連れが今程失礼申した旅する恋する青年商人、ジョルジュ君ですが」

調子の整った言葉は商売文句なのか、しかし声に覇気は微塵もなかった。

ξ゚⊿゚)ξ「さっきの子、ご家族かなにかで?」
  _
( ゚∀゚)「俺の護衛ですけど」

ξ;゚⊿゚)ξ「……あれで護衛?」
  _
( ゚∀゚)「あれで護衛」

ξ゚⊿゚)ξ「……」
  _
( ゚∀゚)「あー、……何か買います? 一応装飾品とかも扱ってますけd」

ξ゚⊿゚)ξ「結構です」

306 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 09:52:14.81 ID:WznWHEl+0
     「……」

それから無言の一拍、商人は赤髪の後を追い、早足で去っていった。

川 ゚ -゚)「装飾品くらい見てもよかったじゃないか、ただ漫然と歩くのも暇なんだぞ」

ξ-⊿-)ξ「あの護衛であの荷物で、あのくたびれっぷり。ガラクタしか売ってないからああなるわけでっせクーさん」

( ^ω^)「確かに、儲かってるようには見えなかったお」

三人もこの先の宿をとるつもりだったので、確実に後で再会することになる。
その揺るがない事実は、微妙にツンの足取りを重くし、先頭が遅くなることで、やはり全体も遅くなる。

川 ゚ -゚)「旅の商人の暮らしがどーいったもんかは知らんが、面白そうな人種だったじゃないか」

( ^ω^)「いいや、商業に関わる人間ってのは碌な奴がいないお。損得勘定でしか動けないから」

ξ゚⊿゚)ξ「……なんかさ、ずっと前から思ってたけどブーンって商人に対して当たりが強いよね」

( ^ω^)「あれ? ツンはショボンから聞いてなかったかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「なに」

( ^ω^)「いや別に」

ξ゚⊿゚)ξ「チッ、言えよ」

( ^ω^)「チッ、舌打ちすんなお、チッ、」

川 ゚ -゚)「チッ、チッ、チッ、でいいのか? 流れ的に」

308 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 09:58:54.10 ID:WznWHEl+0
舌打ちの押収は続き、会話の一片に六十回程度織り交ぜなければならなくなった頃。
それはツンの口が渇いてぺたぺたになった頃。
ようやく、この日の宿が見えた。

柱のように縦に長い構造は、何に備えたものなのか。
自然に対抗するには少しやんちゃをし過ぎたような宿だった。

ξ゚⊿゚)ξ「なんか改装してる……ていうか建て直したのね」

その前に立ってツンはこぼした。
最も聖地に近いここにあったはずの宿には、彼女は何度か世話になったことがあるのだ。
初めての任務、今遣わされている任務ではないもの、を行った際にも、初めて泊まったのがここだ。

それが彼女にとって思い出深いというわけではないが、
改めてこうしてやって来ると、その頃からなかなか時間が経っていることを認識させられる。
いやあ自分も歳を食うんだなあ、などと、思いたくないことまで自覚させられて、

川 ゚ -゚)「なんだ、あれ………」

感慨にふけってみようとしたツンの思考が遮られた。
声の方を向くと、クーが宿の横に回り込んでその先を見ていた。

ξ;゚⊿゚)ξ「うわっ、なにあれ……」

二人から少し距離を置いたところで、白衣を着た人間が地面にうつ伏せに、上半身のみでぷるぷる震えていた。
下半身は地面の大きな穴に突っ込まれているようで、顔は真っ赤にふくれ、色素の薄い髪がそれをちらつかせる。

从;゚∀从「おい! 助けろ! さっきから無視されて精神的にマズイっ! 俺が死んだら世界が青ざめるぞ! ああっ!」

雄たけびのようで元気そうなのに、助けなければ死ぬらしい。

309 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 10:06:51.13 ID:WznWHEl+0
从 ゚∀从「助かったぜ、クソが」

ツンとクーが引っ張り上げると、白衣は立ち上がりざまにぷっ、と唾を吐き捨て、前髪をぶわりとかきあげる。
次に片手を腰に当て顔を斜めに傾けたと思えば、ツンらに向かってふんぞり返って見下すような眼で、今の台詞を言い放った。

从;>∀从「いってえ! やめろ!」

ツンはその顔面に手刀を落とした。白衣の背が彼女よりも低かったためである。

ξ゚⊿゚)ξ「なにあんた」

从 -∀从+「ふっ。俺はニュー速の希望の星、世界最高の自然科学者ハインリッヒ・T・フランクリンだ。ハイン様と呼べ」

ξ゚⊿゚)ξノ「なに、あんた」

∩从;>∀从∩「うぉぉぉぉぁぁぁ今言ったじゃんか! 怖いから手ぇ降ろせよ!」

川 ゚ -゚)「この穴はなんなんだ?」

クーが指差したのは白衣、ハインの後ろ。先程落ちかけていた大きな穴。
人を三人まとめて落とせそうなほどの幅で、底が見えない程度に暗く、なかなかの深さがあるようだ。

从 ゚∀从「おぅ、今日はもう暇だから爆破した」

言って、白衣の内側から筒のようなものを取り出す。

ξ゚⊿゚)ξ「なにこれ」

从 ゚∀从「俺の友人が作った新型爆薬だよ」


310 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 10:13:58.04 ID:WznWHEl+0
( ^ω^)「わっせわっせ」

「いらっしゃいませ、血沸き肉躍る旅の宿、『虹路里』でございます」

( ^ω^)「すみませんお。今日ここにお世話になりたいんだけど、連れがまだ外なんですお」

「何名様でしょうか」

( ^ω^)「僕を含めて三名だお」

「わかりました。では荷物をお運びしますので、そちらで受付を」

( ^ω^)「あ、じゃあお願いしますお」

連れ二人を無視したブーンが宿に入ると、宿の主人が床をぎしぎしと鳴らしてすぐに出迎えに来た。
見た目は腰の低い初老の男性のようだが、何か血沸き肉躍るという。
入り口横の受付にはふくよかな女性が居り、ブーンは適当に名簿へ三名分の名前を書いた。
上に三つの名前があるのを見ると、自分達以外にも三人宿を取っている者がいるらしい。

ノハ*゚⊿゚)「もっと水くれ! 渇きは潤い、潤いは豊穣へ!」
  _
( ゚∀゚)「なんかおまえ水ばっか飲んでるな。確かに豊穣はサイコーだけども!! イェーァ!!」

騒いでいるのは先程からだったので、確認の必要すらない。
二人はあれで確定、後は残った一人、ブーンは一番上の名前を見る。

( ^ω^)「……随分、懐かしい名前だお」

フランクリン。それは、過去に出会ったある学者の名だ。
商業都市の人間だったはずだが、おそらくそのあたりの親族、なぜ『こちら側』にまで来ているのだろうか。

312 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 10:22:14.83 ID:WznWHEl+0
ξ゚⊿゚)ξ「爆薬? 最近の学者さんは炭鉱も掘るようになったの?」

从 ゚∀从「いやちげーよ、こっちのほうの山で使ったんだ」

ξ゚⊿゚)ξ「何に使ったのよ、この辺りは基本的にそういうのだめよ」

从 ゚∀从「石が欲しかったんだよ」

ξ゚⊿゚)ξ「石採るのって爆薬が必要なわけ?」

从*゚∀从「え? いらねーよ? ぷっ、馬鹿じゃね?」

ξ-⊿-)ξノ「……」

∩从;>∀从「あーすまん、すまん俺には必要なんだすまん手ぇ降ろせってホントごめんなさいってば」

ξ゚⊿゚)ξ「意味わかんないわよ、ふざけてんの?」

从;゚∀从「いや、だからさぁ……」

ξ゚⊿゚)ξ「だってあんたがやったこと、普通に重罪じゃない。単独ってことは無許可ってことでしょう」

从 ゚∀从「なんだ、わかってんじゃん」

ξ゚⊿゚)ξ「つまりどうしても欲しいのに誰も聴く耳持たないから勝手にやってんのね? 科学者ってそういうの多いし」

从#゚∀从「あぁ? こっちはなぁ、頭のお固い修道女になんざ一生わからねえ価値のあることをやってんだよ」

ξ-⊿-)ξ「はっ。他人に理解できないものに価値があるとは思えないけど」


313 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 10:28:02.87 ID:WznWHEl+0
从#゚∀从「なんだとてめぇ、爆破させられてえのか」

ξ゚⊿゚)ξ「他人の技術を借りて? ああ、あんたの友人は可哀想、作ったものの価値を理解されていないみたい」

从#゚∀从「じゃあ殴ってやるよ。おら、面貸せ修道女」

ξ゚⊿゚)ξ「……言っておくけど、私は殴られたら全力で殴り返す。仮に右の頬を打たれたなら、あんたの顔をブッ飛ばす」

从 ゚∀从「いやいや…………お前……本当に修道女か? ブッ飛ばすとか、お前神父に怒られねーの?」

ξ゚⊿゚)ξ「聖書は一度、流し読みしかしてない。それに神父なんて私と直接関わらないし」

从 ゚∀从「へえ、なに? なんか事情でもあんの? 子供の頃から宗教やってたわけじゃなさそうだけど」

ξ゚⊿゚)ξ「あんたにはあんまり話したくないわ」

从 ゚∀从「いーじゃん、お前馬鹿じゃなさそうだし、面白そうじゃん?」

ξ゚⊿゚)ξ「面白くないから」

从*゚∀从「あ、そーだそっちの宿に泊まるのか? 俺も取ってるから飲みながらでも話そうぜ!」

川 ゚ -゚)「む、いきなりなんなんだこいつは」

从*゚∀从「なぁなぁ、そっちの美人さんはどういう人なんだ? よく見りゃ修道女の連れが黒づくめじゃねーか!」

ξ゚⊿゚)ξ「吸血鬼よ」

从*>∀从「んーな馬鹿言っちゃってよー! こんなとこで流行んねー嘘つくなって!」


314 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 10:34:14.17 ID:WznWHEl+0
从;゚∀从「マジでえええええええええええええ!? ありえねえええええええええ!」

二人は白衣に連れられてきて、ブーンを差し置いてさっさとカウンターについてしまった。
白衣はすぐさま酒を持ってくるように頼み、二人に向かって話し始めたと思えばこれである。

( ^ω^)「誰だお?」

ξ゚⊿゚)ξ「ハインなんとか」

ツンの横につくブーン。
白衣、ハインはそれに気付いていないのか、一生懸命クーに質問攻めをし始めていた。
なにやら小難しい話をしており、傍からでは聞き取る気になれないほどにまくしたてている。

从;゚∀从「え、なにそれ? そういう話になるってことは、魔女はなんなの? なんかおかしくね?」

ξ-⊿-)ξ「あー、本当に魔術とかつかうわよー、そうねー、あぶないわねー」

从;゚∀从「マジでえええええええええええええ!? ありえねえええええええええ!」

川 ゚ -゚)「こいつ、ツンみたいな男だな」

ξ;゚⊿゚)ξ「え、私こんなにやかましいの?」

从 ゚∀从「待とうぜ、俺は女だ。なんならおっぱい見るか?」

( ^ω^)「あぁ、なんか口調に違和感があると思ってたお」

川 ゚ -゚)「ほう、凛々しい面構えで判断に迷っていたんだが」

ξ; ⊿ )ξ「うえぇぇぇぇぇぇマジでええええええええええええ!?」

316 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 10:42:59.38 ID:WznWHEl+0
ツンの叫びと同時に、カウンターには酒が振る舞われた。
これにより未だ夕方を過ぎて間もないこの瞬間から三人の宴が始まってしまう。
ハインが音頭をとり、ツンやクーが仕方なしに乗る、という初手から。

从*゚∀从「ぬっはっはっは! おまえすげえイケるんだな!」

ξ*゚⊿゚)ξ「私ニュー速最強なんで! ねえおばさん! じゃんじゃん持って来ないとクレームつけるわよ!」

川*゚ -゚)「ふへへ、酒はうまいなぁ……」

こんな調子に三人は、浴びるように。
ハインの波長はツンと等しいようで、最初の一杯以降、それは止まらない。
やがてそんな様子を離れて眺めていた一人は、ふらふらとその雰囲気に釣られてしまっていた。

ノパ⊿゚)「なぁなぁ、なに盛り上がってんの? それうまいの?」
 _
(;゚∀゚)「バカほんとやめてくれって! すいませんみなさん!」

( ´ω`)「いや……別に今なら、どんどん入ってきて構わないと思うお……」

後ろからの止める男はしきりに「すいません」と頭を下げるが、それを見るものは居ない。
騒ぎに飛び込んでいった赤髪を捕まえるのに必死で、三人はぎゃあぎゃあ騒いでいた。

从*゚∀从「おらおら名前なんてーの? なんならこのハイン様がつけてやろうか? やろうかぁ!」

ノハ;>⊿<)「ヒート! ヒートだから! やめろぉ! 巻きついてくんなって!」

ξ*゚⊿゚)ξ「私の巻き毛がなんだって? んん、美しいと? フハハハ貴様もそう思うかぁ!」

川*゚ -゚)「言ってないぞ! 誰も言ってないぞ! 私の髪が世界一だぞ!」

317 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 10:49:38.31 ID:WznWHEl+0
     「俺のおっぱいが世界一だぁぁぁぁぁ」
                                 「ぬぉぉぉぉぅ私が上だぁぁぁぁぁ」
 「貴様らの絶壁なんぞ誰も吸わんわ! 見ろ!」
                                「うわっ、なんだよぉ! お前ら服を……うわぁぁぁぁぁっ!!」

( ^ω^)「まぁ……こっちはこっちでゆっくり飲めばいいお」
  _
(;゚∀゚)「あ、ども……」

男二人は軽い食事をテーブルに持ってくるよう頼むと、適当に移動した。
こちらの商人はバカ騒ぎに乗るのが苦手なのか、それとも保護者として飲めずにいるのか。
とりあえず、食事が来るのを待つついでにブーンは適当な話題から切り出した。

( ^ω^)「そういえば、自己紹介がまだだったお。僕はブーンで、金髪がツン、黒髪がクーだお」
  _
( ゚∀゚)「俺はジョルジュです。あっちのは護衛のヒートで、これから聖地に行くんですよ」

( ^ω^)「僕らもだお。聖地には行商で?」
  _
( ゚∀゚)「まあ、そんなところですね。そちらは?」

( ^ω^)「連れの修道女にちょっと用事があって」
  _
( ゚∀゚)「わざわざ聖地に用があるなんて、あの若さでありながらなかなか高位の方なんですかね?」

( ^ω^)「だお。ま、美人だからしょうがないお」
  _
(*゚∀゚)「ははっ。確かにあれだけ美しいならば、『そういった』理由で戻されるなんてこともあり得そうだ」

( ^ω^)「今の教会なんてきったねえアホと勘違いした騎士しか居ないし、そのくらいの認識で丁度いいお」

318 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 10:56:07.32 ID:WznWHEl+0
それからはくだらない世間話と、騒ぐ女性達に茶々を入れてみたり、
ジョルジュが一向に酒を飲もうとしないのをヒートがひっきりなしに勧めていたり。

( ^ω^)「ていうかジョルジュは何売ってんだお? 装飾品以外だと」
  _
( ゚∀゚)「装飾品以外だと、行った場所での民芸品とか、あとは……武器が中心ですね」

( ^ω^)「武器……ということは?」
  _
( ゚∀゚)「……まあ、そういうことですね。『衣装』はまだなんですけど」

現在、携行は騎士とそれに準ずる者にのみ許されている刀剣類などの武器。
近年では火薬を用いた新型のものも商の社会に出回り始めているという話で、
それらを持っているということは、裏での力の証明に繋がる。

その中、火炎を生む腕輪のような魔導具もまれに流れており、手に入れた者を変える『衣装』と呼ばれているのだ。
しかしここ数年で『枯木の魔女』の動きがひそかに落ち着いたということもあり、この流れも収まりつつある。
そこでその減った流れで、それらを押さえ手に入れる商人。ということは、市場に影響力を持つ、ということになる。

この男ジョルジュはそれなりの若さを持ち、そういった『衣装』を含む、武器をさばく商人であるという。
『衣装』がまだとはいえ武器をさばけるようになっているということは、そこそこの手腕があるのだ。

さらに言えば、武器をさばく、すなわち誰かに武器を売り、使わせることができる。
それは、騎士への反乱分子とも言いかえることができる。

つまり彼は、ツンなどの視点から見れば、危険人物である、とも言える。

( ^ω^)「いや、わざわざそこまで言う必要は……」
  _
(;゚∀゚)「すいません……あなた達は何か不思議な雰囲気で。思わずポロッと」

319 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 11:01:35.70 ID:WznWHEl+0
( ^ω^)「ツンは聞いてないみたいだし、まあ一応黙っておくお」
  _
( ゚∀゚)「そうですか……すいません」

ツンが最初に出会った時、『衣装』すなわち魔導具に気付かなかったのならば本当に持ってはいないだろう。
もともとツンとブーンの目的は教会の反乱分子を潰すことではないので、余計なことはしない、という考えに至った。

( ^ω^)「でも、」
  _
( ゚∀゚)「はい?」

( ^ω^)「君が『衣装』を着込もうという時は、容赦しないお」
  _
( ゚∀゚)「……」

( ^ω^)「悪いけど、それはこの世に必要ないものだから」
  _
(  ∀ )「………いや」

( ^ω^)「ん?」
  _
( ゚∀゚)「力が得られるなら、人は仮初の『衣装』でも、喜んで着ます」

( ^ω^)「……」
  _
( ゚∀゚)「この世には確かに必要の無いものでも、『個人』という単位には、必要な時があるんですよ」

( ^ω^)「…………君は、暗い闇に染まってもいいのかお。心まで、体の芯まで枯らされても」

     「『騎士』が正義だと言い張っている世の中なら……俺はそれでも、構いません」

321 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 11:06:28.23 ID:WznWHEl+0
ブーンはその言葉に彼の心を見た。
途方もない憎悪が、そこに浮かんでいたのだ。

ブーンはこれ以上に踏み込むべきか迷った。
人としての意志を尊重するべきか、それとも合理的な、理性的な答えを突きつけるか。

ふいに、泣いていた彼女を思い出す。

彼女には何度も殴られ、過去の自分も持っていた『人』を見せつけられた。
それは自分にはもう存在しない、全うな生の在り方だ。

自分がそれを、ここで否定していいのか、わからない。

どうしてあの時、彼女が泣いていたか。
それは自身がどこに在るのかわからなくなっていたからか。
旅の目的を見失って、どうしようもなくなってやつあたりをしたからか。
子供たちに同情して、その想いを代弁するように気持ちをがむしゃらにぶつけたからか。

どれも違う。

ブーンが彼女の尊厳を、一方的な理性で踏みつけたから。
それは確実に間違いではない。あの時それが正しかったことも、彼女は解っていたはずだ。

しかし人は理性だけでは動いていない。
感情をもって、意志をもって、自己をもって、生きている。

それを、『正しいから』という理由で一方的に否定してしまっていいのか。
出会って数時間の人間に対し、『自分は正しいから今すぐ考えを改めろ』と、無神経に言ってしまっても。

彼の言う『個人』というくくりは、他人が土足で入り込んでいい領域ではないと、ブーンは思ってしまっていたのだ。

322 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 11:12:26.39 ID:WznWHEl+0
( ^ω^)「……」
  _
( ゚∀゚)「……」

見つめ合う。
言葉をひり出すのが億劫になりそうなほど、ジョルジュは真っ直ぐな目でブーンを見る。

( ^ω^)「……」
  _
( ゚∀゚)「……」

( ^ω^)「ジョルジュ……君の、信じるものは?」

ややあってブーンが絞った質問は、ひどく曖昧なものだった。
しかしそれは、今のブーンにはっきりと答えられる問いでもある。
この質問は、ブーンがまるで人のように振る舞うことができる、そういうもの。
曖昧である『信頼』、『信仰』は、しかしそれが自己の生の支えであるということを、ブーンは自答するように。
  _
( ゚∀゚)「屈することのない『力』と……揺らぐことのない『金』です。そしてこれからも、さらに大きなものを」

( ^ω^)「……そうかお」

ジョルジュがブーンの目から離した先に居たのはヒートだった。
あれが彼の持つ力であると、その態度が示している。
それは彼女そのものに対しての信頼か、彼女の持つ力に対しての信頼か。
彼の信じる二つをまとめて考えれば、おそらくは簡単に答えが出せる。

( ´ω`)=3「あーあ、やっぱり商業に関わる人間ってのは碌な奴がいないお」
  _
(*゚∀゚)「あははは! だから俺みたいな生き物は、いつの時代もこうやって生きて、そう言われていくんですよ」

323 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 11:17:11.72 ID:WznWHEl+0
从*゚∀从「おまえらぁぁぁぁぁ! もっと飲まんかコラぁぁぁぁぁぁ!!!」

ξ*゚⊿゚)ξ「私の酒が飲めんのかぁぁぁぁ!!」

(;^ω^)「うーわめんどくせえのが来たお」
  _
( ゚∀゚)「仕方ないっすねー」

( ^ω^)「じゃ、そろそろぐいぐい行くかお?」
  _
( ゚∀゚)「……そうですね!」

飛び込んできた二人に、男たちは半ばやけっぱちで酒を抱える。

長い旅路、長い人生での僅かな交錯の中、少しの間でも、互いを尊重できるように。

それが自己にとって、最も幸せであると知っているから。

雁首揃えてしかめっ面をしていて、誰が得をする。

右も左も笑って過ごす、そうしていた方が満たされるだろう。

ならばこの時間が嘘だとしても、虚構虚勢で形作られていたとしても。

酒を飲み、肩を組み、思いつく限りの言葉を投げ合って。

まどろんでゆく思考に、身を任せてしまえばいい。

ノパ⊿゚)「…………」


325 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 11:22:15.01 ID:WznWHEl+0
(*^ω^)「あついおー」
  _
(*゚∀゚)「なははははははは!」

なんとか女達が酔い倒れるところまで二人は持ちこたえた。
ブーンとジョルジュは気力で二人ずつを背負い、部屋へと運ぼうというところ。

(*^ω^)「あ! ツン落としちゃったお!」

縦に長いこの宿、階段が狭く背負うのが大変である。
  _
(*゚∀゚)「なははははははは!」

(*^ω^)「ジョルジュ達は二階かお?」
  _
(*゚∀゚)「ですねー! こっちの人もそうだと思います!」

ジョルジュはヒートとハインをかなり無理な体勢で背負うが、慣れなのか意外と安定している。
二階に上がるとその足取りで部屋に真っ直ぐ歩いてゆき、戸の手前でブーンに会釈をした。

(*^ω^)「さてー、」

三階の部屋へと二人を運び、さっさと眠りにつかなければ。
そう思い、息を深く吸いながら。

次の瞬間には、ブーンはどこかに倒れ込んでいた。
どうやら記憶が軽く飛ぶほど飲んでいたらしく、そのままその温かさに。

瞼は意識をするよりも、早く閉じていた。


327 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 11:27:13.17 ID:WznWHEl+0
不快、不快、不快、ただひたすらに、不快だ。
どうしてここまで気持ちが悪いのか、心当たりがない。

どうしてこうなってしまったのか。

はっ、そうだこの胡散臭い男に釣られてしまったんだ、簡単な話だった。
疲れていると記憶を引っ張り上げるのにもかなり体力を使うらしい。

……いいや、違う。

もっと、その後だよ、楽しいことがあったじゃないか。
一人、二人、三人、四人、たくさん人がいたじゃないか。

なんだろう、思い出せない。

あんなに満たされたはずなのに。
久しぶりに、あんなに笑った、はず、なのに、なぁ。

痛い、頭が痛い、どうしてこんなに、痛いの?

