mesimarja
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ζ(   *ζ囀る舞姫のようです
2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:24:28.87 ID:Mkpq85sk0
 
 
 
 
 
          誰でも、甘い懐かしい、そして絶望的な憧
          憬に見舞われたことがあるにちがいない。
          ずかずかと自分から姫君に近づき彼女と
          舞踏する決心をし、 姫君の体温を自分の
          血管の中に 抱きしめた経験を持っている
          ことだろう。
                       土方巽「病める舞姫」
 
 
 
 
 



4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:26:24.18 ID:Mkpq85sk0
 
 
 
 
 
 
 

                 原作

                  森鴎外「舞姫」
 
 
 
 
 
 
 


5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:28:24.58 ID:Mkpq85sk0
 
 
 
                    ζ(   *ζ

                      囀
                      る
                      舞
                      姫
                      の
                      よ
                      う
                      で
                      す
 
 
 


6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:31:35.16 ID:Mkpq85sk0
                                       ┌───┐
                                       │  序. │
                                       └───┘

石炭も既に積み終えた様である。二等船室からも戸の外を行き交う船員の
厚い靴底の床に擦る音、工夫達の遣り取りに上げる声も微かに戸の木板を
通して聞こえて来る。

熾熱灯*1の仄暗く、そして柔らかな灯火が、ちらり/\と瞬き揺れて壁板を
照らして居る中に、私は只独り座して居るのであった。

友人の姿は無い。

共に渡海し独逸*2に学んだ私の朋輩達の姿は、船上には無い。さりとて陸に
宿を求め、今は長の航海に向け、一夜の楽しみをこの西貢*3の港町に求め
て居るのでも無い。

(`-ω-´)「――」

熾熱灯を映す窓の外には只、黒々とした夜空、凪いだ海面が蟠って*4居る。
何処が上とも下とも付かぬ、有るのは全き闇に蹲る*5静寂の渦であった。
そこに桟橋すらも見出す事は出来ない。

その闇を眺め遣り密かに独り嘆息し、私は億劫ながらも再び日記帖を繰る。



―――――――――――――――――――――――――――――――
*1 しねつとう。白熱灯あるいはアーク灯。 *2 ドイツ。 
*3 サイゴン。現在のホーチミン。 *4 わだかま-って。 *5 うずくま-る。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:33:50.62 ID:Mkpq85sk0



――――ざり、



――――ざり。



紙片は私の掌の上で掠れた擦過音と微風とを立て、灯火の明滅に濃い影
を掌中に落として遊ぶ。

日記帖は、丁度半分が私自身の筆跡で黒々と埋められて居る。
残りの半分には、何も書かれて居ない。全くの白紙と成って居た。

半分、と云うのは、即ち、帰路の物だ。

( `-ω-)「五年、か」

五年前、予てよりの念願であった渡欧の任を政府より仰せ付かった私の
胸中は、此のちっぽけな手帖には書き尽くせぬ程の希望とそして好奇の
清水に満たされて居り、またその尽きぬ泉は凡そあらゆる新規な事物、
未知への憧憬で溢れて居た。

その昂奮に任せて旅すがら書き繕った紀行文めいた文が、今やこの日記
帖の半分を墨に黒く染めて居る。


9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:37:29.97 ID:Mkpq85sk0
けれども、今は。

私は無言で己の手を、そこに収まり机上で頼り無く頁を揺らす日記帖を
見下ろす。そうして独白する。

( `-ω-)「書けない。
      矢張り、私には、書けない」

書けないのだった。
そしてそれは、私自身の心境に依る物では無いのだった。

独逸に学んだ五年間、殊更に伯林*6で過した最後の一年、私は多くを得、また
学んだ。予め独逸語と仏蘭西*7語を嗜んでいた私には会話にも勉学にも然程
の苦は無く、膚も髪の色も異なる友人、師と交わり、故国に持ち帰るに足る
応分の成果も得た。

多くを見た。そして知った。それらは少なからず私の内面を形成する信条に
影響を与え、忘れもせぬあの出立の前夜とは遠く懸離れた境地に運んだ。

無論歓迎すべきばかりではない。
ある種の無常、虚無の感情も其処には這い込んで居る。

しかし、それでは無いのだった。




―――――――――――――――――――――――――――――――
*6 ベルリン。 *7 フランス。


10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:42:52.27 ID:Mkpq85sk0
私が朋輩達と帰路を共に出来ずこうして独り船上の人と成るに至ったその
因果、私の行い、その因は、私の過ちはあの学舎の中には無いのだった。

ただ、それを表す言葉を私は持って居ないのだ。
私は、只、己の両眼で見た物共を書き著すだけの筆を持ってな無いのだ。

それを語る言葉を、私は持ち得ぬのだ。
語る事も、想起する事すらも恐ろしく呪わしいのだ。

よしんば書き著す事の叶ったとしても、誰一人としてそれを真と信じまい。

慙愧*8の念は只々狂おしく胸中に渦を為し、肺腑は引き千切られんばかり
に疼痛を訴えて居る。どれ程に悔い己を責めようとも過去を変える術は無く、
その故に悔恨は尚一層の苦痛と成って、この躰をきり/\と蝕んで居る。



――――したり、



――――したり。





11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:45:47.05 ID:Mkpq85sk0
足許の遥か底、客船の船底の下から、或いは窓の外から、戸の隙間から、
海水が船体を打つ水音が響いて居る。それは何処か重く、私の足と腰とに
絡み付き微睡を誘う粘る掌と思え、暫しそれに身を任せる。

私は遂に諦め、日記帖を閉じて机上に置く。
そうして椅子に深く凭れ*9、目を閉じる。

熾熱灯の、時折、じじ。と軋るフィラメントの燃焼音。耳と身体に届く水音、
座る椅子の、木床に擦れる音。それのみが只、私の聴覚を刺戟する。

海面に揺れる船体のもたらす緩慢な上下動が、闇の底、私の身体に届く。
それは僅かなりとも、この身を襲う苦痛を和らげる様に思えたのだ。

夢と現の境は、柔らかく滲んだ半紙の墨に似て居た。

その墨に浸され、私は、ゆるり、と、この客船を浮べる海に似た記憶の波打
つ堆積層を只底へ、過去へと潜り辿り始めて居た。

不意に、海底に沈み積まれた石の間から立ち上る泡に似て、私の意識の深
奥から徐々に浮き上る影が在る。

呟き、肉体の目を閉じたまま、心中の目で、私はそれを注意深く探る。
上昇する泡を包み込み捕える様に脳裏の腕を大きく広げ、沈み、そして交錯
し、己の腕の裡に捉える。

( `-ω-)「私は――」


―――――――――――――――――――――――――――――――
*8 ざんき。反省し恥じ入ること。 *9 もた-れ。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:49:17.60 ID:Mkpq85sk0



――――記憶の泡の中空に私が見た物、果たしてそれは、
      他ならぬ私自身の罪の虚ろな果実であった。
 
 
 


13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:53:33.67 ID:Mkpq85sk0



――――ざり。



――――したり、



――――したり。
 
 
 


14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 20:59:30.06 ID:Mkpq85sk0
                                       ┌───┐
                                       │  一. │
                                       └───┘

独逸の冬は殊更に厳しい。

私は津和野*10の生まれであるからこの様な寒波を知らず、インバネスの襟を
思い切り立て身を切る風に背筋を聳やかし、上背の秀でた当地の友人に埋れ
る様にして歩いて居たものであった。

それでも四年も経つ内に、慣れこそせぬものの、元よりこのような物、とは思え
る程には成る。私はポケットの中で厚手の手袋を握り締め白い息がこのウン
テル=デン=リンデンの通りの左右に並ぶ濃灰の煉瓦を背景に溶け行くを
見遣る。

「菩提樹下」の名に今は相応しいと思える静謐である。
歩いて来た下宿の建つモンビシュウ街の通りを北の背に私は通りを見渡した。

濃い色の長い外套を纏った男達が連れ立ち、薄明の靄の中を掻き分ける様
に私と同じく白い息を吐き/\歩いて行く。

見遣れば、土瀝青*11を静かに馬車が行く。
からり、きしりと僅かばかりに車輪の音を立てる。

陽が昇る頃には様々の装いを纏った男女で溢れるこの路も今は眠りより醒め
た如くに静まり、寒色の外套と時折帯剣した警邏の見えるばかりである。


―――――――――――――――――――――――――――――――
*10 石見国津和野。現在の島根県津和野町。 *11 どれきせい。アスファルト。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:04:05.12 ID:Mkpq85sk0
(`・ω・´)「はあ――」

背筋を二度程震わせ鈍色の空を見て居ると、漸く私の友人が姿を現した。
朝靄と車道沿いの排水溝の格子から温度差で立ち上る湯気とに隠れては居
るものの、身長と体格は紛れもなく日本人のそれであるから、見紛う方もない。

  Α_Α
 ( ・∀・)「やあ、シャキン。お早う。
       どうしたね、相変わらず冴えない顔だ」

快活に手を振り笑う。
この男には冬の寒さも些かの憂さには感じられぬと見える。

(`・ω・´)「君も、相変わらずの様だね。
      羨ましいばかりだよ。ウララー」

連れ立ち、通りをブランデンブルク凱旋門とは逆に折れる。
今現在我々の学ぶ伯林大学迄は、さほどの距離も無い道筋だった。

  Α_Α
 ( ・∀・)「なに、君が気負い過ぎなのさ。
       はは、僕は気楽な物だ。汚す家名も、失う評判も無い。
       学問への飽くなき探求心も、今や黴臭い陸軍省の――いや」

言葉を切り私を振り返る。
私は苦笑し首を振り返す。


16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:09:12.88 ID:Mkpq85sk0
  Α_Α
 ( ・∀・)「済まないね。どうも、この口は僕の思う以上に放恣らしい。
       何時もの事ではあるけれども」

( `-ω-)「気にはしないよ。
      僕の身の上には頓着せずに居て貰った方が有難い」

同郷人達との仲は決して芳しくは無い。

この異国の地に溢れて居る種々の娯楽を堪能せぬ私は、所謂堅い人間だ、と
云うのが、その第一の理由であるらしかった。

撞球*12のキュー、麦酒を湛えた陶器のマッス*13、それらも手に取らず、そして
色鮮やかにして艶やかな衣を纏い酒場の暖炉の脇に座り、悪びれもせずにこ
やかに手招く女達に笑い掛けもせずに居るのを見、鼻持ちならぬ、と云うのだ。

私がそう云った愉しみに些かの興味も示さず、只当地の友人達と学問にのみ
興じ、そして同輩にも上官にもしたり顔で臆せず我が意を貫き通すのを見るに
つけ、この男は何とも詰まらぬ堅物よ、と、不思議な事に嫉妬めいた嘲笑を浴び
せ掛けるのが、大方の同郷人の常だった。

だが、考えて見れば解せぬ事だ。
何より、私自身がそう云った傲慢の理由を良く知って居る。


―――――――――――――――――――――――――――――――
*12 どうきゅう。ビリヤード。 *13 ジョッキ。


17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:13:35.28 ID:Mkpq85sk0
私は、ただ、懼れて居るのみであった。
人と交わると云う事、それによって、努力と意志をもって不断は包み隠して居る
己の惰弱にして浅薄な、私、という人間の底が知れる事を、ただ懼れて居るだけ
なのであった。

そうして、ただ/\己を欺き、周囲を欺いて、高潔にして厳格、節度、強固な信
念を持ち合わせて居る大人物で居るかの様な姿を周囲に射影し、そこにのみ
安息を得て居るだけなのであった。

この憐れな小人物を嗤う事には、己自身些かの躊躇いも無い。
何より、己自身が己を嗤っているのだから。

だが嫉妬の念を覚えるは不可思議にして愚かな振舞と云えまいか。
私のこの、乾いた海綿の如くに萎縮した惨めな精神に、妬むなど。

( `-ω-)「――」

けれども、この様な私にも友人と呼ぶ事の出来る同輩が二、三居る。
その内の一人が、この男である。

  Α_Α
 ( ・∀・)「ああ。霧、霜、雪。全く、堪らないね。
       独逸人という奴らはこの気候に晒されて居るから、全身が白茶けた
       枯木の様に細く、固く育ってしまうのだろうね。不憫な奴等だ。だが」

道すがら、余りにも無礼な言を、無論日本語で吐いて髭の無い顎を撫でる。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:17:25.48 ID:Mkpq85sk0

  Α_Α
 ( ・∀・)「女達の方は、日本の鶏の様なのとは段違いに良く育って居るね。
       あれはそうだね、恐らく厳しい気候が良い方向に働いて居るな。
       痩せた土地で育った葡萄ほど良い実を成すと云うが、正に」

飾り気の無い帽子を鞄から取り出し、目深に被る。
その裏には、金糸で「浦良」と刺繍がある。

兎に角、口の悪い男、という印象であった。

世を拗ねて居る。そして私よりも幾分自由で居る。毒を吐き周囲に馴染まず、
ふら/\と彷徨っている内、気付けば彼は数少ない貴重な友人となって居た。

他人を屁とも思わぬ悪態。それが私には嬉しかった、と云う事もある。

私の生い立ち、第一大学区医学校で成し遂げて来た快挙と、そして挫折、
陸軍省への推挙、そしてこの独逸の地を踏む迄の出来事。

それらの道程を全て一言の下に扱き下ろし笑い草にし、そして次の瞬間に
何事も無かったかの様に謝罪し、全てを忘れた男は、後にも先にもこの男
一人しか居ない。

我が事ながら、それがこの上なく痛快であった事は間違い無かった。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:23:13.06 ID:Mkpq85sk0
津和野で産まれた事は既に述べた。

私の生家は、代々藩主亀井家の御典医を務める家系であった。
従って嫡男として跡継を切望されて来た私には医学を学ぶ以外の選択肢は
無く、幼少の頃より和蘭*14語を、藩校では漢書を読み学び育った。

私が産声を上げた時既に成すべき事は決まって居り、それ以外の目標を
持つ事も無くまたそれを疑う事もせずに学問に邁進した。
他者との関わりを疎む性情は、顧みるにこの頃に生じた物であろうと思う。

年齢を偽り第一大学区医学校の本科を修めたのは十九歳の頃であった。
そこで洋書の翻訳を行い、また論文を物し、それらに加え語学の経験、更に
医学校時代の成績を認められ、独逸留学の任を預かる事と相成った。

我が親愛なる友人、ウララーが揶揄したのは正にこの事であった。
私は家を、使命を背負い、多くの人間の切望の果てに独逸に立って居る。

だが、違うのだ。
それは私にとって栄光などでは無い。只苦痛の種でしか無かったのだ。




―――――――――――――――――――――――――――――――
*14 オランダ。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:28:24.29 ID:Mkpq85sk0
実の所、私は元より、少年期より医者を志してなど居なかった。
他人を治療するよりも、研究者としての道をこそ望んで居た。

しかし主席で医学校を卒業する事の叶わなかった私は研究職に就く事を
許されず、友の勧めに従い陸軍省に入省し、東京陸軍病院に配属された。

その私にとってこの留学の命は正に渡りに船であり、別離の涙に暮れる
家族への旅立ちの挨拶の裏にしめしめとばかり、実は笑みを隠して居た。

私が同じ医学でありながら病人を治癒する者では無く、その根源を探る
研究者の道を望む事になった切欠は、或る一つの原風景の中にあった。

今でもその原風景は、目を閉じさえすれば子細漏らさずにありありと眼前
に現出する。片時も忘れず追い続けて来た道であるからであった。


24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:35:28.55 ID:Mkpq85sk0



――――とうさまあ、かあさまあ。



暑い、夏の夜であった。

( ´;ω;) 「とうさまあ、何処にいらっしゃるのですか。
      私が悪うございました、お願いですから、来てください――」

暑気に熱せられた石畳から立ち上る熱気は夜でさえ陽炎を生む程の物に感じ
られ、そしてその頃少年であった私には過ぎる苦痛だった。

提灯の灯火が異界の門の如くに立ち並び、そして其所を行く大人達は
――独逸の人々よりは遙かに貧相であったが、少年の私にはそれでも――
大きく、懼ろしかった。

彼方から聞こえ来る喧噪と笛の音は明るく賑やかに、そしてそれ故に尚一層
得体の知れぬ何かを、私の耳を通して全身に送り込んで来る様に思えた。

( ´;ω;) 「かあさま、かあさま――」

私は転けつ転びつ走り、口許に手を当て掠れた声を上げ両親を呼ぶ。持たさ
れて居た巾着はとうに落として無くして仕舞って居り、そして膝には擦り傷を拵
えて居た。只腰の兵児帯*15に竹の団扇が残って居た。

―――――――――――――――――――――――――――――――
*15 へこおび。幅広く柔らかい生地の帯。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:38:17.36 ID:Mkpq85sk0
両親に連れられ来た祭で私は両親と逸れて仕舞ったのであった。
周囲に知人は居らず、幼い私に気を掛ける物もその時は誰一人として居ない。
私は只泣きながら両親を呼ぶ事しか出来無かった。

すぐ傍の大人に、また石畳を外れた奥に控える若衆の所に向かい、己の名を
告げて只待つべきであったのみであったのだが、当然の事ながら少年であった
私がそれに気付く事はなく、ただ泣きながら歩いて居る内にどん/\と道を
外れ、折れ、気付けば随分と人気も無く、また灯りも少ない小径に出て居た。

( ´;ω;) 「うう、ううう」

私は最早途方に暮れて仕舞い止処無く流れる涙を撚れた袖で拭い、差し当り
助けを求めるべき処は無い物かと首を巡らせる。

その私の目の前に、粗末な小屋が建って居た。
入り口に立てられた案内板の文面を、その頃の私は読む事が出来なかった。

( ´ぅω;)「――」

奇妙で、奇怪な建物だった。周囲には既に独りの人影も無く、その朽ちた木板
の壁に背後の灯りに照らされた私の影だけが寂しげに蠢いて居る。

大分、迷ったのだと思う。


27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:41:29.48 ID:Mkpq85sk0
だがそれでも私は意を決し、仕切に涙を拭いながらその小屋の入り口、開か
れた木戸に掛かる覆布をそっと捲った。

埃の溜まった納屋を思わせる据えた埃の臭い、その中で焦げて居る蝋燭の、
独特な苦みを伴った臭気が鼻を衝く。

そして私はそこに、見たのだった。
私自身の人生を、望む道を大きく逸らさせる事になるそれを。



――――思えば私は、この時、既に呪縛されて居たのだ。
 
 
 


29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:46:04.16 ID:Mkpq85sk0
                                       ┌───┐
                                       │  二. │
                                       └───┘

  Α_Α
 ( ・∀・)「はは。矢張り君、辛そうな顔をして居るね。
       過度の節制も、身体には良く無いのでは無いかと思うがね」

机に向かう私の顔を覗き込み、ウララーが皮肉気に口角を上げた。私は自身
でもどんな顔をして居たのか思い出せず、困惑して図書から顔を上げ彼の顔を
見遣る。

隣に座って居た別の、痩身の友人が溜息を吐き辞書を閉じる。
彼もまた私の本性を良く知る友人であった。

( ´_ゝ`)「余り茶化して遣るな。
      シャキンの性格はお前も知悉*16して居るだろうに」

冬の高い陽が窓の外で白く輝き、伯林大学の年経た石壁に吸われて居る中に、
古本市を畳む入口の門柱に据えられた像が佇んで居た。

(`・ω・´)「済まないね、フーン。
       僕は、そんなに辛そうな顔をして居たかい」

上の空であった。己の顔になど気を回す暇も無い。



―――――――――――――――――――――――――――――――
*16 ちしつ。知り尽くすこと。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:48:11.93 ID:Mkpq85sk0
  Α_Α
 ( ・∀・)「ああ。概ね、普段通りだけれども。
       つまりは、辛そうだという事さ」

