mesimarja
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从´ヮ`从ト姉心と春の空のようです(T)
1 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 19:32:51.487 ID:S8p/I/Dc0
始まるよー
恐くないよー
よっといでー


2 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 19:33:19.668 ID:S8p/I/Dc0
春の匂い。
それは淡く、そして温かな空の匂いだ。
そよ風が運ぶ花の香りに混じり、胸を溶かすような痺れを伴った甘い感情が湧き出す。

春。
それは生命が芽吹き、色づく季節。
あらゆる命が祝福を受けたかのように輝き、咲き誇る季節。

慈愛に満ちたこの季節に、淡いパステルブルーの空を見上げる少女が一人。
冬程透き通らず、夏程青々とせず、秋程高くもない空。
どちらつかずの、淡い色合いの空。

ニュースでは薄氷の上の平和などと緊迫した世界情勢を報道しているが、雲はそんなものを気にすることもなく漂う。
戦火に包まれた国でも、同じように雲が平和そうに漂っているのだろう。
時計の針や誰かの感情に影響を受ける事はないが、空と同じように季節ごとに異なった表情を見せてくれる。

目を細めて穏やかな空を見つめ、少女は履き馴染んだブーツでアスファルトの上をゆっくりと歩く。
空を見て何を思うのか、その朗らかな、そして慈愛に満ちた表情からは何も分からない。
その少女はまるで、春のような雰囲気をしていた。

優しげに垂れた目尻から世界を見るのは、大きな空色の瞳。
少しだけ赤らんだ頬と、桜の花びらのように薄いピンク色の唇。
風を受けて柔らかく翻る、肩まで伸びた少し癖のある栗毛色の髪。

ブレザータイプの学生服に身を包む少女は、これまでに通い慣れた通学路を味わうように歩いていた。
人気のない静かな朝。
少女、春日チハルは四月三日の空を見上げて、小さく独り言ちるのであった。

――今日もいい天気だな、と。

4 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 19:33:30.283 ID:S8p/I/Dc0
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9 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 19:35:28.570 ID:S8p/I/Dc0
チハルにとって、春という季節は特別な季節だ。
誕生日は春。
名前もハル。

そして、三つ歳の離れたブーンが産まれたのもまた、春だった。
初めてその存在を目の当たりにした時、チハルはこの世で最も愛おしい存在を手にしたのだと小さいながらに理解した。
ある種の独占欲と保護欲、そして強烈な母性が幼いチハルに湧き上がり、たちまちその虜になった。

どこに出かけるのにもブーンを引き連れ、何をするのも一緒だった。
ブーンは文句ひとつ言わず、それどころか笑顔でチハルの後ろについてきた。
だからだろうか、ブーンは同い年の同性と遊ぶ機会と同等に年上の異性と遊ぶ機会があった。

同級生がかくれんぼに興じる中、ブーンは折り紙に夢中になった。

( ^ω^)「ハルおねーちゃん、鶴ってこう折るんだっけかお?」

从´ヮ`从ト「もー、違うよー。 三角を折ったら、その次は……」

同級生がドッジボールに白熱している時、ブーンは編み物に興味を示した。
初めてブーンが作ったのは指と毛糸だけで作るマフラーで、それはとても拙い出来だったが、本人は満足していた。
えらく長いマフラーが出来上がったと喜び、それをチハルにプレゼントした。

( ^ω^)「できたー! ハルおねーちゃんにあげるお!」

从´ヮ`从ト「わーい、ありがとー!」

それは今でも、チハルの部屋にある鍵付きの引き出しに大切に保管されている。
同級生の興味がカードゲームに変わった頃、ブーンは料理に興味を持ち始めた。

( ^ω^)「ハルおねーちゃん、きんぴらごぼうってどうやって作るんだお?」

从´ヮ`从ト「まずごぼうをだね……」

10 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 19:36:27.944 ID:S8p/I/Dc0
それ以降、ブーンは時々夕食を手伝うようになった。
いつの間にか、チハルと同等の料理の腕を手に入れるようになった。
料理を知ったブーンは、バレンタインデーにもらった大量のチョコレートのお返しに、手作りのクッキーを焼いた。

そのクッキーが好評となり、その次の年には前年の二倍のチョコレートが渡されることになった。
山と積まれたチョコレートを前に、ブーンはすがるような目でチハルを見た。

( ^ω^)「……ハルおねーちゃん、半分食べてお」

从´ヮ`从ト「しかたねぇなあ!」

手作りのチョコレートはブーンに食べさせ、チハルは市販品を選んで食べた。
異性の気持ちが分かるブーンに好意を寄せる人間は少なくない。
大量に渡されたチョコレートの中には、ラブレター付きの物もあったがブーンはそれをチハルに読んでもらい、意見を求めた。

( ^ω^)「ハルおねーちゃん、僕どうしたらいいかな?」

从´ヮ`从ト「手紙をくれた女の子の中で好き子はいるの?」

( ^ω^)「おっ! しぃちゃんは優しいから好きだお。
      クールちゃんも優しいし、レモナちゃんも可愛いから好きだお。
      イトーイちゃんは怖いからちょっと苦手だけど、かっこいいから好きだお!」

从´ヮ`从ト「ちゃうちゃう。 そういう好きじゃないよ」

( ^ω^)「お? 違うの?」

11 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 19:37:18.634 ID:zll/vhFM0
どこから分岐が始まるんです?

12 名前:>>11昨日の強制イベントの地点からです:2016/03/27(日) 19:38:24.873 ID:S8p/I/Dc0
異性の気持ちが分かっても、自分の気持ちが分からないブーンは、恋を知らなかった。
その感情について説明し、さして相手に強い興味がないのであれば断るのも優しさだと教えられたブーンは、翌日にそれを実行した。
チハルが覚えているだけで、その数は十数人。

そして、相手を悲しませたことに傷心して帰宅したブーンを、チハルは優しく慰めた。

( ;ω;)「うー……
      ごめんなさい…… 女の子、泣かせちゃったお……」

从´ヮ`从ト「ちゃんと自分の気持ちを言ったんだから、ブーンは悪いことは何もしてないよ」

( ;ω;)「でも……」

从´ヮ`从ト「嘘を吐いてもお互いに辛いだけだからね。
      ブーンは偉いよ」

( ;ω;)「おー……」

从´ヮ`从ト「よぅし、じゃあ今日は頑張ったブーンにご褒美をあげよう。
       ねーちゃんが一緒に寝てあげるよ」

( ;ω;)゛「……うん」

まだ小さなブーンには辛い経験だったに違いない。
その日、チハルはブーンと一緒の布団に入り、眠り着くまで抱きしめた。
その出来事から、チハルはブーンとこれまで以上に一緒にいる時間が増えた。

同級生がテレビゲームに興じる中、ブーンは読書に夢中になった。
ブーンが読むのは恋愛小説からハードボイルドまで多種にわたり、その趣味は実に渋いものがあった。
次第に図書室に通う頻度が増えたブーンは、しばしば帰宅が遅れることがあった。

だが実は、図書委員の同級生との話に花が咲いて遅れたという事は、後になってこっそりとブーンから聞かされた。
これが恋へと発展するのかどうかチハルは楽しみだったが、そうなることはなかった。
残念な気持ちになったが、ブーンの恋路は自分で進ませるべきだと割り切った。

もうそろそろ高校生になろうという時、ブーンは頻繁にチハルの部屋に来るようになった。

15 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 19:40:02.491 ID:S8p/I/Dc0
( ^ω^)「ハルおねーちゃん、勉強教えてお」

从´ヮ`从ト「国語数学理科社会以外ならいいよー」

( ^ω^)「それって英語だけだお」

从´ヮ`从ト「それしか出来ないもん。 悪いかよー」

( ^ω^)「英語だけでいいから教えてほしいお」

チハルとブーンの年齢差は、学校で言えば三学年の差である。
この差はチハルが小学校を卒業した瞬間、二人が同じ学校で顔を合わせる可能性があるのは大学だけとなる事を意味している。
同時に、年上のチハルがブーンに勉強を教えるのに丁度いい年齢差でもある。

勉強を教えると、ブーンの呑み込みの速さに驚いた。
だが教えられるのは英語だけだ。
せっせとノートにアルファベットを書き連ねていくブーンの手元を覗きながら、その真剣な瞳を何度か横目で見た。

あまりにもその姿が愛おしく、気が付けば、チハルはブーンを背中から抱きしめていた。

( ^ω^)「……書き辛いお」

从´ヮ`从ト「まぁまぁ、いいじゃないの」

( ^ω^)「いいけど……」

後ろからでも分かるのは、ブーンは耳まで顔を真っ赤にしていることだった。
異性として意識してくれているのか、それとも単に照れているだけなのか。
チハルはそのことが気になっている自分に気が付き、そして、葛藤が始まった。

一緒にいる時間は変わりなかったが、これまでと同じように接するのが難しく感じ始めた。
ブーンと一緒にいると胸が高鳴り、気分が高揚する。
もっと触れたい、触れてもらいたいという欲望が湧き上がり、それを自制する度に胸を切り裂かれる思いをした。

これまで、ブーンの事は弟として接してきた。
今ある家族としての関係を壊すことになりかねない感情が心を締め付け、そしてチハルを困惑させた。
感情は独りで暴走を始め、チハルに感情の正体を意識させた。

チハルは、ブーンに、弟に恋をしてしまっているのだと。

18 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 19:43:05.593 ID:S8p/I/Dc0
( ^ω^)「高校ってどんな勉強するのかお?」

从´ヮ`从ト「いろいろだよー、英語とか数学とか。
      でも選択科目っていうのがあってね――」

何気ない会話。
とりとめのない話。
そのささやかな全てが宝物のような時間に思える日々が続く。

甘く、いつまでもそこに浸かっていたいぬるま湯のような日々。
何も失わず、何も得ず、何も変わらない。
チハルは変化を恐れた。

心を殺しながら過ごす日々はチハルに安息を与えたが、同時に、毎夜悪夢を見せた。
関係を変えようとして失敗し、そして、何もかもを失う悪夢。
戒めのような夢は次第にチハルから生気を奪った。