助けてよ、助けて、頭が割れそう、辛い、辛い、辛い、ねえ、誰か。

ねえ私、どうして、こうなってしまったの?

はっ、そうだこの胡散臭い男に釣られてしまったんだ、簡単な話だった。
疲れていると記憶を引っ張り上げるのにもかなり体力を使うらしい。

さて、これからどうするんだっけ。

ノハ ⊿ )「そうね……まずはあの不快な声の女を、殺しましょうね」

328 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 11:32:08.87 ID:WznWHEl+0
ノパ⊿゚)「ここ?」

二階には白髪の女とジョルジュしかいなかった。
ならば三階。そこに、あの女がいるはずだ。

ξ*-⊿-)ξ「……くぅ、くぅ、」

川 - -)「すぅ、すぅ、」

(  ω )「う、う、う、ぅ……」

一人が惨事になっているが、関係無い。
私は本能に従う。従わなければ、ならない気がする。

腰の刃に手を伸ばした。
過去、何人もの人間を殺してきた刃だ。
護衛だっつってんのに、私を無視して商人を襲おうとするから悪い。

あれ、おかしいな、なんで、私はこの人を殺そうとしてるの、
自分から人を殺したことはない、よね?
あれ? あれ?

手が震えてる、なんで、私は殺したいんじゃ、

できないよ。
なんでこんなことしようとしてるの?
変だよ、私変になっちゃったよ、おかしいよ。

ノハ ⊿ )「……うるさいわねえ、殺すのよ。……ね?」


330 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 11:37:05.03 ID:WznWHEl+0
ξ*-⊿-)ξ「んん~?」

寝ている女の腹に跨り、顔を突き合わせる。
白い肌に、私の頬が当たる。

ξ*-⊿-)ξ「ぬふふ、ブーン?」

ノハ; ⊿ )「!!」

ξ*-⊿-)ξ「……くぅ、」

寝言か。
驚かせやがって。

さあ、手の刃を。
この白い首に、突き立てなければ。

     「おい」

後ろの声もどうせ寝言だ。
こいつを、さあ、振り下ろして、うう、ああ、ぅぅぅぅ、

川 ゚ -゚)「何をしている」

ノハ; ⊿ )「がっ!」

次の声と、同時に背中にすごい衝撃が来た。
なんだ、これ、壁が―――。

あれ? 落ちて、る?

332 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 11:41:42.26 ID:WznWHEl+0
川 ゚ -゚)「なんだこいつ……どうしたんだ……?」

ノハ# ⊿ )「ハァァァァァァァァァァ……ァァァァァ……」

三階からヒートごと壁を蹴破ったクーは、その落下点に飛び降りた。
するとそこには落下の衝撃にまったく動じていない、様子のおかしな彼女がいる。

深く息を吐き続け、眼は真っ赤に充血し、肩ほどだった赤い髪が腰まで伸びていた。
そのうえ落下の衝撃にふらついて立ちあがったのかように見えたのだが、その体に傷は無いようである。

川 ゚ -゚)「ああ、これが魔導具とかいうやつか?」

ノハ# ⊿ )「……」

川 ゚ -゚)「……ん? でもツンは魔導具を察知できるんじゃなかったのか?」

ノハ# ⊿ )「……」

川 ゚ -゚)「おいヒート、」

ノハ# ⊿ )「?????」

川 ゚ -゚)「それ、」

     「………ハァ……」

熱い息がクーの鼻に掛けられた。
二人の距離はすぐそこまでに迫っていたのだ。
そのままヒートは両手でクーの肩を鷲掴み、頭を後ろに振りかぶり。
赤髪を一本の太い線のように視認した時には、クーのその顔に、ヒートの額が突き刺さっていた。

334 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 11:47:15.46 ID:WznWHEl+0
川  - )「くっ、そ……私の頭はなぜ頻繁にこんな目に……!」

全体重での頭突きを喰らい、クーは仰向けに地面に伏した。
肩が軽く地にめり込んでいるが、そんなことを気にしてはいられない。

ノハ# ⊿ )「ぎ、」

クーの真上に立ったヒートが、固めた拳を振り上げていたのだ。

川 ゚ -゚)「悪いが、少し腹が立ったぞ」

拳は待つことなく垂直に下ろされた。
しかしクーはそのヒートの拳を、握った両の拳で左右から叩き潰すように止める。

ヒートは一瞬怯んだ。手の痛みによってなのか、止められたことによってなのかは読めない。
だがクーはおかまいなしに、止めた拳を両拳で蛇口のように捻り、ヒートの半身ごと腕をねじる。
ねじった勢いを逃がさないように拳を解き、すぐさまヒートの腕を掴むと、さらにねじる。

川 ゚ -゚)「私に歯向かったことをせいぜい後悔しろ」

クーは立ちあがりながら、ねじり、ねじり、無理矢理引っ張り、腕の付け根に拳頭を叩き入れる。
するとヒートの肩の関節が外れ、ぶらりと腕がしなった。
そしてその腕を片手で掴んだまま、クーはヒートの脇腹に爪先を突き刺した。

ノハ; ⊿ )「がっ!」

一度、二度、ヒートの体を横にへし折ろうというのか、その脇腹のあたりに踵や脛で何度も蹴りを入れた。
四度目以降、ヒートの口から血が玉のように出てくるが、クーに容赦はなく、止まらない。

川 ゚ -゚)「おい。土下座するかここで死ぬか選ばせてやるから、生きろ」

336 名前:ついにさるさんキタ━━━━━━(゚A゚)━━━━━━ !!!!!:2010/04/17(土) 12:00:03.22 ID:WznWHEl+0
十六度目の蹴りを入れた途端、ヒートは全身の糸が切れたかのように体を野垂れさせた。
クーがその背中を蹴り倒すと、べしゃり、と彼女自身の血だまりにうつ伏せに倒れ、ぴくりともしなくなる。

川 ゚ -゚)「ああ、死んだか、」

ノハ*゚⊿゚)「――ねえ! あなたなかなか強いわね! どういうものなのかしら? ん?」

しかし、うつ伏せの体の頭だけをクーに向け、突然ヒートは夕方の時のような軽い調子の声で、狂ったように目を見開いた。

川 ゚ -゚)「…………何だ?」

ノハ*゚⊿゚)「あなたは知ってる? これは私の構築した二百個目の秘蹟、『レーヴァテイン』なの。
     この力はねえ、すごいのよ? 最初の秘蹟の上位互換といったところかしら。ね。
     私の魔術での肉体活性と放出層を感情、記憶、生命力と直結させて、自動的に無尽蔵になるように書きつけたのよ。
     そしてね、どうしてこれが『レーヴァテイン』なのか、ここが一番推したい部分なんだけど、わかるかしら?」

捲し立てるヒートは、自身の声でないような、饒舌なものをクーへと。

川 ゚ -゚)「知らん」

     「この子達は、私の『剣』なのよ」

言葉を言いきる寸前、倒れていたヒートの血が弾けた。

ヒートは血を口から垂れ流したまま、蜘蛛のような無茶苦茶な体勢で飛びあがったのだ。
それと同時に耳を引き千切ろうとしたのか、手をかぎづめのようにクーの頬に伸ばす。
クーは寸前で避け距離を取ったが、僅かに掻かれそこから血を流してしまった。

川 ゚ -゚)「秘蹟ということは………魔女、……なのか?」


337 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 12:05:23.33 ID:WznWHEl+0
ノハ*゚⊿゚)「へえ、やるじゃない。あなたもなかなか物を知っているのね。
      いい匂いがするのはそういうわけかしら? ふふ、やったことが多すぎてわからないわね。
      でもね、違うの、間違ってる、私は魔女じゃないわ、私はもうとっくにそれを越えている、」

川 ゚ -゚)「ならば貴様は、」

ノパ⊿゚)「神」

川 ゚ -゚)「……なんだと?」

ノハ*゚⊿゚)「私は、神だから、もう人とか越えてるから、すごいんだから。
     どうして『秘蹟』なんて名づけたか知らないでしょう? これは昔の教会への皮肉。
     神に給われるものだと勘違いしている愚か者に、教えてあげてるのよ。
     私が万物を操るの、私が全てを司る者なの、ねえあなたには、わかるかしら?」

川 ゚ -゚)「わからん」

ノパ⊿゚)「――解れよ、間抜け」

話しながらヒートが接近していたことを、クーは気付いていなかった。
正確にいえば、気付けなかった。彼女の真っ赤な眼に無意識で釘づけにされていた。
「間抜け」。その言葉がクーの耳元で囁かれたのは、既に過去のこと。
クーの体は、ヒートに足を向けて宙を舞っていた。

側頭部をヒートの拳に殴り飛ばされていたのだ。
クーがそのことに気付くのは、つい先程まで酒を飲んでいた席に、木の破片を崩しながら自分が飛び込んでいた時。
宿の一階は大きな穴を壁に空けると、ぱらぱらと割れたものが崩れ、クーはふらつく頭でそこを遠目に覗いた。
しかしその先にあったのは、これほどの力があるとは到底思えない、月下の草原に立つ少女の小さな影一つだけだった。

川  - )「む…………ならば……本気で殺してやっても構わんか……」

339 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 12:10:55.02 ID:WznWHEl+0
ノパ⊿゚)ノシ「ねー! あなたは死にたいかしらー? 今度はあなたに選ばせてあげるわよー!」

ヒートは手を振って、暗い宿の中に大声をかけた。

ξ#゚⊿゚)ξ「死にたくないわー! ドアホー!」

彼女に声を返したのは、ばたばたと階段を駆け降りてきたツンだった。

ノハ#゚⊿゚)「あ゛! 気に入らねえ女ぁぁぁぁっ!!」

川 ゚ -゚)「あ、ツン……起きたか……」

ξ゚⊿゚)ξ「なにあれ、どうなってるわけ?」

川 ゚ -゚)「あれは、魔女の剣だとか、なんとか、」

ξ;-⊿-)ξ「うーん? 剣とは言っても……魔導具じゃないはず。けど、魔術の波は感じるのよねぇ……」

二人の方にじりじりと歩いてくるヒートを見つめながら、ツンは考える。

あれには、彼と同じものを感じるような気がする。
ならばどう対応すべきなのだろうか、戦う意味はあるか。
もし戦ったとして、問答無用で消せるほど生半可な力なのか。

ノハ#゚⊿゚)「てめえ吹き飛ばすからせいぜい覚悟しとけ!!」

ヒートの宣言の通り、彼女のだらしなく下げられた両手から小さな光が漏れていた。
蝋燭の明かりのような小さな赤の光は、徐々に彼女の腕全体を侵食し、濃度を増やす。
気がつけば鈴を鳴らすような音をもって空気を削っており、明らかな力の集約を感じた。
しかも今の「吹き飛ばす」という言葉。なら、あれをこちらに向けてくれば、どうなるか。

340 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 12:15:59.29 ID:WznWHEl+0
ξ゚⊿゚)ξ「クーさん、寝てる人たちを宿から出して」

川 ゚ -゚)「いけるのか?」

ξ゚⊿゚)ξ「そっか、まだクーさんは見てないもんね」

川 ゚ -゚)「ああ」

ξ゚⊿゚)ξ「多分いける。あの子の手で留まってる力は、きっと魔術と同じもの」

川 ゚ -゚)「違ったらどうする」

ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ、あれは『絶対』に魔術よ」

川 ゚ -゚)「………わかった、任せる」

クーは一気に宿を駆けあがった。
主人たちは離れの小屋に住んでいる。寝ている彼らを回収すればどうにかなる。

ξ゚⊿゚)ξ「とは言っても、」

ヒートの手に溜まる力の判別はどう取るべきなのかわからない。
枯木の魔女ではないことは確か。昔ブーンから聞いていたが、魔女はむかつく顔らしいから。
しかしこの空気の割れるような感覚は、間違いなく魔術のものだと言いきれる。

ツンは全身に施された錬金術により、空気中に魔術の香、臭いがあれば常にそれを分解するようになされている。
それによりツンは、負の感情を喰らって魔術を発生する魔導具の存在を、香の強い方に向かえば追うことができる。
同時にその恩恵として、空気中の魔術を分解する際、分解した分の魔術を自らの身体能力の糧としているのだ。

そして現在、宿の外に居るヒートからは魔術の奔流を感じ、ツンの体は完全に活性化していた。

342 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 12:20:42.04 ID:WznWHEl+0
ξ゚⊿゚)ξ「ほんと、どうしたもんかな……」

貫通した大穴から宿の外に出ると、さらにその先でヒートが喚きながら立っている。

ノハ#゚⊿゚)「ぁぁぁぁぁあ? そこで喰らってみるかクソガキ! この距離ならてめえが氷山だろうがかっ消すぞ!」

ξ゚⊿゚)ξ「あなたそんな子じゃなかったじゃない」

ノハ#゚⊿゚)「こいつの話なんざ知るか! てめえが近くに居たらいちいち断線してうぜえんだよ! 繋ぐ苦労も考えろ!」

長い赤髪を振り乱し、同様の色に染まった赤の腕がツンの方を向いて小刻みに震えだした。
おそらくその様子は、魔術を放出する準備ができているということだ。

ξ゚⊿゚)ξ「全っ然、わけわかんないんだけどさ、」

だがそれはツンにとってはあまりも遅く、緩慢とした動きに見えた。
ヒートから溢れる魔術の流れは、それだけツンを強くしている。

ξ゚⊿゚)ξ「それ、めちゃくちゃ危ないよね」

正面に立ち、ヒートが手前に伸ばしていた両掌を、ツンの掌が掴む、いや、握る。
少女がまるで遊戯でもするかのように、ツンの掌とヒートの掌は組まれた。

ノハ# ⊿ )「ぁぁ………っぜえなぁ……だったらこいつごと消えやがれ!!」

がっしりと絡みあう指、しかし暴れるヒート。ツンの眼前で叫び倒して、掌の上から全身まで響かせるように暴れ狂う。
そのヒートに伴うように、組まれる手の間では先程の力の集約、躊躇いを知らないヒートの赤色の魔術は、きりきりと光を強めていく。

彼女の掌には放出という衝撃。やがて一瞬の間を置き、破壊と破壊の破壊は、零距離でぶつかり合った。


343 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 12:25:30.66 ID:WznWHEl+0
ξ# ⊿ )ξ「ぐおおおおおいってえなちくしょおおおおおおっ!!」

赤が滝のようにヒートの掌から生まれた。それは僅かに手の間を飛び散り、足元の草原の一部を弾き飛ばした。
魔術は組まれたツンの掌を直接、突き刺すかの勢いで押しにかかっていた。

ノハ#゚⊿゚)「なんだ……? てめえ、どうなってんだよ!!」

真っ赤な目を見開き、ツンの鼻に噛みつきかかる狼のようにヒートは吠える。
二人の掌の上では血のように赤い滝の衝撃と、太陽のように白い閃光が拮抗していたのだ。

ξ# ⊿ )ξ「私にはねぇぇぇぇぇぇ!! 魔術は効かないぃぃぃぃぃぃたいいたいたいたいってばああああああ!!」

更に手を握る力を強めるツン。この衝撃の一片すら逃がさないように、強く。
掌は大きさを増した白に覆われ、白はヒートの赤を喰らいつくすように徐々に広がっていた。
それはツンからヒートへ、ヒートの掌からその体へ。

ツンの白の光は、ヒートの魔術の源泉に向かって走る。

ノハ;゚⊿゚)「なっ、くそ、再構築が、追いつかない……っ!!」

ξ#゚⊿゚)ξ「なに言ってるか、わかんねえっつうの!!」

組んだ手、徐々に弱まる力にヒートの動揺が見えた。
その隙を狙い、分解した魔術の恩恵を受けた体で一発の頭突きを全力で見舞う。

ノハ; ⊿ )「!!」

脳に響く鈍い音はヒートの額を割り、血液が噴水のように飛び散った。
勢いのままツンが地面に押し倒すと、彼女の気絶に伴うように、赤の魔術も潮が引くように消えていく。
同時に、息を切らしたまま垂れる額の血は、消し飛ばした魔術よりも深い赤色をしているなあと、ツンは思った。

344 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 12:30:44.93 ID:WznWHEl+0
ξ;⊿;)ξ「いぃぃぃ―――っ!!」

ヒートが完全に落ちたのを見て、暗い草原にのたうちまわり始める。
気合で押し通したとはいえ、魔術を分解していても衝撃を逃がし切れてはいなかったのだ。
手を必死に押さえて、見づらい中でその様子を確かめてみるが、一応傷がなかったのが救いだった。

川 ゚ -゚)「見てたぞ、ツン」

と、背後にクーが立っていた。
そこに向かって飛びつくようにツンは草原を転がる。掌の痛みを、何かどこかに報告しなければいけないような感じに。

ξ;⊿;)ξ「あぁぁぁ、クーさん……いたぁい………」

川 ゚ -゚)「なんかすごいな、あれ」

ξ;⊿;)ξ「うん……でもなんでヒートが魔術を……」

川 ゚ -゚)「いやお前の話なんだが……」

ξ゚⊿゚)ξ「そだ、みんなは避難させた?」

川 ゚ -゚)「あー、一応、な」

ξ゚⊿゚)ξ「ん、歯切れ悪いね?」

川 ゚ -゚)「ブーンの奴の顔がゲロ塗れだったし、」

ξ;゚⊿゚)ξ「えぇ……またかよあいつ……」

川 ゚ -゚)「あと、……ジョルジュと言ったか? そいつが居なかったぞ」

345 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 12:35:31.71 ID:WznWHEl+0
⊂从*=∀从つ-ω-ノハ-⊿-)

ξ゚⊿゚)ξ「確かに、部屋には居なかったわね……」

川 ゚ -゚)「あ、ハインまでゲロまみれに……」

ξ゚⊿゚)ξ「とりあえず、ヒートが起きるまで待ちましょう」

川 ゚ -゚)「宿がぶっ壊れているが、大丈夫なのか?」

ξ゚⊿゚)ξ「いいのよ。ここ、結構な頻度で壊れて建て直しまくってるから」

川 ゚ -゚)「なぜ」

ξ゚⊿゚)ξ「たまーに、過激派が攻めてくるのよね。ラウンジ教潰し隊みたいなやつ」

川 ゚ -゚)「ほう。で、宿がぶっ壊れているが、大丈夫なのか?」

ξ゚⊿゚)ξ「え? だから、」

川 ゚ -゚)「これじゃ危なくて寝れんぞ」

ξ゚⊿゚)ξ「……寝るつもりだったの?」

川;゚ -゚)「え? 寝ようよ! 私寝たいよぉっ!」

ξ゚⊿゚)ξ「ヒートが目を覚ました時に私達が寝てたら逃げられちゃうじゃない。ていうかなにいまの」

川 ゚ -゚)「ツンは子供には弱いから、寝ても文句言われないようにな。いやー、これは見事な予防線だなあと我ながらおm


346 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 12:40:32.02 ID:WznWHEl+0
( -ω-)=3「ふぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

目を覚ますと何故か草原の上に寝そべっていたブーン。
起き上がって周りを見ると、昨日寝ていたはずの宿が崩壊しているではないか。

(;^ω^)「こいつぁ一体……ッ!!」

ブーンの横では、女達が全員寝ているうえにゲロ臭い。
これは降り注ぐ太陽光に、ゲロの処理を任せるしかないのでは。

( ^ω^)「いや、さすがに井戸借りるか……」

主人たちの家の方に井戸があるという話を既に聞いていたので、そちらへと歩いていった。


ノハ;゚⊿゚) そ 「ぬぱっ!」

( ^ω^)「あ、起きたかお?」

ノパ⊿゚)「……?」

起きたヒートは不思議そうに、大きな桶を持ったブーンを見つめる。
そのまま手を地面に触れたり、濡れた自分の体に触れたり、何かを確かめるように。

( ^ω^)「ヒート、宿が酷い有り様なんだけど何か知ってるかお?」

ノハ;゚⊿゚)「も……? あぁーれぇすいません……あなた、どちらさまで?」

( ^ω^)「……あら…………ら?」

348 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 12:45:33.45 ID:WznWHEl+0
やってきた主人たちに、ようやく起きたツンがこの惨状をブーンとハインもまとめて説明した。
魔術云々は説明がしにくいので、今居ないジョルジュが爆発した、ということで納得させて。
そのため主人たちは壊れた宿の復興手続きのため、再度家に戻って書類などの準備をするという。

