mesimarja
気に入ったスレを集めてみました。
01 | 2017/03 | 10
S M T W T F S
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -

スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ζ(-、-*ζは眠るようです
1 名前: ◆/Rjv8uUtNNW1 :2016/03/27(日) 21:34:40.501 ID:sLW7pJSn0
カツン、カツン、と足音が響く。
真っ白な部屋には窓一つなく、硬質な床と壁があるばかり。
そこを歩くのは一人の女の子だ。

小さな彼女の足にはピンヒール。
慣れていないのか、ふらつきながら歩いている。

しばしの間、歩き続けていると白ではない色が見えてくる。
愛らしいピンク色をした扉。

女の子は立ち止まる。
扉に触れていいのかどうか迷っているのだ。

この場所は不変で退屈だ。
代わりに、恐怖もない。逃げなければならないようなモノもいない。

対して扉の向こうはどうだろうか。
何があるのかわからない。
暑いのか寒いのか。
生き物がいるのか否か。

そもそも、扉の向こうが外である保障もない。
変わらぬ白が続くだけだとすれば、それもまた怖い。
永久に留まり続ける停滞は、ゆるやかな死だ。

ならば、外に続くかもしれない、という希望を抱き続けたいような気さえした。


4 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:37:25.741 ID:sLW7pJSn0
結局、彼女は扉に触れることにしたらしい。
おずおずと手を伸ばし、ピンク色を外へ押し出す。
重苦しい音をたてながら、扉が開いた。

途端、舞い込んでくるのは爽やかな風だった。
甘い香りを運んでくる風はほの温かく、
女の子の身体を優しく撫でながら部屋の中へ入り込んでいく。

彼女は静けさを湛えていた顔に笑みを浮かべる。
そして、ピンヒールを脱ぎ捨てて外へ駆け出した。

外の世界はとても美しいものだった。
まるで彼女を歓迎するかのように暖かく、色とりどりに溢れている。

黄色に染まった空に、赤やピンクの花々。
橙色の川にクリーム色の木々。
空高く輝く太陽はワインレッド。
歓迎の歌を唄う小鳥達は桜のような淡い色あいを持ち、彼らが紡ぐ音符は蜜柑の色。

暖かな世界を女の子は駆け抜ける。
足取り軽く、跳ねては歌い、歌っては踊る。

「おはよう! 世界!」

今ならばわかる。
あの白い世界は眠っている世界なのだと。
暖かな色合いこそが、目覚めた本当の世界なのだ。

5 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:37:51.384 ID:sLW7pJSn0
女の子は橙色の川から水を汲み、喉を潤す。
口いっぱいに広がる甘い味に思わず顔が綻んだ。

赤とピンクの花を摘み、冠と指輪を作る。
一つは自分の頭と指に。
他にもたくさん作った指輪は可愛らしい小鳥達の頭へ。

「これでバッチリ!」

彼女が笑えば小鳥達も笑う。
ワインレッドの太陽は微動だにせず、この世界を照らし続けている。
これ以上ない、完璧な世界だ。

今ならば何処へでも行けるような気がした。
もっと他の、小鳥だけでないモノに会ってみたくてしかたがない。
外への恐れはもうない。
遠くの世界を夢見るのだ。

淡いグリーンのフクロウや、薄紅の鹿とお話をして、
真っ白な魚と臙脂色の亀と橙色の海を泳ぐ。
期待に胸を膨らませ、彼女は足を踏み出した。

だが、彼女の後ろには、開け放たれたままの扉がある。
何処まで進んでも、どこで立ち止まっても、それはいつだって彼女の後ろにある。
白く冷たい部屋が、ずっと彼女の帰りを待っているのだ。

6 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:38:34.263 ID:sLW7pJSn0
 
ζ(゚-^*ζ「んっ……」

デレは目を開ける。
とても楽しい夢を見ていたような気がするが、
目覚めてしまった今、その詳細は一秒ごとに遠くなり、
ベッドから起き上がる頃にはすっかり頭から消えてしまっていた。