高校生となり、新たな友人との交流が続くのと同じように、ブーンとの関係は続いた。
どれだけブーンの存在がチハルにとって毒だったとしても、離れることは出来なかった。
離れるなど、想像も出来なかった。

恐いのだ。
失敗を恐れ、何もしないことに安堵し、何も変わらないことに涙するしかないのだ。
高校二年生になり、ブーンとまともに話をする時間が減ってきた。

高校二年生は多忙な時期だ。
進路を考え、成績を考え、今を考えなければならない。
それは一つの救いだった。

少なくとも学校に長居している間はブーンに会わずに済む。
会わなければ、想いが暴走することはない。
代わりに、自らを慰める機会が増えた。

慰めている間、ブーンはいつものように笑顔を浮かべてチハルに愛を囁く。
そしてチハルも、そんなブーンを招き、受け入れ、求められることに酔いしれる。
痺れるような甘い快楽の波に身を委ね、体が小さく痙攣し、至福を覚える。

19 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 19:45:30.917 ID:S8p/I/Dc0
事が終わると、その都度罪悪感に苛まれた。
虚しさが募り、想いが募り、二人の仲は昔を維持したまま。
姉と弟。

逆転も変化もない、絶対の関係。
変えてはならない関係。
越えられない絶対の関係。

チハルが進路について考える時期は、ブーンも進路を考えなければならない時期でもある。
高校受験を控えるブーンと大学受験、就職、専門学校と多岐な進路を考えるチハルはそれでも、毎日顔を合わせて話をした。
日課のような物を今になって止めるのもおかしいし、ブーンから進路相談を頼まれれば受けざるを得ない。

進路活動が活発になる二年生の七月。
ブーンからチハルに、一つの相談があった。

( ^ω^)「僕、ハルおねーちゃんと同じ高校に行きたいお」

从´ヮ`从ト「姉弟割は使えないよ?」

( ^ω^)「分かってるお!
      おねーちゃんの話聞いてたら行きたくなったんだお」

从´ヮ`从ト「ふーん、じゃあ今週末にオープンキャンパスがあるからそれに来なよ。
      それから決めればいいじゃん」

そしてその翌日。
運命の歯車は、思いもよらない形で動き始めた。

(´^ω^`)「春日、今週末のオープンキャンパスに手伝いに来てほしい」

昼休みに職員室に呼び出されたチハルは、担任の諸星ショボンに開口一番そう言われた。

从;´ヮ`从ト「はいぃ?!」

(´・ω・`)「まぁ立ち話もなんだ、座れよ」

20 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 19:49:55.405 ID:S8p/I/Dc0
言われるがまま、産休で空席になっているアデーレ・デレーナの席に座る。
こうして担任と面と向かって話をするのは、三者面談以来の事だった。

(´・ω・`)「オープンキャンパスってのが何なのか、その説明から始めよう」

从´ヮ`从ト「いや、知ってるんですが……」

(´・ω・`)「焦るなって。 いいか、オープンキャンパスには中学生だけじゃなくて保護者も来る。
      つまり、出資者が来るってことだ。
      こんな世界のこんな情勢だが、それでも子供の将来は大切だからな」

从´ヮ`从ト「先生、その表現はどうかと……」

世間の動きに対して、ショボンなりにストレスを溜めているのはチハルも知っている。
どうにかしなければと強く思いながらも、何もできない自分に憤っているのも知っている。
剽軽なキャラクターで知られるショボンは自分の発言を訂正することもなく、話を続けた。

(´・ω・`)「まぁまぁ。 で、だ。
     オープンキャンパスで出資者と中学生が何を見て受験を決めるか分かるか?」

从´ヮ`从ト「校舎ですか?」

(´・ω・`)「ノンノン」

从´ヮ`从ト「先生?」

(´^ω^`)「おっ、嬉しいこと言うねぇ。
     後でどんぐり飴やるよ。
     だけど違う」

妙にもったいぶった態度のショボンが、真剣な声で断言した。

(´・ω・`)「生徒だよ。 つまり、お前らだ」

从´ヮ`从ト「はぁ……」

(´・ω・`)「本当だったら伊藤が出るはずだったんだが、ほら、あいつあれじゃん?」

21 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 19:52:27.821 ID:S8p/I/Dc0
同級生の伊藤は物腰が柔らかく、常識人として知られていた。
クラスでは委員長として、生徒会書記として、全校生徒からも注目されている女生徒である。
率先して厄介ごとに取り組み、多忙な日々を過ごすことに快感を覚えているのではないかと言う噂まであった。

だがつい先日、道路に飛び出した子供を助けた際に足首を骨折したことで入院してしまった。
チハルのクラスは伊藤という要を失ったことにより、誰もが意気消沈している。
優秀な指揮官を失った軍隊がどうなるのか、誰もが理解した。

(´・ω・`)「伊藤を抜きにして、クラスの女子で常識人って言ったらお前か都村ぐらいだ。
      都村はすでにオープンキャンパスに参加が決まってる。
      つまり、お前しかいないんだよ」

从´ヮ`从ト「えぇー、ヒートちゃんとか元気があっていいじゃないですか」

(´・ω・`)「体育の授業中に奴が破壊したカーボン竹刀の数を知ってるか?
      17本だぞ、それも一学期だけで。
      それにあいつは部活紹介の方に出るらしいからな、何にしたって無理だ」

二年生になる時、チハルはヒートの噂を聞いていた。
えらく元気のある女子で、体育の成績トップにして部活動助っ人のプロフェッショナル。
体育の度に何か器具を破壊することから〝クラッシャー〟とあだ名されている。

同じクラスになると、彼女の誠実な性格と行動力に誰もが惹かれていた。
しかし、17本のカーボン竹刀をどうすれば破壊できるのかチハルは少しだが興味があった。

从´ヮ`从ト「渡辺さんはどうです?
       あの子可愛いし」

クラスのマスコットキャラであり、学校最強と名高い杉浦と恋仲にある渡辺なら、人前に出しても恥ずかしくない。
人に好かれる性格をしているので、オープンキャンパスに最適だろう。

(´・ω・`)「あいつの上履きを見てみろ。
      まるでギブスへの寄せ書きだし、昼休みに賭け麻雀をする奴を表に出せるか。
      それに、渡辺が来るってことは杉浦も来るんだぞ。

      あんなのが立ってたらオープンキャンパスどころじゃない」

从´ヮ`从ト「あっ、都村さんだったらミセリがいるじゃないですか。
       相性抜群ですよ」

(´・ω・`)「ミセリは昨日キュートと素手喧嘩して指導中だ。
     掛け算の話をしてたとか訳の分からんこと言ってからな、当然任せられるわけがない。
     とにかく、これは担任命令だ。

     そんなに大変な仕事はないし、お昼ご飯もでるぞ」

23 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 19:54:59.376 ID:S8p/I/Dc0
从;´ヮ`从ト「うへぇ……」

チハルの口から出たその言葉は、面倒事を任されたという事に対してもそうだが、何より自クラスの個性の強烈さに圧倒されたからだった。
自分がクラスで楽しく談笑している時や授業中は気にしたこともなかったが、こうして話を聞くと恐ろしいクラスである。
二年二組が〝個性のワンダーランド〟と呼ばれているのも納得だ。

(´・ω・`)「まぁそう言うな。
      今度マックスコーヒーを買ってやるから。
      ほれ、これが実施要領」

針なしのホチキスで止められた資料を受け取って、チハルは職員室を後にした。
オープンキャンパスに出ること自体が嫌なのではないが、ブーンが来る可能性があるため、気乗りしなかったのだ。
気分が沈んだままクラスに戻り、実施要領に目を通す。

ノパ⊿゚)「おいおい、ハルハル元気がねぇな!
    どうしたんだよ?」

後ろの席のヒートがチハルの肩を強く叩く。

从;´ヮ`从ト「うげっ」

ヒートがチハルの持っていたプリントを覗き込む。

ノパ⊿゚)「なんだそれ? オープンキャンパス?
    ハルハル、オープンキャンパスに出るのか?!」

从´ヮ`从ト「ショボン先生に頼まれちゃってさー」

ノパ⊿゚)「いいなぁ! やるじゃん!
    ハリボーあげるからあたしと交代しようぜ!」

差し出されたグミを食べながら、チハルは首を横に振る。

从´ヮ`从ト「あんたは竹刀破壊したし、部活もあるから駄目だってさ」

ノハ;゚⊿゚)「げぇっ!! やっぱり駄目かー!
     くっそぉ、バスケ部さえなければ……!!」

部活が無くても竹刀の問題があるため出られないと念を押そうかと思ったが、チハルは諦めた。

从´ヮ`从ト「ってか、オープンキャンパスの手伝いに出たがるなんて珍しいね」

24 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 19:57:15.143 ID:S8p/I/Dc0
ノパ⊿゚)「ん? おぉ、そりゃあたしもオープンキャンパスで先輩に憧れて入学したからな!
    次はあたしの順番だ! ってやりたいじゃん」

意外だったのは、ヒートがまともな気持ちでオープンキャンパスに参加したがっていた事だった。

ノハ´⊿`)「くそー、青春っぽいことしたかったなー」

从´ヮ`从ト「ふぅん……」

改めてプリントの内容を確認する。
保護者や生徒を連れて校内を案内したり、設備の説明や学校生活についての感想を素直に話すべしと書かれていた。
確かにこの内容なら、いい加減な生徒には務めさせるわけにはいかないだろう。

ノハ´⊿`)「ハルハルー、あたしの分まで頑張れよー」

从´ヮ`从ト「うん、まぁ、頑張るよ」

ノハ´⊿`)「ほれ、もっとハリボー食べろよー。
     元気出るぞー」

差し出された袋からグミを一掴みもらい、チハルは遠慮なくそれを食べた。

从´ヮ`从ト「やっぱりハリボーは美味いね」

ノパ⊿゚)「だろ!」

そしてオープンキャンパス当日。
結局その日まで、チハルはブーンにこの事を伝えられなかった。
情報流出を恐れて両親にすら言っていない。

学校説明の間、チハルの仕事は案内する前に教室内の最終点検をすることだった。
机と綺麗で破損がないか。
床にごみは落ちていないか。

掲示物は必ず四隅を画鋲で止め、生徒の個人情報が載っている物は外してあるか。
ゴミ箱は空か。
ホワイトボードにマーカーのふき漏れはないか。

細かく見て周る生徒の数は30名おり、それ以外の十名弱の生徒は来校者を座席に案内したり資料の配布を手伝ったりしている。
これだけで終わりならばいいのだがと、チハルは少しずれていた机を直しながら思った。
この後に控えているのは説明を済ませた来校者達に校内を案内し、説明するという作業だ。

