mesimarja
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( ^ω^)異世界紀行のようです
1 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 21:20:28.65 ID:OfcuEIvK0

・短編
・投下が頓挫した場合は前後回投下になるかも
・トリップはこれで大丈夫か

立ったら投下します。


2 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 21:23:07.52 ID:OfcuEIvK0

 『プロローグ』


 朝だ。

 日差しが室内を満たしていた。
 石造りの無機質な空間だが、屋根があるだけで吹き抜けになっている。
 中央にある、同じく石造りの丸テーブルの周りに椅子がぐるりと配置されていた。

 一見すれば遺跡か何かと見紛うばかりだ。
 しかし実際は王城の一室であり、まさに王の客を通す異様な『客間』なのであった。
 訪れる客は毎年一人だ。

 空が明るい。
 風の音だけが静寂を際立たせている。
 まるで人の気配が無いかのように見えた。

 テーブルに一人、溶け込むように手を添えている者がいた。
 一年ぶりに城を訪れた『客』である。
 粗末なマントの下に茶色の服を着こんでいた。

4 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 21:27:50.14 ID:OfcuEIvK0

 腰からは『ひんまがった』剣を下げている。
 風が抜けていくと『客』のマントは翻り、はためいた。
 春の匂いが微かに、石の部屋に残った。

 そのまま幾つかの雲が流れ、幾度か風が駆けた。
 変わらずに空は明るかった。
 やはり朝だ。

 時間が止まった様な太古の景色を、『客』は見つめていた。
 やがて自分自身が風景の一部となってしまうのを楽しむように、息を吐く。
 どこの世界でも変わる所など無い。

 人は、いつかどこかで風景なのである。
 それは記憶の問題では無い。
 どれだけ多くの人と会おうが、どれほど道を往こうが。

 『客』はゆっくりと目を閉じる。
 景色が消えて、匂いと音だけになった。
 何かを失うと何かが鋭敏になるものだ。

 だが、失ったものがどんな物であったのかは思い出せない。
 二度と手に入らない物ならば、もう一度見る必要は無いのだから問題はないが。
 なのに最後の一度だけに、多くの人は見てしまったりする。

 見たものを取り返す事に注力し、結果は妙な所に転がって行く。
 失ったものよりも凄いものを手中に収めているのだ。
 だからと言って、やはり変わる事など無い。

 人は結局、不幸なのだ。

5 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 21:30:57.69 ID:OfcuEIvK0

川 ゚ -゚)「待たせたな」

 ここがどこなのかを、『客』は急に思い出す。
 クー王女が収める王国、その王城、その楼閣。
 他人がここに招かれる事など異端中の異端だ。

( ^ω^)「ご機嫌麗しゅうございますお」

 『客』が席から立ち上がり、地面に膝を下して深々と頭を下げる。

川 ゚ -゚)「あまり畏まる必要はない。君は我が国の民ではないのだから」

 クー王女が近くの席に座る。
 彼女が入ってきた入口の裏で、少し足音があった。
 きっと護衛が何人もついているのだろう。

川 ゚ -゚)「私もあまり楽しみがない。だからこそ君に話には期待しているぞ」

 透き通った声で王女が『客』を促す。
 彼は膝を上げると、王女と視線を合わせ、更に頭を下げた。

( ^ω^)「ご期待に添うように微力を尽くしますお」

 頭を上げた彼の顔には、気負いはまるでない様に見えた。
 吹き抜けていく風の匂い。
 そして、空はまだ朝だ。

川 ゚ -゚)「それではブーン……」

6 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 21:33:39.34 ID:OfcuEIvK0









 ――君はどんな場所を旅したのだ?









7 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 21:36:36.62 ID:OfcuEIvK0

 1 銀色の都市




( ^ω^)「そこは、全てが銀で出来た都市でしたお」

川 ゚ -゚)「煌びやかだな」

( ^ω^)「ええまったく」

 その都市では、昼も夜も煌めきが支配している。
 太陽の光は銀に鋭く反射し、月光は都市に波紋を投げかける。

( ^ω^)「失礼ながら王女様、あなたは僕の話を歪曲しておられますお」

川 ゚ -゚)「ほう。どのような点がだ」

( ^ω^)「僕は全てが銀と言ったのですお」

川 ゚ -゚)「それはつまり、外装が銀で出来ているだけでは無いと言う事か」

( ^ω^)「その通りですお」

 都市の壁は銀で出来ている。
 だが、その内側もぬかることなく全てが銀だ。

( ^ω^)「街には風車がありますお」

9 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 21:39:31.67 ID:OfcuEIvK0

 丘の上に作られた銀色の街は、郊外の方に風車を幾つも持っている。
 風が吹く度に風車は光を反射して都市の威容を内外に知らしめるのであった。
 他ならぬ、静かな銀色の音を響かせて。

川 ゚ -゚)「美しい、と言えば皆がそういうのだろうか?
     私は自身の意見を否定してくれる者がいないので、
     君には是非嘘偽りの無い、私の感想に対する感想を願いたい」

( ^ω^)「恐れながら、まだ王女様におかれては都市の一端を垣間見たにすぎませんお。
      都市の姿への決断を下すのは、今暫し遅らせても差し支えは無いと存じますお」

 銀色の都市は勿論の事、普通の大地に立てられたものだった。
 草地を銀板で舗装し、森林を抜き放って代わりに銀で出来た樹木を植えた。
 銀の樹木は光を受けて成長する代わりに、街に輝きをもたらす。

