mesimarja
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(´<_` )は幸せになっちゃったようです
1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 13:13:57.53 ID:T+GvAa3Y0
 
秋学期が始まってしばらく経ち、涼しい風が吹くようになってきた。
男は半袖から長袖に変わり、女はサンダルからブーツに変わる。

(´<_` )「今日もジョルジュは学校に残るのかねぇ」

一人で呟く。答えを求めていたわけではない。
ジョルジュは、同級生の友人だ。

レクリエーションサークルと銘打った遊び専門のサークルに所属しているアイツは、
文化祭で可愛い女の子を誘いこむのだと言って意気揚々を準備をしている。
どうせ付き合う気などないくせに、罪な男だ。

アイツを始めとし、周囲は文化祭へ向けて動き始めていた。
一部の生徒は就職活動に追われているようだが、オレはまだ二年生なので気楽なものだ。
サークルの出し物さえしてしまえばそれでいい。

その出し物も、写真サークルのオレは今から忙しく駆け回る必要がない。
後は展示する写真選びと、その配置を考える程度だ。

年明けの試験を思えば憂鬱にもなるが、それもまだしばらくは先のことだ。
今のうちにできることといえば、講義を真面目に聞くくらい。
慌てる必要は何一つない。

今日の講義は比較的楽なものばかりだし、気分も軽い。
同じ時間に講義が終わる友人達と帰るのも悪くないかもしれないな。

先月、ようやく二十歳になり、遊びの幅も広がった。
少し遅いが、祝いと称して奢ってもらうのもいいかもしれない。


3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 13:16:17.63 ID:T+GvAa3Y0
  
オレはとある目的の為に、早く学校に来ている。
まだ早い時間なので、周囲に人の影は少ない。

時計を確認すると、ちょうど二十分前だ。
講義に出席するための登校時間としては早すぎる。
だけど、オレとしてはコレがジャストタイミング。

いつも通りの歩き方、同じ歩幅。
これならそろそろ来るはずだ。

川 ゚ -゚)「おはよう」

来た。
予想通りのタイミング。
校門の前で声をかけられた。
振り返れば、長髪黒髪の美女。

(´<_` )「おはようございます」

オレは美女に挨拶と一礼を返す。
顔を上げると、そこに彼女はいない。
少し離れたところに彼女の背中が見えた。
挨拶をしたので、自分の仕事は終わったということだろう。

別にオレが嫌われているわけではない。
あの人は、誰にでもあんな風だ。

風になびく黒い髪を眺める。
いつだって、あの人はこの時間帯にここを通る。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 13:19:32.57 ID:T+GvAa3Y0
  
名は体を現すというが、あそこまで見事にその言葉を体言した人をオレは知らない。
素直クール。VIP大学の三年生。オレの先輩。
同じサークルに所属していることもあって、それなりに面倒を見てもらっている。

いつも冷静なあの人が慌てたところをオレは見たことがない。
一度、部室にゴキブリが出たのだが、その時もあの人は表情を崩さずにゴキジェットを噴射していた。

('A`)「おいおいおいおい。
   朝から羨ましいじゃねーか」

美女の美声がインプットされていた脳内に、どうしようもない男の声が上書きされる。
何という悲劇なのだろうか。
再び後ろを見たオレの顔が、先ほどとは違い、壮絶にしかめられていても、誰も責めはしないだろう。

(´<_` )「……おはよう」

(;'A`)「何でそんな嫌そうな顔してんだよ……」

責めはされなかったが、向こうは些か傷ついたようだ。

(´<_` )「せっかく、クール先輩の美声を鼓膜と脳に残しておけると思ったのに」

('A`)「何それ怖い」

(´<_` )「お前に引かれるとか傷つく」

(;'A`)「そんな底辺を見るような目はやめて!」

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 13:22:33.95 ID:T+GvAa3Y0
 
ため息をついたこの男は、オレの同級生である鬱田ドクオ。
非リア充を擬人化したような男だ。まぁ、オレの友達でもある。

('A`)「というかさ、お前はいつでもクール先輩の声を聞けるだろ」

(´<_` )「サークルが同じだからな」

('A`)「マジ羨ましいわー」

クール先輩の美貌に心を奪われている生徒は多い。
あの容姿に、学校一の頭脳を持っているのは不公平を感じるが、嫉妬など覚える必要がない程、あの人は完璧だ。
女子生徒でさえ、嫉妬せずに羨望の眼差しだけを持っているという話も聞く。

オレとドクオは校舎に向かって共に足を進める。
教室へ一直線に向かってしまったクール先輩の姿はもう少しも見えない。

(´<_` )「今日は早いんだな」

('A`)「んー。昨日、エロゲしすぎてさ。
   寝たら昼間でコースな気がして、先に教室行って寝ようかと」

(´<_` )「お前はまだ未成年だろ」

(;'A`)「あっ! 自分が先に成人したからってそういう言いかたする?!」

ちなみにドクオの誕生日は十二月なので、まだ少し間がある。
しばらくはこのネタが使えるな。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 13:25:25.87 ID:T+GvAa3Y0
  
(´<_` )「ジョルジュの誕生日に酒飲んでたことをBwitterとかに書いてないか?
      今はお手軽に炎上できる時代だから怖いぞ」

('A`)「そもそもBwitterなんてしてねーよ」

一人で呟くだけならば、2chに書き込みをしている方がマシだという。
匿名じゃないと、ロクにコミュニケーションも取れないのか。お前は。
肩を落として意気消沈しているドクオが少し哀れだ。

(´<_` )「そう落ち込むな。
      今度の誕生日にエロゲをプレゼントしてやろう」

(*'A`)「本当か?!」

途端に顔を上げて瞳を輝かせる。
オレ、お前の友達だけど、正直引くわ。

(´<_` )「おー。本当だとも。何がいい?
      『ゾンビの同級生はプリンセス -不死人ディテクティブ-』か?
      『学園迷宮エロはぷにんぐ! ~イクぜ!性技のダンジョン攻略~』か?
      『色に出でにけり わが恋は』でもいいぞ」

('A`)「え……」

(´<_` )「どうした。選べ。流石に三つは厳しいからな。一つだけだぞ」

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 13:28:15.39 ID:T+GvAa3Y0
 
('A`)「いやいや。それ今年発売のやつじゃないしとかの前に、
   え? 何でそのラインナップ?」

(´<_` )「立派なエロゲです」

('A`)「うん。一応、エロゲだね。え?」

一体何が不満だというのだ。この贅沢ものめ。
どれもこれも、その界隈では有名な作品ばかりじゃないか。
オレはプレイしていないし、今後もプレイする予定はないけど。

(´<_` )「あぁ。わかった。なら、オレから一つ。ブーンから一つ。ジョルジュから一つ。
      これで三つともプレイできるな。喜べ」

(;'A`)「喜べるかー!」

ドクオの叫び声がこだまする。
おいおい。まだあまり人がいないとはいえ、外で叫ぶものじゃないぞ。
守衛さんが心配そうにこちらを見ているじゃないか。

(´<_` )「はいはい。とりあえず、進もうか」

まったく。クソゲーのトップに輝いた三作品を無下に扱うとは……・。
罰が当たっても知らんぞ。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 13:31:27.20 ID:T+GvAa3Y0
 
('A`)「あー。この学校は色々不便だよなー」

クソエロゲの話題から逃れたいのか、ドクオが不自然に言った。
しかたない。付き合ってやるか。
ただし、誕生日には今年のクソエロゲをプレゼントすることにしよう。

(´<_` )「立地からして不便だからな」

VIP大学は山の上に建てられている。
バスも通っているし車も通るが、少々交通の便が悪いことは否定できない。
最寄駅から歩いて来ているが、道すがらに本屋の一つもないなど考えられないだろ。

校内もそこそこ不便なもので、あまり鏡が設置されていない。
トイレにも設置されてないから、おちおち焼きそばも食べられない。
女子トイレには鏡くらいあるだろうが、青海苔チェックのためだけに女子トイレに入る変態にはなれん。

('A`)「縦に長いから移動も面倒だし」

(´<_` )「一応、エレベーターが設置されてるだろ」

('A`)「知らない奴と一緒に乗るのは嫌だ」

(´<_` )「別に絡んでくるわけでもあるまいし」

('A`)「オレ自身、理由はわからないが嫌なものは嫌だ」

(´<_` )「じゃあ諦めて階段を使え」

('A`)「入学してから、足に筋肉がついた気がするよ……」

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 13:34:18.43 ID:T+GvAa3Y0
  
ため息をつきながら、ドクオが階段を登る。
いつもの癖なんだろうな。今日はオレがいるんだからエレベーターを使えばいいものを。
しかたない。付き合ってやるか。丁度良い運動になるだろうし。

(´<_` )「健康的でいいじゃないか」

('A`)「朝までエロゲしてるような生活が?」

(´<_` )「自覚あるなら直せ」

毎日この階段を登っているドクオは慣れた様子で足を進める。
息切れしていないのは流石だな。

だが、普段は階段を使っていないのに、ドクオについて行っているオレも流石だ。
伊達に月に一度山登りをしているわけではない。

('A`)「お前は文化祭に参加するのか?」

こちらを見ているドクオの瞳は、どこか暗い。
サークルにも入っておらず、彼女もいないドクオには無縁の行事だからだ。
去年は、休みだぜー。と、言いつつも不貞腐れていた。

(´<_` )「当たり前だろ」

('A`)「そっか」

素っ気ない返事に少しムッとしてしまう。
自分から聞いてきたくせに。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 13:37:19.98 ID:T+GvAa3Y0
 
(´<_` )「ドクオは今年も休みか」

('A`)「たぶんなー」

こいつはあまり友人がいない。
オレと、ジョルジュと、ブーンというデブくらいだ。
所謂いつもの面子というやつ。

ドクオ以外の奴は他にも友人がいる。
特定の講義だけ言葉を交わす者から、時たま遊びに出かける者まで。
だが、ドクオに関して言えば、そういった人物と一緒にいるところを見たことがない。

(´<_` )「暇ならこいよ」

悪い奴ではない。
始めはとっつきにくいかもしれないが、案外頭も悪くはない男だ。
友人思いのオレとしては、彼女がいない者同士、一緒に文化祭を回ってやることもやぶさかではない。

('A`)「あー。いいって。
   お前はゆっくり楽しめよ。オレに気を使う必要ないって」

そう言った声は、苦笑いをしているようだった。
去年とはえらく違った雰囲気に驚く。
吹っ切れたのだろうか。それならそれでいいが。

('A`)「準備が忙しいってなら、代返してやってもいいし」

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 13:40:12.62 ID:T+GvAa3Y0
 
どうしたというのだ。
ドクオはいい奴だが、こんなことを言う奴だという認識はないぞ。
自分の非リア充加減に嫌気が差したのか?

(´<_`;)「いや、去年と同じく、もう殆ど準備は終わってる」

('A`)「そうか」

何だコレ。
まるで反抗期の息子と父親みたいな空気が流れてるぞ。
ドクオの奴、悟りを開きすぎて親の精神を手に入れてしまったのか?

('A`)「オレも写真サークルに入りたかったなぁ」

楽そうだし。と、後で付け加えられた。
何だ。リア充への憧れか。

(´<_` )「そんな考えだから入れないんだ」

('A`)「ちぇー」

唇を尖らせて不満を表している。
そうこうしている間に、オレ達は階段を登りきった。
上から見る風景は清々しい。

朝から眺める風景としては、百点満点だ。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 13:43:25.00 ID:T+GvAa3Y0
  
('A`)「でも、オレがいると便利だぜ?」

(´<_` )「何が」

('A`)「車の免許持ってるから、遠くにも写真を撮りに行ける」

そういえばそうだった。
オレはバイクの免許しか持っていないが、ドクオは車の免許も持っている。
以前、その方がモテそうだから。と、言っていたな。

ジョルジュも車の免許を持っているが、二人が持っているものが同じとは思えない程、モテ方には差がある。
結局、免許なんて付属品でしかないわけだ。
ダイヤモンドにリングがついていれば、素晴らしい指輪になるが、
そこいらの小石にリングがついていたって、何にもならない。

('A`)「デカイ車を借りてさ。どっかに行こうか」

気は早いが、冬休み辺りに旅行を計画してもいいかもしれないな。
男だけのむさい旅になりそうだが、それなりに楽しそうだ。

あぁ、でも駄目だな。

(´<_` )「お前の運転は怖そうだから止めておくよ」

ドクオはあまり運動神経がよくない。
車の運転にもある程度の反射や判断力が必要だから、こいつの運転には少々不安がある。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 13:46:34.52 ID:T+GvAa3Y0
 
('A`)「……あー。そうだよな。すまん」

気まずそうに言われた。
何だ。その反応。

(´<_` )「何だか、オレがいじめているみたいなんだが」

('A`)「いや、そういうわけじゃないんだけどさ」

以前から変な奴ではあったが、輪にかけて様子がおかしい。
始めこそ人見知りをするが、仲良くなった相手にはハッキリ意見を言う男だ。
こんな時は、失礼なことを言うな。くらいのことは言い返してきそうなものだが……。

('A`)「頻繁に運転しているわけでもないしさ。
   オレとしても人を乗せて運転するのは怖いんだよ」

怖気づいただけか。
だが、気持ちはわからないでもない。
車はでかいし、重いし、速い。人の命なんて、あっという間に消しさることができるものだ。

道具は悪くない。使う人間が悪いんだ。なんて、よく言ったものだ。
車は移動の道具だけど、誤れば人を殺す道具にもなる。
身近な殺人兵器だ。

(´<_` )「どこか行くだけなら、バスでも電車でもあるしな」

科学は人間に楽をさせるための学問だ。
有効活用しなくては。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 13:49:18.86 ID:T+GvAa3Y0
 
('A`)「んじゃ、皆でどっか行くまでは彼女作るなよ?
   男だけのむっさい旅にするんだからな!」

(´<_` )「ブーンにはすでに彼女がいる件について」

(#'A`)「ちくしょおおおおお!」

いつもの面子の中で、ブーンは唯一の彼女持ちだ。
それも可愛い金髪美女。
何でも幼馴染らしい。どこのエロゲですか。

(#'A`)「なら! お前は! お前だけは!」

(´<_` )「約束はしかねる」

(;'A`)「何……だと……」

途端に、ドクオの声がしぼんだ。
いや、オレも男の子なので。異性を好きになることくらいあるのですが。

(;'A`)「お前、クール先輩のような美人が傍にいて、他の女を好きになるというのか……?
    しかも、今の状況で恋、だと……?」

(´<_` )「先輩を神格化しすぎだろ……」

ドクオの中で、クール先輩は女神の地位でも与えられているのだろうか。
信仰心にも似た何かを感じたぞ。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 13:52:15.73 ID:T+GvAa3Y0
  
(´<_` )「おっと、ここでお別れだな。
      昼休みに会おう」

オレが向かう教室と、ドクオが向かう教室は真逆の位置にある。
ここで駄弁っていてもいいが、ドクオの睡眠時間を削っては可哀想だしな。
うん。何て良い奴なんだろうか。オレは。

二時間目も違う講義だったはずだから、会うのは昼休みだ。
食堂で会う頃には、ドクオの睡眠不足も解消されてるといいな。
その場合、講義の平常点は酷いことになっているだろうけれど。

(;'A`)「ちょっ……!」

話を途中で切られて焦っている。
強引に腕を掴んだりしない辺りが、ドクオらしい。
オレは一度だけ振り返って、口角を上げた表情を見せてやる。

(´<_` )「馬鹿だなー。冗談に決まってるだろ?」

(;'A`)「冗談?」

戸惑うドクオを放って、オレは教室へと向かう。
後ろの方から何か声が聞こえたような気がしたが、多分気のせいだろう。
一時間目の講義は校舎に入る階段を登ってすぐだから、移動が楽でいい。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 13:55:20.55 ID:T+GvAa3Y0
  
教室にはまだ誰も来ていない。
静かな部屋に、オレの足音だけが響く。
いつもの机に荷物を降ろして一息ついた。

(´<_` )「恋、か……」

窓の外を見れば、赤く色づいた葉が見える。
もうしばらくすれば、あれらは落ちていくのだろう。
桜のように、落ちながらも美しさを見せつけていく。

(-<_- )「今さら、小っ恥ずかしくて言えやしねぇよ」

鞄の上に顔を突っ伏す。
話すのも恥ずかしければ、隠しているのも恥ずかしい。
自分のことのはずなのに、何が何だかわからない。

ドクオには冗談だと言ったが、本当は違う。
オレは、恋をしている。


クール先輩が、好きだ。

  

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 13:58:40.59 ID:T+GvAa3Y0
 
アイツがオレの恋の相手を、クール先輩だと思わなかったのには勿論理由がある。
そして、それはオレがいまいち告白へ踏み切ることができない理由でもあった。

才色兼備という言葉を持ってして示すことのできるあの人は、当然のことながら人気があった。
オレ達がVIP大学に入学した時も、すぐに噂が回ってきたほどだ。
美人がいるサークルがある。あの人は頭もいい。完璧な人だ。
噂は様々だったか、言いたいことは似たようなものばかりだった。

クール先輩がどれほど良い女か。
流れてくる噂の根本はその一点からの派生にすぎない。

   ( ^ω^)「写真って人気あるんだおねー」

   (*'A`)「何言ってんだ! あのクール先輩と同じサークルに入れるチャンスだぞ?!」

他の大学ならば地味に活動するしかないであろう写真サークルに、人の波が押し寄せていたのも、不思議ではなかった。
誰も彼もが届けの用紙を持って、部室に押しかけていたのをオレ達は見ていた。
けれど、その人の波の中で、サークルに入れた者はいない。

全員、クール先輩という名の部長に撥ね退けられてしまった。
男も女も構わず一刀両断していく姿は、実にクールだった。

    川 ゚ -゚)「このサークルは、写真が好きな人のためのものだ。
         私目当てで来るのは感心しない」

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 14:01:15.96 ID:T+GvAa3Y0
 
クール先輩目当ての人達は、写真を撮る趣味などない者ばかりだった。
あの人は間に合わせ程度に撮られた写真や写メで納得する人ではない。

    (´<_` )「え、許可してくれるんですか?」

    川 ゚ -゚)「何だ。そのために来たんだろ?」

    (´<_` )「一応……」

厳しい審査の中で、オレが写真サークルに入れたのは、まさに奇跡だとしか言いようがないだろう。

    (´<_` )「でも、オレは写真を撮るのが上手いわけではないですよ?」

    川 ゚ -゚)「技術は後からついてくるものだ」

    (´<_` )「カメラだって、携帯を使ってますし」

    川 ゚ -゚)「デジカメくらいは欲しいところだな」

    (´<_` )「それでも、いいんですか?」

    川 ゚ -゚)「いいぞ」

付け焼刃とはいえ、一眼レフのカメラを持ってきていた人もいたはずだ。
そんな人達を撥ね退けたはずのクール先輩は、携帯の写メを愛用していたオレを受け入れてくれた。

    (´<_`;)「こんなことを言うのもおかしな話なんですけど、
         なんでオレが許可されたんですか?」

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 14:04:33.71 ID:T+GvAa3Y0
 
答えと同時に浮かべられた表情を、オレは忘れない。


    川 ゚ー゚)「キミは、私のことが好きじゃないだろ?」


今でもクール先輩の笑った顔は見る機会があるが、あの時の笑みは特別だ。
写真にではなく、オレに向けられた笑顔。
一生の宝物になる。

ただ、当時のオレは、クール先輩のことを、美人で完璧な人だけど、恋愛対象としては成り立たない相手として見ていた。
どちらかと言えば、オレはアホの子の方が好きだ。
天然で、でも料理は上手いような女が好みで、その観点からいくと、クール先輩は真逆の人だ。

    川 ゚ -゚)「私は、特別写真が好きな人じゃなくたって、ここに来てくれていいと思ってる。
         活動を通して好きになってくれたのならば、それほど嬉しいことはない」

そう言っていたクール先輩は、どこにでもいる女の子だった。
自分の好きな物を、他人にも好きになって欲しいと思っているだけだった。

    川 - _-)「だけど、殆どの人は私が好きだと言ってやってくる。
         写真なんてどうでもいいんだ。
         元々興味の欠片ない人間に、何かを好きになってもらえるほど、私は出来た人間ではない」

無欲の勝利だとでもいうのだろうか。
まぁ、あの時のオレは、このことを、勝利だとも何とも思っていなかったわけだが。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 14:07:43.30 ID:T+GvAa3Y0
 
受け入れられた当時は間違いなく無欲だったオレも、今ではしっかりと欲を持ってしまった。

好意というのは、相手の見た目や性格以上に、会う回数に比例するという話を聞いたことがある。
二週間に一度会う美女よりも、毎日会う普通の女の子。
人間の脳は、そういう風にできているらしい。

なら、しかたないだろ?
オレは、ほとんど毎日、あの美女と会っているんだ。
恋に落ちない方がおかしい。

クール先輩の笑った顔がもっと見たい。
いつもと違う表情を見てみたい。
恋をすれば、誰だって思うはずだ。
自分だけが知っている表情が欲しい。

できることならば、その表情を写真に収めたい。
あの人が大好きな写真に、二人だけが知っている顔で、映りたい。

それを一緒に現像して、文化祭で展示してやりたい。
けれど、そのためには恋人になる必要がある。
もっといえば、告白というものをする必要がある。
オレはそれが怖い。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 14:10:34.13 ID:T+GvAa3Y0
 
どうしてオレは、クール先輩のことが好きになってしまったんだろうか。
こんなに苦しい思いをしているのに、嫌いになることができない。

あの人の、顔が、行動が忘れられない。


 綺麗な写真が撮れたときに笑うところだとか、

     川 ^ワ^)「見ろ! この素晴らしい青空を!」


 季節限定の写真を撮るために遠出をするところだとか、

     川 ゚ -゚)「土日を私にくれ。写真を撮りに行くぞ」


 カメラを愛し、慈しんでいるところだとか。

     川 ゚ー゚)「綺麗だろ? 私が毎日磨いてるからな」


そんな、クールとはちょっとズレたところにいるあの人を知ってしまったからだ。
写真サークルに入らなければ、オレはきっと、一生クール先輩を好きになることなんてなかったはずなのに。
でも、写真サークルに入っている現状では、告白なんぞ到底できない。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 14:13:23.34 ID:T+GvAa3Y0
 
誰もが羨む『写真サークル所属』という肩書きを手に入れることができたのは、
クール先輩に恋慕を抱いていないことが起因となっている。
ここで告白をしてフラれでもしてみろ。
サークル除名という可能性も出てくる。

もう二度と、今朝のように挨拶を交わすことはできないに違いない。
それだけのリスクを犯してまで、告白する勇気がオレにはない。

眺めているだけでも幸せで、傍にいることが至福なのだ。
一日の始めに挨拶をするためだけに、オレは学校へ早くきている。
講義開始前の退屈な待ち時間など、些細な問題だ。

これだけ想い、伝えられないことを苦しんでいても、オレは臆病なままだ。
苦しみから逃れるための行動一つ起こすことができない。

あぁ。ドクオ、安心しろよ。
この分だと、オレには当分、彼女なんて出来ない。
オレもお前も彼女なしの期間を延ばしていくばかり。
たぶん、ジョルジュもしばらくは彼女がいないだろうから、オレ達の敵はブーンだけだ。

講義開始のチャイムが鳴ってからも、オレは悶々とし続けていた。
このピンク色の脳みそを誰か何とかしてくれ。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 14:15:25.07 ID:T+GvAa3Y0
 
心の中で願ったところで、叶えてくれるような神はいない。
今もオレの脳と胸は苦しみでいっぱいだ。

一時間目も、二時間目も、講義はしっかりと受けたし、ノートも取ってある。
だが、講義時間の半分以上が上の空で、ノートに書いてあることにあまり覚えがない。

恋というものは当に病だ。
他のことに手がつかない。
手元にノートがある分、成績が落ちることはあまりないだろうが、よくない傾向だろう。
このまま、ずるずると奈落に嵌っていく気がしてならない。

ついたため息さえ、ピンク色をしているのではないだろうか。
そんな風に思ってしまう程度には、オレの脳みそはどうにかしている。

(´<_` )「さっさと食堂に行くか」

アイツらと話している間は、この気持ちから多少逃れることができる。
隠しておきたいという感情もさることながら、男同士の馬鹿話というのは恋愛に勝る楽しさがある。
オレの場合、恋愛が成就する可能性が限りなくゼロに近いことも、馬鹿話の方が楽しい理由に入っている気がするが。

弁当が入っている鞄をかけなおし、オレは食堂へ足を進める。
今日はオレが食堂から一番遠い教室だったはずだから、もうアイツらは集まっていることだろう。
料理下手な彼女の手作り弁当を持ってきているであろうブーンに鉄槌を下し、
とんかつやらしょうが焼きやらを食べているに違いないジョルジュから肉を一つもらってやろう。

そう考えると、少しだけ足取りが軽くなった。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 14:18:25.53 ID:T+GvAa3Y0
 
('A`)「おー。弟者ー。こっちだぞー」

(´<_` )「いつもの場所だから、一々言わなくてもわかってる」

食堂につくと、予想通り三人が揃っている。
どこのカウンター席だとばかりに一列に座っている姿は少々不気味だ。
そんなに顔を向きあわせるのが嫌なのか。

オレはブーンの前に座る。
ただの昼食のはずだが、座っている位置だけを見ると、三対一の面接のようだ。

( ^ω^)「全員揃ったところで食事にするお」
  _
( ゚∀゚)「オレもドクオも、とっくに食べ始めてますが」

('A`)「地獄の時間を少しでも引き延ばしたいだけだろ?」

(´<_` )「嬉恥ずかしの愛妻弁当だろ?
      遠慮せずに早く食べろ」

(;^ω^)「うぅ……」

ブーンは美味そうな飯を食べている二人に挟まれ、呻き声を上げている。
トドメとばかりに、オレも弁当を取り出してやった。

蓋を開けると、ふりかけのかかった飯にから揚げやブロッコリーなど、栄養バランスが考えられた弁当が出てくる。
毎日作ってくれている母者には感謝しないとな。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 14:21:21.14 ID:T+GvAa3Y0
 