もしもブーンが来ていたとして。
もしもチハルが案内することになったとしたら。
それはとても恐ろしいことだ。

25 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 20:02:07.923 ID:S8p/I/Dc0
会わないのが一番だと内心で怯えていると、その危惧は現実のものとなった。
会場の様子を見ようと体育館に足を踏み入れた時、吸い込まれるようにしてある一点に目が釘づけになった。
体育館に集まった中学生とその保護者の中に、ブーンの姿を見つけてしまったのだ。

逃げるように体育館から出ると、そこには来校者の受付があった。
数名の生徒が受付周りの撤収作業を行っていた。
受付の代表である毒島毒男はブーンとチハルの関係に気付いた様子はなかったが、チハルの様子が変わった事には目ざとく気付いた。

('A`)「あれ、春日さんどうしたの?
   笑顔が引きつってるけど」

体育館から遠ざかるために受付の片付けを手伝い始めたチハルに声をかけてきた毒島に、作り笑顔で答える。

从´ヮ`从ト「あの日なんよ」

(;゚A゚)「ご、ごめん!」

何の日と具体的に言っていないにも関わらず、毒島は素直にそれを受け止めた。
根が真面目なのが毒島の良いところなのはクラスメイトだけでなく、同級生は皆が知っている。
不健康そうな顔つきや三白眼がなければ、彼に好意を持つ異性が一人や二人いたかもしれない。

从´ヮ`从ト「毒島君は、誰が学校案内の生徒を割り当てるか知ってる?」

('A`)「えーっと、ショボン先生だったはずだよ。
   名簿を渡してあるから、多分もう組み合わせをしているころだと思うよ」

从´ヮ`从ト「マジかよおい」

('A`)「あ、や、やっぱり今日は具合悪いからって言っておこうか?
   俺この後先生と話しないといけないし」

気遣いを発揮する毒島であるが、チハルは首を横に振った。

从´ヮ`从ト「……あのさぁ、あたし女の子なんだよ?
      男子がそれを代弁するってのはどうかと思うよ……」

26 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 20:08:58.977 ID:S8p/I/Dc0
(;゚A゚)「あ、そ、そうだよね! ごめん!」

从´ヮ`从ト「それに、休むほどじゃないよ」

嘘を吐いた罪悪感もあるが、仕事を投げ出すのは好きではないからだった。
来校者数150組320名に対し、案内生徒は40名。
確率で言えば約25%。

ブーンと一緒になることはないだろう。

(´・ω・`)「よーし、お待たせ。
     一人あたりだいたい四組を案内してくれ。
     校長の説明が終わったらその名前の来校者を連れて行くんだ。

     初めての奴には一組だけ割り当ててあるから、安心してゆっくりやってくれ」

これは行幸だ。
初めてこのオープンキャンパスの手伝いに参加するのは10数人。
それ以外の生徒は30名ほど。

単純な数字で考えると、チハルは150分の1の人間を案内すればいいだけ。
絶対に当たらない。
当たるはずがない。

渡された紙に書かれているのは来校者の名前だ。
チハルは初めてという事もあり、一組の来校者の名前があった。
そしてそれは、ブーンの名前だった。

从;´ヮ`从ト「……何故だっ!」

頭を抱えたくなったチハルに、担任が声をかける。

(´>ω・`)b「おおそうだ春日、お前の紹介で一人来てたから、お前に割り当てたからな。
      その方が気分も楽だろう。
      慣れたら次のオープンキャンパスもよろしく頼む」

ショボンがウィンクと共に親指を立てた。
チハルはその仕草に限りなく腹が立ったが、担任なりの気遣いを無碍にするつもりはなく、むしろ感謝した。
だが、感謝はあくまでもその気遣いであって、気遣いの結果に対しては感謝できなかった。

27 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 20:11:02.731 ID:S8p/I/Dc0
確かに案内役にチハルを選ぶのは自然だ。
恐らく事前アンケートにブーンはチハルの名前を書いたか、予約の際にその名前を出したのだろう。
誰も責められないし、批難も出来ない。

全てはチハル自身の問題であり、一人で悩んでいる事なのだ。
出来れば恋愛はもっと別の形で、自由に経験をしたかった。
同級生たちが先輩たちの姿を見て嬌声を上げるように、顔立ちの整った俳優を見て興奮するように恋愛をしたかった。

それがどうだ。
ブーンの顔立ちは幼く、まだまだあどけなさの残る子供のそれだ。
この前まで小学生だったブーンの体は成長期に入り、少しだけ肉付きがよくなっている。

全てを知っている。
ブーンの体の傷の歴史も。
ブーンの行動も、その性格もチハルは全て知っている。

鈍くさいところも。
人を傷つけない優しさも。
チハルの事を姉としてしか見ていないことも。

気付けば好きになり、気付けば恋に落ち、気付けば取り返しのつかない状態になっていた。
好きになる相手が選べればよかった。
気兼ねなく好きになれる相手ならばよかった。

ここ数日何度も頭の中で渦を巻く感情が、チハルの呼吸を乱した。
周囲の人間に気付かれないように胸を押さえ、深呼吸をして動悸を押さえる。
制服の下で高鳴る心臓は、不安か、それとも喜びからか。

体育館に向かい、そして中学生たちの中からブーンのところに歩いていく。

( ^ω^)「おっ! ハルおねーちゃん!」

こうなってしまえば、後は仕事をこなすだけだ。
感情を排除し、徹底するしかない。
自分は機械となり、歯車となり、仕事をこなす部品となるのだ。

返答は他人行儀に。
回答はテンプレートで。
対応は事務的に。

从´ヮ`从ト「おぅ、来たか弟よ!」

無理だった。
僅かな覚悟も、ブーンの前では無意味だった。
冷たい態度で応じれば、彼がどう反応するかが分かっているからである。

29 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 20:14:33.607 ID:S8p/I/Dc0
何より、自分の心臓を突き刺すよりも辛い事はできない。
どうにか押さえられたのは、いつもの癖で彼の手を握って歩く事だけだった。

从´ヮ`从ト「じゃあ案内するからついてきてねー」

我ながらどうしようもないと、チハルは自嘲した。
すぐ隣をブーンが歩き、二人の後ろを両親が歩く。
途中で警備員とすれ違いざまに挨拶をすると、ブーンもそれに倣って挨拶をした。

从´ヮ`从ト「じゃあまず教室の紹介をするよー」

( ^ω^)「おっ!」

从´ヮ`从ト「といっても、中学校と変わりはないでしょ」

案内したのは1学年の教室だ。
ブーンが入学した際、最初に使うのは最上階にあるこの教室となる。
学年が上がるにつれて、使用教室の階は下になる。

( ^ω^)「うーん、ちょっと机が大きくて椅子が高い気がするお」

電気の消された教室内は窓が開け放たれ、澄んだ空気が流れ込んできている。
カーテンが風に揺れ、柔らかな光が教室を照らす。
チハルが好きな教室の風景だ。

从´ヮ`从ト「あー、確かにそうだねー。
      後は掲示板かな」

( ^ω^)「何が違うんだお?」

教室内を歩きながら、チハルは掲示板を指さした。

从´ヮ`从ト「貼ってある掲示物。
       中学の時と違うの分かる?」

( ^ω^)「掲示板あんまり見ないから分からないお……」

从´ヮ`从ト「配ったプリントはあんまり貼らないの。
      自分の事は自分で管理するからねー」

( ^ω^)「うへぇ……」

从´ヮ`从ト「ま、ブーンも高校生になったら自分の事を自分でしないとね」

教室を出て行き、次は食堂に向かった。

30 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 20:21:52.089 ID:S8p/I/Dc0
( ^ω^)「でけぇお!」

从´ヮ`从ト「食券を買ってそれから並ぶんだよ」

( ^ω^)「何が一番人気なんだお?」

从´ヮ`从ト「一番人気なのはスタミナ丼だよ。
       早い、安い、多い、美味いだからね」

( ^ω^)「ハルおねーちゃんは何がおすすめなんだお?」

从´ヮ`从ト「そりゃあもちろんうどんだよ。
      うどんに野菜天をのっけた奴なんだけど、野菜天がでかくてねー」

止めなければと心が叫ぶ。
これ以上傷つく要因を増やすなと、チハルの心が懇願する。
だが本能がそれを拒否する。

愛しい人間と話をすることを誰が止められようか。
空腹を覚えれば何かを食べる。
眠気を覚えれば眠りに落ちる。

それと同じ。
全ては同じなのだ。
ブーンと言う要素を吸収したいと願えば、そうする他ないのだ。

从´ヮ`从ト「あとで一緒にお昼食べる?」

口が動く。
意志に反して、本音が口から出てくる。

( ^ω^)「うん!」

从´ヮ`从ト「よーし、じゃあねーちゃんがおごってあげるよ!」

食堂の次に向かうのは、部活の紹介が行われている第2体育館だ。
第2体育館では今頃、女子バスケットボール部と男子バドミントン部が練習を行っている最中だろう。
体育館に行くと、そこには白熱した練習を見せるヒートの姿があった。

ノパ⊿゚)「走れ走れ!!
    この鈍間共が!!」

31 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 20:24:48.731 ID:S8p/I/Dc0
助っ人枠としてバスケットボール部に来ているはずのヒートだが、彼女は積極的に指示を出し、そして誰よりも激しく動いている。
肉食獣的なしなやかな動きは同性でも見ていて美しいと思えるほどで、汗を流して駆けるヒートは誰よりも輝いて見えた。
ヒートが飛翔するようにしてボールをゴールへと運び、ネットが揺れた時に大きな笛の音が響き渡った。