川 ゚ -゚)「徹底しているな」

( ^ω^)「それこそが、この都市の特色と言えましょう」

 ブーンはこの都市に三日ほど滞在した。
 絢爛たる風景は、もはや地上にいる事実を忘れさせるに十分だった。
 一歩間違えれば永遠にこの都市にいる事を選択しただろう。

( ^ω^)「一番僕を正気に繋ぎとめたのは、食事ですお」

10 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 21:42:38.14 ID:OfcuEIvK0

川 ゚ -゚)「まさか銀で出来ていたのか?」

( ^ω^)「はい」

川 ゚ -゚)「ばかな」

 それ以外にも、音が気になり始めたのだ。
 ドアの開く銀色の音、レコードを回せば流れる銀色の音、虫たちが放つ銀色の音。
 聴覚どころか視界も銀一色だった。

( ^ω^)「唯一銀ではない所は川くらいのものでしょうかお」

 都市の脇を流れる川もまた銀色ではあるが、紛れもなく普通の水であった。
 すなわち、反射する銀の光を受けてその色になっているのだ。

川 ゚ -゚)「さすがに川までは無理だったようだな」

( ^ω^)「いえ、昔は銀だったらしいですお」

川 ゚ -゚)「何と」

 いつ頃、何故、銀から水に戻したのかは分からないが、
 かつては確かに液体の銀が流れていたという。

( ^ω^)「ですがまた川には銀が流れ始めていますお」

 そうやって長い時間をかけて同じ事を繰り返しているのだ。
 銀でできた葉っぱが、川の上を流れていった。
 太陽を反射して束の間、視界を染め上げる。

11 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 21:45:35.26 ID:OfcuEIvK0

 意識がふらつき、そのまま倒れてしまった。
 目を閉じても銀だけが頭に残った。

( ^ω^)「気付いた時には僕は寝室にいましたお」

 銀の布団を払いのけて、光を通さない銀の窓を開け放つ。
 夜の闇がようやく光を退けた。

川 ゚ -゚)「何と煌びやかな」

( ^ω^)「一度出向かれれば、そんな事は言えますまい」

川 ゚ -゚)「うむ。興味をひかれてならない」

( ^ω^)「その通りですお」

 無数の月光が、銀の壁、銀の道路、銀の街灯、あらゆる物に映った。
 それは銀の下地に、同じ色の円が乱立する景色だった。
 大小様々な円が、今度は空に反射していく。

( ^ω^)「『天の川』におかれては足場を気にする必要はありませんお」

川 ゚ -゚)「『アマノガワ』とは何だ」

( ^ω^)「失敬、夜空の事ですお」

川 ゚ -゚)「君は時折妙な言葉を選ぶ」

( ^ω^)「恐縮ですお」

12 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 21:49:25.12 ID:OfcuEIvK0

 今や、夜空には星が幾つも追加されていた。
 更に銀色の円が編み込まれるように世界を包んでいく。
 さながら世界の至宝を無限に組み合わせた、それこそ至宝の様に。

( ^ω^)「今こそ天空は何かを迎え入れようとしている様に見えましたお」

 数分間の夜と感じたが、それは誤りだった。

( ^ω^)「僕はこの絢爛たる光景を見続けていたのですお」


川 ゚ -゚)「君は一体何に遭遇したのだ」

( ^ω^)「何にも遭遇しておりませんお。
      僕は夜通し空を見続け、そこに朝日を見たのですお」

 天空に描かれた銀色の門は、夢想でしかなかった。
 たった数分間の、しかし一晩の光景。
 気が付いた時には銀色に包まれていた。

( ^ω^)「部屋は全て銀色。つまり、朝日を受けて部屋の中が輝き始めたのですお」

川 ゚ -゚)「夜が明けたのだな」

 再び閃光が都市を埋めつくしていく。
 この光はどこに消えていくのだろう。
 それは、時間がどこで生まれるのかを考えるのに似ていた。

13 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 21:53:59.59 ID:OfcuEIvK0

( ^ω^)「過去がどこに行くのかは分かっていますが……」

川 ゚ -゚)「初耳だ」

( ^ω^)「決まっていますお。人の頭の中ですお」

川 ゚ -゚)「成程な」

( ^ω^)「実はもう一つ行き先がありますが、まぁ重要ではありませんお」

 それから再び夜空に描かれる至宝を見る為に都市に留まった。
 だが、二度と見る事は叶わなかった。

( ^ω^)「あれは人間には一度しか見れない物なのかもしれませんお」

 物は消費される。
 だが、物にも消費される対象を選ぶ権利がある事を忘れている。
 見る事によって消費される宝は、人間に姿を一度しか見せない決定を下したのだろう。

( ^ω^)「その証拠に、銀色の都市は次の日も変わらず動いていましたお」

 変わらず、聖なる銀色の光に包まれて。


( ^ω^)「以上が、銀色の都市で僕が見た事実ですお」

 ブーンは語り終えて、少しだけ王女から視線を外した。
 なぜなら、もう都市の話は完全に終わってしまい、語る事が何一つ無いからだ。
 どこにも疑問点などあろうはずもない。

16 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 21:58:25.64 ID:OfcuEIvK0

川 ゚ -゚)「どうも一つ疑問な点があるのだが」

( ^ω^)「それは一体?」

 不思議そうな顔を浮かべた王女が尋ねる。
 彼女が不審に思ったのは、ブーンがそれを語り忘れるのは珍しいからだ。
 むしろ、ブーンが語り忘れた事実を究明したいのだった。

川 ゚ -゚)「銀色の都市に住んでいる人々の事を、何故君は語り忘れたのだ?」

 都市の人々はいかなる者達なのか。
 意外な事を言われて、虚を突かれたようにブーンがやや目を見開く。
 そしてすぐに落ち着いた顔に戻ると、次のように言った。

( ^ω^)「それは、最初に言いましたお」







18 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 22:01:46.53 ID:OfcuEIvK0