ζ(゚ー゚*ζ「あー、よく寝た」

布団を押しのけ、背伸びをする。
カーテンを開けると輝く太陽が見えた。

太陽は暖かな日差しをさんさんと室内にそそいでくれる。
室温はいつだって快適に保たれているが、
自然光による暖かさは人工の暖かさと一味も二味も違う。

目覚めたばかりのデレをまどろみに落とし込むことができるのは、
人の手が一切加わっていない太陽の光だからこそのものだ。

○O。ζ(-、-*ζ「……」

ξ゚⊿゚)ξ「デレ? 起きてるの?」

Σζ(゚ー゚;ζ「ふへ!」

部屋の外から聞こえてきた母の声に、デレは妙な声を出してしまう。
眠ってしまう直前というのは実に無防備なものだ。

7 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:39:11.610 ID:sLW7pJSn0
 
ζ(゚д゚;ζ「お、起きてるよ! おはよう、お母さん」

ξ゚⊿゚)ξ「おはよう。朝御飯できてるからね」

安心したような声色でツンは朝食の出来上がりを告げる。
デレは垂れかかっていた涎を軽く拭った。

ζ(゚ー゚*ζ「はーい」

良い返事をし、デレはパジャマのまま部屋を出る。
朝食ができているとはいえ、まだ顔を洗っていないし歯も磨いていない。

とてとてと廊下を歩き、洗面所へ。
父と母、そして娘であるデレの分、三本の真新しい歯ブラシが並んでいる。

ζ(´ワ`*ζ「えへへ……」

綺麗に並んだそれが、彼女はとても嬉しく、思わず顔が緩む。
鏡に映ったデレの顔は全くもって締まりがなく、
気づいた彼女自身が顔を赤らめてしまうほどだった。

ζ(゚ー゚*ζ「危ない、危ない」

喜びにかまけて朝の貴重な時間を浪費している暇はない。
何と言っても、今日は特別な日なのだ。

8 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:39:44.563 ID:sLW7pJSn0
 
リビングの手前で深呼吸を一つ。
気合を入れて、勢いよく扉を開く。

ζ(゚ー゚*ζ「おはよ! おとーさん!」

( ^ω^)「おはよう。髪が跳ねてるけど、どうしたんだお?」

ζ(゚д゚;ζ「まだ髪を整えてないだけ!」

ξ゚⊿゚)ξ「ちゃんと学校に間に合うの?」

ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫大丈夫」

立体映像機の傍らに置かれているアンティーク物の時計が指し示す時刻は午前六時。
家を出るのは七時過ぎの予定なので充分間に合うだろう。

ζ(´ワ`*ζ「……」

ξ゚ー゚)ξ「どうしたの? だらしない顔して」

ζ(゚ワ゚*ζ「だって嬉しいんだもん」

父であるブーンの向かい側に腰を下ろし、デレは笑う。
ことり、とツンが朝食をテーブルに並べていく。
今朝のご飯は米と出汁巻き卵と焼き魚だ。

ζ(´ー`*ζ「こうして、朝から家族で一緒にいられるなんてさ」

9 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:40:33.965 ID:sLW7pJSn0
 
ζ(゚ー゚*ζ「今まで、お父さんと会えるのは夕方だけだったし」

(;^ω^)「すまんお。どうしても仕事が……」

ζ(゚ワ゚*ζ「いいの! 気にしてない!
       これからはずっと一緒だし!」

デレが首を横に振ると、あちらこちらに跳ねた髪も一緒になって揺れる。

ξ゚ー゚)ξ「お父さん、ずーっと気にしてたもんねぇ」

朝食を並べ終えたツンはブーンの隣に腰を下ろす。
これで家族が全員集合した形となる。

ξ゚ー゚)ξ「今日だって、ちゃんとデレの朝を迎え入れられるだろうか、
      ってそわそわしちゃって」

( //ω/)「母さん!」

ζ(゚ー゚*ζ「そうなの? 気にしなくてもいいのに」

母による秘密開示に、ブーンは顔を赤くして言葉をやめさせようとする。
しかし、軽く袖を引っ張る程度の抵抗は無に等しいもので、
彼女の口が止まることはなかった。

ξ゚ー゚)ξ「いつもはね、タブレットでニュースを見ながら朝御飯食べてるのよ」

10 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:41:15.580 ID:sLW7pJSn0
  
現在、父の傍らにタブレットはない。
娘との食事をいかに楽しみに思っていたのかがよくわかる。
親子の語らいに、文明の機器は必要ないのだ。

( //ω/)「べ、別に、デレと話すために読まなかったわけじゃ……」

ζ(゚ー゚*ζ「もー! そういうとこ、母さんにそっくりなんだから」

デレは微笑みながら言葉を返す。
わかりやすい顔をしながら、天邪鬼なことを言うのは両親の特長だ。
長いとはいえない時間の中でも、デレは彼らのことをよく理解していた。

ζ(゚ー゚*ζ「ほら、早くご飯食べよ!
       せっかく三人揃っての朝御飯なのに冷めちゃう」

ξ゚ー゚)ξ「そうね。あなたも学校の用意をしないといけないし」

ζ(゚ー゚*ζ「うん!」

いただきます、の言葉と共に箸を伸ばす。
少し冷めた出汁巻き卵は、よく味がしみこんでいて寝起きの舌にじんわりと溶けていく。
美味しい、とデレは素直な気持ちを口にする。

両親を反面教師にしたのか、それ以外の要因が大きかったのか、
デレは自分の意思に反したことを口にしない、とても素直な子に育った。
可愛い我が子の成長に、ブーンとツンは優しい眼差しを向ける。

11 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:42:04.094 ID:sLW7pJSn0
  
ξ゚⊿゚)ξ「……今日から、中学生ね」

ζ(゚ー゚*ζ「そう! 同じ年の子と一緒に授業を受けるの」

頬に米粒をつけたままデレが言う。

ζ(゚ー゚*ζ「今から楽しみ!
       ご飯を食べたらすぐに制服に着替えるから、お父さんも見てね」

( ^ω^)「VIPの制服は可愛いことで有名だから楽しみだお」

今日から彼女が通うのは、公立のVIP中学校。
学力も校風も平均的な学校だが、
セーラー服がとても可愛らしいと周辺地域では有名な学校なのだ。

上は白をメインとし、赤いスカーフをアクセントに、
下は紺色のスカートなのだが、よくよく見てみれば薄っすらと濃紺のチェックが入っているのが特徴だ。

ζ(゚、゚*ζ「アタシは可愛くないのー?」

(;^ω^)「勿論、可愛いデレが着るからこそだお!」

唇を尖らせたデレに、ブーンは慌ててフォローを入れた。
わたわたと述べられてしまうと嘘っぽく聞こえてしまうが、
彼が本心から言っていることをデレは知っている。

父が自らを愛してくれていなのではないか、と悩む時期はとうに過ぎ去った日々だ。
今となっては彼の気持ちを疑うことすらしない。
拗ねてみせたのは、ちょっとした意地悪だ。
コミュニケーションの一種だと思ってもらうしかない。

12 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:42:43.463 ID:sLW7pJSn0
  
( ^ω^)「……そ、それにしても」

デレが焼き魚、最後の一切れに手を伸ばしたとき、
おずおずとブーンが切り出した。

( ^ω^)「その、よ、よく、眠れた、かお?」

多少どもりながらも、ブーンは何とか言葉を言い切る。
見れば、ツンもどことなく不安げな顔をしていた。

ζ(゚ー゚*ζ「ん? うん、ぐっすりだったよ」

寝起きにうつらうつらとしてしまったものの、良い睡眠を取れたとは思う。
今は眠気もなく、一日をハツラツと過ごせそうだ。

( ^ω^)「そ、そうか」

彼は出汁巻き卵を口に含み、咀嚼する。
デレも口に焼き魚を運んで口を動かす。
二人がそれらをを飲み込んだ頃、再びブーンが口を開いた。

( ^ω^)「……今日も、眠れそうかお?」

その言葉に、デレは少しだけ眉を下げる。
できるだけ両親に心配はかけたくないし、彼らのお願いを聞いてやりたいと思っているのだが、
彼女にだって出来ることと出来ないことがある。