(`・ω・´)「我が国が独逸に学ぶべき事の多さに、思いを致して居ただけさ。
       それが辛く見えると云うのなら、相違は無いよ」

( ´_ゝ`)「違いない。俺も、日本に帰るのが厭に成りそうだと常々思って居る所だ」

私も私の友人達も、また他の同郷人達も等しく感じて居る事が只一つある。
それはこの通り、日本の医学は今だ欧羅巴に大きく劣っており、最早時代錯誤
であるに相違ない、と云う事だ。

学ぶ事は多く、得られる事のまた何と多い事か。
同時に、我々が持ち帰るべき技術知識の何と膨大な事か。

一研究者としては驚喜すべき経験であるが、同時に我々の故国に欠けた物の
余りにも多いと云う事でもある。これらを持ち帰る際の事を考えれば自ずから
暗澹とした心情が胸中に湧き上がるもまた無理からぬ事と思える。

例えば負傷兵の創傷の処置、それに用いる器具の使用法一つを取っても、我
が国の方法は余りに非合理的に過ぎ、時代遅れでさえあった。衛生学以前に、
これでは自ら危険極まりない細菌を身中に抱えて進軍するを兵員に強いるに
等しい。

遅れは衛生学のみに留まらない。
殖産興業を合言葉に、明治時代より産業化は大きく進んで居る。
だがそれと引替えに、危機に対する備えは蔑ろにされて居る。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:52:35.74 ID:Mkpq85sk0
法が、急速度で成長する社会に追随し切れて居ないのだ。数多の民族を擁し、
限りない流血と折衝の果てに現在の反映を誇るこの国と日本では法、制度の
凡そあらゆる面で隔たりも大きく、我が国の未成熟に赤面する思いで居る。

日本の改革は、少なくとも現在は、所詮表面上、上面の物に過ぎぬのだ。
それを取り戻し西欧列強に肩を並べるには半世紀程も必要なのでは無いかと
すら思える。

学ぶ程に、それを思い知らされて居る。
私は既に、知らず/\の内に幾許かの空しさをさえ覚え始めるに至って居た。

底の見えぬ暗い穴の底に砂粒を滔々と落とし続けて居る様な、その様な無為な
行為を続けて居るのでは無いか。我々に成し得る事など実は無いのではないか。

無常とも虚無とも付かぬ、ただ複雑な心境であった。
この数日間は、特にそれが強く感じられる様であった。

  Α_Α
 ( ・∀・)「難しい奴等だね、君達は。
       僕には良く分からないな。官費で飲み食いが出来て遊べるだけで、
       成果などは特に気に掛けても居ないのだけれど」

ウララーは笑って首を振り/\、私とフーンを揶揄する。

( ´_ゝ`)「お前、下手をすれば売国奴だぞ」

  Α_Α
 ( ・∀・)「非道い事を言うのだね、この愛国の士に。
       全ては、故国の発展を願えばこそ、だよ。――娯楽まで含めて」


32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 21:59:03.98 ID:Mkpq85sk0
云い、可笑しそうに笑う。
全くの言葉通りでは無いだろうが、認められ得る言い種でもない。

(`・ω・´)「まあ、良いさ。ただ、学ぶ事の多さには確かに辟易しては居る。
      悪いけれど、今日はこの辺りにさせて貰うよ」

図書を書架に戻す。

成すべき事は分かって居る。そしてそれは、確かに己が望んだ事である。
けれども此処に至り、重い疲れが肉体とそして精神に良からぬ影響を与えて
居るのを自覚しても居る。

ここ数日は、確かに根を詰めて居る。
先に述べた様に同郷人との軋轢も今だ続いて居る。
これも又私にとっては苦痛の一材料であった。

気晴らしにブランデンブルク門を抜け、ティアガルテン*17のあの冬の冷気にも
負けぬ景観、小径の脇に鬱蒼と茂る木々に多少の救いを求め心を洗ったとて、
何者も決して私を責めはすまい。




―――――――――――――――――――――――――――――――
*17 公園の名。一般名詞の場合は動物園を指す。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:02:07.58 ID:Mkpq85sk0
重いドアの軋みを確かめる様にして諸処の出来事に思いを巡らせて居ると、
豊かな髭を蓄えた恰幅の良い独逸紳士の此方に向かって来るのが見える。
気付き姿勢を正し迎える私を、彼は手を軽く上げ制した。

( ФωФ)「これは、シャキン中尉殿。どうかね、此方は。
        歴史こそ浅いが、民顕*18等にも些か劣る所が無いとは、誇って
        は居るのであるが」

伯林大学の校長であった。

当大学は前世紀の設立であり、歴史では名だたる独逸各地の大学に劣る。
従って法律、哲学、神学と云った伝統的な学問では他に一歩譲るが、引換え
科学分野での研究は進んで居る。

彼は情緒を無闇に用いず、観測された事実を信奉する性情の持ち主である。
それは私に関する種々の良からぬ評判に関しても同様の姿勢であり、従って
その意味ではこの学長も又信ずるに足る学者肌の人物であった。

(`・ω・´)「お気遣い、痛み入ります。ロマネスク学長。
       ですが幾度も申し上げました通り、中尉、は恐縮です。
       私は一人の学生、貴方の教え子に過ぎません」







―――――――――――――――――――――――――――――――
*18 ミュンヘン。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:05:19.36 ID:Mkpq85sk0
私の陸軍省での階級は陸軍軍医副であった。これは軍に於いては中尉に相当
する階級であったが、軍隊式の肩書きなど私には何の価値も認めては居ない。

( ФωФ)「はは、何。そう頑なに成らなくても良い。
        これは私の、異国よりの賓客に対する礼儀と思ってくれ給え」

悠然と廊下の大窓に映る中庭を眺め遣り顎髭を撫でる。

私は再び丁重に感謝を述べ伯林大学を辞した。


35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:06:33.75 ID:Mkpq85sk0
吐く息も瓦斯灯の許に白く凍る夕暮れであった。

ティアガルテンの散策を終えた私はウンテル=デン=リンデンを北東に過ぎ、
大きくクロステル街を迂回しモンビシュウ街の下宿への帰途を歩んで居た。

西側からブランデンブルク門を見遣ると、その頂上に四頭立の古代の戦車を駆
る、背に翼を持つ女神像が西日に輝く様を見ることが出来る。これも勇壮である。
一対の翼を持つ勇ましい女神の像に、私は幾度も力を与えられた物である。

気の全く晴れると云う事は無く、重い疼痛に似た悩みは未だ脳裏の一部を占め
ては居たが、それも幾分は清浄な冬の空気に慰められて居る。

クロステル街はその名の由来となった古寺の付近に冠せられた地名である。

頭上に高く伸びる家々の軒を眺め、その軒の様々である佇まいを又見る。
ウンテル=デン=リンデンの大道に溢れて居る灯火の海、その光の波も此処まで
は届かず、迫り来る濃橙の闇に晒されこの国の人々の日常を細く映して居る。

其処に凹の字に引き込んで今も尚残る、三百年の歴史を誇る古寺の静謐*19
にして神秘の様。この通りを訪れ、そしてこの古寺を通り掛かる旅にこの建物
を下から尖塔の頂上まで眺め上げ、そして嘆息するは幾度目であろうか。



――――古寺を抜けモンビシュウ街に向かう私の目の前に見覚えの無い姿が
      現れたのは、この時であった。
 
 
―――――――――――――――――――――――――――――――
*19 せいひつ。静かであるさま。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:08:02.79 ID:Mkpq85sk0
ζ(  *ζ「――」

薄闇の中ではあったが、その姿は小径の影に浮き上がり現出していた。閉じら
れた教会の戸、その前に跪き頭を垂れた、その黄金色の頭髪が一本先の通り
に掲げられた灯火を反射し輝いて居たのであった。

そうで無ければ、私は濃紺の衣服を纏い屈んだその人物を全く見逃して居たで
あろう。

(;`・ω・)「――?」

突如足許に浮かび上がったその人影に息を呑む。些かの驚きに反射的に帽子
を取り、日本式に謝罪に頭を下げ掛けた所で、私は初めてその人相に気付いた
のであった。

少女の息を脱したとも言えぬ、それは娘であった。
小柄な躰であった。緩く巻かれた黄金の髪は、冷風に揺れて居た。

彼女は修道女の貫頭衣にも似た衣服に身を包み、片膝を付き石畳に屈み、小さ
く白い両の掌を組み合わせ、施錠された教会の出窓に懸かる十字架に向かい恐
らくは神に祈りを捧げて居るのだった。

ζ(; ;*ζ「――」

寒風に紅潮した頬に一筋の涙を流し、嗚咽を堪え只瞑目して居る。
時折薄く開くその瞳は、この冬の先に訪れる春空に似た淡い紺であった。
唇は、故国の桜を思わせる可憐であった。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:09:43.54 ID:Mkpq85sk0
私は、只口を開く事すら叶わずに其処に阿呆の様に立って居た。
不意に現れたその少女が正に天の御使である様に、そう思えたのであった。

数瞬後、娘は私の存在を捉え、深い憂いの色を伴う眼で私を見上げる。
その瞳の色、伏せられ濡れた睫毛の何が私を其処までに駆り立てたか、己にも
弁明できぬまま私は口を開いて居た。

( `-ω-) 「――もし」

雷に打たれた様に少女は手を解き立ち上がる。口許に掌を添え、涙を拭う事も
せずに只夕日に丹青*20を成した瞳を丸く見開き私を見る。

其処には紛れも無い脅えが窺えた。

無理もあるまい。突然得体の知れぬ黄色人種に話し掛けられて驚かぬ者は伯林
大学の外には殆ど居らぬであろう。

(`・ω・´) 「何を悩んでいるかは、計り兼ねる。
       だが繋累の無い外国人、私の様な者なればこそ話せる事の有るやも
       知れぬ。良ければ、聞かせては貰えないだろうか」

私は、何故この様な言を吐いて居るのであろうか。
云い、歩み寄りながらも自らの大胆にして恥知らずな様に呆れる程で居た。



―――――――――――――――――――――――――――――――
*20 たんせい。赤と青。


38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:11:23.48 ID:Mkpq85sk0
ζ(;、;*ζ「――」

だが少女は、その私の問い掛けに何一つ、吐息一つすら応える事は無かった。
一つ首を振ると忽ち身を巡らせた。

(;`・ω・) 「待ってくれ。私は――」

呼び止めようとし、しかし言葉を切る。後れ毛を舞わせたその首筋に、刹那、
軒の切れ間から差す夕陽に照らされ浮かび上がる傷跡が私の目を衝いたので
あった。

それは、奇妙な文様に似た、円形の火傷の痕に見えた。

私がそれに目を止め動きを止めた瞬間、娘は衣を翻して小径の奥に駈ける。
そうして一瞬の後に、その姿を私の眼前から全く消した。

私の差し出した手の先には既に誰の姿も無い。ただ閉ざされた教会の門扉が
その厳めしい様でもって固く外界とその神聖な領域を守って居るばかりである。

(;`・ω・)「ああ――」

嘆息し、少女の消えた先を見遣る。
そのまま、私は繰り返しあの少女の面相を回想して居た。

仄暗い小径に彼女の落とした頭髪が数本残り舞って居るかの様な甘い女の香
の只残って居た。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:13:52.41 ID:Mkpq85sk0
                                       ┌───┐
                                       │  三. │
                                       └───┘

溜息ばかりを吐いて居る。

手持ち無沙汰に手帖を捲るが散逸した意識は決して纏まった形を取る事無く、
翻訳し注釈せねばならぬ法律書を前にしても、頁に書かれた独逸語の綴りは只
紙面に浮いた染みの集まりが如き無味乾燥な記号の羅列であるのみであった。

数日を経ても為すべき仕事は進まず、あの毒舌家のウララーでさえ私を揶揄する
事に飽き、半ば呆れ顔で私を見遣るばかりと成っていた。

何にも増して苦痛であったのは、それが私にとって決して苦痛では無かった事だ。
私はあの夕暮れの出来事に心を掻乱される事を、寧ろ何処かで楽しんですら居た
のである。

あの日から、私は幾度もクロステル街のあの古寺に足を運んで居た。そして薄暗
い路地を徘徊し、其処に彼の娘の姿を探し求めて居た。

けれども、それは決して叶わないのであった。

嘗て私の心を洗い慰めた協会の鐘は、今はこの身を哀れむかの如く悲壮に響い
て居た。また皮肉に包んだ友人の心遣いにも、素直に応えられずに居た。

( `-ω-)「――」


40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:15:23.87 ID:Mkpq85sk0
  Α_Α
 ( ・∀・)「ねえ、シャキン。
        君は、あれだ。近頃は辛そうと云うより、悩みを抱えて居る様だね。
        それは、僕達にも打ち明けられぬ類の物なのかい?」

( `-ω-)「――済まない。だが、僕自身の問題だ。
      気遣いは嬉しいけれども、云うのはどうにも憚られるものでね」

  Α_Α
 ( ・∀・)「それなら何も云わないけれど。君、偉く捗っていない様子だぜ?
       云えぬのなら云えぬで、何とか解決して貰いたいものだね」

( `-ω-)「――」

( ´_ゝ`)「シャキン。俺も、云いたい事はウララーと同じだ。
      お前が何に悩んで居るかは知らない。だが、勤めは果たしてくれ」

私は只、ずぶ/\と泥濘*21に似た己の心の淵に嵌り込んで居た。

娘の顔を、その首の傷痕を、私ははっきりと記憶して居た。
成すべき務めも手に付かず、折に触れてはそれを思い出し己を責めるばかりで
あった。そうして、甘い、絶望的な憧憬に溜め息を吐いてばかり居るのであった。




―――――――――――――――――――――――――――――――
*21 ぬかるみ、でいねい。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:18:18.44 ID:Mkpq85sk0
何を読み何を書いているのかすらも思い出せぬままに数日が過ぎた。
私の友人達は私が何かの好からぬ出来事に心を乱されて居るのだと、既に半ば
以上察していた。

( `-ω-)「――」

私は己を哄笑する。

国家より下された命よりも家人の悲願よりも、いや、己の裡に秘めた確固たる意
志に基づいたこの独逸留学で、私は己の極私的な感情に敗北して醜態を晒して
居るのだ。これを滑稽と呼ばずして何と呼ぶべきか。

只、考えている。
あの闇に跪き祈る娘の横顔を。そして首筋に残る、その可憐な顔とは裏腹に醜く
引攣れた傷跡を。

軍医の経験上、極僅かな時間しか見て居ないその傷痕が火傷である事には疑い
は無かった。只その肌の白さ、肌理細やかさとは対極にあるその傷痕が殊更に、
忘れ得ぬ程の強烈な印象を私自身の記憶に刻んで居た。

室内には、私とウララーの二人のみが席に着いて居る。
フーンは研究室に行く、と言い残し部屋を出た処であった。

  Α_Α
 ( -∀-)「――やれやれ」

彼は溜息を一つ吐き、手元の厚い法律書を閉じて立ち上がる。ぱたん、と厚手
の頁の束が束ねられ閉じる音が耳に残った。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:19:39.48 ID:Mkpq85sk0
ポケットに両手を差し入れ、ぶら/\と私の横に歩み寄る。
そうして脇から私の顔を覗き込み、にやりと笑って見せた。

  Α_Α
 ( -∀-)「シャキン。君、まだ容態は優れぬのかい」

(`・ω・´)「ああ、ああ。
      悪いね、僕も何とかせねばとは思って居るのだけれど」

意味有り気な含み笑いに表情を変え、私に顔を近づけ唐突に指摘した。

  Α_Α
 ( ・∀・)「ふむ。君――草津の湯*22、と云う奴だろう」

(;`・ω・)「――」

遠回しではあるが突然の核心を突く言葉に、私は息を詰まらせた。

(;`・ω・)「いや、僕は――僕は」

  Α_Α
 ( ・∀・)「いや、皆まで言わなくとも良いさ。
       君の顔を見て居れば分かる。ずっと前からね。
       こんな時、石部の金吉*23は困り者だねえ。ははは」


―――――――――――――――――――――――――――――――
*22 恋の病。草津節「お医者さんでも草津の湯でも ほれた病は 治りゃせぬ」
*23 いしべきんきち。堅物で融通の利かない人物。


43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:21:07.60 ID:Mkpq85sk0
私は何一つ反駁出来ずに黙した。
矢張り、そうなのだろう。私はあの日、クロステル街の教会前で出会ったあの娘
に惹かれて居るのだろう。住処も名前も知らず、声すらも聞いた事の無い娘に。

  Α_Α
 ( ・∀・)「その様子を見ていると、それもどうも具合が良く無さそうだ。
       商売女かい、それとも他人の妻。まさか王侯貴族ではあるまいね」

私は只黙して居た。
知らぬのだ。私が彼女について知って居るのは、人相とあの傷痕だけなのだ。

  Α_Α
 ( ・∀・)「何だい、此処まで言い当てられて黙りかい。
       こんな時の為の友人では無いのかい。ねえ」

仕方無く、吐き捨てる様に答えた。

( `-ω-)「――知らないのだよ。
      彼女が何処の者で、何を生業にして居るのか。
      名前さえ、僕は知らないのさ。答え様も無い」

  Α_Α
 ( -∀-)「叶わぬ恋、という奴かい。
       ふむ、君の様な純真な男が塞込んでしまうのも、無理は無い様だね」

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:22:37.35 ID:Mkpq85sk0
茶化し、彼は顎を撫でる仕草をして腕を組む。
どんな娘か、と続けて尋ねる。私は言葉少なに娘の外見を語り聞かせた。

聞いた彼は暫し部屋の中を書架と机を避けうろ/\と歩き回って居たが、うん、
と声に出し頷くと手を伸ばし私の机の脇に置かれた彼の手帖を取り上げた。

私の手元から万年筆を取り上げ、さら/\とペン先を走らせる。
その頁を手帖から千切り取ると二つに畳み私の目の前に滑らせた。

  Α_Α
 ( ・∀・)「まあ、色々悩みもあるだろうけども、良い事では無いかな。
       長の異国暮し、時には、美姫を思う様愛でると云うのもね。
       それも、少々刺戟的な方が良い」

( `-ω-)「なんだい、ウララー。これは」

  Α_Α
 ( ・∀・)「厭だね。草津の湯に効く薬と云えば、一つしか無いだろうに。
       まさか、君。色を知らぬ、とでも云うまいね」

含み笑いでもって私の問いに返す。
その紙片を押し返そうとした私の手を押し留め皮肉気に笑った。


45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:24:58.50 ID:Mkpq85sk0
  Α_Α
 ( ・∀・)「まあ、好きにすれば良いさ。
       だが、どうも辛気臭くてね、仕事も捗らない。僕も怠け甲斐が無い」

(;`・ω・)「――」

  Α_Α
 ( -∀-)「楽しい夢を見れば、現実など霞んで見えるものさ。
       この際だ、良い夢を楽しんで来ると良い。
       現世の全ての憂さを忘れられる様な、浮世離れした夢を――ね」

彼の云わんとする所を、私も漸く理解する。彼は彼なりに私の身を慮って居る
のだ。そして留学生の本分を忘却して仕舞って居る私を叱咤して居るのだ。
それも、彼なりの酷く捻くれた遣り方で。

私は項垂れ、一時己の愚かさを責める。

垂れた頭を上げ友人に感謝を述べようとしたが、その時には室内に彼の姿は
無かった。ただ開け放たれた戸から涼やかな冷風が静かに吹き込み、半開き
のドアを揺らして居た。


46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:30:26.86 ID:Mkpq85sk0
その日の夜、私はクロステル街の古寺には向かわなかった。