そこで隙をついて、今の内に宿の一階に滑り込んで全員を座らせることにしたブーン。
大穴の程度は人三人分くらいだったので、そこそこ大きなこの宿、まだ崩れるほどではないという判断である。

( ^ω^)「で、結局?」

ξ゚⊿゚)ξ「まさかヒートの記憶が飛んでるなんて……」

( ´ω`)「ジョルジュったらあの野郎……悪い奴じゃなかったのにねぇ……」

ξ゚⊿゚)ξ「いや、ぶっ壊したのはヒートなんだけど……彼女、純粋な魔術を使ってたのよ」

( ^ω^)「……何か変なこと言ってたかお? まさか魔女が化けてたりするかも」

ξ゚⊿゚)ξ「え? 私にぎゃーぎゃー叫んでたからわかんないし、わかんない」

( ^ω^)「んー。じゃあ、魔女ではないお。魔女だったらべらべらべらべらなんかしゃべる筈だから」

ξ゚⊿゚)ξ「魔女ではない、ってじゃあなによ。私が崩せるんだから魔術使ってたわけだし、」

川 ゚ -゚)「ツン、魔女の剣だと言っていたと言っただろう」

( ^ω^)「なにそれ、イッテイタトイッタ?」

川 ゚ -゚)「ヒートはレーヴァテインという秘蹟だと言っていた。ちなみに私はヒートにぶっ殺されかけた」

从 ゚∀从「なにがなんだかわかんねーけど、ヒセキって宗教の話か? 俺暇なんだけど」

351 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 13:02:03.62 ID:WznWHEl+0
( ^ω^)「秘蹟……あぁ、なるほど」

川 ゚ -゚)「お前と同じようなものか?」

( ^ω^)「経緯は違うだろうけど、多分同じ」

ξ;゚⊿゚)ξ「え……? ってことはあんたも魔術使えるの? 狩っていい?」

( ^ω^)「僕のは別に秘蹟によって魔術が使えるようになるわけじゃないお。名前違うし」

川 ゚ -゚)「二百個目の秘蹟とも言っていたな。それから、あのときのヒートは様子がおかしかったぞ」

( ^ω^)「ふーん、二百ねぇ……。いいお、とりあえずヒートに聞いてみるお」

ξ゚⊿゚)ξ「でも、あの子は何も覚えてないでしょう?」

( ^ω^)「ツンが秘蹟を壊したなら、その直前までの記憶ならありそうだお」

そう言って、カウンターのグラスを勝手にいじるヒートの方を向いた。
いじりながら時折きょろきょろと頭を回して、納得のいかないような不思議そうな顔し、またグラスをいじっていた。

見たことのない場所、見たことのない人が居て、自分はどうしていいのかわからないらしい。
それでも落ち着きの無いところは本質的な部分のようで、それだけは、彼女が彼女であると示しているようである。

ノパ⊿゚)「……あのー、ここ何処なんですか?」

( ^ω^)「君は自分のことをどれくらいわかっているんだお?」

ノハ-⊿-)「あー、そういえば私は誰なんですかねー? みなさん的にはヒートでいいのかな? 私は別にそれでもいいけど」


352 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 13:07:11.54 ID:WznWHEl+0
( ^ω^)「ツン、」

ξ゚⊿゚)ξ「ええ、これは、うん」

从;゚∀从「なんか事態が深刻じゃねーか! 何があったんだよ! 俺の手は臭かったしよー!」

( ^ω^)「なんだろ、魔女の剣……剣ってことは、まさか人じゃないのかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「いやいや、それは流石に話が飛びすぎじゃ……」

( ^ω^)「……『ホムンクルス』?」

ξ ⊿ )ξ「………いや、」

( ^ω^)「ツンなら知っているはずだお。過去、錬金術師たちが手を伸ばそうとした愚行を」

从 ゚∀从「あー、それなら知ってるぜ。昔のイカれた錬金術師がやってた研究な。
      人間造るとか、ヤりゃデキんだから必要ねえだろうに」

ξ゚⊿゚)ξ「あれは一度たりとも成功しなかったわ、現存するどの文献にも、まともな記録はないもの」

( ^ω^)「枯木の魔女は、それを成功させたかもしれない」

ξ゚⊿゚)ξ「あり得ない、私の父も、祖父も、それを否定する側の人間だった」

( ^ω^)「あいつは世界を知ってるお、それくらい不可能じゃないのかもしれ――」

ξ#゚⊿゚)ξ「――絶対にあり得ないってば! あんな方法で、人を作れるはずがない!」

( ´ω`)「わーかったお、なんでそんなに怒るんだお。じゃあその可能性は置いておくお………」

353 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 13:13:10.22 ID:WznWHEl+0
川 ゚ -゚)「まあまあそれはないとして。魔術以外の要因かもしれないじゃないか。ツンの頭突きとか」

从 ゚∀从「魔術はよくわかんねーけどよー、頭突きでそんだけ記憶飛ぶなんてそれこそありえねえって」

( ^ω^)「やっぱ考えんの無理。とにかくこの子、どうするお」

ξ゚⊿゚)ξ「うーん、ヒートがこんな感じだとジョルジュの動向も気になるし……」

( ^ω^)「あいつは聖地に行くって言ってたお。荷物は置いてないし、多分そこに向かってるはず」

ノハ;゚⊿゚)「あーのぉ……私どうしたら? 金髪姉御たちについてく感じなの?」

( ^ω^)「いや、行かない方がいいと思うお」

ξ゚⊿゚)ξ「それには賛成。ジョルジュのところに行ったら、何が起こるかわからないわ」

川 ゚ -゚)「でもお前達はそっちに行くんだろう? 私が適当なところに連れて行ってもいいが、いかんせん人脈がない」

ξ゚⊿゚)ξ「じゃあハインは? ハインはニュー速だったよね?」

从 ゚∀从「ああ俺か? まあ別にいいけど、ヒートはどうしたい?」

ノパ⊿゚)「うーん、どうしよ……」

ξ-⊿-)ξ「こっちに来たら頭が突然爆発するわよー」

ノハ;゚⊿゚)そ「なにぃっ! じゃあハカセの人にする! 爆発は絶対やだ!」

从 ゚∀从「ハカセっつーか……まあいいや、俺はハインな。行くあてがないなら助手としてコキ使ってやるよ」


354 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 13:18:23.78 ID:WznWHEl+0
部屋から荷物を取り出し、五人はそれぞれ、ここを発つ手筈を整える。
ヒートはハインについていくことに文句はないらしく、黙って自分の荷物、主に宿からもらった食料を担いでいた。

ξ゚⊿゚)ξ「それじゃ、私達は聖地に」

从 ゚∀从「俺たちはニュー速に、だな。またどっかで会おうぜ、はみ出し者」

ξ゚⊿゚)ξ「あんたこそめっずらしー女性研究者なんだから、なんかすごい発明でもしなさいよ」

从 ゚∀从「まー待ってろって。未来はこの手にあんだからよ」

( ^ω^)「……き、…………」

川 ゚ -゚)「未来か。お前が科学の教本にでも載る日があるのならば、それを楽しみにしているぞ」

从;゚∀从「あ、そういやあんたは長生きなんだっけ? やべーなぁ、なんもできなかったら言い訳できねえ」

ノパ⊿゚)「私ものるのか?」

从 ゚∀从「俺様の助手としてな。逃がさねーから覚悟しとけ」

ノパ⊿゚)「ふーん、じゃあ頑張る」

ξ゚⊿゚)ξ「頑張ってね。私も私の目的を果たす」

从 ゚∀从「ま、お前のほうは結局よくわかんなかったけどな。そのうち名を挙げることがあったらなんか食わせろ」

( ^ω^)「……うん。君達の造りあげる未来、楽しみにしてるお」

ξ-⊿-)ξ「さー、行くわよ」

355 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 13:21:19.81 ID:WznWHEl+0
彼らは宿を去って、一つの別れが訪れた。

ノパ⊿゚)「……」

その背中を見つめて、思う。
彼らは旅の途中、この宿に泊まったのか。

だったら自分はなぜここにいたのだろう。
彼らのように、旅をしてきたのでは?

从 ゚∀从「どした?」

ノパ⊿゚)「ハインはここに何しに来たの?」

从 ゚∀从「この辺の山で磁石採ってただけだけど」

ノパ⊿゚)「じゃあさ、私は何をしていたと思う?」

从 ゚∀从「え? 旅だろ?」

ノパ⊿゚)「だよね、」

漠然とし過ぎていた。
『どうして』旅をしていたか、それを本当に覚えていない。
まるで、思い出すのを拒んでいるような。

ノパ⊿゚)「ま、いっか」

从;゚∀从「あ! おい待て! そこはでっかい穴が!」


356 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 13:24:14.79 ID:WznWHEl+0
ノハ;゚⊿゚)「ぬぉわっ!」

大きな穴に、足を突っ込んで。
頭からゆっくりと落下していった。

体が宙を転がる。
滅茶苦茶に土がぶつかる。
頭を打つ、肩を打つ、腰を打つ、腕を打つ、足を打つ。

痛い。

ノハ;>⊿<)「あうっ、死ぬかと思った………」

从;゚∀从「大丈夫か!」

ノハ;-⊿-)「大丈夫……だ、よ、?」

頭がぼんやりとする、なにか、ひっかかる。あーっ、あーっ、うーん。
あれ、衝撃でちょっと記憶が戻りそうなの、かな?

从;゚∀从「ロープ的なもの借りてくるからちょい待ってろ!」

なんだっけ、そうだ、旅をする理由。
あの商人、そうだ、ジョルジュ。
あいつだ。

あいつが言っていたこと、あいつの目的、あいつとの旅、何か、何かあった。

あと少し、あと少しで思い出せる、そうだ、壁に頭突きしよう、


357 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 13:27:22.82 ID:WznWHEl+0
    「ラウンジ教は愚者の集い」          「連れていけ」
                      「神、神、神」
 「ここで証明をしてみせる」                           「素晴らしい力だ、これが神の力だ」
                    「じゃあ私が生贄になってもいいよ?」
  「宗教なんて真に受けるな」
                         「信じてないから、やってもいいって言ってるんだよ」

     「さあ、このお守りを、困っている人達に配りましょう」
                                      「私の娘は呪われてしまった」
  「ああ、ああ、血だらけじゃないか」  あ、思い出せた。
                                    「大丈夫、これでも生きているから」
 「ラウンジ教の騎士は、教えなど全うしていない」
                                 「そうだ、力ばかり振り回して、商の妨げになる」
  「しかしラウンジ教は、騎士を正当化している」
                                  「神の力が要る」 「神はここにある」 「神は人についている」
 「まずは私のお守り、私の一部を、世界中に」
                              「力の無い商人達は、ここで連合をつくる。横暴な騎士共には振り回されんぞ」

 「いつか我らが神の温床が広まった時、その時に力をもった俺達商人の力で、ラウンジ教を、騎士達を潰そうじゃないか」

 「やぁ、俺はジョルジュだよ。色んなところを回って、お守りを配ってきたんだ」

 「私はヒートだけど、何? 商人なの?」                 「あら、今度はあの子が旅に出るのね」

 「まあね。それより、君は最初の聖女だって聞いたよ」         「礎となってくれたあの子には、感謝をすればいいのかしら」

 「またその話か………私は嫌だって言ってるじゃん」          「だったら、あの子が出掛ける前に」

 「違うよ。ここを離れて旅にでも行こう。世界はとても広いんだ」    「私の剣となるための、補填をしなきゃ。ね、」


358 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 13:30:21.16 ID:WznWHEl+0
ノパ⊿゚)「ジョルジュは…………そっ、か……。ねえハイン! ちょっといいかな!」

从 ゚∀从「どした! 体が死んだか!」

ノパ⊿゚)「さっきの金髪姉御は? あれ修道服だよね?」

从 ゚∀从「あ? そうだけど、もう行ったぞ?」

ノパ⊿゚)「私思い出したんだ! ジョルジュが聖地に向かってた理由!」

从 ゚∀从「なんだー? 俺別に興味ねーぞー」

ノパ⊿゚)「あいつ! 悪い奴らと結託して武器を運んで、聖地を潰そうとしてるんだよ!」

从 ゚∀从「……マジで?」

ノパ⊿゚)「神がどうとか言ってた! そいつが先導して、ジョルジュとかにお守りを作ってた!」

从 ゚∀从「なんだよまーた宗教かよ……。そんなの別に、騎士が勝手に片付けるだろー?」

ノハ;゚⊿゚)「いや違うんだって! 本当にあの女、すげー力を持ってて!!」

从 -∀从「わかったってばー。お前これから俺の助手なんだから、そういうの考察できるくらいにならねーと」

ノハ;゚⊿゚)「信じてくれよ! ジョルジュ達はそのお守りとかを運ぶために分散して動いてるんだ! やばいんだよ!」

从 -∀从「まじでー? ちょーやべーじゃん? 宗教バンザーイってか? とりあえずロープ借りてくるから、さっさと帰るぞ」

ノハ;゚⊿゚)「私の頭の中に居たのも、その神とか言ってた奴なんだってば! 私が金髪姉御を殺そうとしたのも、きっとそのせいだ!」


359 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 13:33:23.28 ID:WznWHEl+0
( ^ω^)「そういえば、」

ξ゚⊿゚)ξ「ん」

( ^ω^)「聖地で祭りでもあるのかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「なんで? ないはずだよ?」

( ^ω^)「もう数日歩けば聖地ってところで、なんか馬車持ちがやたら多くないかお?」

川 ゚ -゚)「乗せてもらえんか頼むか、楽だし」

ξ゚⊿゚)ξ「そんな図々しいのは……」

川 ゚ -゚)b「止まれぇぇぇっ! 死にたくないならなぁ!」

「ん? なんだあんたら修道女連れかよ、何言ってやがんだ。消えろ」

川 ゚ -゚)b「おうおう死にたいのかぁ? 乗せてもらえんとマジギレ温泉宿だ!」

「……あー? そういうこと、か? んじゃ、後ろの武器乗せた荷台、ちょっと空いてるから乗れよ」

≡川 ゚ -゚)「かたじけないっ!」

ξ゚⊿゚)ξ「……聖地の方にこんなに武器運んでどうするのかしら? 直接行ったら普通に捕まるのに」

( ^ω^)「うーん、これはまったくしっくりこないお。ま、楽させてもらえるからいいけど」

 ep4. 零距離の聖女 おしまい。

360 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 13:34:13.11 ID:WznWHEl+0
めし 食べる すこし やすむ

支援とかありがとうございました。

362 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 14:07:25.77 ID:WznWHEl+0
 ep5. 枯木の魔女

ξ゚⊿゚)ξ「ありがとうございましたー」

「おう、俺達はここまでだから、そっちは頼むぜ!」

川 ゚ -゚)b「まかされた!」

聖地ヴィップの手前、都市全体を囲う外壁の前で、馬車を降りる三人。
この都市への入り口は限られており、そこでの確認を馬車の男は避けたのだろう。

ここの管理体制は万全なのだ。
実質的な国の政権を握る教皇を守るため、宗教を盾としてこの都市丸ごと強固な要塞となっており、
政治機構もその地力の利用に丸ごと置かれ、首都として扱われているほど。

つまり、この国『チャンネル』は、教皇を君主とした宗教国だ、と言うことができる。

国境を越えて栄えるラウンジ正教、その聖地でありながら一国の首都を担い、更に『騎士』の軍事力をも構える宗教都市、ヴィップ。
船を中心とした渡航手段の増加に乗り、圧倒的に有意な立地をもって造られた、世界最大の市場である商業都市、ニュー速。
二つの大都市を手中に入れている国『チャンネル』はそれにより、宗教国を謳いながら多方面での大きな影響力をもっている。

ξ゚⊿゚)ξ「やっぱり怪しすぎるわ……」

( ^ω^)「馬車の数がやばいお、本当に祭りでもあるんじゃないのかお?」

見上げると首を痛めそうなほど高い黒色の岩の外壁の周辺には、それを監視するように並んだ馬車の群れがあった。
それぞれ全てにブーン達が乗ってきたものと同じ物が積まれているなら、騎士への公式な運送のようにも思える。
しかしどれも周辺で止まり、都市内部に向かおうとしていない以上、別の理由でここまで来ていると考えられる。

川 ゚ -゚)「なんか物々しい顔してる奴居るし、それは無さそうだがな」

364 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 14:12:42.14 ID:WznWHEl+0
ξ゚⊿゚)ξ「ラウンジ正教、ツン・デ・レイ・シュトックハウゼンです。どけ」

都市の巨大な正門まで歩いていき、さっそくツンが名乗ると、門番は怪訝な眼で見返した。
馬車も楽々通れるほどに大きな門なので、労力を使うのが嫌そうな表情だ。

|;;━◎┥「……あんた、本当に修道女か?」

ξ゚⊿゚)ξ「ええ、そんなとこよ」

|;;━◎┥「でも今、あれから降りてきたじゃないか」

槍を持っていない方の手で、全身鎧をがちゃがちゃ鳴らしながら、門番は馬車の群れに向かって指を差した。
そこには確かにツン達が乗ってきた馬車も含まれているようだ。

ξ゚⊿゚)ξ「何か問題でも?」

|;;━◎┥「大有りだよ。今明らかに不穏な動きがある。そのうえ、俺ら下っ端ですらここ数日は警戒するよう言われているんだぞ」

ξ゚⊿゚)ξ「警戒ねえ……どうせ大したアレでもないでしょ」

|::━◎┥「お前……下っ端とはいえ一応俺も騎士の端くれなんだが……?」

ξ゚⊿゚)ξ「何? 修道女より偉いって? 兵士でもない門番が。騎士になれるのは私みたいな人間と、九十五人の才ある者だけよ」

|;;━◎┥「……なんだと?」

ξ-⊿-)ξ「だからー、いい? わー、たー、しー、はー、あんたと違ってお偉いさんの騎士様なんですけど? 大丈夫?」

|;;━◎┥「んな馬鹿なことを……まったく、やっぱり警戒強化は怠らない方がいいな……」


365 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 14:17:23.81 ID:WznWHEl+0
|;;━●┥「すみませんでした……」

ξ゚⊿゚)ξ「教育がなってないわねー……」

|::━◎┥「これは失礼を。なにぶんこちらの男は、門番として未だ日が浅いので」

ツンが門番Aを睨みつけていると、門番Aは後ろに立っていた門番Bに肩を掴まれてしまったのだ。
門番Bはツンの顔を知っていたようで、門番Aに肩を組んで説教をし始めた。
ちなみにその間ふんぞり返っていたツンは、元気に鼻をふくらませていた。

|::━◎┥「それでは騎士様、お通りください」

|;;━◎┥「本当に失礼しました! 騎士様ー!」

|;:━◎┥「騎士様ー」

|:;━◎┥「騎士様ー」

と、石造のように立っていた残りの門番が奇声をあげて動き出した。
彼らはこぞって門の手前、その端にある大きな直立柱に歩いてゆく。
柱には四本の棒が垂直に伸びており、四人は手に持つ槍を置き、それぞれ棒を掴んだ。

|::━◎┥「「「「騎士様ー、騎士様ー」」」」

柱の周囲でゆっくり歩き、周り始める。
掴んだ棒も共に回転し、大きな門は徐々に、音をたてて上がっていった。

川 ゚ -゚)「なんか宗教じみた掛け声で開けるんだな」

ξ゚⊿゚)ξ「いや、これ宗教だしね。騎士様ー、ってのはホンっトにやめて欲しいけど」

367 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 14:22:43.07 ID:WznWHEl+0
宗教都市とは言っても、景観に宗教的なシンボルやらが少し多いだけで、その辺の道端を神父が歩きまわっているわけではない。
軍部と政府が置かれているためニュー速に比べれば厳粛な雰囲気があるが、住んでいる人間はそれぞれ思い思いに暮らしているのだ。
それは宗教の権威を振りかざす街でありながら、実態は宗教に縛られた生活を送っていない、という奇妙な背景を示していたりするが。

川 ゚ -゚)「まずはどこ行くんだ?」

ξ゚⊿゚)ξ「教政府御所、の前に、宿に荷物とあなたたちを置いていくわ」

外壁は生活に閉塞感を与えそうなものだが、街並みはそれを気にさせない。
それは外壁と同様に高さのある建物が、見上げた空に伸びるからだ。

世界に点在する宗教の中でも最も住みやすい聖地とされるヴィップは、信者の数に比例するように人の流入が多い。
しかし人がやって来ようにも都市は外壁をもってかたちをつくられているため、安易に拡大することはできない。
そのため、人々の住む場所は縦へ縦へと伸び、できる限り住居空間を横に取らないような措置をとられている。

そして、その「上に長い」都市の中でも一際大きな建物がある。ツンの言った『教政府御所』だ。
もともとは、聖地とされる所以、古の聖人が磔にされたとされる黒十字が紀元当時のまま残され、それを守るように建てられた聖堂。
現在は宗教と政府が同時に存在するこの街を体現しており、その見た目は馬鹿でかい、多様な趣向の入り混じる城といえる。

川 ゚ -゚)「なんと、私を置いていくのか? さみしいなぁ」

ξ゚⊿゚)ξ「いろいろ一人の方が楽だしねぇ……」

川 ゚ -゚)「ということは、このわけわかんないのと二人か……地獄だな……」

( ^ω^)「あらまあ。天国すら生ぬるいぬるさの僕になんてことを言うんだお」

川 ゚ -゚)「うるさいな。ぬるぬる言うなこのぬるぬる野郎が、うぬぬるぬるだ、ぼけ」

( ´ω`)「うわぁ、このわけわかんないのと二人か……地獄だお……」

368 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 14:27:41.48 ID:WznWHEl+0
ξ゚⊿゚)ξ「そんじゃ、喧嘩しちゃだめよ」

と言って、街で一際大きな宿を取ったツンは二人に手を振って宿の部屋から出て行ってしまった。

( ^ω^)「飼ってる猫じゃないんだから……」

川 ゚ -゚)「猫か、……どこかに居ないかな」

残された二人は、とりあえず窓を眺めた。
上に大きなこの街、宿も例に漏れずかなりの高さがある。
そしてその最上階である十三階にわざわざ部屋を取ったため、その風景はなかなか見られないものとなっていた。