ノパ⊿゚)「よーし、休憩だ!!」

あれだけ走っていてもヒートは他の誰よりも涼しげな顔をしており、そして気持ちよさそうに高揚していた。

ノパ⊿゚)「おっ! ハルハルじゃん!
    おーい!」

両手を振ってアピールするヒート。
彼女の服装は袖なしの赤いユニフォームで、綺麗な腋が惜しげもなく見えた。
年頃の女子であれば恥ずかしがることだが、ヒートは全く気付いていないのか、それとも気にしていないのか、隠す恥ずかしがる様子もない。

チハルが小さく手を振ると、ヒートは駆け寄ってきた。
何故、と驚く間もなくヒートはチハルの前で止まり、ブーンとチハルを交互に見た。
そしてブーンに目線を固定させると、ひざを折って目線の高さを合わせた。

ノパー゚)「おう少年!
    ハルハルに案内してもらうとはラッキーだな!
    あたしはヒート、よろしくな!」

手を差し出し、握手を求める。
ヒートはこういう人間なのだ。
誰であれ差別をせず、区別をせず、素直に交流する。

ブーンもまた、そんな彼女と波長が合うのか、握手に応じた。

( ^ω^)「はいですお!
      ヒート先輩はハルおねーちゃんのお友達なんですか?」

ノパ⊿゚)「まぁな! 親友ってやつさ!
    ……って待てよおい、ハルハル、おねーちゃんってなんだよ!
    ハルハル弟いたのか!」

ヒートが驚いた表情でチハルを見る。

从´ヮ`从ト「……乙女の秘密さ」

32 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 20:28:46.084 ID:S8p/I/Dc0
ノパ⊿゚)「羨ましいなぁー 弟かぁー
    いいなぁー」

( ^ω^)「おー」

いつまでも手を握られているブーンが、ヒートの対応に当惑している。
誰もが最初はそういう反応を示すが、すぐに彼女の虜となる。
ヒートは紛う事なき体育会系の人間であり、その行動に悪意は一切ないのだ。

ノパ⊿゚)「あたしもさ、弟欲しかったんだよねー。
    そうだ!
    少年、ハリボーあげるからあたしの弟にならないか!」

ブーンの両手を握り、ヒートがこれは名案とばかりに提案する。
チハルはそれを冷静に引き留めた。
ひょっとしたらそれは、独占欲が働いたのかもしれないが、無意識の内にその提案を却下していたのは間違いない。

从´ヮ`从ト「やめーや」

ノパ⊿゚)「えー! いいじゃんよー!
    減るもんじゃないだろ!
    弟シェアリングしようぜ!」

从´ヮ`从ト「だーめ」

ノパ⊿゚)「ちぇー、けちー」

ようやくブーンの手を離したヒートは、最後にその手をブーンの頭に乗せた。

ノパー゚)「まぁいいや。
    いつかどこかでまた会おう、少年。
    ハルハルをよろしく頼むよ」

そして、ヒートは練習に戻っていった。
その清々しさがヒートの美点の一つだ。

( ^ω^)「ヒート先輩、カッコいいお」

从´ヮ`从ト「でしょう?」

( ^ω^)「ハルおねーちゃん、どうしてハルハルって呼ばれてるんだお?」

从´ヮ`从ト「春日のハルとチハルのハルで、ハルハルなんだってさー」

( ^ω^)「可愛い渾名だお!」

从´ヮ`从ト「ありがとね」

34 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 20:33:53.058 ID:S8p/I/Dc0
部活動の説明を両親にする。
いちいち説明するまでもないが、それでも一応仕事はこなす。
チハルの説明を両親は微笑ましそうに聞き、学校にある部活の種類を最後に説明した。

从´ヮ`从ト「文化部が十種類、運動部が同じく十種類あります。
      文化部は文芸部、漫画部、テーブルゲーム部、茶道部、華道部、模型部、創作部、軽音楽部、吹奏楽部、合唱部。
      運動部はバスケットボール部、バドミントン部、卓球部、野球部、陸上競技部、サッカー部、ソフトボール部、弓道部、柔道部、射撃部。

      後は同好会が複数って感じですね」

( ^ω^)「同好会?」

从´ヮ`从ト「部活じゃないんだけど、部活に近いものさね。
      例えば自転車が好きな人が5人いたとしようか。
      部活動として認められるのは10人以上と定められているから、部活にはなれない。

      だけど5人もいたらやっぱり活動したいじゃない?
      予算は出ないけど、好きな者同士で活動することを認めますよーってこと」

逆を言えば、5人集まれば同好会としての要件を満たすため、多くの同好会が産まれることになる。
チハルが知る限りでは20以上の同好会があり、その内の10ほどが仲のいい者同士で作られた意味のない同好会である。
酷いものになると、イケメン同好会と言うのが作られたと聞いたことがあった。

そして、今度は本棟にある図書室などの施設を案内していく。
廊下や校門付近に設置された最新の防犯カメラについては両親も知らなかったようで、感心した風に話を聞いていた。
校内案内の最後は、職員室だった。

从´ヮ`从ト「ブーン、中学校の職員室とこの学校の職員室、どう違うか分かる?」

( ^ω^)「……扉がないお」

从´ヮ`从ト「正解。 普通がどうかは知らないけど、うちの学校は扉がないの。
      何でも、生徒と教師の壁を出来る限りなくそう、って考えらしいよ」

( ^ω^)「おー、職員室恐いお……」

从´ヮ`从ト「あたしも怖かったよ。
      まぁ好んで行くような場所じゃないけど、相談事があればすぐに出来るのが利点だね」

義務教育期間における公立の職員室とは未知の空間である。
漂う空気、独特の匂い。
全てが生徒にとっては慣れない物であり、そこに入るためには地獄の扉を開けるような覚悟がいる。

35 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 20:36:49.660 ID:S8p/I/Dc0
職員室に用のある生徒というのは、何らかの問題を起こした生徒であるという認識があり、そのために奇異に近い視線を向けられる。
いたたまれない空間の中で要求されるのは、目的の教師の名前を呼ぶこと。
だがそれが関門。

用件と名前を言わなければほぼ全ての教師が無視し、助けてはくれない。
チハルにもそういった経験があった。
しかしこの学校の職員室には、扉がない。

つまり、心理的な障壁の大きな一つが消えることになる。
現に、彼の人柄もあるのだろうがショボンと話をする時には中学校時代に感じていた恐怖は微塵もない。

( ^ω^)「おー、それは大切だお……」

从´ヮ`从ト「特に進路相談がしやすいのは助かるねー」

現在チハルは、進学の方向で進路を考えている。
今の時代、ほとんどの高校生が進学を考えている。
大学か、それとも専門学校か。

進学と一括りに言っても、大学と専門学校でも違いがある。
大学には短大があり、専門学校には年数の違いがある。
何を学ぶのかを考えた上で己の進路を決めなければならないが、この二つの違いは明白であるが故に、そう簡単には決められない。

大学であれば勉学に重点が置かれ、専門学校であれば専門の勉学に重点が置かれる。
最大の違いは学ぶ内容に対する覚悟である。
具体的な内容が決まっていて尚且つそれを職とする覚悟があれば専門学校に進み、具体的な進路が決まっていない、更に多くを学びたいという気持ちがあれば大学に進むことになる。

チハルには将来の夢があった。
その夢を叶えるためには大学に進むのが最適だった。
だが大学は星の数ほどある。

選ばなければ入学が出来る時代となった今、選ぶべき大学を探すことが大切だった。
自力で探すだけでなく、教師の視点からの意見を求める際、職員室に入りやすいというのは非常に都合がいい。

从´ヮ`从ト「ブーンもその内分かるよ」

( ^ω^)「おっ、分かったお!」

こうしてオープンキャンパスは無事に終わるかに思われた。

( ^ω^)「ハルおねーちゃん、ありがとうだお!」

――最後にブーンが見せた無垢な笑顔にチハルが反応をしなければ。

从´ヮ`从ト「っ……!!」

36 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 20:40:13.717 ID:S8p/I/Dc0
己が迂闊な状態だったのはチハルにも自覚があった。
だが覚悟が足りなかった。
湧き上がってきた強烈な保護欲の衝動に抗うだけの覚悟が、その瞬間のチハルにはなかった。

両手がブーンを抱きしめる寸前で停止したのは、遅れて動いた彼女の理性がなした技だった。
どうにかその両手をブーンの肩に乗せ、その場を誤魔化したが、チハルの心は誤魔化せなかった。
すでに制御が困難な状態になっていることを自覚したチハルは、それ以降の自分の立ち振る舞いについて考え直さなければならなかった。

家に戻り、夕食と風呂を済ませたらすぐに寝た。
瞼を降ろしてからも、チハルは現実を直視しつづけなければならなかった。
チハルはブーンに惹かれ、その思いは理性ではコントロールが出来ないまでに成長している。

想いを伝えたい。
結果が自分にとって良いものでなくても、胸の内に秘めたこの思いを吐き出さずにはいられない。
誰かに話し、誰かに理解してもらいたい。

胸が痛かった。
じわじわと締め付けられるような痛みは、甘く、切なく、そしてそれがいつまでも続く。
あまりの痛さに胸を押さえ、チハルは涙を流した。

苦しい、そう思った時には呼吸が乱れ始め、過呼吸の前兆が見られた。
己に言い聞かせるようにして、心を落ち着かせる。
耳に心臓の鼓動が届く。

ゆっくりと、静かに呼吸を元に戻していく。
このままでは心が持たない。
胸に蓄積したこの想いを、誰かに理解してもらいたいと強く思う。

瞼を上げたチハルは携帯電話に手を伸ばし、最も信頼する人物のアドレスにメールを送ることにした。
夜に送る非礼と、手短な相談の内容を書き連ね、送信する。
慈母のような存在、かつての担任だったアデーレ・デレーナへ。

返信は三十分後に来た。
文面は短く、明日会おう、というものだった。
チハルはそれに甘んじ、時間と場所を決めてから眠りに落ちる努力をした。

ネイティブの英語教師としてチハルたちに英語を教えていたデレーナは、生徒達の相談を親身になって聞いてくれる人間だ。
これまでにチハルが出会ったどの教師よりも優しく、厳しい人物だった。
一か月前に産休に入り、それでも彼女に相談をする生徒は後を絶たない。

