mesimarja
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('A`)ドクオ語りのようです
2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 17:55:25.45 ID:LaDKxLMy0
普通なんてつまらないと思っていた。

ありきたりな言葉だが、俺のその時の心境を一言で言うなら、それが最も相応しいだろう。

毎日が繰り返しの日常に飽き飽きしていた。

何の楽しみも見出せず、何が楽しいのか分からず、怠惰に生きていた。

日常をどれだけ頑張って生きていたって、手が届くのはまた別の日常で、

結局変わるものなんて何一つないと、そう思っていた。

文体が過去形なのは、そう思っていた俺の心境と、今こうやって語っている俺の心境に、

大なり小なり、何らかの変化があったからに他ならない。


4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 17:59:02.91 ID:LaDKxLMy0
さて、長ったらしい前置きになってしまった。

これから語るのが本編だ。

その内容は、俺の心境がいかに変化したのかというその一部始終なのだけれど、

まぁ俺が話したくて話したくて仕方が無いから勝手に話すだけだ。

読む読まない、面白いつまらないはそっちで勝手に判断してほしい。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 18:03:21.46 ID:LaDKxLMy0
「ドクオ」

不意に名前を呼ばれて、俺は机に突っ伏していた頭を上げて声のした方向を向いた。

( ^ω^)「授業終わったお」

声の主であり、俺の友達であるブーンが俺を目を合わせてそう言った。

その言葉で俺は、授業中に退屈の余り睡眠をすることにしたという記憶を取り戻した。

('A`)「・・・あー」

大きく背伸びとあくびをして、うっかり涙目になりながら、俺はよく言えば心優しきデブ、悪く言えばデブであるブーンに返答する。

('A`)「終わったか・・・なんか提出物とかあった?」

( ^ω^)「ないお。っていうかあっても出さないじゃんドクオ」

('A`)「まぁね」

机の脇に掛かっている鞄を手にとって席を立つ。

今日の授業はもうない。とすればさっさと帰るに限る。


7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 18:08:51.85 ID:LaDKxLMy0
('A`)「お前は今日も部活だろ?」

分かりきったことを聞くと、ブーンはそうだお、と頷いた。

( ^ω^)「インターハイ目指すからには、本気でやるお」

インターハイ。素晴らしい響きだ。

運動部所属高校生にとってはそれに出場する奴らは階級のトップだ。

そうじゃない俺にとってはもう雲の上の存在だ。

凄い努力と才能で青春を駆け抜けていく。

うらやましいと思う。

同時にその立ち位置に俺が並ぶことが無いことも知っている。

やらないんじゃない。無理だからだ。

俺の人生のどの部分でそれが決まってしまったかは覚えていないけれど、とにかく今の俺にはもう無理だ。

ちなみにブーンは、なにやら先日まで自分がインターハイに立ち打ちできるのかというアホみたいな悩みに

苦しんでいたが、どうやら結局インターハイを目指すことに決めたらしい。面倒臭い奴だ。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 18:11:13.48 ID:LaDKxLMy0
('A`)「ご苦労なこったな」

( ^ω^)「まぁドクオみたいなヒョロ男とは身体の構造が違うんで」

('A`)「そうだな、パッと見て体脂肪率に確固たる差があることは認めざるを得ないな」

(#^ω^)「筋肉だっつってんだろうが。関節キメられてーのか」

('A`)「キャーコワーイ」

アホな会話。

('A`)「まぁ頑張ってくれよ」

本心なのか、上辺だけなのか、自分でも良く分からない言葉で別れを告げて、俺は教室を出た。

俺の自宅は学校から徒歩15分。

俺は自転車には乗れない。

補助輪がついているなら別だが、そんなモンつけた自転車に乗るくらいなら徒歩の方が数千倍マシだ。

なので、俺はその道程を徒歩15分という通りの時間をかけて歩く。

けれど、その日は予定を4分オーバーして徒歩19分になった。


10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 18:14:24.30 ID:LaDKxLMy0
もうすぐ家が見えてくるという帰路の終盤。

近所の公園の脇の道を歩いていると。

「あの」

背後から声をかけられた。

ミセ;゚ー゚)リ「すいません…」

振り向くと、そこには女の子がこちらを申し訳なさそうに伺いながら立っていた。

かなり可愛い娘だった。

(;'A`)「・・・」

俺は一瞬気を取られて、しかし呆けていてはカッコ悪いので平然を取り繕って、

('A`)「何?」

と出来うる限り最大出力のカッコいい声を出して言った。

ミセ;゚ー゚)リ「き、今日は何月何日でしたっけ?」

(;'A`)「・・・はい?」

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 18:17:49.51 ID:LaDKxLMy0
ミセ;゚ー゚)リ「あれ、通じてないのかな・・・?」

いきなりヌケた質問をしてきたその女の子は、怪訝な顔で聞き返した俺に不安そうになって、

首につけていたチョーカーをいじりながら何かぶつぶつと呟く。

ミセ;゚ー゚)リ「これも壊れちゃったのかなぁ?どうしよう・・・」

いきなり声が尻すぼみになって、彼女の声が震えだした。

(;'A`)「いや、聞こえてるよ・・・?
    今日は・・・」

俺はあわてて取り繕い、今日の日にちを伝える。

なんだか俺が悪いことでもしたみたいな気分になる。

そして俺の言葉を聴いた女の子は今度は笑顔になった。

ミセ*゚ー゚)リ「ホント?よかったぁ・・・」

その時のほっとしたように胸を撫で下ろす女の子の可愛さといったらもう。

子猫の寝顔なんて目じゃなかった。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 18:22:46.21 ID:LaDKxLMy0
そう意識すると、俺の心はにわかにざわつきだした。
このチャンスを逃してはいけない。俺はそう思った。

(;'A`)「あ、あのさ」

ミセ*゚ー゚)リ「はい?」

(;'A`)「何か困ってることでもあるの?」

学校で女子と喋った記憶のない俺は、テストよりも全力で頭を回転させて話しかける。

ミセ;゚ー゚)リ「え、いや・・・」

尋ねられて焦りだす彼女に、俺はあくまでも優しい一学生を装う。

(;'A`)「道に迷ってるとかだったら、ここらへん知ってるし案内できるけど・・・」

いいぞ俺。このペースだ。

(;'A`)「あー、日にち聞くってことは、何か待ち合わせとかかな?
 うっかり間違えちゃったとか?」

ミセ;゚ー゚)リ「えーと、その・・・」


13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 18:25:59.68 ID:LaDKxLMy0
女の子は口を噤んでしまった。

(;'A`)「いや、話したくないならいいよ、うん」

一歩引いて俺は彼女の返答を待った。
ナイス判断と言わざるを・・・。

ミセ;゚ー゚)リ「何というか、人に相談できるような話じゃないんです、ごめんなさい・・・」

(;'A`)「…あ、そう」

が、駄目・・・!
しかし仕方が無い。
これは俺が怪しまれたのではなく向こう側の都合なのだ。
俺は失敗していない。
そうだとも。失敗はしていない。
これは仕方の無いことなのだ。

ミセ;゚ー゚)リ「それじゃ・・・」

(;'A`)「うん・・・」

女の子は俺に軽く会釈をしてそそくさと去っていってしまった。
暫く立ち尽くす俺。

('A`)「・・・やっぱそんな都合よくいかないっすよねー」

俺は呟いて、全力なんて心の箪笥の奥に蹴っ飛ばして突っ込むと、いつものように家に帰った。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 18:31:11.24 ID:LaDKxLMy0
俺は一人暮らしをしている。
親が両方とも死んでたり、親戚をたらいまわしにされたりしたからじゃない。
親とちょっと仲が悪いから。それだけ。
住処にしているのは家賃4万の小さなアパートの一室。
トイレと風呂がセパレートなのが取り柄だ。

鍵を開けて部屋に入る。
素っ裸の女の子がすやすやと寝息を立てて寝ていたら最高だったけど、俺を出迎えたのは年季の入った木造建築特有のきな臭さだった。
なので、俺は俺だけしかいない静かな部屋の中で静かに過ごして、日にちが変わるかどうかのところで静かに寝床に入った。

-------------------------------------------------------------------------------------------------------------

日常なんて面白くない。
同じことの繰り返し。積み重ね。
将来のためと人はよく言うけれど、じゃあその将来にも何の興味も持てない俺はどうなのだろう。
何もかもが面白くない。

だから、俺はよく妄想をする。
俺が非日常に巻き込まれて、何でもいいから凄い事件に巻き込まれて、日常から逸脱して、そうして生きている妄想。
もしそういう妄想が現実になれば、きっと俺の中の何かが変わって、もっと毎日が楽しくなるのだろう。