( ^ω^)「見えるのかお?」

川 ゚ -゚)「猫は見えんぞ」

人は見える。
待っていればツンの金髪が出てくるのも見えるはずだ。
それにしても高い場所で、歩行者の顔はまともに見えないほど。景色はまるで山の上、いいや、雲の上のようだ。
これで街の中なのだというのだから、人の建築技術はかなりの進歩を見せていると言っていいだろう。

川 - -)「むー、めまいを起こしそうだ」

( ^ω^)「落ちたら大変だお、あんまり乗り出しちゃだめだお」

川 ゚ -゚)「さすがにそれくらいは言われんでもわかって、……」

( ^ω^)「なんだお?」

川 ゚ -゚)「、おっと………、危ない……本気でめまいを起こしそうになった」

369 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 14:32:57.87 ID:WznWHEl+0
ふらり、とベッドに転がるように倒れ込んだクー。
まるで自分が高い所に居たことを忘れていたような顔をしていた。

( ^ω^)「大丈夫かお? 高所恐怖症の吸血鬼ってなんか新しくないかお?」

川 ゚ -゚)「新しいか? 探せばそういう話もありそうなものだが」

( ^ω^)「いや、なきにしもあらざるをうむがやすしだお」

川 ゚ -゚)「意味がわからん。ところで私もちょっと出てきていいか? 観光気分で」

( ^ω^)「じゃあ僕もいくお、暇だお」

川 ゚ -゚)「お前はおとなしく留守番してろ、邪魔すぎて片足を切り落としたくなる」

( ^ω^)「落とされたら切れた足を杖にして追いかけるお、地の果てまでついていくお」

川 ゚ -゚)「くんなばか」

( ´ω`)「……」

川 ゚ -゚)「ツンにも言っておけ。『飼い猫がどっかいったぞ』、とな」

( ^ω^)「そしたらツン泣いちゃうお、一晩中泣いちゃうお、わんわん泣いちゃうお」

川 ゚ -゚)「む、……じゃあ、きっと戻るとも言っておけ」

(*^ω^)「ぬふふぅ、やっぱり飼い主にはかなわないかお?」

川 ゚ -゚)「笑うな。それはお前に言える口ではない」

370 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 14:38:11.34 ID:WznWHEl+0
クーが部屋を後にすると、ブーンには絶望的に怠惰な空気感が襲ってきた。
いっそ窓から飛び降りて市民を驚かせてみようか、などとも考えるが、どう転んでも不審者なのでやめた。

( `ω´)「ふーぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ」

窓から顔を出してみる。
吹きあげてくる風が強烈だが、ここで瞬きをするのは、負けだ。

( ゚ω゚)「ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ―――」

干乾びた眼球は痛みを産むだろう、しかしこれは戦いだ。
ここで負けてどうする、勝たなければ、目を開かなければ。

( うω;)「あれ、あの姿……ジョルジュ?」

顔面がびしゃびしゃに濡れたところで、通行人に見覚えのある者が見えた気がした。

( ;ω;)「んー、違ったお……」

どうしてジョルジュと勘違いをしたのだろうか。
よく眺めてみるが、特に体格も、微妙に見える顔も似ているわけではない。

( ;ω;)「あ……そうだ、」

商人のジョルジュは、商売道具を入れた大きな黒の袋を背負っていた。
あまりに大きいその袋が印象的で、なんとなくジョルジュの特徴もそうなってしまっていたのだ。
似たような袋を眼下の市民は持っていて、彼がここ逃げていたということからも、なんとなくそう思ったらしい。

少しその姿が目立つような気もするのは、おそらく一度、気にしてしまったからだ。


371 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 14:43:34.48 ID:WznWHEl+0
ξ゚⊿゚)ξ「ただいまー」

(つ;ω;)つ「ツンー!」

ξ゚⊿゚)ξ「抱き付くな鬱陶しい。ていうかなんで泣いてんの? 新しい病気?」

( ;ω;)「自然の力には勝てないんだお」

ξ゚⊿゚)ξ「あっそ。クーさんは?」

( ;ω;)「ツンに嫌気がさして出ていったお、あーあツンのせいだお」

ξ-⊿-)ξ「あのさぁ……喧嘩すんなって言ったじゃん………あんた歳幾つ?」

( ^ω^)「いや喧嘩はしてないお。ちょっと観光してくるって」

ξ゚⊿゚)ξ「くっそクーさんめ、私も連れてってくれればいいのに……」

( -ω-)「あ、そーだ。ツンの方はどうなったんだおー?」

ξ゚⊿゚)ξ「新しい手形の発行に五日かかるってさ。遅いわよね」

( -ω-)「ふーん、修道服はー?」

ξ゚⊿゚)ξ「寸法合わせたから、明日取りに行く。なんか装飾変わっててそっちは丁度良かったわね」

( -ω-)「ふーん、そうなの。」

ξ;゚⊿゚)ξ「あのさ、別に興味ないなら無理して聞かなくていいよ? 私達会話なくても気まずくないよ?」


373 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 14:48:34.71 ID:WznWHEl+0
詰められた建物と建物の間には、誰の目も届かない空間が多々できる。
それは、事前準備が万全でない状態で無秩序に居住空間を作りあげたためだ。

空いた間は、基本的にその後自然に誰かが埋める。
不自然な空間は街の景観を損なう場合もあるため、小さな店舗が埋めたり、
住人達が有効利用しようと、子供たちの遊び場となっていたりするのだ。

もちろんそれは表向きの部分の話で、一般に見えることすらない場所にもひそかに空間はできている。
そこに巣食うのは同様に表には出ないような人種であり、聖地だ首都だと言っても、そういう輩はどこにでも居るものである。
 _、_
( ,_ノ` )「――成程、それには賛同できるな」

街の端、家々の隅、小さな空間に住む男、シブサワはやってきた訪問者を受け入れていた。

('A`)「でしょう? 俺も半身半疑だったんですが、こちらの男は見事にこの都市までやってきまして」

貧相な男は汚い歯を覗かせながら渋沢の前に座り、隣の黒の袋を背負った男を小さく指差している。
 _、_
( ,_ノ` )「増援にも期待でき、そいつらは武器を持って来る、それは確実なんだな?」

「はい、あとは俺達が内部で陽動をかけ、外の馬車群をなだれこませることができればヴィップは落ちるはずです」

('A`)「シブサワさん、やはりここは乗るべきでは? 教皇さえ押さえればこっちのものですよ」
 _、_
( ,_ノ` )「お前……何を言ってるんだ? まさか俺が新たに権威を得ようとしているとでも思ってんのか」

(;'A`)「え? じゃあどうするんです? これはまたとない復讐のチャンスではないんですか?」
 _、_
( ,_ノ` )「俺から全てを奪った奴らをどうして生かしておく必要がある。俺は胡散臭えこいつらの騎士狩りに、甘んじて便乗するだけだ」


374 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 14:53:31.78 ID:WznWHEl+0
川 ゚ -゚)「ほー、『騎士狩り』か」

静かに心に火を灯していたシブサワの前に、突然女が現れた。全身が黒づくめで、影に吸い込まれてしまいそうな。
いつの間にか横の縦長住居の壁を背にしていたその女は腕を組み、シブサワを呆れたように見つめていた。

川 ゚ -゚)「本当に、穏やかじゃない輩はどこにでもいるものだな。これが人の性というものか」
 _、_
( ,_ノ` )y━・~「誰だ? 随分ここには似合わん女だが」

言いながらマッチを取り出し、心の次にはパイプに火を点けたシブサワ。
この場所、建物の隙間であるため風が強く、パイプの先の煙が異様に舞う。

川 ゚ -゚)「ふん、貴様のような汚物に用は無い、」

言葉を吐き捨て、髪をさらりと流しながら、女はゆっくりと首を傾けた。

その視線は渋沢から、黒の袋を携えた男を過ぎ、

(;'A`)「……」

地面に這いつくばり、小さくなっていた者へと向けられた。
 _、_
( ,_ノ` )y━・~「ん? 『髑髏』、知り合いか?」

髑髏。それは、やせ過ぎて骨ばった顔を指してつけられた、蔑みの証となるあだ名。

川 ゚ -゚)「さて、殺しに来たぞ……『ドクオ』」

それは女が呼んだ名前とは似ているようで、おそらく全く意味の違う、彼のあだ名だった。


375 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 15:02:05.56 ID:WznWHEl+0
黒の修道服に身を包み街を闊歩するツンは、行く先々で市民に頭を下げられた。
彼女の着る修道服は『騎士』の証であり、それを知る彼らは、形式的に。

ξ;゚⊿゚)ξ「やっぱりなんか慣れないし、あんまりいい気分しないわね……」

( ^ω^)「この前の門番にはえらく調子づいてたように見えたけど」

ξ゚⊿゚)ξ「あれは同業者じゃん? つまり私は直接の上司に当たるじゃん?」

( ^ω^)「基準が適当過ぎだお、それ全力で見下してるだけだお」

ξ-⊿-)ξ「それは仕方ないよー、仕方ないんだよぉ……」

( -ω-)「いやー、そんな納得したような顔されてもぉ……」

丸三日間こんな調子で過ごしていた二人は、ようやくクーの捜索に出た。
ついさっきまでクーが全く音沙汰無しなのにも関わらず、手形の発行を待つ二人は毎日街を回りながら死ぬほどだらけていた。
しかし天啓なのか、突然ツンが「やっべえこれ流石にクーさんキレてるわ」とか言い始めたので、さあ探そう、と。

ξ゚⊿゚)ξ「そういえばさ、結局祭りとか無いみたいだね。ちょっと仕立て屋に聞いたけど知らないってさ」

( ^ω^)「それは残念だお。僕祭り大好きなのに、はしゃぎ回って知らないおっさんにぶん殴られるくらいの童心持ってるのに」

ξ;゚⊿゚)ξ「あんたがはしゃぎ回る姿、雀のクソの欠片程度にしか想像つかないんだけど……この辺で祭りないかなぁ……?」

( ^ω^)「ツンは汚い言葉使っちゃだめだお。ツンの綺麗な巻き毛がきったねえクソ毛に見えるお」

ξ#゚⊿゚)ξ「やだもうそんなに褒めないで? ぶっ殺すぞ?」

( ^ω^)「じゃあ次の祭りまでは生きてみるから、ぶっ殺すならその後ひと思いに頼むお」

377 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 15:07:51.51 ID:WznWHEl+0
軽口を叩き合い、頭を下げる市民を横目に流す。
そうして街を歩いてみるが、クーの影は欠片も見えず。

ξ゚⊿゚)ξ「……」

( ^ω^)「……」

やがて日も落ちかけてきたころ、遂に無言になる二人。
クーのもともとの素性の関係もあり、居ないならば居ない、で本来片付くはずの話ではある。
だが、ここまで共に過ごしてきた二人に対し、何も言わずに去るような彼女ではない、とも考えているのだ。
それでも彼女が二人の前に姿を現さないというのは、このことを否定する材料となりえるものなのに。

ξ゚⊿゚)ξ「どうしたんだろ、」

( ^ω^)「本来の目的を思い出したんじゃないかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「でもさ、あんたはともかく私に一言くらいあってもいいじゃない」

ツンは相応に衝撃を受けているようだ。
短期間でありながらも姉のように慕っていたクーが突然居なくなったのを自覚すると、やはり堪えるものがあるらしい。

( ^ω^)「ツン、別れは生きている以上、必然的に訪れるものだお?」

誰しもが理解していることをわざわざ口に出して言うのは、それが必要な確認であるとも、理解しているから。
受け入れられない現実でもそれは間違いなく現実であり、遠回しな言い方で、それを受け止めろ、と言いつけるように。

ξ-⊿-)ξ「馬鹿ねぇ、そういうことじゃないの。………あんたのその言葉、重すぎるわよ」

対して、隣を歩いていたツンがブーンから目を背け、ゆったりと動く街を眺めながら呟くようにこぼした言葉。
この状況で皮肉のようなそれを言ってきた理由が、ブーンにはさっぱり理解できなかった。

380 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 15:13:18.05 ID:WznWHEl+0
その日も結局宿に戻り、休むことになった。
一人の人間が居ないとその分の空白が部屋に生まれ、丁度ツンの内面を写しているようであった。

そんな静かながらんとした夜に、ブーンは立ったまま窓を見つめた。
ツンが既に寝てしまっているので、部屋も外も、完全な静寂と月明かりだけ。

ブーンはこの闇の中で、適当に考えを巡らせる。

クーが何故居なくなったか。理由はおそらく、『ドクオ』をここで見つけたからだろう。
彼女の生きる理由は彼にあるという話をしていたのだ、急な行動理由はこれしかない。

しかし、どうしてあの男がこちらに来ているのか、そこに疑問があった。
様々な商売人の元で小さな働きをしているのならば、ヴィップよりも利用できる人間が多い街はあるはずなのに。
わざわざ、管理というものが形だけでも明確に存在しているこの街を、どうして選んだか。

そこで乗ってきた馬車を思う。武器を積み、妙な発言をしていた馬車の男。しかも、中身を見ていないが似たような馬車も多数居た。
しかも同じく商人関係の者、旅の宿から突然居なくなったジョルジュもここに来ているはずなのだ。
先日見下ろした街では、ジョルジュが持っていた袋に似たものを持つ人間まで見た記憶があるのに。

これを偶然と言うには、『商人』という共通点が目立ち過ぎている。

門番は言っていた。『今明らかに不穏な動きがある。そのうえ、俺ら下っ端ですらここ数日は警戒するよう言われているんだぞ』。
今の不穏な動き、とは馬車の群れを指しているはずだ。ならば、数日前からの警戒の要因もそれに関連しているだろう。

ヴィップに何かが起きようとしているのは間違いがない。
それも、『商人がこぞって街に何かを起こそうとしている』。ここまでは、確実だと言える。

この国の中心、ある宗教の中心、強大な武力の中心のこの街で、商売人が働きかけをする必要のある部分は――。

( ^ω^)「………もしかして『騎士』を? いや、そこまで商人どもが馬鹿だとは思えないが……」

382 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 15:18:33.53 ID:WznWHEl+0
不死者が何かに気付いたように、呟いた夜。

      「んっふふふ、ふふ、ふふふ、」

『それ』は、いつの間にかそこに居た。
『それ』は、全身をすっぽりと覆う毒々しい紫色の布の中で、抑えきれないと言いたげな笑い声をあげていた。
『それ』は、ずる、ずる、と布を引きずり、ヴィップの大通りを、真っ直ぐに歩いていた。

      「これだけ人に侵食された場所が、聖地? んっふふふ、ふふふふ、」

声は震えていた。
まるで、歓喜の表情で鞭打たれる狂信者のような震えだった。

      「んっふふふふふ、本当に、馬鹿げてるわ」

通りの果て、大きな門を開いた。一切の抵抗はない。
この場所はたとえ何者であっても訪問を受け入れるという程度の度量があるのだ。
広さは入り口正面から堂を眺めても左右の壁を捉えられないほどで、整然と並ぶ長椅子もかなりの大きさをもっていた。
だが、並べられている椅子が全て埋まることは珍しくはなく、ヴィップに住む者ならば週に一度はそこに座るはずだ。

『それ』が「馬鹿げている」と言ったのは、その椅子の群れが向いている先にある。
過去に本当に存在したかもわからない、聖人を崇める象徴を指したもの、
人が磔にされていたにしてはあまりにも大きすぎる、黒十字だ。

      「……私が居るじゃない」

『それ』は黒十字の五重に囲われた細い鉄柵、木柵を音も無く曲げ、十字の手前に張り巡らされた目には見えない絹糸を破る。
『それ』は穴を開けるように曲げた柵を通り、破れて床に落ちた絹糸を踏みつけると、またも笑った。

      「んっふふふふ………どうしてこんなものを崇めて……私を見てくれないのかしら。ね、ホライゾン」

384 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 15:23:38.30 ID:WznWHEl+0
ξ;゚⊿゚)ξ「うーわ、なにこれ……」

翌朝、二人が何気なく窓を眺めるとヴィップは深い霧に覆われていた。
その濃さは尋常ではなく、地面など全く見えないほどだ。

( ^ω^)「これって、」

ξ゚⊿゚)ξ「うん、そうだね」

ブーンの言葉を遮り、すぐに部屋を出る準備をし始めたツン。
彼女が慌ただしく動くところ、やはりこの発生源は魔導具であるということだ。

ξ゚⊿゚)ξ「でもここが高すぎるせいかな? 大元がわからないわ」

( ^ω^)「さっさと降りて確かめるお」

ξ゚⊿゚)ξ「ええ、先行ってて」

数秒の間を皮膚でなぞり、二人は飛び出す。
もっとも、ブーンは窓から、ツンは部屋から、だ。

( ^ω^)「さて」

即座に窓を開け、足を上げ、窓枠を蹴る。と、風を切り、風を切り、風を裂き、霧を裂きながら落ちてゆく体。
やがて迫るであろう地面への痛みに、ブーンは自ら意識を一瞬飛ばし―――

―――た瞬間は過ぎており、大木を無理矢理なぎ倒したような音が全身に響いたまま、体が言うことを聞かなくなっていた。

そのまま頭を覆う死の痛みと、痛みを全くの無に帰す泡にまみれながら、ブーンはゆっくりと転がり、立ち上がる。
多数の不可解に魔導具まで飛びこんできた、ならば自分が動かないでどうするのだと、自分の目を覚まさせるように。

386 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 15:28:44.94 ID:WznWHEl+0
( ゚ω゚)「ほっぐ!」

血まみれのブーンの体に駄目押しをするように、さらに重く固いものが背中を打った。
大きさもそれなりのものらしく、思わずうつ伏せに倒れ込んでしまう。

|;;━◎┥「ああっ! もうしわけありません! 大丈夫ですか!」

背中に抱きつくように乗ったものは大声をあげて謝罪をし、すぐにブーンの背を降りた。
正面に立つと、ブーンよりも少し背の低い、門番と同じ鎧をまとった男だった。
深い霧だが、近くの人間は一応見える程度のものだったらしい。

( ^ω^)「何があったんだお」

|;;━◎┥「わかりません! 深い霧が周りに発生し、妙な音がしたと思ったらものすごい勢いで馬車が突っ込んできて……」

わからないなりに状況はわかっていたようだ。
そこで怯んだ門番達は馬車内に潜んでいた族に討たれ、彼は深い霧と死んだふりでやり過ごしたという。
こうなると少なくとも門を破られたのは一つではないということが、先ほど上から見た霧の深さから考えられる。

( ^ω^)「よく生きていたお、連れの騎士が今来るから少し待っていてくれお」

|;;━◎┥「……はい、」

がら、と鎧を鳴らして背を曲げていく様子は、見るからに落ち込んでいる。

声からして彼はかなり若い。そういえば、街に入る時に出会った門番Aと同じ声かもしれない。
死んだふりという本来的には騎士の端くれが取るにありえない行動をとって、気が重くなっているのだろう。
それも上司を置いて一心不乱に走ってきたのだ。そんな状態でもまともに会話できるところ、彼は強い人間だといえるのに。

|;;━◎┥「ああ、忌々しい……………」

387 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 15:34:03.85 ID:WznWHEl+0
ξ;゚⊿゚)ξ「ブーン……」

十三の階層を駆け降り、汗を散らしながらツンがやってきた。
彼女の体力的にはさほど問題ないはずの距離だったのだが、何故かその足取りは重く見えた。

( ^ω^)「ツン、どうしたんだお。こいつを連れて早く街の騎士でも捕まえに行くお」

ヴィップには少なからず常駐する騎士や兵士が居るはずだ。
商人達の狙いが騎士だろうがなんだろうが、出来る限り急いだ方がいい。
視界を確保できない状態のままバラけたままでは、相手の思う壺だろう。

|;;━◎┥「よろしくお願いします! 街の地形は把握しているので、私の後に!」

門番は深い礼をするとすぐさま走り出した。
後に続くようにブーンが手を振り、ツンもようやく動き出す。

( ^ω^)「おい、」

見えない中で魔導具が利用されている。目的がどうあれ、それはどう転んでも危険だろう。
あまり味方に気を遣うよりも見づらい街に意識を向けたい、そう思い、ブーンはツンを急かす。

ξ;゚⊿゚)ξ「市民は今、どうなってるかしら」

( ^ω^)「妙に深い霧だから普通は外に出ないお。それより、何か異常でも?」

ξ;゚⊿゚)ξ「異常なんてもんじゃない、街中全体で魔術の香がするの。それが霧のせいなのかはわからないけど、複数は確実に居る」

( ^ω^)「………」

ならば、尚更速く。

389 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 15:39:58.75 ID:WznWHEl+0
|;;━◎┥「誰か! 誰か居ないか!」

「おい! こっちにも居るぞ! 今度こそ!」

一般兵士の詰められた建物に到達したところで門番が吠えるが、返事は見えない向きからの荒い声で返された。
すぐさま声の方、霧の向こうからこちらに向かってくる足音が聞こえ、それも一つではないらしい。

( ^ω^)「この街の騎士は普段何処に?」

ξ゚⊿゚)ξ「ここから北、っていうかこの詰所の壁に沿ってけば着く、御所の横の騎士堂。でも、今居る騎士はもう全員動いているはず」

( ^ω^)「……無駄足だったのかお。どうして言わなかったんだお」

ξ゚⊿゚)ξ「いえ、兵士はどうかわからなかったし、とにかく御所を見ておきたかったから」

|;;━◎┥「じゃあ私は……」

ξ゚⊿゚)ξ「もうあんたは邪魔よ、道案内ありがとね。詰所に居る奴が居たらそっちと霧や街への対処でも考えてて」

|;;━◎┥「はぁ、…………わかりました」

と、詰所の一際大きな、物品倉庫への入り口に向かって門番は歩いていった。

( ^ω^)「なら、ツンは御所に、」

ξ゚⊿゚)ξ「は? こっちに来る奴は潰してくわ。今の街の状況なら、私は誰よりも早く動けるんだから余裕よ」

( ^ω^)「だからだお。状況が見えない、目的もわからない、なら御所の様子を最優先で見た方がいいお」

ξ-⊿-)ξ「ちっ、わかったわよ」

391 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 15:45:28.76 ID:WznWHEl+0
ツンが霧の向こうへと走ってゆくと、入れ替わるように霧の中から人影が現れた。
数は大小三つで、どれも大きな凶器を手に持っているようだ。