从´ヮ`从ト「すみません、大変な時に……」

翌日、チハルはデレーナの最寄り駅のファミリーレストランで会った。
ゆったりとした服を下から押し上げる大きな腹には、新たな命が宿っている。
日曜日のレストランにはほとんど客がいなかった。

店内にはラジオから洋楽をBGMに、丁寧な英語で日に日に緊迫する世界情勢についてのニュースが流れているが、誰もそれを気になどしないだろう。
一番奥の席に座る二人は互いに注文を済ませ、向かい合わせて座った。

37 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 20:42:23.402 ID:S8p/I/Dc0
ζ(゚ー゚*ζ「ハルちゃんみたいにタフな教え子が辛いっていうんですもの、気にしないで」

ルイボスティーを一口飲み、デレーナはチハルの言葉を待つ。

从´ヮ`从ト「先生は、恋ってしたことありますか?」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇもちろん。
       貴女ぐらいの時にもね」

事前にデレーナに送ったメールには、チハルの現状を単純に書き連ねてある。
問題となるのが恋路であることが分かっているデレーナは、すぐに返答したが、その表情には昔を懐かしむ寂しげなものがあった。

从´ヮ`从ト「その時の相手って、誰だったんですか?」

ζ(゚ー゚*ζ「同じ学校の人よ。
      優しくて、時々浮かべる笑顔がステキだったの」

当時を思い浮かべるデレーナは話し終えると再びルイボスティーを口に含み、喉を鳴らして飲み込んだ。
チハルもオレンジジュースを飲み、続ける。

从´ヮ`从ト「告白はしたんですか?」

ζ(゚ー゚*ζ「いいえ、相手には立場があったから言わずじまいだったわよ」

从´ヮ`从ト「立場?」

ζ(゚ー゚*ζ「学校の先生だったの、その人。
      新任の先生で若かったんだけど、どの先生よりも生徒想いの不器用な人だったわ」

デレーナは気恥かしそうに微笑む。
チハルはその過去の告白に対し、自分の立場を重ねて考えた。
教師と生徒の恋愛はご法度の代表だ。

教師が生徒に対して恋愛関与を抱けば、自ずと生徒に対する対応に差が出てきてしまう。
それは微細な変化であり、実に巧妙に隠された物であっても、間違いなく察しがついてしまうものである。
タブーの一つであるが、叶えてはならないという物ではない。

単に在校期間中の問題であり、卒業後はどうなろうが自由なのだ。
だがチハルには卒業後も在校中も関係がない。
しかし、デレーナが在校生である期間中に教師に好意を抱いたというのは貴重な意見だ。

从´ヮ`从ト「その間、苦しかったですか?」

ζ(゚ー゚*ζ「それはもう、とっても苦しかったわよ。
      だけど、卒業するまでは告白するわけにはいかなかったからね。
      そうこうしている内に先生が結婚して、その恋は終わったわ」

从´ヮ`从ト「諦めって付きました?」

ζ(゚ー゚*ζ「うーん、正直なところ一か月ぐらい引きずったわね。
       でも相手が幸せならいいんじゃないかって結論になったわ。
       だってそうでしょ?

       自分が幸せになるために相手を好きになるわけじゃないんですもの」

从´ヮ`从ト「……ふぅむ」

38 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 20:44:35.736 ID:S8p/I/Dc0
ζ(゚ー゚*ζ「人を好きになるっていうのは素晴らしいことだと思うわ。
      相手が誰であれ、それだけで力になるんですもの。
      でも力になる反面、その想いが成就するまでの間はずっと思いが風船みたいに膨らんでいくの。

      破裂したら心が辛いけど、それでも、いい経験よ」

チハルは手元のコーヒーの水面を見た。
そこに映る自分の姿は、コーヒーと同じくどんよりとしたものだった。

ζ(゚ー゚*ζ「……どんな人なの、ハルちゃんの好きな人って」

从´ヮ`从ト「えっと…… その……」

口ごもるチハルの答えを、デレーナは静かに待つ。
決して催促はせず、静かに。
風が吹くのを待つように、優しげな青い瞳がチハルを見据える。

从´ヮ`从ト「頼りなくて…… あたしがいないとダメで、不器用で。
      駄目なところがたくさんありますけど……」

少しだけ言葉が詰まる。

从´ヮ`从ト「……でも、そんな全部が好きなんです。
       何がどう好きなのかは分かりませんけど……」

自分の感情を口に出した時、胸の中にあった大きな石がなくなったような感覚がチハルを襲った。
完全に解放されたわけではないが、それでも、気分が楽になった。
チハルの告白にデレーナは深く頷き、感心した風に溜息を吐いた。

ζ(゚ー゚*ζ「その若さで、随分と成熟した感情を持っているのね。
      顔がいいから、性格がいいから、お金を持っているから好き、じゃあまだ幼いわ。
      存在が愛おしいと思える人に会えてよかったわね。

      ハルちゃん、随分昔からその人の事好きだったでしょ」

从´ヮ`从ト「えぇ…… たぶん……」

39 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 20:47:05.377 ID:S8p/I/Dc0
思い返せば、チハルはブーンが母親の腕に抱かれているのを見た時から惹かれていた。
愛くるしい表情。
小さな手がチハルの指を握った時の感動を、今でも思い出せる。

あまりも近すぎた関係は感覚を麻痺させ、

ζ(゚ー゚*ζ「そして、とても長い間一緒にいた。
      それこそ、家族のように近くて長い間。
      合ってるかしら?」

从´ヮ`从ト「……合ってます」

ζ(゚ー゚*ζ「で、年下」

驚きのあまり、チハルは手に持ったカップを落としそうになった。

ζ(゚ー゚*ζ「当たり?」

从;´ヮ`从ト「当たりです…… でもどうして?」

ζ(゚ー゚*ζ「んふふ、女同士ですもの。
       それにね、ハルちゃんとは二年一緒にいたのよ?
       分かるわよ」

唇を濡らす程度のコーヒーを口に含む。

从´ヮ`从ト「今ある関係を壊すのが怖くて、どうしても言い出せなくて……」

デレーナは頷き、続きを待つ。

从´ヮ`从ト「家族が関係してくるから、こんな感情はいけないんだ、って。
      そりゃあ叶えば幸せですけど、叶わなかったら……
      その子は〝弟〟で、あたしのことは〝お姉ちゃん〟としか思ってないかもしれないから……」

そこでチハルは言葉に詰まった。
これ以上喋るとただでさえ泣き出しそうな状態なのに、感情が高ぶれば間違いなく涙が出てきてしまう。
耐えなければ、と思えば思うほど、感情が沸騰するような感覚が胸に湧き上がる。

ζ(゚ー゚*ζ「ハルちゃん」

そして、デレーナが告げる。
チハルにとっての弱点であり、切り札でもあるそれを。
ブーンと彼女とを結びつけるための、最後の希望を。

何故チハルが一人葛藤し、ブーンに対する感情を最後まで捨てられないのか。
全ては、次にデレーナが口にした言葉が代弁していた。

40 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 20:49:50.281 ID:S8p/I/Dc0
ζ(゚ー゚*ζ「血が繋がっているならいざしらず、近所の年下の男の子を好きになっても誰も非難しないわよ。
       それに、家族ぐるみの付き合いでも子供同士の恋愛を止める権利は誰にもないわ」

ブーンとチハルは血の繋がりがない。
それ以前に、本物の家族でもない。
デレーナが言った通り、家族ぐるみで付き合いをしているだけだ。

担任だったデレーナはチハルの家族構成を知っている。
両親と本人だけの三人家族。
本当の弟はいない。

そして彼女は、少しの情報から真実を引き出す術を持っている。
賢明な彼女は、これまでの会話からブーンの情報を理解した。
キーワードとなったのは、〝弟〟だったが、それ以外の言葉を繋げれば確かにブーンの存在が浮かび上がってくる。

年下。
家族。
〝お姉ちゃん〟。

本物の姉弟を構成する材料としては申し分ないが、決定的に欠けているのは血の繋がり。
家族でない以上、恋愛感情を持つことに対しては倫理的に見ても問題はない。
問題となるのは何か。

それは、チハル自身の心の持ち方だけなのだ。
実際問題、チハルが心を病んでいるのは彼女が遠慮をしているだけなのである。

ζ(゚ー゚*ζ「私の予想、合ってる?」

从;´ヮ`从ト「合ってます……」

ζ(゚ー゚*ζ「それは良かった。
       ハルちゃん、貴女はやっぱり優しい子ね」

机越しにデレーナの手がチハルの頭に伸び、子供をあやすように優しく撫でた。
デレーナの笑顔はこれまでのチハルの心労を全て見て来たかのように優しげで、慈愛に満ちたものだった。
目頭に痺れるような痛みが走る。

もう、我慢が出来なかった。
チハルの心の最後の決壊が崩れる。
頬が溢れてくる。

一つ、二つと。
大粒の涙が零れ落ち、手の上に落ちる。

41 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 20:53:10.040 ID:S8p/I/Dc0
ζ(゚ー゚*ζ「よく一人で頑張ったわね」

言葉の一つ一つがチハルの胸にしみる。
ずっと耐えてきたのだ。
一人で、誰にも相談できずに。

耐え凌ぎ、抑え込み、押し殺してきた感情。
家族が困るかもしれない感情を殺し続けてきたチハルにとって、今、あふれ出てきた感情を封殺するのは不可能だった。
殺し続けてきた感情が濁流となり、チハルから自制心を奪い、大量の涙に変えた。

何も言わず、デレーナがチハルの横に移動し、その頭を胸に抱いた。
涙がデレーナの服を濡らす。
彼女の両手がチハルの背中と頭にまわされ、強く抱きしめた。

声もなく泣く。
声も出せずに泣く。
声など、出せるはずがない。

嗚咽など漏らせない。
十数年間の想いが涙となって溢れるが、その想いは悲しさではないのだ。
むしろ逆の感情だった。

ブーンと出会えたことに後悔はない。
幸せな日々を手に入れ、ブーンと誰よりも近くにいられた。
それが何よりも嬉しかった。

流す涙は理解されたことに対する感謝の涙だった。
もう一人ではなくなったことに対する喜びの涙だった。
貯め続けてきた負の感情を吐き出せたことに対する歓喜の涙だった。