いつだって俺はその切っ掛けを探している。
このくだらない毎日を変えてしまいたい。
けれど見つからない。
だから俺は日常の中にいて、その全てに飽き飽きしている。



18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 18:34:22.01 ID:LaDKxLMy0
-------------------------------------------------------------------------------------------------------------

翌日。
俺が眠気とダルさが50%ずつの身体でベッドから抜け出てゆるゆると着替えて朝食を食べていると、
TVの音声が俺の住む街の名前を口にした。
TVに視線を向けると、ホントに俺の住む街が映っていた。
何やら倉庫街で倉庫が何個も倒壊したらしい。
そんなことがあれば凄い物音がしたはずだったけれど、
同じ町の中での出来事とは言え、ここから倉庫までは距離があるし、俺は全く気付かずに寝ていたようだ。
TVの中では、老朽化が原因にしては倒壊の仕方が明らかに不自然だから人為的な工作が云々・・・と、
コメンテーターが自分の意見を深刻そうに見える顔で語っていた。
少し期待してみたが、顔に刺青のある19歳が12人殺して回っているとか、町のど真ん中に巨大なタワーが出現するとか、
そういう非日常的な可能性はなさそうだったので、俺はすぐに興味をなくして寝ぼけ眼をTVから逸らすとパンを齧った。
少し焦げた味がした。

その日の学校も何一つ面白いことは無かった。
倉庫がどーのこーのといった事件は少し話題になっていて、俺もブーンと少しその話をしたけれど、
そこで誰かが光る何かを見たとか、誰かが欠席していて、実は昨日ソイツはその倉庫街近くに行っていたという話を聞いたとか、
とにかくあの事件が俺の身の回りに何かの影響を及ぼすなんてことは全くもってなかった。
ただ眠るだけの退屈な授業が終わったあと、掃除当番だという事実を華麗に無視して、
ブーンが一生懸命努力しているのであろう格技場を傍目に眺めながら、校門を出た。

帰り道、昨日女の子とであった公園にちょっと寄って見回ってみたりしたけれど、やっぱり女の子はいなかった。
夕暮れに照らされた遊具が、誰にも遊ばれること無く佇んでいるだけだった。
そう上手く物事がいったことなんて俺の人生には一つもなかったような気がした。
だからやってられないのだ、この世の中は。

俺は黙って家に帰った。
部屋には当たり前だけどやっぱり誰もいなかった。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 18:37:15.69 ID:LaDKxLMy0
その夜、俺は晩飯の冷凍餃子を作ろうとして、片栗粉が切れていることに気がついた。

('A`)「なんてこったいだぜ」

片栗粉で生み出すパリパリ感のない餃子なんて糞だと思っている俺は、仕方なくコンビニに出向いていくことにした。
寒い冬の夜道をテクテク歩いてコンビニを目指す。
こういう寒空の中、白い息を吐きながらポケットに手を突っ込み、俯き気味に歩いたりすると、
何だかカッコいいんじゃないかと思ってしまうのは俺だけなのだろうか。
そんな訳の分からない自己陶酔をしながら、俺はやっぱり「きっかけ」を探した。

たまに街灯に照らされている道路の端の電信柱の裏に何か不気味な生物がウゴウゴしてたりしないかとか、
金髪美女の妖怪に性的な誘惑を受けたりしないかとか、色々な妄想をしたけれど、
そういった俺の妄想達は今までその全てが俺の脳内で完結してしまって、何一つ実現しなかった。

コンビニで片栗粉を買って、その帰り道、俺はふと変な感傷に浸ってしまった。
ついでに缶コーヒーを買ってしまったのがいけなかったのだろうか。
モラトリアム特有の厭世感が変な方向に作用して、俺はコーヒーをちびちび飲みながら、
高いところから町を見下ろしてふぅ、と一息つきたくなったのだった。

俺はそれを実行すべく町の北方にある高台へと向かった。
その道程で俺は缶コーヒーを飲みつくしてしまったので道の途中の自販機で新しく一本買った。
馬鹿みたいだった。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 18:40:16.66 ID:LaDKxLMy0
目的と手段が入れ替わるようなことをしながら、俺は高台に到着した。

こんな高台がある町は中々無いと聞いたことがある。
本当なら(あくまでドラマや小説から仕入れた知識なので真実だという保証は無い)こういう高台は絶好のデートスポットだったりしそうなものなのだが、
生憎この高台は殺風景過ぎる。
必死こいて長い階段を上った人間を迎えてくれるのは、ちょっとした広い空間と夜景をぶち壊す転落防止用の金網ネットだけだ。

なので高台には誰もいなかった。
逆に考えれば厭世するには絶好の場所だとも言える。
俺は二本目の缶コーヒーのプルタブを開けてコーヒーをちびちびと飲んで、ふぅ、とため息をつき、

('A`)「世の中面白くねぇ(キリッ」

とか

('A`)「退屈すぎる(キュピーン」

とかを呟いて、とにかく自分でカッコいいと思う厭世の仕方で、思いっきり厭世した。


23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 18:42:50.60 ID:LaDKxLMy0
そんな風に呟き続けて、

('A`)「ああ、何もかもぶち壊して世界を美しくしたい(ズバーン」

なんていう最強に厨二病感染した破壊衝動をため息とともに吐き出した時。

俺のその適当な呟きが現実となったかと勘違いしそうになるほどの馬鹿でかい音が、真後ろから俺に体当たりをかましてきたのだった。


25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 18:45:30.11 ID:LaDKxLMy0
もう擬音語ですら説明しきれないような色んな音が混ざった轟音に俺はビビり、

(;'A`)「うおっ!?」

とか言いながら振り向いて転落防止用のネットに張り付いた。

世界がぶっ壊れて美しくなっている、なんてことはなかった。

ミセ;゚ー゚)リ「・・・」

(;'A`)「・・・」

その代わり、いつぞやの可愛い女の子と目が合った。


26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 18:48:45.86 ID:LaDKxLMy0
状況説明をしようか。
女の子は明らかに、高台の後ろに広がる林の奥から飛び出してきていた。
体勢とかそういうものがそういう感じだった。
そしてその飛び出してきた林の中から、さっきのへんてこなドデカい音は聞こえてきたようだった。
カラスだかなんだか知らないが、その音に追い出されるようにして何かの鳥が喚きながらバサバサと何羽も林から飛び立っていった。

(;'A`)「・・・あー」

お互いの姿を見つめたっきり沈黙してしまったが、

その時俺の脳裏を過ぎった、「取りあえずこういう場合は男から話を切り出すのが筋だろう」とかいう自分でも訳のわからない考えに基づいて、俺は声を出した。

(;'A`)「ここでなに-----ずっがーん!!-----(;'A`)「うおおお!?」

その声を遮るようにして、轟音がより一層その大きさを増して再び聞こえてきた。
そして俺はその音が何の音なのかを知った。

音と一緒に、女の子が飛び出してきた林の木々が、いきなり何かに薙ぎ払われるようにして吹き飛んだ。

その衝撃で俺はもう一度ビビるだけで済んだのだが、林から飛び出してきたばかりで、
殆どその衝撃の発生点から距離をとっていなかった女の子の方は、そうはいかなかった。
彼女は女の子らしい悲鳴を上げて、木々と一緒に吹っ飛んだ。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 18:50:36.66 ID:LaDKxLMy0
何が起こっているのか俺にはさっぱりわからなかった。
だって林の中には何も見えないのに、林の木々は明らかに何かに踏み倒されたり薙ぎ払われたりしていくのだ。

何が起こっているのか俺にはさっぱりわからなかった。
大事なことかどうか知らないが二度言う。

状況は把握できていない。
しかし、俺がやるべきことは一つだった。
それだけははっきりしていた。

俺はそのことをすでに何百回とイメージトレーニングし続けてきた。
俺がこういうときどうすべきなのか。
俺にはそれがわかっていた。

(#'A`)「うおおおおおお!」

俺は走り出した。
持っていた中身のすっかり冷めた缶コーヒーを放り投げて、倒れている女の子に向かって全速力で走った。
走って走って走って、素早く彼女の傍に駆け寄った。
そうして彼女を優しく抱きかかえようとした。

が、出来なかった。


29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 18:52:28.05 ID:LaDKxLMy0
(;'A`)(重たっ!!)