(;^ω^)「ボクは、その……。別に、嫌とかじゃ……」
  _
( ゚∀゚)「わかったから早く食えよ」

ジョルジュが横から手を出して弁当箱の包みを解く。
逆側からドクオが手を伸ばし、蓋を開けた。

('A`)「……クレイジー」

ほとんど毎日見ているが、やはり慣れない。
ブーンもそれは同じようで、顔を両手で覆っていた。

(´<_` )「気持ちはわかるがな。彼女の手作り弁当だろ?
     全国の非リア充が憧れるシチュエーションだぞ。食え」

( ∩ω∩)「ボクだって、ツンの作ってくれたお弁当は嬉しいお」

なら、まずはその手を除けようか。
現実を直視しろ。
  _
( ゚∀゚)「ほれ、あーん」

( ∩ω∩)「おーん。恐ろしい臭いがするおー」

そう言いながらも素直に口を開ける。
からかってはいるが、そのうちブーンは食中毒か何かで入院するんじゃないだろうかと心配はしている。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 14:24:38.95 ID:T+GvAa3Y0
 
ブーンの弁当箱は可愛らしいピンク色をしている。
大きさもそこそこのもので、男子の胃袋を満たすことができる程のものだ。
アイツの彼女であるツンちゃんの思いやりが見て取れた。

しかし、そんな思いやり弁当箱の中に入っているものは、暖かい気持ちから遠く離れた位置に存在する物体ばかりだ。

黒コゲの玉子焼きなど序の口で、べちゃべちゃの米に、何やら酸味の強い臭いを発している煮物。
半分生のハンバーグに不恰好に刻まれただけの生野菜。

どうしてそうなるんだ。
塩と砂糖を間違えちゃった。って、レベルではないぞ。
特に、生焼けはヤバイ。ブーンの胃袋がヤバイ。

('A`)「お前、よく食えるな」

(。∩ω∩)「だって……。ツンが、ボクのために……」

(´<_` )「泣くくらいなら止めてもらえよ」

弁当を作る役割は交代するべきだな。
食べるのが好きなブーンは、料理が上手い。
プロ級とは言わないが、目の前にある兵器のような料理よりはずっと、ずっとマシだ。
  _
( ゚∀゚)「いやはや。ツンちゃんは幸せ者だねー」

ジョルジュはブーンに生野菜を差し出しながら言う。
見ずに食べることが、ブーンの心にどれだけの安定を与えられているのかはわからないが、
直視していては食べられない代物だということだけは明らかだ。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 14:28:10.71 ID:T+GvAa3Y0
 
('A`)「お前は主夫になれよ」

( ∩ω∩)「なりたいお」

働くことが嫌だとか、そういう理由ではなく、自身といつか生まれる子供のためにも。
時間が経てば上達するものなのかもしれないが、彼女の料理は、少なくともここ一年で上達のじの字も見えていない。
数年先を見据えたところで、絶望的なことに変わりはないだろう。
  _
( ゚∀゚)「料理サークルも形無しだなこりゃ」

そう、ツンちゃんは料理サークルに入っている。
自分の料理があまり上手くないことは知っているらしく、上達を目的としていたらしい。
彼女の料理から周囲を守るため、ブーンも同じサークルに入ったのは必然であり、正しい行為だ。

(´<_` )「去年も今年も、料理サークルは大変そうだな」

( ∩ω∩)「申し訳ないお……」

一昨年まで、料理サークルは露店で料理を作っていた。
それなりに好評だったようだが、去年からは作りおきの料理を販売している。
理由はご察しの通り。

ツンちゃんが当番だったときの絶望を回避するためだ。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 14:31:54.37 ID:T+GvAa3Y0
  _
( ゚∀゚)「あー。オレも彼女欲しい」

('A`)「死ね」

不意に呟かれた言葉に、瞬時に返された言葉。
阿吽の呼吸といっても過言ではない。

( ∩ω∩)「ジョルジュは作ろうと思ったら、いつでもつくれるお」

('A`)「そうだ。本当の非モテを舐めるな」

(´<_` )「女の敵と言われても、否定はできないな」
 _
(;゚∀゚)「集中砲火にも程があるだろ」

それはしかたがない。
ジョルジュはモテる。
この四人の中では、ダントツでモテる。

('A`)「あー。いつでもストックがいる男はいいですねー」
 _
(;゚∀゚)「ストックなんていねーよ!
    人聞きの悪いことを言うな!」

だというのに、彼女はいない。
その理由は、こいつの性格というか、性癖に問題があるからだ。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 14:34:21.95 ID:T+GvAa3Y0
 
( ∩ω∩)「この間も、トソンって後輩に告白されてたって聞いたお」
  _
( ゚∀゚)「いや、あの子は駄目だ。
    胸が小さすぎる」

これだ。
こいつのこれが駄目なんだ。

(#'A`)「てんめぇぇぇぇ!」

ドクオがブーンを挟みこんでジョルジュの胸倉を掴もうとする。
無理をするな。お前の方が圧倒的に小さい。ヤンキーの真似事は不可能だ。

(´<_`;)「お前のソレは治らないな」
  _
( ゚∀゚)「治す予定すらない」

ジョルジュは極度のおっぱいフェチだ。
形、大きさ、張り、色。
それら全てが完璧なおっぱいを持つ女と結婚すると豪語している。

おっぱいがよければ、他はどうでもいいらしい。
顔も、財力も、性格も、こいつにとっては、おっぱいの付属品にしか過ぎない。
クール先輩にもなびかぬ男だ。

これでこいつの顔が悪ければ、女性が袋叩きにしてくれただろうに。
何故だか顔だけはいい。あと、竹を割ったような性格も好かれている。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 14:37:18.57 ID:T+GvAa3Y0
  
( ∩ω∩)「ドクオ。ドクオ。そんなに揺らしちゃうと、口から出ちゃうお」

(#'A`)「ジョルジュてめぇぇぇ!!」
  _
( ゚∀゚)「いやいや。お前にだって好みはあるだろ?
    オレのだって、好みの一つだ」

(#'A`)「好みで選ぶ権利のない人間だっているんだよおおおおお!!」

(´<_` )「まずは落ち着け」

あー。騒がしい。
でも、楽しい。

こいつらを見ていると、恋に胸を痛めている自分がちっぽけに思えてくる。
オレの思いがどんな結果を産んでも、きっとこいつらは傍にいてくれる。
上手くいけばブーンにするようにからかってきて、失敗すれば何だかんだと励ましてくれるに違いない。

オレはいい友人を持った。
誰かに言うことはないが、オレはいつだってそう思っている。

(´<_` )「そろそろブーンが――」

吐くぞ。と、言いかけて、言葉が止まる。
三人はオレの言葉には気づいていなかったようで、未だに騒ぎ続けている。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 14:40:29.54 ID:T+GvAa3Y0
 
オレの目には、とある男が映っていた。

騒いでいる三人の向こう側、オレ達と同じように座っている奴らがいる。
その中で一人、オレと同じように一人で座っている男と目が合った。
今日もいたのか。


( ´_ゝ`)


男は、オレとそっくりだった。
髪も、目も、立てば身長も、すべてそっくりそのまま。
まるで鏡合わせのようで、薄気味悪い。

アレが妖怪の類ならば、どれだけ良かっただろうか。
赤の他人だったならば、驚くだけで済んだはずなのに。

残念なことだが、オレはアレのことをよく知っている。
知らぬはずがないのだ。

あの男は、オレの双子の兄なのだから。

  

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 14:45:04.61 ID:T+GvAa3Y0
 
兄弟がいない者の多くは、兄弟がいて羨ましいという。
その度にオレは否定の言葉を投げてきた。
家族が多いというのは、楽しいこともあるが、不便も多い。
ゲームやテレビの取り合いにもなるし、四六時中一緒だから喧嘩もする。

まぁ、姉や妹ならば、まだいい。
弟や兄も歳が離れているのならば、許容範囲内かもしれない。
だが、双子の兄弟だけは駄目だ。

(´<_`#)

オレは眉間にしわを寄せる。
憎しみを込めた表情だ。

(#´_ゝ`)

あちらも同じような顔をしていた。
嫌な思いをしているのはお前だけじゃないんだぞ。
腹立たしすぎて、せっかくの飯が不味くなる。

どこか別の場所に行けと念じてみるが、届きはしない。
こちらが離れるにしても、友人と食事をしているのだから、早々席を変えることは難しい。
それより何より、殆ど毎回、ここで顔をあわせているのだが、オレ達はどちらも場所を変更しようとしない。

アイツのためにオレが動くのは癪に触る。
その一点はオレも兄者も共通していた。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 14:47:53.21 ID:T+GvAa3Y0
 
(ヽ^ω^)「弟者?」

(´<_` )「――ん?」

一瞬、反応が遅れたが、どうにか言葉を返す。
ブーンがどこかやつれた顔でこちらを見ていた。
弁当箱を見る限り、どうにかアレらを食べ切ったようだ。
毎日のこととはいえ、賞賛に値する。

(ヽ^ω^)「何かあったのかお?」

(´<_` )「いや、別に」

一々、友人に兄者がいたことを伝えなくてもいいだろう。
オレがアイツのことを嫌いなのは友人ならば誰もが知っている。
それ故に、オレの前で兄者のことを話す奴はいない。

普段からそれだけ気を使ってもらっているというのに、今ここで兄者のことを話すのは申し訳ない。
気の良い奴らだから、席を変えようくらいは言ってくれるかもしれない。
  _
( ゚∀゚)「何もないならいいけどな」

ジョルジュがオレの弁当箱を指差した。

('A`)「食い終わってないの、お前だけだぞ」

(´<_` )「それはすまんかった」

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 14:50:23.90 ID:T+GvAa3Y0
  
時計を見れば、講義までの時間が後二十分ほどに迫っている。
余裕があるといえば、あるがそろそろ食事は終わらせておきたい頃合だ。

(ヽ^ω^)「ふふふー。今日も放課後は調理サークルだおー」

('A`)「胃薬は持ったか?」

(ヽ^ω^)「ばっちりだおー」

今年はパンを作って販売するらしい。
一応、ツンちゃんもパンを作っているらしいが、出来はまぁ、弁当を見れば察しがつく。

愛しの恋人が作った料理を無下にできぬと、ブーンはそれらを口にする毎日だ。
誰かアイツを救ってやってくれ。
離れているときは、彼女持ちリア充ということばかりが思い浮かぶが、
こうして近くにいると哀れみさえ覚えるほどの辛さが満ち溢れている。
  _
( ゚∀゚)「オレもサークルに顔出さねぇとなぁ」

(´<_` )「今年も喫茶店だったな」
  _
( ゚∀゚)「そう。執事やら武将やらホストやらのコスプレをした喫茶店。
    これで女の子のハートをがっちり掴むぜ!」

物珍しくはあるから、流行りそう……。
いや、コンセプトがごちゃごちゃし過ぎで倦厭されるか。

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 14:53:44.27 ID:T+GvAa3Y0
  _
( ゚∀゚)「よかったら来いよ」

(´<_` )「暇だったらな」
  _
( ゚∀゚)「いつも暇だろ」

(´<_` )「受付という名の仕事があるんだぞ」

展示だし、高い価値のついているものなわけではないので、留守にしても問題はないがな。
それでも、展示方法や写真についてのアンケートだって配布してる。
部員が少ないこともあって、部屋を空けないようにするとなると大変なんだぞ。

('A`)「おいおい。ジョルジュ。お前のところの喫茶店に行くことを考えたら、
   クール先輩と二人っきりの部屋にいる方が百倍はマシだろ」

(ヽ^ω^)「レクリエーションサークルは独特の雰囲気があるお」
  _
( ゚∀゚)「でも、女の子がたくさん来るぜ?」

('A`)「そこは惹かれるけど」

(´<_` )「じゃあお前が行けよ」

('A`)「え……」

(ヽ^ω^)「ドクオには無理だお」
  _
( ゚∀゚)「オレも友達として居た堪れない気持ちになるし、来ないでくれ」

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 14:56:21.49 ID:T+GvAa3Y0
  
ワンツーコンボにやられたドクオは、テーブルに頭を乗せる。
心なしか、頭の上にキノコが見えた。
ドクオをノックアウトした二人は、アイツのことを無視してオレに向きなおる。

(ヽ^ω^)「まぁ、どちらにせよ、弟者は好きに楽しめばいいお」
  _
( ゚∀゚)「そーだな。一人じゃ回りにくいってんなら、オレが付き合ってやるぜ?」

どこまで本気なのかわからない男だ。
ヘラヘラとしながら発せられる言葉は軽い。

(´<_` )「お前が来るとうるさそうだからいらん」

どうせなら、クール先輩と回りたい。
料理サークルのパンを買ったり、喫茶店に行ってみたり。
そこでも、きっとあの人は写真を撮るんだ。

パンの写真を一枚。
喫茶店の写真を数枚。
最後に校門前でアーチの写真を撮る。

そんな姿をオレが写真に収める。
うん。いいな。そういう風になりたい。

でも、そうするには、やっぱり告白しないといけないんだよなぁ。

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 14:59:32.56 ID:T+GvAa3Y0
 
悩みは尽きないが、放課後はやってくるし、帰宅時間もやってくる。
一日が終われば、当然朝がやってくる。

オレはいつもと同じように、少しばかり不愉快な気持ちを持ちながらも家を出る。
電車を使い、何もない道を歩けば、ジャストタイミングで学校に着く。

時刻は一時間目が始まる前。
オレの時間割表では、今日は二時間目からなのだが、何ら問題はない。

川 ゚ -゚)「おはよう」

来た。
後ろからかけられた声に、頭を下げる。

(´<_` )「おはようございます」

軽く挨拶を交わす。
それだけで至福の気持ちだ。

同じサークルに所属しているのだから、もう少し何か会話をしてもいいのだろうけれど、
すんなりと話題が出てくるほどオレの頭は冷静ではない。
後々になって考えてみれば、展示のことについてだとか、昨日撮った写真のことだとか、色々あるんだけどな。

一定のリズムで進んで行くクール先輩の足取りは早い。
階段を使っているのだが、疲れを見せない早さだ。
あの人は行動力も凄いから、同年代の女性と比べれば筋肉はついているだろう。

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 15:02:31.18 ID:T+GvAa3Y0
 
少し迷ったが、オレはエレベーターを使うことにした。
二時間目までの暇つぶしに、図書館へ行こう。
図書館のある館へ行くには、エレベーターを使った方が早くて済む。

まだ課題も出ていないような時期だが、何かしらできることはあるだろう。
読書をすることも嫌いではない。

階段を通り過ぎ、少し進めばエレベーターが見える。
残念なことに、五階で止まっているらしい。
少し待つことになるが、階段を登ることを考えれば楽なものだ。

ボタンを押してじっと待つ。

その間に考えることも、今はクール先輩のことばかりだ。
明日は放課後に集まる予定なので、今から胸がドキドキしている。

(´<_` )「っと。ドキドキするのもいいが、展示についても考えないとな」

集まりはそのためのものだ。
どの写真をどのような順番で並べるか。
人にはどのように動いてもらうか。

それらを決めるための集まりに、何も考えずに行くわけにはいかない。
携帯を取り出し、頭の中で考えていたことを幾つか打ち込む。

ぽーん。と、音が耳に届いた。
顔を上げればエレベーターの扉が開いている。

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 15:05:42.95 ID:T+GvAa3Y0
 
何も考えずに乗り込む。
エレベーターに乗るときに、一々何かを考える人間がいるか?
乗り込み、携帯電話を閉じて驚いた。

( ´_ゝ`)

兄者がいた。
それも目の前に。
何でオレは気づかなかったんだ。

(#´_ゝ`)    (´<_`#)

互いに不機嫌な顔を見せる。
何だこいつは。年下の癖に、そんな顔をしやがって。
同じ顔をしているということが、主観的にもわかってしまうのが腹立たしい。
整形でもしやがれ。

あぁ。せっかく、クール先輩と会えたのに、台無しになってしまった。
まったくもって、忌々しい男だ。

大体から、何でこの時間にいるんだ。
オレが家を出たときには、まだ中にいたんじゃないのか。
瞬間移動でも使えるのか。この糞野郎は。

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 15:08:30.49 ID:T+GvAa3Y0
 
視界に収めているのも嫌だ。
オレは兄者に背を向けて、三階のボタンを押す。
他の階に色がつかないところを見ると、兄者も三階へ行くらしい。

ついてくるなよ。ストーカーで訴えるぞ。
勝てる自信がある。何なら、腕力でだって勝てるだろう。

思い立ってしまい、オレは素早く後ろを振り返った。
そこには当然だが、まだ兄者がいる。
少しの間もおかずにオレは右足を繰り出した。

狙うは太ももだ。


(#´_ゝ`)    (´<_`#)


忌々しいことだが、オレ達は双子だ。
そこに偽りはない。
遺伝子がそうさせるのか、もっと別の何かがあるのか、オレ達は容姿以外もよく似ている。

その際たる例として、今現在の状態でも上げておこうか。

オレが繰り出した右足は、兄者の左足とぶつかった。
それも、当たったのは互いのつま先だ。

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 15:11:44.55 ID:T+GvAa3Y0
 
一進一退。というか、どちらも動かない。

ここで足を下げてみろ。負けたことになってしまう。
そんなことは許されない。
オレは、兄者にだけは負けられない。

元をたどっていけば、こいつがVIP大学に入学してきたことが間違いなんだ。
互いに入学する学校について話したことはなかったのに、どうしてこうも被るんだ。
学部が違うことだけが救いか? 糞喰らえだ。

(#´_ゝ`)    (´<_`#)

声をかけるのも嫌で、オレ達は無言で停止を続けている。
本当に似すぎている。
思考回路も、何もかも。

朝からの行動パターンだって、ほとんど同じだ。
オレが歯を磨くときには、必ずと言っていい程、兄者も洗面所にいる。
飯を食うとはあまり姿を見ないが、何故か食堂では頻繁に出会う。

食堂で会うことを知ってるんだから、場所を変えろよ。っと、思うのはいつものこと。
こっちが変えるのは何だか嫌だ。
どうせ、むこうも同じなんだろう。

嫌になるほど、オレ達はよく似ている。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 15:14:33.00 ID:T+GvAa3Y0
 
よく似ているオレ達は、同じタイミングで足を降ろした。
フェイントをかけるためでも、互いを許しあったわけでもない。
単純に、目的の階に着いただけだ。

軽やかな音が鳴り、扉が開く。
向こう側に見えた廊下をオレは視界の端に収め、兄者はその全貌を見ていたのだろう。

オレはすぐに視界に兄者を収めぬようにすぐに背を向け、図書館がある方へと足を進める。
足音がこちらにきている感じはしない。
おそらく、向こうは講義があるのだろう。

学部が違い、取る講義が違っているのは、最悪の中にひっそりと存在している幸いだ。
アイツと同じ部屋で講義を受けることなどできるはずがない。

(´<_` )「あー。最悪だった」

図書館の前にまで来て、ようやく肩の力を抜く。
振り返らぬように気を張るのも、中々疲れるものだ。

オレ達は互いに生きていて、生活をしているのだから、会うことはしかたがない。
血の繋がった兄弟で、同じ屋根の下で暮らしているんだ。
丸一日会わない方が難しいというものだ。
だが、それならそれで、一分一秒顔を合わせぬようにしたい。

オレは体を伸ばす。
会ってしまったがために縮こまった筋肉が可哀想というものだ。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 15:17:58.45 ID:T+GvAa3Y0
 
図書館に入り、適当な本を手に席につく。
だが、頭に靄がかかってしまったかのようになって、上手く活字が頭に入ってこない。

この靄の正体はわかっている。
怒りと苛立ちだ。
自分の精神一つ、まともにコントロールできないのは、クール先輩との件でわかりきっている。

(´<_` )「はぁ……」

本を閉じて、天井を見上げる。
今朝もクール先輩と挨拶ができて、至福の時間を感じていたはずだった。
あの気持ちのまま、二時間目の講義でブーンと共に学び、昼食を取る。

オレの予定はそんなものだった。
苛立つ予定など、当たり前だが入っていない。

よく考えてみれば、生活の拠点が同じというのが最も不幸な部分か。
いや、行動パターンが似てしまっているところを加味すれば、同じ腹の中から同時に生まれてしまったことが一番の不運だ。

(´<_` )「こうなってくると、向こうの講義を把握しておく必要があるか……。
      だが、知りたくないな。名前と容姿以外、何一つ知りたくない」

他にも知っていることはたくさんある。
だが、何一つ知らなくていい。
知れば知るほど嫌いになるに決まってる。

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 15:20:55.71 ID:T+GvAa3Y0
 
気づいたときにはもう、兄者のことが嫌いだった。
同じ容姿、同じ考え方。まるでもう一人の自分。

別に、自分のことが嫌いなわけではないが、好きでもなかった。
そんなオレにとって、自分と遺伝子的にも殆ど変わらない相手というのは、ちょっとした嫌悪の対象にしかならなかった。
兄者を避け、近くにいることを嫌った。

小中は公立だったからしかたないが、高校も大学も同じになるとは思っていなかったなぁ。
どれだけ同じ思考回路をしているんだ。
そんなことを思う度に、オレは兄者を嫌っていった。

たぶん、向こうも同じなのだろう。
遺伝子的に殆ど変わらない人間を前に、それを排除しようとしている。
でかい喧嘩を起こしたことはないが、単純に喧嘩をするほど関わりたくないからにすぎない。

(´<_` )「考えたところで、しかたないか」

ζ(゚-゚;ζ「あわわわ」

気持ちを落ち着かせようと深呼吸をしているところに、声が聞こえてきた。
聞き覚えのある声に、そちらの方を見る。

ζ(゚-゚;ζ「ちょっ……あぶ……」

いたのではデレちゃんだ。
同じ学部の同級生。何度も同じ講義を取ったことがある。
彼女の慌てぶりは、腕の中に積み上げられている本が原因だろう。

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 15:23:33.98 ID:T+GvAa3Y0
 
今にも崩れ落ちそうだ。
一冊ずつ持てばいいものを……。

知らぬ仲でもない。
ちょっとばかし手を貸してやるか。

ζ(゚Д゚;ζ「あっ……」

(´<_`;)「あ……」

椅子から立ち上がったのだが、どうやら行動に移すのが遅すぎたらしい。
オレと彼女の声が重なりあった後に、本の山が音をたてて崩れた。
ついでに、どうにかそれらを受け止めようとしたデレちゃんも倒れた。

一緒になって床に並んでどうするんだ。
怪我をしていないといいが。

(´<_`;)「大丈夫?」

ζ(゚ー゚*ζ「あ、弟者君……。
       一応、大丈夫……だよ?」

(´<_`;)「一応、ねぇ」

床には本が散らばっており、彼女の鼻は赤くなっている。
怪我はしていないようだけど、大丈夫とは程遠いような気がする。

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 15:26:25.89 ID:T+GvAa3Y0
 
(´<_` )「こんなに本を持ってどうしたの?」

ζ(´へ`*ζ「今度、発表があるの」

(´<_` )「そうなんだ。それで資料集め?」

表紙を見れば、確かに似たような傾向の本ばかりだ。
もう少し的を絞ってもいいような気がするが、外堀から埋めていくタイプなのか。

(´<_` )「でも、本は数冊ずつ持って行った方がいいよ」

ζ(゚ー゚*ζ「うん。次からそうする……」

本を集めている彼女に手を貸す。
しかし、本当に多いな。十冊以上あるぞ。

(´<_` )「あまり持っていくと、他の人が困るかもしれないしね」

ζ(゚Д゚*ζ「あぁ! そこまで考えてなかった!」

(´<_`;)「あっ」

オレの言葉が衝撃だったのか、彼女は両手を頬に当てる。
うん。それはいいんだけど、そのために本を持っていた手を離すのはどうかと思うんだ。

ζ(゚Д゚;ζ「あ……」

本は再び床に散乱した。

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 15:29:35.35 ID:T+GvAa3Y0
 
ζ(´へ`;ζ「ごめんなさい……」

(´<_`;)「別にいいけど、気をつけないと危ないよ?」

ζ(´へ`;ζ「はい……」

返事はしているものの、あまり意味はないんだろうなぁ。
入学した頃から知っているけど、彼女は天然さんだ。
気をつけていてもドジを踏むタイプ。

ζ(゚ー゚*ζ「ありがとう」

(´<_` )「いいって。何なら、今度、講義のノートでも見せてよ」

ζ(゚ー゚*ζ「あ、そうだね。いいよ!」

休んでいた分のノートはそのうち見せてもらおうと思ってたし。
冗談交じりの言葉だったが、彼女はすぐに頷いてくれた。
だが、そのまま机の方へ小走りに駆けていくのはどういうことだ。

(´<_`;)「今度でいいって」

ζ(゚ー゚;ζ「そ、そうだよね!」

やっぱり、今すぐノートを貸してくれる気だったんだな。
デレちゃんと同じ講義があるのは別の日だから、今すぐには取り出せないだろうに。

……いや、彼女ならば忘れ物防止に、毎日全講義のノートを持ち歩いているかもしれない。

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 15:32:23.71 ID:T+GvAa3Y0
 
ζ(゚ー゚*ζ「ごめんね。弟者君も大変なのに」

大変?
特に思い当たることはないぞ。
発表が近い講義はないし、小テストもない。

あぁ、文化祭のことだろうか。
オレが写真サークルに入ってるのは有名なことだからな。

(´<_` )「いや、特にすることもないから大変じゃないよ」

ζ(゚ー゚*ζ「そうだろうけど、やっぱり、色々あるんじゃないの?」

(´<_` )「本当に暇なもんだよ」

ζ(゚ー゚*ζ「そっか。ならいいんだけど」

彼女が所属しているサークルはそんなに忙しいのだろうか。
いや、彼女がいるから忙しいのか?