 2 轍を追って







( ^ω^)「旅人は意外にも暇なものです」

川 ゚ -゚)「言われてみればそうかも知れないな」

( ^ω^)「僕の場合、道に刻まれた轍を見つけると、つい追ってしまうのですお」

川 ゚ -゚)「暇な訳だからな」

( ^ω^)「暇な訳でして」

 次の目的地に向かう街道の分かれ道に、轍は続いていた。
 何の変わりもない車輪で刻まれた二本の線。
 どうせ当ても無かったので、ブーンは線の間を歩いて行く。

 季節は初夏だった。
 蝉の鳴き声が聞こえない林の中を、ゆるゆると進む。
 土の匂いがやけに目立っていた。

( ^ω^)「その先に僕は一つの村に行き着きましたお」

20 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 22:05:29.06 ID:OfcuEIvK0

 先程の風を最後に、何故か熱気は消えていた。
 吹き抜けていくのは春風。

( ^ω^)「その村に名前はありませんお」

川 ゚ -゚)「だが私に語り聞かせる上では不便ではないのか」

( ^ω^)「では便宜上、春の村と名付けましょう」

 春の村では、常に生命が溢れていた。
 花々は満開で、小鳥たちの相手をしており、小川のせせらぎが小さく聞こえていた。

( ^ω^)「ご存知無いかもしれませんが、桜の花が天を桃色の染めていましたお」

川 ゚ -゚)「『サクラ』とな」

( ^ω^)「はい。薄く淡い、光の様な花ですお」

川 ゚ -゚)「今度少しばかり輸入して庭園を三つほど作ろう」

( ^ω^)「民もきっと喜びますお」

 桜の花弁が降り注ぐ中で人々はつつましい生活を繰り返していた。
 笑い、泣き、働き、最後に酒を呑む。
 大人たちが日々の話題で盛り上がる横を、子供たちが走って行った。

 巻き上がった花をしり目に村を貫く街道を往く。

22 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 22:09:15.67 ID:OfcuEIvK0

川 ゚ -゚)「王城ではありつけぬ風情があるな」

( ^ω^)「王城にも、小さな村がありつけぬ豪華さがありますお」

 街の中心では祭りが行われていた。
 酒樽を幾つも積み上げて、料理の乗ったテーブルが長大な列を作っている。
 陽気な村人に捕まり、しこたま酒を飲まされて、潰れかけた所で解放された。

川 ゚ -゚)「妙な災難だな」

( ^ω^)「災難でしたお」

 春の村の夜は暖かかった。
 祭りのせいもあってか、皆が外で適当に寝ていた。
 見上げるといつもより小さな月が、桜の間から村を見下ろしている。

 一枚、桜の花弁が目の前を通ってどこかに消えていった。
 村での記憶は、それで最後だった。


( ^ω^)「次の日に目を覚ますと、僕はまた初夏の林の中にいましたお」

川 ゚ -゚)「うむ? 村はどうした」

( ^ω^)「消えていましたお。跡形もなく」

 だが道は続いていた。
 二本の轍が、奥へ奥へと誘う。
 仕方なく足を動かすと、気温が高まっていくのを感じた。

23 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 22:13:17.82 ID:OfcuEIvK0

( ^ω^)「文字通り肌で」

川 ゚ -゚)「さすがは旅人だな」

( ^ω^)「恐縮ですお」

 度を越えた熱気の中、鳥の声が頭上から聞こえた。
 朦朧とする意識を目の前に向けて、何とか歩く。
 林の出口に、それは待っていた。

( ^ω^)「海でしたお」

 カモメの声が遥な水平線まで届いていた。
 その瞬間ばかりは、どこまでも世界が蒼く、透き通っているように感じられた。
 磯の香りが遅れて届く。

( ^ω^)「ここは、夏の場所、とでも名付けましょうか」

 ぼうっとする気分を払いながら、浜辺に近付く。
 誰もいないが、代わりに海の生き物たちが微かに波間に浮かんでは消えた。

( ^ω^)「僕は林を抜けたつもりでしたが、どうやらただの荒れ地を進んで来たらしいですお」

 振り返ると荒れ地に十字型のシルエットが幾つか立っていた。
 何事かと目を凝らすと、それは墓標だった。

( ^ω^)「骸骨で出来た墓標でしたお」

25 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 22:16:52.42 ID:OfcuEIvK0

川 ゚ -゚)「悪趣味と言うべきかどうか」

( ^ω^)「判断の分かれるところですお」

 空になった骸骨の目の穴に、何か光が灯ったように見えたが気のせいだと記憶している。
 墓標の事は忘れて海の方に歩く。
 砂を踏む音が足の下を刺激した。

 砂浜に輝くのは、きっと剣の破片なのだ。
 もう砂かどうか分からなくなるほど細かくなってしまった破片。
 だから、背後の墓標は見つめている。

( ^ω^)「あの波間の中に、もっと墓標があるのですお」

川 ゚ -゚)「海の下にか?」

( ^ω^)「ええ。そして止まった夏の日差しの下、静かに世界を見つめているのです」

 海に注がれる夏の太陽は、より激しさを増していた。
 しかし暑さよりも、透明な空気だけが身体を包んでいるのだった。

( ^ω^)「静かな太陽、絶え間ない波、遠い日に聞いた鳥の声」

 いつの日か、人は生まれた場所に帰って行くのかもしれない。
 どれほど見ていようと飽きは来なかった。

川 ゚ -゚)「人とは海からいずるのか?」

( ^ω^)「……一説には」

26 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 22:20:42.32 ID:OfcuEIvK0