「死ね!」

その中の小さな一人、子供のような声が駆けてきた。
手に持っていたのは大きな板のような剣で、鎧ごと殴り殺すための大振りなもの。
彼はその扱い方をまるでわかっていない。頭の上で垂直に不格好に構え、殺意だけを飛ばして走ってくる。

( ^ω^)「待て」

ブーンはそれを振られる前に正面から駆け込み、その剣の柄を片手で突っぱねるように押さえた。
重さも相当なこの剣だ、影の走った勢いは後方にのけぞるような姿勢になり、ブーンの胸でぶつかり止まる。

( ^ω^)「目的は?」

そのまま、少年であったその影の細い首を掴むと、見開いていた眼をブーンの眼と無理矢理合わせた。
年端もいかない子供だ。脅しには簡単に屈するはず、

(  ω )「っ……」

だった。

後ろからゆっくりと確かめるようにやってきたもう二つの影、二つの大槍は、少年とブーンの胴体を、迷うことなく貫いていた。

「これで地上を枯らす人間をまた一人狩ったぞ!」 「ええ、私の息子は豊穣の大地へと向かうのね……!」

(  ω )「………?」

二人の男女の噛み合わない会話に、枯らす、という言葉。それは、ブーンの頭にはどうしても引っ掛かるものがある。

392 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 15:50:31.14 ID:WznWHEl+0
ξ;゚⊿゚)ξ「なに、これ、」

ツンが駆けてきたその場所、教政府御所は吹き飛ばされていた。
黒十字が祀られていたはずの大聖堂は床の名残が見えるのみで、その上に置かれていたはずの議会層も、まるごと消えていた。
さらにその上と、それらを覆うようにあった教皇の住む宮まで、完全に消滅させられている。
足元に見える残骸は、それが本当に政府の中核を担っていたものなのかと、眼を背けたくなった。

ζ(゚ー゚*ζ「あら。ツンだったかしら? 久々に見るわね」

それを茫然と眺めていると、結われた長い金髪を腰まで垂らした女性がツンの名を呼んだ。
ツンと同様に黒の修道服を纏っており、両手にはそれに似合わない、無骨な金属の大きな筒が二本抱えられていた。

ξ゚⊿゚)ξ「『眼』の……」

彼女は『騎士』としての最高位、『第一翼』であり、特に軍隊としての性格が最も強い称号を持つ女だ。
本来大規模な集団を指揮する彼女が単独で動いているということは、現状はそれだけの事態であるということになる。

ζ(゚ー゚*ζ「逃げられちゃったわ」

ξ゚⊿゚)ξ「えっ?」

ζ(゚ー゚*ζ「アレは魔導具かしら? ガキ共が腕から赤い光を撃って御所を壊してたのよ。
       で、私達が発見したからそいつらをブッ殺したんだけど、一部には逃げられた」

ξ;゚⊿゚)ξ「そんな、じゃあ教皇や周辺の人間は……」

ζ(゚ー゚*ζ「私達が動く前から逝ってたでしょうね。聖堂から上まで、全部丸ごと削られていたのだから」

ゆっくりとそう言いながら彼女はツンを舐めるように見た。
言葉は軽く、落ち着いていたが、ツンなどが排除に掛かっていた魔術の被害であるとなると、責任の所在は決まっているのだ。

393 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 16:02:14.82 ID:WznWHEl+0
ζ(゚ー゚*ζ「他の奴らもこの襲撃の沈静化に回ってるわ。あんたもさっさと動きなさい」

ξ゚⊿゚)ξ「申し訳ありません……」

ζ(゚ー゚*ζ「謝罪は要らない。市民を守るわよ」

そう言って、彼女は霧の中に消えてゆく。

気付けば街の喧騒は増えていた。
どこかの悲鳴も少なからず聞こえる。
これも全て霧の中だというのに、的確に動くにはどうすべきか。

『眼』の話から、推測だがヒートのような人間がいる。ということは、どういうことか。
おそらくその『魔女の剣』がこの街で振られ、教政府御所を潰したとは、どういうことか。

ξ゚⊿゚)ξ「『魔女』………」

この長い人の歴史の中で、『魔女』がそれほど表だった事件を起こしたことなどないはずだ。
歴史の片隅に在る吸血鬼狩りも、『ある部族』と『ある団体』との、という不明瞭な規模のものだった。

だが今回は全く違う。

一つの『国』を、それも他国に大きな影響を与えかねない国を潰しに来ている。
稲妻のような襲撃で、ヴィップ側の戦力を整えさせる前に、寸分の容赦もなく、無慈悲に。
そこには倫理など全く存在しない、まるで自然災害のような勢いで。

利益を全く求めていないのだろうか、そもそも魔女が国を潰してどうなるのだ。
ただの酔狂で人を集め、まさか「気に入らない」というような理由で、か。

もしかして、実在していた非現実的存在が確固たる現実に飛び込んでいくのを見て魔女は楽しんでいるのか。

395 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 16:07:44.23 ID:WznWHEl+0
そんな頭の間に、割り込むように高い声が入ってきた。

从;'ー'从「ツンちゃん! ツンちゃんってば!」

ξ;゚⊿゚)ξ「はぁ!? クソメイド!? なんで?!」

いつか見たメイドがツンの服を引っ張っている。

从;'ー'从「調査結果届けに来たの~! でもツンちゃん昨日見つからなかったから~!」

昨日ということは、ちょうどツンらがクーの捜索で夜までふらついていたところだ。
しかし、直接ツンに会う必要もないような用事のはずである。

ξ゚⊿゚)ξ「だったら昨日までにうちの統制管理室通せば良かったじゃ、」

从*'ー'从「昨日はツンちゃん舐めたくて朝方まで探してたのー! でも諦めて、地図見てわざわざ来たんだよ~?」

と、言いかけてやめたのに、理由をわざわざ言われてしまう。
実際問題、情報をまとめるその場所はすでに半壊して意味を為していないので、丁度いいと言えばいいかもしれない。
しかしこの状況、いきなりどこかの女の砲弾が飛んでくる可能性すらあるのにメイドが笑っているというのは、どうなのだろう。

ξ;゚⊿゚)ξ「うわっ。で、ニュー速の調べはついたの?」

从'ー'从「うん。なんかね~、悪い人たちと悪い宗教が組んでるみたいなの~」

ξ゚⊿゚)ξ「悪い宗教って? くっだらないのじゃないわけ?」

从'ー'从「えっとね、『豊穣の芽』っていう母体を組んで、商人と提携してその団体の偶像とかお守りを売ってたの~。で、それが~、」

ξ゚⊿゚)ξ「あー……魔導具、ってことね。時間がないからもういいわ………ありがと」

396 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 16:12:44.36 ID:WznWHEl+0
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ、あなたを連れて安全なところまで逃げます」

从;'ー'从「わかるの?」

ξ゚⊿゚)ξ「私にはわかる。っていうかまあ、うん、私について走って!」

まずは香が少ないところまでメイドを連れて行かなければならない。
同時にそれほど声のしない方に向かって走れば、多少はマシな場所にいけるだろう。

それよりも、
『豊穣の芽』という団体に魔女が関係しているのは間違いがない。
そして今現在ヴィップを襲っているのも、その『豊穣の芽』だろう。

だが、やはり動機が弱い。

たとえ宗教団体が魔女の手にあろうと、他の宗教を排斥するような動きにどうしてなるのか。
しかも世界最大規模、最大勢力のラウンジ教を、何故選んだのか。

わからない。
そこには理由など、本当に無いのかもしれない。

聖地を潰し、教皇を殺しても、宗教というものはそこを絶対的な基盤としていない方が多いのではないか。
『魔女』を頭目としたその団体は、そんな程度のことも考えられないのか、それとも、他に目的があるのか。

从;'ー'从「あ、足、はっ、早いよ~!」

後ろで叫ぶメイドの、霧に消えそうな影に振り向きながらツンは考える。
宗教などにあまり触れることの無い錬金術師の家だったため、考えられる可能性に限界があるのがもどかしい。

ξ;゚⊿゚)ξ「あー、もう!」

397 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 16:17:49.79 ID:WznWHEl+0
川 ゚ -゚)「まったくくだらんな、反吐が出る」
 _、_
( ,_ノ` )y━・~「おい……なんで邪魔しやがった……」

(;'A`)「う、わ、あ、あ、」

咥えたパイプから濃霧のような煙を漂わせるシブサワは、目の前の血に塗れた肉塊にしゃがみ込んで苛立った声を出した。
『ドクオ』はその肉塊を見て腰を抜かしたようで、その場に尻と手をついて震えていた。

川 ゚ -゚)「……そのまま醜態を見せ続けるなら殺すぞ」

クーはドクオのために、シブサワを狙って襲いかかった鎧の男達を殺した。
このドクオは現在、シブサワの為に働いているので、それまでは死ねない、シブサワも死なせられないというのだ。
ならば、とクーは彼を殺さずにその目的を果たすまで様子見をすることにしたのだが、やはり、彼は情けなかった。

(;'A`)「ぅぅ……」

顔色の悪いその表情、クーにとっては殺さずにはいられないものだ。
思わず頭を蹴り飛ばしてしまいたい衝動に駆られるが、理性で持ちこたえた。
 _、_
( ,_ノ` )y━・~「無視かよ。ったく、案内の野郎も死んじまうし、どこ行きゃいいんだ? 騎士は何処だよ、騎士は」

シブサワの言う案内の野郎、というのはクーが二人に会った際に同席していた黒い袋を背負った男。
シブサワが深い霧を生み、その男が外の馬車に火薬での合図をしたところ、爆薬とともに突っ込んできた馬車の下敷きになった。

川 ゚ -゚)「むー、……お前は騎士を探しているのか? だったら、さっさと殺せばいいだろう」
 _、_
( ,_ノ` )y━・~「ああ? そいつは一体……どういう意味だ?」

片手に持った刃物を構えると、シブサワは眉を吊り上げた。

398 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 16:23:50.55 ID:WznWHEl+0
( ^ω^)「霧が薄くなった……?」

奇声をあげて槍を振り回していた男女は無視し、御所に向かって一人歩いていたブーン。
途中で似たような人間にめぐり会うが、同様に体に剣でも刺させれば、全員が納得したように発狂していった。

歩いている最中、いつの間にか霧は僅かに遠くまでの視界を確保できる程度の薄さになっていた。
それによって、大通りでは騎士でない者が武器を担いでいたり、それを制圧する者がいたりするのを確認できる。
街の騎士は既に動き出していたようで、詰所の兵士は彼らに駆り出されていたらしい。

( ^ω^)「ツンは……」

ブーンの元にツンが戻って来ないところ、この混乱の中で何か問題が発生したのは確実だ。
確かにブーンを殺そうとした人間の中には、胸から飛び出した骨を突き刺してきた者も居るほどに、狂った事態。
そのうえ鎮圧に動く騎士らの表情は青ざめており、やはり単なる暴動とは言い難いものなのだろう。

ζ(゚ー゚*ζ「あなた、ちょっといいかしら? 邪魔なのであちらの兵士と共に避難をしてくださらない?」

突然、正面からブーンに声が掛けられた。
長く美しい金髪を垂らした女が、大通りの一際大きな集団に向けて指を差していた。
妙に火薬の匂いがするのは、彼女の持つ大きな筒のせいだろう。

( ^ω^)「連れがこの先に居るはずなので、失礼しますお」

ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫です。あなたのお連れさんも私達が保護しますので、さっさと方向転換しろ下衆が」

ふんわりとした仕草にはまったく似つかわしくない言葉遣いで、すれ違おうとしたブーンの腕を捕まえる女。

( ^ω^)「大事な連れなんですお。この街が消えるのと引き換えにしてもいいくらいに、大事な」

ζ(^ー^*ζ「あなた……この惨事を見てわざとその口を開いているのならば、この美しい笑顔を土産に召されるべきだと思います」

400 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 16:29:15.84 ID:WznWHEl+0
( ^ω^)「……」

ζ(^ー^*ζ「三秒さし上げますので、判断はあなたに委ねます」

柔らかな笑顔には無表情での返答で。
三秒待った彼女はもう何も言うつもりはないらしく、兵士たちに大声を上げる。

ζ(゚ー゚*ζ「次、ここから南門へ移動します。保護した市民は外に出しましょう。族の目的は私達だから、目立つ行動は避けてね」

野太い声が返り、数十人でまとまった大きな塊は、ゆっくりと前進してゆく。

( ^ω^)「騎士や兵士が目的……」

火器を持っていた女は黒の修道服だったので、騎士だということはすぐに理解できた。
それにしても彼女はどうやって自分達が狙われていると判断したのだろうか。
あれだけ発狂した人間達の目的を見極めるのは厳しいのでは。

( ^ω^)「………」

その理由を聞いてみようとしたが、薄い霧の向こうにまで彼女達は行ってしまっていた。
仕方がないので、様子見ついでに大通りを歩きながら御所へと向かうことにする。

と、

     「はっ、はっはっ、はっ……、はっ、」

倒れた人だ。その両腕は無残にも逆方向にへし折れ、片足は何かに引き千切られたようでありながら断面が焦げていた。
彼の顔色は蒼白で、目は焦点が合っていない。質素な服は破れ、どす黒く変色した胸から絶え絶えな息を吐き続ける。

よく見てみるとそれは、そろそろ死にそうなジョルジュだった。

401 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 16:34:28.81 ID:WznWHEl+0
( ^ω^)「ジョールジュー」

ブーンは声をかけた。まだ足はだらだらと出血しているので、「今すぐには」死なないと判断したからだ。

      「こん、どは、だれだ?」

( ^ω^)「ブーンだおー」

      「あ、ブーンさん、ですか、そっか、……その節は、失礼を……」

( ^ω^)「騎士を狙ってるのかお」

      「はい。我らが神のために、豊穣のために、騎士は、必要無いんです、」

( ^ω^)「ふーん、どうして騎士なんだお?」

      「騎士は、力を持って、民を圧迫します、俺達力の無かった商人は、奴らに搾取されt

( ^ω^)「ふーん。それで、豊穣ってのは?」

      「我らが神の、理想の、世界です。そこには差別も、横暴な騎士も、いなくて、俺の、俺の家族も、ヒーt

( ^ω^)「へえ、素晴らしいお」

      「でしょう、だから、俺達は、この日、世界を悪に染め、人々を惑わせる騎士を、こr

(^ω^ )「ま、全然意味わかんないけど」

      「え、いや、解る筈だろ………なあ、待てよ、行くなよ、俺達の、神は、ぁ、聞け、聞け、聞けっ、っ、聞け!」


403 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 16:41:56.15 ID:WznWHEl+0
( ^ω^)「、」

血を吐きながらジョルジュはブーンに言葉をかけていた。
それを無視して御所の方に振り返ったブーンは、何も意識せずにまた歩き出した。

      「おい、我らが神の、胃袋を踏むな、クズめ、」

( ^ω^)「ん?」

胃袋、と聞いて足元を見ると、ジョルジュと同様に焦げた黒い布がある。
これは彼が背負っていた大きな袋の一部で、こんなものにも彼らは御利益があると思っていたのだろう。

( ^ω^)「うーん。あの女、容赦ないお……」

袋の残骸を拾った。彼女はあの筒で火薬を用い、ジョルジュをあの状態にしたと思っていい。
ジョルジュの体とこの布からは同質の、異様な火薬の匂いがするのだ。
そのうえ、彼女はジョルジュに拷問まがいのことをしたらしい。

      「はっ、ぁあ、ご、く、く、あ」

これでも未だジョルジュが生きているのは、彼女の無慈悲な慈悲からだろう。
本当なら止めを刺した方が彼も諦めがつくはずだ。だが、ブーンもそこで、単なる思いつきの「慈悲」を見せることにした。

( ^ω^)「ジョルジュ」

ただ意味もない、人の真似事のような声で。

      『君にも、神の御加護がありますように。』

      「あ、あ、あ、あっ、あっ……、はぁっ、はっ、く、そ、が、ぁ」

405 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 16:47:32.51 ID:WznWHEl+0
御所に向かうなか、ジョルジュのような姿で呻く者達が大勢居た。
あの女性がまったく同じ方法で得た情報を総合し、やはりジョルジュの言っていた通り、
商人たちが騎士を狙っている、という判断に落ち着いたということだろう。

( ^ω^)「お?」

ようやく御所に到達すると、そこには崩れた残骸しかなかった。
過去ブーンが来て以来のその場所は、再度見ることは叶わなかったようだ。

( ^ω^)  ・・・

眺めながら、ここまでやるか、と思った。
霧も既にある程度が晴れ、全体まで見渡せるのだが、過去の名残は欠片も存在していない。
ブーンは大聖堂があった過去しか知らないので、現在あったはずの姿とは少し違うはずだが。

( ^ω^)「ん?」

突然ブーンの耳に、がらがら、という大きな車輪を回す音が聞こえてきた。
その方向を向くと、薄い霧の向こうに大きな火の玉が見える。

|;;━◎┥「あ! 大丈夫ですかー!」

ゆっくりと霧から現れたのは大きな箱のような物体で、上からはあの門番が叫んでいた。
左右にも似たような者が座って、立っている門番は両手にたいまつをもっている。

( ^ω^)「うーわ、なんぞそれ」

ぎっ、と音を鳴らして、それはブーンの手前で止まった。かなり大きい。

|;;━◎┥「霧が濃いから歯車箱車を持ってきたんですけど、なんか必要ない感じですね」

411 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 16:51:41.24 ID:WznWHEl+0
( ^ω^)「手動の乗りものかお」

|;;━◎┥「そうです。本来は市内での物資の輸送に使われるものですね」

車輪のついた箱から、門番の彼が降りてきた。
よく見ると、左右端に乗っていた兵士の足元には歯車の付けられたペダルがあり、これを回すことで動くようだ。
箱は屋根のついていない、まるっきり四角い箱の様相で、後ろにはまだ火の点けられていない大きなたいまつと長槍があった。

( ^ω^)「へぇ、確かにこれで動けばさっきの濃い霧でも目立ったはずだお。槍があれば来る前に迎撃もできそうだし」

|;;━◎┥「はい、それでなんとかここまでやってきたんです」

( ^ω^)「でもアレらの狙いは市民じゃないから、それを引っ張り出さなくてもよかったと思うお」

|;;━◎┥「市民じゃない、とは? やはり教政府御所が酷い有り様なのと関係して?」

( ^ω^)「狙いは騎士らしいお。多分、君達も狙われてるかも」

|;;━◎┥「そんな……どうして騎士を? ならば、そちらの騎士堂が半壊しているのも………」

( ^ω^)「だお。まあ、理由はよくわからな、い、けど………?」

|;;━◎┥「どうしました?」

ふと頭をよぎった何かが、妙に、

( ^ω^)「……今、なんて?」

|;;━◎┥「いえ、どうして騎士を、としか。あの、お疲れなら私が責任を持って安全な場所へお運びしますよ」


414 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 17:00:21.24 ID:WznWHEl+0
( ^ω^)「違う、そのあと」

|;;━◎┥「騎士堂が半壊して、ですか?」

( ^ω^)「……あー、そうそうそうそうそう、」

そこだ。隣にあるという騎士堂が半壊で済んでいるという話はおかしい。
御所は全壊、それどころか粉砕されているほどの被害なのだ。
それなのになぜ、その騎士堂とやらにはその程度の、まるで御所の「巻き添え」のような被害、半壊などで済んでいる。

おかしいだろう。
あの金髪女の発言、族の目的は騎士だ、という。
それはブーンが同じ立場なら同じ行動を取って出された結果からの考察で、間違いはないはずだ。

だがこの場だけを見たならば、誰がそう考えるだろうか。
あったはずのものが跡形も無くなるほどの破壊は、間違いなく大聖堂にぶつけられているではないか。
それでも商人達の思考は完全に騎士に向いているというのが、不自然でひっかかる。

しっくりこないのだ。

そもそも、魔導具が多数動いている時点で不自然なのだ。
魔導具を持てる程度の商人なら、わざわざここまでするほどのことに参加する意味がない。
というより、ジョルジュなどは根っからの商人なのか。普通の商人が、「我らが神」などと言い出すものなのか。

信仰の差はあれど、やはりあり得ないだろう。

ブーンの経験上、商人という生き物が本当に信じるのは金しかない。宿で話したあの時、ジョルジュもそう言っていたはずなのに。
しかし彼は――死の淵を前に神に祈るなら別だが――あの間際でも、妄信的に「我らが神」を崇めているようにしか見えなかった。

そのうえ、ジョルジュの連れであったヒートは、どういう存在だっただろうか。

416 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 17:05:31.71 ID:WznWHEl+0
( ^ω^)「……『魔女』か」

秘蹟まで使われている人間、それも確か、『魔女の剣』だとクーは言っていた。
それと同時に介在する不自然性と、異様な数の魔導具。ならばこれは間違いなく、魔女が口火を切ったものだと考えられる。

ジョルジュは、というよりジョルジュ達はおそらく、本来的には商人だとは言い難い、商売向きの人種ではなかったのだ。
個人の力で武器をさばける人間が、わざわざ力を持つ騎士を狙ったり、外に居た馬車ほどの数で集まる理由など存在しない。
魔女がなんらかの方法で彼らを商売人として炊きつけて魔女の剣を預け、「騎士を狙え」というように今回の事件まで誘導したのだろう。

|;;━◎┥「…………………」

( ^ω^)「ツンがどこに居るかわかるかお? ちょっとあいつが必要かも」

|;;━◎┥「知りません」

( ^ω^)「そうかお。じゃあ適当に探してくるお」

|;;━◎┥「いけません」

( ^ω^)「……は?」




     「だって、やっとあなたの口からそれを聞けたのだから。ね?」






420 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 17:10:34.13 ID:WznWHEl+0
ぞくり、と背筋が痛いほど冷たくなった。
鎧の中の彼であるはずのものは、まったくそれに似つかわしくない声をあげたのだ。