――――ニイマンデンシュトラッセ、ベルリン=アウエルバッハ酒場奥



友人から受け取った紙片の番地を頼りにモンビシュウ街の下宿を出、ウンテル=
デン=リンデンを跨ぎ南に下り、ブランデンブルク凱旋門の手前の小道を折れた。

裏通りにしては何とも巫山戯た名の酒場だ。
かの文豪ゲーテの著した「ファウスト」に現れる酒場と同じ名である。

素気無い字でそれのみが書かれた紙片を握り締め、私は行交う通行人から顔
を背ける様に早足で通りの影を縫い歩く。不意に訳も無く、私自身の足が其処
に向いて居る事が気恥ずかしく、また名も知らぬ娘に申し訳も立たぬと茫と考え
て居た。

また、滑稽な事だ。

ただ街で出会い声を掛けたのみの娘に私は心の何処かで義理立てし、そして
胸中密かに言葉の限りを尽くしその娘に弁解して居るのだから。

(`・ω・´)「だが――」

あれから何日が経っても娘との再会は叶わぬままで、この分では再び顔を合せ
る機会も決して訪れないであろう事は理解して居る。人相のみしか知らぬのでは、
如何にして捜し求める事の出来ようか。決して、それは叶うまい。


47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:35:36.15 ID:Mkpq85sk0
迷惑な気遣いではある。だが一時楽しみ、そして全て忘れれば良い。
その後は、務めを果たすのだ。その為に、私は此処まで来たのだから。

( `-ω-)「そうだ。これで、良いのだろう」

そう心に決め、私はこうして友の示した処に足を運んで居るのであった。

ニイマンデン通りの家々はクロステル街の静謐とも、またモンビシュウ街の賑々
しさともまた異なった様相を呈し細く小刻みに折れ曲がる路地のただ奥へ/\と
続いて居る。

ただ暗く、寂れた様子である。時折、曲り角の先から犬の吠声が細く、長く切れ
/\に響き、左右に張り出した軒に反響して揺れそして灰色の空に染入り消え
て行く。心許無い灯火は大気に吸われる様で建物は只大きく黒い影と成って
周囲、頭上に座して居る。

友人の紹介などで無ければ、この様な場所には踏み入らぬであろう。

通りは、蜘蛛の巣に巡らされた糸の如くに細く複雑で、そして区画は整然とした
方形を成さず複雑に交錯した鋭角を成して居るのを其処此処に見る事が出来た。


48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:37:00.21 ID:Mkpq85sk0
私は幾度も同じ道を巡り、また迷いながらも漸く友人の示す場所に辿り着いた。

果たして其処は、私の幼少の頃、この記憶に深く根ざして居るあの祭の場所、
迷い児と成った私が最後に辿り着いたあの場所に酷く似て居た。

(`・ω・´)「これは――似て居る」

周囲の暗闇、迷う内に既に日は全く暮れ、厚い雲の間に僅かばかりに星の瞬く
下、その軒のみが、ぼう、と燐光を発して居る様であった。光に舞う冷気の粒子
の間に下ろされた鎧戸の隙間から僅かばかりの光が幾筋か、流れ出て居た。

己がまだあの迷い児であった昔の、故郷の山に帰ったような不可思議な感慨を、
些かの寂寞と孤独感を私は味わって居た。


49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:44:45.75 ID:Mkpq85sk0
                                       ┌───┐
                                       │  四. │
                                       └───┘

その内装は、果たして外観程の異様を保っては居なかった。
吹抜けの広間は明るく、清潔であった。

調度は高級品が多く、飾られた美術品も模造品などでは無く相応の価値が
ある物の様に思える。壁に掛けられた絵画もまた、徒に客に昂奮を催させる
類の下卑たそれでは無い。

この類の宿では内装は眼に痛く、様々な色に染められた布で飾られて居たり
安物の美術品を床に壁に溢れる程飾り低俗さを殊更に強調する類の処が多
いと聞くが、此処は違う様であった。

壁際に並ばされて居る様な女も居らず、また女同士で口煩く姦しく談話して居る
様子も無い。男女の囁く様な会話を除いては、只静かな広間であった。

こう云った宿では、昼間は料理屋として料理でもって客を持成すこともあるのだ
と聞いた事があるが、ここはそう云った類の場所なのであろうか。

広間の中央に白布の掛けられた丸テーブルが据えられて居り、其処では一人
の独逸男性と一人の白人女性が談笑して居る。男の身形は随分と整って居る。

(,,゚Д゚) 「――――」

(*゚∀゚)「――」

その会話は小声で早口気味であったので、入り口に立つ私には聞き取る事は
出来なかった。

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:47:11.28 ID:Mkpq85sk0
広間を見回して居ると階上に立つ一人の女が私に眼を留め、楚々とした居住
まいで階段を下りて来る。階段を下り私の前に立つと淑やかな微笑を端正な
顔に浮かべ、会釈した。

川 ゚ ー゚) 「――異国よりの御客様。
      今宵は、何方様かのご紹介で御座居ましょうか」

この館の主であろう。
襟刳りの深い、通りの宵闇に似て黒い長衣、ロブデコルテ*24を纏った女である。

豊かな躰をした女であった。そして衣とは対照的に露わになった胸の上部から
肩に懸けての膚は白く、瞳は深い色の瞳をして居る。東欧の生まれであろうか。

そして女は、その長手袋を嵌めた手に羽根扇を携えて居た。
それは見た事の無い、奇妙な模様の羽根であった。

連なる水滴を幾つか重ねた形状の、先端に丸い模様の入って居る様は孔雀の
羽に似て居る。だが極彩色では無い。白い羽根に、黒く丸い眼球に似た模様が
並んで居るのである。あたかも無数の眼が私の眼を覗き込む様であった。

(`・ω・´)「同郷の、日本人の友人だ。ウララー ――浦良、と云う」

私は些かの気恥ずかしさに声を詰まらせ、同郷の友人であるウララーの名を挙
げる。内心では既に彼を恨み始めて居る。あの男の放蕩振りは知らぬでも無か
ったが、この様な処にまで足繁く通って居るとは。



―――――――――――――――――――――――――――――――
*24 首から胸が大きく開いたドレス。ローブ・デコルテ。

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:49:04.14 ID:Mkpq85sk0
名を聞いた女主人は笑みを深め頷く。

川 ゚ ー゚) 「御同郷の御友人様で御座居ますね。存じ上げて居ります。
      どうぞ、中へ」

歓迎の言葉を一頻り述べ、広間の奥のテーブルを指差す。椅子に着くと女中と
思しき女を呼び付け酒を運ばせ、そうして己は再び階上に姿を消した。

強い酒を嘗め/\暫し待つ。また別の女中が奥から現れ、湯を使った後に奥
の階段に向かう様にと、広く無人の浴室に案内された。

躰を洗い流し与えられたガウン様の湯着に着替え、入口とは逆の奥に向かうと
又あの女主人が立って居る。彼女に導かれ私は奥の階段より階上に上った。

構造からして思うよりも奥行きの深い館であるらしかった。
女主人に付き従い階上へ上り角を折れると、部屋の並ぶ廊下に出た。

広い廊下の左右に閉じられた厚い戸が並んで居る。明かりは階下に比べ落とさ
れて居り、等間隔に並んだ燭台の揺らめく赤い光のみが転々と奥に向い続いて
居る。その最奥の戸を指し、女主人は笑み、云った。

川 ゚ ー゚) 「一つ、お願いが御座居ます。
      くれぐれも手荒にお扱いになど、なりませぬ様」

改めて云われずとも元より承知して居る。私には女に暴力を振う趣味など無い。
心外に本意を質そうと女を見ると、彼女は扇で口元を軽く覆いまた静かに笑う。
そのまま会釈し、また来た道を戻って行った。


52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:53:54.05 ID:Mkpq85sk0
重い両開きの戸を押し開き、踏み入ったその部屋の内装は矢張り高級であり、
しかし決して決して豪奢に過ぎはしなかった。

灯りは僅かに、部屋の隅に据え置かれたランプの赤掛かった光のみである。
幽かに調度とそして部屋の中央にある幅広い寝台の輪郭が浮び上る空間には
麝香*25に似た甘く濃い、重い香りが漂って居る。

後手に戸を閉じ暫し待つと、眼も闇に慣れ僅かなりとも室内の色彩までもが
判別出来るまでには成る。私は息を詰めて室内を幾度か見回す。部屋の隅の
洋燈*26を置かれた机に据えられて居る椅子には、人影は無い。

( `・ω・)「――」

どうすれば良いのだろうか。このまま待てば良いのか、それとも何かの手違い
でもあったのだろうかと図り兼ね僅かに困惑する。入口に立ったまま暫し待つが、
声の掛かる様子も無い。諦め、部屋の中央の寝台に近寄ろうと足を踏み出した。

翳った寝台の布が僅かに動くのが見えた。
さらり、と衣擦れが静寂に慣れた耳に幾分高く響いた。

(;`・ω・)「誰か、其処に居るのかい」

声を掛けながら寝台に近づく。眼を凝らすと、寝台の背に凭れる様に躰を起こし
て居る人影のある事に漸く気付いた。

一歩その人影に近寄る度に、部屋に満ちた芳香は徐々に強まる様であった。
寝台には、薄い衣を纏った娘が、半ば躰を起こす様に座って居た。

从 ー 从「――」

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:56:08.51 ID:Mkpq85sk0
(;`・ω・)「何だい。居るのなら、最初から返事をして欲しいな」

私の言葉に、娘はゆる/\と首を振る。口を少し開いて閉じ、また首を振った。
その仕草で、私はこの娘は恐らく唖なのであろうと察した。

年の頃は、あの、古寺の娘に近い様に感じられる娘であった。
この年頃であれば、何らかの理由でこの職に身を落とす事も在り得るであろう。

ほっそりとした躰であった。頭は小さく、首は細く長い。柔らかく伸びた髪は肩の
前に懸り室内の灯火に艶々と濡れ光って居る。

夜着の前は開いて居る。その下にある娘の鎖骨の白い浮き上りを、なだらかな
乳房の曲線を、その先端に備わった乳首を、そして翳る腹から臍に掛けてまでの
素肌を、全て私の眼前に晒して居た。

下肢は、幾重にも重ねた薄いキルトの下にあった。

从'ー'从 「――」

小首を傾げ娘は密やかに微笑む。微笑んで自らの躰に目を落とし又私を見上げ
僅かに口を開いた。その口から言葉の発せらる事は無かったが、誘って居るのだ
と分かる。その頬は仄かに紅潮して居た。

私は、未だ迷って居る。

この娘を名も知らぬあの金髪の娘の代りに憂さを晴らせ、と、私の友人は云わん
として居たのであろう。唖であの少女に似た年頃の娘を私に宛がったのが彼の意
思と云うのであれば、正にそうであろう。


54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 22:57:15.04 ID:Mkpq85sk0
胸の奥に僅かながら罪悪感が萌芽する。それはあの娘に対する物と、目の前の
この哀れな娘を彼女の代わりとする事の両方への感情であった。

戸惑いながらも、私は彼女の方に手を掛けその衣を脱がせる。

心は、未だに迷って居る。だが、醜い事に、全く耐え難く醜い事に、私の体は既に
この娘を目の前にして昂り始めても居るのだった。
自らの肉体をも思うに任せられぬこの衝動を、私は余り好まなかった。

夜着は筒を滑り降りる様に抵抗無く娘の体を滑り落ち寝台の上に広がった。それ
を僅かに訝りながらも、薄暗がりの中一糸纏わぬ姿と成った娘の体を見下ろす。



――――娘の躰には、両腕が存在しなかった。



(;` ω )「これは――君は、一体――」

娘の両腕は、二の腕から先の部分は、切断され失われて居た。
そしてその切断面を覆い隠す様に白い清潔な包帯が巻かれ、その上に宝石の象嵌
*27を設え繊細な彫細工を施された金属の環が嵌められて居た。

更に、その環には細い何本もの金銀の鎖が装飾に垂らされて居る。キルトの上へ
放射状に散り/\に広がり輝くその鎖は、寧ろ彼女の失われた上肢を残酷に飾り
立て、強調して居る様でさえあった。

―――――――――――――――――――――――――――――――
*25 じゃこう。ジャコウジカの性腺から得られる香。ムスク。 *26 ランプ。 *27 ぞうがん。

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 23:01:22.44 ID:Mkpq85sk0
躰の内側で湯に温められた心臓が大きく脈打つ。
私は俄かに震え始めた手で娘の腰に懸るキルトを払い除ける。

両脚も、同じであった。同様に太腿の中程で切断され、腕のそれよりも幅広い金属
の環で飾られて居た。細い腰、淡い陰毛の翳りよりも下で、赤い宝石が輝いて居た。

从'ー'从 「――?」

少女は少し困った様な顔で私を見る。言葉が話せたのであれば、此処まで来て置き
ながらこの躰の事も知らずに居たのか、とでも云って居たであろう。

動悸は一層大きくなり、耳の奥で鳴り響く。

私の心臓が私の所有物では無くなり耳から外に転げ落ちて仕舞う程の錯覚に見舞
われ、それに耐え私は四肢の無い娘の肉体を凝視する。

ああ、何故、こんな、此処に――。

少年の頃の記憶が、今迄の如何なる瞬間よりも明瞭に甦る。
その衝撃と鮮烈とに負け、私は目を閉じ手で覆った。


56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 23:03:17.49 ID:Mkpq85sk0



――――どなたか、どなたか居りませんか。



( ´;ω;)「うう、うううっ」

少年の頃、祭りの日。

親と逸れ何処とも知れぬ小道に迷い込んだ私は、行き当たった粗末な小屋の主に
助けを求めようと、その入口の覆布を捲った。中に居た人影に助けを請おうと片手
で涙を拭いながらその入口を潜った。

入口からは微かに光の漏れて居り、その先にちら/\と動く人の気配を感じたのだ。

( ´;ω;)「申し訳ありません。
      どなたか、どなたか居りませんか――」

其処には、確かに人が居た。
私の呼ぶ声に応え、粗末な小屋の中央で一組の母子が私を注視した。

いや。

あの刹那、其処に居たのは親子では無かった。少なくとも当時の私には、彼女らは
親子、には見えなかったのであった。其処に居たのは、女と、得体の知れぬ生物、
その様に、あの頃の私には見えて居た。


57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 23:04:22.70 ID:Mkpq85sk0
('、`*川「――」

狭い小屋の中央、小さな机の上にその生物――少女は荷物の様に置かれて居た。
彼女には、両腕と両足が無かった。そして、衣服は何一つ身に着けて居なかった。

両腕と両脚は肘と膝に近い箇所で引き千切られ、そのまま治癒して居た。断面は
閉じた大きな扇貝の合せ目に似て波打ち、瘤状に盛り上がった傷口の切断面を横
に走って居た。

切断面の傷痕は、鬱血し所々は青黒く、また鮮紅に靄状に染まっており、片方の腕
のあった其処は更に化膿して居た。蛇行し縫われた傷口が解けかけ、鮮やかな赤
色をした肉の断面を僅かに除かせ、唇様の盛り上がりからは黄褐色の膿汁を生じ
糸を引いて机に垂らして居た。

大きな肉色の唇を備えた怪物の首が、四本の手足の代わりに生えて居るのだ。
私にはそう見えた。

小屋の中には、他にひどく汚れ曇った硝子の容器が幾つも並べられて居た。
僅かに見ることの出来たその内容物は、どれも異常に膨れ上がり、崩れ、或いは
干からびた肉や臓物の塊であった。


58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 23:07:12.60 ID:Mkpq85sk0
現在の私には分かる。
其処は、見世物小屋であったのだ。

後から知った話である。あの頃、あの場所には、事故で両手足を失った「達磨女」
の見世物が廻って来て居たのであった。

明治の時代、或る少女が事故で四肢を失い、それでも生き永らえた。
その娘は失った四肢で日常生活が送れる様血の滲む様な訓練を成し遂げ、そして
労働の叶わぬその躰で裁縫や器楽演奏、その他の芸を演じ収入を得て居た。

私はその娘の芸が終わり、付き添いの女が彼女の衣と傷口の包帯とを取り替える
処に偶然忍び込んで居たのであった。

(;、;*川「見ないで――見ないで。
      見ないで下さい、お頼みします」

少女の涙声に私は我に帰り泣く事も忘れて其処を飛び出した。
そして、気が付くと元来た場所に戻って居り、其処で両親に酷く叱責されて居た。

その間の事は、何も覚えて居ない。

ただ、あの裸の少女、物のように机に置かれた、私よりも数年年嵩の少女の頼り
無い灯りに照らされた不完全な肉体が、異様な昂奮と共に脳裏に灼き付いて居た。

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 23:08:26.87 ID:Mkpq85sk0
醜い傷痕、人として欠かすべからざる四肢を失ったその姿。乳房も陰部も隠すこと
無く幼い肉体の粘膜を晒し机に置かれた彼女の姿は、当時の私には想像を絶する
衝撃であり、そしてそれまでに覚える事の無かった奇妙な熱を下腹部に残した。

あの時、私は人間を癒すのでは無く、その真逆に只観察し、研究し、分析する事を
こそ、我が成すべき行いとして捉える様に成ったのであった。
 
 
 
――――それらが、私を呪縛した。
      私の自我の目覚めであった。同時に、ヴィタ・セクスアリス*28であった。
      現在の私の眼前に居る娘は、その顕現であった。
 
 
 





―――――――――――――――――――――――――――――――
*28 性の目覚め。森鴎外「ヰタ・セクスアリス」


61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 23:10:44.33 ID:Mkpq85sk0
ベッドの背板に立て掛けられた娘の四肢が無い事に気付いた瞬間、目が眩む様な
心地であったのを覚えて居る。そして過去を回想し、其処に在った物と重ね合された
のを覚えて居る。

そしてその先は、ただ己の衝動に従った。

从* - 从 「ン、ン――」

私は只夢中で娘の口を吸って居た。荒々しくその躰に手を伸ばし、柔く膨らんだ乳房
を力任せに掴んで居た。四肢の無い娘がそれに抗し得ぬのを良い事に、只々己の
劣情の命ずるままに彼女の躰を弄んだ。

娘は、関節を失い棒の様になった手足を幾度か動かした。けれどもそれで私の手を
押し留められよう筈も無く、従って私の荒い愛撫から逃れる事は叶わなかった。

(*` ω )「はあ、はああっ」

哀れな娘を壁に押し付ける様に拘束し、私は幾度と無くその唇を吸った。
抵抗する手段の無い娘の躰を撫で回し、そして己自身が弾ける程に昂って居るのに
気付くと夜着を脱ぎ捨て娘を寝台の上に俯せに突き飛ばした。

从* - 从 「ア、ア」

娘は今や、上向きになった尻を私に向けて倒れて居る。その四肢では起き上がる事
は出来ない。ただ不自由な四肢を水平に動かしキルトの表面を其処に嵌められた
金属の環で撫でるだけであった。鎖が、さり/\と擦れた。

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 23:13:08.19 ID:Mkpq85sk0
私は、幾度と無く夢を見ていた。
あの日、見世物小屋の机の上に横たわっていた少女を、成人した躰で貫き犯す夢を。

娘の下半身に跨る様な姿勢になり、腰の細く括れた箇所を上から押え付ける。そう
してまち針で留められた昆虫の様に無様な姿勢を取る娘の秘所を己の手指で撫でた。

从* - 从 「ウ、ァ――」

娘が首を仰け反らせ奇妙な声を上げ呻く。伸びた髪は首から肩に乱れ懸る。

屈辱的な姿勢で成す術無く虐げられ、それでも娘の秘所は徐々に温度を増し粘液に
濡れ始めた。其処が濡れそぼるのにつれ、部屋に籠るあの麝香の様な香りが強く
匂い立つのが感じられた。

香りは、娘の其処から発せられて居るのだと気付く。
高級娼婦が男と交わる前、秘所に香を含ませて置く事もあるのだと聞いた事があった。

既にしとどに濡れ、滴る程に液体を湛えた娘のその箇所を背後から抱えたまま獣の
様に己の屹立した肉体を突き立てた。娘は又奇妙な声を上げ、躰に残された四肢を
伸ばし強張らせる。鎖が、しゃらり、と鳴る。