14 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:43:29.036 ID:sLW7pJSn0
  
ζ(´-`*ζ「……うん。ぐっすりだよ」

( ^ω^)「……なら、いいお」

ブーンとて、デレを責めたいわけではないだろう。
彼女の胸に、一抹の不安をねじ込みたいわけでもない。
ただ、彼は夕方にしか会ってこなかったため、どうにも慣れていないだけだ。

ξ゚⊿゚)ξ「ほら、デレ。
      食べ終わったなら着替えてきなさい。
      髪も綺麗にしないと」

ζ(゚ー゚*ζ「うん」

ごちそうさま、と言葉を残し、彼女は席を立つ。
とことこ、と足音をたてながら再び洗面所へ向かっていく。
食後の口内洗浄と髪の毛の手入れに向かったのだ。

ξ゚⊿゚)ξ「……お父さん」

( ´ω`)「ごめんお」

デレが立ち去ったリビングで、ツンがため息をつく。
ブーンの気持ちがわからないわけではないが、
せっかくの朝を台無しにするような発言は控えるべきだっただろう。

15 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:44:08.711 ID:sLW7pJSn0
  
ξ゚⊿゚)ξ「ようやく親子揃って暮らせるのよ。
      そういうことは言わない約束でしょ。
      あの子は特別繊細なんだから」

( ´ω`)「うぅ……」

ブーンは深くうな垂れる。
朝食はまだ半分ほど残っているが、これが食べられることはないのだろう。
捨てるのも勿体無いので、彼の弁当にでも無理やりいれてやろう、とツンは頭の片隅で考えていた。

( ´ω`)「でも、まだ信じられないんだお。
      お前は今までもデレと朝を一緒に過ごしてきてたから、
      ボクの気持ちがわからないんだお」

ξ゚⊿゚)ξ「そりゃ、受け入れるでしょう。
      毎日のことだしね」

彼としてはちょっとした確認のつもりだったのだろう。
その結果、娘を悲しい顔にさせてしまった反省はしなければならない。

ツンは背中を小さく丸めたブーンを軽く撫でてやる。
かつては自分もそうだったので、彼の気持ちがわからないわけではないのだ。
数日もすれば慣れるだろうけれど、それまでがとても長く感じてしかたがない。

ξ゚⊿゚)ξ「あの子だって好きであんな風に産まれたわけじゃないの」

一度、言葉を区切り、ツンは目を閉じる。
産んだ者として、ブーンとは違った形の責任が彼女にはあった。

ξ-⊿-)ξ「アタシも、望んであの子をあんな風にしてしまったわけじゃない」

16 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:44:52.377 ID:sLW7pJSn0
  
ξ゚⊿゚)ξ「偉いお医者さんや学者さんでも、どうにもできなかったんだから、
      後は私達が支えてあげるしかないでしょ」

( ^ω^)「……そうだおね」

十二年と少し。
まだそれだけの時間しか生きていない娘。
眠っている時間を考えれば、およそ八年程しか生きていない、ともいえる。

これから先、彼女の前に立ちはだかる困難を思えば、
親として出来ることはたかが知れているだろう。
ならば、せめて手を伸ばしてやれる範囲で助けてやらなければならない。

それが、親としての責任であり、そうしてやりたい、と願う嘘偽りない感情だ。

( ^ω^)「友達ができるといいおね」

ξ゚⊿゚)ξ「そうね。私達よりも、ずっとあの子の傍にいていられるような、
      そんな友達を作ってほしいわ」

彼らはデレの最期を看取ることができない。
先に産まれた者の宿命であり、
最愛の子供との間にできた、残酷なまでの寿命差でもある。

ξ-⊿-)ξ「眠る、ってどういう気持ちなんでしょうね」

ツンの静かな声がリビングに響いた。

17 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:45:06.207 ID:sLW7pJSn0
   




世界は眠らない。
二十四時間、三百六十五日、常に稼動し続けていることをそう称しているわけではない。
常に地球の何処かは朝であり、誰かが起きている、ということでもない。


人類から眠りが抜け落ちた、ということだ。




   

18 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:46:07.869 ID:sLW7pJSn0
人々は朝も夜も関係なく動き回る。
一日の区切りは時計と、午前零時と共に鳴り響く日付変更音で感じるのが常だ。

出来る社会人、などという言葉が入った電子書には
須らく今日の日付がわかる時計と手帳の所持が記載されている。
それらを持っていなかったがために、うっかり約束の日取りであることに気づけなかった、
という事例がいくつも存在しているのだ。

そんな人類が繁栄する中、生まれてきたのがデレだった。
地球上にただ一人、眠りが必要なヒト。

|゚ノ;^∀^)「せ、先生!」

産声を上げた後、デレは母の手に一度抱かれ、医者の手によって新生児室に運ばれた。
親と離された赤ん坊達はお腹を空かせて泣いていたり、
室内に流れている教育音に耳をすませていたりと様々だ。

一見するとデレもその仲間であり、何の問題もなく見えた。
彼女の異常性が露見したのは、生後数日経ってからのことだった。

O゚。(-、-* スー

ξ;゚⊿゚)ξ「うちの子、どうしたんですか?」

授乳のため、ツンの腕に抱かれていたデレは、
げっぷもして落ち着いたのか、スヤスヤと眠ってしまったのだ。

19 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:47:08.115 ID:sLW7pJSn0
目もしっかりと開き、
周りの子達は見えもしない目をキョロキョロと動かし始めているというのに、
何故だかデレは目を閉じてじっとしていることが多かった。

(;-@∀@)「こんな子は初めてです……。
       調べてはみますが、どうなるか」

ヾ(゚、゚* ウー?