(´<_` )「そっちは忙しいの?」

ζ(゚ー゚*ζ「え?」

首を傾げられた。
デレちゃんのおさげがふわりと揺れる。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 16:09:35.20 ID:T+GvAa3Y0
 
(´<_` )「いや、文化祭の用意とか」

ζ(゚ー゚*ζ「私は無所属だから全然だよ。
      当日に、友達と遊びに来るくらい」

(´<_` )「そうなの?」

ζ(゚ー゚*ζ「そうだよ?」

じゃあ、何をもってオレが忙しそうだと思ったんだろう。
彼女は毎日が忙しそうだからなぁ。同じようにオレも大変だと考えたんだろうか。

ζ(゚ー゚*ζ「弟者君も一緒に回る?」

(´<_`;)「いや、せっかくだけど、遠慮しておくよ」

見知らぬ女子と校内を歩くのには抵抗がある。
クール先輩に見られたときも気まずい。
この気まずさがオレの一方的なものだとは知っていても。

ζ(゚ー゚*ζ「そっか。文化祭はもうすぐだもんね。
       もう予定は埋まっちゃってたかー」

(´<_` )「そんなところ」

恋人でもない異性と文化祭を回ることに抵抗がないのか、デレちゃんはオレに先約がいると取ったらしい。
一応、ジョルジュ達からも誘いを受けているから、間違いではない……のか?

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 16:15:04.01 ID:T+GvAa3Y0
 
(´<_` )「それで、そっちの方は大丈夫なの?」

ζ(゚Д゚*ζ「あ……」

抱えられた本を指差してやれば、あんぐりと口が開く。
何故その重量の物を持っていて忘れられるんだろうか。
思わず笑ってしまう。

ζ(゚ー゚*ζ「忘れてないよ! 本当! 本当に!」

(´<_` )「はいはい。あまり大きな声を出すと、司書さんに怒られるよ?」

ζ(゚-゚*ζ「そっか」

慌てて口を閉ざす。
一瞬、片手で口を抑えそうになったのが見えたが、流石に今さっきと同じ過ちは繰りかえさない。

ζ(゚ぺ*ζ「うーん。今からするよ」

そう言われ、腕時計で時間を確認する。
あと三十分ほどで二時間目が始まる。

(´<_` )「二時間目まであまり時間がないよ」

ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫! 今日の講義は昼からだから」

(´<_` )「じゃあ、わざわざ発表のために朝から来てたのか」

73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 16:19:53.26 ID:T+GvAa3Y0
 
オレなんかよりもずっと大変だ。
彼女がサークルに入っていないのが唯一の救いか。

ζ(゚ー゚*ζ「私って、何でもトロいから、ちょっと早めにしないと駄目なの」

困ったように笑っていた。
自分自身について、しっかりとした自覚を持っているのはいいことだ。

(´<_` )「何か手伝おうか?」

ζ(゚ー゚*ζ「ありがとう。でも、弟者君は二時間目あるんじゃないの?」

手を貸したいと思ったのは事実だ。
でも、二時間目に講義が入っているのも、また事実だった。

(´<_` )「二十分くらいなら大丈夫だよ」

ζ(゚ー゚*ζ「いいよ。ちゃんと自分の力でしないとだし。
       あ、でも、どうしても無理そうだったら、いつかお願いしちゃうかも」

同じ講義はいくつもある。
その時にでも相談してきてくれるのだろう。

(´<_` )「じゃあ、その時を待ってるよ」

ζ(゚ー゚*ζ「どちらかというと、その時がこないくらい順調にいくことを願っててよ」

なるほど。そういう考え方もあるんだな。

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 16:23:51.25 ID:T+GvAa3Y0
 
デレちゃんと別れて、オレは図書館を出た。
まだ時間はあるが、あそこにいても特にやることはなかったし。

もしかすると、ブーンが先に来ているかもしれない。
アイツはちょっとばかしデブだが、動くのが早いからな。
走っても速いし、待ち合わせの場所に来るのも早い。

渡り廊下を通り、階段を登る。
一つ上の階に行く程度のことでエレベーターは使わない。
また兄者と会ったら嫌だしな。

念には念を入れておく。

(´<_` )「あー。流石にまだ来てないか」

廊下には誰もいない。
次に使う予定の教室は、別の講義で埋まっている。
扉越しに講師の声が聞こえてきた。

しかたない。扉の近くで待っているか。
携帯で暇つぶしでもしていれば、すぐに時間が経つだろう。

ミセ*゚Д゚)リ「あー。髪がくしゃくしゃだよぉ」

気づかなかった。驚いた。
柱の影に女がいた。見覚えはない。

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 16:27:27.98 ID:T+GvAa3Y0
どうやら、柱に設置されている姿見で髪の毛をチェックしているようだ。
日々の髪型にも気を使わなければならないのは大変だな。
彼女も次の講義待ちだろうか。

ミセ*゚ー゚)リ「……うん。まあいいかな」

ちらりと見たが、先ほどの髪とどう違うのだろうか。
男だからか、オレが鈍いのか、変化がさっぱりわからない。

ミセ*゚ー゚)リ「んじゃ、さくっと返事だけしよーっと」

(´<_`;)「なん……だと……」

こっそりと後ろの扉から教室に入って行った彼女に、オレは小さく零した。
確かに、この部屋は広く、生徒の受講者も多い講義が使用している。
そっと入ればバレないかもしれない。

だが、だからといって、最後に返事だけをして帰るとは……。
結局、最後にはテストがあるのだから、あまり意味のない行為に思える。
友人が代わりに受けてくれているとしても、類友だろうから、やはりお粗末なノートしかなさそうだ。

あのような人種の人間とは、あまり仲良くなれる気がしない。
軽いノリばかりしているジョルジュだって、ああではないぞ。
アイツはサボるときは正々堂々とサボる。

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 16:31:41.83 ID:T+GvAa3Y0
  
(´<_` )「お前はどう思うよ」

( ^ω^)「ボクにはそんな度胸がないお」

(´<_` )「お前、肝小さいもんな」

オレはチャイムが鳴る前にやってきたブーンに、あの女のことを話した。
講義が終了すると同時に、あの子はへらへらしながら、やはり似たタイプの女達と出てきていた。
ノートを取る人間は当番制なのだろうか。

( ^ω^)「そんなことをするための肝なら、いくら小さくたって構わないお」

(´<_` )「そりゃそうだ」

こいつは、肝は小さいが、器は大きい。
大抵のことなら受け止めてくれる。
そうじゃないと、あの料理は食べられない。

(´<_` )「で、お前は今日も愛妻弁当か」

( ^ω^)「そうだおー。たのしみだおー」

見事な棒読みだ。
握られたシャーペンが机を動き回っている。
ちょっと動揺しすぎだろ……。

きっと、今日も鞄の中には胃薬が入ってるんだろうな。
まったくもって、ご愁傷様。ついでに祝福の言葉もどうぞ。

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 16:35:40.34 ID:T+GvAa3Y0
  
(´<_` )「毎日、大変だな」

( ^ω^)「でも、ツンがボクのために作ってくれたんだお。
      無駄にしたくないお」

おお……。
ブーンに後光が差して見える……。

(´<_` )「ベタ惚れってやつだな」

( ^ω^)「おっおっ。そうだお。ボクはずーっとツンが好きだったんだお」

幼馴染と付き合うってのはどんな感覚なのか知らないが、
ブーンはそれこそ小学生の頃からツンちゃんが好きだったらしい。
だが、付き合い始めたのは大学に入ってからだというのだから、ブーンの忍耐力には恐れ入る。

晴れて恋人同士になったとはいえ、彼女の作る料理はアレだし、
素直になるのが苦手な彼女が相手なので、甘い空気など滅多に出すことができないという。
それでも幸せなんだろうな。
笑っている顔を見ればすぐにわかる。

( ^ω^)「弟者も、そのうち恋人を作ればいいお」

(´<_` )「えっ」

79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 16:40:28.57 ID:T+GvAa3Y0
 
思わぬ言葉に驚いてしまう。
まさか、オレの恋心に気づいているとでもいうのか?

( ^ω^)「友達もいいけど、どうしても格好つけちゃうお。
      疲れたときに、とんと寄りかかれる存在は、きっと必要だお」

(´<_` )「ブーン……」

それは体験談なのかもしれない。
オレだって、格好悪いからと、恋していることを隠している。
辛いことがある時も、そうやって全てを隠してしまうのかもしれない。

( ^ω^)「弟者ならすぐにできるお」

クール先輩に恋をしていると知らぬブーンは気軽に言ってくれる。
恋人は、誰でもいいというものでもないだろうに。

(´<_` )「ドクオに恨まれそうだけどな」

( ^ω^)「それはあるかもしれないおね」

オレ達は笑いあう。

確かに、お前達は寄りかかれるような存在ではないかもしれない。
でも、辛いときに助けてくれるのは、きっとお前達なんだろうさ。

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 16:44:35.46 ID:T+GvAa3Y0
 
今日は曇っている。
秋といえば、秋晴れと紅葉だろうに、天気というやつは何もわかっていないようだ。

今朝の天気予報では、降水確率はほとんどゼロに近かった。
ただ、秋の天気は不安定なので、予報をそっくりそのまま信じることができない。
念のため、折りたたみの傘を持っているが、できることなら降らないでいてくれた方がありがたい。
駅までは徒歩だ。小さな折りたたみ傘一つで雨を防ぎ切れるとは思えないからな。

川 ゚ -゚)「おはよう」

(´<_` )「おはようございます」

クール先輩は天気が何であれ通常運転だ。
そんなところがまたいい。

透き通った声は、曇り空の下でも美しい。
日の光を浴びずとも、長い髪は輝いている。

いつもはその背中を名残惜しく見ているが、今日は心が晴れやかだ。
放課後に、サークルで集まりがあるからな!
もう一度会える。そして言葉を交わせる。

喜びに胸を振るわせながら、クール先輩の後ろ姿を見る。
あの人が手にしているのは、いつもと同じ鞄だけ。傘は持っていないようだ。
完璧なあの人のことだから、折りたたみの傘を持っているんだろう。

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 16:48:08.13 ID:T+GvAa3Y0
\|
- (´<_` )「おっと」

いかん。いかん。
ぽーっと、見惚れてばかりではいられない。
今日は一時間目から講義が入っている。

時間には余裕があるが、こんなところで立ち尽くしていては怪しいにも程がある。
さっさと教室へ向かおう。

クール先輩とは後で会える。
会話だってできる。
幸せはまだまだ残っているんだ。今は、目先の面倒を片付けて行こう。

気合を入れなおして足を進める。
一時間目の講義は、特に難しいことをしているわけじゃないけど、あの講師はだらだらと無駄話が多いんだよなぁ。
途中で面倒になってしまう。
ついつい眠りそうになったことだってある。

ジョルジュも同じ講義を取ってるけど、アイツは羨ましいくらいに要領がいい。
講義に来るのだってギリギリだけど出席はしっかりしているし、ゲームをしたり携帯をいじりながらもノートはまとまってる。
テストの点もそこそこ良ければ、評価も悪いわけではない。
その上、女にもモテる。

ドクオが羨むのも無理はない。
かくいうオレだって、同じ気持ちだ。

だけど、ジョルジュが友人でよかった。
それは間違いない。

92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 17:33:10.09 ID:T+GvAa3Y0
オレは少し迷ってから、階段を選んだ。
教室の位置を考えれば、こちらを選んだ方が手早い。

リズムよく階段を駆け上がる。
少し息が弾むくらいのほうが、今の季節には丁度いいだろう。

( ^ω^)「おー。おはようお」

階段を登りきったところで、ブーンの顔が見えた。
あっちも今日は一時間目からだったのか。
体の向きからして、エレベーターを使ったみたいだけど、こっちの校舎なら階段を使った方が早いだろうに。

(´<_` )「おはよう。お前、階段を使わなかったのか?」

( ^ω^)「うーん。ボク一人ならそうでも良かったんだけど……」

ξ゚⊿゚)ξ「ブーンが負ぶってくれるならいいわよ」

ひょっこりと姿を見せたのはツンちゃんだった。
何だ。それなら、ブーンがエレベーターを使ったのも納得だ。

(´<_` )「ツンちゃんと登校してたのか。お熱いことで」

( ^ω^)「おっおっー。家が近いから、開始の時間が同じときは一緒に来てるんだお」

ξ*゚⊿゚)ξ「ちょっと!」

おぉ。凄まじいタックル。
これはアメフトでも通用するな。
さて、ブーンは生きているのか?

93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 17:37:51.22 ID:T+GvAa3Y0
 
ツンちゃんは可愛い女の子だ。
小柄だし、華奢だし。
でも、ちょっと素直になれないところがあって、照れ隠しに手が出るタイプの子だ。

うん。その結果として、ブーンがオレの足元に転がっている。
呻き声が聞こえるところをみると、生きてはいるようだ。

ξ;゚⊿゚)ξ「ブーン!」

慌ててツンちゃんが駆け寄る。
優しい子だなぁ。自分でやったんじゃなければもっといいのに。

(  ω )「お、弟者……。ボクが死んだら……お弁当を、ど、ドクオに……」

お前はドクオに何の恨みがあるんだ。
逆なら察しはつくが。

(´<_` )「わかった。任せろ」

ξ;⊿;)ξ「ブーン! 死んだら駄目! しっかり!」

朝からラブロマンスをありがとう。
ブーンは一生そのまま眠っているといいよ。
そうすれば、恐怖の弁当だって……あ、看病と称したおかゆがやってくる可能性もあるのか。

そっと合掌をして、オレはその場を去る。
いつまでも二人に見せつけられたくないし。

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 17:41:16.78 ID:T+GvAa3Y0
 
ドクオのようにブーンのリア充っぷりを抹消してやりたいとまでは思っていない。
二人の行動はある意味ギャグで面白い。見ていて飽きないものではある。
だけど、あの様子を見続けるのは精神的に厳しくもあるんだよな……。

独り身でである虚しさは勿論のこと、いつかあんな風になってみたいと考えてしまう。
クール先輩と一緒に登校して、ちょっとしたラブロマンスを展開してみたりする。
無駄な妄想だとはわかっているものの、片思いをしている身としては考えずにはいられないわけだ。

そしてまた、自分の思い切りのなさに呆れてしまう。
悪い循環が、ぐるぐると巡るばかりだ。そしてあふれ出る虚無感。
あまり続けていると、意味のない嫉妬をブーンにぶつけてしまうかもしれない。
良い友人をそんなつまらないことで無くしたくはない。

(´<_` )「リア充爆発……いや、ツンちゃんの飯をたらふく食え」

まるで祝福しているような言葉だが、疑う余地がないほど呪いとなっているはずだ。
あれはあれで幸せみたいだけどな。胃薬を四種類ほど常備する周到さで彼女の料理に挑んでいる。
潔いというか、漢というか。いやはや。あれは見習いたいところがあるな。

人を好きになるっていうのは、そういうことなんだろう。
オレだって、辛くて苦しいはずなのにクール先輩に惚れてるわけだし。
ブーンがあの兵器を口にしている理由がわからないわけじゃない。

オレが知っている中で一番お熱いカップルでもあるんだ。
それこそ、傍にいると火傷をしかねないくらいに。
こちらからでは想像もできないような、深い愛情がアイツにはあるんだろう。

95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 17:44:46.95 ID:T+GvAa3Y0
 
特に席が決まっていない講義だが、それとなくどこに誰が座るのかは固定されている。
オレもその習慣にならって、いつも通りの席につく。
椅子を一つ挟んだ隣の席がジョルジュの場所だけど、やっぱりまだ来ていない。

時計を見ると、開始数分前。
クール先輩に見惚れていたのと、ブーン達と戯れていたのでそれだけの時間を食っていたのか。
人も結構集まってるから、そんな予感はしていたが、真実として認識するとちょっとした衝撃だ。

(´<_` )「それだけ周りが見えていないってことか……?」

ありえるな。恋は盲目という。
今日のあれこれは、どれも恋愛に関わる事柄だった。
そのせいで周囲がしっかりと見れていないのかもしれない。
むしろ、それしか心当たりがない。

(´<_`;)「不味いなぁ」

今はまだ時間の感覚が曖昧な程度だけど、これで成績が下がった日には、恐ろしい目に合うだろうな。
バイトをしていないから、家に帰って勉強すれば何とかなるか?

っと。そうしている間にチャイムだ。
講師が来る前に、さっさと教科書とノートを用意しよう。
意識できるところはしっかりと。
今のオレにできることといえば、それくらいだろうし。

97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 17:47:55.51 ID:T+GvAa3Y0
  _
( ゚∀゚)「っとぉ。セーフ、セーフ!」

(´<_` )「おはよう。今日もギリギリだったな」
  _
( ゚∀゚)「オレの体内時計は正確だったってことだな!」

(´<_` )「羨ましい限りだ」
  _
( ゚∀゚)「この感覚を、全国の大学生に渡してやりたい」

(´<_` )「開始直前になって、ぞろぞろ教室に入ってくる学生か……」

想像するとちょっとばかし気持ち悪いな。
それこそ軍隊みたいだ。時間にルーズになる手前だってのに不思議だな。

(´<_` )「それはそれとして、早く席に着け。
      立ったままは流石に目立つ」
  _
( ゚∀゚)「オッケー。オレは黙っていても輝く男だからな」

(´<_` )「おー。それは凄いなぁ」
  _
( ゚∀゚)「棒読みはキツイぜー」

そう言いながらもジョルジュも席に着く。
中身が入ってるんだか、入っていないんだかわからない鞄は、床に置かれるときも静かだった。
ジョルジュの頭の中と同じくらい軽そうだ。

98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 17:50:27.92 ID:T+GvAa3Y0
  
隣にいる頭の軽い、でも要領のいい男は、一仕事終えたとばかりに椅子に座ってリラックスしている。
お前の仕事はこれからだろうに。
ここは一つ、オレが最初の仕事をしてやるか。

(´<_` )「筆箱は持ってきたか?
      ルーズリーフは? 教科書は? ハンカチは?」
  _
( ゚∀゚)「オレの親か!」

簡単なボケとツッコミを終わらせると、ジョルジュはケラケラと笑いながら鞄を漁り始める。
一日の始めの講義がオレと一緒のときは、大抵やらされる仕事だ。
いつも何となくやっているが、一度くらいは盛大に無視をしてやりたものだ。

慌てたりするのだろうか。自分だけでボケツッコミをしたりするのか?
それならば見てみたい気もするな。うん。是非、見たい。
ジョルジュのことだから、一時間を無駄に過ごすということも、大いにありえそうではあるが。

講義の準備が終わったところに、タイミングよく講師が登場した。
騒いでいた周囲も、少しずつ静かになっていく。
そこそこ真面目な学校でよかったと思う瞬間の一つだ。
  _
( ゚∀゚)「でも良かった」

筆箱とルーズリーフ、教科書とついでに携帯ゲーム機を取り出したジョルジュが小さく言った。
良かったって何がだ。遅刻しなくてってことか?
お前はいつもこのくらいの時間に来てるくせに。

100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 17:55:20.99 ID:T+GvAa3Y0
 
(´<_` )「何がだよ」

疑問をそのまま口にする。
適当な返事で済ませてもいいが、ここは一つ謎を解明しておこうではないか。
  _
( ゚∀゚)「最近、元気そうじゃん。
    何よ。良いことあった? いい女の子でも見つけた?」

(´<_`;)「なっ……」

鋭いな。
伊達に女の子と接してきていないってわけか?
彼女持ちの男と、モテる男は違うってことか。
何と言うか差を見せつけられた気分だ。
  _
( *゚∀゚)「何だよぉ。図星かよぉ」

小声ではあるが、ジョルジュの声は嬉しそうに跳ねている。
肘でぐりぐりされるのも鬱陶しい。
これが講義中でなければ、母者直伝の技を二、三個はかけていた。

いっそ、今日という日の平常点を犠牲にしてでも、こいつを黙らせようか。
その方がオレの心の平穏のためなんじゃないのか。

101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 18:00:20.96 ID:T+GvAa3Y0
  
(´<_`;)「別にそんなんじゃねぇって」

これは焦りが声にも出てるな。
講師の声なんて聞こえないくらいに切羽詰ってるし。
見逃してくれるか? くれないだろうな。クソ。
  _
( ゚∀゚)「ほぅほぅ。今さら恋バナなんて恥ずかしくてできないと」

(´<_`;)「お前なぁ」

どうしてわかるんだ。
こいつは人の心を見透かす能力者か。
  _
( ゚∀゚)「それなら無理に聞くのは止めてやろう」

口角を上げてイケメンスマイルを見せつけてくる。
腹立たしいから、こいつの前に理想のおっぱいが現れない呪いでもかけてやろうか。
こいつほどの男には、それくらいのハンデがあってもいいだろ。
  _
( ゚∀゚)「オレはいいと思うぜ。
    恋はいい。おっぱいの次にいい。オレは恋する乙女も男も好きだぞ」

(´<_` )「ホモの方でしたか」
  _
( ゚∀゚)「近所の公園に出没する阿部さんでも召喚してやろうか」

(´<_` )「それは悪魔か何かか」

102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 18:08:37.65 ID:T+GvAa3Y0
  _
( ゚∀゚)「いや、友達になった」

(´<_` )「お前の交友範囲にオレは驚きを隠せないよ」
  _
( ゚∀゚)「時は金、沈黙も金、友人も金。
    いつの時代でも価値の代わらない素晴らしいものだぞ。
    たっくさんいた方がいいに決まってる」

(´<_` )「狭く深くという発想はないのか」
  _
( ゚∀゚)「広く深くでいいじゃねーか」

(´<_` )「それができるなら、それが最良なんだろうけどな」
  _
( ゚∀゚)「オレはやるぜ」

(´<_` )「そうかい。んじゃ、手始めに勉強でもしたらどうだ」
  _
( ゚3゚)「ちぇー」

(´<_` )「キモイことすんな」

男のアヒル口なんて見たくもない。
唇を引きちぎってやろうかと考えるくらいにはな。

103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 18:12:06.04 ID:T+GvAa3Y0
  _
( ゚∀゚)「でもよ。真面目な話、オレはお前の恋には賛成だぜ」

(´<_` )「相手も知らないのにか」
  _
( ゚∀゚)「お前は変な女に捕まるような奴じゃねーだろ」

ずいぶんとオレの目を信用してくれているらしい。
確かに、クール先輩は変な女ではないな。
むしろ、完璧すぎる人だ。
  _
( ゚∀゚)「相談してぇっつーなら、相談に乗る。
    周りが何を言ってこようが、オレは、いや、たぶん、絶対、ドクオもブーンも、お前の味方だ」

大げさだな。
いや、ジョルジュのことだ。オレの恋の相手がクール先輩だって知っているのかもしれないな。
あの人を相手にするとなれば、一人の力では到底敵わない。

クール先輩のことが好きな男は、学年問わず大量にいるわけで、
同じサークルに所属しているオレは、ただでさえ、目の敵にされている可能性が高い。
闇討ち何てことはないだろうけど、針のむしろには立たされるだろうな。

(´<_` )「……お前って、何でもお見通しだよな」
  _
( ゚∀゚)「何だ。やっぱり気にしてたのか」

呆れたような、予想通りというような、そんな笑みを浮かべられる。

113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 18:50:46.44 ID:T+GvAa3Y0
  _
( ゚∀゚)「気にすんなよ」

(´<_` )「ありがとう」
  _
( ゚∀゚)「いんや。オレ達は友達だからな。
    心配もすれば、励ましもするさ。
    何なら、告白の手伝いだってするぜ」

(´<_` )「そりゃどーも。
      でも、現状だって悪くないと思ってるから必要ないぞ」
  _
( ゚∀゚)「そうか。なら、オレからは何も言わない。
    ゆっくり、自分のペースでいけばいい」

(´<_` )「ジョルジュから助言を受けることになるとは、思ってなかったよ」
  _
( ゚∀゚)「いつでも聞いてくれていいぞ?
    遊びとおっぱいに関して、オレは超一流だからな」

(´<_` )「機会があれば聞くことにしよう」

当座の心配は、ホワイトボードの前に立っている講師が、こちらを睨んでいることだろうな。
気づいているのかいないのか、ジョルジュは携帯ゲーム機を出したままだし。
いざとなったら、こいつを生贄にして、オレはどうにか怒りから逃れられないだろうか。
  _
( ゚∀゚)「弟者。せんせー、こっちに来てないか?」

そうだな。
是非とも、一人で怒られてくれ。

115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 18:54:55.60 ID:T+GvAa3Y0
 
放課後になって、オレは部室にいた。
他にはクール先輩しかいない。
一応、このサークルには四年生の先輩もいるのだが、今は就活やらで来ていない。

川 ゚ -゚)「後数分で時間だな。
     他に人は来ないだろうが、一応時間通りに始めるぞ」

(´<_` )「はい」

もう一人、オレと同世代の奴がいたような気がするが、姿が見えない。
今日の集まりは二人だけか。

あ、急にドキドキしてきた。
だって、二人っきりだぞ。
告白するには絶好のシチュエーションってやつなんじゃないのか?