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 23:14:46.27 ID:Mkpq85sk0
(*` ω )「――」

何事かを口に出したのだが、己自身にもそれを聞き取る事は叶わなかった。
只私は激しく動き、己の躰を支える術の無い娘を捉え、細い腰を激しく動いた。

香りは尚一層強く増し、劣情に支配された私の脳髄を甘く侵す。
私は鋭く躰を貫く悦楽と共に娘の躰を支配する強い嗜虐感を味わって居た。

私が犯している娘は、娼婦であり同時に幼い頃に見たあの「達磨女」でもありそして
また古寺で見たあの娘でもあった。私は誰を抱き、誰を犯して居るのか、それすらも
その瞬間に思い出す事は出来なかった。

(*` ω )「ああっ、ああ、あ――」

从* - 从 「ン、アア――ア――」

全身の筋肉を強く収縮させ、私は娘の体内に精を放った。
汗ばむ背中を見下ろし熱く融けた秘所に己自身を深く埋めたまま幾度も身を震わせた。

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 23:18:10.07 ID:Mkpq85sk0
事を終えた後に私が覚えたのは、喩え様の無い虚無感と後悔であった。

私は、四肢の利かぬ娘を組み敷き、ただ己の肉欲を満たすためだけに犯したのだ。
それは対価を払いさえすれば許される、と云う類の行為では無かった。

娼婦といえど、無論人間である、その尊厳を奪い取るが如き狼藉を働いた己を只
責め、娘の躰に手を掛け助け起こして遣りながら涙を流した。

( `;ω;)「済まない、済まない、私は、こんな積りでは無かったのだ、済まない」

娘は、この様な仕打ちを受ける事に慣れて居るのだろうか、頬を涙で濡らしながらも
ゆる/\と首を振った。その様子が余りにも健気でそして不憫に見え、私はこの部屋
を訪れてより初めて娘の躰を抱いた。

( `;ω;)「許してくれ。もう、こんな事はしない。
       もう終わりだ。だから、安心しておくれ」

从'ー'从「――ア、ハ」

私の言葉を理解してか理解せずにか、娘はあどけなく笑うばかりであった。
その笑顔に私は忸怩*29たる思いをまざ/\と感じさせられ強く娘を抱き支えた。
娘の躰は柔らかく、弛緩して居た。

背中に回した腕に、妙な感触を覚えた。


―――――――――――――――――――――――――――――――
*29 じくじ。深く恥じ入ること。


67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 23:20:02.42 ID:Mkpq85sk0
左右の肩胛骨の辺りに、奇妙な骨の膨らみがある様に思えた。私は娘の躰を離し、
脇を支え背後からその背中に洋燈の灯りを照らした。

其処に、傷痕があった。

从 ー 从「――」

こそばゆさに娘が身を捩る。転げて仕舞わぬ様に支えその傷痕に目を近づける。
両方の肩胛骨の丁度骨が盛り上がる部分を通るように、縦に二筋の傷痕を其処に
見た。長さは四十糎*30程で、僅かに弧を描いて居る。

奇妙で不可解な傷痕に、医学者としての好奇心が俄かに頭を擡げて居た。

傷痕は旧く、縫合跡は緩い盛り上がりになって居る。暗所や遠目で見て居たのでは
気付くまい。更にこの娘の場合、蓬髪が背中を覆って居た。

私はその傷痕に指を這わせる。傷痕は僅かに撚れた様な縫合跡を残し、ほぼ完全
に治癒しているが、それが不可思議に思えた。これ程の大きさの傷をこれだけの技
術で治療する事が可能な医師は、日本では勿論この独逸にも居る様には思えない。

(`・ω・´)「君。この傷痕は――」

娘に問おうとし、彼女が唖であった事を思い出す。
何を聞いた処で答えまいし、この躰では字を書くことも出来まい。



―――――――――――――――――――――――――――――――
*30 センチ。

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 23:22:50.47 ID:Mkpq85sk0
首を振り、背後から彼女に声を掛けようと首筋を覆う髪を手櫛で退ける。
髪を払い背中から項と娘の頬の膨らみとを見た。

更に驚くべき痕跡が、その首に残されて居た。

(;`・ω・)「――!」

絶句した私を訝り、娘は首を巡らせ背後の私を横目に見る。
私の目は、その露になった首筋に釘付けにされて居た。



――――背中と同じに旧く、消え掛けた火傷の痕跡が。



あの日古寺に見た娘と同じ、丸い文様状の火傷の痕が。
私の苦悩を悉く嘲笑うかの如く、四肢の無い娘の首に刻まれて居た。


69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 23:24:51.81 ID:Mkpq85sk0
                                       ┌───┐
                                       │  五. │
                                       └───┘

翌朝伯林大学の一室で私を迎えた二人の友人は、私の顔付きを見て微笑んだ。
表面上にではあるが、私は往時の冷静と精神の平静を取り戻して居る様に見え
たからであろう。

  Α_Α
 ( ・∀・)「君、随分具合も好さそうだね。
       これで僕も安心して遊び耽る事が出来ようと云う物だ。実に喜ばしい」

( ´_ゝ`)「頼むぞ。お前の分が遅れればその分俺達の荷が重くなる」

口々に云う友人を見詰め返し、私は無言で微笑んだ。

だがそれはウララーの勧めに従い、儘成らぬ恋の鬱憤を晴らしたからと云うのみ
の問題ではない。蜘蛛の糸の如く細く頼り無く、そして不確かな物であるが、私は
確かに手懸りを得たのであった。

あの四肢の無い娼婦、憐れな娘の首筋とそして背中に残る傷痕。あれらを追う事
で、あの教会の娘に再び会う事が出来るかも知れぬ。今は既に、只その思いのみ
が私の胸を満たして居た。

千々に乱れた麻の如き心境は未だ私の胸の奥底に蟠り燻って居る。だが差し当
りの目標を見付け得た事で、それを私と云う人格の表層に表さぬ様、堪える事が
出来た。


70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 23:26:37.49 ID:Mkpq85sk0
(`・ω・´)「遅れを取り戻さなければね。
       暫く、図書館に居るよ。何か有れば、教えてくれ」

言葉少なに言い残し早々と部屋を出た。

無論、勤めを果たす気などは寸毫*31も無い。
最も特徴的な、あの四肢の無い娘の背中の傷痕を調べる為にであった。

図書館に向かう途中、また窓の外を眺めて居る学長に顔を合わせる。彼も又私
の身を案じて居た様で、私の表情が引き締まって居るのを見るや相好を崩した。

( ФωФ)「口さがない連中の妬み嫉みも有るであろうが、私は君に期待して居る。
        劣等感の輩は何処にでも居る物だよ。それは向上心の現れでもある。
        どうか、彼らを軽蔑せずに居て遣ってくれ給え」

( `-ω-)「詰まらぬ事でご迷惑をお掛けして仕舞い、全く汗顔の極みです」

( ФωФ)「何を、君の責では無い。学究の徒には常に付き纏う問題だ。
        今後も、頑張ってくれ給え」

私は、私に期待を掛け此処に運んだ者達の全てを裏切って居る。
だが今は、それを悔いはすまい。只為し得る事を為し、無為に終わるのならその
時に悔い改めれば良い。今は只、そう念じて居る。




―――――――――――――――――――――――――――――――
*31 すんごう。ごく僅か。

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 23:30:41.50 ID:Mkpq85sk0
思い付く限りの外科手術の臨床例が記された図書を机上に積む。
あの娘の背中の傷痕を回想しながら一冊ずつ手に取り片端から読み漁って居た。
まずはあの特徴的な背中の傷痕を調べて見ようと思いさしたのであった。

( `-ω-)「――」

まず、あれは単純な外傷で無いことは確実と思われた。
まるでその長さを測りでもした様に左右対称に、同じ長さの傷痕が残って居た。

左右の肩胛骨の上に残る縫合後。あの様な箇所を切開しまた閉じる理由は何か。
肩胛骨自体に何らかの治療を施す為か。それとも、その奥にある器官、即ち肺、
又は心臓であろうか。

だが、肺や心臓に外科手術を行うなどとは聞いた事が無い。
それらは循環を司る重要な器官であり、それに触れる事などはほぼ禁忌である。

さりとて、あの娘の肩胛骨には特に異常は無い様に思えた。呼吸音にも気になる
処は無く、気胸*32に独特の呼吸等もその兆候も見られて居ない。

では、僧帽筋に対しての手術であろうか。

それは推測の域を出ない。特にあの娘は、四肢を全て失って居る。その原因が
如何なる事故による物であるかを断定する事の出来ぬ以上、それとの関連もまた
不明であった。

残酷ではあるが、四肢の切断面を見れば何か分かる事のあったのであろうか。


―――――――――――――――――――――――――――――――
*32 ききょう。胸腔内に空気が入り肺を圧迫する疾患。

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 23:32:50.97 ID:Mkpq85sk0
その後も数時間を掛け、種々の図書を読み漁った。
ふと机から顔を上げると既に西陽が差し込み始めて居る。

(`・ω・´)「――無駄か」

ほぼ丸一日を掛け、成果は皆無であった。
医学先進国であるこの国の技術でも説明の付かぬ術式が存在するかも知れぬと
云う事に、私は胸が悪くなるような居住まいの悪さを感じざるを得なかった。

全く、不可解であった。

机に頬杖を突き、残る一方、即ち二人の娘の首筋に残る火傷の痕に思いを巡ら
せる。あれも又人為的な行為の結果である事はほぼ相違無い様に思えた。だが
矢張り、その理由は推測すら付かぬのである。

短絡的に考えれば、焼印、である。奴隷や家畜に対しその所有者を明確にする
為、又は何らかの罪に対する罰として、それは行われ得る。
但し、独逸では刑罰としての焼印は行われては居らぬ筈である。

にも関わらず、それを生きた人間を相手に行う事の有り得るであろうか。
二人の少女は、共にアーリヤ人であるように見えた。この独逸で、アーリヤ人が
同じ人種に、如何なる理由があろうとも焼き印を押す事のあり得るであろうか。

これも又、謎であった。

私の求めるあの娘も同じ娼館に務める娼婦であり、あの涼しげな顔をして居る
女主人が手ずから同種の焼印を押して居るのだと考えれば或いは得心も行く。
しかしあの日娼館の広間に座って居た、或いは給仕の女には同種の焼印は見
当たらなかった。


73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 23:36:35.78 ID:Mkpq85sk0
記憶は定かではないが、彼女等の様に首を露出した衣装では、注視するまでも
無くそれらの焼印は私の目に入って居た筈である。

矢張り、結論は出ない。
果たして、私に残された手段は最早一つのみであった。

あの娘が応えぬのなら、その雇用主に聞けば良い。無論、回答を得られる確証
は全く無い。だが現在の私に取り得る手段は他に何も無いのだ。

少年期に出会った手足の無い少女。昨日の、同様に手足のない娘。そしてそれと
同じ焼印の痕を持つ娘。それら全てが入り混じり私の心を掻き乱し、衝き動かす。

私の心に棲むそれらの存在は、今や混沌として身中に根を下ろし拡がって居る。

只、居ても立っても居られぬ思いのみが募る。
それに圧し潰される前に、私は立たねばならなかった。

(`・ω・´)「――」

窓の外の暮れ行く通りを見遣り私は立ち上がる。この数日幾度もそうした様に、
ティアガルテンの散歩道、ブランデンブルク門、あの娘との出会い、あの古寺、
涙と直ぐの別れ、それらを回想して居る。

不意に、胸の奥に細く尖った魚の小骨の刺さった如き違和感が胸を占める。

何かが、私の胸に囁き掛けた気がしたのだ。あの四肢のない娼婦の娘の躰の
傷に、一瞬、何らかの助言をもたらした様な気がしたのであった。

だが、それが何であったのかを思い出すことは、遂に叶わなかった。
苛立ち紛れに舌を鳴らし私は手荷物を掻き集めた。

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 23:38:43.75 ID:Mkpq85sk0
宵闇に浮かび上がる娼館にて再び女主人は私を迎えた。
今日は客も入って居らぬ様子で広間のテーブルに着く人影も無く静まって居る。

川 ゚ ー゚)「これは、良くいらっしゃいました。
     御贔屓頂けると、そう、解しても宜しいでしょうか」

二日続けての訪問に女主人はそれでも笑顔を見せ、自ら私の座るテーブルに
茶を運ぶ。白磁のポットから薫香を立上らせるそれを、私と彼女自身、二つの
カップに注ぎ私の顔を覗き込んだ。

(`・ω・´)「申し訳ありません。今日は只、伺いたい事の有るが為に参りました。
       ――昨夜の、あの娘の事です」

女主人は、只黙って居る。私がその質問を切出す事を促して居る様でもあり、
また私の真意を探って居る様にも見える。

静かに笑んだ顔からその感情を読む事は容易では無い。娼館の女主人の経験
がそうさせて居るのであろう。何より経営者としては、易々と娘達の身の上話を
語る心積りは元より有るまい。

心を決め、口を開いた。

(`・ω・´)「あの娘の背に、傷痕があります。背中を二筋、縦に走って居る傷痕
       です。貴女は、あれを御存じでしょうか」

川 ゚ ー゚)「ええ、存じて居ります。何処の狼藉者の仕業かは存じませんが、年端も
     行かぬ娘に、何とも。惨い事を」


76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 23:40:33.66 ID:Mkpq85sk0
( `-ω-)「あの傷が何の為に付けられた物か。私は、それを知りたいのです。
       あの傷跡、四肢の傷、そして――首筋の、恐らくは焼印の痕を」

川 ゚ -゚)「――」

女主人の顔から、表情が消えて居た。
愛想の良い笑みを収め無言で私を見遣る。その視線は、女が美しくあるが故に
尚一層無感情に、そして冷酷に見えた。

川 ゚ -゚)「良く、御気付きに成られましたね。あの痕に」

そう言ったきり口を噤み、扇を畳んで静かに机上に下ろした。

この女は、何かを、知って居るのだ。
私はその彼女の反応に縋る。机に両手を置き、身を乗り出し言い募る。

(`・ω・´)「お願いします。どうしても、知りたいのです。
       御存知なのでしょうか。あれは、あの傷は、一体」

川 ゚ -゚)「それを聞いて、如何なさるお積りでしょうか」

(`・ω・´)「それは――」

私は言葉に詰まる。正直に話したとて、彼女は信じるだろうか。只一目見て忘れ
られぬ娘の首筋に、この娼館の娘と同じ痕があったのだと、そして私は、その娘
をこそ捜し求めて居るのだと。

私が二の句を告げぬのを見遣り、女主人は冷淡に、滔々と告げた。

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 23:41:58.51 ID:Mkpq85sk0
川 ゚ -゚)「人には皆、云うに云われぬ事のある物。あの憐れな娘とて、それは同じ
     事で御座居ます。詰まらぬ興味で、いえ、只ならぬ事情の有ったとしても、
     お話しする事は御座居ません。その様な用であれば、お引き取りを」

(;`・ω・)「ですが、私は。私は――医学を学んで居ります。
       あの娘の傷がどのように手当てされた物か、そしてそれは何処で行わ
       れた物か、それを知らずには居られぬのです」

川 ゚ -゚)「貴方様の生業など、関わりの無き事。
     知りません。知って居たとしても、話す事は有りません」

(;`-ω-)「しかし――しかし」

身中歯噛みし、瞑目する。
彼女は確かに知って居る筈なのだ。私が望む事を知って居る筈なのだ。何とな
れば、あの四肢の無い娘の身元を引受けたのは他ならぬ女主人であるからだ。

普通の娼婦であれば、何処からか娼館を訪れ其処で働くことは有り得るであろう。

だがあの娘には、四肢が無いのだ。そうである以上、彼女が自らの足でこの娼
館の門を叩くことは不可能であり、従って彼女を知る何者かから彼女の身柄を
引受けた筈なのだ。

何の理由も無くあの様な状態の娘を引き受ける事が有り得るであろうか。その
躰を子細に見聞せずにあの様な勤めをさせる事が有り得るであろうか。


78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 23:43:56.87 ID:Mkpq85sk0

(;`-ω-)「――私は」

眼を閉じ拳を握り締め殆ど必死に回想して居た。体験した諸々の出来事を遡
り、何かを、冷えた表情を崩す何事かをこの女主人に告げねばならぬと念じた。

思い出すのだ。私はこの数日、何を見て来た。

そして、何に気付いた。夕刻、伯林大学の図書館で。

(;`-ω-)「私は、何を――」

首筋の火傷。背中に走る二筋の傷痕。手足の無い娘。友人の助言。失意。金
の髪をした娘、その流す涙。天の御使。クロステル街の古寺。ウンテル=デン=
リンデンの灯火。ブランデンブルク凱旋門。女神像。ティアガルテンを行く己。

突拍子も無く、霊感の如く突如脳裏に閃き像を結ぶ光景が一つ、私の思考を
奪う。現実離れした発想に行き当たった私自身を笑いながらも、想起して居る。


80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/19(月) 23:59:37.40 ID:Mkpq85sk0



――――女神。ブランデンブルク凱旋門の頂上に古の戦車を駆る女神の像。
      優美なる翼を備えた女神。その背中に、一対の翼を。



( `-ω-)「――天使」

その言葉が、遂に私の口を衝いて零れ出た。口に出すには余りに荒唐無稽な、
現世に存在する筈のない、それは西洋の信仰の象徴を指す名であった。

だが、女主人はその私の呟きを一笑に付する事は無かった。只、眼を見開き
私の口許を、その冷たく細く切込んだ両眼で見据え机で拳を握った。

(`・ω・´)「あの娘の背には――翼が、あったのですか」

女主人は顔を伏せる。長く直ぐな髪がその頭頂から流れ落ち細い頤を覆い隠し、
暫しの後微かに肩を揺らし息を漏らす。彼女は、声を殺し笑って居たのであった。

川 ゚ ー゚)「ふ、ふ。貴方様は、随分と。想像の逞しくいらっしゃる」

白く、細い指をたおやかに伸ばし白磁のカップを手に取る。白い膚はその白磁
の色にも負けぬ程に透き通り暗青色の細い血管の走行を皮膚の正面に微かに、
僅かに示して居る。そ、と持ち上げ、最早湯気を立てては居ないそれを口に運ぶ。

川 ゚ ー゚)「其処までお望みに成っていらっしゃるのなら、お教え致しましょう。
      ――ただし」

81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:02:55.55 ID:NFQp2Wmk0
静かに私を見る。

川 ゚ ー゚)「一つ、お誓い下さい。其処へ辿り着いたのなら、目にした全ての物を、
     決して口外してはなりません。宜しいですね、誓って頂けますね」

深い色の瞳が、虚ろに煌めく深淵の底よりの光を放って居る様に私には見えた。

川  - )「否――貴方は知って仕舞われた。気付いて仕舞われた。
     もう、頷く他には無いのです。他には、選ぶ道は残されて居ないのです」

(;`・ω・)「それは――何故でしょうか」

底冷えのする眼で私を見る。その視線は今や蛇の如く鋭く私を射る様で居る。
女は、既にあの愛想の良い女主人では無い。その口調までもが、只冷たい。

川 ゚ ー゚)「簡単な理由です。
      至極、簡単な理由ですよ、御客人」

私の顔を睨め上げる。

川  ー )「話せば、貴方は全てを失うかも知れぬからです。
      二度と、その足で故郷の地を踏む事が出来ぬかも知れぬからです」

テーブルの上に、霜が降りた様であった。暖かな室内でありながら、何処からか
吹き込む冬の寒風が床を這い私の衣服の裾、袖、襟から忍び込み、その凍てる
吐息で私の全身の膚を撫で総身の毛を逆立たせる様であった。

私はその女の言葉に何も帰す事が出来ず只黙したまま震える手で白磁の椀を
取る。それは既に冷え切って居た。


82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:05:36.01 ID:NFQp2Wmk0
                                       ┌───┐
                                       │  六. │
                                       └───┘