 蒼い夏は有限の物だった。

( ^ω^)「背後に車輪の轍を再度発見しましたお」

 浜辺に刻まれた車輪を追って、再び歩きはじめる。
 解放感と透明感だけで構成された夏は終焉を迎えようとしていた。
 空に違う色が混じり込んでいる。

 雨を呼ぶ様な、水の色が。

( ^ω^)「もう僕は、あの夏に戻る事は出来ませんお」

 それが少しだけ物悲しい気分になる理由だろう。
 そう、少しだけ。

( ^ω^)「だから……」

 言い淀んだブーンに、王女が笑いながら問いかける。

川 ゚ -゚)「どうしたのだ」

( ^ω^)「いえ」

川 ゚ -゚)「君は、夏の場所を去る時どんな顔をしていたのだろうな?」

( ^ω^)「まったく王女様もお人が悪い」

 二人は笑いあった。

28 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 22:23:53.19 ID:OfcuEIvK0

 浜辺を越えて林の中を行く。
 残暑は引き、空気が乾き始めた。
 やがて木の数は増えて、気付けば森の中の獣道を歩いていた。

( ^ω^)「突然で申し訳ありませんが、ここで遭難してしまったのですお」

川 ゚ -゚)「そんな事もあるだろうな」

( ^ω^)「あるのですお」

 色があった。
 深紅、黄金、漆黒。
 枯れかけた木々が空を砕いており、薄くて遠い雲が冗談のように流れていた。

 光る葉の絨毯を踏み歩くと、一歩ごとに同じ色の光が反応する。
 舞い上がる蛍灯が百を越えた時に足をとめた。

( ^ω^)「紛れもなく、惑星ごと貫く世界樹でしたお」

川 ゚ -゚)「『ワクセイ』とは?」

( ^ω^)「失礼しましたお。我らがよって立つこの大地の事ですお」

川 ゚ -゚)「やはり君は妙な言葉を使う事があるな」

( ^ω^)「恐縮ですお」

29 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 22:26:19.00 ID:OfcuEIvK0

 彼はどれくらい生きているのだろう。
 そう思わずにはいられない、生物の力強さがあった。
 そして力強さを超越した荘厳なる佇まいがある。

 舞い落ちる黄金の枯葉が、何故か顔に当たらない。
 眼前の霊樹が何かを語りかけていた。

( ^ω^)「惜しむらくは僕に信仰心がまるで無く、霊感まで無い事でしたお」

川 ゚ -゚)「しかし、こういった場合は言語を越えた何かで意思疎通を図るのでは?」

( ^ω^)「さすがは王女様」

川 ゚ -゚)「おべっかはいらん」

( ^ω^)「失礼しましたお」

 相変わらず黄金の葉を舞い散らし、霊樹は緑色の光を発し始める。
 足元にも奇妙な図形が幾つも描きだされていく。

( ^ω^)「僕はこの、秋の森が危険だと直感し、その通りに行動しましたお」

 霊樹とは反対方向に駆けだすと、見失った車輪の轍を発見するに至った。
 それを追って足を夢中で動かした。
 背後からは緑色の図形が追跡して来る。

 黄金の落ち葉が弾け飛び、天地が逆転したかのような奇妙な光景が広がる。
 森に入った時は木々が空を砕いていた。
 だが今は地面が砕かれて空となっていくのだった。

30 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 22:29:28.76 ID:OfcuEIvK0

( ^ω^)「いつ森を抜けたのかは分かりませんが、何とか事無きを得ましたお」

 しばし考えていた王女は、ブーンに言う。

川 ゚ -゚)「君は、色を敢えて私に伝えていないな」

( ^ω^)「どういう意味でしょう?」

川 ゚ -゚)「いいさ、一つだけ答えろ」

( ^ω^)「何なりと」

川 ゚ -゚)「君が見て、逃げた霊樹は何色だ?」

 吹きだす様にブーンが笑う。

( ^ω^)「鉛色ですお」

川 ゚ -゚)「人工物か?」

( ^ω^)「失礼ながら、質問は一つだけという約束ですお」

川 ゚ -゚)「そうだったな」



31 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 22:33:30.02 ID:OfcuEIvK0

 森を抜けると、草原に出た。
 肌を刺すような感覚は、間違いなく冷気であった。

( ^ω^)「王女様は雪を見た事がありますかお」

川 ゚ -゚)「無い。この辺りは雪が降らん」

( ^ω^)「ですが、想像は出来るかと存じますお」

 鉛色の空から舞い落ちる白。
 それは思ったよりも早く落ちて来る物だった。

( ^ω^)「無造作に、だからこそ世界をまた白に戻していくのですお」

 草原はやつれた緑色だが、やや白に染まりつつあった。
 終わりを迎えようとしているのだ。

( ^ω^)「世界が変転するならば、終わらない物など有り得ませんお」

 終端の季節。
 冬の草原に一人立ち尽くすのは、何とも不気味だった。

川 ゚ -゚)「雪の降らない我が国に終焉はありえぬか?」

( ^ω^)「この王国は益々の繁栄をするかと存じますお」

川 ゚ -゚)「口がうまい者が居る事は愉快な事だ」

( ^ω^)「またまた御冗談を」

33 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 22:36:39.56 ID:OfcuEIvK0

 一粒一粒を追おうとすると次の粒が舞い落ちる。
 悴む手に乗って、すぐに消えていく。
 頭髪に手をやりながらマントの雪も落とす。

 半分が水滴となって飛んでいったように思う。

( ^ω^)「白というクオリアは不思議ですお」

 何故それが白に見えるのか。
 何故、色は『そう』認識されるのか。
 究明される事は無いだろうが、澄み切った色の無い色。

( ^ω^)「白という色に、我々は神聖なる想像を掻き立てますお」

 すなわち人が色から受け取る感覚には偏りがある。
 赤が火、青が水という自然界の法則以上に。

( ^ω^)「冷気、氷雪、透明な冬の匂い」

 花は消え、生命は果て、音は止む。
 だが雪が自らを主張する、降り積もる瞬間の振動。

( ^ω^)「そこには止まった時間と、ただ一色」

 白しかない。
 何も無くなるのは、自浄作用なのかもしれなかった。
 汚れた世界の風と景色を洗い流し、一色に戻すための。

35 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 22:39:32.42 ID:OfcuEIvK0