どっかのアニメみたいに軽々しく持ち上げてひとっ走りとは行かなかった。
一応弁解するが、俺が抱きかかえようとしているかわいらしい彼女は実にスレンダーな体型である。
断じて米俵みたいなデブではない。

彼女を持ち上げられないのは俺の筋力の問題だった。
運動部なんて小学校以来経験したことのない俺に。
体育の成績など平均にすら及ばない俺が。
スレンダーとは言っても人間の身体を抱きかかえて全力疾走など出来るはずも無かったのだった。

案ずるは易し為すは難しである。
何が違うような気がするが、そんなことを気にしてはいられない。
情けなかったが、しかしそんなことでは俺の意志は挫けなかった。
何とか彼女の片腕を肩に回すと、半ば引きずるように俺は彼女を運んだ。
取りあえず高台から降りるしかない。
俺は階段のある方向に向かおうとして。

そして無理だと悟った。


31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 18:54:13.47 ID:LaDKxLMy0
(;'A`)「・・・」

そこには「何か」がいた。
さっきと相変わらずその姿は全然全く一ミリも見えなかったが、「そいつ」に纏わりついている木の葉や木の枝が宙に浮いているように見えていた。
一体全体どうやっているのか分からないけれど、「こいつは身体を透明にしているのだろう」とかなんとか適当な理由をつけて勝手に納得した。

まとわりつく枝や葉から判断するに、「そいつは軽く見ても俺の身長の五倍はあった。
そこにいる、という存在感が、俺をジリジリと威圧して、俺は思わず一歩後ずさった。
木の葉と枝が織り成す姿の一部分が、高く振り上げられるのが分かった。

ギィギィと何か軋む音が聞こえた。
俺の頬を汗が伝っていった。
ほぼ直感で危険だと思った。
思わず女の子に覆いかぶさるようにして伏せる。
直後に、ブン!という風を切る音がして、そして凄いつむじ風が俺の髪の毛を巻き上げ、ギャーン!という音が聞こえた。
頭を上げて見れば、転落防止用のネットがグシャグシャに捻じ曲げられてひしゃげていた。

(;'A`)「・・・うへぇ」

まがりなりにも鉄柵の一種であるそれを粘土みたいにグシャグシャにするには、どれくらいの力が必要なのか知らないけれど、
その暴力が俺の脇腹に叩き込まれた場合には、俺の命は速やかにあの世へ輸送されてしまうということは理解できた。

ゾクッという悪寒と、興奮と歓喜の電撃が背筋を併走した。
夢じゃないということを、今更ながらに実感していた。
これは現実なのだ。妄想ではなく。
見紛う事なき、非日常。


33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 18:57:13.29 ID:LaDKxLMy0
俺は頭をフル回転させて次の行動を思慮した。
コイツは彼女を庇いながら相手に出来るような奴じゃない。
となれば、この状況ではもう逃げるしかない。
しかし出口は無い。階段の目の前には「何か」が立ち塞がっている。

けれど、そういう場合の手段を俺は知っている。
ずっとずっと頭の中で考え続けてきたアイディアが、いくつもいくつもある。

俺は再び雄叫びを上げながら立ち上がり、そしてもう腕がどうにかなってもいいという覚悟の下、彼女を抱きかかえて持ち上げた。
多分火事場の馬鹿力という奴なんだろう、俺は彼女を持ち上げることに成功した。
女の子を華麗にお姫様だっこする。妄想の一つがまた現実になる。

しかし喜んでいる暇など無い。俺は彼女を抱いたまま、全力で疾走した。
金網が突き破られて、転落を防止するものが無くなった、高台の急斜面に。

またあの軋むような音がする。
猶予はない。覚悟は決めた。待ち望んだ瞬間へダイブするのだ。

(#'A`)「おおおおおおお!」

いくぜ!俺は飛ぶんだ!全力で!
そしてこの俺の腕の中にいる可愛い女の子を抱きしめながら、
斜面をカッコよく転がり落ちて、あのよく分からないモノから守るんだ!

俺は地を蹴った。宙に飛び出した。

--------装着者 ノ 危険 ヲ 察知 緊急転送 ヲ 開始 シマス

いきなり訳の分からないへんてこな声が彼女の胸元から聞こえ、世界が真っ白になった。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 19:00:40.12 ID:LaDKxLMy0
なんだか不思議な感覚だった。
フワフワと漂っているようだった。
俺は混乱しながらも彼女だけは放すまいと必死だった。
いきなり、真っ白だった世界が色を取り戻した。

(;'A`)「ぐえっ!」

変にカラフルな光が視線を横切ったかと思うと、俺の身体は強かに打ち付けられた。

(;'A`)「おうふ!」

その上から彼女が降ってきて、俺の腹部に強烈な衝撃を加えた。

俺は悶絶して、しかし頑張って上に乗っかる彼女を退けて、上体を起こした。

(;'A`)「・・・あれ?」

そこは俺がさっき来たコンビニの前だった。

一瞬見えたカラフルな色は、コンビニの店頭のロゴを発光させた照明だった。

辺りを見回したが、そこにはもう平穏な雰囲気が漂うばかりだった。

街灯がジジジ・・・と音を立てて明滅している。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 19:02:29.99 ID:LaDKxLMy0
('A`)「・・・」

なんだか拍子抜けした気がして、さっきまでの興奮が一気に冷めてしまった。
結局、俺の見せ場は余りなかったような気がする。
いや、誰かに見せたくてああいう行動を取ったわけじゃないんだけど。

もうちょっとさぁ。
こう、俺があの変なものに立ち向かうことになって、
追い詰められたところでアイツの姿が見えるようになって、
それでもって見事に何かの力とかに目覚める!みたいなシナリオとか無かったわけ?

無いですか。そうですか。
怪我しなかっただけでも良しとしましょうか。

('A`)「はぁ・・・」

俺は立ち上がって、未だに意識の無い女の子の様子を見る。
呼吸ある、脈ある。つまり生きている。
それ以上のこと(詳しくなんて言わせんな恥ずかしい)を確かめるかどうか非常に悩んだ末、
ここは家の外だという意識と、強靭な理性と良心の働きによって俺は我慢した。

何より、妄想の中での俺はこういう性的な欲望に対する耐性が強いのだ。
こんなことで動じる俺では、自分の脳内の妄想の世界では旨く立ちまわれない。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 19:04:31.14 ID:LaDKxLMy0
('A`)「・・・さておき」

彼女は気絶・・・もとい寝ているようだ。パッと見たところ外傷もないようだし、ひとまずは安心といったところだろう。

('A`)「しかし」

さっきのあの訳の分からない化物の脅威が完全に去ったとは言いにくい!

('A`)「だから?」

ここで俺がすべきことは彼女の安全を確保することだ!

('A`)「どこで?」

そこはもう当然の答えである。

('∀`)「俺の家に決まってんだろー!」

というわけで、俺は彼女を自分の家であるアパートまで運んだ。
人目につくことは無かったが、何というか大変だった。
ここらへんの記述は避けよう。トイレ行きたくなっちゃう。


38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 19:06:15.08 ID:LaDKxLMy0
それから。
俺は自分の家の中を出来る限り綺麗にして、シーツから何から全部洗濯したての物に変えたベッドの上で眠る彼女の目覚めを待った。

('A`)「・・・しかしまぁ」

改めて、ゆっくりと今の自分の状況を考える。

('∀`)「コレはいい感じなんじゃないのかね」

俺は浮かれていた。
興奮も少し取り戻していた。
いや別に性的にではない。

だって、これぞ非日常じゃないか。俺が待ち望んでいたものだ。
そう思うと一層胸が高鳴った。
これから俺を待つ展開がどういったものか、想像するだけでご飯を何杯も食べられそうだった。





けれど。

物事はそう上手くはいかない。

やがて俺は知ることになる。

例えどれだけ待ち望んでいたモノであったとしても、
それが必ずしも俺にとって素晴らしいものではないということを。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 19:16:44.19 ID:LaDKxLMy0
翌日を待たずして、彼女は目を覚ました。

その時俺はトイレから出てきてチャックを締めていた。
最悪のパターンだった。糞が。

彼女の存在などないかのような風を装い、目覚めた時には「やっと起きた?」とかカッコよく聞こうと思ってたのに。
雰囲気をかもし出す為に部屋の窓際で読書とかして待機していたのに。
トイレに向かった一瞬をピンポイントでつかれるなんてよりによって最悪だ。

窓の脇に置かれた文庫本が俺をあざ笑っている気がした。

いや、しかし、1分前に目を覚まされるよりはよっぽどマシだったんだけどね。うん。
そしたらもう俺は便器に顔突っ込んで自殺するわ。
ホント男性って大変。

(;'A`)「・・・おはようございます」

俺はチャックを締めてそう言った。

ミセ;゚ー゚)リ「・・・おはようございます」

彼女は上体を起こしてそう言った。

ちなみに外は真っ暗な真夜中である。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 19:18:43.73 ID:LaDKxLMy0
(;'A`)「あー・・・ここ、俺の家だから」