無理だけどな。しないけどな。
ジョルジュに現状も悪くないと思ってるって言ったばっかりだし。
それは嘘じゃない。

こうして、同じ空間にいること自体が奇跡みたいなもんなんだ。
告白なんぞしたら、悪い方向に転がること間違いなし。
ハイリスクローリターンだ。旨みが少なすぎる。

川 ゚ -゚)「最近、キミとよく会っている気がする」

(´<_` )「え?」

118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 18:59:38.26 ID:T+GvAa3Y0
  
突然、話を振られて思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
何をしているんだ。せっかく、クール先輩から話しかけてくれたっていうのに。

(´<_` )「毎朝、会ってますからね」

もっと他にはなかったのか。オレ!
さりげないようだが、捕らえようによっては危ない言動じゃないだろうか。
毎朝会う為に時間を合わせていると思われないだろうか。
事実だけに、問い詰められたら否定できないぞ。

川 ゚ -゚)「あぁ。そういえばそうだな。
    偶然だな。何か調べ物でもしているのか?」

(´<_` )「そういうわけじゃないんですけど、早起きするようにしようと思ったら、自然と学校に来てしまって」

苦しい言い訳じゃないか? 大丈夫か?

川 ゚ -゚)「いい心がけだ。
    朝の陽射しは心を穏やかにする。
    ……とはいっても、今日は曇り空だが」

外はもう薄暗い。
季節柄だけでなく、薄い雲も理由になっている。

川 ゚ -゚)「私はゼミ発表のために、早く来ている」

(´<_` )「クール先輩も発表があるんですね」

119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 19:02:40.50 ID:T+GvAa3Y0
 
朝から来ているのは知っていたけど、理由までは知らなかった。
そうか。発表があるのか。何の発表をするのか、少し気になるな。

川 ゚ -゚)「も、というと、キミの友人も発表があるのかな」

(´<_` )「そんなところです。
      先日、図書館であたふたしていました」

川 ゚ -゚)「そうか。仲の良い友人のようだな」

(´<_` )「え?」

川 ゚ -゚)「何だ。違うのか?
     楽しそうにしていたから、好感の持てる友人なのかと推測したのだが」

(´<_` )「悪い奴ではないですけど、そこまで親しいわけではないですよ」

オレは脳裏にデレちゃんの姿を浮かべる。
悪い人間でないことは確かだけれど、特別に親しいのかと問われれば、答えはノーだ。
ついでにいえば、好意を抱いているのかも怪しい。

彼女に比べれば、ツンちゃんの方がまだ好意を向けているかもしれない。
友人であるブーンの彼女なのだから、悪意を抱く方が難しい。

川 ゚ -゚)「人の関係は複雑だな」

クール先輩は小さく息を吐いて言った。
確かにそうですね。オレが持つあなたへの思いも、複雑に絡み合っていて、届けられそうにありませんし。

120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 19:05:47.13 ID:T+GvAa3Y0
 
川 ゚ -゚)「さて。そろそろ時間だ」

(´<_` )「はい」

会話できることが幸せすぎて忘れていたが、今日の目的は雑談ではない。
文化祭に向けての話し合いだ。
リラックスするのはいいが、やるべきことはやらなければならない。

川 ゚ -゚)「では、展示方法とアンケート項目など、先日メールで送った件についての意見を教えて欲しい」

(´<_` )「はい。私の意見としましては――」

粗相のないように。
できることならば、クール先輩に感心してもらえるように。

オレは考えてきた案を発表する。
ゼミや講義での発表なんぞよりも、ずっと緊張する。

狭い部屋に、オレの声だけが響く。
それ以外は静かなものだ。周囲の教室を使っている講義がないのだろう。

クール先輩の静かな瞳がオレだけを映している。
この時間が永遠に続いたって構わない。
だけど、きっと、そうなったらオレの心臓がもたないだろうな。

121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 19:08:17.27 ID:T+GvAa3Y0
 
川 ゚ -゚)「なるほど。では、私の意見なんだが――」

次はクール先輩の意見だ。
まずは、お互いの案を聞くだけ。
褒めることもしなければ、否定することもしない。

あの人の手元にある紙には、オレの案に対することが書かれている。
今度はオレがそれをしなければならない。
手元にあったシャーペンを取り、クール先輩の声に耳を傾ける。

川 ゚ -゚)「――と、いうのが去年のデータで明らかになっており――」

理路整然とした発表だ。
どんな講師も、この人の言葉には頷くだろう。

凛とした声が、真っ直ぐな言葉だけを紡いでいる。
心地良い。質のいいクラシックでも聞いている気分だ。

紙にメモ書きをしながら、ちらりとクール先輩を見る。
動いている唇が可愛らしい。
黒い髪が艶やかだ。

ビーナスだってこの人には敵わない。
少なくとも、オレにはそう思えるんだ。

123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 19:12:23.74 ID:T+GvAa3Y0
 
その後もオレとクール先輩は文化祭について話し合った。
展示方法などは、二人の意見を足して割ったものに落ち着いた。
オレとしては、クール先輩の案をそのまま採用しても良かったんじゃないかと思うけど、
あの人的には許せない部分があったらしい。

(´<_` )「あ、降ってますね」

窓から雨が見えた。
気づけば時間もずいぶんと経っており、電灯がなければ真っ暗になっていることだろう。

川 ゚ -゚)「む。それは困ったな」

(´<_` )「折りたたみの傘だと、ちょっと濡れますしね」

川 ゚ -゚)「実は、その折りたたみの傘を忘れたのだよ」

(´<_`;)「え! それ、本当ですか?」

川 ゚ -゚)「嘘を言ってもしかたあるまい」

確かにそうだけど、あの完璧超人のクール先輩が忘れ物をするなんて。
オレとしては信じ難いことだ。
しかし、写真サークルに入っていなければ、この人が無邪気に笑う姿だって知らなかったはずだと考えると、
こうした忘れ物をするクール先輩を知れたというのも、一つの役得か。

いや、違う違う。
今はそれどころじゃないはずだ。
もっと、他に考えるべきこととか、するべきこととか、発するべき言葉があるだろう。

124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 19:15:54.57 ID:T+GvAa3Y0
 
川 ゚ -゚)「しかたない。鞄を傘代わりにでもして、バスを待つか」

(´<_` )「あの!」

川 ゚ -゚)「ん?」

(´<_` )「オレの、折りたたみ傘、使いませんか?」

言ったぞ!
自然だったよな。押し付けがましくないよな? 下心なんて見えないよな?

川 ゚ -゚)「キミは傘を二本も持っているのか?」

(´<_` )「いえ、一本ですけど」

川 ゚ -゚)「それだと、キミが濡れてしまうじゃないか」

二本持ってきていればよかった!
だけど、こんな事態を予測するのは不可能だろ。
どうしたものか……。

オレは濡れても、男だし平気だと思う。
だけど、クール先輩は女性だ。体を冷やすのもよくない。
何より、オレが嫌だ。帰り道だって、気になってしかたがないだろうし。

どうにか、この人を言いくるめなければ。
言葉が悪かったか? まぁ、いい。誰に聞かれるわけでもなし。

125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 19:18:58.09 ID:T+GvAa3Y0
 
(´<_` )「オレは丈夫なんで、平気ですよ」

川 ゚ -゚)「何の根拠にもならないな。
     今は季節の変わり目で、風邪をひきやすい時期でもある。
     私のせいで後輩の体調を悪くさせたくない」

オレだって、あなたの体調を悪くさせたくないんです! と、言いたい。
だけど、言っても大丈夫なのかどうか不安だ。
引かれないだろうか。引かれたら、それこそ学校を休みそうなんだが。

川 ゚ -゚)「うーん。そういえば、キミは奏咲駅から電車に乗るんだったか」

(´<_` )「はい。そうですけど」

川 ゚ -゚)「なら、一緒にバスで駅まで行こう」

(´<_` )「へ?」

川 ゚ -゚)「バス停まで一緒に傘を使おう。
    折りたたみだから、多少は濡れてしまうだろうけど、ないよりはマシだろうからな」

それは何だ。
つまり、バス停まで、クール先輩と相合傘というやつなのか?

えっ?
これって夢?
オレ、ちゃんと起きてる? 大丈夫?

126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 19:22:04.08 ID:T+GvAa3Y0
 
川 ゚ー゚)「最寄の駅まで迎えにきてくれるように、親に連絡しておくよ。
     こうすれば、キミも安心だろ? 男としての顔も立つだろうしね」

あ、笑った。
写真のこと意外でこの人が笑うのは珍しい。

(´<_` )「ありがとうございます」

クール先輩がずぶ濡れになる心配はなくなった。
肩くらいは濡れるかもしれないけど、できるだけオレ側が雨にさらされるようにしておけば問題ないだろう。
あからさまだとバレるから、慎重にな。

川 ゚ -゚)「さて、そうと決まったら帰ろう。
     これ以上、雨に強くなられては困る」

(´<_` )「そうですね」

部屋の鍵をしっかりと閉めて、それを学務科へ返す。
たったそれだけの行為が、じれったく感じた。

少しでも早く、小さな傘を広げたい。
折りたたみの傘一つ開くことを、これだけ楽しみにした日もないだろう。

134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 19:56:48.97 ID:T+GvAa3Y0
外に出ると、雨はさっきよりも強くなっているように感じられた。
さっきまでは一応、室内だったから雨の音もよく聞こえなかったけど、
今はハッキリと聞こえている上に、屋根があるはずのところにまで雨が跳ねてきている。

川 ゚ -゚)「予想よりも酷いな。早く行こう」

(´<_` )「はい」

慌てず、焦らず、いつも通りを意識して傘を開く。
それにしても、傘を開くだけの行為に、意識も何もないよな。

(´<_` )「どうぞ」

川 ゚ -゚)「ありがとう」

背の高いオレが傘を持つ。
元々、オレの傘だし自然な構図だ。
傘の主導権があるのをいいことに、クール先輩の方に傘を傾ける。

肩の端が濡れるけど気にならない。
どちらかといえば、逆の肩の方が気になるくらいだ。
あのクール先輩の肩が、すぐ隣にあるんだからな。
心臓がうるさいんだけど、これってバレたりするのかな。

136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 20:00:28.75 ID:T+GvAa3Y0
川 ゚ -゚)「あー。バスが来るまで十分くらいかかりそうだな」

オレもクール先輩も、ルートこそ違えども、登下校を徒歩で済ませている。
バスの時刻表なんて知らなくて当然だ。

(´<_` )「そうなんですか」

上っ面だけでも平常を保ちたい。
十分もこの状態が続くのか?

オレの左腕とクール先輩の右肩が密接している。
そこだけ不可解なほど体温が高い。
何も言われないところをみると、普通の体温をしているのか?
でも、オレには熱すぎるほどだ。

川 ゚ -゚)「十分も待つとなると退屈だな」

(´<_` )「そうですね。しりとりでもしますか?」

もっと話題はなかったのか。と、後悔してみても遅い。
ジョルジュ辺りなら、気の利いたことを言いそうなんだが。

川 ゚ -゚)「それはナイスアイディアだ。採用しよう。
     では、定番から。『りんご』」

採用された!
やった!

139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 20:04:45.77 ID:T+GvAa3Y0
 
(´<_`;)「……また、『る』ですか」

川 ゚ -゚)「る攻めは基本だからな」

頭の良い人は語彙がある。
つまり、しりとりが超絶的に上手い。

オレだって始めはる攻めをしようとしたさ。
でもな、ことごとく返されてしまい、もうオレの脳内に『る』から始まる言葉は出てこない。
それに対してクール先輩の表情は余裕だ。

きっと、オレが何か思いついても、即座に『る』が返ってくるのだろう。
恐ろしい人だ……。

川 ゚ -゚)「むっ。命拾いをしたな」

(´<_` )「あぁ。バスが来ましたね」

傘を傾けると、バスが見えた。
知らぬ間に十分経っていたらしい。
クール先輩相手に、しりとりが十分ももったんだ。よかった方だろう。きっと。

川 ゚ -゚)「何なら、バスの中でもお相手するが」

(´<_`;)「勘弁してください」

142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 20:08:18.95 ID:T+GvAa3Y0
 
川 ゚ -゚)「しかし、キミがいてくれて良かったよ」

バスの中は比較的空いていた。
時間帯の関係だろう。
オレ達は二人用の座席に並んで座っている。

さっきまでとそう変わらない距離感だ。
今日のオレは幸せすぎて、後が怖い。

川 ゚ -゚)「折りたたみ傘のおかげで濡れずにすんだ。
     十分間も退屈せずにすんだ。
     本当にありがとう」

(´<_` )「いえ、当然のことをしたまでなんで」

あなたが濡れネズミになるのを黙って見ている男なんて、いないと思いますよ。
でも、オレの存在が役にたったならよかった。

川 ゚ -゚)「そのうち、気晴らしも兼ねて何か埋め合わせでもしようか」

(´<_` )「埋め合わせなんていいですよ」

川 ゚ -゚)「大したことはできないから遠慮するな。
     そうだな。クッキーでも作ってきてやろう。
     いや、流石にそれは手抜きか……?」

(´<_`;)「クッキーって……。
      て、手作りですか?!」

143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 20:11:46.55 ID:T+GvAa3Y0
 
川 ゚ -゚)「私だって料理の一つや二つ、嗜んでいるぞ」

(´<_`;)「あ、そういう意味じゃないんです。
     クール先輩の作った物を頂けるなんて、驚いてしまって」

川 ゚ -゚)「何だ。そんなものでいいのか?」

クール先輩は、自分がモテることを理解しているはずなのに、どうして手作りクッキーの貴重性には気づかないんだ?
あなたから手作りの料理を貰ったなんて知られたら、きっとオレは学校中の男子に嫉妬されますよ。
そうなっても本望ですけどね。

川 ゚ -゚)「なら、今度の集まりの時に作ってきてやろう」

(´<_`* )「ありがとうございます!」

川 ゚ -゚)「そこまで期待されると、ハードルが高いな」

(´<_`* )「どんなものでも嬉しいですよ」

川 ゚ -゚)「なら、あえて黒コゲを作ってやろうか」

即座に浮かんだのは、ブーンの弁当だ。
この人からあんな物が生まれるとは思っていないけど、ちょっと怖い。
黒コゲに対するトラウマが植えつけられてしまっている……。

川 ゚ -゚)「冗談だよ。ちゃんと作る」

(´<_` )「嬉しいです」

144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 20:14:40.64 ID:T+GvAa3Y0
 
バスに揺られること十数分。
オレ達は目的の場所に着いてしまった。

川 ゚ -゚)「キミとは別のホームか」

改札を抜けて、クール先輩が言ってくれた。
名残惜しく思ってくれているのだろうか。そうだったら嬉しい。

川 ゚ -゚)「傘、ありがとう。
     本当に助かったよ」

(´<_` )「いいえ。困った時はお互い様ですから」

それが、あなたとなれば無償で助けたくなるのも当然です。
こんな言葉は飲み込んでおこう。
オレは彼氏ではないし、告白をする予定もない、ただの後輩なんだから。

川 ゚ -゚)「ちゃんと、次はクッキーを持っていくからな」

(´<_` )「楽しみにしていますから、絶対に忘れないでくださいね」

川 ゚ -゚)「任せておけ。折りたたみ傘は忘れても、クッキーは忘れない」

(´<_` )「なら、オレは傘を忘れないようにします」

手作りクッキーを貰える上に、また相合傘ができるとすればこれ以上ない幸いだ。
雨に少しばかり期待するとしようか。

148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 20:17:43.35 ID:T+GvAa3Y0
 
期待に胸を膨らませながら電車に揺られる。
雨はまだ降っていたが、オレの心は浮かれていた。

そりゃそうだろ。
片思い中の相手と同じ傘を使い、手作りクッキーを貰う約束までしたんだ。
これで浮かれないってんなら、そいつは本当の恋をしていないに決まってる!

恋をすれば、相手の行動に一喜一憂してしまう。
今日みたいな日は、どんな天気だって青空に浮かぶ虹よりも清々しく素晴らしいものに思える。
傘に当たる雨粒の音はジャズの音色に聞こえるし、所々にある水溜りは美しい音色を奏でる楽器に見えた。

酒なんて飲んでいないけど、ほろ酔い気分だ。
鼻歌でも歌ってやろうか。いや、止めておこう。

(´<_`* )「次の集まりっていつだっけ?」

ふわふわしてる頭では予定の整理がつかない。
後で、手帳を確認しておこう。
せっかくのチャンスを逃すわけにはいかないからな!

少なくとも一週間以内にはもう一度会えるはずだ。
楽しみだ! あぁ、その日まで、何があっても人類は滅亡してくれるなよ!

149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 20:21:22.43 ID:T+GvAa3Y0
 
(´<_`* )「たっだいまー」

家に着き、靴を雑に脱ぐ。
水溜りのせいで濡れた靴下もその場で脱いでしまう。
軽く絞ってからそれを洗濯籠に入れる。

素足で歩くには、床がちょっとばかし冷たい。
どうするかな。新しい靴下を出してもいいが、どうせすぐに風呂だろうしな。

(´<_` )「我慢するか」

足元から這い上がってくる冷たさに、テンションも少し落ち着いた。
いつまでもあのテンションだと、気味悪く思われてもしかたないしな。
妹者辺りに見られる前に、落ち着くことができてよかった。

それにしても、家は相変わらず静かだ。
姉者と父者は会社から帰ってくるのが遅いし、妹者は中学受験をするって言って勉強中。
騒がしい家族もいいけど、静かなのも悪くはない。

残念なところといえば、最近は家族全員で食事をしていないことだな。
妹者の受験が終わったら、また団欒をしたいものだ。

(´<_` )「っと、もう夕飯は済ませた後か」

リビングにはオレの分の夕飯がラップされて置かれていた。
ふむ。エビフライとトマトサラダ、そんで味噌汁もあるみたいだな。

150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 20:25:43.35 ID:T+GvAa3Y0
 
エビフライをレンジで温めている間に、味噌汁を火にかける。
炊かれてあるご飯をお茶碗に移すのもお茶の子さいさい。
数分もあれば、温かい夕飯の出来上がり。

(´<_` )「いただきまーす」

出来てから時間が経っているとはいえ、母者の作ったエビフライは美味しい。
衣がさくっとしているし、中のエビも大きくて食べごたえがある。
味噌汁もサラダも同様だ。

(´<_` )「美味い」

明るい電気の下で、オレは一人飯を食べる。
だけど、流石に少し寂しい。
テレビでもつけるか。何か面白い番組がやっているかもしれないしな。

(´<_` )「リモコンってこっちだっけか」

テーブルの上にさっと目を走らせると、テレビのリモコンがあっさりと見つかる。
持っていた箸を置き、リモコンを手に取った。
さて、何チャンネルを見ようか。

リモコンをテレビに向けて、オレは動きを停止させた。
一点だけに全神経が集中する。

151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 20:29:45.72 ID:T+GvAa3Y0
テレビの向こう側にある窓ガラスが見える。
いつもはカーテンが閉められているのだけど、今日はそれが開いていた。
見えるのは家の庭だ。

ガーデニングなどというオシャレなものではなく、母者の家庭菜園用の庭だ。
じゃがいもやたまねぎなんかが取れるようなもの。
そこに人が立っていた。

( ´_ゝ`)

雨の中、一人立ちつくしている馬鹿だ。
あいつは何をしているんだ。
夜の気温でさらに雨。風邪をひきたいとしか思えない。

高校くらいまでなら、休んでも問題はなかったかもしれないが、大学はそう上手くはいかないぞ。
先生がノートを見せてくれるわけでも、気を使ってくれるわけでもない。

ついでにいうなら、酷く不気味でもある。
街灯があるとはいえ、住宅街にあるこの辺りはネオンの明かりなど欠片もない暗さだ。
雨のせいもあって心もとない街灯の明かりすら危うい。

通行人が見たら驚くだろう。
不審者と思われて通報されても、弁解はできないぞ。
そんなリスクを冒してまで何がしたいんだ。

( ´_ゝ`)

こっちをじっと見ている。
気持ち悪い。

159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 20:42:18.71 ID:T+GvAa3Y0
  
本当に何を考えているのかわからない。
行動パターンも、趣味も、顔も、何もかもそっくりだっていうのに。
腹の底で何を考えているのかだけが、まったくわからない。

せめて何か言えばいいのにと思う。
だけど、オレが喋りたくないってことは、向こうもそうなんだろう。
こんなことならすぐにわかるのに。

( ´_ゝ`)   (´<_` )

無言で向きあっている双子というのは、周囲からしてみればどうなのだろうか。
面白いのか、不気味なのか。

当人としては気持ち悪いしか感想が出てこない。
あたらさんもそうなんだろうねぇ。
さて、この膠着状態をどうしようか。

誰かに見られると面倒だ。
向こうが怒られるのはどうでもいいが、オレまで巻き添えを食って怒られかねない。
何で無理矢理にでも入れなかったんだ! とかね。

オレは一瞬で考えをまとめた。
リモコンをテーブルの上に置き、席を立つ。

そして、ゆっくりと窓に近づく。
向こうも同じようにしてこちらに寄ってきていた。

161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 20:46:07.65 ID:T+GvAa3Y0
 
窓ガラスを挟んでいるとはいえ、互いに嫌いあっている同士だ。
あまり良い気分ではない。

( ´_ゝ`)

いつまでじっと見ているんだよ。
不気味で、気持ちが悪い。

幸せな気持ちが全部吹き飛ぶような嫌悪感と不快感。
ついさっきまで、オレは間違いなく世界で一番幸福だったというのに、今では下から数えた方が早いかもしれない。
雨に濡れて、風邪でもひけば一日くらい顔を見ずにすむかもしれないな。

いっそ、引き篭もりにでもなってもらえばいいのか?
外に出ず、安全に塗れた室内でポツリと一人で生きていればいい。
看守のように飯くらいは運んでやってもいいから。

兄者の何がそれほど嫌いなのだろうか。
考えてみても答えはでない。たぶん、出す必要もない。
けれど、姿が見えなければ気持ちはずいぶん落ち着く。

だから、オレはカーテンを引いた。
オレと兄者の間に薄い布が割り込む。互いの姿はまったく見えなくなった。
たったこれだけのことだけど、オレの心は安らぐ。

無言でカーテンを引いたことに対して、兄者は何も言ってこない。
いつものことだし、オレと同じことだ。
姿が見えなくなった瞬間に、オレ達の脳内からは相手が削除される。

このくらいでないと、嫌いあってなどいられない。

162 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 20:49:59.85 ID:T+GvAa3Y0
 
学校も、今日と明日を過ごせば休みになる。
土日の予定は特に入ってないし、家で適当に本でも読んでいようか。
そうすれば、嫌なものを見ないですむし。

川 ゚ -゚)「おはよう」

(´<_` )「おはようございます」

休みは嬉しいけど、こうして朝の挨拶が二日間もできないというのは寂しい。
月曜日が恐怖の対象でなくなるのは、こういう気持ちがあるときだな。

昨日の雨はすっかり上がっていて、オレもクール先輩も傘は持っていない。
それでよかったのかもしれない。
今は傘を見るだけで昨日のことを思い出して挙動不審になれる自信がある。

川 ゚ -゚)「昨日は、帰ってすぐ体を拭いたか?」

その言葉が鼓膜揺らし、脳に伝達され、意味を理解するまで、オレはわずかながら時間がかかってしまった。
だってそうだろ。誰だってそうなるだろ。
朝一番に挨拶ができるだけで幸福だったのに、会話までできたんだ。
これの素晴らしさと幸福感を伝える語彙がオレにないことを悔やむよ!

(´<_` )「あまり濡れませんでしたよ?」

川 ゚ -゚)「そうか? 私に気を使ってくれて、肩を濡らしていたと見たが」

クール先輩が珍しくしてやったりな顔をしていた。
そんな表情もするんですね。

163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 20:54:05.40 ID:T+GvAa3Y0
 
(´<_` )「敵いませんねぇ……」

川 ゚ -゚)「こういったことを言うのは、マナー違反だったかな?」

(´<_` )「肩を見ればわかったことですし。いいんじゃないでしょうか」

川 ゚ -゚)「ならよかった」

おいおいおいおい!
こんなに会話が続いてもいいものなのか?
これは昨日夢に見たばかりの、二人で一緒に登校と、さして変わらないんじゃないか?

川 ゚ -゚)「キミが風邪をひかなくてよかった」

(´<_` )「お気づかいありがとうございます」

川 ゚ -゚)「……後輩には、元気でいて欲しいからな」

(´<_` )「私はいつでも元気ですよ。
      こうして、早めに学校に来るくらいには」

川 ゚ -゚)「そうだな。キミを見ると、少し安心するよ」

え?
これは、もしかして、脈ありというやつか?
いやいや。無駄な期待はするな。
落ちたときが怖い。

165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 20:58:15.29 ID:T+GvAa3Y0
 
川 ゚ -゚)「どうした? 顔が赤いぞ」

こんなときこそ、ポーカーフェイスをするべきだろう。
自分を叱咤してみるが、顔に血が集まるのを止められない。
鏡を見なくてもわかる。

(/<_// )「えっと……。見ないでください」

川 ゚ -゚)「やはり体調を崩したか?
    医務室……。いや、帰宅するか?」

(/<_// )「大丈夫、です」

川 ゚ -゚)「いや、今まで見たことがないほど真っ赤だぞ
     今日は肌寒いくらいだ。キミの体の内部から熱が発生しているとしか思えない」

クール先輩の手が、細い指が、オレの方に伸びてくる。
写真を撮り、カメラを磨くための指がオレに触れる。触れてしまう。

(/<_// )「本当に! 大丈夫ですから!」

思わず走りだしてしまう。
階段を駆け上り、今までで最速のタイムを叩きだす。
酷い心拍数の理由も原因も、もうわからない。

オレは意気地なしだ。
せっかくのチャンスを無駄にした!
こんな機会、そう訪れるものではないと知っているのに!