ξ;゚⊿゚)ξ「こんなに元気なのに、どうして」

目を開けているとき、デレはとても可愛い赤ん坊だった。
ゆっくりと指を動かしてみたり、音のする方を見ようとしてみたり、
極普通の子供と同じようにしているように思えた。

(;-@∀@)「すみません。こちらも方々調べつくしたのですが」

ξ゚⊿゚)ξ「そうですか……」

(;-@∀@)「一応、命に別状はないので退院していただいても大丈夫ですけれど」

ξ゚⊿゚)ξ「……わかりました」

結局、原因がわかる者は見つからなかった。
この時点で、突然意識を失う赤ん坊のために、延びに延ばされた退院日は、
一ヶ月を越えており、そろそろ家が恋しくなっていたツンは自宅へ帰ることを選択した。

20 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:47:59.819 ID:sLW7pJSn0
  
( ^ω^)「おかえりだお!
      マーイスゥイートハニー! アーンド、ドォター!」

荷物を持って帰宅を果たしたツンを迎え入れたのは、
退院日の連絡を受け、すぐさま有給を申請した夫、ブーンだ。
ややこしいことになった、という連絡と大まかなことだけ教えられていた彼は、
お見舞いにも行っていなかったため、妻と実に一ヶ月ぶりの再会を果たすこととなってしまった。

ξ;゚⊿゚)ξ「あっ」

デレのことについて報告は受けていたものの、
直接様子を見てみないことには実感もわかない。
そのため、ブーンの頭からは「静かにする」という項目がすっかり抜け落ちてしまっていた。

(-、-* ウ……

ξ;゚⊿゚)ξ「馬鹿!」

(;^ω^)「えっ」

怪物が、目を覚ます。

(>д<。* ウゥ……

ブーンの声によって呼び起こされた赤ん坊は、
近所迷惑になってしまう程の大声で泣き叫んだ。

21 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:48:50.198 ID:sLW7pJSn0
  
どうにかデレをあやし、泣き止ませることに成功すると、
ブーンはマジマジと赤ん坊用ベッドに寝かされたデレを観察した。

( ^ω^)「本当に意識を失ってるおね」

ξ゚⊿゚)ξ「でしょ? お医者さんにも原因がわからなかったのよ。
      同じ新生児室にいた子に比べると泣く回数も多いし……」

O゚。(-、-* スー

小さく息を吐き出しながらも、目を閉じてかすかに身体を動かすだけの赤ん坊は
やはりどこか身体の調子が悪いに違いないのだが、
肝心の医者に原因がわからない、と言われてはどうしようもない。

ξ゚⊿゚)ξ「とりあえず、様子を見るしかないわね」

( ´ω`)「うーん、ずっとこのままだったらどうしようかお」

ξ゚⊿゚)ξ「その時考えましょ」

( ^ω^)「だおね」

そこからの育児は二人一組、力を合わせて立ち向かった。
しかし、現実というのは厳しいもので、
彼らの力を合わせたところで、そう容易く打ち破ることができるものではかった。

22 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:49:33.688 ID:sLW7pJSn0
  
ξ゚゚⊿゚゚)ξ「我が子ながらデレがわからない……」

大きな物音に驚いて泣くのはわかる。
空腹や排泄が原因の場合もわかる。

だが、意識を失い、取り戻した瞬間に泣き叫ぶのだけはわからない。
そもそも、目を開けるタイミングも上手く掴むことができなかった。
泣き喚いて泣き止まない、などということもしょっちゅうだった。

巷で噂の育児書もあてにはならず、
ツンの母や近隣のご老人達に話しを聞いてもらっても
良いアドバイスをもらうことはできなかった。

それもそのはず。
周囲の人間も、本を書くような人間も、
誰も眠る赤ん坊を知らないのだ。

(ヽ^ω^)「ツン、ずいぶんやつれたお」

ξ゚゚⊿゚゚)ξ「あなたこそ」

(ヽ^ω^)「元気なのはデレだけだおね」

ヾ(゚ワ゚* キャッキャ

笑いながら手を伸ばすデレは、既に生後二ヶ月を過ぎていた。

23 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:50:32.438 ID:sLW7pJSn0
  
デレの奇行に慣れたのは、流石母親、というべきかツンが先だった。
意味もなく泣き喚くデレを冷静にあやしては意識を落とす手腕は見事なもので、
傍らで見ていたブーンに感嘆の声を上げさせた。

ξ゚⊿゚)ξ「それにしても、この子ってまだあまり動かないわよね」

( ^ω^)「意識がない時間が多いから、筋肉が発達しにくいのかもしれないお」

一応、とダウンロードした育児書には、
生後二ヶ月もすると首がすわり、寝返りをうち始める、と記されていた。
対してデレはといえば、意識を失っているときは当然として、
目を開けている時でさえ鈍く動く程度。

首がすわるのにはまだ一ヶ月程かかりそうな予感さえする。

ξ゚⊿゚)ξ「ちゃんと大きくなるかしら……」

( ^ω^)「大丈夫だお。先月よりも大きくなってるお
      体重も順調に増えてるんだお?」

ブーンは先月撮った写真を見せる。
比べてみれば、わずかとはいえ成長しているのが見てとれた。

歩みが遅いなりにデレも徐々に大きくなっているのだ。
いつかはきっと普通の子供と同じようになる。
そんな期待をブーンは抱いていた。

24 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:51:01.102 ID:sLW7pJSn0
  
生後三ヶ月検診を受けてもやはりデレに異常は見られなかった。
身体の発育が少々遅れていたが、内蔵や脳におかしなところはなく、
感情面に関しては、むしろ他の赤ん坊よりも豊かなところが多々見受けられたほどだ。