ニイマンデン通りの細く、湾曲し、暗くそして猥雑な道を私は行く。
あの女主人に示された通りに、あの娼館を出て後通りをひたすら奥へと進んで
居る。

あの女の真意は知れぬ。何故に私は選ぶ道を残されて居なかったのか。何故
に全てを失う危険のあるのか。只、あの女が嘘を吐いて居るようには思えぬ。
畢竟、私は彼女の言に従い先に進むしか無かったのだ。

(`・ω・´)「――はあっ」

黒々とした闇に冷気の暗幕が懸って居る。茫漠とした胸中の不安と共に次から
次へと押し寄せるそれを殆ど掻き分ける様に振り払い私は只無言で進む。

闇のより深い、長く張り出した軒の交錯するほどに宙に懸かる袋小路に出る。
月の影さえもそれに阻まれて通りの荒い土瀝青には届かず足許も覚束ぬまま
よろめいて居るように歩き、影の最も深くなる突き当りの袋小路に立った。

其処が、女の示した場所であった。

どろ/\と濃い暗闇の中から不意に歩み出る足音の響き、不意に眼前に傷の
ある酒気を帯び赤らんだ顔が、闇を割り開き突き出された。
  _
(メ ゚∀゚)「な、何だあ。お前、た、大陸のぼんぼんが、何の様だあ」


83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:07:45.88 ID:NFQp2Wmk0
獣革の衣服を纏いその胸元を大きく開いた男であった。身を屈め肩を怒らせ
押し潰された様なひび割れ掠れた声で私を威圧して居る。その息には酒が臭い
私は顔を伏せ応える。嗅ぎ慣れた腋臭*33の獣じみた臭いが鼻を衝いて居た。

大陸、と聞くに、どうやらこの男は私を中国人と見誤って居る様であった。

( `-ω-)「私は、此処で催し物のあると聞き、参じたのだ。
      黒衣の貴婦人から、聞いたのだ」

別れ際に女は、男に問われれば、黒衣の貴婦人からこの場所を聞いたのだ、
と答えろ、と聞いて居た。それがニイマンデン通りの奥に佇むこの秘密の場所
に入るための符牒なのだ、と。

男は眉を上げて頷くと一歩下がり何一つ見通せぬ袋小路の影に手を差し入
れる。引くと堅牢な木戸が軋みを上げて開き隙間から蝋燭の揺れる灯りが漏れ
るのが見える。

それはこの闇に大きくその身を横たえた得体の知れぬ何者かが開いた口に
見えた。
  _
(メ ゚∀゚)「そうかあ、へ、へっ。
     大陸からなあ、御苦労なこって。は、入んな。じきに、は、始まるぜ」

暗き戸を潜ろうとする私に思い出したかの様に何かを抛って寄越す。
頼り無い灯火の下で広げるとそれは黒褐色の毛が植わった毛皮であった。
袋状に縫われ、眼と口に当たる様な箇所に丸い穴が開いて居る。それを手に
提げた私を男は歯を剥き出し笑った。

―――――――――――――――――――――――――――――――
*33 わきが。

84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:10:40.60 ID:NFQp2Wmk0
  _
(メ ゚∀゚)「おい、おい。いいのか? 顔、知れちまって、いいのかよお。
     俺の知った事じゃ、ねえけどよお」

その言葉でこの毛皮が顔に被り人相を隠す為の物であることが知れる。だが、
この先で待つ物を私は知らない。従って、顔が知れる事が如何なる意味を持
つのかも計り兼ねる。

一時の逡巡の後、彼の言葉に従いそれを頭に被った。
そして戸の先にぼうと浮かび上がる下りの階段に足を下ろした。

階段は長く、上から下へと降り行く私の肩に黴の臭気が混合した湿った冷気
が霜を落とそうと試みて居るかの様に感じる。

奈落に落ちて行くかの様な前途であった。

この冷気の中ですら私は背中に汗の噴き出すのを止める事が出来ず、早くも
鳴り始めた心臓の鼓動を持て余しながらただ一段/\と下って行く。

やがて階段は途切れ外の通りと同じ暗闇の中で手探りに半開きのドアを探る
事が出来た。私は躊躇わず、その開けた空間に顔を隠した己の姿を晒した。

私は、望んで居た。同時に、懼れて居た。
そして、答えの得られよう事に縋って居た。

迷って居た。この先に進む事で、如何なる出来事が私の身に降りかかるのか。
私が求める物は、あの娘は、この先に確かに存して居るのか。


85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:12:20.98 ID:NFQp2Wmk0
靴底の響きから石造りの広間と知れた其処は漆黒の闇であった。
さして広くは無い。

その中に、十数人の気配が感ぜられた。一条の灯り、一本の蝋燭だに無い
中に、人間の呼気と体温の熱気が感じられる。暗さに慣れ始める私の眼に
映るそれら人影はいずれも様々な獣の皮を私と同じく頭に被り椅子に腰掛け
て居る。肉食人種に特有の獣臭に似た臭気がその空間を満たして居た。

最も造りの近い処を上げるのなら、小劇場であろう。人々の座っている正面は
一段高くなって居り演壇、或いは舞台に見える。舞姫を回す場末の劇場に似て
粗末な木製の壇である。

(  ゚  ゚)「――」

(  ゚  ゚)「――――」

(゚  ゚  )「――――」

耳を凝らすと僅かに言葉を交わす者が居る。聞き取れはせぬものの、あの
入口に立って居た破落戸*34に似ては居ない、それは確かな訓練を受けた
清楚な発音のドイツ語である様であった。眼を細め見れば、衣も高価である。
女物の衣服を纏った者も居る。

小さな机が幾つか椅子の前にあり、セルリ*35に似て濃緑色の硝子瓶と同じ
硝子のグラスが幾つか並べられて居るのを辛うじて見取る。

この空間は、何なのであろうか。

―――――――――――――――――――――――――――――――
*34 ごろつき。 *35 セロリ。

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:17:12.07 ID:NFQp2Wmk0
(`・ω・´)「――これは」

只々奇妙である。人々は舞踏するでも無く酒精を楽しむでも無く只壇に向き
座り時折小声に会話を交わし何かを待って居る風である。

かたり、と壇上の壁際から音が鳴る。
燭台を携えた男が其処から壇上に、水面を滑る様に進み出たのである。

( ゚д゚ )「――」

濃褐色のフードを深く被り、広い袖から覗く手に真鍮の燭台を掲げて居る。
そして矢張り無言で居る。

その男に続き壇上に姿を現す人影の、裸足で壇上を行くひたり/\と云う音
が俄に水を打ったが如く静まって居た室内に反響する。

進み出たその人影は、男の持つ灯火に照らされ闇の底からこの現世に浮き
上がる様に白く鮮やかな陰影を壇上に閃かせた。

それらは、果たして、一糸纏わぬ二人の少女であった。

(; `・ω・)「あ、ああ――」


87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:19:34.13 ID:NFQp2Wmk0



――――金の巻き毛を揺らし、この独逸の処女雪に似て清らな白い膚。
      緩く折曲げた腕で淑やかに膨らんだ乳房を覆う手、その細い指。
      下腹の影に灯火を照り返す、髪と同じ色の疎らな陰毛。



――――そしてその背中に、白く、優美な、二枚一対の翼が。
      背から膝までを覆い隠す様に、畳まれ躰に添えされて居た。



二人の、天使。

ζ( 、 *ζ「――」

ξ ⊿ )ξ「――」

そしてその片割れは、見紛う方もない――私があの日、クロステル街の古寺
に姿を見た、涙を零して居た、あの、少女であった。

体型も体格も双生児の如く似通っていたが、柔和な顔の造作をした娘が彼女
であった。

私は、遂に、再会を果たしたのであった。あの胸を甘く締め付ける記憶の風景
に焼き付けられた、私の心を掻き乱し弄んだ、あの、あの娘に、只、今此処で。

( `;ω;)「――ああ」

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:22:47.47 ID:NFQp2Wmk0
膚に擦れる獣皮の仮面の内側で私は涙した。
それは感動であっただろうか、恐怖であっただろうか、驚愕の故であろうか。

翼を持つ女、その奇なる姿。何なのであろうか。私には何も分からずに居る。
彼女等は、この人々は、あの先頭に立つ男は、一体何なのであろうか。

だが、思慕は畏怖に勝る。
あの美しい横顔に苦悶の涙の伝う様を想起し、それに胸を塞がれる。

今此処で、このままこの仮面を外し、彼女に駆け寄り呼ばいたい。私を覚えて居
るだろうか、貴女の名前を教えては貰えぬだろうか、そしてあの時、何を泣いて
居たのだろうか、と。只残ったのは、それのみであった。

しかしそれを為せぬ内に、壇の裏より奇妙に歪んだ管楽器の音色が鳴り始めた。

音色を聞いた獣面の観衆は娘達の裸体を見ながら口々にさざめき合い、そして
異様な昂奮に沸き上がる。それに阻まれ私は動けず、只壇上の娘達を見遣った。


89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:25:48.94 ID:NFQp2Wmk0
音色に合わせ、娘達はゆる/\と手足を動かし、踊った。
その踊りは西洋の物とも東洋の物ともつかぬ、初めて目にする類の物であった。

ζ( ー *ζ「――」

羞恥に表情を強張らせ、翼持つ舞姫は舞う。朧ろな灯火にその肉体の、翼の
輪郭を白く、茫と浮かび上がらせ。

ξ - )ξ「――」

共に、痩せた躰である。若く、豊満な肉体ではない。肋なども浮き上がりこそせぬ
ものの、乳房の緩い緩急から脇、腰へは直ぐな曲線を描いて居る。
そしてその、翼。左右に大きく広げれば、その身長よりも大きいであろう白い羽根
を時折広げ、はためかせる。

躰に何物かを結び付けるのでも吊るのでも無く、それは確かに娘達の躰の一部で
あった。娘の一人が躰を旋回させた際、その背中が見えたのだ。小さな尻、腰の
上で、脊椎に沿った肩胛骨の辺りから確かに羽根は直に生じて居た。

弱い光の揺れる中に娘達は踊って居る。灯火に対し横を向くとその背中の翼から
腰、尻に掛けての曲線が光の中に明らかに成った。乳房の先端の乳首の隆起迄
もが闇に慣れたこの両眼にくっきりと映し出されて居た。

形容し尽くせぬ奇妙な抑揚をもって管楽器が鳴る。それはいつしか決して不快で
なく、逆に脳髄の底を揺すられる様な浮揚感を私にもたらして居た。

(* `・ω・)「――あ、ああ」

私は激しく胸を揺さぶられ、椅子に着くことも忘れ口を開いたままそれを見て居た。


90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:28:26.45 ID:NFQp2Wmk0
暗闇に揺れるただ一つの蝋燭の明かり、そして娘の踊りと音楽とは、隠秘主義*36
の儀式の如く色のない色彩を伴った密やかな高揚の体験であった。

音色は潮の引ける様に止み、それが完全に消えると娘達は既に踊りを止めていた。
緩やかに動きを止め、翼を静かに畳み、壇上を前に我々の方へと進みで跪いた。

がたり、と目前で椅子が鳴る音が聞こえ私はその主に目を凝らす。

男の一人が居ても立っても居られぬといった様で立ち上がり、壇に向かって進み
出た。そして彼ばかりではなく、周囲の人々は皆席を立ち、そして壇上の娘達に
その手を伸ばして居た。

(`・ω・´)「彼等は、何を」

私が声を上げた途端であった。
男達は寄り集まって腕を伸ばし、壇上の娘の足を、床に着いた手の手首を力任せ
に掴み――そして壇から床の石畳に引摺り下ろしたのであった。

( ゚  ゚)「――」

四方八方から伸びる衣の袖に捉えられ娘達は苦痛の表情を浮かべる。それにも
頓着せず、否、尚一層の昂奮が巻起こって居た。瞬く間に、小さな二つの人垣が
二人の娘の周囲に、私の直ぐ眼下に形成された。人々は、押し合いながらその
中心に蹲る娘達に、手を伸ばした。

彼女達の周囲から伸びた手は思うままに彼女達の膚を触り、辱め始めたのだ。
抗うのにも頓着せず、ただ抑え付け、その髪を、肩を、乳房を、尻を、そしてその
股間を、何人もで同時にまさぐって居たのだった。


91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:30:38.08 ID:NFQp2Wmk0
ζ( 、 *ζ「ア、ウ――」

娘のその口から漏れたのは意味を成さぬ、囀りに似た吐息であった。

二人の男が彼女の両腕と両脚を捉え、力に任せて床に押し付ける。そうして居る
内に、躰の左右から伸びた別の男の腕が娘の小振りな乳房を握り潰す様に握る。
その手の下にある娘の膚から血が失せる程の力である。

娘はその目に涙を溜め首を振る。只自由に動く腰を上下に暴れさせ石畳に組み
敷かれた翼をばさ/\と動かし拒もうとする。だが成人男性の力には及ぶべくも
ない。暴れる娘の足が大きく割り開かれ、遂に衣に守られて居ない秘所に太い
指が触れた。

ζ(;、;*ζ「ア――ア!」

私は、漸く理解して居た。
あの娼館の女主人の含んだ処のある忠告を、そしてこの劇場の入口で男が云っ
た、顔を隠さなくても良いのか、と云う言葉の意味を。

これが、彼らの真の目的なのだ。異形の娘を舞わせ、慰み者にして愉しむ、それ
こそがこの異様な集いの真意であったのだ。

( ` ω )「あ、あああ」

私の目の前で。娘の肉色をした陰部の粘膜に、毛を生やした太い指が其処を
引き裂かんばかりの勢いで潜り込む。娘の躰をなど一切慮る事無く、只その欲
望をもって其処を責め苛んで居た。

―――――――――――――――――――――――――――――――
*36 いんぴしゅぎ。オカルティズム。

92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:32:26.67 ID:NFQp2Wmk0
一人の男が彼女の顔の前に膝を突く。毛皮の被り物の口から唾液の糸を引く
舌を滑らせ、荒い息を吐きながら彼女の顔を、頬を、首筋を舐め回して居る。

私には、何も出来ない。
この屈強な体格をした昂奮に沸く男達の前で、この貧弱な日本人の私は一体
何を為し得るだろうか。彼らを止めることすら叶わぬのである。

( `;ω;)「うう、ああっ、うう――」

私には只葉を食い縛りながら、彼女が男達に犯されている様を見ることしか許さ
れて居ない。只、それのみしか出来ぬのであった。

あの日、私の足許で泣いていた娘。私の心をあれ程迄に掻き乱し、その行方を
を追う事に奔走させ、そして漸く辿り着いた、この場所。私が思いを寄せる、あの
可憐な姿をした娘が、今、何人もの男に組み敷かれ、女性器を犯されている。

私が求めていた物は、こんな物であったのか。

私は、こんな物を見せられる為に、此処迄、この暗闇の底まで、辿り着いたのか。
只、口惜しくてならなかった。悲しく、空しく、そして嘆かずには居られぬのだった。

ζ(;、;*ζ「ア、アア――」

両腕と両脚を左右から支えられ、娘は親に支えられて小用を足す幼児に似た姿
勢で持ち上げられた。背中から伸びるその翼迄、又別の腕に支えられて居る。
擦られ充血した秘所は、両脚を大きく広げられ隠すことは出来なかった。

そうして支えられている娘の前で、一際屈強な体型をした男が下履きを下ろした。
勃起した男性器を娘に殊更に見せ付ける様に晒し、そして開いた脚の間に踏み
出して腰を突き出した。

93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:35:39.80 ID:NFQp2Wmk0
ζ(;、;*ζ「アア、アアアアア」

娘は涙をぼろ/\と零し続けていた。その涙だけはあの日の古寺の下で見た
それと同じ様に見えた。だが、弄ばれ、嬲られ、屈辱的な姿勢で只犯されて居た。

( ゚  ゚)「――」

男の陰茎が娘の秘所の裂け目に呑み込まれて行くのを私は見て居た。そして
娘が甲高く、鳥の鳴き声に似た長く尾を引く悲鳴を発するのを聞いて居た。
男は、自らの手でも娘の尻を支え、娘の耳元に顔を寄せ何事かを呟きながら
動いて居た。

ζ(;、;*ζ「ウウウ、アア――――!」

躰を大きく痙攣させ、憐れなその娘の腹の中に精液を放った。荒い息を付き身を
離す。泣きじゃくる娘の股間から精液が溢れぼた/\と床に零れ落ちる。
それを拭う暇もなく、別の男が進み出、娘と先程の男の体液に塗れた秘所に己を
突き立てた。

又、娘が儚げな悲鳴を上げた。だが腕も、脚も一粍たりとも動かす事は許されず、
更に別の男に乳房の桜色の突起を責められて居た。首は抑えられ、貫かれた己
の秘所を覗き込まされる様に固定されて居た。

私は、それ以上耐えることが出来なかった。想いを寄せた少女が男達に組み敷か
れ犯される光景に、もう耐える事の出来ず、後退り救いを求め室内を見回した。

娘の片割れ、目の前の娘によく似たもう一人の天使が、壇に手を突き背後から
又犯されて居た。同じく細い腰を掴まれ、前屈みに床に手を突いた犬の様な姿勢
で秘所を獣面の男の陰茎に貫かれて居た。羽根が、ふる/\と揺れていた。


95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:39:43.28 ID:NFQp2Wmk0
ξ;⊿;)ξ「ウウ、ウッ」

嗚咽が、微かに聞こえて居た。

その傍では、獣の面を被った一人の女、観衆の一人であった女と複数の男が
交わっていた。彼らは衣服を脱ぎ去り、顔を覆う覆面のみを残して、娘達が男に
犯される様を見ながら淫らな遊戯に耽って居るのであった。

それら全てが、只一本の蝋燭の明かりの中に淫猥な光の輪郭と音と娘達の啜り
泣きを伴ってこの石造りの空間の中に浮かび上がって居た。
二人の娘の首筋に、醜い丸い文様の焼き印が又光を複雑に反射して居た。

背徳であった。

地獄であった。

救いなどは何処にもなく、私の淡い純情もこの西洋の先進国に抱いて居た憧憬
と畏敬の念さえも粉々に突き崩され、ただ奈落の底に立つ絶望と悲憤のみが胸
に深淵に似て居座り私の情動と気力とを根刮ぎ*37吸い奪い去って行った。

( `;ω;)「――」

肩を震わせる私の前に立つ影があった。
それは、最初に燭台を掲げこの部屋に踏み入ったフードの男であった。

( ゚д゚ )「此処を訪れるは、初めてのご様子で。
     如何なさいましたか。
     この余興を、御楽しみ頂け無いのでしょうか」


96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:41:21.39 ID:NFQp2Wmk0
ぎょろり、とした大きな碧眼の男であった。頭部を覆い垂れた布の隙間からは彼
の瞳と口許のみを見る事が出来た。私は怒りに任せ答える。

(#`;ω;)「何が、何が楽しいものか。
       この様な行いの、何が楽しいと云うのか」

男は薄い唇を釣り上げ皮肉気な笑みを浮かべ、慇懃無礼に応える。

( ゚д゚ )「初めの内は、皆その様に云うのです。髪に反する行いだ、と。
     神はこの様な行いを、決してお許しにならぬと。ですが」

その笑みは我が友人のウララーに似た自己韜晦の色を示しているが、その与え
る印象は正反対であった。娼館の女主人が蛇であるのならば、この男はまるで
蛞蝓*38か蜥蜴の様に不快な笑みであった。