もっと早い段階で誰かに相談が出来ればよかった。
友人。
家族。

相談相手はいた。
相談が出来ないだけだった。
それは想いが口に出せない事を意味し、毒が体から出て行かないのと同義だった。

友人に話すにはお互いに人生経験が不足していて、良い打開策は勿論だが、その話が知れ渡る可能性もあった。
未熟な人間は知った秘密を誰かに話したくて仕方がないのだ。
信頼できる友人でさえも、チハルは信頼しきれなかった。

それすらも未熟さだと気付けない程に、チハルはまだ子供だったのである。
当然、家族に話すわけにはいかなかった。
知られることでさえ恐れ、その感情がある事さえ隠し通した。

そのために心を殺した。
殺して、殺して。
起き上がってくるたびに、殺した。

その日々は筆舌に尽くしがたい負荷を彼女の心にかけた。
押し潰されなかったのは、彼女の想い人が誰よりも近くにいたからである。
それでもそれは、辛うじて心が分裂するのを保つための一時しのぎにすぎない。

時が来れば確実に心が自壊していただろう。

ζ(゚ー゚*ζ「何も怖くないわよ。
       ハルちゃん、貴女は何も間違っていないわ」

43 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 20:56:54.955 ID:S8p/I/Dc0
誰かにそう言ってもらいたかった。
ずっと。
ずっと、自分の想いは悪ではないのだと言ってほしかったのだ。

人目もはばからず、チハルはそうして一時間ほどデレーナの胸に抱かれた。
ようやく落ち着きを取り戻し、言葉が話せる状態になる。
目は泣き腫れて赤くなり、鼻水も出てみっともない姿になっていた。

从´ヮ`从ト「すみません…… 取り乱しちゃって……」

服が汚れたのを気にする様子もなく、デレーナはナプキンでチハルの鼻を拭った。

ζ(゚ー゚*ζ「いいのよ。 感情をため込んだままだと体には毒だからね」

そう言って、デレーナは微笑む。
同性でさえその笑顔が魅力的だと、チハルは思う。
同じ人間とは思えない端正な顔立ちは正に芸術品だ。

ζ(゚ー゚*ζ「無理にとは言わないけど、やっぱり想いは伝えないと伝わらない物よ。
      ハルちゃんに、いいこと教えてあげるわ」

从´ヮ`从ト「?」

ζ(゚ー゚*ζ「伝え方はね、言葉だけじゃないのよ。
      沢山の気持ちを伝えるためには言葉よりもいい方法があるのよ」

从´ヮ`从ト「どうやるんですか?」

そしてデレーナは悪戯っぽい笑みを口の端に浮かべた。

ζ(゚ー゚*ζ「それは宿題。
      自分の心に正直になりなさい、ハルちゃん。
      そうすれば自ずと答えは分かるわよ」

44 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:01:40.552 ID:S8p/I/Dc0
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                 True ENDルート【春の空】が解放されました
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46 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:04:46.482 ID:S8p/I/Dc0
――帰宅後、チハルは布団の中で考えをまとめることにした。
言葉ではなく心に正直に。
それはつまり、劣情にも似たこの感情を行動に移すという事だ。

改めて考える。
自分がブーンにしたいことは、果たして、本当は何なのだろうか。
睦言を交わすことでも、愛を囁き合うわけでも、肌を重ねる事でもなかった。

チハルはもっとブーンと触れ合いたいと、それだけを願っている自分に気が付いた。
昔からそうしているように、何も意識することなく触れたかった。
姉弟として過ごしてきた中で、それは過ちだったと非難され得るものなのだろうか。

チハルの願いは、非難されなければならないのだろうか。
不純なのか。
想ってはならない願いなのか。

否。
答えは断じて否である。
ただのスキンシップが非難され、否定され、断罪されることなどあってはならない。

触れることで伝えることがあるように、触れることで伝わることもある。
ある意味では言葉よりも雄弁で、言葉を理解しない赤子にも、共通言語を持たない者同士にも有効なコミュニケーションの手段である。
つまり、非言語と言ってもいい。

そこでチハルは気付いた。
言葉を使わずに、どのようにして親は子にその親愛の情を伝えるのか。
その方法とは何か。

答えは初めからチハルの中にあった。
これまでチハルがしてきたスキンシップが、答えだったのである。
心がそれを求めているのだと、チハルは自問自答の末にようやくその答えに辿り着くことが出来た。

47 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:08:02.880 ID:S8p/I/Dc0
その日から、チハルはこれまでブーンに対して遠慮していた自分に気づき、その遠慮をなくしていく事にした。
とはいえ、ブーンから見たらチハルはただの近所の姉でしかないだろうから、一線を越えることはしなかった。
押し倒して接吻をするのも一つの手段ではあるが、それはブーンが望まない限り絶対にしないと心に固く決めた。

だからチハルがするのは、家族がそうするように触れる事だった。
過激なスキンシップが引き出すのは性欲だけだ。
欲しいのはそんなものではないし、伝えたいことも違う。

愛情と呼ばれる、チハルがブーンに対して感じてる想いを伝えたい。
そしてそれがブーンから返ってこなくても構わない。
ただ、想っているという事を伝えるだけで、それをブーンに知ってもらうだけでいい。

見返りは何もいらない。
それこそがチハルの答えだった。
答えが出たのならば、後は行動だけだった。

その晩、チハルは気持ちよく深い眠りにつくことが出来た。
翌日から、チハルは行動を起こした。
大げさな行動ではなく、これまでと同じように。

例えば頭を撫でる。

       ナデナデ
从´ヮ`从トノ(^ω^〃)「おー」

例えば頬を触れ合わせる。

从´ヮ`(^ω^〃)「おー」

例えば手を繋ぐ。

          人 イェーイ
「おー」(〃^ω^) 从´ヮ`从ト

例えば後ろから抱き付く。

从´ヮ`从トo ギュー
/  ⊃(〃^ω^)「おー」

48 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:11:43.481 ID:S8p/I/Dc0
様々な方法があり、翌日から遠慮なくそれを試した。
いずれも姉弟として過ごす中で自然に行われてきた行動で、今さら遠慮する必要もなかった。
すると不思議なことに、言葉に出さずともチハルの気持ちが少し軽くなった。

触れるという行為が親密さの証であることは明白であるが、これまでとは違い、気持ちを込めて触れるようにしたところ初めて効果が表れた。
まるでブーンに触れる度に氷が解けるような気持ちだった。
しかし変化はそれだけではなかった。

チハル自身にとって驚きだったのが、これまでブーンに抱いていた恋愛感情が薄れていく事だった。
だが苦しみはなく、ブーンを想う気持ちが消えたわけではなかった。
毎日会えなくても構わない。

触れられずとも構わない。
恋人になれなくても、ブーンに恋人が出来ようとも構わない。
ブーンが幸せであれば、それで十分なのだという純粋な想いだけが残った。

川を流れる岩が永劫とも思える時間の中で角を失い、大きさを失い、それでもなお本質を失わないように。
不純物の一切がなくなった感情。
チハルはそれが、愛情と呼ばれる物の正体なのだと自然と理解した。

次第にチハル以外にも変化が現れた。
ブーンがチハルと接する時の態度に、僅かだが異性を意識しているような物が窺えるようになった。
それは進歩だった。

間違いなく、関係が一歩進んだことを意味していた。
ブーンがチハルを異性として見るという事は、これまでの中でも最大の変化だった。
姉弟という関係以上に進展する第一歩と言い換えてもいい。

だがチハルはそれがあったとしても、態度は変えなかった。
変えるつもりもなかった。
元より家族として接してきた中で、特別な行動は何一つとしてなく、そうしたいと思う事はやって来た。

触れる機会は以前からあり、自然な行為の一つだった。
ブーンを異性として意識するようになってからは避けていたが、それを元に直した。
そして気が付く。

変化を恐れて変化していたのは、他の誰でもない、チハル自身だった。
その意味のない変化が次第に心を蝕んでいたことに、ようやく気付けた。
心を殺し続けることに意味はなかったのだ。

49 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:13:30.100 ID:S8p/I/Dc0
多くの事を理解したチハルは、もう変化を恐れなくなった。
ある意味でチハルは開き直り、遠慮なくブーンと接し続けた。
愛情を込めたやり取りが増え、まるで昔に戻ったような気持ちになった。

まるで本物の姉が弟を可愛がるように。
母が子を愛でるように。
父が子に背中で語るように。

チハルは言葉を使わず、ブーンに想いを伝え続けた。
変わっていないはずの行動が、想いを込めてそうするだけで意味を変えた。
そして、ブーンの行動からも好意が感じ取れるようになってきたのは、季節が変わって冬になってからの事。

二人で同じこたつに入り、勉強をしていた時にブーンがチハルの事を頻繁に見ているのに気が付いた。
視線が合うと気まずそうに逸らし、また気が付けば視線が合っている。
からかい半分でブーンの足を足で触ってみると、言葉でこそ抵抗したが、体は抵抗しなかった。

足の指でブーンの足をつねり、反応を楽しんだ。
それ以上は何もしなかった。
お茶を入れ、勉強を教え、無防備に眠るブーンの頭を撫でた。

再び季節が変わり、春が目前に迫ってきた。
いよいよ来年度は受験生という事もあり、ブーンは勉強をする時間が増えた。
明らかに同級生よりも多くの時間を勉強に裂き、進学に向けて努力をしている。

ニュースが深刻な世界情勢を伝える中、チハルも進路を深刻に考えつつあった。
目の前に広げた進路用の資料を睨みながら、自分の将来を考える。
今のままでは進学をしても意味がなくなるかもしれないと危惧をしつつ、就職をするには職種も理由も不確かだ。