( ^ω^)「だから人は一面の白に足を踏み入れる瞬間、
      愉悦を感じるのかもしれませんお」

 思ったよりも硬化する積雪に、まだ空は雪を送る。
 止まっていた時間が動き出して風が身を切る。
 自身が冬にいる事を思い出すと、頭上には闇が迫っていた。

( ^ω^)「紛れも無く、冷気と雪は死の象徴と言っても過言ではありませんお」

 雪原は広がり続け、もう出口は見つからなかった。
 それでも心の中は愉快な気持ちだけで満たされていた。
 我を浄化せよ、訪れる夜に向かって呟く。

( ^ω^)「踏みしめる毎に死へと向かうのは、愉快でしかありえませんお」

 空間中の水分が固体化して、細氷が煌めきながら通って行った。
 感覚の消え始めた四肢をそれでも動かすのは恐怖なのだろうか。

( ^ω^)「否、義務ですお」

 自身を中心に円状に景色が開けていった。
 雲の穴を通して、青い光が舞い降りる。
 月光だ。

( ^ω^)「それがあまりにも眩しく、雪と細氷を照らすのですお」

 踏みしめてきた足跡はもう消えていた。
 光の帯が数本に分かれて、青い光を投げかける。

38 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 22:42:42.82 ID:OfcuEIvK0

( ^ω^)「それでも白を染める事は叶いません」

 何故、『白』に見えるのか。
 それこそが神聖なクオリアだからだ。

( ^ω^)「王女様におかれては、もうその本質を知ったかと」

川 ゚ -゚)「人は無を原点としているならば」

 王女はその雪の様な肌を、始まりの朝日に浮かべながら言う。

川 ゚ -゚)「原点たる白。何者も存在しえぬ冷気。その中に舞い落ちるのだ」

 ブーンは王女の姿に、それを見た。

川 ゚ -゚)「だからこそ雪は神聖、そして気高い」

 純白の雪よりも気高い王女に、ブーンは平伏した。
 王は、無を知らねばならないのだから。


41 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 22:46:14.93 ID:OfcuEIvK0

( ^ω^)「青い光を追っていくと、僕は二本の轍と再開しましたお」

川 ゚ -゚)「雪原でか」

( ^ω^)「いえ、光の中でですお」

 そして気が付けば、街道の中を歩いていた。
 背後には雪原も無ければ、森も、海も、村も無かった。
 ただ初夏の青空の下、道が続いているだけだった。

( ^ω^)「僕は轍を追いましたお」

 すると二本の分かれ道があった。
 轍は、その二つの道のどちらにも後を残していた。
 思い返せばそこは最初に轍を追って曲がった道だったのだ。

 今度は真っ直ぐ目的地への道を選択して、二本の車輪の間を歩く。
 拍子抜けするほど道中は問題が無かった。
 やがて遠景に大きな城壁が見えてきた。

 次なる都市に入れる。
 そう思うと、足は速まった。

( ^ω^)「城壁では衛兵に会いましたお」

43 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 22:48:53.35 ID:OfcuEIvK0

 軽く挨拶すると門を開きながら言った。

( ^ω^)「『この都市はどうでしたか?』」

 衛兵に言うとおり、城壁の先には街道が続いている。

( ^ω^)「僕は街がどこにあったのか尋ねましたお」

 すると衛兵は何でもない様に答えた。

( ^ω^)「『皆さん、そう仰られます』」

 『都市』を出て街道に踏み出す。
 ずっと一緒に旅をしてきた二本の車輪の跡も外に続いている。
 そして無数の轍と一緒になって、分からなくなった。







44 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 22:52:44.51 ID:OfcuEIvK0


 3 城砦に朝が降る






( ^ω^)「これは結局、一人の少女の話ですお」

 ブーンは王女ではなく虚空を眺めつつ言う。

( ^ω^)「そして一人の王の、短い夜の話ですお」

川 ゚ -゚)「ふむ」

 王女が、一人の少女であった時と王である現在を重ねる。

( ^ω^)「僕はその城砦で捕虜となりました」

 少し考えながらブーンは向き直る。

( ^ω^)「捕まった経緯はくだくだしいの省きますが、不思議な城砦でしたお」

 『城砦』は都市の中央部にあった。
 特質すべき外観を持つ訳では無かったが、内部は極めて異質である。
 砂煙の中、平気な顔をして深淵を身籠っている。

46 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 22:55:56.81 ID:OfcuEIvK0

( ^ω^)「今にして思えば、そんな城の中に入れた事は幸運だったのかもしれませんお」

川 ゚ -゚)「何事も経験と捉えて、自らの血肉とするか」

( ^ω^)「個の人生とは経験の地層ですお」

川 ゚ -゚)「浅い地層には、人が住みやすいのだろうか」

( ^ω^)「人は凍土にも、灼熱の大地にも住む事が可能ですお」

川 ゚ -゚)「人とは天地の狭間に生きるもの、か」

 城砦の中は熱くも寒くもなかったが、『夜』だった。
 幾ら窓を開けようとも、光を取り入れようとも、変わる事ではない。
 夜とは、時間では無く場所を指すのだから。

 月も星も無い無窮の中で、城塞の増築は繰り返された。
 大きな部屋、小さな部屋、長い通路、短い通路。
 それらは無数に枝分かれし、時には繋がり、増殖していった。

( ^ω^)「これは説明が難しい概念ですお」

川 ゚ -゚)「つまりは無限の闇の中に、同じく無数に部屋が乱立しておるのか」

( ^ω^)「その通りです王女様。そして何より、それは現在をもって増殖するのですお」

 通路によって繋がれた部屋は、まるで円を描くように増殖している。
 螺旋を描きながら時の流れに従って巨大になっていく。

47 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 22:58:57.69 ID:OfcuEIvK0