ミセ;゚ー゚)リ「あ、そうですか・・・」

(;'A`)「その、大丈夫?身体とか、どこか痛いところとか・・・?」

ミセ;゚ー゚)リ「あ、大丈夫です・・・」

(;'A`)「そう、それは・・・良かった・・・」

会話続かねぇー。

(;'A`)「その、なんていうか・・・」

くそっ、俺は悪くないぞ。タイミングが悪かったんだ。

チャック締めたところを見られたのがいけなかった。

一瞬頭が真っ白になって彼女がおきるまで散々考えてたカッコいい言動がふっとんでしまった。

ミセ;゚ー゚)リ「た、多分、助けてもらったんですよね!」

(;'A`)「そうだね、まぁ・・・」

ミセ*゚ー゚)リ「ありがとうございました!」

いきなり元気を取り戻した女の子は、ぺこりと頭を下げながらお礼を言った。

やっぱり可愛かった。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 19:21:10.61 ID:LaDKxLMy0
ミセ*゚ー゚)リ「ところで・・・見ちゃいました?」

と思ったら今度は神妙な顔で尋ねてきた。

俺は緩んだ顔を速攻で引き締めて答えた。

('A`)「見たって言うか、見えてはいなかったけど・・・。
 まぁ何というか、凄い体験をしたね、ハハ」

ミセ*゚ー゚)リ「そうですか・・・」

なんだか残念そうに彼女は俯く。

ミセ* ー )リ「じゃあ仕方ないですね」

(;'A`)「え?」

彼女は静かにそういうと、ゆっくりと布団から抜け出て、立ち上がって、そして胸元に手を突っ込んだ。

(;'A`)「あれ?」

これまずいパターンのフラグでしょ?あれ?

彼女がゆっくりと胸元に入れた手を引き戻す。

待った待った!拳銃とかそういう法律に反する物体は無しの方向性で頼むよマジで!

緊張が一気に張り巡らされて、俺は固唾を呑んで彼女の次の行動を待った。

そして。

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 19:23:23.45 ID:LaDKxLMy0
ミセ*゚ー゚)リ「私は銀河広域警察機構のミセリといいます!」

(;'A`)「・・・はい?」

彼女は胸元からなにやら手帳のようなモノを取り出しながら、高らかにそう宣言した。

バーン!って効果音が聞こえてきそうな勢いだった。





沈黙。





(;'A`)「うちゅう・・・え? 聞き間違えた? 刑事?」

ミセ*゚ー゚)リ「・・・あれ?ご存じない?」

俺の怪訝な顔を見て、彼女の表情も曇る。

ミセ;゚ー゚)リ「あれー・・・?」

彼女は今しがた出したばかりの手帳のようなモノを開いて、何やら打鍵するような動きを見せた。

その表情が「おっかしーなー」から「やばい・・・」に変わっていく。


44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 19:25:22.18 ID:LaDKxLMy0
ミセ;゚ー゚)リ「キャー!この星にはまだ正式な加盟をしてもらってないー!?」

轟く女の子の絶叫。

呆然とする俺。

ミセ;゚ー゚)リ「あの、すいません、今言ったこと忘れる・・・とか・・・」

いやいやいや。

(;'A`)「自分からそんなインパクトのデカイ自己紹介かましておいて忘れてくれとは…」

もはやギャグの領域だと思う。

ミセ;゚ー゚)リ「ですよねー・・・」

彼女はがっくりと肩を落とし、しかし数秒の後には再び元気を取り戻した。

ミセ*゚ー゚)リ「まぁ言っちゃったものは仕方ないです!
  でも、このことは内緒でお願いしますね?」

(;'A`)「・・・」

もはや言葉も無かったが、とりあえずまぁ。

俺の望んでいたものが、どうやらやってきたらしいという事は確からしい。

それだけで十分だろう。文句なしだ。

そしてこれがこの話において俺と同格の主人公格となる、自称宇宙刑事ミセリとの邂逅だった。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 19:27:33.99 ID:LaDKxLMy0
ミセ*゚ー゚)リ「あのですね」

一旦時間を置いて。

部屋にあるテーブルに向かい合うように座り、俺が淹れたお茶を啜ったミセリは、決心したように息を吐くと、自分の身の上について語り始めた。

ミセ*゚ー゚)リ「私は現在とある任務中でして。
  銀河系AB-89恒星群第3惑星から、あるモノの輸送の最中だったのですが、そこで・・・。
      うーん、なんといいますか、宇宙のギャングみたいなものから襲撃を受けてしまったんですね。
  輸送船は大破、私は輸送しなければならなかったモノと一緒に脱出して、この星に流れ着いたのです」

('A`)「なるほど」

ミセ*゚ー゚)リ「幸いにも私が生身で生活できる環境の惑星でしたので、そこら辺は問題なかったのですが、
  何せ事態が事態でして、私は今本隊と連絡を取れない状況に追い込まれてしまったのです。
  救難信号を出す装置も故障しちゃって・・・。
  あ、最初に会ったとき、あんな変な質問をしたのも、何とか持ってこれた機器の中で使えるものを判断したかったからで・・・」

('A`)「ふむふむ」

ミセ*゚ー゚)リ「それで、まぁ言葉も通訳できることが分かったし、 輸送しなければならなかったモノは無事なので、
  恐らくこれを頼りに時間を待てば本隊のほうから私を発見してくれるだろう・・・。
と、思っていたのですが、思ったより運が悪くてですねー・・・
  何か敵さんも一人、この星に来ちゃったみたいでー、今私その人に散々追い掛け回されてるんですよねー。
  この前も倉庫で寝てたらいきなりスガーン!とやられちゃったし」

(;'A`)「あれもアイツのせいだったのか・・・」

まぁそんな予感はしてたけど。

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 19:29:42.72 ID:LaDKxLMy0
それにしても、ぶっちゃけた話、この俺と同い年か年下くらいにしか見えない女の子が宇宙刑事だと言われてもピンとはこない。
口調の軽さと事態の重さが反比例してる彼女の話も、聞けば聞くほど素っ頓狂なものにしか聞こえなかったが、
その彼女の言葉の真実味は自分の身をもって思い知っているのでそこは突っ込まないことにした。

('A`)「大変っつーか、しんどそうだね・・・」

ミセ*゚ー゚)リ「そうですね・・・実を言うとちょっと疲れてます、アハハ」

アハハじゃねーよ。

ミセ*゚ー゚)リ「まぁ取りあえずは敵の追尾は振り切れたので、しばらくは隠れて味方の救援を待ちます」

('A`)「まぁ、それが一番だろうな・・・」

ミセリはお茶をもう一口、というか一気に煽って「うん、苦い!」と言ったあと、ずい、とテーブルに乗り出してきて言った。

ミセ*゚ー゚)リ「それでですね・・・」

('A`)「うん?」

ミセ*゚ー゚)リ「出来れば、こちらのほうに居候させて欲しいのですが」

彼女の「苦い!」に対して、「そんなに濃く淹れたかな・・・」と、
味を確かめようとして飲みかけたお茶を、俺は危うく彼女の顔に散布するところだった。

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 19:32:57.43 ID:LaDKxLMy0
可愛い女の子に「うわ汚い!」とか言われると俺のガラスのハートが傷ついてしまうので必死こいて我慢。
結果気道にお茶侵入。俺の気管支が悲鳴を上げる。
激しく咳き込む俺にビビる彼女。いやいいけど。汚いとか言われるより全然マシだけど。

っていうかそもそもお茶っていう飲み物が初体験なんだろうな、宇宙刑事的に考えて。
カテキンとかがおかしな方向に作用したりしないことを切に祈ろう。

(;'A`)「いぎなりどうとつずぎないかい・・・」

気管に入ったお茶によって言葉にムダに濁点を挿入させつつ俺は言う。
いやしかしやってみたかったんだよ、こういうやり取りを。
これでまた一つ俺の妄想が現実になって行く。
楽しいなァ、うん。

ミセ*゚ー゚)リ「なんと言いますかですね・・・。
      成り行きとはいえ、一応事情を知って貰ってしまった以上は、こちらとしても保護下に置く必要があるといいますか・・・」

ひっでぇ話だなオイ。
何なの?うっかり自分でバラしたのに「知っちゃったからにはタダじゃ済ませない」ってどういう理論なの?
それに保護下って。むしろそっちがこっちの保護下じゃないのか。

ミセ*゚ー゚)リ「やっぱり駄目ですか・・・?」

駄目ですか、って、お前ホントに刑事なのか?
権力を盾にしてきっぱり言ってしまえばいいだろうに。
この地球で宇宙警察の権力に屈してくれる人間が俺以外にいるとは思えないけど。

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 19:37:02.06 ID:LaDKxLMy0
ただ、そんな神妙な面持ちの彼女は、大事なことだから何度も何度も言うけど、可愛かった。
可愛いは正義である。
その前には何人たりとも立ち塞がることは許されない。
だから俺の答えは決まっている。

('A`)「・・・いいよ」

俺は了承した。

だってさぁ。
同年代の可愛い女の子と同居ってさぁ。ねぇ?
分かってくれるだろう?