ξ゚⊿゚)ξ「元気ならいいんだけどね」

ヾ(゚、゚*ヾ アー、ウゥー

ξ゚⊿゚)ξ「はいはい。母さんですよー」

小さな手をそっと握る。
暖かな体温は他の子と変わらない。
生きている証だ。

ξ゚ー゚)ξ「ん、可愛いね、デレ」

ヾ(゚ワ゚*ヾ キャッキャ

ξ゚ー゚)ξ「あんたはどうして意識がなくなっちゃうのかなぁ。
      母さんはずーっとデレが笑ってるところを見てたいんだけどなー」

赤ん坊に言ってもしかたのないことだとわかっていながらも、
彼女にして文句を言えないのだからしかたがない。
ツンはデレの鼻っ柱を突きながら言ってやる。

ξ゚ー゚)ξ「ま、元気に育ちなさいな」

25 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:51:44.251 ID:sLW7pJSn0
  
デレの異常が、睡眠である、と発覚したのは、
彼女が離乳食を食べ始めるようになった頃の話だ。

ξ゚⊿゚)ξ「あら、お客さん?」

チャイムの音が部屋に響き、ツンは姿見ボタンを押す。
すぐさま現れた立体映像には、一人の男が映されていた。

( ФωФ)

見覚えのない男だ。
年の頃は四十後半。もう老人と言っていい。
グレーのスーツをピシリと身にまとっており、姿勢も良い。

どこの誰かはわからないが、
育ちの良さだけはひと目見ればわかる、といった風貌だ。

ξ゚⊿゚)ξ「どなたですか?」

応答ボタンを押し、尋ねてみると、立体映像の中にいる男が口を開く。

( ФωФ)「創作町に住んでいる麻尾ロマネスクと申します。
       実は、娘さんについて確認したいことがあって訪ねさせていただきました。
       お時間をいただいても宜しいでしょうか」

丁寧な口調は好感をわかせる。
ツンは少し悩んだものの、すぐに扉の開閉ボタンを押した。

26 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:52:20.261 ID:sLW7pJSn0
  
( ФωФ)「始めまして。改めまして、麻尾ロマネスクです。
       そちらが娘さんですか?」

ξ゚⊿゚)ξ「そうよ。河合デレ。
      ほら、デレ、おじさんに挨拶は?」

(゚、゚* アー?

まだ言葉を解していないデレは、ツンの言葉に疑問符を乗せたような声を出す。
ツンは小さく笑いながら、彼女を抱きかかえた。
生後一ヶ月の頃と比べると段違いに重くなった我が子に、
異常こそあれども日々成長しているデレを愛おしく思い笑みが零れた。

ξ゚⊿゚)ξ「こちらへどうぞ。
      お茶くらいならお出しします」

( ФωФ)「いえいいえ、お構いなく」

そう言いつつも、ロマネスクは案内されるがままに椅子へ腰を降ろした。
ツンもお茶を淹れた後、彼の向かい側の椅子へ座る。

( ФωФ)「噂でお聞きしました。
       デレちゃんは意識を失うのだと」

ξ゚⊿゚)ξ「えぇ。病院で診てもらったんですけど原因不明で」

27 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:52:46.068 ID:sLW7pJSn0
  
( ФωФ)「なるほど……。
       ちなみに、日に何度ほど」

ξ゚⊿゚)ξ「最近は少なくなってきましたけど、
      それでも日に三度ほど。
      もっと小さかったときは何度も何度も……」

ロマネスクは持論を確かなものにするため、
いくつかツンに質問を繰り返した。

デレが意識を失うタイミング。
どの程度の時間、意識を落としたままでいるのか。
そして、目を開けてからの反応。

知りたかったことを全て聞き終えると、
彼は目を閉じ、頭の中を整理する。

( +ω+)「奥さん」

ξ゚⊿゚)ξ「はい」

( ФωФ)「おそらく、娘さんは眠っているのです」

発せられた単語の意味を、ツンは正確に理解できなかった。
元より聞きなれない単語だ。
すぐさま意味を理解するのは難しい。

28 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:54:21.223 ID:sLW7pJSn0
  
ξ゚⊿゚)ξ「えっ?」

( ФωФ)「これを持って病院へ行きなさい。
       そして、然るべき施設へその子を預けるのです」

ロマネスクは懐から一枚の封筒を取り出す。
中には、デレが眠っていることを示す手紙が入っているのだろう。

ξ;゚⊿゚)ξ「ま、待ってください」

突然やってきた男にそう告げられ、二つ返事で頷くような親はいない。
ツンは席を立ち、詳しい説明を要求した。

( ФωФ)「我輩は歴史人類学を修めておりましてな」

曰く、彼は昔の人間がどのような生活を送っていたのか、という研究をしているらしい。
その中で、睡眠というものはあまり重要視していないのだが、
過去を調べる上でその単語に触れない、ということはありえないらしい。

デレの噂を聞き、似たようなものを知っているな、というデジャヴュに襲われ、
学者仲間に話してみると、それは睡眠なのではないか? という結論が出たそうだ。

( ФωФ)「しかし、我輩は詳しくはしりませんし、
       何より、その子に必要なのは文化的な意味合いの睡眠を知ることではなく、
       医学的な意味合いの睡眠を知ることでしょう」

29 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:54:57.889 ID:sLW7pJSn0
  
睡眠によって、身体にどのような影響が出るのか。
それを知るのは歴史学ではなく、医学なのだ。

むろん、医学を修めている者達は現代に必要な知識を主に叩き込んでいるため、
遠い昔にあった睡眠のことなど深く知っているはずがない。
専門的に睡眠を調べている学者との協力も必要になってくるだろう。