( ^ω^)「城砦内部は、いつしか『時の回廊』と呼ばれるようになっていましたお」

 回廊の一つに捕えられ、暫し時が過ぎた。
 もしかしたら外は百年くらい経ってしまったのではないと心配したが結局杞憂であった。
 日に一回出される食事以外は、する事も無く呆けていた。

( ^ω^)「僕を旅人と知ると、一人の娘が尋ねてきましたお」

 身分は明かさなかった。
 ただ、旅の話が聞きたいと言ってきたのであった。

川 ゚ -゚)「不遜な。君とのその契約は私の方が早かったはずだぞ」

( ^ω^)「断れば王女様との契約を果たせなくなる可能性がありましたお、御容赦を」

 かくして、幾つかの旅の話を披露した。
 反塔、すなわち地下に広がる都市の話。
 天頂、すなわち世界の外に存在する都市の話。

( ^ω^)「あぁ、恐れながら王女様の国の話も」

川 ゚ -゚)「ほう。して『ウケ』たか?」

( ^ω^)「は、特に王女様の国の話は」

川 ゚ -゚)「重畳である」

 暫く会話を続けていれば分かる事だが、その娘には気品があった。
 庶民と貴族を隔てる気位とは確かに存在するのである。

49 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 23:02:49.82 ID:OfcuEIvK0

( ^ω^)「さて、僕はそこに捕まっていたので脱出したいと考えましたお」

 目の前の娘が、少なくとも貴族であるならば、無条件で高い地位にあるだろう。
 王の城砦に住んでいるのだから当たり前だ。

( ^ω^)「動かない状況に対して、人は二つの行動をとれますお」

 一つは、同じく動かない事。
 もう一つは、極微にでも行動を持って相対する事。

( ^ω^)「僕は代わりに城砦の話を聞きましたお」

 城砦の王は独裁者だった。
 圧政とは言わないが、善政とも言えない治世。
 ともかくも王の器であるかとの問いには、否と答える者が多かった。

 この評価を聞いて怒り狂うならば暗君と言えよう。
 城砦の王は、この評価を聞いても怒りはしなかった。
 ただ受け止めただけだった。

 自身ではどうにもならない事を理解していたからだ。
 それが王の限界でもあったし、才能の全てであった。
 無能である事を理解する王は、暗君ではありえない。

( ^ω^)「王には娘がありましたお」

 一人娘で、他に子供はいなかった。
 男児が居ない事には問題視する声もあったが、他に適当な世継ぎもいない。
 必然、娘が王位継承者となる。

51 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 23:05:15.52 ID:OfcuEIvK0

( ^ω^)「王が無能であるのは、教育を受けていないからだ」

 そう考えた王は、娘に徹底的に王たる考え方を叩きこんだ。
 民を導かねばならない、善政を確立させねばならない、敵を作ってはならない。

( ^ω^)「蛙の子は蛙と申しますが、どうやら教育の仕方で変動があるようですお」

川 ゚ -゚)「カエル? 変わった言い回しだな」

( ^ω^)「……方言でして」

 姫は、徐々にであるが王の器を作り上げつつあった。
 しかし、王たるが故に課された最たる制約がある。

( ^ω^)「王たる者、殺されてはならない」

 城砦の外に出る事は叶わなかった。
 姫は、ただの一度も外を見た事がないのだそうだ。


( ^ω^)「僕と会話をしていた娘は、姫の御側付きだと言いました」

川 ゚ -゚)「少なくとも、王族と近くなければそれだけの情報を知る訳があるまいな」

( ^ω^)「こうして僕は、状況を動かしたのですお」

 城砦の中を見てみたい。
 そのついでに、君も久しぶりに外を見てみないか。

55 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 23:09:23.28 ID:OfcuEIvK0

( ^ω^)「予想外でしたお、娘は僕の腕を取って走り出しましたお」

 護衛の兵士たちを置き去りに。

川 ゚ -゚)「もしかして、悪い方に動かしたのか?」

( ^ω^)「恥ずかしながら」

 時の回廊に、足音と警笛が響く。
 城砦の古い空気を後にして、二人は走った。

( ^ω^)「前にも申しましたが、時の回廊は『無限』なのですお」

 外になど続いている訳は無い。
 同じ景色だけが、大小だけを切り替えて続くのである。
 時間とともに。

( ^ω^)「殺風景という言葉がありますお」

 等間隔で頭上に並ぶ蝋燭、暗がりに移る二つの影。
 洞窟のような城内を、果てなく歩む。

( ^ω^)「しかし、単調という事と、変化という事は両立されませんお」

 時間が必ず変化をもたらすならば、殺風景は歓迎すべき貴重な瞬間である。

( ^ω^)「そして城砦の中を四階層ほど駆け上がり、そこにたどり着きましたお」

57 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 23:12:42.96 ID:OfcuEIvK0