ミセ*゚ー゚)リ「本当ですか!?」

そうして彼女は満面の笑みを浮かべる。

ああ、可愛いなぁ、畜生。






そうして満足感を覚え、悦楽に浸っている俺は、まだ知らない。
その笑顔の意味も、俺が思い知る現実も。

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 19:41:20.30 ID:LaDKxLMy0
かくして、宇宙刑事ミセリをアパートに匿うこととなってからの数日はあっという間に過ぎ去った。
その間の俺の生活は平和の一言に尽きた。
殆どの時間、俺は学校に行っているし、その間ミセリは俺の家で時間を潰し、
その後の時間も俺が多少理性の働きを必要とする程度の時間があるだけなのだから、
当然と言えば当然である。

一部分を書くならこうだ。

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ミセ*゚ー゚)リ「ドクオさん、この部屋寒いですね」

('A`)「まぁ、暖房ついてないしね・・・」

ミセ;゚ー゚)リ「え?この星は冷暖房完備じゃないんですか?」

(;'A`)「『星』とはまた大きく囲ったもんだなオイ」

ミセ;゚ー゚)リ「え、いや、だって、寒いでしょう?夏はきっと暑いし。
      冷暖房ないと不快じゃないですか?」

('A`)「一つ言っておくけど君がこれから暫く生活する空間はそういう不快空間だからな」

ミセ;゚ー゚)リ「うぅ・・・冷暖房の無い屋内なんて初経験ですよ・・・」

('A`)「・・・」


53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 19:43:24.26 ID:LaDKxLMy0
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ミセ*゚ー゚)リ「ドクオさんの家には、娯楽のようなものは無いのですか?」

('A`)「生憎あんまりそういうものは置いてないな・・・
   実家において出てきちゃったし・・・
   小説とかならあるけれど」

ミセ*゚ー゚)リ「うーん・・・会話は出来ますけど文章の翻訳は今私の持っている物じゃ出来ないんですよねぇ・・・」

('A`)「じゃあTVとかは?」

ミセ*゚ー゚)リ「TVって何ですか?」

('A`)「・・・改めて聞かれると説明の面倒臭いモンだなTVって・・・」

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この程度のことなので、非日常とは言い難いので話す必要も無いと思う。

一回だけ「うわ汚い!」と言われて俺のガラスのハートにヒビが入ったという事件もあったが、
その事件の一部始終は余りにくだらないので省略する。

付け加えて言っておくと、この平和な時間が続いている間に、俺は「普通じゃないこと」が一つも起きない事に、つまらなさを感じ始めた。
もっと核心をつけば、求める「普通じゃないこと」の異常さが増していたと言っても良いかもしれない。
彼女との生活があまりにも平坦に進む事に、飽きを感じ始めていたのだ。

しかし俺が話すべきなのは、そんなところではないし、ぐだぐだと長ったらしく話すべきなのは肝心要の部分だけで十分だ。

なので、話はすぐに展開する。

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 19:48:19.64 ID:LaDKxLMy0
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その日、俺は学校の授業後に真っ直ぐ家に帰ろうとはしなかった。

何故なら、家の冷蔵庫の中が空になったからであり、つまるところ買出しに行く必要があったからである。

最寄の大型スーパーで色々と買い物を済ませ、人通りの少ない寂れた商店街のアーケードを歩いていた、その時だった。

いくつも立ち並ぶ店の間の細い路地から、不意にヌッと延びてきた手に首根っこを引っつかまれ、俺は抵抗する間もなく路地に引きずり込まれた。

(;'A`)「!?」

|●,  、●|「・・・」

犯人は見知らぬ男だった。

ソイツはありえないほどの膂力を持ってして、俺の首根っこを掴む片手だけで俺を宙に持ち上げ、壁際に押し付けた。

息苦しさと混乱の合間に見える男の目は赤かった。

別に充血してましたとかそういうくだらないオチではなく、瞳から全体まで均等に真っ赤だった。

|●,  、●|「奴を何処へやった」

その一言で正体なんてもろバレだった。

要するにコイツは「なんといいますか、宇宙のギャングみたいなもの」のうちの「この星に来ちゃった」奴だろう。

目玉充血男の風貌はいかにも筋肉隆々の、柄の悪そうな兄チャンといった感じだった。

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 19:50:43.55 ID:LaDKxLMy0
別の星のファッションでも自分のガラの悪さを誇示するとは中々の野郎だな・・・、
そりゃあこんな奴にあんなモンに乗って追い掛け回されたらたまったもんじゃねーな、
と、俺は状況を無視して思う。

そのまま、しらねーよ、とシラを切ることも無く、ただ黙って男からの圧力に耐えた。

そういえば最初の時に、俺も思いっきり自分の面を晒していたんだな。
そりゃこんなところブラブラしてれば見つかりますよねー。
のんびり学校に通っている場合じゃなかったんだな。笑える。

しかし相手の言葉の裏を読むに、どうやら俺のアパートはバレていないらしい。
コイツもずいぶん馬鹿だ、こんな風にとッ捕まえずに尾行すれば、アホな俺は気付かないまますんなり案内してやったのに。

考え事をして苦しさから意識を逸らしていたら、首に掛かる圧力が大きくなって意識を逸らすどころか飛ばしそうになった。
現実を見て対処することにする。

|●,  、●|「何処へやった」

('A`)「・・・同じことしか言えねーのか、デカブツ」

強気に出て軽く挑発してみたら、俺を宙に持ち上げている方とは逆の手が拳となって俺の腹に突っ込んできた。

あんまりにも痛かったから、俺は

(;'A`)「ぐえっ」

と、踏まれたカエルのような呻き声を出して、それまで持っていたビニール袋も落としてしまった。
カッコつけるのを止めて「ごめんなさい」って言いたくなったけれどもぐっと堪える。


59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 19:56:46.00 ID:LaDKxLMy0
|●,  、●|「言わなければ殺す」

もう一発来た。凄く…痛いです。

(;'A`)「おぇ・・・」

あまりの苦痛に思わず声が漏れる。首を絞められすぎて呼吸が掠れる。
頭の奥から痺れるような感覚。視界が黒い靄に覆われていく。
これ肋骨とか折れたりしてないだろうな。
俺は次に殴られたら取りあえず謝ろうと決心したが、男はそれ以上殴ってこなかった。

突然、男の手が俺の首を放す。
最早抵抗する気力もないと思われたのだろうか。
実際、放り出された俺はズリズリと壁にもたれながらへたり込んだ。

男が胸元に手を突っ込む。

宇宙警察手帳を出して元気良く自己紹介してくれねーかなーと心の中で思ったが、
出てきたのはどう見ても先端から危険な何かを発射しそうなフォルムのいかつい物体だった。

|●,  、●|「言え」

男はそれを俺に突きつけながら、腰を下ろして俺と目線の高さをあわせながらそういった。
最終通告のつもりだろうか。
だがもうそんなことは気にする必要も無かった。
俺はコイツがこうやってくれることを祈っていたからだ。

('A`)「バーン」

俺は素早く手に持っていた殺虫用スプレーを男の面前に突き出してレバーを引いた。

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 20:00:53.29 ID:LaDKxLMy0
何故持っているかというと、さっきスーパーでミセリに万が一の時用に渡そうと思って買ったからだった。
なぜ殺虫スプレーかというと、催涙スプレーが売ってなかったからだ。

良く考えれば普通のスーパーに悪漢撃退用の催涙スプレーなんて売ってるわけもないし、
この前みたいなバカでかい奴に襲われた時に「殺虫スプレーをくらえ!」なんてやってたら最高のギャグだな、と思ったが、
まぁそんなことはどうでもいい。

どっかで聞いた知識で、拳銃とかそういうのは、近距離においては先に銃口を向けたほうじゃなく、先に撃った方が有利らしい。
何故なら、よほどの奴じゃないと、銃声に無意識な反射でビビるそうだ。
そして、撃つのが殺虫剤でも大した変わりは無いということを、俺は今確かめた。