( ゚д゚ )「それも、最初の内だけの事。なに、貴方も、いずれ知りましょう。
     余興の演目は、未だ残って居ります故に」

そう云い、何もかもを見透かす様な不愉快な笑みをまた浮かべると頭を下げ、
眼前を去った。後には嬌声と、悲鳴とが其処此処に残されて居た。

獣の面を被った私は、いつしか私自身の内面までもがこの様な獣に成り果てて
しまうのだと、男はそう云ったのだ。心の裡に、只暗く重い心持のみが残って居た。

この場にいる姦夫共を皆殺しに出来るのならば、獣に堕しても悔いはあるまい。
私は部屋を出、覆面を壁に叩き付ける様に脱ぎ捨てると荒々しく階段を上った。

―――――――――――――――――――――――――――――――
*37 ねこそ-ぎ。 *38 なめくじ。


97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:44:21.76 ID:NFQp2Wmk0
                                       ┌───┐
                                       │  七. │
                                       └───┘

この伯林の冬の寒さも、親愛なる友人達の心温まる言葉も、学長の含蓄豊かな
る言葉も何一つ変わって居らぬ筈であった。だが私の胸は一方ならぬ空虚に呻
いて居た。

  Α_Α
 ( ・∀・)「――」

友人は、黙して机に向かい一心不乱に頁を捲る私に視線を注いで居る。何事か
を云い差してて諦め、己の持分を進める事に決めた様であった。

彼の云いたい事は、恐らくではあるが察しが付いて居る。
それは、今朝目覚めて洗面台の鏡で己の顔を見た私自身と同じであろう。

(`-ω-´)「――」

たったその一晩で私の頬は痩け目は落ち窪んでいた。そして瞳は妙な具合に輝
いて居る様で、只てら/\と白い陽の光を照り返して居た。正に獣じみて居た。

  Α_Α
 ( ・∀・)「――シャキン。君、躰は大丈夫だろうね。
       風邪でも患って居たりは、しないだろうね」

(`-ω-´)「ああ、大丈夫だよ。
       実を云うと、少し夜更かしが続いて居てね。寝れば、治るだろう」


98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:46:25.02 ID:NFQp2Wmk0
只それのみ応え私は作業に戻った。
腹の底では怒りが只、大渦を為している。

再会した娘の痴態に、それを止められず見る事のみしか出来ぬ自分自身に、
あのフードの男に、獣の面を被った人でなし共に。全てに対する堪え難い怒り
が暴れ、口を開けば嘔吐して仕舞いそうに成って居た。

夕刻になると、私は友人達に挨拶を述べて足早に伯林大学を出た。
学長には会わず、只無言でウンテル=デン=リンデンの通りを行き、モンビシュウ
街の下宿に戻り、食事もそこ/\にまたインバネスを纏い外出した。

月が空に輝く時間まで通りを散策し、下宿の程近くを流れる河を眺め過ごした。
時折鳥が頭上を羽撃き*39舞うとあの娘の裸体が汚される様が忽ち思い出され、
頭を掻きむしらずには居られぬのであった。

そして深夜、また私はあのニイマンデン通りの袋小路、赤ら顔の門番の居る石
りの劇場に脚を運ぶのであった。

初めて其処を訪れた日より数日が経過して居た。余興の行われる日は不定期
であり、門番の居ない日には行われては居ない様であった。

私は、結局、足繁く其処に通って居たのであった。




―――――――――――――――――――――――――――――――
*39 はばた-き。


99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:49:01.37 ID:NFQp2Wmk0
私は、矢張り私は、あの娘を未だ想って居るのだ。
それ故にこの悲憤を、激情を抱えたまま此処に居るのだ。

如何にしてか生まれた人ならざる物、あの天使の形をした、あの娘を。
裏切られようとも、幻滅させられようとも、それでも、見て居たかったのだ。

そして出来得る事ならば救ってやりたいと、そう思って居たのだ。
現実にそれを目の当たりにして、何一つ出来ぬ癖にそう思って居たのだ。

石造りのこの劇場を訪れる者の人数は、概ね十人前後であるようであった。
娘達は裸で、或る時は踊り、又或る時は歌い、そうした後に演壇から下ろされ、
そして男達に陵辱の限りを尽くされた。

それを見る度に私の胸は痛み己と観衆への怒り、娘達への憐憫、愛するあの
片割れへの慕情、後悔、それらで形容し難い色に塗り潰され翻弄された。

女性を惨たらしく陵辱する方法がこの世にこれ程迄に存在する事に私は驚愕
すると共に人間の愚かさ、そして醜さを思い知らされる思いであった。

世界がこれほどまでに醜く見え得る物なのだと、私はこの齢にして初めて知っ
た。私は矢張り、世間知らず、身の程知らずの少年でしか無かったのだ。
原風景は既に霞み、研究員としての将来の誓いすらも既に遠かった。

此処は正に、ソドムの市であった。


100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:50:20.90 ID:NFQp2Wmk0
ζ(;、;*ζ「ウ――ア、ア――!」

途切れ途切れに、あの娘の声が聞こえて居る。

この日の責苦は平時の物よりも遙かに厳しい物であった。娘に与えられる物
は悦楽などでは無く紛れも無く苦痛のみであった。

数人の若い男に運ばれ娘は机の上にその躰を抛り出された。両腕で露わに
された躰を隠す事も許されずに四肢を大きく広げられる。だがその日は、娘
は男の怒張する陰茎でもって犯されたのではなかった。

彼女の股間の位置に立つ男は上着を脱ぎ上衣の袖を捲り、肘の上までを
露出された。浅黒い膚であった。彼は拳を幾度か握り締め、そしてその手を
娘の股間、秘所の合わせ目に宛がった。

そして、腕に血管を浮かび上がらせ、それを力任せに娘の秘所に捻じ込んだ
のであった。

ζ(;、;*ζ「アアア、アアアアアア!」

肺を破られたかの様な悲鳴が、絶望の響きを伴って室内に谺する。離れた
場所に居た男達の一団が何事かと首を巡らせる程であった。娘の躰を拘束
する男達は知人同士の様で、その悲鳴を聞き笑い言葉を交し合って居た。

( ゚  ゚)「――」

( ゚  ゚)「――――」

そう、娘の悲鳴を聞き笑って居たのだ。籤の卓を囲んででも居る様な声で。

101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:52:45.54 ID:NFQp2Wmk0
圧力に負け拳の周囲の皮膚の血管を圧迫し白く大きく凹んでいた娘の股間
に、徐々に握り拳の先端が潜り込んで行くのが見える。異様に引延ばされた
その箇所の粘膜は哀れにも充血し密やかな形状を為す襞は伸び、軋んだ。

ζ(;o;*ζ「アアアア、アアア――アア!」

男は拳の先端を娘の体内に没入させたまま躰を揺らし大声で笑う。毛皮
の面を着けてすらその様は明らかである。そして笑いながら手首を捻り転
回させ、更に奥へと押し込んだ。

少女の秘所は裂け、肌色の蛤の合せ目に似たその箇所から血液を滴ら
せる。血は股間を通り肛門の周囲の筋肉の盛り上りを伝って机に流れた。

娘は全身を強張らせ瘧の様に震わせ叫び、躰を動かし逃れようとするが
それは果たせない。血液は机の上に広がり激しく羽撃く翼に付着した。翼
に赤い血液の丸い染みをぽつ/\と残しまた娘は絶叫する。

血液に潤滑を与えられ男の手首から先は、通常であれば生まれ来る赤子
の通る筈であった産道を擦り摩滅させ、そして娘の体内に侵入した。

娘の腹は異様に膨らみ盛り上がって居た。内側から梃子の原理で広げら
れた為に両脚の付根が広がり大腿が脱臼し掛けて居る。その下腹に大蛇
が潜り込んだ様に丸くぽっかりと盛り上がっていた。

男が、手首と手とを動かす。娘の腹に盛り上がった白い皮膚は形を変え
内部からくねる様に膨らみまた凹んだ。次に手首を上に向かって曲げる。
握り拳よりも一回り大きく腹の皮膚が引き延ばされ持ち上る。
それを見て娘は咳き込みながら又叫んだ。

102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:55:02.66 ID:NFQp2Wmk0
暫くそうして娘の胎内を愉しんで居たが男は飽きたのか勢い良く手首を
其処から引き抜いた。血液と透明の粘液に塗れた手首から先がぶり/\
と音を立てて秘所から排泄される。

ζ(;、;*ζ「ア、グ、ア――」

全身を脱力させ娘は机の上で動かなくなる。次いで虚脱した全身が大きく
震え、陵辱の痕跡が斑に残る秘所を露わにしたまま失禁した。拳でもって
股間を責められ、膀胱を強く圧迫された為と見えた。

机に流れた血液と体液に安母尼亜臭の立つ小便が落ち跳ねて、少女の
女性器を犯した男の衣服に跳ねた。男は吠えるように何事かを叫んだ。
また叫びながら娘の横面を張った。

(# ゚  ゚)「――」

娘は、ただ黒々とした天井を仰いで泣いた。
誰も、彼女を助ける物は居なかった。それを指差し嘲笑すらした。

( ` ω )「――」

ξ;⊿;)ξ「ウウ、ウ」

腰よりも低い位置から、もう片方の娘の呻き声が聞こえる。

見ると、床に両手両脚を付き犬のように室内の石畳を徘徊していた。
それも、只裸で牛馬の真似をさせられて居るのでは、良く見ると無かった。


103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 00:59:11.56 ID:NFQp2Wmk0
その娘は、腕を大きく曲げ尻を高々と差し上げる様な妙な姿勢で這って
居る。何事かと目を凝らすと、その尻から何かが生えて居るのが見えた。
その濃緑色の膨らんだ円筒は、葡萄酒の瓶であった。瓶の首までの部分
が其処に完全に埋没して居た。

それを、娘は秘所にでは無く、小さな尻の隙間から覗く肛門に突き刺され
て居るのだった。遠くに居る一団がその醜態を見、歓声を上げている。
落とすな、と云われて居る様であった。

ξ;⊿;)ξ「ウ、アアッ」

大腿と尻の周囲の筋肉を異常に緊張させ肛門を犯す瓶を揺らし、それ
でも娘は健気に獣面の一団の言葉に従い這った。腰をくねらせ、広げた
翼を机の脚にぶつけふる/\と震わせながらも漸く彼らの許に辿り着く。

だが、それのみで許されはしなかった。荒い息を付く彼女の顔の前で
男は下履きを脱ぎ勃起した陰茎を指した。戸惑い顔をする娘の鼻を摘み、
開いた口にそれを咥えさせた。

ξ;⊿;)ξ「フ、グウウ――!」


104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:00:27.97 ID:NFQp2Wmk0
腰を、顔に打ち付ける様に動かして居た。私は陰茎を口で愛撫するその
方法を知らなかった。それは恐ろしく背徳的で汚らわしい行為に見えた。
娘の口から時折ずる/\と吐き出される陰茎は唾液に濡れてら/\と
光って居る。

その尻から、ごとりと音を立てて抜け落ちた瓶が石畳に転がった。

咄嗟に男の陰茎から口を離して彼の顔を見上げて弁解しようとするが、
聞き入れられよう筈も無い。弛緩した肛門を、別の男の陰茎が背後から
塞いだ。

( `;ω;)「――」

何故。

何故私は彼女達を見て居る。忘れれば良いのに。彼女等を軽蔑しこの
面を脱ぎ捨てて部屋を出、全て忘れて仕舞えば良いのに。それもせず、
さりとて己の全てを掛け彼女等を助けるでも無く、ただ見て居る。

( ゚д゚ )「まだ、慣れて居ないのですか。
     余程、奥床しくいらっしゃる」

丁寧に、だが嘲る調子を含んで男が云う。
私は無言で男を睨む。


107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:05:12.27 ID:NFQp2Wmk0
お前は、知らぬだろう。私が既にあの娘に合って居る事に。彼女に懸想
し、その故に離れる事が出来ずおめ/\と此処に通って居る事に。

( ゚д゚ )「何をお思いかは計り兼ねます。
     ですが、なさりたい事のあるのなら、急いだ方が良い」

(`・ω・´)「何を。今度は、何を言うつもりだと云うのだ。
       最早、忠告など」

男は不快な含み笑いをし、云う。

( ゚д゚ )「貴方は、運の良いお方だ。
     明日の夜、この劇場で最大の演目をお見せしますよ」

最大の演目。
取りも直さず、最も残酷な演目であるのに違いは無かった。


109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:06:44.18 ID:NFQp2Wmk0
                                       ┌───┐
                                       │  八. │
                                       └───┘

その日、広間の様子は平時とは異なって居た。中央に只大きな金属製の寝台の
あるのみとなって居り、参加者はその周囲に円に並べられた椅子に腰掛けて居る。

寝台の上は、空であった。
私は云い様の無い不安を覚え、只その主を待つ寝台を繰返し見て居た。

壇上の脇の扉が開き、あのフードを被った男が姿を現す。
その次には、二人の天使が裸体を晒し入って来る。それが始まりである。

だがその日は、違った。続いて入ったのは、隆々と盛り上がる上半身の筋肉を備
えた男の一団であった。男達は皆一様に裸の上半身を晒し、そして皆嘴の長い鳥
を模した覆面を被って居た。先頭の一人は、大きな斧をその手に携えて居た。

( ゚∋゚)「――」

その覆面を、私は伯林大学の図書館で見た覚えがあった。それは、中世の欧羅巴
において医師が伝染病への備えとして身に付けて居た物であった。

最後に、娘が鳥の覆面を纏った二人に両脇を抱えられ、現れた。
娘の足取りは覚束ない様子で、彼女自身よりも遙かに背の高い男に支えられ殆ど
千鳥足で歩いて居る。そして、彼女は――私が恋した娘であるか、それともその片
割れであるか、判別する事が出来なかった。

110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:08:22.10 ID:NFQp2Wmk0
娘は、口のみに窒息せぬ程度に小さな穴の開いた革の袋を被せられて居たので
あった。

そしてその両手両脚は、鬱血し青黒く変色して居た。その原因は、娘が寝台の前
に進み出るに至り初めて明らかになった。四肢の根本に近い箇所が、いずれも紐
で固く締め付けられて居たのであった。

(;` ω )「――まさか」

私は狼狽し、フードの男を見遣る。男は、微かに頷き、にやり、と笑った。
その笑みには哀れみと軽蔑、そしてこれより行う演目への昂奮が同居して居た。

私は、既に悟って居た。
あの娼館での一夜、此処に通う切欠となった、あの娘の様を思い出して居る。



――――彼女は、これから、あの娼館の娘と同じ姿と成るのだ。
      それが、最大の演目であったのだ。



娘は仰向けに、寝台に横たえられる。顔を隠され四肢を縛られた娘はふら/\
と躰を揺らしながらもさしたる抵抗はせず、大人しく金属の部品が剥出しと成った
その寝台に仰向けになった。

彼女は、これより己が受ける仕打ちを知って居るのでろうか。妙に素直に従って
居る。様子を見て居ると、外界に対する反応が鈍いように見える。何か痛覚や恐
怖を麻痺させる類の薬物を与えられて居るのかも知れぬと推測する。

111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:09:49.40 ID:NFQp2Wmk0
鴉頭の男達が寝台の周囲に屈み娘の四肢を押さえ寝台に釘付ける。
斧を持った男がゆるりと進み出、頼り無い蝋燭の投下に照らされ鈍色の光を放つ
斧の柄を掌で弄んだ。

( ゚∋゚)「――」

両手で、柄を握り締める。
娘の右腕の位置に立ち、フードの男の顔を見遣る。

( ゚д゚ )「――」

男は、頷いた。
斧は、蝋燭の明りに光の弧を描きそれを持つ男の頭の頂点に引き上げられる。
男の上体の筋肉は膨張し緊張しその皮膚の表面に大血管が浮き上がる。

鋭い呼気を吐き、斧の刃を寝台に、其処に寝る娘の右腕に振り下ろした。

だん、と低音が響く。
同時に私は己の全身が強張るのを感じる。

斧は、娘の右の上腕、肘に近い箇所に振り下ろされ、過たずその白く柔らかな膚
を切り裂きその下を走る神経と血管と体組織とを断ち切り骨すらも一刀の許に両
断し寝台の金属の枠に刃を当てた。

娘の胴体から一挙に切断された右腕は寝台の上で一度跳ね、落ちた。驚くべき
事に切断された後に大きく一度手指を開き、窄め、肘を伸ばされた状態から直角
に至るまで曲げ、そして動かなくなった。

(   )「アウ、ア――!」


112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:11:04.82 ID:NFQp2Wmk0
被せられた革袋の下でくぐもった呻き声が零れ出る。そうしながら全身を.痙攣させ
跳ね、屈強な男達の戒めを反射的に逃れようと動く。しかし右腕を覗く三本の残さ
れた四肢は完全に押さえ込まれて居り動かせず、切断された右腕を、断面を見せ
ながら滅茶苦茶に振り回した。

寝台に叩き付けられる度に切断面は歪み皮膚の一層下にある脂肪が揺れ零れる。
背中の翼を片方は伸ばし、片方は竦ませて出鱈目に動かし娘は叫ぶ。

鮮やかな桃色の筋肉の束ねられた内側に上腕の骨の断面が黒々と灯火に照らさ
れて居る。骨の断面の中心、その骨髄から赤黒い寒天質の骨髄がふる/\と揺れ
何度目かに寝台に振り下ろされた腕から泡立ち飛沫に飛んだ血液に落ちる。

大血管は切断され娘の鼓動に合わせて断続的に血液を溢れさせて居る。縛り血行
を止めて居るが時折びゅう、と抛物線*40を描いて噴き出し寝台の横に立つ獣面に
降り掛かった。

右腕を押さえて居た男は既にその血流を浴び発達した胸筋を朱に染めて居る。
滑りを下履きで拭い血液を零して暴れる娘の上腕をしっかと掴み押さえた。断面を
握り締める様に圧迫し血流を控えようとする。

その間に、斧の男は一歩/\静かに厳かとも言い得る程にゆるりと歩き、娘の
上下に動き時折は寝台に自ら叩き付ける頭の側を迂回し左腕に回った。

( ゚∋゚)「――」




―――――――――――――――――――――――――――――――
*40 ほうぶつせん。放物線。

114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:12:24.79 ID:NFQp2Wmk0
何者かが何処かで呟いて居るのが聞こえる。私は全身の震えを堪え周囲の獣の
面を被った者共を見渡す。皆、思い/\の姿勢で寛いでいた。回された酒瓶から
手にしたグラスに酒を注ぎ、傾ける者が居る。早くも衣服を脱ぎ捨て娘の姿を面越
しに捕らえながら快楽に耽る男女が居る。

誰一人、この場に娘の苦痛に思いを致す人間など居なかった。
只、彼女自身と私を除いては。

( `;ω;)「あああ――ああ。
       止めて、止めてくれ、もう、止めてくれ」

涙が流れるを堪えられず私は只呟いている。

この仮面の下の顔が、もしも私の恋した娘の物であったのなら。この地獄の様な
一室に押し込められ四肢を切断され泣き叫ぶ娘が、あの古寺に跪き祈った、あの
可憐な娘であったのなら、私は、如何にすれば良いのか。

鴉頭の男は引き続き、娘の左腕の前に立ち斧を振り上げる。
狙いを定め、息を深く吸い込む。すうう、と吸気の音が私の耳にまで響く。

無言の気合いを籠め、左腕に無慈悲な鉄塊が振り下ろされた。

だが、刃は僅かに左上腕部の中心を捉え損ねる。
斧の刃は弧を描いて湾曲して居りその中心の部分でもって正確に捉える必要が
あった。だが数粍*41程その地点を外し、刃は娘の左腕に食い込む。



―――――――――――――――――――――――――――――――
*40 ほうぶつせん。放物線。

115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:13:38.37 ID:NFQp2Wmk0
(   )「ギイイ、イイイ――イ!」

刃は腕の筋肉と骨とを断ち切りはしたがしかし皮膚までを完全に切り離すには至ら
なかった。芯を外した為、寝台に密着する左腕の下側の皮膚を切断することが出来
なかったのである。皮膚で肩に繋がれたまま腕は飛んだ。