 人間が単一の時間にのみ存在すると考える人はいないと思うが、
 それだけに二人は自分達の時間から外れない様に留意した。

( ^ω^)「僕達は僕達の時間である四階層に戻り、ようやくその屋上へ来たのですお」

 ただ、外の景色を見る為に。

( ^ω^)「重々しい扉を開けると暗い空が見えて、足元から花が舞いあがって行きました」

 追っ手の足音を聞いたので、さっさと扉を閉める。
 そして『ひんまがった』剣を取っ手に差して封をした。

( ^ω^)「深淵でしたお。冷たく、暗い夜が永遠に空を支配していたのですお」

 だが、どんな永遠も刹那の間に過ぎていく。

( ^ω^)「不思議な事に、娘は興奮した様子でした」

 星々が歌を歌うのをやめると、一瞬だけの静寂を挟んで世界が姿を変える。
 無窮の地平線を縁どる様に赤い線が照らしだす。

( ^ω^)「落日がオレンジならば、暁は黄金ですお」

 つまり朝は黄金に祝福されながら身を起こすのであった。

( ^ω^)「閃光が遂に夜を打倒し、人間の時間が始まったのですお」

 一陣の風が、朝日の到来を告げた。
 更に他の風達が集まり眼下の広大な花畑の眠気を払う。

60 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 23:16:18.46 ID:OfcuEIvK0

( ^ω^)「全てが城砦の上に舞い上がり、虹色の花々が太陽に表を上げました」

 降り注ぐ朝日は、灰色の城砦と比べるにはあまりにも眩しかった。

( ^ω^)「これも不思議なのですが、娘は涙を流していました」

 朝露の匂いだけが普段通り冷静な音を聞かせた。

( ^ω^)「女性には、男性にない独自の特質が山ほどありますが……」

 空が青さを取り戻し、夜は駆逐された。

( ^ω^)「その最たる例は、泣きながら笑う事だと思いますお」

 娘の顔は、ブーンの記憶の中で、彼の言うとおりになっていた。


 話を終えてブーンは王女の怪訝な顔つきに少し心配になった。

川 ゚ -゚)「君が言う女性独自の特質とは、私は同意しかねるな」

( ^ω^)「僕個人の愚考に、王たる者が迷う事はありませんお」

川 ゚ -゚)「そうだな。私は、王なのだから」


 これは結局、一人の少女の話だった。
 そしてこれは、一人の王の短い夜の話だ。

63 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 23:19:34.84 ID:OfcuEIvK0

( ^ω^)「王に祝福を」

川 ゚ -゚)「愚者に道しるべを」

 二人は、王と愚者の後に続く言葉を、それぞれ読み替えた。
 他ならなぬ朝日の為に。
 新しい城砦王の為に。

 ブーンが去る間際に花畑から後方を見た。
 まだ、城砦には朝が降っていた。









66 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 23:22:54.19 ID:OfcuEIvK0



 4 不幸な都市





( ^ω^)「思い出すのは女王様との邂逅の日ですお」

川 ゚ -゚)「それほど思い出深いだろうか」

( ^ω^)「右も左も分からぬ僕に、王女様の慈悲は天の恵みでしたお」

川 ゚ -゚)「確か捕まえて拷問しかけただけだった気が……」

( ^ω^)「その御威光で、僕の甘えを撲滅して下さったのですお」

川 ゚ -゚)「むぅ。そう思うならいいが」

( ^ω^)「これよりお話し致しますのは、最も異常な都市の話ですお」

川 ゚ -゚)「これまで以上にか」

( ^ω^)「目ではありません。最も異常にして異端の都市ですお」

 その都市を支配していたのは王ではなく秩序であった。
 すべからく、秩序なき国は滅ぶ。
 古来よりの教えが、一つの完成形として顕現していた。

68 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 23:25:42.86 ID:OfcuEIvK0

( ^ω^)「都市には無論、市民が住まっておりますお」

 世界の完成形が秩序である時、人の完成形とは如何に。
 秩序が法や制度ならば、即ち秩序は決まり事だ。

( ^ω^)「結論から申し上げますお」

 その都市は、人の自由度を奪う事で完成した。

( ^ω^)「それは神の時代に人が戻りつつあると言う事ですお」

 遥かな過去において、神は人に全てを与えた。
 しかし古い時代に全てを奪った。

( ^ω^)「バベルの塔をご存知でしょうかお」

川 ゚ -゚)「天を貫く、全能の塔と聞くが」

( ^ω^)「仰る通りですお」

 それは力の象徴。
 まさしく神そのものだ。

( ^ω^)「神は人に自由を与えましたが、それが人の破滅を呼びましたお」

 全能の神が与えた自由が引き金となり、世界は砕かれた。
 
( ^ω^)「もうお分かりですかお?」

72 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 23:29:26.08 ID:OfcuEIvK0

川 ゚ -゚)「神はわざと人を破滅させた、あるいは導き手として失敗した」

( ^ω^)「これは逆説を生みましたお」

 わざと破滅させたならば、その矮小さを誇示した結果になり、
 導き手としての失敗は無能の証明だ。

( ^ω^)「神などいない」

 遂に人は神を克服して自由を得る。
 いや、神を作り上げる。

( ^ω^)「その都市では、バベルの塔が乱立しましたお」

川 ゚ -゚)「神々の国か」

( ^ω^)「皮肉にも」

 市民たちは放射状に広げた石の道の他に、
 天を走る船をも操って移動した。

( ^ω^)「ご想像出来ますかお? そこは神の国を既に越えているのですお」

 ある地点と地点を高速で移動する蛇を使って、人々は駆ける。
 空を埋めつくす程のバベルの塔が都市を見下ろしていた。

川 ゚ -゚)「あまりにも幸福な国か」

( ^ω^)「恐れながら、逆ですお」

74 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 23:32:53.03 ID:OfcuEIvK0