ブシューと言う噴射音と共に、憎き昆虫類最速を瞬時にあの世へたたき落とす霧状の薬剤が、男の顔面をモロに襲った。
男が人間のモノとは思えない奇妙な悲鳴を上げて仰け反る。

その隙に男と壁の間からするりと抜け出て、かっこよく反撃に・・・と考えた俺だったが、
立ち上がった瞬間最悪な気持ち悪さが腹部から競りあがってきて、
堪えきれずにもう一回座り込み、さらにゲロゲロ吐いた。

予想以上にパンチのダメージが大きかったらしい。

やっぱり最初に我慢せずに取りあえず謝っておけば良かった。

一方、俺の最後っ屁の殺虫スプレーは、予想以上に効果が薄かった。
男はすぐに回復してしまったようだ。
男の正体は宇宙ゴキブリ星人ではないことが証明されたが、ホントどうでもいい。

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 20:05:15.46 ID:LaDKxLMy0
('A`)「…ふぅ」

万事休す。
一応まだ手に殺虫スプレーは持っているだろうけど、流石に二度目は無いだろう。

立ち上がった男が蹴りを放ってきた。
俺は為すすべもなく胸部にそれを食らった。
もう痛すぎて謝る余裕もなくなった。
声も出せずに、俺は背中が弱点のクッパ軍団の手下みたいにバッターンと仰向けに寝転んだ。

涙で霞む視界に男が映った。
完全にブチギレちまったぜ・・・という表情で件の危ない何かをこちらに向けている。

('A`)「あー・・・」

男を見据えながら、俺は呟く。

('A`)「死にたくない」

人間の手は二つある。
何故二つあるのか、と聞かれると、俺は返答に困るのだけど、
どうやって使うのか、と聞かれれば、俺は何度でも答えられるだろう。

例えば。

「右手で殺虫スプレーをブチかまし、左手で携帯メールで助けを呼ぶ」とかな。


62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 20:07:42.81 ID:LaDKxLMy0
俺が呟いた次の瞬間、男は地面に突っ伏していた。

別に俺の言葉に何か意味があったわけじゃない。

そのタイミングで、俺がメールで助けを求めたブーンが、学校からインターハイの柔道選手権の練習を投げ出して助けに来てくれて、

男に掴みかかるなり華麗な足払いからの一本背負いを流れるような動きで決めてくれたのだ。

(#^ω^)「何してんだコラ」

筋肉質で見るからに重そうな男を軽々と投げ飛ばし、そのまま仁王立ちするブーンは超カッコよかった。
でもこっちに振り向いたらただのデブに戻っちゃうだろうなと思った俺は、
そうなったらこんなデブに助けられたのか、という自己嫌悪に陥りかねないから振り向かないでくれと祈った。

ランニングでもしてたのか、胴着ではなくジャージ姿
男は起き上がってから一度ブーンにタックルをかましたが、
ブーンはそれを受け止めると大外刈りで再びすっ転ばし、無理矢理起こしてもう一回一本背負いを決めていた。

どっかの史上最強の弟子があんな感じにすっ転ばされ続ける修行してたな・・・。
などと他人事のように思っている内に、決着がついた。
幾度の挑戦も失敗に終わり、男は俺とブーンを睨みつけると憎憎しげに何かを言い放って逃げ去っていった。

ざまぁみろ。
俺はそれを見届けて起き上がった。

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 20:10:11.52 ID:LaDKxLMy0
(;^ω^)「びっくりしたお・・・」

「カッコいい仁王像のような男」から振り返って「ただのデブ」になったブーンが、俺の傍らに寄ってくる。

('A`)「おせーよ馬鹿。死ぬところだったぞこのデブ」

(;^ω^)「お前こんなメール送っといてよくもそんな事言えたもんだおね」

そういってブーンがジャージのポケットから出した携帯のディプレイには送信者が俺になっているメールが写っていた。

文面は 「しゃうてんがいのりじうらでおさわれてりへるぷ」 だった。

画面を見ずに打ったとはいえ、これは酷い。
「へるぷ」の部分間違えてたら死んでたかも分からんね。

まぁ生きてるから問題ない。

ちなみに上手くブーン宛てに送信できたのは幸運でもなんでもなく、
電話帳を開くと一番最初がブーンなので簡単だったと言うだけである。

さらにいうとブーンの名前の電話帳に置ける頭文字は「な」である。
「な」で一番最初である。次は「ら」であり、一体誰であるかまで言っちゃうと泣きたくなるから言わない。

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 20:12:52.99 ID:LaDKxLMy0
( ^ω^)「大丈夫・・・じゃなさそうだおね・・・どっか痛い場所とかあるかお?」

('A`)「痛くない場所が見つかりません先生」

俺は落としたビニール袋や、そこから零れ落ちたモノとかを色々拾い集めながら答える。
いやホントはお腹と胸が強烈に痛いだけなんだけど。

(;^ω^)「そんなに痛いなら取りあえず病院行かないと・・・」

('A`)「いや、それはいいわ」

(;^ω^)「え・・・」

('A`)「だってお前インターハイ目前じゃん、派手に一般人に柔道披露しちゃったし、
    警察言ったら面倒だ。わざわざ余計な事件に巻き込まれる必要ないだろ」

( ^ω^)「ドクオ・・・」

('A`)「というわけで俺の荷物を俺の家まで運んでください」

( ^ω^)「糞が」

ちょっといいことを言い、ついでに頼みごとをする。
ブーンは断わらなかった。

俺はいい友達を持ったが、ブーンは酷い友達を持ったものだ。全く。


67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 20:15:04.38 ID:LaDKxLMy0
そうして家の前で、俺はまた同じようにブーンを言い包めて追い返すと、

一息置いてから家のドアを空けた。

('∀`)「たでーま」

平気な顔をして俺は家に入る。

ミセ*゚ー゚)リ「おかえりなさい」

ああ、痛みが吹っ飛ぶいい声だなぁ。

こんな声をお仕事以外で出す女の子が世の中にいるなんて素晴らしい。

ミセ;゚ー゚)リ「・・・どうしたんですか?」

奥のワンルームに入ると、そこでTVを見ていたミセリが怪訝な顔をした。

('∀`)「何が?」

ミセ;゚ー゚)リ「首・・・なんか跡ついてますよ?」

('∀`;)「え・・・?」



そうして、全てにヒビが入り、決着をつける瞬間が近付く音が聞こえた。

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 20:17:13.25 ID:LaDKxLMy0
('∀`)「あー、友達がちょっとねw」

俺らしくもない、リアルが充実している人間っぽい言い訳でミセリの疑いをかわす。
そういえば蹴られたり殴られたりしたのは服で隠れる部分だったから、
見られないだろうと気にしなかったけど、首も思いっきり絞められていたんだった。
なんというケアレスミス。

('∀`)「ホントあいつら加減しらないからw」

ミセ*゚ー゚)リ「・・・」

ミセリが立ち上がってこちらに向かってくる。

('∀`)「困っちゃうよねホントn (゚A゚;)「ぎぁl!?」

全部言う前にミセリが俺のお腹を軽く触れた。
それだけで激痛が走って、俺は悲鳴を上げた。
ホントにどっかおかしくなってたりしそうだ。

「見せてください」

有無を言わせぬミセリの口調。

思いっきり痛がった手前、大したことはないとも言えず、
俺は生まれて初めて家族以外の女性に見せる為に服を脱ぎましたとさ。

言っておくが妹なんかいない。おばあちゃんならいるけど。

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 20:19:33.55 ID:LaDKxLMy0
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('A`)「喧嘩しました」

ミセ*゚ー゚)リ「…」

俺は言われるがまま、床に仰向けになっている。

('A`)「いや相手が強くて大変だったわ」

ミセ*゚ー゚)リ「…」

体中のアザや擦り傷の理由を、そうやって押し切った。

一度嘘をついた上からもう一回嘘をつく俺。

ミセ*゚ー゚)リ「・・・」

そうやって弁解する間、ミセリは俺のお腹に黙って湿布を張っていた。
俺の家に湿布があるのは驚きだった。
というか何でミセリが湿布の場所を知っているのか疑問だったが、
聞けるシチュエーションでもなかった。
それはもう幸せなんだかどうなんだかよく分からないシチュエーションだった。

一つだけ言える事は、俺は出来る限り本当のことは隠して押し通すつもりだけど、
ミセリの方は、何故俺がこうなったのか、薄々感づいているだろうということだった。

そして、そうなれば、全て終わりだと言うことが、俺には分かっていた。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 20:22:53.51 ID:LaDKxLMy0
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('A`)「気にしなくて良いよ」