( ^ω^)「お前……何を言って………」

よく見れば、箱車に乗っている兵士の様子もおかしい。
先程から誰も全く、ぴくりとも動いていない。



      「あの娘が大事なのはわかるわ、だってすごく可愛いし、『私の剣を』無力化できるみたいだし。ね?」

門番は喋る。
やはり、彼のものとは別の声で。

( ^ω^)「………いつから」

      「今日あなたにぶつかった時から。気付いて欲しかったなぁ、結局私を自発的に思い出してくれるまで待っちゃったけど」

( ^ω^)「……どうして…………、」

      「んっふふふ、何に対する『どうして』なのかわからない。でもどの答えも『構って欲しかったから』、それに尽きるかしら」

( ^ω^)「どうしてお前は、ここに居る……」

鎧に亀裂が走った。それはまるでステンドグラスを破壊したかのように、多色の光が弾け、分散し、割れていく。

      「んっふふふふふ、ふふふふ、それは、私が私足り得る理由を強くするため。いいえ、もっと単純な話、」

瞬間で迫ったその衝撃に、空気が揺れ、頭が揺れ、爆ぜるように記憶が掘り起こされると、やがて、体を震わせた。

423 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 17:15:08.88 ID:WznWHEl+0






        ('、`*川 「私が、枯木の魔女だから」





        紫の布が、現れたその体を覆った、
 
        栗色の長い髪が、布と同時に舞った、

        透き通るその声が、鼓膜を貫くように叩いた、





        数百年の時を経ても、その姿はあまりに美しいままであった、

        それは同時に吐き気がするほど壊し尽くしてしまいたくなるものであり、

        しかしその全てを、気が狂うまで欲してしまいそうになる、この世界にただ一人の、



425 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 17:20:11.83 ID:WznWHEl+0
川 ゚ -゚)「雨か……」

霧は完全に晴れ、空からはいつの間にか無数の雫が落ちてきていた。

川 ゚ -゚)「……いつまでそうしているんだ」

クーは足もとに転がる二人、もっとも、今は一人ともいえる彼に声をかけた。

('A`)「渋沢さんはなあ……騎士を死ぬほど恨んでたんだぞ……」

彼は雨を気にすることはなく、腹から大量の血を流す男の体を抱えていた。

川 ゚ -゚)「それがどうした」

('A`)「ふざけんじゃねえよ、てめえ」

彼は見降ろすクーの視線に対して、怒りを露わにした。
それは静かな炎で、降りだした雨には負けてしまいそうなほど小さなものであったが。

('A`)「あんな嘘でも、衣装にまで手を伸ばした渋沢さんが信じないわけにはいかなかったんだ」

川 ゚ -゚)「お前が怒る理由には遠い気がするが」

('A`)「商人と癒着していた騎士は大勢いたのに、渋沢さんは商人側の失敗のせいで、一人だけ、吊るし上げになったんだ」

川 ゚ -゚)「そんなもの、私の知ったことではない」

('A`)「騎士ってもんは、どうあっても信用できないってことだよ。だから些細な言葉でも騎士に関係していれば、渋沢さんは動く」

川 ゚ -゚)「知ったことではないと言っているだろう。お前は自分が殺したその男の想いを代弁してるつもりにでもなっているのか」

426 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 17:25:17.26 ID:WznWHEl+0
('A`)「……違う。俺は、噛み締めているだけだ」

川 ゚ -゚)「人殺しの感覚を?」

('A`)「殺してしまったこの人が何を抱えていたか、どう生きて、どう考えて、どうして、こんなことになったのか」

彼の口は冷たく言葉を吐き続けていた。
しかしクーにはどう見ても、それは現実逃避にしか見えないものだ。
無理矢理に頭を冷静にさせて、思いつく限りの言葉をうって、溢れそうになる器から、なんとか自制心を保つために吐き出して。

川 ゚ -゚)「なんだそれは、それをお前が噛み締めてどうなる」

('A`)「俺が犯した罪だから」

クーには全く意味が解らなかった。
人を殺すことが、どうして罪となるのか。
ならば自分が抱えた罪は、どれほどのものなのか。

川 ゚ -゚)「お前の言う『罪』とは、なんだ。コソ泥のお前が、そんな顔をする意味のあるものなのか」

('A`)「宗教なんてもんは信じていないが、人にとって、絶対に必要なものだ」

川 ゚ -゚)「ほう、では私には関係がないな。人が必要だと言うものは大抵、本来は必要のない無駄なものなのだから」

('A`)「……本当になんなんだよ、お前……、完全に、狂ってやがる…………」

川 ゚ -゚)「……もう話すことは無いか。ではまた会おう、ドクオ」

クーは死体を抱えた男の首を掴んだ。
まるで彼の全てを否定するように、あっさりと。

429 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 17:30:25.00 ID:WznWHEl+0
('A`)「……あー、悪い、一つだけいいか」

しかし、彼は口を開いた。
その顔はついさっきまでのように、自分の命の保全や現実逃避に走る男とは、少し違っていた。

川 ゚ -゚)「構わんぞ」

('A`)「お前に……背負えるのか……?」

川 ゚ -゚)「何をだ」

( A )「ぐっ、…………命だよ、」

川 ゚ -゚)「……誰の」

        『『『『『『俺達の――』』』』』』

クーの掴んでいた首が潰れた。正確に言うならば、「潰してしまった」。
あと数瞬は殺すつもりなどなかったのに、手は彼の首を握り潰した。

彼の血にまみれた手は震え、クーはしかめた顔でそれを見つめる。
筋肉の痙攣か、または別の要因か、クーが理解しようと思えないところで、それは言うことを聞かなかった。

殺した彼を見下ろした。やはりいつもの、『ドクオ』の死体がそこにあった。

    「………幾らだって、背負ってやるさ」

雨が顔を濡らしていた。突然強くなった雨は、視界の全てを奪っていた。
こんな感情が自分の中に未だあったことを呪い、この濁流のような雨でそれを消してくれるよう願った。
それでも流れ落ちていかないその想いは、クーの手を温かく、赤く染め、そこに生があったことを、確かに示していた。

432 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 17:36:09.67 ID:WznWHEl+0
止んでいた霧、降り出した雨をすり抜けるように、二人は走った。

ξ;゚⊿゚)ξ「うわ、」

从;'ー'从「なにこれ……どうなっちゃってるの?」

南門からヴィップを出ると、外壁の前で兵士が整列をしていた。
その数は百や二百という数ではなく、五千にも届きそうな数だ。

ζ(゚ー゚*ζ「では、都市の掃討に向けて、各自道具の確認を」

その最前列、指揮官としての『眼』を持つラウンジ正教の騎士が声をあげていた。

ξ;゚⊿゚)ξ「あの! あの! すいません! いいですか!」

雨が降る中、そこに大声で話しかける。

ζ(゚ー゚*ζ「ああ、そちらのメイドの方は保護しますよ」

ξ;゚⊿゚)ξ「違います、どうしてこれだけの兵士を? 今の状態なら都市内の兵士だけで十分だと思うのですが」

ツンらがヴィップを走る間、ほとんどの暴動は収まりつつあった。
やはり商人や狂信者が束になったところで、訓練された街の兵士達にはかなわないのだ。

しかし、そこで今の光景。これは素人目に見ても不必要なほど兵を動員しているように見える。

ζ(゚ー゚*ζ「街の掃除にはどうしても人員が必要なの。ヴィップ近郊の駐屯地からも人を割り出してもらったわ」

ξ;゚⊿゚)ξ「………今回の暴動は、皆殺しで片を付けるというわけですか?」


433 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 17:40:38.32 ID:WznWHEl+0
ζ(゚ー゚*ζ「違うわ。首領以外を皆殺しにして、死体と血の掃除もまとめて行うだけよ」

ξ゚⊿゚)ξ「……引き金は魔女ですよ?」

ζ(^ー^*ζ「へえ、丁度いいじゃない。もしもここに魔女が居るなら、これであなた達の『魔女狩り』は終わりを見せるかもね」

ξ゚⊿゚)ξ「彼らは魔女に操られているだけだと思うのですが」

ζ(゚ー゚*ζ「だから?」

ξ゚⊿゚)ξ「……は?」

ζ(゚ー゚*ζ「だから、何?」

ξ;゚⊿゚)ξ「……ですから、魔女さえ押さえれば彼らは、」

ζ(゚ー゚*ζ「それができるの? 未だに捕まったことなんて一度もない、あの魔女を」

ξ゚⊿゚)ξ「それは、」

ζ(゚ー゚*ζ「首領を捕らえることに失敗しても、追従するゴミさえ排除すれば、後腐れは間違いなく減るけど?」

ξ゚⊿゚)ξ「…………」

ζ(-、-*ζ「はぁ……掃討まであと半刻。私には準備があるから、失礼するわね」

ξ゚⊿゚)ξ「……わかりました」

ツンの背後では光とともに、街の中への巨大な稲妻がいくつも落ちていた。
それはまるで誰かの居場所を示しているかのように、まるで、誰かの雄たけびのように。

434 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 17:43:20.80 ID:WznWHEl+0
( ^ω^)「……」

('、`*川「ねぇ、何か言ってよ、ホライゾン」

ブーンは雨の降る街の中心、黒十字があった場所の上で、魔女に抱きつかれていた。
絡みつくようなかたちで、魔女は雨の中、ブーンに体を委ねていた。

('、`*川「あなたも、私の名前、覚えてるよね?」

魔女はゆっくりと、確かめるように。
不安そうな声で、ブーンの耳元に質問を一つ。

( ^ω^)「ペニサス、」

('、`*川「んっふふふ、そんな最低な名前でも、覚えてくれていて嬉しい」

( ^ω^)「離れろ」

言って、ブーンは魔女の肩を突き飛ばした。

('、`*川「恥ずかしがらなくていいわ、大丈夫」

( ^ω^)「ここまで人間に介入するとは、気でも触れたか?」

六百年の間、魔女が人間社会に直接攻撃を仕掛けることなど一度もなかった。
それは魔女の気がそれ以外に向いていたか、そもそも人間には興味がなかったものだと、ブーンは思っていた。
ここまでするきっかけが、今更魔女には存在しないはずだったのだ。

('、`*川「んっふふ、それはねぇ……全部、あなたのせい」


438 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 17:48:10.00 ID:WznWHEl+0
( ^ω^)「お前とは吸血鬼を創って以来会っていないだろう」

('、`*川「あー、それもあるかもね。でも、会えてこんなに嬉しい今があるから、それはいいかなぁ」

ふふ、と笑った魔女は、やはり美しかった。

( ^ω^)「どうしてラウンジ教に手を出す必要がある」

('、`*川「だから、あなたのせいだってば」

頬を膨らませた魔女は、やはり美しかった。

( ^ω^)「理由は、」

('、`*川「『魔王』」

( ^ω^)「…………」

('、`*川「ちょっと前にね、いろんなところであなたの名前を聞くようになったのよ」

( ^ω^)「それはお前が、」

世間の流通をせき止める、人では持てあますほどの大きな力を世界に撒いたせいだ。

一度手にしてしまえばある程度の地位が商人の間で約束され、それは人々の競争を停滞させる。
人々の発展には魔導具は不要なものだったのだ。自らの力でしのぎを削り合うことによって、人間は成長していくのに。

('、`*川「邪魔だったから? でも、あなたが表舞台に上がるなんて思わなかった」

( ^ω^)「…………ある一人の学者が、僕に嘆きをぶつけてきたんだ」

440 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 17:54:19.79 ID:WznWHEl+0
彼とは様々な交流を続けてきた。

不死である、ということをたまたま彼に見つかったのがきっかけで始まった関係だ。
彼はいつもわけのわからない研究に身を注ぎ、ブーンも体を張ってそれに付き合わされることがよくあった。

しかし、それは人の発展には不可欠であるという。
そして彼は一部の実験結果を持ち出し、ブーンの知らない世界を見せつけた。
そこには、過去を生き続けてきたブーンでは知り得ない、未来への道が見えた。

( ^ω^)「物流が滞り、他の国の論文も見られない、実験に必要な道具も届かない、怠惰な人間が増えた、
      今の時代の生活で皆が満足してしまっているのが気に食わないなど、彼のその嘆きを今言うには、きりがない」

だから、ブーンはそれを変えようと思った。彼のために未来を切り開こうと思った。
培ってきた経験から、人の心の流れならば掴める。そこでブーンは、その頃新たに市長の座についた、無能の彼を手玉に取った。

('、`*川「それで?」

( ^ω^)「それで、僕がきっかけをつくった」

今やその市長の彼も、見た目は若々しくあるが、刻まれた細かな皺には威厳を持ち、ブーンのような冷静な頭を手に入れた。
過去その成長の片鱗が見えた時、ブーンは彼に商業の中心を委ね、予想通り、二十年の期間をもって世界は変化を見せ始めたのだ。

('、`*川「……私は、そんなのいや」

( ^ω^)「……」

('、`*川「あなたは私のもので、私はあなたのもの。他の誰にも知られないで、世界で二人だけが、互いを知っていて欲しかった」

( ^ω^)「……『魔女』のお前が、何を馬鹿なことを言っている」

442 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 17:59:32.54 ID:WznWHEl+0
('、`*川「だって、私の名前はあなたしか知らない。私の体も、あなたしか知らない。
     私達は唯一で、二人だけ。なのにあなたはいとも簡単に、世間に名前を出して現れた」

( ^ω^)「それはお前が居たからだ。お前さえいなければ、あそこまで大きく動かなかった」

('、`*川「私がいなければ、今まで生きていられないじゃない」

( ^ω^)「本来、生きている必要などない。お前の作り上げた魔術も秘蹟も、人には必要ない」

('、`*川「私はあなたを愛していたじゃない」

( ^ω^)「聞け、」

('、`*川「どうしてあなたは、私を見てくれないの」

( ^ω^)「おい、」

('、`*川「捨てられて、辛かった」

( ^ω^)「………」

('、`*川「……だからね。私は全世界の人間に愛されようと思ったの。素晴らしいでしょう?」

言って、魔女は足元をぐりぐりと踏みつけた。
そこは世界でもっとも愛されている者の一部ともいえる、黒十字があった場所だ。

('、`*川「あなたなんて比較するにも及ばない、世界そのものに愛してもらうの」

( ^ω^)「……その程度のきっかけで、物事の分別もつかなくなったか」

443 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 18:03:19.96 ID:WznWHEl+0
('、`*川「だから私は『神』になった。いいえ、気付けば私は『神』になっていた」

( ^ω^)「黙れ、『魔女』」

('、`*川「ちょっと遊んでいただけなのに信仰する人間が居てね。崇められる瞬間は快感だった」

魔女は紫の布から、素肌の両腕を広げ、天を仰いだ。
真っ白な肌は降ってきた雨を弾き、その瑞々しさを強調する。

('、`*川「この信仰が世界に広がれば、私は死をも越えるほどの絶頂に逝ける」

すると雨が強くなった。

('、`*川「だから、妨げになる『虚像の神』は全て殺す」

やがて風が強くなった。

('、`*川「だから、否定する人間は全て殺す」

光が拡散し、神鳴りが轟音を鳴らして落ちた。

('、`*川「そしてその全ての最後に、私に嫉妬してしまうであろうあなたを、殺せばいい」

( ^ω^)「……悪いが僕らは今から、変わりつつある世界の最後の枷となるお前を、消す」

('、`*川「あなたにできるかしら。いいえ、できないわね。あなたは私が誰だか知っているのだから」

( ^ω^)「ああ、僕にはできない。だから僕は三年前、『希望』をつかまえた。そして―――」

息を吸い、ブーンは確信をもって振り返る。嵐の中でも、落雷の中でも、こちらに向かって真っ直ぐに走ってくる、その足音に。

445 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 18:08:21.85 ID:WznWHEl+0








    ξ#゚⊿゚)ξ「ブーン!! 時間がないからさっさと終わらせるわよ!!」






     そして―――僕の信じる『彼女』と、今までこうして歩いてきたんだ。










446 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 18:11:33.94 ID:WznWHEl+0
ツンは魔術の香を頼りに走っていた。

現在ほとんど落ち着きを見せていた街に、多大な量を放出するものが、未だ一つあったのだ。

その先、御所の跡には、『彼』が居た。

さらに、こちらへ振り返った彼の前には、紫色の布から素肌を見せる、髪の長い女が居た。

ここから導き出せる答えは一つ。

あの女が、魔女なのだ。

ξ#゚⊿゚)ξ「ブーン!! 時間がないからさっさと終わらせるわよ!!」

駆ける腿をさらに持ち上げた。
とりあえずぶん殴れば、なんとかなると思ったのだ。

('、`*川「…………また、あの子ね……忌々しい……」

( ^ω^)「逃がすか」

ブーンは魔女の体に絡みついた。
抱きしめるようにして、逃避を許さない。

('、`*川「やだ、」

しかし魔女の足元まであった布の端が刃のように蠢き、ブーンの腹を左右から突き破る。
布は鎌のようにゆらゆらと揺れ、次にはブーンの両腕を躊躇いなく切り落とした。

('、`*川「放してよ、ホライゾン」

448 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 18:16:28.11 ID:WznWHEl+0
( ^ω^)「……」

それでも両腕を切り落とされる寸前、魔女の首に噛みついていたブーン。
その隙、ツンは距離を詰める。

ξ#゚⊿゚)ξ「間に合え!」

拳を握ったまま二人に、瓦礫を破壊しながら走り込んだ。
体型から見るに、一発入れるだけでも話は変わってくるはずだ。

('、`*川「間に合わないわ」

沈んだブーンの陰から魔女の頭を狙ったツンの拳は空を切る。
魔女はブーンを蹴る反動で、足元の聖堂の床の名残を削りながらかなりの距離をとってしまったのだ。

ξ#゚⊿゚)ξ「ちっ! 腕!」

ツンは空ぶった勢いのまま、落ちた二本の腕を滑り込むように拾い、蹴り飛ばされたブーンに投げつけた。

( ^ω^)「必要ないお」

そんなことを言うブーンの腕には既に真っ赤に染まったものが生えており、投げた腕は地面に転がった。
大きさは普段と変わらないようだが、今まで彼が腕を生やすようなことは一度もなかった。

ξ゚⊿゚)ξ「なにそれ」

( ^ω^)「切り札」

二言交わし、細かい理由は掃き捨てる。
切り札。その意味は、今ここで魔女を狩ると彼も決めているということだ。

451 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 18:21:19.16 ID:WznWHEl+0
ξ#゚⊿゚)ξ「じゃあ、一瞬で行く」

('、`*川「できないわよ」

( ^ω^)「僕がさせるお」

ブーンが地面を吹き飛ばし、爆発的な初速で飛び出した。
ツンの言葉通り、それは一瞬を駆けてゆく。

赤の腕はその瞬間で魔女の腹を突き破り、雨とともに魔女の口から、濁流のような血を垂れ流させた。

ξ#゚⊿゚)ξ「そのまま!」

ツンも後に続く。
今日喰らった魔術の香は彼女を強くするには十分すぎた。
ツンの細い脚は速攻を極め、魔女に向かう。

('、`;川「く、、、これは……鬱陶しいわね」

貫かれた穴と小さな口から血を垂らしつつも、魔女は牽制か、その背中から羽のような無数の黒い鞭を飛び出させた。

ξ#゚⊿゚)ξ「どっちが!」

走りながら鞭を拳で、頭突きで砕く。この程度、瞬間で破壊できる。
黒は即座に白へと変わり、ツンの手からは同時に、発光する爪が生じ、伸びてゆく。
置かれた状況は単純だ。至近距離で鞭に貫かれたブーンとその腕に貫かれた魔女、二人は簡単には動けない。

ξ#゚⊿゚)ξ「さっさと、失せろっての!!」

ツンは横から飛び込んだ。そして伸ばした爪、その先の光が狩り殺すのは、宿命の根源。

455 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 18:28:02.13 ID:WznWHEl+0
しかし裂くことが叶ったのは魔女の脇腹まで。
とは言っても、なんとか引き裂いた魔女、ふらつきながら後退する姿には、多量の黒い出血が見られる。

('、`*川「あら、こっちの傷、もう治らないわね……」

ブーンを力ずくで振り回しツンに衝突させた魔女は、胸の穴が泡によって塞がるのと、脇腹の出血を見て小さく笑っていた。
ツンはブーンの体を押しのけぐりぐりと立ち上がり、短い光の爪を軽く振る。

いける。

そう、思った。

(  ω )「あ、ぐ、く、あ、あ、」

なのに、苦しそうな彼の声がした。
ツンの爪が裂いたのは魔女だけではなかった。
魔女によって薙ぎ払われたブーンとツンの爪が交錯して、その腹に、突き刺さっていたらしい。

ξ゚⊿゚)ξ「……え?」

ツンは一瞬、それを見て頭が真っ白になった。鞭の傷は戻っているのに、腹の傷が戻っていない。
まさかこの力が彼をも傷つけてしまうものだったとは。いいやある程度予想はしていたが、これほどまでに深刻なものだったとは。

彼の傷口の周辺は底の見えない穴のように真っ黒に染まり、傷からは泥状の血がゆっくりと流れ出していたのだ。

(  ω )「大丈夫だお。これは僕らの傷。だから。魔女もきっと同じ苦しみを。受けているはず。だお」

六百年など死体ですらほとんど存在していないのに、その楔を破壊することでこんなにもおぞましい傷を作ってしまった。
これ以上戦いを続けては危険かもしれない。そもそも、一か所でもこんな傷が出来てしまっては、まずいのではないか。
もしかしてブーンは自分のせいで、取り返しのつかないことになってしまったのではないか。

457 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 18:35:10.22 ID:WznWHEl+0
ξ゚⊿゚)ξ「やだ……」