 自由を剥奪されてしまった人はどうなるのか。
 秩序という制約が導くのは、神を越える力と、もう一つ。

( ^ω^)「秩序は人を部品にしますお。歯車にしますお」

 やがて見えてくる。
 その巨大な都市がどう動いているのか。
 バベルの塔の下に暗闇があり、そこを蠢くのは無数の歯車。

 円形の箱庭に並ぶ塔が動く。
 すると、歯車は砕ける。
 だがすぐに新しい歯車が都市を動かし始める。

( ^ω^)「人々は自らの不幸を理解した上で、部品としての生を全うしますお」

 不幸とは、都市の基本的な状態を指すのだ。
 そこに大きな揺らぎは無い。

( ^ω^)「やがて都市は存在しない物を求めるようになりましたお」

 それはかつて自分達で駆逐した、悪魔や龍、果ては異教の神。
 全てを渾然一体として何かを生もうとしていた。

( ^ω^)「力が導くのは、明日でしょうかお? 破滅でしょうかお?」

 ブーンは王女に問いかけた。

川 ゚ -゚)「それは……」

77 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 23:36:51.78 ID:OfcuEIvK0

 王女は鼻で笑ってから答えた。

川 ゚ -゚)「それはあくまで主義主張の問題だ」

 足を組みなおして、目を閉じる。

川 ゚ -゚)「国家運営において、個人規模の体感幸福度は問題にならない」


 よって、その都市は存続して未来に名を残すだろう。

川 ゚ -゚)「我が国の様にな」

( ^ω^)「王女様は、物事の本質を見ておられますお」

 二人の頭には、二人が想像するバベルの塔があった。
 だが、二つの塔の姿はあまりにも違いが多すぎた。
 実物を見た者とそうでない者の差は、天地程の開きがあるのだ。

( ^ω^)「もっとも、意思を奪われた人ほど幸福な人もおりませんが」

 ブーンは何かを思い出す様に、そう言った。

( ^ω^)「そして僕からは、最後のあいさつを」

 彼は立ち上がると、床に膝をついた。
 そして、この国の神に頭を垂れた。



78 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 23:40:10.06 ID:OfcuEIvK0


 『エピローグ』




 もうすぐ夜が来る。
 だが空が夕やみに包まれるまでに、僅かに時間があった。

川 ゚ -゚)「ようやく祖国を見つけたのか」

( ^ω^)「正確には帰り道を見つけたのですお」

 ブーンがこの都市を訪れてから数年が経つ。
 王女に会うのは年に一度で、最初の日から今まで続いている事だった。

川 ゚ -゚)「では今すぐ発つのか」

( ^ω^)「はい。本日は最後の挨拶でしたお」

 ブーンは今までの旅を振り返り、苦笑した。
 無様にも程があったのだ。
 残念ながら、祖国でも無様ではあったが。

( ^ω^)「この世界で過ごした数年は、僕の宝ですお」

 風がよく通る。
 土の匂いも、空の光も、自身の祖国では存在感を失っていた。

80 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 23:43:36.63 ID:OfcuEIvK0

( ^ω^)「さて王女様。僕は四つの都市の話をしましたが」

 やや躊躇うように視線をずらしてから、ブーンは続けた。

( ^ω^)「一つだけ、嘘が混じっているのですお」

川 ゚ -゚)「意図が読めぬが」

( ^ω^)「恐れながら、ご想像出来るように言葉を作り変えたのですお」

川 ゚ -゚)「して如何なる嘘を混ぜたのだ」

( ^ω^)「不幸な都市の話ですお」

 思い起こせば不思議な都市だ。
 ブーンは王女の瞳を真っ直ぐに見据えている。

( ^ω^)「簡単な事なのですが……」

 続けて言った事は王女に理解されなかった。
 それは正確には嘘では無く、翻訳だったのだ。
 双方の意思疎通を図れるのだから、合理化と言っても良い。

川 ゚ -゚)「理解できぬよりは余程いい」

( ^ω^)「恐縮ですお」

82 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 23:47:18.43 ID:OfcuEIvK0

 王女は立ち上がると兵士を呼んだ。

川 ゚ -゚)「近くまで送らせよう。地図を持ってこい」

( ^ω^)「それには及びません」

 手で制したブーンが立ち上がる。
 膝をついて、頭を下げた。
 この都市で憶えた最初の礼儀だった。

( ^ω^)「僕がこの都市に来たのは、奇妙な門からでしたお」

 空に浮かぶ星。
 それが、ブーンを呼んだのだった。

( ^ω^)「今日、ここに開く門から僕は帰還しますお」

 二人の会合が持たれた楼閣を指した。
 空が夜の色に覆われつつあった。

川 ゚ -゚)「そうか。楽しみが減るのは寂しい限りだが、仕方あるまいな」

( ^ω^)「御世話になった恩も返せず、心苦しい限りですお」

 王女は立ち上がると、薄い月を背にして口を開く。


86 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 23:50:27.74 ID:OfcuEIvK0

川 ゚ -゚)「では召喚者ブーンよ、君はどこから来たのだ?」

 ブーンは左手を右肩に当てながら、顔を上げる。
 最初に会った時の様に笑顔だった。

( ^ω^)「不幸な都市。日本の東京から、思いがけず参りましたお」

 客人は、薄い月の光に包まれていた。
 そして双方が一回だけ瞬きをすると、そこには片方の姿が無かった。
 王女は椅子に座りなおして、月明かりの影となる。

 こうして、夜が訪れた。














88 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 23:51:39.73 ID:OfcuEIvK0










( ^ω^)異世界紀行のようです









―― End



90 名前: ◆LQ1JdCjzDY :2012/01/22(日) 23:53:44.06 ID:OfcuEIvK0

以上で投下は終了です。
思ったより長丁場になってしまいましたが、お付き合いありがとうございました。


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