二つの分野が協力し、情報を提供しあわなければ、
眠る子供への対処は非常に難しいものとなってしまう。

( ФωФ)「我輩としてはすぐにでも行動することを勧めます」

何の知識もない現代人に扱えるモノではない。
健やかな育成のためにも、デレはここにいるべきではないのだ。

ξ゚⊿゚)ξ「でも、施設なんて」

( ФωФ)「奥さん、この家にベッドはありますかな?
       赤ん坊用ではありません」

ξ//⊿/)ξ「な、何を突然!」

ツンは顔を真っ赤にして声を荒げた。

30 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:55:29.273 ID:sLW7pJSn0
  
それも当然のことだ。
見ず知らずの男に、アダルトグッズの話をされて怒らない女はいない。

( ФωФ)「いや、申し訳ない。
       だが、その反応こそが、デレちゃんを施設に入れる理由なのです」

ξ゚⊿゚)ξ「え?」

( ФωФ)「眠る、ということは、そのための場所が必要、ということです」

ソファーや床で眠るのはあまりよくないらしい、
とロマネスクは聞きかじった情報をツンに伝える。

( ФωФ)「昔はベッドも、眠るための道具だったそうですよ。
       今では割高なアダルトグッズの一つとして残っているだけですけどね」

セックスを楽しむための道具としての役割しか持たぬ今のベッドでは、
快適な睡眠をとることは難しいのかもしれない。
その辺りのことを調べることすら、素人には出来ないのだ。

( ФωФ)「奥さん」

ロマネスクはツンの目を見て、次にデレを見る。
幼い、まだまだ長い未来が待ち受けている赤ん坊だ。

( ФωФ)「今生の別れを、と言っているのではありません。
       子供には親の存在が必要不可欠。
       会えなくなるようなマネはしますまい。
       たた一時、ほんの少しだけ、離れるだけです」

31 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:56:04.070 ID:sLW7pJSn0
  
その後、ツンは帰宅してきたブーンに睡眠とやらの話をした。

ロマネスクという男をどこまで信用していいのかはわからない。
しかし、デレのために出来ることがあるのならば、私はそれを選びたい。
それがツンの意見だった。

( ^ω^)「きっと、デレのことを一番想っているのはツンだお」

だから、ツンの選ぶ道は正しい。
ブーンは笑顔で彼女の選択を肯定したのだ。

ξ゚ー゚)ξ「ありがとう、ブーン」

( ^ω^)「どういたしまして」

ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ、今から病院に行ってくるわ」

( ^ω^)「ボクも行くお」

ツンがデレを出産した病院はそれなりに大きな病院で、
二十四時間医者が配置されている。
現在時刻の確認はしていないが、すぐに向かっても問題はないだろう。

ブーンは停めたばかりの車を出し、
アスファルト道路をソーラーカーで走りぬけた。

32 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:56:39.773 ID:sLW7pJSn0
  
ξ゚⊿゚)ξ「うちの子、もしかしたら眠っているかもしれないんです」

(-@∀@)「睡眠? いやいや、それはないでしょ」

ξ:゚⊿゚)ξ「一度調べてみてください」

( ^ω^)「お願いしますお」

ツンの訴えも始めは真剣に取り合ってもらえず、
医者はありえない、の一点張りだった。

ξ゚⊿゚)ξ「あ、そうだ。これを……」

(-@∀@)「手紙? 古風な物をお持ちで。
      ……ふむ」

しかし、ロマネスクから預かった手紙を渡すと、
彼も表情を引き締めて真剣に文面を追った。
時折、今も目を閉じて意識を失っているデレに顔を向けては、
再び手紙を見直す、という作業を繰り返す。

幾分かが経った後、医者はデレを預かります、とツンに返した。

後日、ツンのもとに一本の電話が届く。
ロマネスクの考えは、見事的中していたのだ。

34 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:58:02.766 ID:sLW7pJSn0
  
何が原因で先祖返りが起こったのかはわからない。
だが、確かに、紛うことなく、デレは眠っていたのだ。

(-@∀@)「詳しい検査の結果、驚くべきことですが、
      デレちゃんは眠っている、ということが判明しました」

太陽が沈み、夜になるとデレの脳の一部はその機能を休止させる。
そして、ゆっくりと深い眠りにつき、また浮上していく。
これを何度か繰り返していることがわかった。

(-@∀@)「つきましては、今後、睡眠の分野に詳しい先生方にも協力を仰ぎ、
      彼女の健やかな育成の経過観察を行っていきたいと思います」

世界初の出来事に、学者達は色めき立っていた。
実のところ、本当はそんなものはなかったのではないか、
という説まで出ていたヒトによる睡眠が、この現代に蘇ったのだ。

医療の分野と協力することで、
今と昔で人間にどのような違いがあるのか、ということまで明確に知ることができるかもしれない。
これに心躍らぬ者は学者である資格がない、とまで裏では言われていたくらいだ。

ξ゚⊿゚)ξ「あの……。私はもう、娘とは会えないのでしょうか」

(-@∀@)「いえいえ! そんなことはありませんよ。
      ただ、一ヶ月程はお待ちいただきたい」

35 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:58:45.212 ID:sLW7pJSn0
  
一ヶ月の間で、睡眠に関する基礎知識をまとめると共に、
デレの睡眠パターンのデータを取る。
そして、彼女が起きている時間に限り、面会を許可する、とのことだった。

退院、という形にならないのは、ありとあらゆる面で予想がつかないため、
日々の計測や観察が必要不可欠である、と判断されたためだ。

ただ、「面会」とは銘打っているが、外へ出かけてもらっても構わないし、
室内で遊んでくれていても構わない。
あくまでもこの研究および観察は、デレという赤ん坊が、健やかに育つためのものなのだ。

そこに母親が加われない、等というのはおかしな話だろう。

ξ゚⊿゚)ξ「そうですか。安心しました」

(-@∀@)「これからも大変でしょうけど、我々も努力します。
      お母様も娘さんと共に頑張ってください」

ξ゚ー゚)ξ「えぇ、勿論。
      先生。これから親子共々、よろしくお願いいたします」

ツンは力強い笑みを浮かべ、医者の手をとった。

36 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 21:59:35.901 ID:sLW7pJSn0
  