左腕は転がり寝台の端から転げ落ちる、と見えて、皮膚で繋がったままであったので
胴体の側に繋がったままその縁からだらり、とぶら下がった。細長く引かれ伸びた膚
で繋がり、そしてそれは捩れ、落下の勢いでくるくると宙吊りになったまま回った。
切り離された下腕の断面からも血液が溢れ、石畳に滴り落ちて居た。

娘は、両腕を失った。
その腕は、最早決して許に戻ることは無いだろう。

(   )「アウウウ、ウウウアアアアア」

叫びそして啜り泣く声が響く。
フードの男は、まるで子守歌を聞きでもする様にその声に耳を傾け満足げに頷いた。

斧が再度振り下ろされ、伸びた膚は切り離される。ごとりと音を立てて床に転がる。
上腕部からは、帯の様に長く伸びた皮膚がその裏側に黄ばんだ脂肪を纏わり付かせ
昆虫の腸に似て無機的な色彩を血臭と共に晒して居るばかりである。

( `;ω;)「ああ、ああ、ああ――」

次は、両脚であった。

だが、恐らく娘もこれから己の肉体の何処が失われるのかを察したのであろう。
両腕は抑え付けられたままに、細く白い両脚を泳ぐ様に藻掻き抵抗した。

116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:15:37.06 ID:NFQp2Wmk0
脚の力は腕よりも強く、双方の脚をそれぞれ別の男が押さえて居たが、死に物狂い
の抵抗に脚を離して仕舞う。娘は、尚もその身体に残された両脚と翼を動かす。そう
して居る間は、この無惨な刑の執行に猶予を与えられ得るのだと気付いて居る。

( ゚∋゚)「――」

斧を持った男は暫しの間それを見て居た。ただ無言で立って居たが、やおら斧を
振り上げ、そして刃のない背の側を下に、娘の片足の膝目掛けて振り下ろした。

鈍い打擲音が鳴る。

(   )「イ、ギッッ」

膝蓋骨が砕け、脚は膝から逆に折れ曲がり動きを止める。それでも尚娘は折れた
その脚を動かそうとするが、脚が寝台に擦れると激痛が走るのだろう、太股を異常
に引き痙らせたまま動きを止めた。

その様を男は見て居たが、やがて残された片方の膝にも斧の背を落とした。
一度目よりも更に強く存分に加速を与えられた鈍器は娘の残された膝を完全に
砕く。脚は奇妙に捩れ爪先が太股に触れる程に折れ曲がって寝台の上で動きを
止めた。

そうして置いて、遂に鴉頭は左腿、膝との中間点に向け斧の一撃を加える。

だが、焦って居た様であった。
斧の刃は腕よりも数段太い太股の肉に食い込みこそした物の人体の骨の中で最も
長大な大腿骨を切断することが出来ず、そこに留まった。

観衆から暢気な笑い声と野次が飛ばされた。

119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:18:36.57 ID:NFQp2Wmk0
愉しんで居るのだ。
この者達は、娘が為す術無く四肢を切断され達磨と成り果てて行くのを、心底。

斧が小刻みに扱われ、大きく歪んだ切り口に何度も振り下ろされる。始めに肉を
掻き分け、その中で大血管を絡ませ血に斑に塗られた骨に、繰り返し斧を叩き付
ける。ぐじゅ/\と生魚の腹を探るに近い音が鳴り、その度毎に間歇的*42に飛ん
だ血液が周囲の男達と観衆の衣服を、躰を濡らす。

関節で胴に接続する大きな骨に周期的に与えられる振動と激痛は娘には耐え難い
苦痛であったに違い無い。娘は腰をぶる/\と震わせ勢い良く失禁した。また周囲
から哄笑が湧く。

不格好に切り開かれ断裂されて居る筋繊維が束状に娘の脚から飛び出し、それは
彼女自身の血液に洗われ歪んだ花が咲いた様で居る。そこから花弁が悉く引き裂
かれ打ち捨てられた様に見える。

見届け、男は斧の刃を拭い血脂を落とした。

娘は、既に殆ど動いて居ない。
両腕と片脚を失い残る右脚の膝も砕かれた状態では動けないのだ。くぐもった声で
あの囀りに似た切れ切れの嗚咽を漏らして居る。

その、最後に残された四肢に、最後の一撃が加えられた。

( ゚∋゚)「――――!」

男は、今度は仕損じるまいと念じたのであろう。今までの三度よりも高く、鋭く斧を
振り上げ、そのままの姿勢で呼吸を止める。両腕に力を漲らせ裂帛の気合と共に
振り下ろした。刃の落下は速く、鋭い。


120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:20:57.84 ID:NFQp2Wmk0
余りの速度に、今度は切断された右脚は、寝台と斧の刃に挟まれて跳ね、その勢
いに吹飛んで遠くに落ちた。太い枝に似て肌色の、美しい脚はくの字に折れ曲がり
艶の有る鮮紅色の断面を翻らせ石畳に落下する。爪先を先端に落ち、足指は数本
衝撃に折れて曲がる。だが傷が脚の持ち主に痛覚を伝える事は最早叶わない。

今度は、腕の確かな執行人を賞賛する声が飛んだ。

今や寝台には娘が四肢の切断面から流した血液が、黒い静脈血と赤い動脈血が
入り混じり中心に寝かせられた少女を中心に放射状に広がりつつある。その出血
量は徐々に危ういものとなって居る。

だが、まだ残って居るのだ。人ならざる体躯をした娘には、それ故に奪われねばな
らぬ物が未だ残って居るのだ。私は知って居る。私は、娼館のあの、口を聞けぬ、
四肢を持たぬ娘を知って居る。

( `;ω;)「止めてくれっ。
      もう、止めてくれ――」

私は遂にその場に跪き呟く。期する事無く漏れたその言葉は日本語で周囲の人間
は私の顔を見て疑問、或いは不満の声を漏らす。そして、笑う。

娘の躰は一旦差し上げられ寝台に今度は俯せに横たえられる。既に気力は失せて
居り、四肢を押さえずとも欠けた四肢の残った部分を力無く血塗れの寝台に這わせ
るのみである。血溜まりをぴしゃり/\と鳴らし、無力に藻掻く。

その背の翼に、斧持つ男とは別の鴉頭が手を掛けた。


―――――――――――――――――――――――――――――――
*41 ミリ。 *42 かんけつてき。

121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:22:03.86 ID:NFQp2Wmk0
( ゚∋゚)「――」

翼の根本に両手を掛け掴む。上腕の筋肉を膨れ上がらせ、その翼を、血に塗れて
朱色に染まって居る片翼を上方に引いた。

(   )「ア、アア――」

翼と背の皮膚の接合部が伸び白い背中の皮膚は血色が失せ、より一層白く変じ、
更に引かれ背中の皮膚を大きく引き延ばされる。娘は異様な叫声を上げ未だ自由
で居る反対側の翼を狂った様に暴れさせる。

その翼の底部のこれ以上無く引き延ばされた皮膚が、遂に男の力に負け裂けた。

紙の様に細く破れその隙間から体内の僧帽筋、そして翼の中を通る人間には無い
骨格が除く。ぼり、と音が鳴りその骨を体幹に接続する関節が外され透明の湿潤
液に濡れて前腕部の橈骨と尺骨*43に近い形状の二本の骨がずるりと引出された。

女が首も折れよとばかりに背筋を仰け反らせ何事かを叫ぶ。
しかし被せられた皮革の内側に声は籠りその悲哀も何者にも届かぬまま、消える。

残る片方の翼も同様に引き抜かれた。
娘の背中の皮膚は肩胛骨に沿い大きく破れ縦横に筋を為す僧帽筋の繊維から
血液が滲み、体外とそして翼の底部の関節の残骸が残る抉れた窪みに溜まる。

( `;ω;)「何故だ。何故、お前達は――」



―――――――――――――――――――――――――――――――
*43 とうこつ、しゃっこつ。

122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:23:59.37 ID:NFQp2Wmk0
私の声を聞く者は誰一人して居ない。ただ、流血に熱狂するばかりである。
この娘がもしもあの娘であったなら、正気では居られまい。
私はこれ程迄に苦痛を覚えて居ると言うのに、この男達は。

一方で、医学者としての私の目はこれから行われるであろう処置を冷静に見詰め
て居る。切断術は創傷の処置が困難な現代では重要な処置である。鋭利な刃物
で切断された四肢はこの状態では縫合を行うことが出来ない。切断面に残る骨を
取り除かねば皮膚で切断面を包み込み傷を密閉し縫合する事は不可能であった。

( ゚д゚ )「――」

フードの男が進み出、寝台の下に置かれていた木製の箱から幾つかの手術器具
を取り出し娘の脇に屈む。流血を続ける切断面を掴み、その血に染まる肉と骨の
隙間に指を差し入れた。

娘の全身ががく/\と痙攣するのにも頓着せずに手指と鉄のへらを用い、骨から
其処に絡み纏わり付く筋肉を剥離させる。次いで、両手を添え断面の筋肉と皮膚
をぐるり、と反転させた。

切断部の先端は鮮やかな桃色を示す筋肉が丸く盛り上がり断裂した筋繊維をその
周囲に広げ血液を滴らせる。皮膚と筋肉が反転し寸足らずになった分、娘の膚と
同じく白い骨がその中心部から突き出て居た。それは食肉にも近く見えた。

そこに、突き出した骨に取り出した鋸を添え、引いた。

(   )「――――!」

驚くべき事に、娘は瞬時に覚醒し切断された四肢で寝台から飛び上がる。断面を
寝台に擦り呻き声を上げながらもその姿勢で這い寝台を降りようとする。周囲の
男達は再び娘の躰を寝台に押し付けねばならなかった。

123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:26:40.62 ID:NFQp2Wmk0
(   )「――――!」

娘が千切れんばかりに首を、四肢を振る。その様を見、余興に愉しもうと屈んで
居た幾人かの男達が血液を浴びて後逸した。その内の最も娘の傍に居た一人は、
離れ際に断面の鋭く尖った大腿骨の断面でその手の甲を傷つけられ怒りの声を
上げた。大柄な、太い腹の男であった。

娘は尚も顔面を、顎を寝台に叩き付け暴れる。
幾度目かに顔を寝台に擦り付け藻掻いた際に、その顔を覆う皮革が緩み血液で
滑り、その顔から外れて飛んだ。首筋の焼印までもが、灯火の下に明らかとなった。

その顔は――



ξ;⊿;)ξ「ウウッ、ウウアアア――!」



その幾分気丈な涙と唾液に塗れたその顔は、私が恋したあの娘の物では、無い。
安堵と、そして安堵を覚えた事に依る強い罪悪感とを同時に覚え私はその場に
座り込んだ。

( `;ω;)「ああ、あああっ――」

125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:27:45.12 ID:NFQp2Wmk0
私には、それ以上見て居る事は出来なかった。

処置を終えた娘の眼前には己の切断された手足が、翼が折り重なって積まれて
居た。娘は、己の四肢を目前に晒され、そうしたままで傷の縫合も終わらぬ内に
男達に前後から犯されて居た。

ξ;⊿;)ξ「ア、ア――ァ」

目前に積まれた肉体を恨めしげに見、真新しい両手足と背中の縫合から縫合糸
を飛び出させ、そして続け様に犯され、精液を飛ばされ、娘はただ呻いて居た。
其処に私が初めて彼女を見た時の気丈さは既に欠片も残って居なかった。

私は何も考えられず、何一つ言えぬまま地下を後にした。

この祭が終われば、彼女も又あの娼館に引き取られて行くのであろうか。
確かに、あの娘は私の恋した娘では無かった。

しかし、今日がそうで無かったと云うのみの事ではなかろうか。いずれ時が来れば
あの古寺の娘、哀れな舞姫の片割れも同様に手足を奪われ羽根を千切られて
あの唾棄すべき狂宴に供されるのでは無いのか。

全てが億劫であった。

帰りの道すがら、私は幾度も通りの土瀝青に身を横たえ眠って仕舞いたい衝動と
戦った。この冬の寒さでは、生きて朝は迎えられまい。只、緩慢な死をすら歓迎し
て居る己が居るのみであった。


126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:29:36.64 ID:NFQp2Wmk0
                                       ┌───┐
                                       │  九. │
                                       └───┘

一睡する事も出来ず只酒を呷っている内に太陽は白々と輝いて居た。

身支度も禄に行わず伯林大学に辿り着いた私を待って居たのは、あの学長である。
学長は只自室に私を誘い、私は彼に従った。

其処で私が受けたのは、罷免の報であった。
伯林大学留学の任を解く。只、それのみであった。

(`-ω-´)「――」

己の将来を左右するかも知れぬその報に対しても、私は既に全くの無感動であった。
ただ胸の裡は伽藍堂とい成り果てて居り、学長の言葉も空しく頭に響いて居た。

( ФωФ)「君が良からぬ者と交友を持って居り、それがこの伯林で学業に専念出来
        ぬ理由と成って居る、という話は聞いて居た。私は、それが噂話、君の同
        郷の者達の只嫉妬の心に依る物で有ると思って居た」

(`-ω-´)「――はい」

( ФωФ)「だが、それは全くの虚構では無かった、と云う事かね。
        私は――残念で成らない。
        借院君。君を、これ以上当校に置いては置けぬ。故国に帰り給え」

私の本名を呼び、学長は私を見る。
その威厳に満ちた相貌、優しげで重い声。私は只、頷くのみである。
確かにその様な噂はあった。それが只、私自身の行いにより真実と成って仕舞った。

127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:30:54.37 ID:NFQp2Wmk0
( ФωФ)「何か、言い置く事のあるかね。
        君の学友に、同輩達に」

(`-ω-´)「御座居ません。何も――何も。
       御世話に成りました、学長。御詫びの仕様も有りません」

答え、詫び、只学長の髭に覆われた顔を見る。机に着いた学長のその顔を、上品な
仕立ての着衣、机の上で組み合わされたその手指を、只無言で見遣る。

( ФωФ)「――無論、君の功績に配慮はする。
        故郷に戻ろうとも、その名誉の傷付かぬ様取り計らおう。良いね」

だが、何も言えぬ。何の言葉も、情動も、今の私には無い。最早全ては終わって仕舞
って居るのだ。私の心にはこの異邦人達への尊敬の畏怖の念も無い。この西洋の技
術、知識、歴史、その様な物にも最早心を動かされ得ない。



――否。



未だ、残って居る。
学長の姿を見、その途端に私には未だ為し得る事の只一つ残って居るを想起する。

128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:32:01.45 ID:NFQp2Wmk0
それは、只意地のみであった。私を翻弄し、惑わし、そうしてこの場所に私を立たせ
る結果と成った全ての事共へのただ一つの反逆であった。それは為さねばならぬ。

無言で学長室を辞し、友人達に別れを告げる為常の根城として居る一室に向かう。
白々とした空を窓の先に見遣りながら、学長の顔を、姿を、声を、衣服を回想する。

あの重厚な私室の机の上で、手持ち無沙汰に組み合わされて居た彼の両手。

その片手の甲には、真新しい、大きな切傷が残って居た。


129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:39:17.99 ID:NFQp2Wmk0
私は再び、このニイマンデン通りの闇に沈む袋小路を訪れて居た。
時間は早く、未だ宵闇から周囲は遠ざけられて居る。奇怪な彫刻、或いは邪なものを
崇める神殿でも有るかの様な忌まわしさも今は感じられず只夕日の中に影を長く伸ば
して居る。

あの劇場の入口の戸も、現在は夕日に浮いて居る。
入口にはあの男が屈み、酒瓶を煽って居た。
  _
(メ ゚∀゚)「なんだあ、お前えよ、良く見るなあ。
     今日は、出し物はねえぜ。ぼんぼんの坊ちゃん。け、帰んな」

首を振り懐に手を差し入れる。

(`・ω・´)「今日は、経営者に話を聞きたくて来たのだ。
      あの主人と、娘は、ここに居るのかな」
  _
(メ ゚∀゚)「居るにゃあ居るが、だ、駄目だな。出し物のねえ日は、は、入れねえよ」

拒む男に懐から差し出したものを握らせる。
それは、紙幣の束である。並の市民の一ヶ月分の給金ほどの額を用意して居た。

(`・ω・´)「そこらの酒場に行って来ると良い。
       夜になる前に戻れば、何も問題は無いだろう」

男は動きを止め私とその手の中の紙幣を幾度か見比べ、やがて、へへ、と下卑た
笑みを浮かべ、戸の鍵を開いた。素知らぬ顔をして紙幣を懐に捩子込み歩き出す。

130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:40:44.17 ID:NFQp2Wmk0
  _
(メ ゚∀゚)「お、俺あ。知らねえよ。
     ま、まあ――す、好きに、しな」

彼を見送り、戸に手を掛けた。きい、と軽く軋み開いた階下へ続く階段には灯りは
無く外からの夕日の届かぬ先はただ、黒く、正に奈落に向かう闇と成って居る。

( `-ω-)「――」

辿り着いた石畳の劇場も今は只暗く何者の気配も呼吸も無い。中央に歩み石畳を
見下ろすと、そこに黒々とした血痕の複数の靴の後を残したまま凝固して居るのを
見る。強い血臭いに顔を歪め私は部屋の前へ、演壇の上へ向かう。

あのフードの男は、此処から姿を現していた。

壁の影と成った隅の空間をまさぐると、金属の把手の冷えた感触が感ぜられた。
私はそれを回し、引いた。


131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:42:22.29 ID:NFQp2Wmk0
その先も又、石畳の続く空間であった。
此処には蝋燭の灯って居り、廊下の左右に並ぶ鉄格子の戸と燭台、正面の角の
先に向かう道程までが明々と照らし出されて居る。私は左右の室内を見遣り進む。
三つ目の鉄格子の先に、それは蹲って居た。

ζ(゚、゚*ζ「ウ――」

あの、娘であった。

私がクロステル街で出会い、そして此処を訪れるに至った全ての原因である、翼
持つ少女。私の心を慰めそして掻き乱し、私から全ての展望と将来を奪い去った
少女。私は思わず己の顔に触れる。獣皮の面を着けずにこの娘に会うのは初め
てであった。

(`・ω・´)「君は――僕の事を、覚えて居るだろうか」

娘は暫し逡巡し、頷いた。
その返答に、只その答えのみで胸の中に柔らかく重く又温かい何者かの感情が
染み渡り、この胸の裡に未だ萎縮し残って居る自我を揺り動かし始めて居た。

( `-ω-)「君は、知らぬだろうね。
      僕が、此処までに、何を考えていたか。だが」

重く冷たい鉄格子を握り締め、顔を押し付けた。

( `-ω-)「僕は、もう――否、もう、良いんだ。
       君を、此処から出してあげる。自由にしてあげる」

それだけを告げ鉄格子の前を離れる。
奥に続く廊下の先を見通して、其方に歩き出した。

132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:45:21.59 ID:NFQp2Wmk0
廊下の奥には、もう一つ広間が有った。
其処は劇場とは全く異なった空間であった。

(`・ω・´)「――ここは」

室内の左右には所狭しと書棚が並べられて居る。その合間を縫い据えられた台には、
種々の工具、手術器具、そして私にすら用途の知れぬ何かの道具が溢れ出んばかり
に並べられて居た。僅かに鉄の混じる饐えた*44臭いが広がって居た。

書棚の上で、洋燈の火が揺れて居る。それを見ながら、私はゆっくりと歩を進める。
正面の壁際に置かれた大きな文机に、此方に背を向け座る姿が見えて居た。
数歩近付くと、ぱたり、と音を立て手にした書を畳み、立ち上がり振り返り見た。