悪寒がする。
こんなことを考えている場合ではないとわかっているのに、考えてしまう自分に。
雑念を捨てなければならない。時間は無い上に、相手は魔女なのだから。

(  ω )「落ち着け、大丈夫だから」

しかし、腹の傷はこの世のものではないと思えるほどの黒。妙な、本当に血かどうか疑いたくなるものも溢れている。
だめだ、これを見ると、死なないで欲しい。彼には居なくならないで欲しい。そればかり、考えてしまう。

(  ω )「いいから聞け、ツン。大丈夫だ」

ξ-⊿-)ξ「……うん、大丈夫。聞く」

無意識に細かく息を吸っていて気持ちが悪くなったが、彼がそう言うなら、大丈夫。
さあ、魔女を倒す術を聞かせて欲しい。目標は、魔女狩りだ。



      「魔女ごとやれ」



そう言ってすぐさま、彼は魔女の元に行ってしまう。
聞こえなかった振りをする時間も、彼は与えてはくれなかった。

ぐっ、とツンの拳に妙な力が入り、爪が手に食い込んでいく。
そのあまりにも簡潔な言葉を、体に刻みこむように。

458 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 18:40:55.81 ID:WznWHEl+0
( ^ω^)「………」

ぱた、ぱた、

('、`*川「………」


( ^ω^)「…………」

('、`*川「ねぇ…………」

ぼたぼた、ぼたぼた、


('、`*川「……どうして笑みを浮かべているの、」

( ^ω^)「目的を果たすことができたから」

('、`*川「……どうしてそんな顔ができるの、」

( ^ω^)「信じているから」

('、`*川「……あなたはそんな人じゃなかったのに、どうして………」

( ^ω^)「僕の、償いだから」

('、`*川「嘘ばかりつかないで。それで説明ができていないことくらい、自分でわかっているくせに……」

( ^ω^)「………………、……………、………、」


461 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 18:47:06.74 ID:WznWHEl+0
振り続ける雨に打たれ、お互いの手の届く距離で相対する二人。
魔女はゆっくりと、確かめるように互いの傷を見て、そこに今の彼の姿を見てしまった。

('、`*川「……最低ね、あなた。私にあなたの心が読めないとでも思っているの?」

( ^ω^)「違う……どうしようと、僕達はこうなる運命なんだ」

('、`*川「運命なんて本当に最低な言い方。あなただって、納得できていないくせに」

( ^ω^)「……お前こそ、なんだその腑抜けた態度は。あの一瞬で全てが決まって拍子抜けしたか」

('、`*川「なにが拍子抜け。切り札だっけ? あの瞬間で何百回死んだと思ってるの? あれだけ逝かされて、腰砕けよ」

( ^ω^)「お前がつくった魔術と似たようなものだ。これには四百年の時間を費やした」

('、`*川「……足止めの為だけに? あれじゃ私の頭を麻痺させられても、殺せはしないでしょう、」

( ^ω^)「本当は僕がお前を殺すつもりだったが、途中で辞めただけだ」

('、`*川「………あら、私への情熱が冷めたってことかしら。残念ね、」

( ^ω^)「それは少し違うな。自分の限界に気付いて、世界を回り始めた」

('、`*川「…………はぁ、なるほどね。そこから、『今のあなた』が始まったわけ、」

( ^ω^)「そう、だな。僕は世界を回って多くを知り、大切なものを、いくつも見てきた」

     「……………………酷い話ね、本当に…………最低よ……」

( ^ω^)「どうした魔女。お前にもまだ、そんな顔ができるのか」

463 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 19:01:00.84 ID:WznWHEl+0
     「『大切なもの』だなんて、私が最後に殺そうとしたあなたは……どこに行ってしまったの……?」

( ^ω^)「人は変わるものだ。お互いにもう、あの頃とは違う」

     「いえ、うん、そう。そうよ、ね。騙され続けてきた人間を、あなたが信じているだなんて……おかしいもの、」

( ^ω^)「それは……」

     「……愛していたから。」

     「……やめろ、」

     「あの子は、あなたの、」

     「やめろ、」

     「世界を変える希望で、」

     「やめろ、」

     「生きる理由の大きな支えで、」

     「やめろ……」

     「私の知らないそんな顔まで持たせることができた、『今のあなた』の、全てだから。……でしょう?」

     「……ペニサス、頼むから、もう………やめてくれ…………」

     「んっふふふ……、だったら私の心は、一体どこに寄せればいいのかしら。ね、…………『ブーン』……」


465 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 19:06:12.37 ID:WznWHEl+0
魔女は涙を流して、笑った。
自分の知らない彼の名前を呼びながら、自分の知らない心を噛み潰して。
それは死を前にした諦めや絶望の裏返しというよりは、もっと前を向いた笑顔だった。

なぜなら無限の時を受け入れていた自分が間違っていたことに気付いたから。
彼も自分と同じく、六百年をただ漫然と、思いつくがままに過ごしていたのだと、今まで勝手に思っていたことに気付けたから。
自分自身が既に彼を愛すこともできず、一方で彼は、人としての心を持っていた、生を全うしていたことに、気付いてしまったから。

魔女はそれがとても悲しく、とても嬉しかった。

同じ時間を過ごした筈だった今の彼によって、自分の存在全てが根本から完全に否定されてしまっているということ。
自分の愛を理由に巻きこんでしまった彼は、しかし愛そのものを疑わず、この瞬間の為に、世界を変える道を選び取ったこと。

魔女は傷の熱を感じながら、思った。

ここに付けられた傷は人がつくりあげたものだ。少なくとも彼がつくったものではないということは、彼の言葉から読み取れる。
誰がつくりあげたかは全く見当がつかない。どんな理由でつくりあげたのかも、さっぱりわからない。
それに該当しそうな人物、一族、組織、国家は、考えればきりがない。

しかし、実際にこれだけのものを完成させられる者が本当に居ることを、未だに信じられない。

それだけの労力、それだけの時間、それだけの執念、それだけの野望があったのかと、首を捻りたい。
際限の無い闇を投げやりに過ごしていた自分がそれだけ人に影響を与えてしまっていたのならば、なにもかも戻してしまいたい。
彼らはこんな狂ってしまった化け物を、どうしてこんな形で助けてしまったのか、理解を、させて欲しい。

そして魔女は雨の中、立ちつくす人の子を見て想う。
暗がりの六百年の果て、彼が愛した希望の光を見て、彼女は、想う。

     「…………んっふふふ、本当に私も……最低よね」


466 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 19:11:17.52 ID:WznWHEl+0

  あなたがその全ての結晶なら。

  あなたがこの負の連鎖を、ここで断ち切るというのなら。


  私は最後に、

  知らない名前の彼と、

  名前も知らないあなたと、

  無数の誰かに拒まれた、

  私が壊したこの世界を、愛してあげる。
     

  「でも、これくらい……いいでしょう?」


  だから。

  ほんの僅か、ただの一瞬、あなたが瞬くその間だけでもいい。

  おねがい、彼の胸を、彼の腕を、あなたと刻んだ温もりを、感じさせて。


  そうすればきっと私の心も希望に満たされるから。

  そうすればきっと、「枯木の魔女」の罪も、受け入れることができるから。……ね?

467 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 19:16:23.07 ID:WznWHEl+0
優しく抱きしめ合う二人の姿を見て、躊躇いが生まれそうになった。
彼らはまるで恋人のような、血を分けた家族のような表情で、
全てを知って、二人だけの時間を通じ合っているようで、その全てを受け入れて、それでも、二人は、

ξ゚⊿゚)ξ「ブーン、」

彼の名を呟いた。先程の彼の言葉の意味を、咀嚼しながら。
呼びかけが届くかどうか、そんなことはどうだっていいのだ。
彼の名前を呼ばないと、その意味を否定してしまいそうになる。

ξ# ⊿ )ξ「あああああああああ!」

頷くことがうまくできない、だから呼ばなくてはいけない、ここで彼が自分の中に居たことを、噛み締めなければ。
そうしなければ自分はきっと弱いままで、きっと子供のままで、先に進めないから、名前を、呼ぶ。
今も見えない彼の表情だって、きっと崩れていない。彼と組んだ理由は今、目の前に在るのだ。

さあ、あと一回、息を吸って。

      「ブーン!!」

これで呼ばなくていい。
もう自分から呼ぶことはない。
この瞬間をもって、呼ぶ必要が無くなる。

なぜならこれから魔女を狩るから。

彼の姿、言葉、仕草、口癖、その何もかもを信じて、掌を開く。

そうだ。私はこの場所で、この旅の終止符を打つ。


470 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 19:21:46.20 ID:WznWHEl+0

 全力で。それこそ、全身全霊で。

 父達のつくった、この力で。


 「大丈夫」。

 これで終わりだ。

 これで最後だ。

 逃げるためではなく、これは前に進むため。


 誰かの呟きも、すすり泣く声も、雨で遮られて聞こえないのだ。

 力を込めろ、喰らった魔術を、全てここに捧げろ。

 手の先に滾るこの力は、破壊の光でしかない。


 この、天を裂く雷のような大きな爪で、


 与えられた使命を果たすために、


 彼らを、


471 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 19:25:33.35 ID:WznWHEl+0

      「うっ………うっ……」

痛い。
震える体が、雨に負けてしまって、痛い。
最後の爪をつくった手が、焼かれるように、痛い。

      「あら、ツン。魔女を殺せたの? なんか真っ黒いけど、これでしょ?」

誰の声も、聞きたくない。

      「まあでも、掃討は全部終わらせちゃったし、だったら誰が責任を取るの、って話になるのよね」

      「………っ…………………」

      「この意味、あなたにわかるかしら? わからなくてもいいんだけど」

      「……うっ…………………」

      「あなたは私の権威のために人柱になってもらわなきゃいけないわけ。突然帰ってきた異色の騎士だし、丁度いいでしょ?」

      「うっ……………………あっ、…………」

      「わかったらさっさと、私に拘束されてね」

      「…………かっ…………」

      「………さ、行きましょうか。『魔女』」


473 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 19:30:31.29 ID:WznWHEl+0
がしゃり。

真っ暗。

突き飛ばされてしまった。

外の音は聞こえる。

雨は止んできているようだ。

ああ。

「教皇どころか政府まで落ちたって、国はこれからどうなるんです?」

「さあな。とりあえず『眼』の意向は生き残っている議員を黙らせる方向でいくだろう」

「確かに明日は魔女を晒し、騎士の実力を見せつけるという話ですが、それでは問題の解決には……」

「まあ、その魔女も、魔女ではない」

「え? それは一体どういう……」

「魔女は捕らえられなかったそうだ。なんでもその証明ができず、示しがつかないだとかなんとか」

「じゃあ、今捕らえられている女性は……?」

「『魔女狩り』だよ。魔女に攻められる前に討ち取ることができなかった罪だと言って、『眼』が他の騎士を黙らせていたのを見た」

「……なんとも、皮肉な話ですね。捕まった彼女、かなり衰弱しているようですし…………」


474 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 19:34:47.49 ID:WznWHEl+0
手枷はあまりにも軽かった。
昨日蹴られた胸は、未だにとても重かった。
今も蹴られる背中は、少しの痛みもなかった。

ζ(゚ー゚*ζ「さっさと歩きなさいよ、魔女。やっと出てきたお日様にも、あなたの顔を見せてあげて?」

彼女に連れられ、街を歩かされた。
どこに行くつもりなのか、ずっとふらふらと、さまよった。

たまに聞こえる罵声は、私に向けられていた。
どうやら私は、今回の事件を引き起こした魔女だったみたいだ。

確かに、魔術を喰らう私はある意味で魔女だったのかもしれない。
本当はあの魔女も、戦う相手さえいなければこんなことをしなかったのかもしれない。
あれだけの慈愛に満ちた表情は、彼女にしかできないものだから。

それを思うと、穴があいていることに気付いた。
どこに、というものではなく、私そのものに。
暗くて覗くことすら拒んでしまいそうな、そんな穴が。

「おい、待て! 貴様は何を!」

いいやむしろ、そんな闇に溺れてしまえればどんなに楽だっただろう。

ζ(゚ー゚*ζ「あら、残党も全て殺したつもりだったのだけど」

もう私の生きる意味も、義務も、役割も、任務も、立場も、記憶も、感覚も、全部、

川 ゚ -゚)「すまん。きっと戻ると言っておいたんだが、そういえば伝言係がボケ老人だった」


475 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 19:41:27.78 ID:WznWHEl+0
ξ;⊿;)ξ「クーさん……?」

あの綺麗な声はクーさんしかいない。ほんの数日会っていないだけなのに、ひどくなつかしい。
でも今帰ってきても、どうしようもないのに。どうしたって、どうにもならないのに。

川 ゚ -゚)「酷い顔だ。あいつに泣かされたのか?」

首を横に振った。力の限り振った。
これは自分の弱さのせいで溢れてくるもの。残像に必死にしがみついているだけ。
決してあの人に泣かされたわけではない。あの人には、ただ、

川 ゚ -゚)「そうか。なら、やはりこいつらだな」

その言葉の後に、男の妙な声がいくつも聞こえた。

ζ(^ー^*ζ「やめなさい。あなたが何を考えているのか知らないけれど、魔女に味方をするなら容赦はしないわよ」

『眼』の声だ。あぶない、絶対。

川 ゚ -゚)「貴様が何を言っているのかわからんが、こいつを泣かせるような輩ならば私も手加減はしない」

だめだよ、争っちゃだめ。なのに、口が少しも動いてくれない。

川 ゚ -゚)「行け」

从;'ー'从「はい! ツンちゃん! 動ける?」

メイドの声が近づいてきた。
私の後ろから息を切らして走ってきたようだった。
でも、どうしてかは、考えたくない。

477 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 19:46:19.23 ID:WznWHEl+0
「逃がすな!」

川 ゚ -゚)「行かせると思うか?」

从;'ー'从「ツンちゃん! 今の内に走って!」

ξ;⊿;)ξ「でも、」

从;'ー'从「いいから早く! こっちに逃げれば大丈夫!」

ξ;⊿;)ξ「でも、」

川 ゚ -゚)「…………」

メイドに引っ張られる。足は勝手に進み始める。まだ、私は生きようとしているのか。

川 ゚ -゚)「……ああそうだ。ツン、仕方ないから私の負けを認めてやる」

ようやく動き始めた醜い私を、軽い調子の声が止めた。
でも聞きたくない。それだけはもう、いや。だから、本当にやめて、クーさん、



川 ゚ー゚)「楽しかったぞ」



そんな綺麗な笑顔を、私に見せないで。



479 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 20:00:24.58 ID:WznWHEl+0
わざわざ騎士の行列が、街を抜けられる路地裏の横に来るまで彼女に我慢をさせたのだ。
あのメイド、私に手伝えと言った口でもしも逃げ切れなかったら殺してやる。

ζ(゚ー゚*ζ「さて、どうする気かしら」

それにしてもこの女、なぜこの私に勝ち誇った顔をするのか。
まさかこの程度の数の人間を集めて勝った気でいるのだろうか。

川 ゚ -゚)「どうする、だと? 単純だ。私は禁忌を破る」

一族の禁忌、『血抜き』をする。
吸血鬼は血を吸うことで、力を得る。
それは吸血鬼のものを吸えば尚更だ。

川 ゚ -゚)「今の内に神にでも祈っておけ」

自分の腕に噛みつく。最初で最後だ、こんなもの。
おじい様の力を、壊してやるための力を、ゆっくりと、吸う。

ζ(゚ー゚;ζ「あら……魔女の次は、本物のバケモノ?」

体を駆け巡り全身から噴き出すようなこの高揚は、ただ一つの殺意に変える。
彼女の足枷も、再度生まれてしまったこの心も、根から絶やし、殺し尽くす。
ここでけじめをつける。これからは宿命を果たすためだけに、彼の為だけに生きていく。

     「…………間抜けな先祖のついでだ。貴様らの矮小な命も、私がまとめて背負ってやろう」

私が人の為にここまですることは二度とない。
私が不死者の為にここまですることも二度とない。
こんな面倒事も、こんな心を持つことも、もう、二度と御免だから。

480 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 20:03:25.61 ID:WznWHEl+0
从;'ー'从「出してください!」

市長からお貸しいただいた馬車は足が早い。
途中で馬に乗り換えて、休みを上手く取って行けば騎士も撒けるはず。

     「ぁっ、ぅぅぅっ、ぅぅぅぅっ、っ、っ、ぁぁぁぁぁぁっ、ぅ、っ」

それよりも、彼女をどうにかしたい。
いろいろなことが多すぎて、今にも壊れてしまいそうなこの子を、助けてあげたい。

从;'ー'从「早く、ニュー速に、」

焦る、逸る、急いで、早く。
ショボン市長なら、きっとなんとかしてくれるから。

世界を変えられるだけのものを持ったあの人なら、きっと。

だから今は、

     「―――――――――――!」

少しでいいから、この子に手を差し伸べてください。

声がもう出てしまわなくなったり、
表情がもう変わらなくなってしまったり、
そんなことになってしまわないように、ほんの少し前のこの子を、取り戻させてください。

ああ、どうか…………神様。

 ep5. 枯木の魔女 おしまい。

483 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 20:17:16.20 ID:WznWHEl+0








      epilogue.    彼女と世界のプロローグ。








484 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 20:18:53.22 ID:WznWHEl+0

ゆっくりと、または急速に、世界は変わる。

何かが働きかけをしたものや、自然に変わっていったもの、

これらが混ざり合い、新たに世界を創りあげていく。


それは完成されたものではなく、誰かが手を加える余地のあるもの。


誰も手を加えず、自然のままに生きることも、

誰かの手が加えられ、されるがままに流れていくことも、

誰もが手を加え、ひとりひとりが思いのままに歩んでいくことも、

誰かがそのどれかを拒み、それを変えようとしても、

示される世界は未完成であるため、その全てに応じていく。


しかし不完全であるからこそ、人は生きていられる。

だからこそそこに生きる人々は手を取り合い、進んでいくことができる。


そして、その人々たちによって、物語は綴られる。



486 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 20:24:38.51 ID:WznWHEl+0
(´・ω・`)「ツン、今日は休みじゃないか」

ξ゚⊿゚)ξ「すみません、何かをしていないと落ち着かなくて」

教会の陥落により、権威を地に落とした騎士は行き場をなくしていた。
ニュー速の酒場で暴れる人間の大半は、いまや騎士や兵士に関係する者だというのが通説となっている。
もっとも、一部の口利きが生きていた者達は、すぐさま自分を新たな生き方へと捻じ曲げていったのだが。

(´・ω・`)「あれから二年だ。この国は既に、君が忙しなく動いていた頃とは違っている」

ξ゚⊿゚)ξ「しかしいまだに、騎士だ騎士だと道を大股で歩く者達もいます」

(´・ω・`)「街であまりに酷い者は、保安隊が処理しているだろう? 治安は以前のニュー速に戻しているところさ」

市長室の窓を横目に眺めながら、ショボンは子供を諭すように言う。

 ツンは聖地の事件の後、ショボンに秘書として雇われることになった。

 メイドに連れられこの街に再度やって来た時、彼女はかなり混乱した様子だった。
 自分の腕を握りつぶすような力で掴み、ずっと歯を食いしばっていた。

 ショボンはそれがどういうことか、なんとなく察した。
 彼女には何も言わずに、家で保護するようメイドに言うと、すぐに教会側からの対応に備えた。

 二日後、馬に跨りやってきたボロボロの騎士の群れは、「魔女を狩りに来た」と言った。

 ショボンは答えた。
 「この街には、『魔女』も『騎士』も、『魔王』だって存在しない。それは君達が、一番よくわかっているじゃないか」。
 街においては市長が常に最大の権威を持つ。対して後ろ暗いものを持つ騎士たちは、瞬く間に腰を引いた。
 この時ショボンが手に持っていた大量の紙束は、騎士たちの戦意を叩き潰したのだ。

487 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 20:29:57.16 ID:WznWHEl+0
ξ゚⊿゚)ξ「以前の、ですか……しかし国全体としては……」

ショボンの隣に立ち、窓を眺めるツン。
目は外を向いているが、その先にあるものを捉えていないように見える。

(´・ω・`)「そう。だからここから直していく。みんなが大声で自分の利益を求める、以前の商業都市をまずは取り戻す」

現在は治安の乱れが激しい為、単に大きいだけの静かな市場でしかない。
道を歩きながら詩を歌う者もいなければ、夜に酒場で飲み比べをする者も居なくなった。
都市の住人は自分の保身に精一杯で、そんな余裕など、今は存在しないのだ。

(´・ω・`)「そのための一つとして、僕から街へ向けてのちょっとした遊びを提案しようと思っている」

デスクに歩いてゆき、引き出しから細長い筒を取り出した。
先端のふたを抜いて、かさりと。丸められた紙がショボンの手に落ちる。
なかなか大きな紙で、ショボンは部屋中心のソファにわざわざ移動し、手前の低いテーブルに広げた。

ξ゚⊿゚)ξ「……電飾………祭り?」

(´・ω・`)「二年前に起きた、国中を揺らした凄まじい雷の被害があっただろう? 確か、君が来た少し前の日だ」

ξ゚⊿゚)ξ「………あれって、ヴィップだけじゃなかったんですね」

(´・ω・`)「その時、こっちの女性研究者が外に飛び出したんだ。降り続ける雷を見て、命を賭して思いつく限りの実験をしたんだよ」

ξ;゚⊿゚)ξ「え? その人、大丈夫だったんですか?」

(´・ω・`)「ああ。そしてその実験結果をもとに、雷、いや電気についての理解を深めた。特に、性質の部分でね」

ξ゚⊿゚)ξ「はあ……それから二年経った今、街の祭りに利用できる程にまでなった、ということですか」

489 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 20:35:01.67 ID:WznWHEl+0
ξ゚⊿゚)ξ「でも、」

広げられた紙を見つめながら、ツンは次いで口を開いた。

ξ゚⊿゚)ξ「祭り、なんて……開いている場合ではないと思うのですが」

実際、今の『チャンネル』は、政府を失ったことで国全体が未だ混乱に溺れている。
ニュー速のような大きな都市は、もともとがほぼ自治で動いていたようなものなので被害は少ない方なのだ。