166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 21:02:02.89 ID:T+GvAa3Y0
('A`)「何だ? 朝からしけた顔して」

教室に先に来ていたオレは、いつもの場所に突っ伏していた。
理由は言わずもがな。

(´<_` )「うっせー」
  _
( ゚∀゚)「何だよ。いいおっぱいを揉みそこねたのか?」

( ^ω^)「通報しました」

ぞろぞろと集まってきたのはいつもの面子。
時間もいい感じで、周囲にも人が集まってきていた。
それにしても、ジョルジュが余裕をもってくるのは珍しい。

(´<_` )「今日は早いんだな」
  _
( ゚∀゚)「家に帰らないで来たからな」

( ^ω^)「バイトの夜勤だったんだってお」

(´<_` )「あー。そりゃ、お疲れ様」

('A`)「バイトか。オレもしようかな」
  _
( ゚∀゚)「紹介してやろうか?」

( ^ω^)「止めとけお。ジョルジュが紹介するような場所は、リア充の巣窟だお」

173 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 21:11:45.41 ID:T+GvAa3Y0
簡単に想像がつく。
ジョルジュのツテといえば、居酒屋だとかバーだとか、リア充が肩を組んで写真を撮っているようば場所ばかりだ。
リア充を滅ぼそうとしているドクオには辛いだろう。
  _
( ゚∀゚)「んで? 弟者君は、どうしたのかなぁ?」

(´<_` )「君付けするなキモイ」

子供扱いするような口調に、拳を一つジョルジュの腹に埋める。
呻き声が聞こえたような気がするが、空耳の類だろう。
一応、手加減はしたし。

( ^ω^)「何かあったのかお?」

心配そうな声がかけられる。
もともとブーンは優しい奴だけど、こんなちょっとした落ち込みにまで真剣になってくれるような奴だったか?
軽いとまでは言わないが、多少のことならばからかってくる奴だった気がする。

(´<_` )「大丈夫。ちょっと、意気地がなかっただけ」

('A`)「意気地?」

そりゃなんのことかわからないよな。
日常生活で意気地がないと机に突っ伏すことは、あまりないだろう。
オレだって、恋さえしていなければ、することのなかった行為だ。
  _
( ゚∀゚)「わかった! お前、告白しそこねたんだろ!」

惜しい。
だが、それを口にするな。

175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 21:14:47.20 ID:T+GvAa3Y0
 
(゚A゚)「こここここここ告白ぅ?!」

(;^ω^)「恋人作っちゃえよ! とは言ったけど、早すぎないかお?!」

こうなることは目に見えてました!
お前は気が使えないのか、それともちょっと前の会話も忘れているのか?
そんな馬鹿な。あ、ジョルジュは馬鹿だった。

(´<_`;)「デカイ声を出すな!」

(;^ω^)「いや、これは衝撃的というか、何と言うか」

(゚A゚)「お前! 彼女は作らないって! リア充を滅ぼすって!」

そこまでは言っていない!
勝手に改変を加えるな!
  _
( ゚∀゚)「あれ? 内緒だった?」

(´<_`;)「そうですね!」

今さら恋バナなんてできないのか? って、お前聞いてたじゃねーか!
オレの答えを聞いてなかったのか。この大馬鹿!
  _
( >∀<)「ジョルジュ、失敗しちゃった!」

次は顔面に拳を叩きこむとしようか。

179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 21:17:49.65 ID:T+GvAa3Y0
 
ドクオにも拳。ブーンには黙れ、の一言で奴らを静かにさせた。
ジョルジュとドクオはもう死にそうだから、そのまま土に還ってくれればいいと思う。

ミセ*゚ー゚)リ「今日『bun-bun』の発売日だったっけ?」

从'ー'从「そうだよ~」

ミセ*゚ー゚)リ「じゃあ、奏咲駅に行く途中にある本屋に寄って行こうよ!」

从'ー'从「オッケ~」

前方の席はもう通常運転を始めている。
騒いだことに対する苦情がなかったのは喜ばしいことだが、適応力が凄まじいな。
キミ達の後ろには半死体が二つも転がっているというのに。

( ^ω^)「それで、好きな人がいるってのは、本当なのかお?」

(´<_`;)「うー。まぁ、一応……」

今さら隠したところでしかたがない。
無駄な足掻きは止めて、肯定する。
恥ずかしい。顔から火が出そうだ。

( *^ω^)「そうかお。よかったお」

温和な笑みで、心の底からオレのことを祝福してくれているようだった。
こいつは他人と感情を共有することに長けている。
傍にいるのと、いないのでは、辛さも喜びもまったく変わってくる。

182 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 21:20:59.87 ID:T+GvAa3Y0
  _
(メ゚∀゚)「告白なんてものはな、やっちまえば大したことなかったりするもんだ」

復活したらしいジョルジュが口を挟んでくる。
お前は常に告白される側だろうが。黙ってろ。

(´<_` )「別に告白しそこねたわけじゃないって」

( )A`)「ならどうしたんだ?」

(´<_` )「ちょっと、色々チャンスだったなーってだけの話」
  _
(メ゚∀゚)「おいおい。それならなおさら不味いんじゃねーの?
     チャンスは掴み取ってこそだ」

(´<_` )「わかってる」

だから落ち込んでたんだよ。
こうしてお前達から気づかわれてるのも恥ずかしいしな。
こうなりたくないから黙ってたってのに。
本当にジョルジュだけは許さない。絶対にだ。

( ^ω^)「でも、悲観することもないお」

オレらの中での良心ブーン!
もうお前だけが頼りだ。

( ^ω^)「ボクだって、ツンのことは幼稚園の頃から好きだったけど、告白したのは高校卒業の日だお!」

それはそれで何かが違う気がする!

184 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 21:24:17.04 ID:T+GvAa3Y0
  
( )A`)「お前らは家も近くで、幼稚園から今までずっと同じ学校だろ?
    弟者が誰を好きになったか知らないが、状況が違いすぎる」
  _
(メ゚∀゚)「話に聞く限り、お前達は周囲公認夫婦だったらしいし」

(´<_` )「付き合い出したのは大学っていってもなぁ……」

(;^ω^)「ちょっ……。ボクはただ、チャンスなんて何度でも来るって言いたかっただけで」

ごめん。あまり説得力ない。
それだけ長い時間一緒にいればチャンスもありそうだけど、オレは違うし。
そもそも、来年度でクール先輩は卒業しちゃうわけで。
  _
(メ゚∀゚)「いっそ、チャンスは自分で作り出すのも可だぞ」

その勇気がないのはずっと前からわかりきっていることですが何か。
目を輝かせているその瞳を見ていると、オレの背中を押してくれているのか、突き飛ばしてくれてるのかわからない。
押し出された先が地獄じゃなけりゃいいんだが。

( )A`)「仕方ないな。協力でもなんでもしてやるよ」

(´<_` )「やれやれ。みたいな言い方止めろ」

というか、お前はオレに彼女ができるのに反対なのか賛成なのか決めろ。
応援してくれるってのは、嬉しいけどさ。

187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 21:27:23.90 ID:T+GvAa3Y0
  _
(メ゚∀゚)「フられたとき用の酒も用意しとくぜー」

(´<_` )「本当に止めろ」

縁起でもない。
別に告白するわけじゃないんだけどさ。

( )A`)「付き合えるように、ギャルゲで特訓するか?」

(´<_` )「できるわけないだろ」

( ^ω^)「良い胃薬を教えるお」

(´<_` )「それが必要なのはお前の彼女だけ」

あっちからもこっちからも声がかけられる。
真剣な話し合いよりは、こうしたからかいの方が気は楽だが、何ともいえない微妙な気持ちになるもんだな。

(´<_` #)「お前ら、揃って沈めるぞ」
  _
(メ゚∀゚)「キャーこわーい!」

( )A`)「殺人よー」

( ^ω^)+「犯人は……この中にいる!」

(´<_` )「オレの拳と辞書の角の二択くらいは選ばせてやるぞ?」

190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 21:31:15.94 ID:T+GvAa3Y0
 
騒いでいたオレ達の耳にチャイムの音が聞こえてきた。
気づかなかったが、教卓には既に講師が来ている。

しかたない。制裁は講義終了後までお預けだ。
今は勉学に勤しむとしよう。
  _
(メ゚∀゚)「なぁ、弟者」

隣の席で大人しくしていたジョルジュが軽く突いてくる。
何だ。まだ言いたいことがあるのか?
少し講師の方を向いて、安全を確認してから顔を寄せる。

(´<_` )「つまらないことだったら殴るぞ」
  _
(メ゚∀゚)「落ち着けって」

爽やかな笑みを浮かべて言う。
馬鹿なことをしていないときのジョルジュは普通にイケメンだから困る。
  _
(メ゚∀゚)「オレ達はお前が幸せになればいいなーって思ってるだけだから」

(´<_` )「……何だよそれ」

いつからオレはお前達の子供になったんだ。
無条件で幸福を願われるような覚えはないぞ。
特にドクオ辺りには。

192 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 21:34:09.29 ID:T+GvAa3Y0
  _
(メ゚∀゚)「協力するってのはマジだぜ」

( )A`)”

( ^ω^)”

ジョルジュとは逆の方に座っている二人を見れば、言葉を肯定するように頷いていた。
近頃、様子がおかしいとは思っていたけど、これはまた酷い。
  _
(メ゚∀゚)「変な顔してんじゃねーよ」

茶化すような言葉だけど、その目はどこまでも真剣だ。
本気でオレのことを考えてくれているらしい。

( ^ω^)「背中は任せるといいお」

( )A`)「ばんばん幸せになればいいんだよ」

自慢したいくらいだよ。
こんな素晴らしい友人は他にいないってな。

(´<_` )「……どーも」

悪い気はしないに決まっている。
オレの恋を応援してくれる友人がいるんだ。
フられたって、コイツ達がいるならどうにかなるのかもしれない。

――告白、か。

193 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 21:37:03.87 ID:T+GvAa3Y0
 
昼食を取っても、講義を受けても晴れない靄を抱えたまま挑んだ三時間目。
オレは鞄を持ったまま肩を落としていた。

(´<_`;)「おいおい。唐突だな」

思わずそう言ってしまったのも無理はないだろう。
前のホワイトボードに突如張り出されたのは、休講の文字。

これが最後の講義だったならば、すぐに帰ったんだが、残念なことに四時間目にも講義が入っている。
サボるわけにもいかない講義だ。
おかげで、オレは約九十分間の暇つぶしを探さなければならなくなった。

ジョルジュ達は既に帰っているか、今も講義の最中。
ぽっかりと出来た空き時間を共に過ごせそうな顔は思い浮かべられなかった。

部室へ行くという選択肢が一瞬だけ浮かんで消える。
クール先輩がいるとは思えない。一人っきりであそこにいてもすることは何もない。
他にも人が大勢いるサークルならまた話は変わってるんだろうけど、今はどうでもいいことだ。

しかたがない。パソコン教室にでもいくか。
確か、今はどこの講義も使っていないはずだから、適当にネットサーフィンでもしよう。

195 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 21:40:17.47 ID:T+GvAa3Y0
 
(´<_` )「あれ?」

ζ(゚ー゚*ζ「あ! 弟者君!」

オレと同じ穴の狢が集まるパソコン教室に、暇つぶしで来ているとは思えない人物を発見した。
少し見えた画面には数行の文字が打ち込まれている。
発表用の原稿でも書いているのか?

(´<_` )「講義は?」

ζ(゚ー゚*ζ「ないよ!」

そりゃそうか。
彼女は講義をサボって他のことをするような人間ではない。
次の時間は一緒の講義だったから、時間割に中抜けができてるのか。

ζ(゚ー゚*ζ「今は発表の原稿を書いてるの」

(´<_` )「資料は集まったんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「……うん!」

(´<_`;)「変な間があったんだけど……」

まさか、資料が集まっていないのに、原稿を書くなんてことないよな。
そんなことができるはずがない。

ζ(´へ`*ζ「だって……」

198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 21:44:08.60 ID:T+GvAa3Y0
 
だってじゃないだろ。
一声かけてから、彼女のパソコン画面を見る。

(´<_` )「……調べたきっかけしか書いてないんですけど」

ζ(´ー`*ζ「……えへへ」

こんなものは、書かなくてもいい範囲のことだろ。
去年も発表はしたはずなのに、どうしてこうなったんだ……。

ζ(゚ー゚*ζ「でも! でもね!
       こう……。結論に至るきっかけがいまひとつ足りないだけなの!
       だからすぐにできるよ!」

なら結論直前までは書けるだろ。
手書きなら修正が面倒なのもわかるけど、パソコンなら簡単な操作で書き直しや移動もできる。
現状を見る限り、デレちゃんの言葉を信じることができない。

(´<_` )「悩むなら、ネットで少しアイディア探しとかしてみたら?」

玉石混淆の世界だから、まともに引用したりあてにするのには向かない。
だけど、それだけ様々な意見があるから、案外きっかけになったりもする。
人によると思うけど、アドバイスの一つとして口にする。

ζ(゚ー゚*ζ「そうしようかなぁ」

悩むデレちゃんに断って、隣の席に腰を降ろす。

201 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 21:47:06.00 ID:T+GvAa3Y0
 
(´<_` )「――あ」

ζ(゚ー゚*ζ「どうかした?」

(´<_` )「ごめん。何でもないよ」

すぐに顔をそらしてデレちゃんに笑みを向ける。
何でアイツがここにいるんだ。

( ´_ゝ`)

そっと目線を向ければ、やっぱりいる。
同じ講義ではなかったはずだから、デレちゃんと似たような目的か?
それとも、元々空き時間で毎回暇つぶしに来てたりするのか?

あぁ、どっちでもいいが、最悪だ。
こんなことなら、図書館にでも行けばよかった。

ζ(゚ー゚*ζ「パソコンつけないの?」

そう聞きながら、彼女は勝手に電源ボタンを押した。
何のための疑問系だったんだ。

(´<_`;)「あ、ありがとう」

ここに来てるんだ。そりゃ、パソコンの電源くらい入れるよな。
彼女が悪いんじゃない。
悪いのはこんなところにいる糞野郎だ。

202 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 21:50:30.51 ID:T+GvAa3Y0
 
ζ(゚ー゚*ζ「弟者君は何をするの?」

(´<_` )「ちょっとネットサーフィンでもしようかと思って」

デレちゃんが首を傾げ、オレは問いに答えを返す。
その間、オレはずっと彼女の方に体を向けている。
あいつの顔も姿も見たくない。
でも、流石にそろそろ怪しいか。

ζ(゚ー゚*ζ「ついさっき休講になったんだって?
       大変だねぇ」

(´<_` )「驚いたって感じかな」

穏やかな会話をしながら、オレは腹を括る。
ここで席を立って、図書館に行った場合、デレちゃんが何らかの形で傷つくかもしれない。
予想できるようなことで彼女を傷つけるのは本意ではないからな。

体を少し移動させ、パソコンと向き合う。

(´<_` )「っと?」

あれ?
兄者がいない。

203 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 21:53:04.02 ID:T+GvAa3Y0
 
ζ(゚ー゚*ζ「んー。本当に、大丈夫?」

(´<_`;)「あ、あぁ。ごめんね。本当に大丈夫だよ」

ζ(゚ー゚*ζ「そう?」

空気を読んで立ち去ったのか?
そんな出来のいいことができる奴だったっけか。

ζ(゚ー゚*ζ「無理は駄目だよ」

(´<_` )「本当に大丈夫ですよっと」

ログインを完了させる。
ちょっと挙動不審だったのは自覚がある。
心配させてしまったか。申し訳ない。

仲が悪いと口にするのも嫌なくらいなんだ。兄者のことは。
デレちゃんは兄者のことを知ってたっけか。
顔くらいは知ってそうだけどな。同じ大学で、オレと同じ姿をしているし。

(´<_` )「そっちはどう?
      無理しないでとは言いにくいんだけど」

ζ(´へ`*ζ「はい……」

返事じゃなくて答えが欲しかったんだけどなぁ。

206 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 22:02:43.93 ID:T+GvAa3Y0
 
(´<_` )「検索ワード見せてよ」

ζ(゚ー゚*ζ「はーい」

椅子を近づけて画面を覗く。
お馴染みの検索サイトを使っているようなので、こちらとしても見やすくて助かる。
ざっと目を通す。

(´<_` )「もう少しどうにかなりそうかな」

ζ(゚ー゚*ζ「そうなの?」

(´<_` )「うん。ちょっとキーボード借りるね」

ζ(゚ー゚*ζ「どうぞー」

マイナス検索とフレーズ検索を使って、よりわかりやすい検索結果を出す。
余計なサイトやブログがこれで消えたはずだ。

(´<_` )「これでどうかな」

ζ(゚ワ゚*ζ「わー! すごい!
       見やすいしわかりやすい!
       この記号を使ったの?」

(´<_` )「うん。この記号を使うと――」

検索のコツを一つ一つ解説する。
どうせ暇つぶしに来ているんだ。誰かの役に立つならそれがいい。

209 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 22:11:16.66 ID:T+GvAa3Y0
 
ζ(^ワ^*ζ「弟者君のおかげで、発表も上手くいきそう! 本当にありがとう!」

一通りの説明が終わると、デレちゃんは満面の笑みでお礼を言ってくれた。
ここまで喜ばれると、教えたかいがあるってもんだな。

(´<_` )「このくらいなら、いつでもどうぞ。
      何ならメールでもしてくれればいいよ」

確か、去年のグループ発表のときにメールアドレスは教えたはずだったよな。
あれからも交流は続いてるし、削除されてる。ってことはないはずだ。

ζ(´Д`*ζ「いやー。流石にそこまでしてもらうのは申し訳ないです……」

(´<_` )「メールで聞かれるのも、学校で聞かれるのも、そう変わらないよ。
      だったら、わからなかったその時に聞いて」

ζ(゚ー゚*ζ「迷惑じゃない?」

(´<_` )「全然」

特別難しいことをやらされるわけではない。
最終的なまとめや原稿、レジュメ作りはデレちゃん自身がしなければならない。
ちょっとした手伝いで彼女が楽になるならば安いものだ。

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、お世話になっちゃおうかな」

迷いながらもデレちゃんはオレの言葉を受け止めてくれた。
いつでもすぐにメールの返信ができるわけではないけど、できる限りの協力はしないとな。

212 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 22:14:09.71 ID:T+GvAa3Y0
 
ζ(゚ー゚*ζ「弟者君には、お世話になりっぱなしだね」

(´<_` )「なりっぱなしって言っても、数回だよ」

ζ(゚ー゚*ζ「でも、すっごく短い期間でだし」

このペースでお世話していれば、それなりの回数にはなるか。
そうなる前に、発表が終わるとは思うけど。

ζ(´へ`*ζ「この間のお礼もまだしてないのに」

しょんぼりとした風になる。
別に、友人同士なら、このくらいの貸し借りはよくあることだろに。
ちょっと気を使いすぎなんじゃないか?

(´<_` )「じゃあ、次の時間にちょっとノートを見せてよ」

ζ(゚ワ゚*ζ「勿論! いいよ!」

適当に借りを返せるようなことを言えば、デレちゃんはあっさりと乗ってきた。
うん。扱いやすい子だ。

それに、適当な嘘をついたわけではない。
他の友人がいないわけではないが、何となくまだノートを見せてもらっていない。
デレちゃんが見せてくれるなら、それが一番嬉しいし有り難いのは本当だ。

215 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 22:17:40.96 ID:T+GvAa3Y0
 
ζ(゚ー゚;ζ「でも、今回のお礼はどうしよう!」

(´<_`;)「別にお礼目当てで手伝ったわけじゃないんだけど……」

衝撃の事実に気づいてしまったかのような口調に、思わず言葉を被せてしまう。
借りは必ず返す。と、いうのは大変よろしいことですが、どちらかといえば男性に求められる資質であって、
キミのような可愛らしい女性に求められるものではないと思います。

元々、オレはそれほど大したことはしてないし、借りってほどのものじゃない。
お礼に悩むデレちゃんを見てると、申し訳なくなってくるから、ありがとうって言葉だけでいいくらいだ。

ζ(゚ー゚*ζ「そうだ!」

彼女の小さな手がパチン。と、音をたてる。
何を思いついたんだろうか。
デレちゃんの負担になるような借りの返しかたでなければいいんだが。

ζ(゚ワ゚*ζ「私ね、お菓子作るのが趣味なの。
       だから、今度クッキーを作ってくる!」

(´<_` )「いいの? ありがとう」

219 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 22:20:46.29 ID:T+GvAa3Y0
 
反射的に言ってから気づく。
クール先輩からもクッキーを貰うんだった。

ζ(^ワ^*ζ「美味しいの作るね!」

(´<_`;)「うん。楽しみにしてるよ」

ダブルブッキングというわけではない。悪いことは何もないはずだ。
貰う日もずれるだろうし、何よりもそこそこ日持ちする食べ物だ。
一気に食べなければいけないというわけではない。
不都合など何もない。なのに、何故か罪悪感があった。

鼻歌交じりに、クッキーの材料を小さな声で確認しているデレちゃんに、
やっぱりクッキー以外でお願いします。などとは言えない。
口が裂けても言うことはできない。

ζ(^ワ^*ζ「嫌いな味ってある?」

(´<_` )「ないよ」

ζ(^ワ^*ζ「じゃあ、たーっくさん作るね!」

プレーン、チョコ、オレンジ、抹茶。
彼女の唇から様々な味が飛び出す。


……クッキー、楽しみだな。

221 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 22:23:32.17 ID:T+GvAa3Y0
 
今日は快晴。
すっきりとした空模様ではあるが、風はどこか冷たい。

明日は休みだと思うと、ちょっと気が抜けそうだ。
風邪をひかないようにだけ気をつけよう。
今の時期に学校を休むとなったら、色々面倒だろうし、クール先輩に迷惑をかけかねない。

川 ゚ -゚)「おはよう」

考えていれば、クール先輩のご登場だ。
この人は今日も元気そうだ。体調管理も完璧なんだろう。

(´<_` )「おはようございます」

挨拶を返す。この行為にもすっかり慣れた。
この間、予定を確認してみたところ、次の集まりは休み明けの月曜日だ。それも放課後じゃなくて昼休み。

きっと、その時にはクール先輩お手製のクッキーが食べられるに違いない。
昼休みにクール先輩と食事をして、その後にクッキーだぞ?
オレはその日が寿命となるのかもしれない。

顔を上げたときには、あの人の背中が見えていた。
昨日の会話は、やっぱりレア中のレアだったのだろう。
そう思うと、昨日という一日が輝いて見える。

無論、挨拶ができた今日も、輝いているがな!

222 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 22:27:07.06 ID:T+GvAa3Y0
 
エレベーターを使わずに一時間目の講義がある部屋へ向かう。
休日の予定と、月曜の予定を考えるだけで胸が高鳴る。

(´<_`* )「よっしゃ!」

思わず声が出たとしても、変な目で見ないでもらいたい。
それだけ嬉しいんだ。
恋をしたことがある人間ならば、オレの気持ちを理解してくれるに違いない。というかしろ。

愛おしく思っている人からの手作りクッキーだ。
あぁ。人を好きになってよかった。
そうでなければ、これほど昂揚した気分にはなれなかっただろう!

(´<_`* )「何かお返しを持っていこうかな?」

これはキミへの礼なのだから、お返しをされると困る。
なんて言ってくれる気がする。
うん。一つの手段として考えておこう。

あぁ、土日なんてすっ飛ばして月曜日がやってくればいいのに。
幸せは後に取っとけなんて、馬鹿の言うことだ。
手に入る範囲に幸せがあるというなら、それを掴まずにいてどうする。

とはいっても、時間の流れを変えることなんてできない。
オレはあっさりと白旗を掲げて月曜日をただただ待つだけだ。

223 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 22:31:00.54 ID:T+GvAa3Y0
 
幸福感はオレの足取りを軽くする。
まるでステップを踏むかのような軽やかさで階段を上る。
疲れも何も感じない。
脳内麻薬が出ているんだと指摘されれば、なるほどと納得する。

(´<_`* )「月曜日、早くこっちへこい!」

今ならお茶請けを出してやってもいい。
ありったけの方法で歓迎してやろう!

誰からも嫌われている月曜日を、オレだけが暖かく包み込んでやれる。
再来週になったら扱いはぐるりと正反対になる可能性大だけどな。

(´<_`* )「楽しみだ。
      本当に、これ以上ないくらい、楽しみだ」

オレにとっての恋は、春ではなく秋だ。
芸術や食欲の中に、そっと恋の秋を混ぜておこう。
葉が赤く色づくようにオレの気持ちも色づく。

恋は人を詩人にさせるというし、秋との相性は良いだろう。
きっと、オレは秋が来るたびにこの弾んだ気持ちを思い出す。
幸せな感情を再び得ることができる。

何て恵まれた男なんだろうか。オレは。

226 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 22:34:07.87 ID:T+GvAa3Y0
 
幸福は長く続くべきだ。
なぜなら、幸福は平和を作り出す。
世界中が幸福で溢れていれば、争いなど起きないはずだ。

( #´_ゝ`)

故に、お前はそこにいるべきじゃない。

(´<_`# )

あと少しで教室、というところで、何の因果か出会ってしまった。
兄者は柱にもたれかかり、眉をひそめている。

霧散してしまったオレの幸福感を返せ。
そんな言葉を吐き捨てるのも嫌だ。

互いに睨みあう。
大体からして、そっちは違う講義だろ。
オレと講義が被っていたことなんて、一度もないはずだからな。

パソコン教室や図書館のような場所ならばまだ納得もいく。
だけど、こんなところへ来る理由なんて、講義以外ないだろうが。
誰かと待ち合わせでもしていたのか?