( ゚д゚ )「これは、これは。
     本日は、演目は有りませんが――御用でしょうか?」

丸く、ぎょろりとした目である。その言葉は丁寧でこそあるものの裏には嘲りと質の
悪い興味の色が隠れて居り不快感を堪え只その目を見返す。

(`・ω・´)「用は、ある。
      ――あの娘、あの天使の成りをした娘を、貰い受けたい」

黙り、男は私の目を見据える。
やがて其処に望む答えを得たのであろう、薄い唇に酷薄な笑みを浮かべる。

( ゚д゚ )「成る程――成る程。
     宜しい。少し、話を致しましょうか」

133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:46:38.40 ID:NFQp2Wmk0
部屋の別の隅、私が此処に入ってきたのとは違う戸を指差し、歩み出した。
私は身構える。その私を振り返り笑った。

( ゚д゚ )「は、は。ご安心を。何も致しません。
     その積もりであれば、話を伺いなど致しませんよ」

促し、再び歩き始める。私は暫くその長衣の揺れる肩と背中を見詰め、彼が私に彼
の両手が届かぬ位置まで動くを見届けた後にその後を追った。

( ゚д゚ )「私は、学究の徒――と云う奴でしてね。
     あの通り、日がな学問と研究を行って居ります」

戸の先は、あの娘の居た鉄格子の廊下に似た道であった。細く、曲がり角は多い。
先は下水に繋がって居りましてね、昔は此処でその管理を行って居たのでしょう、
そう男は云う。

( ゚д゚ )「あの余興は、その傍らに行って居るのです。対価こそ求めて居りませんが、
     その代りに様々な便宜を図って貰うのが目的でしてね」

余興。それを私は激しい嘔吐感と共に回想する。あの獣臭立ち籠める石造りの間、
そこで行われる退廃的な遊戯を。そして、その犠牲と成って居る二人の娘達を。

( `-ω-)「――学究の徒、か。
      あの様な行いを愉しむ輩と一緒くたにされたくは、無い物だ」

く、く、と喉を鳴らし、笑う。

134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:47:19.74 ID:NFQp2Wmk0
( ゚д゚ )「果たして、そうで有りましょうか? ねえ、借院殿」

(;`・ω・)「――何故、私の名を」

また細い曲がり角を折れる。

( ゚д゚ )「貴方も、気付いて居るのでしょう? あの余興を愉しむ者達が、どの様な
     者であるのかを。何故、顔を隠さねばならぬのか、その真の理由を」

確かに、薄々は感づいては居た。あの劇場に姿を現した者達は、高級な衣服に
身を包んで居た。発音も、確かな教育を受けた人間の者であった。その様な者が
己の顔を隠し、秘密の余興に耽る――例えば、伯林大学の学長が。

(`・ω・´)「並ならぬ身分の、止ん事無き人々、か」

( ゚д゚ )「そう、仰る通りです。私は彼らに秘密の享楽を提供し、彼らは、彼らの力
     を持って私を援助するのです。例えばこの場所、秘密、資金、器具――」

屈託無く笑う。

( ゚д゚ )「――あの場所の事を、官憲等に話さずに居たのは、正しい判断でしたな。
     話して居れば、貴方の命は無かったかも知れません。正に、幸運だった。
     ああ、学長をお恨みに成らない方が良い。彼は、小心者なのです」

今や、私は明晰に回想することが出来る。あの学長の手に残る傷痕を。
あれは、昨夜のあの出来事で、娘の四肢を断ち切り、男共の愉しみに供する中で
付けられた傷に矢張り相違は無かった。

―――――――――――――――――――――――――――――――
*44 す-えた。

135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:49:28.57 ID:NFQp2Wmk0
一つの戸の前で男は立ち止まる。

その戸の隙間から漂う臭いに私は眉を顰め、眼前を手掌で払った。
まるで数ヶ月も風呂に入って居ない乞食を、牛馬と共に一室に押し込むのに似た
臭いであった。

( ゚д゚ )「ご興味がお有りでしょう。あの娘達が、天使が、如何にして産まれたか。
     医学を学ぶ貴方には、特に。それを、お見せしましょう」

戸を開く。悪臭は耐えがたい程に広がり私は鼻を通り越して頭の芯に鈍い痛みを
覚え、それでも堪え室内を見遣る。悪臭が感覚器を刺戟し、知らずの内に目に涙
が溜まった。男は、平然として居る。

( ゚д゚ )「お願いしたい事にも関係があります。同業の貴方には、是非看て貰いたく
     もあります。さあ、中へ」

果たして、室内はすっきりとした物であった。
部屋の奥に寝台と、その隣に大きな金属の檻が置かれて居る。寝台に掛かる蒲団
は大きく膨らんで居り、檻の脇には何者かが蹲って居るのが見て取れる。

入口に立った男に促され、私は部屋の暗がりを檻に向かい進んだ。
そしてその前に居る人影を見た。

(;`・ω・)「――!」

( ゚д゚ )「これが、それです。
     これが、天使の源です」


136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:51:08.84 ID:NFQp2Wmk0
私は俄に強まった吐き気を必死で堪え懐からハンケチを取り出し口を覆う。目に
溜まる涙が頬を伝い落ちる。眼を見開き、其処に居る者を、彼を、或いはそれを、
否、人間の言葉で形容する事など叶わぬその生物を、見る。

彡;;::゚ フ「――」

それは――体高八十糎程の、駝鳥に似た鳥類の一種に、初めは見えた。

だが、それは違った。その様な言葉で現し得る生物では、それは無かった。
それの――その全身は、真白い羽根に覆われて居た。寸胴で足が太い、頭が
大きい鳥の様であった。少なくとも、外見の輪郭はそうであった。

彡;;::゚ フ「――げ、げうっ」

その目が、黒目が、ぎょろりと蠢き私を見る。その鳥の目には、通常の鳥類には無
い白目があった。白目の中心に据わった赤い瞳が鳥類の頭に据えられて居りぎょろ
/\と動き周囲を見る様は、異様であった。
そして、瞼まで有して居る。人間に似た構造の目を時折瞬かせて居た。

そしてその嘴は、肉の色をして居た。肉色で、厚く、そして歪み、顔の中心から外れた
場所に生えていた。その内側には鋸の、或いは鮫の歯に似て小さく鋭く尖った歯が
幾重にも重なり肉厚で柔らかな嘴の裏にばら/\な方向にびっしりと生えて居た。
その端から妙に鮮やかな橙色の舌を十糎程も垂らし、悪臭の立つ唾液を垂れ流した。

耳が、人間の物と同じ形をし白い柔毛を生やした耳まで生やして居る。
ぴくり/\と蠢かせ、私の立つ方を探って居る。

(;` ω )「あ、ああ」

137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:52:42.29 ID:NFQp2Wmk0
この生物は、何なのだ。人間と鳥を考えつくばかりの悪意を持って捏ね合わせた、こ
の世の理に外れた生物は、一体何なのだ――。

( ゚д゚ )「は、は。貴方が欲する娘の父です。
     挨拶でも、しては如何ですか?」

耳の奥にあの厭らしい男の皮肉気な声が響く。だが私はそれに答える余裕すら持ち
合わせては居なかった。ただ恐怖し、目の前のそれを注視していた。

彡;;::゚ フ「げ、ぎいっ」

羽根は小さく、空を飛ぶ用は為すまい。だが羽根の付け根、胴との合わせ目の箇所
から飛び出て居るものは、何なのか。それは、人間の指では無いのか。人間の、白い
毛に覆われた、太い四本の指では無いのか。

そしてその脚――脚の構造は、矢張り異常であった。

鳥の脚関節は人間とは逆に、前方に向かって曲がる様に作られて居る。だがこの鳥
の、この化け物の脚は人間と同じに躰の前面に膝を備えて居るのだ。そして脚は、
鱗には包まれて居らず、ただ醜く弛んだ肌色の皮膚に覆われ、皺の寄るその膝と
足首から太く長い毛の束を生やして居るのであった。

そしてその、股間。
その醜怪な両脚の間にある物を見て、私の忍耐は遂に限界に達した。

(;` ω )「う、ぐっ」

私は口許を抑え部屋の隅に屈み、胃の内容物を嘔吐する。朝から何も食べて居らず
ただ酸い黄土色の胃液がびた/\と石壁を叩き床に流れる。私は眼に涙を溜めて
えずき三度にも分けて胃液を吐く。

138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:53:46.53 ID:NFQp2Wmk0
その股間にあったのは、人間の男性と同じ生殖器であった。
包皮と睾丸が細く白い毛に覆われた男性器は長く躰から垂れ下がって居る様に見え
た。だがそれは間違いで、異常な角度で生えた陰茎は殆ど真下を向いて勃起して居る
のであった。

勃起した陰茎の先端からはとろ/\と黄味懸かった半透明の液体を垂れ流して居た。
包皮の先端から露出した部分は白い全身の中で異様に鮮やかな赤色をして居り、更
に犬のそれの様に根本に近い部分は肉の塊に似た瘤状をして居た。だがその先端
は人間の物同様に先端に近い部分で楔状に膨らみ、脈打って居た。

彡;;::; フ「ぎぎ、ぎぎっ」

その両脚を震わせて怪鳥が鳴く。人間同様にぶる/\と痙攣し、生殖器の先端から
白濁した液体をどっと吐き出した。人間の数十回分の射精に及ぶであろう量を流し、
再び陰茎を醜く膨れ上がらせる。首を巡らせ、寝台の蒲団を見た。

私は立ち上がる。繰り返し胃を襲う嘔吐感を懸命に抑え、その頭まですっぽりと覆い
隠す厚い蒲団を取り除けた。

从 ;∀从「う、うううっ」

現れたのは、一人の中年の女である。
女は、妊娠して居た。

妊娠した女は、寝台の金属の脇に両手と両脚を開いた姿勢で拘束されて居る。
手首には無数の擦れた後と瘡蓋がこびり着き、更に垢で汚れ傷を塞いで居た。

その股間は剃毛され、秘所の粘膜を晒け出して居た。臨月に近いと見えるその部分
は開き掛け、透明で酸い臭いの羊水を少しずつ零して居る。


139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:56:21.05 ID:NFQp2Wmk0
更に、より一層異常であったのは、その女性器に無数に残された手術痕であった。

(;` ω )「――」

女性器の合せ目の上部には一直線に切れ込みを入れた痕が太い糸で縫合され残っ
て居る。それは恐らく帝王切開の痕と見える。それのみであれば、異常ではない。
だがこの女の性器には――その帝王切開の手術痕が無数に残されて居るのだ。

治癒する前に再度前回の手術痕の近くを切り開かれ、縫われ、そしてその傷も完全
に塞がる前に再度別の箇所を切られて居る。結果、女の陰部は跡形無く裂け、無惨
に歪んで居た。陰唇も、上部の陰核も繰り返し行った切開の為に損失して居る。

通常の妊娠であれば、切開の傷が癒える前に幾度も同様の術式を施すなど不可能
である。凡そ出産が可能な状態に躰が戻る為に約四ヶ月を要するのであるからだ。

从 ;∀从「あうう、ううう」

萎えた手足では抵抗は叶わず、臨月とあっては自力で起き上がる事も困難である。
女は震え、無き、只私の後ろに立つ男と鳥の怪物を交互に見、戦慄いて*45居た。

( ゚д゚ )「とっくりと、ご覧頂けましたか。
     これが、あの娘の父、母です」

( `;ω;)「な、何故だっ。何故、こんな物を私に見せるのだっ。
      お前は――何が、学究の徒か。お前は、狂人だ。気狂いだっ」



―――――――――――――――――――――――――――――――
*45 おのの-いて。

140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:57:59.91 ID:NFQp2Wmk0
( ゚д゚ )「何を仰るやら。娘を娶るのなら、親には挨拶をする物でしょうに。ふ、ふ。
     もっとも、この親も、あの娘も言語野の発達は悪い様で、会話には成りませ
     んが。其処は、鳥類の性ですかな」

私の表情を冷静に観察して居る様である。眼前の光景が私に与えた衝撃を計って
居るようにも見えた。

寝台の脇に、焼鏝が立て掛けられて居るのを私は見る。文様は円の中に眼球状の
奇怪な意匠を凝らした物で、それはあの娘達の首に恐らくは所有物の証として此処
で施される物なのであろうと推測する。

( ゚д゚ )「有り体に言いましょう。私には、もっと友人が欲しいのです。
     異国――日本の、友人が」

(;`・ω・)「――友人」

( ゚д゚ )「そう。私はご覧の通り、友人に恵まれ援助を受け、この大業を為して居り
     ます。ですが、もっと欲しいのです。欲しいのですよ。新たな友人が、その
     庇護が、私が更なる大業を為す為の糧が」

語る男の瞳は完全に陶酔して居る。

( ゚д゚ )「貴方があの娼館を訪れたのは、決して偶然では有りません。
     私の友人、又友人――その計らいで、貴方がた若い留学生の耳に、それと
     なく話の入る様手筈を整えて居りました」



―――――――――――――――――――――――――――――――
*46 らんらん。

141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 01:59:27.07 ID:NFQp2Wmk0
丸い目は熱病にも似た温度に浮かされて居る様に見え、その陶然と揺れる瞳を邪に、
しかし純粋に爛々*46と輝かせ言い募る。

( ゚д゚ )「あの娘に興味を持ち、そして知るを求め、この劇場の余興に身を浸す者。
     若く、博識で、将来国家を支える者と大成する人物。貴方の様な方をこそ、
     私達は待って居たのです」

私達。そう男は云い、私の肩に手を置く。
その時、異様な声を上げ鳴く鳥が躰を又揺らし、不格好に大きな胴体を巡らせ妊婦
を見る。その胴体の後部が灯火の元私の眼前に照らし出され私はそれを見る。

怪鳥の背の羽根は白く尾羽は長々と床に垂れ下がって居た。そして、その羽根には
背の中心から尾の先端に掛け、徐々に大きくなる黒く丸い模様が連なり、人の目に似
て一斉に私を睨め付けて居たのであった。

(;`・ω・)「――」

男は唇が触れ合う程に私に顔を寄せ息を吐き掛け、そしてその狂熱に侵された目で
私の目を見込む。淡い青の瞳は磨かれた水晶の球にすら似て其処に私の顔面を
丸々と映して居る様でさえあった。

( ゚д゚ )「さあ、御答えを御聞かせ下さい。
     私の友人に御成りなさい。頷かれるのなら、あの娘は差し上げましょう。
     後は如何様にも為されば良い。否と、云われるのなら――」

(;`-ω-)「――」

私の頭の中を、目まぐるしく風景が回って居る。

142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 02:00:55.53 ID:NFQp2Wmk0
初めて独逸の地を踏んだ、あの感動。他の地で過ごした四年余りの後、この伯林の
地を踏んだ事。同郷人との軋轢、あの娘との出会い、そしてその後の、性臭立ち籠め
る悪夢の如き宴の。

眼前の男は私の肩を捉え只私を見詰める。その貌は、かのメフィストフェレスに似て
残虐、悪魔的、そして病的であり又無垢で居る。

(;`-ω-)「――これだけの事を、続けて。
       お前は、一体、何事を為す積もりなのだ」

只その問いのみが私の口を衝いた。
男は、にやあ、と口の両端を釣り上げ嗤う。

( ゚д゚ )「私は、楽園を築きたいのです。
     この、神も信仰も残らぬこの腐れた現世に、何者も心安らぐ事の叶う、凡そ
     あらゆる享楽に満ちた、楽園を」

背を向けて居た戸の軋む音が聞こえ私は男の手を払い振り返る。
其処には、この部屋の入口にはあの、娼館の女主人が、矢張り楚々とした佇まいで
口許を羽根扇に隠し、冷え/\とした眼で微笑んで居た。

鳥が頭を擡げ*47、ぎいいい、と啼いた。




―――――――――――――――――――――――――――――――
*47 もた-げ。

144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 02:02:31.30 ID:NFQp2Wmk0



――――ざり。



――――したり、



――――したり。
 
 
 

145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 02:04:49.28 ID:NFQp2Wmk0
                                       ┌───┐
                                       │  終. │
                                       └───┘

又溜息を付き、只手帖を前に黙して座って居る。

消灯の時間には未だ猶予もあり電軌線の鍵を捻り来る船員の訪れにも猶予は
有る。私は只一つ溜息を付き船室のドアを押し開き甲板に出る。

西貢の夜は欧羅巴のそれよりも遙かに黒く重く、茫と浮かび上がる桟橋の先に
鬱蒼と茂る木々の合間には灯火も疎らである。周囲は、只船室からの灯りのみ
によって余りにも心許なく照らされて居る。

( `-ω-)「――」

その船縁に私が思い立ちその顔を想起した者が正に立って居た。

身に余る貫頭衣の丈も甲板の木床に擦れる様で、襟に首を埋め、そうして背から
の灯火に金糸に似た髪を幾筋か潮風に揺らして居た。

(`・ω・´)「こんな処に、未だ居たのか。
      風邪を引いてしまう。そろそろ、戻りなさい。おいで」

振り返り私を見返したのは、あの娘であった。

ζ(゚ー゚*ζ「――アア」

ゆるりと首を振り小鳥の囀りに似た声を上げ、宵闇に似つかわしからぬ晴れや
かな笑みを浮かべると私の手を取り頬に押し付ける。そうして又、小さな声を上
げた。

146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 02:07:19.68 ID:NFQp2Wmk0



――――私は、選んだ。
      この娘を。あの悪魔に似た男の問いに頷き、この娘を。



道を外して居るのだとはとうに気付いて居る。

私は私が、これからあの男に何事を手助けする事に成るのかすら知らぬ。
その過程でどれ程の人間を欺き裏切り、或いは傷付ける事に成るのかも、知り
はしないのだ。

だがそれでも、それでも、悪魔に魂を売り渡すが如き契約をあの男達と交わさ
ねば成らなかったとしても、私は、欲しかったのだ。

ζ(^ー^*ζ「――」

私には最早、何一つ残されて居ない。

科学への崇拝と西欧の文化、其処に住まう人々への敬意は、あの饗宴が全く
粉砕して仕舞った。他人への信頼は、あの学長が微塵と帰して仕舞った。幼き
日の、私がこの道を進む切欠となった出来事は娼館の娘と、そして眼前で笑い
囀るこの娘に、骨まで溶かし尽くされ押し流されて仕舞った。

149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 02:09:58.81 ID:NFQp2Wmk0
私は裸の、無垢な少年も同然であった。
全てを失い、只震えて居た。

ああ。

ああ――。

私は、既に拠りて立つ物は何一つ持たぬ。

その私が只一つ、残された母の胸にも似て安らげるこの場所、この年端も行か
ぬ異形の娘の腕の中を只、終に己が為にと切望したとて、何の不思議があろうか?

ζ(^ー^*ζ「――」

( `-ω-)「――」

翼持つ舞姫に抱かれ私は只其処に云い様の無い安寧を覚えて居る。
宵闇に隠れ娘の胸を抱き、そして抱き返す娘の手を頬に、密かに涙を流す。

150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 02:11:23.47 ID:NFQp2Wmk0



――――今は只、此処で浸されて居たいのだ。

      囀る舞姫の、胸底奥深くを蕩かす甘い香に満ちた薄い乳房に。

      この先に何が待とうとも、報いが剣と化して我が身に降りようとも。

      只、今この時、この時だけは。
 
 
 

151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 02:12:49.07 ID:NFQp2Wmk0









――――ち、ちち――ち、ち。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


152 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/20(火) 02:13:52.24 ID:NFQp2Wmk0
 
 
 
                    ζ(   *ζ

                      囀
                      る
                      舞
                      姫
                      の
                      よ
                      う
                      で
                      す



                      終
 
 
 

155 名前: ◆Fx1lUWu0Y.El :2010/07/20(火) 02:15:43.14 ID:NFQp2Wmk0
いやあ、長かった。
猟奇祭だったのに気付けば終わってるっていうね。

大分切りつめて元々の長さの2/3ぐらいにしたけど、これぐらいで良かったのかも。
ここまで読んでくれた人の忍耐力に感謝します。ではでは。

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