なので田舎ともなれば、混乱はその比ではない。
ニュー速に入ってくる情報ですら、一つの村が消えたという話が出るほどだ。
届いていない状況は、おそらくそれどころではないというのが大半だろう。

(´・ω・`)「……悪いけど僕はね、魔法使いでもないし、特別頭の回る魔王でもない」

ツンの言葉に、ショボンは低い声で言った。
それは自分に対する言葉でもあり、ツンに伝えるにはそう言うしかないと、考えていたのだ。

(´・ω・`)「『この混乱を乗り切るためだ』と言って今ある力を分散させると、僕はその全てを把握しなければならなくなる」

ξ゚⊿゚)ξ「ですが、今は」

(´・ω・`)「僕は……いいや、僕らは無力なんだ。そんなこと、前例もないのに出来るはずがない」

ξ゚⊿゚)ξ「………」

(´・ω・`)「だからこそ、誰かの手を借りなければならない、誰かに手伝ってもらわなければならない。
      教会政府が潰れた現在、実質的に一番大きな力を持つことになるのは僕というより、この市庁舎だ。
      しかし市庁舎は今、都市内外周辺の対応に手一杯で、それ以上の仕事を求められても絶対に出来ない。
      そのうえ今取り組むべき仕事にすら、追われ潰れていく人間だっていたんだ。君だってそれは見てきたじゃないか」

490 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 20:40:13.36 ID:WznWHEl+0
(´・ω・`)「今の僕達に必要なのは、みんなとの結束なんだよ」

ξ゚⊿゚)ξ「……この祭りは、それを強めると?」

(´・ω・`)「ある程度簡単なことなら、とは言っても都市全域で行うのだから決して簡単ではないが、外からの助力も求められる。
      それを上手く練って昇華できれば、新たに街の規模を広げ、僕の手を回せる部分も増えるかもしれない。
      みんなにできないことを強いるよりも、できることを着実にこなしていく方が建設的だと僕は思うんだよ」

それでも、ショボンは悩んだ。

外の多勢を切り捨て、手が届く範囲のものだけを充実させていくとどうなるか。
そもそも彼自身が言った、『可能か不可能か』の判断基準は、今の状況ではかなり不鮮明なのだ。
これを理解した人間の批判が出るのは、確実であるだろう。

しかし事態を長期的に捉えるなら、それに対応できるだけの中核をしっかりと固めていかなければいけない。
今回の祭りはその基盤。これはニュー速の新たな技術を披露する機会で、その技術に目をつける人間は少なくはないはず。

それを利用できるならしてもらって構わないのだ、利用されることは、同様に利用することへのきっかけとなる。
祭りによって様々な能力を持った人間を集め、新たな共同体、言わば新政府のさきがけを、今ここで造り上げようという考えがあるのだ。

焼け落ちてしまった以前の自宅も、主人の自分が怪我もせずしっかりと生きていたからこそ、建て直せた。
国を立て直すということも、そういうことなのではないだろうか、と。

ξ゚⊿゚)ξ「そうですか……」

ツンは納得したのかしていないのか、口に手を当てながら静かに息をつく。

(´・ω・`)「意義があるなら何を言ってくれても構わない。でも、この選択を曲げるつもりは僕にはないよ」

腕を組んで背もたれに倒れこみ、わざとらしく構えたショボン。それをツンは無言で眺めると、やがて観念したように笑った。

491 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 20:43:07.19 ID:WznWHEl+0
ξ゚⊿゚)ξ「あら、祭りの準備? でもなんでここまで?」

从'ー'从「景気づけ~! ていうか開催は明日なんだから、ツンちゃんもお仕事あるでしょ?」

ξ-⊿-)ξ「そうねー。めんどくさいけど」

从*'ー'从「とか言いつつ四か月も準備に走り回ってたツンちゃん可愛いよ~」

ξ゚⊿゚)ξ「うるさいわねー、逝き地獄に連れてくわよ?」

从; - 从「ごめんなさい……死にますのでほんと………すいません……」

ぱたり。

市長室にまでやってくるメイドはメイド的にありえるのかといえば、やはりあり得ないと思う。

さっそく私は手に持った資料を広げ、相変わらずびかびかにテカってる市庁舎を降りた。
それにしても、下準備が必要だ、なんて言って五階にまで増築しなくてもいいんじゃないのかな。
そのあたり、市長はちょっと変わってる。面白いからいいんだけど。

「いってらっしゃいませ」

ξ゚⊿゚)ξ「どもー」

セバスチャンさんはなぜか市庁舎に常駐してるし。
いつも思うけど、私が来たせいで部屋を奪われたのなら土下座を、

まあ、いいか。

ξ#゚⊿゚)ξ「今日も一日、頑張りまっせーこんちくしょー!」

494 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 21:01:31.00 ID:WznWHEl+0
ξ゚⊿゚)ξ「えっと? まずはクソの役にも立たない民芸品店からね~」

ニュー速は祭りに向けて着々と活気を取り戻していた。
確かに外部からの人も少なからず参加すると言う話も来ていて、二年程前の事件以来の大きな祭りだといえる。
そんな記念すべき祭りに参加できない人たちには、正直、何と言っていいかわからない。

ξ゚⊿゚)ξ「ん、」

街の中、生活用品を売る店が目立つ通りで、何か荷車持った奴らがトラブルを起こしているらしくやかましかった。

      「うちの村の米はめっちゃくちゃ美味いニダ! 買わなきゃお前の家族が死ぬニダ!」

「さっきからなんだてめえ、やんのか? あぁ?」

      「すみませんアル! こいつ商売下手でつい悪口いっちゃうタチアル! ツンデレアル!」

「何言ってんだよ……ったく、そこで一生売れねえ商売でもしてろ!」

ξ゚⊿゚)ξ「……」

なんだか彼らに見覚えがあるような気がしたけれど、米を売っているところ、どこかで買ったのだろうか。
いままであまり人の顔を覚える習慣が無かったので思わず首を捻ってしまう。

( ゚∋゚)「なるほど! あの村の米か! 昔はよく買ってたが、試しにいただこうか!」

こいつは覚えてる。っつーか、結構商人としての手腕はあるから、今は街の筆頭。多分その内、また話すことになりそう。
こういう奴とか、裏で変なことやらなくてもいい人って結構世の中には多くて、やっぱり、そういうのはわけわかんない。
『裏』って、モテるのかな? 私にはもう、一生関係なさそうだけど。

    「変なおっさん毎度ニダ! 今後ともごひいきにお願いするニダ!」

495 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 21:06:04.83 ID:WznWHEl+0
ξ゚⊿゚)ξ「つっぎは~、っと」

街の広場を通った。普段は子供とか、大道芸人とかが居る場所。ここは祭りの中心になって、大きな壇とかがちょうど今組まれてる。
広場の中心の大きな、魔王とかいう奴の石造が微妙に邪魔だけど、そこには電飾をくくりつけるらしい。
像の下に刻まれたこいつの名前は「フォレスト・N・ホライゾン」というそうだ。確かに魔王っぽく、大仰な気がする。

それにしても、魔王ってニュー速では偉大な人物らしいのに、電飾が爆発でもしたら誰か怒るんじゃないかな。
市長はそれを言ってもニヤニヤして取り合ってくれないし、絶対悪意あるよね、実は嫌われてたのかな。

     「~~~~♪」

広場には今日はうたを歌う人が来ていたようだ。
周りの人たちがたくさん立ち止まっているので、結構上手い人なんだろう。
私もついでに、一曲聞いてみる。


     「~~♪  ……っと。ありがとうございましたー!」

……なぜだろう。

歌われている人は、私の知っている人と印象が被る。
なんだか、懐かしい気分にさせられてしまう。

確か私があの人に初めて会った時も、そんな印象だった。
やはり、上手い詩人は誰もが共感できるものを書く、ということか。

周りで起こっていた拍手に、私も例に漏れず精いっぱいのものを向けて、袖で顔を拭う。

ここで時間を取られてる場合じゃなかった。

499 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 21:12:29.36 ID:WznWHEl+0
電飾を外に付ける宿をまわる。
外壁の保障手続きとかがあって大変だったが、今日はちょっとした位置の確認だけ。

      「こら、あんまり走っちゃだめよ」

      「すみません、つい乗せられてしまって………」

      「うわーいい子ちゃんぶってる! ずるいよー!」

      「もう……あとちょっとであなたもお姉さんになるのよ? もういい歳なんだから、しっかりしてね」

      「はーい……」

四人連れの家族がこれから宿をとるようだ。祭りを聞きつけてやってきたのだろう。

お父さんはニコニコと笑っているけど、寡黙な人っぽい。優しそうだ。
お母さんは結構若そう、でもなんか化粧が濃いなあ。つくりは良さそうだから薄くていいのに。
あの二人は姉妹、かな? 髪の黒いおとなしそうな子がお父さんの血で、癖毛のうるさい子がお母さんの血を引き継いでそう。

いいなあ、子供。
それにあのお母さん、妊娠してる。
元気な子だといいですねえ。

ξ-⊿-)ξ「あーあ、いい男落ちてないかなぁ」

本当に落ちてたら、全力で蹴り飛ばすか踏みつぶすかの二択しかないけど。

私の好きな系統はどんな人だろう。えーっと、強くてまじめでー、律儀で馬鹿でー、私と空気が似ててー、

不死? なんて、ね。

501 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 21:15:52.31 ID:WznWHEl+0
さあ、今日の最後。
正確に言うなら、「最後にした」。 
そこは友達少ない私の、数少ない居場所だから。

ξ゚⊿゚)ξノ「おいっすー」

从 ゚∀从「おー。いよいよ明日だな」

ノハ; ⊿ )「ねえハインもういいかなもう私死ぬよ限界だよ足吹っ飛んでくよ地の果てまで」

ハインの家。
電飾祭りのきっかけも、ハインだ。私に黙って市長達と話を進めていたのは感心できないけど。
聞けば彼女の父も、彼女の祖父も研究者で、祖父のほうは例の魔王と個人的な交流があったらしい。
要するに、いい学者の家系の更にデキた子供、それがハイン。才能っていうものは受け継がれるんですね。

ヒートは今変な自転車に乗せられてひぃひぃ言ってる、ほぼ無限の体力を持ってる楽しい子。
多分、朝からずっと自転車をこいでいたに違いない。ちなみに今夕方ね。おなかすいた。

从 -∀从「お前はタフだからモルモットも兼ねてんだよ。粘れー」

ノハ#゚⊿゚)「くっそおおおおおおお! こうなりゃやけだあああああっ!」

ξ;゚⊿゚)ξ「あ! なるほど! 電気ってこうしても点くんだ!」

本当に見てて飽きない二人だ。

まあ、それくらいじゃないと、

見てて飽きない別の二人を、私はまだ引きずってるから。


505 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 21:19:09.90 ID:WznWHEl+0
从 ゚∀从「さて、たらふく食え我が助手よ」

ノハ*゚⊿゚)「おー! だから愛してるんだよハイーン!」

ξ*゚⊿゚)ξ「いただきまーす!」

お金は研究資金とかと一緒に、結構もらっているらしい。
私は人のそういうところは見たくないから、細かいところはわからない。
とにかくお金をいっぱいもらっているということは、市長たちに期待されているということ。

いやーまったく鼻が高い。私はなにもしてないけどね。

从 ゚∀从ノ㎜「ほら、もっと食え」

ノハ#゚⊿゚)「これは食いもんじゃない! ヒートさんの学習能力なめんな!」

ξ゚⊿゚)ξ「それ、昨日まで笑顔で食べてたよね?」

ノハ;゚⊿゚)「なに? ってことはこれは食えるのか?」

ξ゚⊿゚)ξ「判断は任せるわ」

从*^∀从「食欲に負けてしまえよいたいけな少女」

ノハ-⊿-)「……じゃあ、甘んじて食う」

ξ;゚⊿゚)ξ「まってまってまって! 甘んじちゃだめだよ冗談だからそれ食べないで! 金属!」

从 ゚∀从「まあ食える金属もあるし、どうせヒートだしいけるだろ」


507 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 21:22:37.84 ID:WznWHEl+0
从'ー'从「おつかれさま~」

ξ゚⊿゚)ξ「うん」

市長の屋敷に帰ってきた。
火事からも内装は変わらず、けどバーが少し大きくなっていた。バーが燃えたからああなったのに、懲りてない。
右側にはやはり衣裳部屋。もう手に入らないものがあったらしくて、少し数が減っていた。

でも、相変わらず着せ替え人形にされて、遊ばれてる。
結構楽しいからいいけど、市長の露出多いやつだけは本当に勘弁して欲しい。

从'ー'从「すぐ寝る?」

ξ゚⊿゚)ξ「うん……」

从'ー'从「どしたの?」

ξ゚⊿゚)ξ「ごめん……」

未だに私は弱いままで、クソメイドにたまに添い寝してもらわないと、寝られない。
誰かが近くにいないとどうしようもなく寂しくなって、泣きたくなるから。
今日は少し寂しくなることが多くて、私も二十の前半行ってるところなのに、醜態をみせるはめに。

从* ー 从「ぬふふふ、ツンちゃ~ん!」

ちなみにいかがわしい関係は無い。
以前にちょっと、窒息、蘇生、窒息、蘇生、で畳みかけて泣かしたらそういうのはやめてくれた。
今はけっこう抱き合って寝たりするけど、それはペットとの触れあいのようなものだ。

抱き締められるのとかが好きだから、これはしょうがない。

509 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 21:25:46.01 ID:WznWHEl+0
こんな夜はたまに、本当にたまにだけれど、自分がなぜこうしているのかわからなくなる。
生まれた意味だとか、与えられた役割だとか、そういうことを考えなくていいから、そこに甘えているだけなのかもしれないな。
考えなくていいから考えない、というのは間違っている気がするのに、考える頭はくたびれてしまっているのだろう。

あれから、二年と、五カ月と、少し。

私はとにかく、頭を切り替えるきっかけを望んで、市長に仕事を求めた。
それ、確か街にやってきてから一カ月が経ってからなんだけど、私はその一ケ月間の記憶がほとんどない。
どうせ子供みたいにずっと泣いて、在りもしないことを考えて現実から逃げていたんだと思う。
今だってこうしてクソメイドに抱きついて深く呼吸しなきゃ落ち着けないんだから、もっと酷かったに違いない。

でも、こんな私なのにクソメイドは笑ってくれて、何を言っても本当には見捨てないでいてくれる。
市長だってそう。セバスチャンさんだってそう。他のメイドさん達だってそう。ハインだって、ヒートだって、あのアホ商人だって。
見返りなんて絶対に存在しないのに、みんな私を色んな形で助けてくれる。それでも私は、何もできないのに。

だけどみんなが居るから、今も少しだけ変われている。
これからも、絶対に変わってみせる、って思える。

市長の言う通り、祭りはいいきっかけになっていた。
私は一人で街を回って、いろいろな話を取りつけたり、打ち合わせたりできるようになったし、街の人たちも協力的だ。
きっと街の人たちもきっかけが欲しくて、市長や私達の本気が見えたからこんなにスムーズに行えているのだろう。
ゆっくりでもいいから確実に進もうとしているのは、街も個人も、一緒なのだ。

明日はその集大成。
人も、街も、それの土台となる技術も、みんなが一緒になって成功させることができれば、また、変われる。

あの人のように、変わらない過去を、変われる今の結論にはできない。
あの人のように、消すべきとした過去を、今のために自分ごと焼き尽くすこともできない。

だから、あの二人のようにできないからこそ、私は過去を受け止めて、今に、つなげたい。

512 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 21:28:46.35 ID:WznWHEl+0
(*´・ω・`)「さぁ、ついにやってきたわよ!」

太陽はとっくに沈んでいた。
真っ暗になるまで色んな人と最終確認をして、準備を万端にして迎えたこの日。
広場に組んだ壇の上で、小さな蝋燭を持った市長が叫んだ。

(*´・ω・`)「今日という日は、私達にとっての記念の日になるわ!」

わぁ、と大きくなる歓声。同時に、ぱちぱち、と拍手も。

(*´・ω・`)「ん~! 前置きはかったるいわね! ではでは、この祭りの立役者の、ハインリッヒちゃーん!」

 \ハインリッヒちゃ~ん!/

街中が「ハインリッヒちゃん」だった。

从*>∀从「えぇ? ハインリッヒ恥ずかしいよぉ……」

すると、真っ暗な闇から、市長が蝋燭を渡したハインが気持ち悪い感じに来た。
実際大声でわざわざ引き気味の声を出すというかなり器用なことをやっている。

 \引っ込めー!/  \そうじゃねえだろー!/

そして、ハインは有名人な人気者なので、こういう声援もあったり。

从#゚∀从「おーおーわかってんじゃねえかカス共! んじゃ、始めっかぁ!? あ!?」

すると間もなく、広場を中心として怒涛のような声が響く。これがみんなの待っていた彼女の声らしい。

そして、ハインは手元の蝋燭を勢いよく吹き消した。

513 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 21:31:33.04 ID:WznWHEl+0
暗闇。

静寂。

そして、


从#゚∀从「俺様の祭りぃぃぃっ!! 盛り上がっていこうぜぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


ハインの声、みんなの声。

光が、壇を中心に。


ξ*゚⊿゚)ξ「うわぁ………」

ぱぁ、と広がった。

街のどこもかしこも、電飾が光らせて。

まるで世界に花が開いたように、大通りの外壁も、ちょっとした道の端も。

暗くて見えなかった街のみんなの顔も、どれもきっと、私と同じ表情だ。


从#゚∀从「ちなみにぃぃぃぃぃっ!! 短時間しか持たねえから見たいとこは急いで回れぇェェェェェェ!!」




515 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 21:34:17.59 ID:WznWHEl+0
その声に、無責任だな、と笑う人もいれば、感動して棒立ちのままの人も居て、

ノハ*゚⊿゚)「ツン! なんか食おう!」

みんなが動き出したことで、それに漏れずはしゃぎ回る女の子も居て、

ξ*゚⊿゚)ξ「食べることばっかりねー! ちょっとはこれに感動しておきなさいよ!」

从*'ー'从「じゃーヒートちゃんは私が預かるねー! 電気が消えた時が狙い目だよ!」

メイドが妙なことを言って女の子を凄まじい勢いで連れて行ってしまったり、まあ、それはそれで、

(*´・ω・`)「あー! ツンちゃん! こっち来なさいよー! この酒豪と戦って!」

ξ*^ー^)ξ「結構です!」

いつの間にかデキ上がってる市長と商人が居たり、

从#゚∀从「はぁ? 滑ってねえから! お前ら乗ってたじゃん!」

壇上で市民を煽る研究者が居たり、

      「ニダーさん、シナーさん、どこいっちゃったんですかー?」

迷子を捜す笑顔の女性も居たり、

そのみんなが、すごく楽しそうで、

なんとなく私は、電飾まみれの『魔王』の像を見上げたりして、


520 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 21:38:13.09 ID:WznWHEl+0
見上げたその電飾の輝きは、目に刺さるほどのもので、

     「あ、れ……?」

光が強いのか、いつの間にか顔がびしゃびしゃになっていた。
それほどにまで大きな光を人が作り出せるのは、やはり素晴らしいものだ。
天を覆う夜の闇すら吹き飛ばす、人工の光。なぜだか自分にはもう扱えない、あの白い光と重ねてしまう。
うん、ハインは誇っていい。これだけ希望にまみれた、大きな一歩を踏み出したのだから。

     「おーいツーン! こっちのが綺麗に見えるぞー! 身内にのみ許された特等席!」

     「すごい……ね、」

呼ばれたその場所は祭りの中心、最初にハインが叫んでいた壇。
そこから見渡せば、事前の準備通り、どこもかしこも光を放っているのが見え、老若男女を問わず人々が笑っている。

これが未来への標となる日は、そう遠くないだろう。
いつか技術が今以上に進歩していけば、魔女と一緒に消えた魔導具だって、だれも必要としなくなる。
そこにきっと隔てはない、『狩り』なんてない。誰もが個人として、人間として歩いていけるものだって、信じられる。
あの人の見られなかった、あの人達の居なくなった、私達の新しい時代が待っているんだ。

     「……なーなー、しけた面をこれ以上見せたら怒るからな? これは俺達の祭りなんだからよ!」

     「ん、…………よっし! だったら勝負といきましょう、ヒートに異物を食わせたほうが勝ちね!」

ひっでえな、と叫びながら壇を飛び降りたハイン。ここで遅れを取るわけにはいかない。
負けた方への罰を考えつつ、光の溢れる街へと駆けだした足は、珍しく力強かった。
きっと私もこの瞬間、新たな一歩を踏み出すことができたのだろう。

まあ、その理由なんて我ながらすごく単純だ。だってそれは、この街が証明しているんだもの。

522 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 21:41:38.18 ID:WznWHEl+0





       「彼と歩いた道の先が、これだけ眩しくて、輝いているから。」






                ただ、それだけのこと。







            ( ^ω^)と魔女狩りの騎士のようです




                                          おしまい。


481 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 20:06:55.20 ID:WznWHEl+0

支援とかありがとうございました。

投下中に気付いたこと

ブーン系小説総合スレ 【 裏 】 まとめ(仮)さんより
('A`)川 ゚ -゚)長ったらしい関係のようです
http://sogomatome.blog104.fc2.com/blog-entry-67.html

↑この話の紹介をしてなかった
このクーが同一人物だということを言っていなかった
補足がないとクーがエキスパートメンヘラ電波ちゃんになってしまうのではないかと僕は読み返して思った

十分後に投下再開します

536 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/04/17(土) 21:51:34.29 ID:WznWHEl+0
支援とかとってもありがとうございました
個人は指さないけど、たくさん支援下さった方本当に助かりました
読んでくださった方、ROMってる方も居らっしゃれば、みなさん含めて感謝してます!

ラーメン屋のバイトが0時からあるので風呂入って目休めます。それでは失礼!



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