何とも傍迷惑なことだ。
可能なことならば、今ここで殴り倒してやりたい。

227 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 22:37:11.40 ID:T+GvAa3Y0
 
いやいや。落ち着け。
騒ぎでも起こしてみろ。オレは兄者と揃って説教を受けることだってありえる。
そんなのは真っ平御免だ。

無視をして教室にさえ入ってしまえば、オレの気持ちは平常を取り戻すことができる。
考えなしに行動するべきではない。
そうだ。落ち着いて、兄者なんぞは無視して、さっさと扉の向こう側へ移動してしまおう。

ζ(゚ー゚*ζ「あー。弟者君。おはよう!」

背後から聞こえたのは、可愛らしい声だ。
近くにあの糞野郎がいると思っていても、多少は心が安らぐ。

(´<_` )「そういえば、一緒の講義か」

ζ(゚ー゚*ζ「うん! 早く入ろ!」

(´<_` )「そうだね」

一人待ちぼうけを食らっているあんたよりも、オレはずっと幸福だ。
そう思い、嘲笑を向けてやる。

( ´,_ゝ`)  (´<_,` )

だけど、オレ達はやっぱりそっくりだった。
兄者も似たように嘲笑をしている。
何だってんだ。デレちゃんのレベルが低いとでも言う気か。
流石に殴るぞ。

228 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 22:40:37.70 ID:T+GvAa3Y0
 
ζ(゚ー゚*ζ「弟者君は朝早いんだねぇ」

(´<_` )「最近はね」

一時間目にあわせて来たにしても少し早い時間だ。
片思いをしていないオレだったら、間違いなくもっとゆっくり来ている。

(´<_` )「デレちゃんも今日は早いんだね。
      いつもはもう少しゆっくりじゃなかったっけ?」

オレはいつもの席に座る。
デレちゃんはいつもの場所よりも少し後ろ、オレの隣に座った。
考えてみれば、オレが彼女にあわせるべきだったか。

ζ(^ワ^*ζ「今日は早起きしたから!」

(´<_` )「そうなんだ」

彼女の笑みに、殺伐とした気持ちが癒されていく。
会えてよかったと心の底から思う。
兄者と会ってしまった分のマイナスを帳消し、いや、それ以上のプラスをくれている。
キミのためなら、夜中のメールにでも返信するよ。

ζ(゚ー゚*ζ「ふっふっふー!
      早起きして、コレを作っていたのでーす!」

232 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 22:43:32.65 ID:T+GvAa3Y0
 
机の上に置いた鞄から彼女は小さな紙袋を取り出した。
ハートマークが乱舞しているような、女の子らしいものだ。
バレンタインデー辺りになるとよく見るようなもの。

ζ(゚ー゚*ζ「どうぞ!」

何の裏もなさそうな顔で手にしていた紙袋を差し出してくる。
彼女のことだ、本当に裏はないんだろうけどな。

しかし、この可愛らしい袋をオレが持つのか?
デレちゃんには悪いが、これを持って校内を歩いていたら何らかの悪意を受けそうだ。
嫉妬だとかいう類の悪意を。

(´<_` )「ありがとう」

迷いながらも紙袋を受け取る。
そうしなければ、彼女はいつまでもオレに紙袋を差し出したポーズのまま動かなかっただろうし。

少し重いが、邪魔になるような重さではない。
芳しい香りがするな……。

小麦粉と、バター、そして砂糖。
甘い、いい香りだ。

234 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 22:46:07.00 ID:T+GvAa3Y0
 
(´<_` )「これって……」

ζ(゚ワ゚*ζ「クッキー!」

昨日の今日で作ってきてくれたのか。
律儀というか、行動力があるというか……。
嬉しいけど、発表の方は大丈夫なのかが心配だ。

ζ(゚ー゚*ζ「たーっくさん作ったの!
       お友達と食べて!」

(´<_` )「おお……。本当だ。たくさん入ってる」

紙袋を覗くと、小さな小包がたくさん見えた。
一つ一つ味が違うらしく、小さなカードに味が書かれている。
プレーンにチョコにオレンジに抹茶……。
彼女が昨日呟いていた味だ。それ以外のものもいくつかあるな。後で確認してみよう。

早起きをして作ったと言っていただけあって、出来たてのいい香りがする。
バスや電車で隣の席に座っていたのが男だったら、きっと悔しい思いをしていただろうな。
この子の作ったクッキーを食べたかった! って。

(´<_` )「ありがとう。
      どれも美味しそうだ。オレだけで食べたいくらいだよ」

ζ(^ワ^*ζ「それでもいいよ!」

236 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 22:52:00.91 ID:T+GvAa3Y0
 
袋の中身を覗いていて、ふと気づく。
デレちゃんの席に、何か汚れがある。

(´<_` )「あ、そこに触ると黒くなるよ」

ζ(゚ー゚*ζ「え?」

シャーペンで黒く塗りつぶされている箇所があった。
触れると黒ずみがついてしまう。
簡単に落ちるとはいえ、女の子が一時間目から手を汚すことはない。

(´<_` )「ちょっと待って」

消しゴムを取り出し、汚れを消す。
そういえば、前にこの教室を使ったとき、ブーンが汚していたっけ。
よく今まで残っていたな。
ある意味感心してしまう。

(´<_` )「うん。これでいい」

ζ(゚ー゚*ζ「またお礼を言わないとね。ありがとう」

(´<_` )「いいよ。このくらい。
      多分、キミが座ってなくても消しただろうし」

嘘だけどね。
いつもなら無視してる。

242 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 22:58:39.23 ID:T+GvAa3Y0
 
ζ(゚ー゚*ζ「他の人が触っちゃったら大変だもんね」

(´<_` )「うん」

ごめんなさい。
たかがシャーペンの黒ずみくらい、自分で対処しろよって感じです。
デレちゃんが目の前にいたからこその行動です。

ζ(゚ー゚*ζ「うーん。弟者君、花丸満点!」

(´<_` )「わー。嬉しー。ありがとー」

ζ(゚ー゚*ζ「ふふふ。すごい棒読みだよ」

(´<_` )「正直者なんで」

ζ(゚ー゚*ζ「演劇サークルには入れないね」

いやいや。それなりの成績を収める自信があるね。
対キミだったならば、なおさらに。

(´<_` )「自分を褒めたい。と、いうことで、クッキーを食べてみてもいいかい?」

ζ(゚ー゚*ζ「もう弟者君にあげたものだから、お好きにどうぞー」

246 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 23:01:33.85 ID:T+GvAa3Y0
 
お言葉に甘え、プレーンと書かれたカードのある袋を開ける。
クッキーの香りがよりいっそ強く感じられた。

(´<_`* )「うん。美味しい」

ζ(^ワ^*ζ「よかったぁ!」

嬉しさのあまりか、デレちゃんは立ち上がって軽く飛び跳ねた。
子供っぽい仕草だが、不思議と彼女がすると似合っている。
決して、彼女が子供だと馬鹿にしているわけではない。

(´<_`* )「わざわざ早起きしてくれたんだったね。ありがとう」

何度お礼を言ったって足りないくらいの美味さだ。
さくっとしていながらも、しっとりとした舌触り。
甘さも自然で、後までベタベタと残るようなものではない。
いくらでも食べられる美味さだ。

だが、ここは我慢の時。
これから講義が始まるというのに、さくさくと音をたてているわけにはいかない。
時間が経てば、少々触感は変わってしまうかもしれないが、この美味さならば問題あるまい。

休み時間にゆっくりと味わうことこそ、このクッキーに対する最大の礼儀。
多少ならアイツらに分けてやってもいい。
あくまでも多少。

よし。あと一枚だけ食べよう。

250 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 23:04:00.43 ID:T+GvAa3Y0
 
(´<_` )「と、いう経緯で手に入れたクッキーを分けてやろう」

(*'A`)「弟者様ああああああ!」

( *^ω^)「素敵いいいいい!」
  _
( *゚∀゚)「クッキー! クッキー!」

食堂でクッキーを広げてやる。
オレ一人で食べたいが、量が量だからな。
分け与えてやってもいいだろう。

( *^ω^)「美味しいお!」

('A`)「お前は彼女の手作り弁当でも食ってろ!」

( ^ω^)「さっき食べたお!」

そう言いながらクッキーを頬張る。
なるほど。口直しというわけか。
ツンちゃんがこの光景を見たら激怒するだろうな。
  _
( ゚∀゚)「ツンちゃんにチクってやろー」

(;^ω^)「割りと本気で勘弁して欲しいお」

('A`)「ケッ! 胃薬でも飲んでいやがれ!」

252 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 23:08:22.90 ID:T+GvAa3Y0
 
飯を食い終わってから出したというのに、大した食べっぷりだ。
特にブーン。お前は胃薬を飲んでいたんじゃないのか。そんなに食べて大丈夫なのか。

(´<_` )「一応、オレが貰ったもんだってことを忘れんなよ」

('A`)「忘れない。だから全て食う」

(´<_`;)「やめろ」

ドクオはもはやとり憑かれたかのようにクッキーを食べている。
せっかくの美味いクッキーがもったいないから止めて欲しい。
  _
( ゚∀゚)「オレンジうめー」

( ^ω^)「いや、やっぱりここはプレーンだお」

('A`)「チョコこそ至高」

各人、好みが分かれたようだ。
一つに集中しなくて何より。
オレも自分の好みである抹茶は既に確保している。

男四人がクッキーに群がる姿ってのは、他人から見たらどんな風に映ってるんだろうな。
想像するのが怖いし、考えないことにしようか。

256 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 23:11:44.36 ID:T+GvAa3Y0
 
抹茶味のクッキーを手にして、周囲を見渡す。
食堂はいつも通りの盛況さだ。
周囲の雑談が混ざり合い、雑音にも聞こえる。

いつもと同じ風景だ。
しかし、少しばかり違う。

(´<_` )「……今日はやけに食堂が狭く感じるな」

妙な圧迫感があるように思う。
以前は無駄に広々として感じたんだが。

オレの疑問に、ブーンが間延びした声を出す。
理由に心当たりがあるらしい。

( ^ω^)「鏡が撤去されたらしいお」

(´<_` )「鏡?」

そんなもの、あったっけか。
意識していなかったな。
  _
( ゚∀゚)「空間を広く見せるための大鏡、だっけか」

( ^ω^)「時々、ぶつかる人とかいて危なかったけど、突然なくなると違和感があるおね」

259 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 23:14:18.51 ID:T+GvAa3Y0
 
知らなかったのはオレだけか。
少しは周りの様子にも気を配るようにした方がいいかもしれんな。

('A`)「鏡なんてものはな、洗面所にあれば十分なんです。
   偉い人にはそれがわからんのです」
  _
( ゚∀゚)「お前、そこまでして自分の顔を見たくないのかよ」

ジョルジュが噴出す。
クッキーのカスが飛んだぞ。汚い。

(#'A`)「誰だって自分の面を見ながら飯食いたくねぇだろうがよおおお!」

( ^ω^)「そこは同意するけど、洗面所にしか、のくだりはフォローできないお」

(#'A`)「フツメンが憎いいいいいい」

(´<_` )「そこにまで憎しみを募らせると生きていけないぞ」

だが、確かに自分の顔を見ながら食事するのは嫌だな。
何が嫌かって聞かれると具体的には答えにくいが。

そうだ。この感情と、オレが兄者のことを嫌いな感情は似ているかもしれない。
双子なのに仲が悪いの? などと聞いてくる連中には、こうやって説明してもいいかもしれない。
ずっと目の前に鏡がある生活なんて、誰だって嫌だろ?

262 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 23:17:00.94 ID:T+GvAa3Y0
 
(#'A`)「お前もオレと同じ顔にしてやろうかあああ!」

お前の顔はそこまでキモメンってわけでもないだろうに。
問題は性格にあるってことをもっと強く自覚しろ。

( ^ω^)+「それでもツンなら愛してくれる」

(#'A`)「爆発しろ。爆発しろ。爆発しろ。爆発しろ」

(´<_`;)「凄まじい負のオーラ!」

( ^ω^)「悪魔だお……」

(´<_`;)「なら封印でもしておくか?」

こいつなら、リア充語録でも与えれば簡単に封印できるだろう。
カーチャンコピペでも可。

(#'A`)「この憎しみを! 糧に! オレは! 生きる!」

(´<_`;)「そんな不健全な糧は止めろ!」

エロゲを糧にしている方がまだマシだ。
たぶん……。

264 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 23:20:01.15 ID:T+GvAa3Y0
  _
( ゚∀゚)「それよりよー。
    弟者、これって脈アリなんじゃねーの?」

(´<_` )「はぁ?」

話が唐突過ぎて、訳がわからん。
お前の頭の中でだけの展開は、こちらに伝わってこないんだぞ。
  _
( ゚∀゚)「クッキーだよ。クッキー!」

効果音をつけたくなるほどの勢いでクッキーを指差す。
ずいぶんと減ったな。自分から差し出しておいて何だが、遠慮しながら食えよ。

( ^ω^)「確かに、手作りクッキーなんて、好意がなけりゃ作ってもらえないお」

('A`)「恋愛イベントの中でも、かなり上位に食い込んでくるしな」

お前達は何の考察をしているんだ。
そんなにオレの恋愛事情に興味があるのか? 暇なのか?
んでもって、ドクオはもう恨み辛みから解放されたのか?

(´<_` )「ただのお礼だってのは説明しただろ」

手伝いの対価としてのクッキーだ。
他の意識はないだろう。
妙な邪推はデレちゃんに失礼だ。彼女の胸には、他に好きな男がいるかもしれんだろうに。

267 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 23:23:04.56 ID:T+GvAa3Y0
 
(#'A`)「馬鹿か! そもそもお礼を貰えることがどれほど素晴らしいことか――」
  _
( ゚∀゚)「ってのは置いておいてだ。
    それでも、手作りってのは異性に渡すにはハードルが高いんじゃねーの?」

ドクオの叫びをジョルジュが遮る。

アイツがお礼を貰えないのは、積極的に人の手助けをしていないからだろうに。
悪気があるとか、無視しているとかではなく、単純に声をかけられないってのが原因にしてもな。

(´<_` )「単純に得意ってだけだろ」

( ^ω^)「例え得意でも、材料費に時間に手間っていうのを考えると、市販のもので済ませがちだお」

何故か彼女にバレンタインデーのチョコレートを送った男の言葉は重いな。
あいにく、オレは料理をしないが、確かに手間暇はかかりそうだ。
それを押してまで作ってくれている。と、いうことか。
  _
( ゚∀゚)「こんだけ意思表示されて、気づかないってのは男として問題じゃねーの?」

(´<_` )「いや、本当にそういう感じじゃないんだって」

あのデレちゃんだぞ?
手間暇も何もかも乗り越えて、天然でやっている可能性が高い。
期待して肩透かしをくいたくはない。

268 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 23:26:03.96 ID:T+GvAa3Y0
 
――いや、待てよ?

よく考えてみれば、オレはクール先輩にもクッキーを貰う予定だ。
もしも、もしもだ。
コイツらの言うように、手作りのクッキーに好意的な意味合いがあるのならば、
オレは、これ以上ない喜びを得られるんじゃないのか?

あの人が、オレのために、あの細い指でクッキーを作ってくれる。市販品ではない。正真正銘の手作りだ。
完璧なクール先輩が作るものだ。味だって最高に違いない。
そんな素晴らしい物を手に入れ、口にするだけではなく、もう一つ、得られる可能性があるというのか?

いやいや、ちょっと落ち着くべきだな。
夢物語だ。
妄想だ。

オレとクール先輩が、恋人、になんて。
ブーンとツンちゃんのようになれる、なんて。

夢と妄想の世界だけの話だ。
現実に起こりうるはずがない。

だが、現実になるのならば、この上ない幸福だ。
この世の幸せが全てオレに降り注いでいることになる。

271 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 23:29:25.43 ID:T+GvAa3Y0
 
( ^ω^)「お? 真剣に考える気になったかお?」

オレはどんな顔をしているんだ……。
こんな時には鏡が欲しい。もう撤去されてるんだっけか。タイミングの悪いことで。
  _
( ゚∀゚)「文化祭も近いし、ここは、パーっと告白しちまえよ!
    彼女と回る文化祭……いいじゃねぇか!」

('A`)「ゲームでは告白して終了ってのも多いが、現実は先もあるからな。
   文化祭にハロウィンにクリスマス……。
   てめぇなんて、リア充にでも何にでもなっちまえ!」

(´<_` )「文化祭……」

そうだ。オレの目の前には、文化祭という一大イベントがある。
今まで、このイベントは、クール先輩と一緒に過ごせる時間だとしか思っていなかった。
しかし、考えて見れば恋人同士で過ごすイベントの一つでもある。

一緒に過ごすだけじゃない。
あちらこちらを回り、楽しみ、思い出を作る。

もしかすると、オレにはそれが可能なのか?
期待をしてもいいのか?

273 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 23:32:57.54 ID:T+GvAa3Y0
 
漠然としていただけの恋心が、告白というなの形を持とうとしている。
たったそれだけのことのはずなのに、オレの心臓は早くなった。
全力疾走をした後のようなリズムを刻んでいる。

まだすると決まったわけでもない。
想いが実るのかもわからない。
それでも、オレは緊張し、期待している。
  _
( ゚∀゚)「おーおー。顔、真っ赤だぞ」

(/<_//;)「うっせ!」

( ^ω^)「結果はどうなっても聞かせてくれおー」

('A`)「んで、いつするんだよ。
   こっちにも残念会の準備だとか、することは色々あるんだぞ?」

何で失敗前提なんだよ。

(/<_//;)「まだするって決めてねーよ!」

そうは言っても、オレの気持ちは告白に向いている。
ただのクッキーだと思っていたが、思わぬ効力を発揮してきたな……。

ならば、もう一度クッキーの力を借りようか。
休み明けの月曜日、昼休みにサークルで受け取る予定だったな。

275 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 23:35:04.09 ID:T+GvAa3Y0
 
朝の挨拶がない二日間をオレは過ごした。
だが、それは寂しいだけのものではなかった。
悩みと緊張の日々でもあった。

部屋の中でずっと考えていた。
クール先輩に、告白することを。

勢いに流されただけともいえる。
しかし、その先に希望を見たことも確かだ。
アイツらの言葉を鵜呑みにしたわけじゃないが、オレの知る中では最も女の子のことを知っているジョルジュが、
手作りクッキーというのは好意があるからこそ贈られるのだと言っていた。

他の誰が言うよりも、真実味がある言葉だ。
ならば、それを掴みたいと思うのは当然のことだろう。
目の前にあるチャンスは掴む。

オレとクール先輩は、ブーンとツンちゃんとは違う。
この機会を逃しても、また今度。と、いうわけにはいかない。
いつだってチャンスは一度っきりだ。

(´<_` )「……よし」

今日、オレは、告白する。

278 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 23:38:05.76 ID:T+GvAa3Y0
 
川 ゚ -゚)「おはよう」

(´<_`;)「お、おは、おはようございます!」

どもってしまった。
この時間帯にクール先輩が来ることは知っていたし、挨拶を交わすことは日課でもあった。
わかっていたはずなのに、やはり緊張してしまう。

川 ゚ -゚)「驚かせたか?」

(´<_`;)「あ、いえ。その……。少しだけ」

川 ゚ -゚)「そうか。それはすまなかった。
    では、改めて、おはよう」

(´<_` )「おはようございます」

告白を決行するのは、昼休みだ。
クッキーを貰うときに、告白をする。
そこまでがオレの考えることのできたプランだ。
後のことはクール先輩しだい。

川 ゚ -゚)「今日の集まりは楽しみにしていてくれていいぞ」

心なしか楽しそうな声だ。
オレの期待値が少し上がる。

280 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 23:41:15.08 ID:T+GvAa3Y0
 
川 ゚ー゚)「それなりに上手くできたつもりだ」

軽く鞄が上げられる。
あの中にクッキーがあるのだろう。

意識すると、また心臓が飛び跳ねる。
顔に出ていないといいんだけど。

(´<_` )「楽しみにしています」

特におかしな声ではなかったと思う。
上擦ってもいなかったし、どもってもいなかった。

川 ゚ -゚)「それでは、また昼休み」

(´<_` )「はい」

クール先輩の背中を見送る。
風に揺らめく黒髪が綺麗だ。
スカートから覗く足が美しい。

本当に、どこをとっても完璧な人だ。
あの人に告白をしようとしているオレは、何て愚かなんだろうと思わずにはいられない。
だが、それがどれほど愚かな行為だとしても、オレは決めたんだ。

282 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 23:44:30.82 ID:T+GvAa3Y0
 
('A`)「おーまーえー」

(´<_`;)「うおっ!」

いつの間に後ろにいたんだお前は。

('A`)「何だよー。朝っぱらから意味深な会話しやがって」

(´<_`;)「今日の集まりのことを言っただけだろ」

('A`)「そっちじゃねーよ」

そういえば、クール先輩からクッキーを貰うって話はしてなかったっけか。
今日、告白するつもりだし、そしたら成功しても失敗してもコイツ含め三人には話すつもりだ。
だから、クッキーを貰うことを今話しても、何の問題もない。
ない、はずだ。

('A`)「どーして、オレの周りはこうも女の子に恵まれてるんだろうなぁ!」

……いや、止めておこう。
ブーンやジョルジュならともかく、ドクオに話すと面倒なことになりそうだ。
朝からコイツの暴走の相手をするのは辛い。

告白終了後にまとめて話せばそれでいいだろう。
怒りも妬みも全部その時に受け入れる。
できれば、哀れみに変わっていないことを願っていよう。

284 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 23:47:34.26 ID:T+GvAa3Y0
 
(´<_` )「お前の女の子とのエンカウント率の低さは置いておくとして、
      今日も朝早くからきてるのか。
      先週みたいにエロゲしてたんじゃないだろうな」

悪くはないが、学習はするべきだ。
一時間目も二時間目もぐっすりで、講師から目をつけられたと聞いた。
最初の方でつまずくと、後々大変だろうに。

('A`)「違いますー。講義前に宿題を片付けるためですー」

(´<_` )「家でやれ」

('A`)「忘れてたんだよ……」

家に帰ると謎の開放感があるからな。
学校のことをすっぱり忘れてしまう気持ちはわかる。

(´<_` )「すぐ終わりそうなのか?」

('A`)「急げば」

(´<_` )「なら、駆け足で教室に行ったらどうだ」

('A`)「マンドクセ」

駄目だこいつ。

286 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/29(土) 23:50:09.00 ID:T+GvAa3Y0
 
(´<_` )「今日の昼休みは食堂に行かないって言ったっけ?」

('A`)「あー。先週、聞いた気がする」

(´<_` )「ならいい」

('A`)「クール先輩と一緒とか、羨ましすぎる。
   乱入してやろうかと計画を立てているんだが」

(´<_` )「あの人の冷静さを舐めるなよ。
      お前なんぞ瞬殺だ」

と、いうか、今日は絶対に止めろよ!
告白すると明言していないオレに責任があるとかじゃなくて、それなりに空気を読んでくれ。
オレとクール先輩が見つめあう中、ドクオが乱入してくるとか怖すぎるだろ。

ちょっとした修羅場。いや、血の海にする自信がある。
オレだって、大切な友人をこんなことで失いたくない。

('A`)「痴漢撃対スプレーくらいなら……」

(´<_` )「それを『くらい』で済ませられるお前が不憫だよ」

('A`)「哀れむな」

無理を言うな。

292 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 00:02:07.65 ID:APf58eA00
 
ドクオと別れて一時間目の講義を受ける。

新しい一歩を踏み出すその日、何気ない日常は特別なものに変わる。
いつも通り、なんてのは、告白をしようと決意しただけで変わってしまう。

胸に渦巻く緊張と期待と不安。
顔を青くすればいいのか赤くすればいいのかすらわからない。
下手をすれば、告白の前に死ぬんじゃないのか。

つい先週までは、ただ悶々としながら講義を受けていた。
それが、良くも悪くも今日で終わる。
どんな結果になっても、後悔だけはしないようにしていたい。

(´<_` )「……無理か」

無理だ。
失敗して、それでも告げて良かった。なんて、オレにはとても思えない。
だけどオレはしなければならない。
目の前にぶら下がったチャンスを、今度こそ掴むんだ。

時計を見る。
一時間目が終わるのにもまだ時間がある。
昼休みまでどれほど待てばいいのだろうか。

いや、いっそのこと、昼休みなんてこなければいいのか。
わからない。二つの相反する願いがオレの感情を乱す。

この状況でも変わらないものといえば、クッキーが楽しみだということだけだ。

294 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 00:05:15.64 ID:APf58eA00
そして迎えたる昼休み。
正直なところ、午前中の講義は殆ど捨てた。
集中なんてできるわけがなかった。

訪れることにも慣れたし、この扉の向こう側にいる人と話すことだって、ずいぶんと慣れたはずだ。
なのに、オレの手は震えている。
今の状態が現実かどうかすら把握していない。

いつまでもこうしているわけにはいかない。
廊下につっ立っているオレは、あからさまなほど不審な人間だ。
学生だということはわかってもらえるだろうが、変な噂を流されたとしても文句は言えない。

それに何より、クール先輩が待ってくれている。
次の行動に移らなければならない。
時間は今も動き続けているのだから。

一度、深呼吸をする。
冷えた空気が肺に染み渡る。

腹を括って、手を少し上げる。
ノックを三度。

(´<_` )「失礼します」

一声をかけて扉を開けた。
聞き慣れた音が鼓膜を振るわせ、オレを向こう側へといざなう。

296 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 00:08:09.57 ID:APf58eA00
 
川 ゚ -゚)「どうぞ」

クール先輩はいつもの席に座っていた。
窓際の、日当たりがいい席だ。
黒い髪が光を反射している。

(´<_` )「お待たせしてしまい、申し訳ありません」

川 ゚ -゚)「二時間目終了のチャイムが鳴ってから五分だ。
     私が来てから……三分といったところか。
     全く待っていないと言って差し支えないよ」

そう言って、クール先輩は机の上にあった数枚の写真をファイルにしまった。
お気に入りの写真なのだろうか。
是非一度、見せてもらいたい。

川 ゚ -゚)「先に、手早く文化祭のことを話してしまおう。
     昼食と、デザートはその後だ」

クッキーはデザートか。
食後に食べる甘味、という点では確かにデザートなのだろうけど、
デザートといえばケーキやアイス等を思い浮かべてしまうな。

川 ゚ -゚)「む? どうした?」

おっと。笑っていたのがバレたか。

(´<_` )「何でもありませんよ」

298 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 00:11:23.21 ID:APf58eA00
 
文化祭の話合いはものの数分で終わった。
元々、決めなければならない事項は、先週で殆ど決まっていた。
今日の集まりは確定事項の確認と、与えられた部屋の報告のためのものだ。

川 ゚ -゚)「以上だ」

(´<_` )「ありがとうございました」

席を立ち、頭を下げる。

この後、すぐに昼食を取るとしても、一つ一つにけじめをつけていく。
それがこのサークルの慣わしであり、クール先輩の意思だ。
オレは頭を上げてから再び席につく。

川 ゚ -゚)「それでは、食事にしようか。
     キミはお弁当だったか?」

(´<_` )「はい」

川 ゚ -゚)「ならばよかった。今から買いに行かせては可哀想だと思ってな」

食堂にせよ、購買にせよ、昼休みが始まって十分以上経つと、良い物は殆ど残っていない。
その上、購入に時間だけはかかるという負の重箱だ。
改めて考えると、弁当派で良かった。

299 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 00:14:35.69 ID:APf58eA00
 
母者の作ってくれた弁当は美味しい。
しかし、すまない。今日のメインはそこじゃないんだ。
クッキーと、それに付属するオレの行為だ。

川 ゚ -゚)

       (´<_` )

特に会話もない食事でよかった。
話しかけられても、オレはロクに返すことができなかっただろう。

弁当箱に箸が当たる音だけがハッキリと聞こえた。
薄っすらとでもいいのならば、外から学生の笑い声が聞こえる。
三枚ほど膜を通したような笑い声は、オレがいる空間の幻想性を強めているといえた。

まるで、現実世界にいないようだ。
緊張で頭が沸騰しているのか?
現実逃避の一種か?