俺は言う。
だって気にしたら、そして本当の理由に気付いたら、出てっちゃうじゃん。
この幸せが終わるじゃん。

('A`)「相手も同じくらいコテンパンにしたから、まぁ当分かかってこないだろうな」

俺は普通なんて嫌いだ。
普通なんてつまらない。
やる気なんて出ない。
だってそうだろう?
何が楽しいんだ。

('A`)「ま、明日になればケロッと治ってるよ」

何が良いんだ。
教えてくれよ。
誰でもいいから。
非日常ですらこんな俺に。
結局のところ変われていない俺が。

( A )「大丈夫・・・大丈夫だから・・・」

分かってるさ。
分かってる。
分からないはずがない。
分かりきったことだ、そんなこと―――。

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 20:25:19.99 ID:LaDKxLMy0
----------------------------------------------------------------------------------

俺はいつの間にか眠ってしまっていた。

起きた時、部屋の中にミセリはいなかった。
ただ、テーブルの上に・・・ここ数日の間、二人で囲んだ木製の家具の上に、何やら平ぺったい機械が置いてあった。
それには、ミセリからのメッセージが記録されていた。

俺は黙ってそれを聞いた。
ひたすらに聞いた。
そして窓から外を見た。

真っ暗だった。
何もかも飲み込んでしまいそうなくらい真っ暗だった。

俺は立ち上がった。
素早く準備をする。
こういうときにだけ、俺の頭の回転は早いのだ。
殺虫スプレーをもって行くなんて馬鹿な事はしない。
やることをやる為だけに、必要な物だけがあればいい。
今からすべきことに必要なものなんて多くは無かった。

ドアを勢いよく開けて、お腹の痛みなんて忘れて、俺は夜の暗闇へと飛び出した。


79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 21:03:02.57 ID:LaDKxLMy0


「ドクオさんへ」



やる気なんて出るわけが無いんだ。

ほとほとウンザリしている。

何をやっても上手くいかない。

世の中がつまらな過ぎるせいだ。

そんな言い訳を、俺は一体何度塗り重ねて、俺と現実の間に壁を作ってきたのだろう。

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 21:05:28.34 ID:LaDKxLMy0



「この数日間、貴方にはお世話になりっぱなしで本当にすいませんでした」



俺が望んだものは、非日常だった。

どうして望んでいたのかなんて明白だ。

俺は知っていたのだから。

非日常なんて、起こりえないから非日常なんだって。


82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 21:08:03.03 ID:LaDKxLMy0



「だから、私は貴方の前から去ろうと思います」



本当は最初から分かりきっていたことだった。

普通はつまらないことなんかじゃない。

世の中は全然退屈なんかじゃない。

俺が自分にそう言い聞かせてきただけだ。



「せめて私に出来ることはそれくらいしかないから」



本当に世の中が悪くて、だからやる気が出せないとしたら、ブーンはどうなる?

この世の中で一生懸命努力して、結果を出している奴らは、一体何なんだ?

あの俺を窮地から救ってくれた一本背負いを、一体どうやってブーンは自分の物にしたんだ?

本当にうれしそうな顔をして、毎日を生きている奴らは、全部まやかしだって言うのか?


83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 21:10:45.42 ID:LaDKxLMy0



「私の問題は、私が解決しなければいけないことだって、ようやくわかったから」



俺だけが、そういう風に努力できないような、喜べないような、楽しめないようなモノとして生まれてきたのか?

そんなわけがあるはずがないだろう。

そんなことがありえるわけが無いんだ。

それこそ本当に起こり得ない、0%の可能性だ。



「大丈夫、きっと何とかなります!」



いつもくだらない言い訳をして。

世界が変われば、いつだって俺は変われるんだって?

馬鹿じゃないのか?

俺が変わらなきゃ、世界は変わらないのに。


84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 21:14:59.00 ID:LaDKxLMy0



「これでも私だって宇宙刑事ですから!」



この一週間でよく思い知っただろう?

言い訳だった非日常に巻き込まれて。

自分が如何に不甲斐なくて情けなくて惨めな存在か、思い知ったろう?

例え美少女が目の前に現れても、正体の分からない敵とバッタリ出会っても、

世界は俺を変えてくれないと思い知っただろう?



「最後に、一つだけ」



幾つもの問いが、頭の中を駆け巡る。

つまらないものは?

間違っているのは?

変わらなくちゃいけなかったのは?

85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 21:17:48.50 ID:LaDKxLMy0


「貴方と過ごした時間はとても楽しくて、貴方の親切はとても嬉しかったです」



俺はその答えを知っている。

ずっとずっと、その答えを知っていながら、

沢山のモノを言い訳にして、隠れ蓑にして、逃げてきた。

そうだろ?

全く持ってその通りだろ?

違うのかドクオ!!



「ありがとうございました、ドクオさん」



(#;A;)「う゛ぁあ゛ぁぁぁあ゛ぁあ゛ぁぁあ゛あ゛ぁぁあ゛ぁあ゛あ゛ぁあ゛あ゛ぁぁあ゛!!!!」

叫びすぎて、走るのが苦しくなるのも構わずに俺は叫んだ。
涙で視界がグチャグチャに歪んで、走るその先が見えなくなるのも構わずに俺は泣き叫んだ。
それは後悔と自責と悔しさと怒りと切なさと虚しさと恋しさの綯い交ぜになった滅茶苦茶な雄叫びだった。

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 21:21:14.44 ID:LaDKxLMy0

34分。

俺が街中を駆け回り、心臓が破裂しそうになっても走り回り、そしてミセリを見つけるまでに掛かった時間だった。

はたして彼女は高台にいた。
あの見えない「何か」のどこかの部分に捕まえられて、宙に浮いて身動きが取れなくなった状態で。

ミセ;゚ー゚)リ「ドクオさん!」

俺の姿を見つけたミセリが、絶叫のような声で俺の名前を呼ぶ。

どうしてきたの。

君が言いたいのはそういうことなんだろう。きっと。
そんな理由なんてもう決まってる。
俺は、俺の手で、俺の非日常を終わらせるために来たんだ。

('A`)「俺は、クソッたれな俺を殺す」

最高に厨ニ病な頭で、俺はそう呟く。

('A`)「大丈夫さ、うまくやるよ」

彼女に片手を上げる。

さぁ、始めよう。


87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 21:24:45.22 ID:LaDKxLMy0
ミセリを捕まえている何かは、今回はもう完全に見えなくなっていた。
その身に木の枝や木の葉なんて纏わせていない。
だから、引きずり出してやる。

俺はポケットから持ってきたものを幾つか取り出すと、ミセリの真横を目掛けて、思いっきり投げつけた。
それは思い通り、ミセリの横を通り過ぎた後、何も見えない空間で破裂した。
ビニール袋に突っ込んだ片栗粉は、ぶつかって破れた袋の中からぶちまけられ、
見事に「何か」の表面に纏わりついて、その居場所を知らせる印となった。
冷凍餃子の皮をパリッと焼く以外の用途で、俺の家の片栗粉が初めて役にたった瞬間だった。

断片的に明らかになった「何か」の姿は、カニのような複足の化物みたいだった。
片栗粉で露になった身体が動くたびに、何かが軋む音がした。
要するにコイツはロボットなんだろう。鬱陶しい鉄の塊だ。
透明機能をお釈迦にされたカニロボットは、ミセリをその腕で掴んだまま、怒り狂ったように俺に向かって突進をかましてきた。

おい、中に乗ってるんだろう。
あの目の赤いド阿呆。よく聞け。
俺を、あの時路地裏でボコボコにされていた俺を同じだと思うなよ。

命の危険だってありうる状況だというのに、
俺は不思議と良い気分だった。
今ならインターハイ優勝だって出来そうだった。


89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 21:27:38.71 ID:LaDKxLMy0
カニロボットが腕を振り上げて振るってくる。
俺はそれを紙一重でかわす。
なんてことは無い。

何度も俺は頭の中で想像していたんだから。
ずっとずっと待ち望んでいたけれど、もうお前にすがり付いて行くことはやめたのさ。

チャンスは一度。
それをミスったら保証は無いが、外すつもりもない。

相手はカニ型ロボットだ。
狙う場所はただ一点、その平べったいドテっ腹。

もう一撃、カニロボットの攻撃をかわして、俺はその腹の真下に潜り込む。
俺はあの男に襲われた後からずっと、腰のベルトに挿していたものを抜き出す。
どう見ても先端から危険な何かを発射しそうなフォルムの、いかつい物体を。