施設と自宅を行き来する生活は大変だったが、
デレの健やかな成長のために下した判断は間違っていなかったらしい。

ヾ(゚ワ゚* し「あ、かー、ぁ!」

面会に行くと、デレはいつも笑顔でツンのことを迎えてくれる。
日中しか会えないものの、きちんと彼女のことを母と認識してくれているようだ。

ξ゚ー゚)ξ「おはよう、デレ」

(゚、゚* し「うー、あっ」

研究の結果、いくつかわかったことがある。
まず、眠りのためには静かな空間と暗闇が必要だということ。
これは現代では中々手に入りにくい。

普通の人間は夜も起きているため、
物音や生活音が充満しているし、明かりもついている。
そのため、デレは幼くして寝不足、という状態にあったらしい。

ツンやブーンは寝不足とやらのことはよくわからなかったが、
不足している、ということは良くないことなのだろう、とだけ認識していた。

37 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:00:47.808 ID:sLW7pJSn0
  
次に、デレの発育についてだ。
常に起き、動こうとする現代の赤ん坊と違い、デレには眠りという休息の時間がある。

そのため、どうしても発育が他の子達よりも遅れてしまうのだそうだ。
代わりに、というのもおかしな話だが、
文献によると昔の人間は現代人よりも寿命が長かったそうなので、
デレもその恩恵を受け、普通の子よりも長生きするだろう、と言われた。

ξ゚⊿゚)ξ「今日は絵本を読んであげるわね」

ヾ(゚ワ゚* し「あー! あっ! ううー!」

デレは嬉しそうに手足をバタバタさせる。
外で遊ぶことも大好きな彼女だが、それ以上に絵本が好きなのだ。

ツンは本を求める姿に、思わず顔を綻ばせる。
将来は立派な学者になるかもしれない、
などと親馬鹿なことを考えてしまうほどに、彼女は娘を愛していた。

ξ゚ー゚)ξ「はいはい。ちょっと待ってね」

知能も他の子と比べてゆっくりとした成長になるだろうけれど、
眠っている間も脳の一部は動いているため、
小学生にもなれば周囲と同等の知性を得ることが可能らしい。

ξ゚⊿゚)ξ「むかしむかし、あるところに――」

38 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:01:32.106 ID:sLW7pJSn0
  
デレがある程度、言葉を操れるようになった。

(゚、゚*从 「か、さん。ばいばい?」

ξ゚⊿゚)ξ「また、明日も来るからね」


デレは絵本を通し、外の世界を通し、知識を得た。

(゚、゚*ζ「なんで、おかあさんはわたしといっしょにいてくれないの?」

ξ゚⊿゚)ξ「……あなたのためなのよ」


デレは小学校に通うことができなかった。
睡眠という枷を持っていては、普通の子と同じだけの時間、
授業を受けきることができない、と判断されたのだ。

ζ(゚、゚*ζ「ねえ、小学校ってどんなとこなの?」

ξ゚⊿゚)ξ「デレと同じくらいの年の子がたくさんいて、
      色んなお勉強をするのよ」

ζ(゚、゚*ζ「アタシは行かないの?」

ξ゚⊿゚)ξ「いつかきっと学校に行けるようになるわよ」

ζ(゚、゚*ζ「そうかなぁ……」

39 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:02:40.066 ID:sLW7pJSn0
 
デレは寂しい思いをたくさんしてきた。
施設の人達はとても優しく、いつも彼女の体調を気にかけてくれていたが、
父や母が傍らにいない寂しさはそう簡単に埋まるものではない。

毎日のように顔を出してくれるツンではあったが、
彼女には彼女のするべき仕事がある。
夫の稼ぎだけで生活していけるほど、世の中は甘くないのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「学校かぁ」

小学生のカリキュラムを分割で受けながら、
デレはいつも想像していた。
外で一緒に遊ぶことのある男の子や女の子。
彼らと一つの空間で勉強する。

時々、悪戯をしてみたり、
休み時間には鬼ごっこをして遊んだり。

ζ(´ー`*ζ「たのしそー」

だが、聞くところによると、小学校というのは、
朝の八時から夕方の六時。
実に十時間もの間、拘束を受けるらしい。

まだまだ体が未発達なデレにとって、十時間は膨大だ。
寝起きと学校だけで一日が終わってしまう。

40 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:03:16.514 ID:sLW7pJSn0
  
そんな日々が続いて六年間。
来年はどうなるのだろう、とデレが考えていたところに、
いつもの先生がやってきて言ってくれたのだ。

(-@∀@)「デレちゃん。キミは退院できます」

ζ(゚、゚*ζ「え?」

きょとん、としてしまった彼女を責めることのできる人間はいない。

(-@∀@)「来週から、キミはお父さんとお母さんと一緒に暮らします。
      中学にも通ってもらえます。ただし、VIP中学校と決まっているけどね」

まだ幼い彼女には全て伝えられることはなかったが、
今後、デレが現代社会に適応していくためにも、学校生活というものは避けて通れなかったのだ。

眠る彼女と、眠らぬ同級生達。
折り合いをつけるのは困難かもしれないが、
少しずつ乗り越えていかなければ、成人したときに困るのはデレのほうだ。

(-@∀@)「今までよく頑張ったね。
      月に一度の検査は受けてもらわないといけないけど、
      これからは普通の子と同じように過ごしてもらえるよ」

ζ(゚、゚*ζ「本当?」

(-@∀@)「勿論」

41 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:04:41.300 ID:sLW7pJSn0
  
世界に唯一の眠る子。
そんな彼女のために、国もある程度の援助はしてくれる。
VIP中学校ではデレを受け入れるための準備が着々と進められ、
デレ一家はVIP中学の近くに新しく家を借りることとなった。