箸を持つ手は震え、クッキーを受け取るその瞬間に怯えている。
オレは、その時に告白をする。
一世一代というのは、大げさだろうか。
だが、気持ちはそのくらい大きなものだ。

301 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 00:16:50.31 ID:APf58eA00
 
川 ゚ -゚)「ご馳走様でした」

(´<_` )「ご馳走様でした」

両手をあわせ、食物に感謝をする。
嘘だ。クール先輩はどうか知らないが、オレの中ではただの習慣だ。
今のオレの脳内は感謝よりも別のもので埋まっているしな。

川 ゚ -゚)「さて、楽しみにしてくれているかは知らないが、デザートの時間だ」

(´<_` )「楽しみにしてましたよ」

川 ゚ -゚)「ならば、期待にそえていることを望もうか」

ご安心ください。たとえ、消し炭のようなクッキーであったとしても、オレの期待にはそえています。
あなたが作ってくれたというだけで、十分過ぎるほどなんですから。

それでも極上の味を望んでいるオレは贅沢だろうか。
口に入れる以上、美味いものであるに越したことはない。
愛だけでは味の壁を登れない。ブーンを見ていると心底思う。

クール先輩が自身の鞄を探っている。
手が鞄から引き抜かれる。
とうとう、このときがやってきた。やってきてしまった。

302 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 00:19:17.38 ID:APf58eA00
 
川 ゚ -゚)「見た目は悪くないと思うんだが」

渡されたのは、特に趣向が凝らされているわけでもない、普通のクッキー。
けれども、クール先輩が作ってくれたクッキー。
名詞の前につく文によって、それは今まで見たことがないほど輝いて見えた。

オレにとってはお宝も同然だ。
金銀よりも価値がある。

川*゚ -゚)「食べてみてくれないか?」

恥ずかしそうに言う。
あまり人にお菓子を作ったことがないだろうから、不安なんだろう。

(´<_` )「わかりました。でも、その前に――」

言うぞ。
クッキーを食べる前に、オレは言うんだ。決心したんだ。

川 ゚ -゚)「どうした?」

ほら。言え。この人を待たせるな。早く言え。早く。
今さら怖気づくな。言え。今だ。今言わなければ、一生チャンスはやってこない。言え!




(´<_` )「オレ、クール先輩のことが、ずっと前から好きです。
      付き合ってください」

306 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 00:22:31.61 ID:APf58eA00
  

言った。
言ったよな? 告白、したよな?


川 ゚ -゚)


あぁ、クール先輩が呆然としている。
やっぱりオレは言ったんだ。告白したんだ。
なら、返事を期待してもいいよな。

イエスでも、ノーでも。
答えが欲しい。
オレの気持ちに対する答えをください。





   _,
川;゚ -゚)「……何を、言っているんだ?」


――え?

311 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 00:24:56.41 ID:APf58eA00
   _,
川;゚ -゚)「どうしたんだ。何を血迷っているんだ?」

クール先輩が慌てている。
オレには意味がわからない。
   _,
川;゚ -゚)「キミが私を好きだなんて、あるわけがないじゃないか」

どうしてですか。
確かに、入学当初はそうじゃなかったです。
でも、人の気持ちなんて変わるものじゃないですか。
今のオレの気持ちをどうして否定するんですか。
   _,
川;゚ -゚)「元気に見えたが、やはりどこか悪いのか?」

オレのどこが悪く見えるんですか。
至って正常な思考回路で、あなたに想いを伝えたつもりですよ。
   _,
川;゚ -゚)「無理に登校しなくてもいいんだぞ?
     私よりも、キミの方がずっと辛いことは確かなんだ」

何がですか。
あぁ、フられたからですか。
確かに、フった方よりも、フられた方が辛いかもしれないですね。

そうか。オレはフられたのか。
もっと直接的な拒絶をしてくれてもいいのに。
優しいんだな。クール先輩は。

313 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 00:27:11.03 ID:APf58eA00
 
( <_  )「すみません」
   _,
川;゚ -゚)「ん?」

( <_  )「帰ります」
   _,
川;゚ -゚)「あ、あぁ。そうするといい」

( <_  )「クッキー。貰って帰っても?」
   _,
川;゚ -゚)「いいぞ。だが、体調が悪いなら、無理に食べるなよ」

( <_  )「はい」
   _,
川;゚ -゚)「気をつけてな」

( <_  )「わかってます」
   _,
川;゚ -゚)「文化祭も、無理しなくていいから」

( <_  )「……ありがとうございます」

314 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 00:29:33.70 ID:APf58eA00
 
素晴らしいクール先輩。
フった相手にも優しい先輩。

オレが文化祭当日に気まずい思いをしないように気づかってくださり、ありがとうございました!
帰り道にとち狂ったことをしないように念を押していただき、ありがとうございました!
体調の心配までしてくださって、ありがとうございました!

今でもオレはあなたが大好きです。
きっと、サークルを辞めることはできません。
平然と居座るオレを見て、あなたはどう思うのでしょうか。

優しいあなたは、オレを軽蔑しないでいてくれるでしょう。
受け入れてくれるでしょう。
その慈愛が今は痛い。今は辛い。

午後の講義なんて知ったことか!
オレは帰る!

今は何をする気にもなれない。
明日にでもなれば話は変わっているかもしれないが、午後の講義を受けるなんてできない。

走る。いつもの道を駆け抜ける。
疲れなんてどうでもいい。
ただ走りたい。心臓が痛い。肺が痛い。それでも走りたい。

316 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 00:32:11.53 ID:APf58eA00
家まで走りたい気分だったが、流石にそれは無理だと残っていた理性が言った。
定期で電車に乗リ込む。
車内は空いていて、どこにでも座ることができた。

どこに感情があるのかわからない。
悲しい。苦しい。楽しい。辛い。笑いたい。泣きたい。喚きたい。
自分という存在さえ曖昧になる。
気持ちが悪い。

殆ど無意識で手が動く。
携帯電話を取り出し、メール画面を開く。
誰に送るんだ?

自分が打っているはずなのに、自分じゃないように思える。
何を送るんだ。あぁ、戦果報告か。


to:ジョルジュ
sub:
――――――――――――
だめだった





我ながら、簡素なメールだ。
送信ボタンを押す。

318 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 00:35:29.38 ID:APf58eA00
 
あれからすぐに携帯が震え、メールの受信を告げた。
しかし、内容を見る気になれず、そのまま帰宅する。

ただいまも言わずに靴を脱ぐ。
靴を揃えるのも面倒で、放置したまま廊下を歩く。

リビングからテレビの音が聞こえてきた。
母者がドラマでも見ているんだろうか。
そういえば、久しぶりにテレビの音を聞いた気がする。

階段を上がり、二階にある自室へ向かう。
ベッドにダイブして、泣き喚こうか。それとも、椅子に座って呆然としていようか。
まとまらない思考を持ったまま二階にたどりつく。

そこで足を止めた。

二階には部屋が二つある。
一つはオレの部屋。もう一つは兄者の部屋。

双子とはいえ、オレ達の仲の悪さだ。
母者達も同じ部屋に押し込めることはしなかった。
気づいたときには、別々の部屋にいたように思う。

丁度良い。
普段は、積極的に関わることなどしないが、今日は別だ。

オレは兄者の部屋へ続く扉を開けた。

320 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 00:37:52.68 ID:APf58eA00
 
( <_  )「嫌になるね」

オレ達は趣味も似ている。
部屋の内装はオレのものと同じといっていい。
買ってある本も、ゲームも、文房具でさえも、

遺伝子の神秘だな。
塩基の配列がどうので、ここまでそっくりになれる。
もはや同じ人間だ。

( <_  )「本当、腹が立つ」

本棚に入っていた本を全て放り出す。
雑に扱い、そこいらに散らばらせる。
破いてやろうかとも思ったが、資源の無駄は環境によくないので止めた。

お次は何にしようか。
引き出しを全部開けてやろう。
中身はまた放り出す。

衣類をぐちゃぐちゃにした。
ノートを放り投げた。
カレンダーを破った。
文房具を壊した。

324 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 00:39:40.94 ID:APf58eA00
 
一通り暴れると、頭がすっきりした。
同時に悲しくなった。

オレはフられたんだ。
その現実が重く圧し掛かる。
苦しい。苦しくて、泣きそうだ。

もう、サークルに顔を出せない。
朝早くに学校へ行けない。
クール先輩と会えない。
思い出が崩れ落ちてしまう。

立っているのも辛くなって、その場に座りこみ、携帯を開く。
確か、ジョルジュからメールが来ていたはずだ。
慰めの言葉でも見たい気分だった。



from:ジョルジュ
sub:
――――――――――――
自棄酒、付き合おうか?

327 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 00:41:49.80 ID:APf58eA00
  
あぁ。お前はいい友人だ。
オレなんかにはもったいないくらいの。

メール画面を閉じ、短縮ボタンを押す。
文字を打つ気力がもうなかった。
今が何時かとか確認していないが、あいつなら講義中でも出てくれるだろう。

こんな時にばかり不真面目さを期待しているのは卑怯か?
それでもいいや。だから出てくれ。

『もしもし?』

( <_  )「ジョルジュ」

『弟者、大丈夫か?』

( <_  )「自棄酒、付き合ってくれるんだって?」

『――あぁ。勿論だ。
 ブーンも、ドクオも、付き合ってくれるってよ』

( <_  )「ドクオは未成年だろうが」

『硬いこというなよ』

電話の向こうでジョルジュが笑った。
胸が軽くなる。

328 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 00:44:04.26 ID:APf58eA00
 
『どうする? 今からするか?』

( <_  )「そうだなぁ……」

今すぐやりたいな。飲みたいな。
そうじゃないと、オレは地面と同化してしまう。

『オレの家知ってたっけ?』

( <_  )「一度行ったことがある」

『そっか。んじゃ、そっちに行ってくれ。
 オレはドクオとブーンを回収して向かうわ』

( <_  )「すまんな」

『何言ってんだ。
 失敗したら自棄酒。
 成功したら祝い酒。
 飲むってことは決まってたんだよ』

それを最後に通話は切れた。

ジョルジュは一人暮らしをしている。
気兼ねなく飲める場所を用意してくれたんだな。

学校からジョルジュの家まではどれくらいかかっただろうか。
オレの家からだと数十分ってところか。

330 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 00:47:21.62 ID:APf58eA00
 
のろりと立ち上がる。
雑多なものに支配された床に足を置き、扉に近づく。
踏んで壊したものもあるが、大したものじゃないだろう。

l从・∀・ノ!リ「……ちっちゃい兄者」

( <_  )「いたのか妹者。
      学校はどうしたんだ?」

l从・∀・ノ!リ「今日は、お休みだったのじゃ」

もうすぐ中学の妹がいう。
年が離れていることもあって、オレは妹者を溺愛している。
この子がいると知っていたら、あそこまで派手に暴れなかった。

( <_  )「ビックリしたか。ごめんな」

l从・∀・ノ!リ「ううん。いいのじゃ」

優しい子だ。
首を横に振る動作一つとっても愛らしい。

l从・∀・ノ!リ「でも、どうしてなのじゃ?」

妹者は、オレと兄者の仲が悪い理由を理解していない。
いや、理解している人間なんてどこにもいないのだろう。
誰もが、事実として、オレ達の仲が悪いという認識を持っているだけだ。

332 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 00:50:26.34 ID:APf58eA00
 
( <_  )「何でだろうねぇ」

本当のところはオレにだってわからない。
きっと生理的な問題なのだろう。

l从・∀・ノ!リ「妹者、心配なのじゃ」

( <_  )「そうか。それは悪かったな」

あの糞野郎のせいで、妹者にまで心配をかけていたのか。
ごめんな。でも、お前も中学生になった頃にはわかってくれるだろうさ。
人間には、どうしても好きになれない、生まれたその瞬間から嫌いでしかたがない相手ってのがいるもんだ。

オレの場合、それがたまたま双子の兄だったってだけの話。
妹者が気にする必要なんて、一切ないんだ。

l从・∀・ノ!リ「どこに行くんじゃ?」

隣を通り抜けると、妹者が尋ねてきた。
不安そうな声だ。
オレは酷い顔をしているのか?

( <_  )「友達のところだよ。
      今日は……帰ってこないかもしれない」

母者達に伝えておいてくれ。

334 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 00:53:14.95 ID:APf58eA00
  
ジョルジュの家に着いたとき、やはりまだ誰も来ていなかった。
家の前でぼうっと立つ。
時間の流れを感じることもできない。
  _
( ゚∀゚)「お、来てたか。遅くなって悪かったな」

( <_  )「別に、待ってない」

('A`)「さっさと開けろよ」

( ^ω^)「重いんだお」

やってきた面々は、手にスーパーの袋を提げていた。
唯一、家の主であるジョルジュだけが手ぶらだ。
  _
( ゚∀゚)「へいへいっと」

鞄から取り出した鍵を使って扉を開ける。
我先にと入っていくドクオとブーンに混ざる気にはなれず、オレは三番手で家にお邪魔した。

気温の感覚もなかったが、やはり少し肌寒かったのかもしれない。
室内の暖かさに体の筋肉が緩んだ。

('A`)「てめぇ、テーブル片付けとけよな」
  _
( ゚∀゚)「うっせ!」

335 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 00:55:49.83 ID:APf58eA00
 
見れば、テーブルの上はかなり汚かった。
飲んだ後の缶や、カップラーメンの容器等であふれかえっている。
荷物を床に降ろしたドクオは、文句を言いながらもゴミを捨て始めていた。

( ^ω^)「綺麗なコップが四つないお……」
  _
( ゚∀゚)「洗うの忘れてたわ」

コイツ、本当にここで生活しているのか?
生活臭はするが、人間が生きていくのに適している環境だとは到底思えないぞ。
ブーンがコップと皿を幾つか洗っただけで、そこが光って見える。

('A`)「こっちは準備オッケー」

( ^ω^)「こっちもだお」

それなりに綺麗になったテーブルの上に、コップが四つと大皿が二枚乗せられる。
続いて、ブーンは酒を、ドクオはつまみを出す。
  _
( ゚∀゚)「好きなところに座ってくれや」

今立っている場所から一番近いところに座る。
透明なコップに、黄色い液体が注ぎ込まれた。
白い粟立ちを見れば、それがビールだということはわかった。

('A`)「んじゃ、飲みますか」

338 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 00:58:06.34 ID:APf58eA00
 
軽くコップをぶつけあって、アルコールを胃へ流す。
大皿に出されたつまみを食べる。

(´<_`。)「うっ……」

あ、もう駄目だ。
我慢できない。

( ^ω^)「弟者、泣くお。こういうときは、泣くのが一番だお」

(う<_`。)「うるせぇ彼女持ち」

('A`)「だよな。弟者、オレと辛さを分かちあおうな」

(う<_`。)「お前は内心喜んでるんじゃねーの」
  _
( ゚∀゚)「そんだけ毒を吐ければ問題ない!
     さっ、飲め飲め!」

流れた涙の分、酒を飲む。
アルコールなら何でもよかった。
頭をふやけさせたい。
悲しみも、何もかもを消し去るためにはそれしかないように思えた。

340 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 01:01:12.49 ID:APf58eA00
  
('A`)「元気なんて出さなくていい。
   だから思う存分吐け!」

(´<_`。)「吐かねぇよ!」

( ^ω^)「それにしても、弟者をフるとは……」
  _
( ゚∀゚)「正直、予想外だった」

(´<_`。)「そうかいそうかい!」

('A`)「ほれ、このつまみはオレのオススメ」

(´<_`。)「塩茹で枝豆でも持ってこいよ!」
  _
( ゚∀゚)「絶対、脈アリだと思ったんだけどなぁ」

('A`)「世の中にね、絶対なんてねぇんだよ」

(´<_`。)「そうだー! 絶対なんてないんだー!」

( ^ω^)「残念だったお」

(´<_`。)「同情するなら愛をくれ!」
  _
( ゚∀゚)「ならオレの愛を」

(´<_`。)「いらねー!」

342 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 01:04:07.36 ID:APf58eA00
 
( ^ω^)「明日、学校はどうするお?」

(´<_`。)「いっかい、いえにかえって、いくぞー」

(*'A`)「おとひゃ、よっぴゃらいしゅぎじゃろ」
  _
( ゚∀゚)「お前がそれを言うかね」

(´<_`。)「あー。でもー。
      あっちゃったら、つらいなぁ」

( ^ω^)「なら、休むかお?」

(*'A`)「ちゅきあってやるへー」

(´<_`。)「……んー。いや、いくわー」
  _
( ゚∀゚)「無理すんなよ」

(´<_`。)「むり……。むりか……。
      おなじこと、いわれ……いわ……」
 _
(;゚∀゚)「泣け泣け。好きなだけ泣けばいい」

(;<_; )「ありが、と……」

345 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 01:07:07.54 ID:APf58eA00
 
(´<_` )「んっ……」

頭の痛みで目が覚めた。
喉が焼けて、渇いている。

ここはどこだ。
オレの家じゃない。


(-A-)

( -ω-)
  _
( -∀-)


……思い出した。
ここは、ジョルジュの家か。

オレの失恋の傷を癒すために、自棄酒に付き合ってくれたんだっけ。
いつの間に寝たんだろうな。
そもそも、途中から意識が途切れてるし。

349 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 01:11:20.01 ID:APf58eA00
 
携帯で時間を確認する。
まだ学校は始まっていない。
電車は動いている。

二日酔いだが、学校に行く意思は一応ある。
冷蔵庫から勝手にお茶を拝借して、酒焼けした喉を潤す。
まだ足りない気がするが、腹に液体が溜まりすぎると気持ち悪くなるから止めておこう。

さてと。
昨日、薄っすら言った記憶があるが、一度家に帰ろう。
鞄なんかは置いて来てしまったし。

(´<_` )「コイツらは……一々起こさなくてもいいか」

オレに付き合ってくれたんだ。
無理に起こすのは気がひける。
鍵に関しては心配だが……。まぁ、男三人だ。
悪漢に襲われるってことはないだろう。

そっと場所を移動し、玄関で靴を履く。
振り返ってみるが、誰かが起きる気配はない。
音が鳴らぬように鍵を開け、外へ出る。


空は忌々しいほど青く、高い。
そして、爽やかな風が吹いていた。

350 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 01:14:15.51 ID:APf58eA00
 
一時間目に間に合うかどうかは微妙なところだな。
オレは電車の中でもう一度、時間を確認した。

こちらに来たときとは違い、それなりの人数が電車に乗っている。
残念ながら座れる場所はなかった。
揺れが気持ち悪いので、座りたかったのだが、しかたないか。

そんなことよりも、オレが持つ一番の不安の種は、朝帰りをしてしまったことだ。
妹者には告げたが、母者には無言で出てきてしまった。

心配はともかくとして、怒っていなければいいが。
期待するだけ無駄か。きっと、烈火のごとく怒っているに違いない。
一先ず、ミッションといては、誰にも知られないように鞄を回収し、学校へ向かうことだな。

今の体調で母者に攻撃されたら死ぬ。
吐いて死ぬ。
そんな死にかたは断固拒否だ。

告白に失敗した上、母者に暴行を受けるなんて、悲劇でしかない。
あ、胸が痛い。吐きそうだ。
二日酔いでもなく、アルコールのせいでもなく。精神的に。

351 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 01:18:09.61 ID:APf58eA00
  
我が家に到着し、オレはそっと扉を開ける。
ジョルジュの家を抜け出すときよりも慎重に、呼吸の音すら消す気でいく。
……これは完璧に気配を消す術を学ぶべきかもしれないな。

玄関にはまだ妹者の靴があった。
まだ学校に行っていなかったか。これは好都合。
流石の母者も、まだ小学生の妹者の目の前で流血沙汰は起こさない。

妹者様様だ。
オレとしても、あの子の前でフルボッコにされたくないし、母者の考えかたは有り難い。

それでも用心するに越したことはない。
抜き足差し足で廊下を歩き、二階へ登る。
音を立てずに階段を登るのならば、四つんばいになるのが一番だ。

しかし、もう成人している男がする行為と思うと情けないな。
学生という身分に落ち着いていると、自分が大人になたとはとても思えない。
幼いころは、二十歳になれば立派になっていると思ったもんだが。

っと、よし、二階についた。
このまま静かに部屋へ向かおう。

353 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 01:23:19.57 ID:APf58eA00
 
(´<_` )「あ? 何だ、これ」

自室に入ると仰天。
そこはまるで泥棒さんが入ったような惨事でした。

(´<_` )「……こんなことをする奴は一人しかいねぇ」

兄者だ。
大方、オレが兄者の部屋を荒らした腹いせに、同じことをしてきたんだろう。
先に仕掛けたのはこちらとはいえ、中々に腹立たしい。

第三者から見れば、オレは自分のした行為を棚に上げて兄者を責めているように思えるだろう。
事実、それはその通りなのだが、感情というものはそう上手くは働かない。
身勝手な考え方であろうとも、オレは自分の部屋を荒らした兄者を許さない。

ジョルジュ達のおかげでずいぶんマシになった胸の内が、またぐるぐるとざわめきだす。
全部、兄者が悪いんだ。
そうだ、たまには思いっきり殴りあいの喧嘩をしてもいいんじゃないのか。

部屋を荒らすだけで、あれだけすっきりしたんだ。
あの顔面を殴ってやったら、もっとすっきりするに違いない。
まだ学校に行っていないといいんだけど。

オレは薄ら笑いを浮かべて部屋の外へ出る。
リビングか、洗面所か、母者にでも兄者の居場所を聞くのもありだな。

355 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 01:27:42.71 ID:APf58eA00
階段を降りて、真っ直ぐにリビングへ向かう。
時間的にも洗面所よりも兄者がいる可能性が高そうだ。
そこにいなくとも、母者がいるはずだから居場所を聞くことができる。

止められるだろうか。
いや、オレと兄者が殴りあいをするなんて、想像もしないだろう。
訝しがられるかもしれないが、教えてはくれるはずだ。

(´<_` )「おはよう」

まずは気さくに朝の挨拶から入ろう。
リビングに入り、辺りを見る。
兄者の姿はない。

テーブルで朝食をとっている妹者。
立っている姉者と母者。
父者はもう仕事に行ったんだろう。
朝の光景としては、珍しくもなんともない。

(´<_` )「……どうしたんだ?」

首を傾げる。
誰も朝の挨拶を返してくれないというのは、どういうことだ。
怒っているのか?
いや、待てよ……。

(´<_`;)「あ、母者、朝帰りになったのはすまないと思っている」

そうだった。オレには怒られる理由がちゃんと存在しているんだった。
腹立たしさで忘れてしまっていた。

356 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 01:32:35.10 ID:APf58eA00
 
謝罪の言葉もなく、開口一番に「おはよう」なんて、母者に殴られる。
怒られるんじゃなくて、殴られる。
ここは重要なところ。

おそるおそる、母者の方を見れば、真っ直ぐにオレを見ている。
助けを求めて姉者を見ても、助けてくれる気はなさそうだ。
むしろ、オレよりも姉者の方が不安そうだ。

妹者には助けを求めない。
求めたって無駄だしな。
こんなときに兄者がいたら、適当に身代わりにしてやったっていうのに。

(´<_`;)「一応、妹者にも伝えたし、それでいいかなーとか……」

弁解の言葉は意味を成すだろうか。
とっさに妹者の名前を出してしまったが、大丈夫か?
まぁ、幼い妹のことは母者も大切にしているようだから、技をかけはしないだろう。

オレが今心配するべきなのは、無事に学校へ行けるかどうかという点だ。
失恋だとかそんな精神的な問題ではなくなってしまう。
母者にやられた痛みは、自棄酒では治らない。