そんな中、チハルの脳裏に浮かぶのは同世代で増えつつある、ある進路先だった。
ある意味で進学であり、就職でもあるその進路を選ぶのは殆どが男子生徒だ。
女子生徒でその進路を選ぶことはまずない。

だが選ぶだけの理由はあった。
あくまでも進路の選択先の一つとして考えに入れ、進学したい大学も三校選んだ。

53 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:15:19.043 ID:S8p/I/Dc0
从´ヮ`从ト「おかーさん、あのね……」

その日、チハルは両親に進路の相談をした。
分かっていた事だが、大学とは別の進路先は却下された。
冗談ではない、と。

両親の同意が得られなければ進路を選ぶことは出来ない。
未成年であることが歯がゆく思ったが、チハルは潔く諦め、本来の夢である教師となるために必要な勉強をする道を選ぶことにした。
冬休みが終わり、チハルは再びショボンと職員室で話をする機会に恵まれた。

以前と同じようにチハルはデレーナの席に座り、ショボンを向き合う。

(´・ω・`)「春日、今日呼んだ理由は分かるか?」

クッキーを食べ、ショボンはそれをホットミルクで飲み下した。
勧められ、チハルは遠慮なく三枚まとめて食べた。
ショボンが信じられない物を見るような目でチハルを見たが、咳払いをしてすぐにそれをなかったことにした。

从´ヮ`从ト「いや、分からないです」

(´・ω・`)「そうか。
      実はな、特に何もないんだ。
      ……ってのは冗談だから、これ以上俺のクッキーを食べないでくれ、頼む」

从´ヮ`从ト「それで、本当のところは何なんですか?」

(´・ω・`)「お前、教師になりたいんだって?」

从´ヮ`从ト「あ、はい」

(´・ω・`)「そうか。 実はな、俺のクラスで教師になりたいって言ってるのはお前だけなんだよ。
     ここは腹を割って、互いに正直に話をしよう。
     なぁ、何で〝今〟教師を目指すんだ?」

ショボンは口にこそ出さなかったが、チハルに対して覚悟のほどを聞いていた。
この時勢、教育者よりも医療従事者や鉄鋼業の方がまだ将来性がある。

55 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:17:22.061 ID:S8p/I/Dc0
(´・ω・`)「もしも人にものを教えるのが好きだとか、子供が好きってだけの理由なら止めといた方がいい。
     そういう奴に教師は向かない。
     物を教えても理解できない生徒はいなくならないし、大人を好きになれない子供もいる。

     で、結局ヒステリーを起こすか心を病んじまうんだ」

ショボンの目は真剣そのものだ。
自身の経験も含めた上で、チハルに覚悟を訊いている。

从´ヮ`从ト「いえ、そういうんじゃありません。
       学校が好きなんです」

(´・ω・`)「……それだけ?」

从´ヮ`从ト「それだけです」

(´^ω^`)「いやほら、もっと何かないのか?
     ショボン先生に憧れて、とか。
     ショボン先生のおかげです、とか」

从´ヮ`从ト「そういうのはないですね」

(´・ω・`)「そっか……
     最近のニュースは見てるか?
     教師は辛い時代だぞ」

从´ヮ`从ト「一応人並みには見てますよ。
      それも含めて、あたしは教師になりたいんです。
      ほら、未来を担うのは子供じゃないですか。

      まともな子供が増えれば今よりもいい世の中になるといいなーってのも、理由の一つだと思います。
      実はもう一つ進路を考えていたんですが、両親に反対されたのでそれは止めました」

(´・ω・`)「もう一つのっていうと、この前のアンケートにあったあれか。
     俺も反対したいところだが、選ぶのはお前だからな。
     ただこれだけは覚えておけ、あの進路に未来はない。

     ……実はな、俺も前にあの仕事をしてたんだ」

从;´ヮ`从ト「えぇ?! 先生が?!
      嘘だっ!!」

59 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:18:56.725 ID:S8p/I/Dc0
温厚と冗談の化身のようなショボンの過去の告白を聞き、チハルは職員室と言う場所を弁えずに大声を出してしまった。
周囲の視線がチハルに向けられるが、進路指導中という面目のためか誰も注意をしなかった。

(´・ω・`)「本当だよ。 だからこそ、俺はお勧めしない。
     宣伝で使われてるような綺麗なことはないし、映画とも違う。
     実際はもっと酷い話しかない」

手元にあった付箋に、ショボンは手短な文章を書いてチハルに見せた。
チハルが頷いたのを確認してからそれを破り、丸めてゴミ箱に捨てた。

(´・ω・`)「俺はお前が教師になって、この世の中を良い方向に変えてくれることを期待しているよ。
     ま、協力はいくらでもしてやる。
     頑張れよ」

こうして進路先を決めたチハルは帰宅後、来年度の動きについて考えた。
志望する四年生の大学は倍率が高いが、指定校推薦と言う切り札を手に入れられれば入学は一般入試よりも楽になる。
何かしらの資格を取るべきだと考え、手始めにTOEICと呼ばれる試験を受けることにした。

カレンダーの月が替わり、時勢も変わり、時計の針も進む。
命が終わり、新たな命が産まれる。
三月に最上級生が卒業し、今度はチハルたちが最上級生となる順番が来た。

修了式が終わり、二年生最後のホームルーム。
チハルのクラスメイト達は最後の一年を前に、雑談をして盛り上がっていた。
成績表が配られ、評価に1がないことを確認したミセリが雄叫びを上げる。

    ガタン
ミセ*゚д゚)リ「っしゃああ!! 進級できるぞ!!」

('、`*川「あれだけの事をしたのによくできるね」

ミセ*>ー゚)リ「やっぱ、学校のアイドルが留年ってのは格好つかないからじゃない?」

o川*゚-゚)o「は? は?
       お前がアイドル? プッチンプリンブレインのお前が?
       脳味噌煮沸消毒したほうがいいんじゃね?

       地下アイドル風情が一流のアイドルを前によくそんな事言えるなおい」

ミセ#゚-゚)リ「手前おい、調子こいてんじゃねぇよ!
      やるかおい? おいやるか!
      ナマモノ好きのクレイジーアイドルが!!」

o川*゚-゚)o「おもしれえ、お前の顔が塩大福みたいになるのを一回見てみたかったんだよ!!」

('、`*川「はいはい、二人ともそんなことしたらめーでしょ」

いつもの光景も、これで最後。
クラスが変われば、二人の喧嘩とそれをなだめる委員長の姿を見ることもなくなる。

61 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:22:46.920 ID:S8p/I/Dc0
(;,,゚Д゚)「やべぇ…… やべぇ……
    成績表にアヒルちゃんが…… あぁ…… アヒルちゃんが行進してるんだぁあああ!!」

(-@∀@)「はははっ!! あははははっ!!
      成績表に2なんてあるんですね!! あはははっ!!
      てっきり5か4だけかと思いましたよ!!」

(,,゚Д゚)「べ、別にいいし!! 俺進学じゃねーし!!
    体力だよ、体力がありゃあどうにかなるんだ!!」

チハルはクラスメイト達のやり取りを、どこか遠い目で見守る。
こうしてクラスメイト達が再び同じクラスで顔を合わせることは、もうない。
三学年になればクラスが変わり、新たな同級生と交友を深め、そして卒業していく。

(゚、゚トソン「ヒートさん、何で今ご飯食べてるんですか……
     それもシカゴピザ……」

ノパ⊿゚)「腹減ったからな!!
    シカゴピザ好きなんだ!!」

(゚、゚トソン「いや、ですが今、ホームルーム中ですよ」

ノパ⊿゚)っ▽「食い切れば平気だって!!
        ツムムンも食べるか? いいぞ、ほれ」

(゚、゚トソン「いやあの、食べかけを出されても」

ノパ⊿゚)「そっか。 あたしは気にしないんどなー」

(,,゚Д゚)「じ、じゃあ俺がもらうよ!!」

(-@∀@)「ギコくん、考えが浅はかすぎますよ。
      ヒートさん、この愚か者にピザを与えてはなりません。
      私がそれを買い取りましょう、1000円で」

( ・∀・)「お前も下心全開じゃねーかよ。
      俺は2000」

( ´_ゝ`)「2500」

从'ー'从「5000でどお~?」

¥・∀・¥「はははっ!! 皆貧しいんだな!!
      ひれ伏せ貧民、仰げよ平民!! 僕は10000だ!!
      飲み途中のコーラには7000出そう!!」

('、`*川「……ねぇ、なんで渡辺さんまでナチュラルに参加してるの?」

64 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:25:27.018 ID:S8p/I/Dc0
ノパ⊿゚)「えー、やだよー。
    じゃあ喧嘩になりそうだからハルハルが食べるかー?」

从´ヮ`从ト「じゃあ一口だけ……
       う、うめぇ!! チーズとトマトが…… うめぇ!!」

(;-@∀@)「い、15000出す!! それを保護させてくれ!!」

(;´_ゝ`)「お、俺は20000だ!!
     妹がピザ好きなんだ!!」

¥・∀・¥「ふはははは!!
      哀れな貧民の発想はやはり貧しいな!!
      50000だ!! さぁ雑魚供は散れぃ!!」

('、`*川「もーみんなー、駄目だよー。
     後にしなよー。
     お金は私が預かっておくからー」

ミセ#゚-゚)リ「ちょっと男子!! 委員長困ってるじゃん!!」

(゚、゚;トソン「いや、さりげなく胴元になってるよ……」

o川*゚ー゚)o「も~、私のミンティア分けてあげるから皆争わないでよ~。
       クラスの清涼剤たる私がいないと男子は駄目だなぁ~」

¥・∀・¥「はははっ!! 貧しい胸の女の割に冗談が上手いではないか!!
      気に入った!!」

o川*゚ー゚)o「ちょっとー、ミセリの事馬鹿するのはやめなよー」

ミセ#゚-゚)リ「おいこら鉄板野郎、お前の胸は防弾ベストかこら」

(´・ω・`)「……仲がいいのは結構だが、俺の目の前で争いは止めてくれよ。
     じゃあ次、春日ー。
     成績表取りに来てくれー」

66 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:28:58.757 ID:S8p/I/Dc0
最後という事もあり、ショボンもクラスの騒ぎを笑顔で見ていた。
名前を呼ばれたチハルはショボンから成績表を受け取り、コメントをその場で読んだ。
実にショボンらしい別れの言葉がそこにはあった。