そして俺はそれを両手で握る。
先端をロボットの腹部に向ける。
しっかりと照準を合わせる。

俺の非日常に。

今までの俺自身に。

決着をつける。

引き金を、引く。

90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 21:31:07.93 ID:LaDKxLMy0
「君は宇宙刑事なんかじゃないんだろう」

俺はミセリにそう言った。

後ろでは腹にデカイ穴を開けてモクモクと煙を上げるカニロボットと、
その傍らで縛り上げられた挙句ボコボコにされて気絶している目の真っ赤な男が居る。

結局のところ、彼女はやっぱり宇宙刑事なんかじゃなかった。
確かに、彼女が乗っていた船は銀河広域警察機構が警備する輸送船だったし、
その輸送船を宇宙のギャングみたいな奴らが襲撃して、「輸送していたモノ」は脱出した、ということは本当だったらしい。

ただ一つの嘘は、彼女は宇宙刑事ではなく、「輸送していたモノそのもの」だということだ。

考えて見れば簡単な話だった。
あの高台から俺が彼女とジャンプした時・・・何かの装置が働いてワープした時。
装置は、ミセリの危険を察知した、といった。
ということは、あれはミセリの為の保護的な装置だ。
そんな護身用の装備を、危険から誰かを守るための任務についていた刑事が身につけているわけが無い。
だから彼女は、刑事ではないということになる。

なのに彼女は追われていた。
考えられる理由は二つある。
彼女が「輸送していたモノ」を持っていたのか。
あるいは、彼女そのものが目的だったのか。

ここからは結構微妙な判断だが、
あの目の真っ赤な男の言動からして、狙っていたのはモノではなく人だと俺は考えていた。

正解は果して後者だった。

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 22:06:49.81 ID:LaDKxLMy0
まぁ、彼女の言葉を素直に信じた俺も中々に間抜けだったな、フヒヒ。
でも仕方ない。
惚れちゃった女の子を疑うなんて、男として最低だと思う。

「ごめんなさい」

彼女は俺が優しく手を載せている肩を震わせて泣いた。

どうして泣くんだ。
君は何一つ悪いことなんてしていない。
君は君に出来る最大限の努力をしたじゃないか。

俺がダメダメだっただけなんだ。
俺がどうしようもない男だったんだ。
俺はどこまでも俺のことしか考えていなかったんだ。
だから、俺は変わらなくちゃいけないんだ。

だってそうだろう?

俺は世界を変えたい。
誰も見たことのない、経験したことのない、そんな毎日を日常にしたかったんだ。
けれどそれは待つだけじゃ俺には出来ないんだって分かったんだ。
いや、知っていたけど、目を逸らしていたから、今度はまともに向き合うことにしたんだ。

だから。

96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 22:10:50.69 ID:LaDKxLMy0
俺はもう諦め続ける事をやめる。

俺はこのくだらない毎日を変えられる俺に変わるんだ。

待つのはやめて、自分から変えていってやる。

そうして、変えることが出来たら。

変われることが出来たら。

俺は・・・。


98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 22:14:20.41 ID:LaDKxLMy0
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それからまた数日後に時間を飛ばすと、俺は病院に入院している。
理由は肋骨を二本骨折して、内臓までちょっとイッちゃっているからだ。
道理で痛いわけだった。よく我慢したよ俺。

( ^ω^)「おいっすー。見舞いに来てやったぞ」

病室のドアが開いて、デブもといブーンが入ってきた。

('A`)「よぉ、一本背負い馬鹿」

( ^ω^)「入院期間ひと月延ばしてやろうか?」

('A`)「ファーブルスコ」

( ^ω^)「なにいってんだこいつ」

馬鹿な会話。

( ^ω^)「退院はいつだってお?」

('A`)「冬休みの終わりごろだってよ」

( ^ω^)「ざまぁwwwwwwwwwww」

(#'A`)「うっせぇよデブ」

何処にでも、誰にでもありうる、日常の一コマ。
時間は坦々と、何事もなく過ぎていく。

99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 22:17:58.08 ID:LaDKxLMy0
( ^ω^)「じゃあ、またくるお」

('A`)「二度来るな」

俺は愛すべきデブを病室から追い出して、窓の外の景色を眺めた。

('A`)「・・・」

あれから暫くして、彼女は去っていった。
救援としてやってきた、彼女を様付けで呼ぶ、何だか凄そうな連中に連れられて。
結局、俺は彼女がどうして狙われていたのかも知ることは無かった。

それでいいと思う。
知る必要はないのだ。
俺は俺の非日常を完膚なきまでに破壊したのだから。
彼女と別れて、俺の非日常はようやく終わったのだ。
それくらいのことは、俺だって分かっている。

彼女は実に勇敢だった。
そして優しかった。
自分の危険よりも、俺の安全を優先して、俺の家を出て行ってしまうくらいに。
本当に、純粋なまでに可愛い女性だった。

('A`)「あーあ」

俺はふと、溜息を付く。

102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 22:21:10.13 ID:LaDKxLMy0
これからやらねばならないことがたくさんあるのだろう。
コテンパンにされて、ケチョンケチョンにされて、それでも立ち上がらねばならなくなるのだろう。
それが日常だ。
何かを目指しながら苦労して挫折して、そうして人は生きていく。

('A`)「それもまぁ、中々いいもんじゃないのかと僕は思うわけですよ」

それだけでも、大きな進歩じゃないかと思う。

ブーンがお見舞い品に持ってきたリンゴを手にとって、皮を剥きもせずに齧る。
完全にボケたリンゴだった。やっぱアイツはデブバカだ。

でもなぁ。

人間って贅沢すると元に戻すのに時間掛かるっていうよな。

('A`)「よく考えたらそんなに贅沢して無い気もするな…。
  もうちょっとお色気パート欲しかったよなー。本音を言っちゃうと」

俺は呟いて背伸びする。

('A`)「あー、何かムラムラしてきた」

首を回しながら呟く。

('A`)「かわいくてえっちぃ彼女が欲しいなぁ」

人生で性欲最高潮の年代として何の問題も無い発言を俺が口にするのと、
病室のドアが開くのは全く同時だった。


103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 22:25:01.79 ID:LaDKxLMy0
('A`)「・・・」

なんなの?
なんでドアが開いちゃうの?
どうして俺はこうタイミングが悪いの?

もうくじけそうなんだけど。

てっきり看護婦のオバハンか、あの柔道バカデブが忘れ物をして戻ってきたのかと思ったし、
聞かれた発言が発言なので、俺は恥ずかしさを誤魔化す為に気付かない振りをして、ドアの方を向かなかった。
しかし、現れたのは予想とは掛け離れた人物だった。






「大胆な発言ですね」






俺は一瞬硬直してから気を取り直し、聞き覚えのある、その声のするほうを向く。

世の中やっぱ捨てたもんじゃねーな、と思いながら。



109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/29(水) 22:36:20.65 ID:LaDKxLMy0
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さて、これでこの話は終わりだ。

これ以上は語るつもりも無い。

俺が語りたくて勝手に語ったのだから、何処で語るのをやめるのも俺の勝手だろう。

というか、よくもまぁココまで聞いてくれたものだ。

途中、飽きて寝ていたりしたのかもしれないが、俺にはそれを知る由も無い。

とにもかくにも、俺の話は終わりだ。

俺の初恋を語ったちゃんちゃら可笑しい恋愛話、

または俺の心の成長を語ったビルドゥングスロマン、

あるいは聞くに耐えない厨二病患者の自慢妄想話、

まぁどういう風にとってくれても構わない。

むしろ、色んな風に、それぞれの捉え方をするから、この話も聞いてもらえるのだと思う。

そんなことを言える俺も、少しは変わったんじゃないだろうかと思うんだが、どうだろう?

-----------------------------------------------------------------------------------

('A`)ドクオ語りのようです おしまい


114 名前: ◆L66fmP/Ue6 :2010/12/29(水) 22:40:32.19 ID:LaDKxLMy0


やっべぇトリップ忘れてた。付け方忘れたミスって酉バレこわいです。
読んでくれて有難うございました。

今更ながらリメイクじゃねーなこれ、加筆修正と言うべきだったな、と反省してます。
なので修正点は細かくいっぱいです。上げていたらきりがないのでカンベンな!
主にドクオくんの自問自答に関わる部分が気に入らなかったのでそこらへと、
冒頭記述、最後のあとがきあたりが主な改訂部分です。
ギャグとかも変えたけど自分でいったギャグを自分で説明するのはイヤです。

何かあったらどうぞ

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