 @@@
@#_、_@
 (  ノ`) 「……そんなことは、どうでもいいんだよ」

は?
なら、何なんだ。

359 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 01:35:08.78 ID:APf58eA00
  
∬´_ゝ`)「あんた、やっぱりおかしいわよ」

姉者までどうした。
意味がわからないぞ。

ほら、妹者が不安そうな顔をしている。
変なことを言うのは止めろ。
朝から憂鬱な顔なんてするもんじゃない。

 @@@
@#_、_@
 (  ノ`) 「妹者から聞いたよ」

(´<_` )「伝言、ちゃんと伝えてくれたんだな」

よかった。
忘れられてたら、それこそ死ぬところだった。
妹者へ微笑みを向けるが、可愛い妹者は笑みを返してくれない。

それどころか、オレの勘違いでなければ、目がそらされた気がするんだが。
まさか、そんなわけないよな?
嫌われるようなことをした覚えはないし。

(´<_` )「でも、朝帰りはどうでもいいって言ってなかったっけ?」

 @@@
@#_、_@
 (  ノ`) 「言ったよ」

361 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 01:38:36.78 ID:APf58eA00
  
だったら何なんだ。
はっきり言ってくれないとわからない。

針のむしろに立たされている気分だ。
こんなことなら、いっそひとおもいに殴られた方がマシだ。
今日に限って母者はどうしたっていうんだ。

暴力的とまでは言わないけど、手は早いほうなのに。
どうして、そんな風にオレを見るんだ。

(´<_` )「なら、どうして怒られているのか、わからないんですが」

恐る恐る尋ねる。
他に何かやらかしたか?
記憶にない。

あ! もしかして、兄者が何かやらかしたのをオレのせいにしたとかか?
見た目はそっくりだし、できないこともないな。
それなら、オレが縮こまる必要はまったくないぞ。

(´<_` )「母者、もしかしてそれは――」

 @@@
@#_、_@
 (  ノ`) 「あんた、どうして自分の部屋を滅茶苦茶にしたんだい?」

368 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 01:42:44.16 ID:APf58eA00
  
最後まで言えなかった。
いや、そんなことはどうだっていい。

オレが自分の部屋を?
あぁ、兄者とオレの姿を間違えたのか。

(´<_` )「オレ、弟者がやったのは、兄者の部屋だけだよ」

自分の存在をしっかりと主張する。
仕方がないとはいえ、間違われるのは嫌なものだ。
よりにもよって、あんな奴と間違われるなんて。

l从・∀・ノ!リ「……ちっちゃい兄者ぁ」

椅子に座っている妹者がこちらを見ている。
妹者はオレと兄者を間違えたりしないよな。
昨日だって、オレを弟者だと認識してたもんな。

∬´_ゝ`)「馬鹿なことを言うのは止めて」

(´<_` )「失礼な。オレは真面目に言ってるんだが」

∬ _ゝ )「なら、なおさら性質が悪いわ」

姉者?
どうしたんだよ。
肩が震えてるぞ。

369 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 01:45:24.62 ID:APf58eA00
  
∬ _ゝ )「あんたと、兄者は同じ部屋だったじゃない」

(´<_` )「そんな時代、あったか?」

記憶にない。
姉者の方が年上だから、そういった時代があったと言われれば否定はできないが、
今の状況で言うようなことだとは思えない。

 @@@
@#_、_@
 (  ノ`) 「……あぁ、あったよ」

(´<_` )「そうか。でも、今は別々の部屋なわけで」

∬ _ゝ )「弟者!」

怒鳴り声が響く。
止めろよ。妹者が怖がるだろ。
それに、ご近所さんに聞こえていたらどうするんだよ。

(´<_` )「わかった。オレも兄者も暴れてて苦情がきたのか。
      すまなかった。もうしないと約束する」

考えてみれば、あの暴れ方は酷かった。
苦情がきたとしても不思議じゃない。

∬ _ゝ )「しっかりしてよ!」

姉者が叫ぶ。

373 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 01:47:56.87 ID:APf58eA00
  



∬;_ゝ;)「兄者は、もう死んだでしょ!」





    ――馬鹿なことを言うのは止めてくれ。




     

376 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 01:50:33.56 ID:APf58eA00
  
∬;_ゝ;)「部屋は、あんた達、ずっと一緒だったでしょ!
     うちにそんな部屋数ないでしょ!」

姉者が大股でこちらにやってくる。
肩を掴まれた。
痛い。

∬;_ゝ;)「ねぇ、あんた、ずっとおかしいわよ!」

揺らさないでくれ。
二日酔いなんだ。

l从;∀;ノ!リ「おかしいのじゃぁ……」

どうして妹者まで泣くんだ。
兄者か。兄者が悪いのか。
それとも、みんなでオレをからかっているのか?

∬;_ゝ;)「そりゃね、あんたが以前みたいな笑顔を浮かべたときは安心したわよ?
     元気になったんだって。立ち直ったんだって」

 @@@
@#_、_@
 (  ノ`) 「お止め。これではっきりしたじゃないか」

何がはっきりしたんだ。
オレにもわかるように説明してくれ。
母者はどうして、悲しそうな目をしているんだ。

379 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 01:54:14.50 ID:APf58eA00
  
オレは困り果てて周囲を見る。
誰か助けてくれ。

願っては見ても、姉者も妹者も泣いている。
母者は泣いていないが、よく似た目をしている。
父者はいない。

こんなときにこそ、いてくれよ。
周りは女だらけ。どんな行動をすればいいかなんて、女の扱いに慣れていないオレにはわからない。
むしろ、昨日フられたばっかりにオレにわかるはずがない。

首だけをどうにか動かす。
郵便や集金でも来ないだろうか。
期待を込めて振り返る。インターホンよ鳴れ!

(;´_ゝ`)

鳴らなかったが、いた。一人、泣いてもいなければ悲しんでもいない奴。
焦った顔をしてる。
自分が死んだことにされてるから、そりゃそんな顔にもなるか。

(´<_`;)「おい、兄者も何か言ってやれよ」

姉者を軽く振り払い、兄者へ手を伸ばす。
何も言わなくとも、こいつの姿さえ見れば万事解決だ。
朝からの騒動は、夕飯には笑い話に変わる。

384 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 01:57:33.31 ID:APf58eA00
  
指先が兄者に触れる。
冷たい。
どこかに行ってたのか?
冷たすぎるだろ。冬じゃあるまいし。

それに硬い。
筋肉なんてついていないだろうに、どうしてこんなに硬いんだ。
まるで無機物のようだ。


兄者がぐらりと揺れた。
オレの視界から消えていく。
ちょうど目の高さにいた兄者が下へ行く。落ちていく。
まるで床に吸い込まれるように。






カシャン。と、何かが割れた。

386 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 02:00:26.30 ID:APf58eA00
  
(´<_` )「……兄者」

床を見る。
兄者がたくさんいる。

バラバラになった兄者は、それぞれが小さな兄者になって、オレを見ていた。
たまに欠けている兄者もいる。気持ち悪いなぁ。

そんなに小さくなってどうするんだ。
そんなに増えてどうするんだ。

オレは馬鹿か。そんなはずはない。
兄者は人間で、分裂なんてできない。
小さくなんてなれない。

(´<_` )「兄者」

わかってる。
本当は、もう、とっくにわかっていた。


そこにいるのは、兄者じゃない。
そこにあるのは、鏡に映ったオレだ。

  

387 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 02:03:49.82 ID:APf58eA00
  
∬;_ゝ;)「あんたが辛い思いをしていたのは知ってるわよ!
     でも……でもぉ……」

l从;∀;ノ!リ「うー。おっきい兄者ぁ……」

 @@@
@#_、_@
 (。 ノ`) 「うちの息子は……馬鹿ばっかりだ……」


みんな泣いている。
涙を流して、兄者を思っている。
オレも、ついこの間まではそうだった。
もっと酷かったかもしれない。


あぁ、そうだ。そうだった。

オレだけが誕生日を迎えてしまった。
双子だったのに、オレだけが二十歳になった。
たった一人で歳をとった。


兄者は、二十歳になれずに死んだ。

390 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 02:06:34.57 ID:APf58eA00
  
オレ達は普通に仲の良い双子で、

   ( ^ω^)「写真って人気あるんだおねー」

   ( ´_ゝ`)「でも真面目に活動してるのかねぇ」

   (*'A`)「何言ってんだ! あのクール先輩と同じサークルに入れるチャンスだぞ?!」

   (´<_` )「兄者は普通に写真が好きだからなぁ」



一緒に同じサークルに入って、

    (´<_` )「え、許可してくれるんですか?」

    川 ゚ -゚)「何だ。そのために来たんだろ?」

    ( ´_ゝ`)「お前だって写真好きだろ?」

    (´<_` )「一応……」

392 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 02:09:28.45 ID:APf58eA00
  
三人で写真サークル活動をしていた。

    川 ^ワ^)「見ろ! この素晴らしい青空を!」

    ( ´_ゝ`)「雪景色によく映えていますね」

    (´<_` )「しっかし寒いなぁ」


     川 ゚ -゚)「土日を私にくれ。写真を撮りに行くぞ」

     ( ´_ゝ`)「把握しました」

     (´<_`;)「また唐突に……」


     川 ゚ー゚)「綺麗だろ? 私が毎日磨いてるからな」

     (´<_` )「兄者もカメラだけは大切にしてるよな」

     ( ´_ゝ`)「だけじゃないだろ。だけじゃ」

398 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 02:12:23.55 ID:APf58eA00
  
オレはクール先輩のことを好きにはならなかった。
なったのは、兄者だ。

     ( ´_ゝ`)「弟者、どうしよう……オレ、クールさんが好きになっちった」

     (´<_` )「趣味も合うし、可能性はゼロじゃないだろ」



オレが好きだったのは、デレちゃんだ。

     川 ゚ー゚)「そうか。青春だな」

     (´<_`;)「誰にも言わないでくださいよ。特に兄者」

     川 ゚ -゚)「それはいいが、どうして私に相談してくれたんだ?」

     (´<_` )「口が硬そうですし、一番身近な普通の女性なので」


恋愛の相談までしたんだっけ。
そりゃ、オレがクール先輩に告白しても断られるよな。

ごめんなさい。
兄者と過ごした思い出の場所をなかったことにはできなかったんです。
そのために、あなたへ偽物の恋をしました。

402 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 02:15:23.88 ID:APf58eA00
  
幸せな時間は、ずっと続くと信じていた。
あの瞬間まで、信じていた。
      _
    ( ゚∀゚)「おーい。早くしろよー」

    ( ´_ゝ`)「少し待て。これだけ読みたい」

    ( ^ω^)「本屋の店先で立ち読みは、兄者の日課だからしかたないお」

    ('A`)「学校の帰りはいつもこれだもんなぁ」

    (´<_`;)「うちの愚兄がすまない」

    ( ^ω^)「別にいいお」

    ('A`)「何時間もかかるわけじゃないしな」
      _
    ( ゚∀゚)「ん? 何だ、あの車……」

    (´<_`;)「速度違反ってレベルじゃないぞ」

    (;^ω^)「危ないお!」

    (;'A`)「兄者!」

    ( ´_ゝ`)「んー?」

406 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 02:18:41.40 ID:APf58eA00
  
酷い音だった。
鼓膜が破れるんじゃないかって思うほど。

だけど、本当に破れそうだったのは心だ。
心臓だったかもしれない。
あるいは網膜かもしれない。

飛び散る瓦礫の中に兄者がいた。
オレはそれを認識したくないと思いながらも、駆けていた。

    (´<_`;)「兄者! 兄者ぁ!」

    (#::´_ゝ;;)「――と、じゃ」
     _
    (;゚Д゚)「誰か救急車! 頼む! いや、誰か、医者はいないのか!」

    (;'A`)「しっかりしろ!」

    (;^ω^)「今、病院に連絡したお! 頑張るお!」

    (#::´_ゝ;;)「と、じゃ……。
          いつ、でも……そ、に、いる、から……」

    (;<_; )「止めろよ、そんな、そんなこと言うなよ!」

412 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 02:21:22.43 ID:APf58eA00
   
  「聞いた? 流石さん家の長男」    「大学に入ったばっかりなのに」

       「返してください……」        「ごめんなさい。ごめんなさい。何でもします」

 「可哀想にねぇ」             「おっきい兄者、どこなのじゃ?」

         「元気だせよ。って、無茶な話か」

    「取り返しのつかないことを」          「居眠り運転だったんでしょ?」

           「どうしてこんなことになっちまったのかねぇ」

     「本屋に突っ込んだ車が」            「先に逝かないでよっ……」

         「病院に搬送される前に亡くなったらしい」

  「辛いなら頼ってくれよ」             「学校で待ってるお」


    「誕生日が近かったって聞いたわ」    「双子の弟さんの状態もおかしいらしくて」





    ( <_  )「……兄者」

   

415 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 02:24:25.92 ID:APf58eA00
  
    ( <_  )「嘘だよな。兄者が死んだなんて。
          もう帰ってこないなんて。
          二度と会えないなんて」

嘘だと信じたかった。
現実を受け入れられなかった。

部屋に引きこもって、現実から目をそらし続けていた。
誰がきても扉を開けることはしない。
肉親でも友人でも変わらない。
それだけがオレの心を守っていた。

    ( <_  )「ほら、早く帰ってこいよ。
          兄者のいない部屋はやけに広く感じるんだ」

涙は枯れていた。
いや、涙を流すことを拒否していた。

泣いてしまえば、兄者が死んだことを認めることになってしまう。
それだけは許せなかった。

    ( <_  )「二十歳になったら、二人で居酒屋に行こうって話してたじゃないか。
          もうすぐだぞ。約束を破るなんてしないよな?」

カーテンの隙間から差し込んできた朝日は憎たらしいくらい明るくて、
部屋をわずかに照らしていた。

418 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 02:28:04.56 ID:APf58eA00
   
    (´<_` )「何だ、いるじゃないか」


光の中、オレは見たんだ。


    ( ´_>`)|(´<_` )



    (´<_` )「兄者」

        ――これは兄者じゃない。


    (´<_` )「やっと見つけた」

        ――本当の兄者がそこにいるなら、口を開かないのは何故だ。


    (´<_` )「オレと兄者は仲が悪いんだ」

        ――だから、口をきかないのはおかしなことじゃない。


    (´<_` )「学部も違うし、サークルも違う」

        ――頻繁に会うことがないのも普通のことだ。

421 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 02:31:25.44 ID:APf58eA00
   


    ( ´_ゝ`)|(´<_` )「そうだよな。この糞野郎」




あの時から、鏡の中のオレは、兄者になった。



   

425 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 02:35:13.52 ID:APf58eA00
  
でも、違うんだよな。
本当の兄者は、もういないんだ。

今までオレが見てきた兄者は偽物だった。
鏡合わせのように、じゃなくて、鏡だった。

兄者という存在は、オレが作り出した妄想だったんだ。
何もかもが幻だった。
あの事故の日から、オレは一度だって現実を見ていなかった。

∬;_ゝ;)「あたしだってねぇ……!」

辛かったのは、悲しかったのはオレだけじゃない。
姉者だって、妹者だって、母者だって、父者だって同じだ。
頭ではわかっていても、耐えられないんだ。
生きたまま半身を引きちぎられたかのような痛みなんだ。

(;<_; )「あ、にじゃは……」

口にできない。
その単語だけは、口にすることができない。

オレは今でも、あの日のことを嘘だと信じている。
あちらが幻なんだって。
そうだろ? 兄者。


「弟者」

427 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 02:38:31.07 ID:APf58eA00
   


 @@@
@#_、_@
 (  ノ`) 「わざわざ悪かったね」
  _
( ゚∀゚)「いえ、オレ達の方こそ無理を言ってすみませんでした」

オレは友達である弟者の家を訪れていた。
何度か、兄者がまだ生きていたころに、遊びにきたことがある。
母者さんは相変わらず、女の人とは思えない肉体をしてるが、前に比べるとずいぶんやつれてた。

('A`)「お邪魔しました」

( ^ω^)「一応、元気そうでよかったですお」

デブとガリが頭を下げる。
事前に連絡をしてから来たとはいっても、今のこの家に三人も押しかけたのは本当に申し訳ねぇ。
客人に構っている余裕なんてないはずなのに。

 @@@
@#_、_@
 (  ノ`) 「いいよ。弟者も嬉しそうだった」

オレの友達は、もう二週間も学校に来てない。
ハッキリとしたことは聞いていないが、別口のダチから退学届けを出したと聞いた。
たぶん、もう学校には来ないんだろう。

430 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 02:41:28.21 ID:APf58eA00
  
(´<_` )「オレも見送るよ」

( ^ω^)「別にいいお」

(´<_` )「んだよ、冷たいこと言うなって」

バタバタと家の中から弟者が顔を出す。
顔色は悪くない。

('A`)「見送り見送られるような間柄でもないだろ」

(´<_` )「それはドクオだけ」

('A`)「おい、オレだけ扱いが酷いぞ」
  _
( ゚∀゚)「それは今に始まったことじゃない」

( ^ω^)「もー。ジョルジュも余計なことを言うなお」

(´<_` )「あ、喧嘩ならもっと離れたところでしてください。
      近所迷惑になって苦情がきたら困るんで」

 @@@
@#_、_@
 (  ノ`) 「いつまで家の前で遊んでいるんだい?
      近頃は寒いし、早く帰りな」

431 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 02:44:22.34 ID:APf58eA00
   
( ^ω^)「そうですおね」

('A`)「お前はツンちゃんとラブラブの熱々だもんな。死ね」

(´<_` )「オレ達も彼女欲しいよな」
  _
( ゚∀゚)「お前らなら、すぐに出来るよ」

(´<_` )「オレはともかくなぁ」

弟者は普通だ。
普通に見える。

一時期の塞ぎ込みっぷりを知っているオレ達からすれば安心できるほどだ。
食事もしているらしいし、元気に笑えている。そう、



(´<_` )「兄者には無理だろ」


それは、自然に笑うんだ。

432 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 02:47:34.51 ID:APf58eA00
  
('A`)「……そうだな。兄者はオレ側の人間だし」

(´<_` )「ほれ、ドクオもこう言ってる」

オレには兄者の姿は見えない。
でも、弟者はそれをはっきりと認識してるらしい。
何もない空間に焦点をあわせて笑ってる。
いっそ、あの場所に人形でも置いたらどうだ。

( ^ω^)「まぁ、ボクには関係のない話で」

(´<_`;)「兄者、それは言いすぎと思われ」

('A`)「爆発! 爆発!」
  _
( ゚∀゚)「ブーンならしかたがない」

オレ達は弟者に合わせて言葉を吐き出す。
無理矢理にというより、昔を思い出しながら話す。

弟者の中でどんな変換がされているのかは知らないが、上手く折りあいをつけてるんだろう。
会話が成立しないと不審がられたことはない。
いつだって、オレ達の会話はスムーズだ。

436 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 02:50:28.56 ID:APf58eA00
  
 @@@
@#_、_@
 (  ノ`) 「……本当に、すまないね」

何で謝るんだ。
母者さんも、弟者も、悪くないのに。
肉親を大切に思った結末だ。悲しいが、謝るようなことじゃない。
  _
( ゚∀゚)「オレ達が好きで来たんですよ」

弟者は日常生活に関しては何の不備もない。
学校へくれば真面目に講義を受けて、上の中くらいの成績を収めるはずだ。
あいつが普通じゃないのは、兄者の存在を目にしてることだけ。
  _
( ゚∀゚)「ご迷惑じゃないのなら、また来てもいいですか?」

オレと弟者は、兄者も、友達だ。
それはずっと変わらない。
死んだって、壊れたって変わらない。

('A`)「もしも兄者に彼女が出来たら首吊るわ」

(;^ω^)「メンヘラ女みたいなこと言わないで欲しいお……」

きっと、あの二人も同じ気持ちだ。
じゃねぇと、こんなところまで来ねぇよな。

437 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 02:53:45.65 ID:APf58eA00
  
 @@@
@#_、_@
 (  ノ`) 「いや、もう来なくていいよ」
  _
( ゚∀゚)「え?」

拒否されるとは思ってなかった。
別に自分を過信しているわけじゃねぇけどさ、喜ばれるんじゃないかって思ってた。

 @@@
@#_、_@
 (  ノ`) 「引越しをしようかと思ってね」
  _
( ゚∀゚)「それは、いつ……?」

 @@@
@#_、_@
 (  ノ`) 「近いうちに」

見送りもいらない。ってことか。
水臭い。でも、オレの友達はこの人じゃないから、んなこと言ってもしかたがない。

(´<_`* )「兄者も何とか言ってやれよ!」

オレの友達はあいつだ。
あいつは引越しのこと知ってんのかな。

438 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 02:56:01.24 ID:APf58eA00
 @@@
@#_、_@
 (  ノ`) 「あんた達には本当に感謝しているよ」

感謝されたいわけじゃない。

 @@@
@#_、_@
 (  ノ`) 「でも、あの子のためにも田舎に行こうかと思ってる」

病院に入れられないだけマシなのか?
友達も誰もいないような場所に連れて行かれて、あいつらは幸せになれるのか?

 @@@
@#_、_@
 (  ノ`) 「手紙やメール何かを出すと思うよ。
      二人分届くかもしれないけどねぇ」

……そうか。母者さんも疲れてるんだな。
息子が一人死んで、生き延びた方は壊れちまった。
辛くないはずがねぇよな。
  _
( ゚∀゚)「楽しみに、してます」

でも、オレだって友達を二人もなくすんだ。
歯切れが悪くたって、しかたねぇよな。

441 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 02:59:52.82 ID:APf58eA00
  _
( ゚∀゚)「……あの家、引越しするかもってよ」

(;^ω^)「えっ! そうなのかお?!」

(;'A`)「見送りとか……」
  _
( ゚∀゚)「いらねぇってさ」

帰り道、母者さんから聞いたことを話す。
驚いてはいたが、その選択をしたことに対する疑問はない。
二人は悲しげに地面を見るだけで、反論を口にはしなかった。

('A`)「……寂しくなるな」

( ^ω^)「だお……」

あの二人は賑やかだったからなぁ。
いつでも楽しそうで、仲が良さそうで。

兄者が死んだとき、弟者が壊れるんじゃないかって思った。
でも、また元気になってくれて嬉しかった。
半分壊れていたなんて知らなかった。
  _
( ゚∀゚)「でも、あいつは幸せそうだったな」

('A`)「そうだな」

( ^ω^)「笑ってたお」

442 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 03:02:55.05 ID:APf58eA00
   
ただ、オレは一つ考えていることがある。


    (#::´_ゝ;;)「と、じゃ……。
          いつ、でも……そ、に、いる、から……」


兄者は言っていた。
オレも傍にいたから聞こえてたんだ。

『弟者。いつでも傍にいるから』

そう言っていた。

死んだお前が答えてくれるとは思わないが、聞かせてくれよ。
兄者、あれはどういうつもりで言ったんだ?

オレはずっと、傍にいるから安心して前を見ろ的なニュアンスなんだと思っていた。
心の支えになる言葉を、死の間際に言ったんだと。
実にお前らしいし、兄らしい。

けど、その考えをオレは疑い始めている。

447 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 03:08:18.97 ID:APf58eA00
  
弟者の様子を見ていると、疑いの気持ちはどんどんでかくなった。
今のあいつは、まるですぐ傍に兄者がいるようにふるまっている。

  _
( -∀-)


なぁ、兄者。

お前はどちらの意味であの言葉を口にしたんだ?



弟者。いつでも傍にいるから。


      ――お前だけは前を向いて進め。

      ――今までと同じように二人で生きよう。

  

449 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 03:11:40.55 ID:APf58eA00
  _
::(|li゚∀゚):: ゾッ

やめよう。
兄者がそんなことを考えているはずがない。
あいつは気の良い奴だった。

('A`)「どうかしたのか?」
  _
( ゚∀゚)「いや、見送りたかったなーと思って」

( ^ω^)「そうだおね。
      あ! せめて手紙を書いてもらうお。年賀状と暑中見舞い書くお!」

('A`)「それいいねー。今度メールしとこっと」
  _
( ゚∀゚)「いざとなりゃ、長期休みを利用して、遊びに行ってやるのもいいな」


オレはいつかお前達に言えるのかな。

幸せそうな弟者を見ていると、オレは隣に兄者が見えるような気がするんだって。
いつも通りの笑顔で、幸せそうに、これこそが望んだ結末だと笑っている、兄者が。

452 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/30(日) 03:14:05.05 ID:APf58eA00
   

オレは幸せだ。
これ以上の幸福なんて存在しない。


(´<_` )「引越しするんだって」

「そうか」

(´<_` )「あいつらに会えなくなるのは寂しいな」

「まぁ、メールでもすればいいさ。
オレ達がこっちに出てきてもいいし」

(´<_` )「そのためにはバイトをして金を稼がないとな」

「そこは任せた」

(´<_`;)「外に出ろ。ヒキニート予備軍」


こんな何気ない日常が、何よりも大切で、幸福なんだ。




(´<_` )は幸せになっちゃったようです
                       END

453 名前: ◆UJEaB9eZsVvR :2012/12/30(日) 03:15:13.27 ID:APf58eA00
以上

気づいてる人もいるだろうけど鬱祭り用でした
訳有りで仲の悪い流石兄弟ばっかり書いててすまぬ……

461 名前: ◆UJEaB9eZsVvR :2012/12/30(日) 03:34:54.60 ID:APf58eA00
こっそり兄者ヒントというか補足

・鏡(同じ教室を使ってる/車椅子用にエレベーターには設置されてる)
・画面真っ暗PC
・外暗い、中明るい状態でのガラス

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