席に戻ったチハルの成績表を、後ろからヒートが覗き込む。

ノパ⊿゚)「コメントどうだったー?」

从´ヮ`从ト「ぼちぼちってところ」

ノパ⊿゚)「ほーん」

それから全員の成績表が配り終わり、クラスにも落ち着きが戻ってきた。
ショボンが全員の目を見て、最後のホームルームを始める。

(´・ω・`)「よーし、ようやく静かになったな。
     成績表を見てショックだった奴。
     俺は成績で怒りはしないが、一つ覚えておけ。

     低くてもいい。 その数字に意味を持たせてやれ。
     それが、自分が努力をしなかった成果なのか、それとも努力の結果なのかは知らん。
     意味を持たせれば、意味のない5よりもよっぽど上等な数字になる。

     駄目な数字、意味のない成績と言う奴にはなるな。
     次に活かすための数字として意味を持たせろ。
     さて、次の登校日は四月三日、持ち物は鞄ぐらいだ。

     午前中授業だから弁当はいらないぞ。
     連絡事項はこんなもんだ」

ショボンが深く溜息を吐く。

(´・ω・`)「分かってるだろうが、三学年になったらこのクラスではなくなる。
     そして担任が俺の奴もいるし、そうじゃない奴も出てくる。
     俺の身勝手な願いだが、もう一度お前たち全員の担任をやりたい。 でもそれは無理なんだ。

     この一年、よく俺のクラスでいてくれた。
     手間がかかったが、良いクラスだったよ。
     次は最上級生だからな、そろそろ落ち着きをもって頑張ってくれよ」

いつものショボンらしくない言葉だったが、誰も囃し立てたりはしなかった。

(´・ω・`)「お前らは、俺の誇りだ」

68 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:33:54.978 ID:S8p/I/Dc0
――四月三日。
チハルは通い慣れた通学路を歩いていた。
世界がどうであれ、ブーンを想う彼女の心は変わらずにいた。

周囲が何をどう言おうと、チハルは穏やかな気持ちで空を見上げていられる。
春の空は夏のような鮮やかさも冬のような繊細さもない。
ただ、平穏そのものと言える温かさがそこにあるだけだ。

薄い雲も。
柔らかい日差しも。
撫でるような温かな風も。

春の空は今日も静かに世界を見守っている。
肺いっぱいに春の空気を取り込む。
花の甘い香りがした。

いい日だ。
生命の息吹を感じられるいい日だと、チハルは心から思う。
気が付けば独り言ちていた。

从´ヮ`从ト「今日もいい天気だなー」

ノパ⊿゚)「ハルハルー! おはよー!」

後ろからものすごい勢いでヒートが駆けてくる。
チハルの横で止まっても息は一切上がっていなかった。

从´ヮ`从ト「おはよー」

ノパ⊿゚)「いい日だな! 絶好の学校日和だ!」

从´ヮ`从ト「そうだねー。 お花見とかしたいねー」

ノパ⊿゚)「おっ! いいねそれ!
    午前中授業だし、帰りに公園に行って花見しようぜ!」

从´ヮ`从ト「そいつぁナイスだね! 銀チョコでも買っていこうよ」

チハルの上着の中で携帯電話がメールを受信したことを告げるが、チハルはそれを無視した。
今はこの時間を大切にしたい。
ブーンとの時間を大切にするように、ヒートや同級生たちと過ごす学校生活を大切にしたいと思ったのだ。

从´ヮ`从ト「弟分も呼んでいいかな?
       確か、中学校も今日は午前中でおしまいだって言ってたんだ」

ノパ⊿゚)「おいおいおいおいおいおい!!
    そいつぁ最高じゃないか!!
    やったぜ、あの少年とまた会えるのか!!

    なぁ、サッカーとか好きかな?」

从´ヮ`从ト「三人でどうサッカーするのさ」

他愛のない会話をしながら、再びチハルは空を見上げる。
ブーンとの関係を進めるのは少しずつでも構わない。
焦って進めなくていい。

見上げた空は、今のチハルのそれと同じように穏やかな色をしていたのであった。

从´ヮ`从ト「……ほーんと、いい天気」

69 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:35:52.527 ID:S8p/I/Dc0
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――二人はまだ、気付かない。


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73 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:38:54.235 ID:S8p/I/Dc0
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二人の携帯電話に届いているメールが、これまでに類を見ない程の緊急速報であることに。
あらゆるテレビ、ラジオでは半ばパニックに陥った司会者によって同じ報道がされていたが、二人は当然気付かない。
これまで何度もその兆候はあり、後は起こるのを待つばかりだった。



レストランでさえ緊迫した世界情勢のニュースをラジオで流し、平和がいつ終わってもおかしくないという危機感が国中に広まっていた。
チハルたちの住む国では将来を悲観し、教育などと言うものではなく、もっと別の事に視点を向けなければと考える人々が増加した。
戦争が始まれば進学など意味がなくなる。



進学の意味がなくなれば、教師など不要になる。
今の時代に教師を目指すのは、沈没することが分かっている船に乗り込むような物だった。
現に、進学校と呼ばれる多くの学校がテロの標的となって地図の上から消えていた。


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77 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:41:23.556 ID:S8p/I/Dc0
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国内で起きたテロの数が増えることにより病院は人手不足となり、兵器の製造に伴って鉄鋼業が栄えた。
最も利益を得たのは武器製造会社だった。
有名な武器会社の新卒倍率は700倍にもなった。



娯楽映画や化粧品のコマーシャルが減り、大々的に軍人を募集する広告や戦争賛美の映画が増えた。
未来を、国を、家族を守ろうというフレーズは多くの純粋な若者の心を掴んだ。
学生の間では進路先として軍人という選択肢が増え、実際に兵士としての訓練に参加する若者が増えた。



チハルの同級生にも卒業後は軍隊に入り、銃を握る生徒が大勢いる。
元軍人であるショボンはこの時勢を嘆き、何もできない自分に憤っていた。
生徒だけでなく、その保護者が軍人になることに賛成だったため、いくらショボンが止めても意味がなかったからだ。



生徒が軍人になることに否定的な発言をした教師は、すぐに愛国的な保護者のクレームの標的となった。
国を守ろうと考える生徒の将来を否定する教師など、教師として失格である、と。
生徒の将来を想う気持ちが強い教師ほど、その攻撃を受けて精神を病み、学校を退いた。


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82 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:44:18.508 ID:S8p/I/Dc0
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反論が無意味であると理解したショボンは、保護者と生徒が決めた通り、多くの卒業生を軍人にしてしまった。
自分が歩んだ人殺しの経験を生徒にさせてしまう事に、ショボンは己の無力さを嘆いた。
それでも、彼は将来を悲観することをしなかった。



未来を担う子供を育てるのが彼の仕事であり、その彼が将来を悲観してしまえば生徒達にそれが伝染してしまう。
軍人時代のキャラクターを捨て、あえて剽軽な性格の人間として生徒と接してきた。
せめて未来を明るく考えられるように、と。



終末時計の針が進み、もう間もなく薄氷上の平和は終わり、世界が戦火へと巻き込まれることも知れ渡っていた。
それがいつなのか。
人々は恐れ、未来を悲観していた。



だが、チハルはそれを全て知った上で、ブーンの事を想い続けた。
世界のことなど彼女には関係ない。
彼女の世界とはブーンと共に生きる今なのだ。



チハルにあるのはブーンの事だけなのだから。
姉として見守り続けてきたチハルは、世界平和よりもブーンの方が大切だった。
それはまるで、誰かの不幸を気にすることもなく人々の頭上にある春の空のように。


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86 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:47:53.477 ID:S8p/I/Dc0
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世界がどうなろうが、チハルはブーンが幸せであればと願う。
彼の幸せのために一時期は軍人になろうという道も選びかけたが、両親と担任がそれを防いでくれた。
ブーンの傍にいないでどうやってブーンを守れようか。



銃弾に身を晒して得られるのは政治家の安寧だけなのだと、ショボンがメモでチハルに伝えてくれたことが決め手となった。
毎日毎時間毎秒を大切に過ごし、世界の終焉がいつ来ようとも後悔のないよう、チハルはブーンと共にあることを決めた。
緊急速報のメールを見ても、チハルは周囲ほど悲観をしなかった。



分かり切っていたからだ。
世界の平和がいつかは終わるという事を。
それがたまたま四月三日だったというだけだ。



四月三日、世界を巻き込んだ大きな戦争が起こった。
後に第三次世界大戦と呼ばれ、人類史でも最悪の被害を生んだ戦争へと発展した。
戦火は瞬く間に世界中に広がり、人々を戦場へと駆り立てた。



化学兵器が空から降り注ぎ、壊滅状態になる街があった。
核兵器によって生まれた第二の太陽を見上げ、影となった人々の町があった。
爆撃によって瓦礫の山となった学校があった。


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89 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:50:32.973 ID:S8p/I/Dc0
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祖国を守るために戦おうと決意した多くの学生がいた。
未来を手に入れるために戦い、死んだ多くの若い兵士がいた。
子供を殺させないために戦い、誰かの子供を殺す親がいた。



長年の想いが成就した男女が焼夷弾で焼け死んだ。
結婚して本当の家族になったばかりの男女が墜落した無人攻撃機に潰され、死んだ。
新たな家族を祝福する夫婦の頭上を爆弾が襲い、爆発四散した。



妹弟を銃弾から庇い、死んだ姉兄がいた。
我が子を炎から守り、焼け死んだ親がいた。
教え子を戦地から遠ざけ、卑怯者として暴徒に殺された教師がいた。



それでも春の空はいつもと変わらず、穏やかな空のままであった。



            True END

93 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:52:28.144 ID:S8p/I/Dc0
支援ありがとうございました
この終わり方につながる答えは、チハルとブーンの関係と同様に全て共通ルートの中に書かれています
それを見つけていただけるとより一層楽しんでいただけるかと思います

何か質問がありましたら、答えられる範囲でお答えさせていただきます

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