通学時間を少しでも減らすことで、彼女の睡眠時間を確保しやすくするためだ。
無論、そんなことをデレに伝えるような人間はいない。

子供は子供らしく、無邪気に喜んでいればいいのだ。
本来なら、この時期の子供は余計な苦労や悩みに囚われる必要がなく、
それらは周りの大人だけが背負うもの。

たまたま、運悪く眠りを得てしまったデレ。
彼女にこれ以上の重りは必要ない。

ζ(゚ー゚*ζ「ねえねえ! 一緒に住んだら、一緒に寝たりもできるかな?」

(-@∀@)「横で寝転ぶくらいなら、ね。
      ただ、デレちゃんの歳だとちょっと恥ずかしいかもしれないよ」

ζ(゚、゚*ζ「そんなのしーらない、しーらなぁい!」

デレは胸を躍らせ、身体を躍らせる。
早くその日が来ることを願いながら、世界でただ一人、眠りにつくのだ。

42 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:05:18.804 ID:sLW7pJSn0
  
そんなこんなで迎えたのが今日だった。

親子で迎える初めての朝。
デレが学校に通う初めての朝。

ζ(゚、゚*ζ「……眠るって、変かな。
      みんな、気持ち悪がったりしないかな」

愛する父が未だ自身の眠りを受け入れきれていない、
ということにデレは胸をもやもやさせていた。
実の親がそうであるならば、同級生達にとっては尚更そうかもしれない。

みんなと仲良くしたいけれど、
みんなの方はどうかわからない。

ζ(>、<*ζ「駄目駄目!」

デレは両頬を軽く叩く。
気合を注入しなおし、改めて目の前の鏡を見る。

ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫! きっとみんなわかってくれる!
       アタシもわかってもらえるように頑張る!」

映っているのは、百点満点の笑みを浮かべた可愛い女の子だ。
寝癖もばっちり直っている。

ちなみに、彼女は一般的な「ベッド」がアダルトグッズであることを未だ知らない。
当然、デレが使用しているものは睡眠用の特注品だ。

43 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:05:46.518 ID:sLW7pJSn0
  
ζ(゚ー゚*ζ「じゃじゃーん!」

リビングに飛び込んできたデレは制服を身にまとっており、
洗練されたデザインのスカートふわりと揺れる。

( *^ω^)「おお! 可愛いお! 流石、我が娘!
      マイスイートデレ!」

ξ゚ー゚)ξ「よく似合ってるわよ。
      髪も綺麗になってるし」

ζ(゚ー゚*ζ「これで掴みはばっちりかな?」

ξ゚ー゚)ξb「ばっちりよ。
       クラスの男子全員を虜にして帰ってきなさい」

ツンは親指をたて、娘の幸運を祈る。
それに異議を唱えるのは父親であるブーンだ。

(;^ω^)「えっ……。
     それはちょっと、パパ許せないお」

ξ゚⊿゚)ξ「過保護」

(;^ω^)「だって……」

44 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:06:16.736 ID:sLW7pJSn0
  
もそもそとブーンが口ごもっている間に、
時計は七時を示す。

ζ(゚д゚*ζ「あっ! そろそろ行かないと!」

ξ゚⊿゚)ξ「あら本当」

( ^ω^)「ボクも一緒に出るお」

ξ゚⊿゚)ξ「じゃあお弁当持ってくるわね」

残された朝食を回収し、ツンが台所に戻る。
かちゃかちゃ、と弁当の用意がされているであろう音が聞こえてきた。

ζ(゚ー゚*ζ「一緒に、かぁ」

( ^ω^)「一緒に、だお」

親子は顔を見合わせて笑う。
こんな簡単なことでさえ、今まではできなかったのだ。

( ^ω^)「何かあったらすぐ父さんに言うんだお」

ζ(゚ー゚*ζ「はーい」

( ^ω^)「あと、好きな男の子が出来ても言うんだお」

ξ゚⊿゚)ξ「馬鹿」

45 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:07:24.252 ID:sLW7pJSn0
  
ツンからのツッコミチョップをくらい、ブーンはその場に蹲る。
その間に素早く鞄の中へ弁当を入れてくれる彼女は出来た妻だ。

ξ゚ー゚)ξ「頑張ってらっしゃい」

ζ(゚ー゚*ζ「うん!」

眠らない社会と真正面から向き合うのはこれが始めてだ。
不安がないはずがない。
学校の授業についていくことができるかもわからない。

けれど、それ以上にデレはワクワクしているのだ。

ζ(゚ワ゚*ζ「友達たくさん作ってくるね!」

(;^ω^)「あっ、待って、父さんも行くおー!
      ツン、行ってきます!」

ζ(゚ー゚*ζ「忘れてた!
      お母さん、いってきまーす」

ξ゚⊿゚)ξ「いってらっしゃい」

笑顔で家を出る娘と、慌ててその後を追う夫。
二人を見送り、ツンは小さく笑う。

ξ゚ー゚)ξ

何て幸せで、平凡な家庭なのだろうか、と。

46 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:08:00.199 ID:sLW7pJSn0
  
( "ゞ)「みなさん。始めまして。
    一年A組担任の関ヶ原デルタです。
    これから一年、よろしくお願いします」

一クラス三十人の教室に、同じ年の子がギュッと詰まっている。
そう思うだけでデレの心臓は鼓動を早くする。
同じ年の子をこんなにたくさん一度に見たのは初めてだった。

清潔感のある教室の壁は白く、床には埃一つない。
新たな生徒がやってくるこの日のために清掃が行われたのだろう。

( "ゞ)「そして、みなさんに一つ、お伝えすることがあります」

デルタの言葉に教室がざわつく。
その中でデレだけが身を硬くし、彼の言葉を待っていた。

( "ゞ)「河合デレさん」

ζ(゚д゚;ζ「は、はいっ!」

名を呼ばれ、背筋を伸ばして立ち上がる。

彼女の存在により、かつてヒトが睡眠をとっていたことが正式に判明。
ひっそりとではあるが、学会を通して世間に公表された。
おかげでここ十年、歴史の授業で睡眠の項目が飛ばされたことはない。

一応、デレの名前は伏せられているため、
彼女の生活が脅かされたことは一度としてないまま今に至る。

47 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:08:52.589 ID:sLW7pJSn0
  
( "ゞ)「えー、みなさんの中にも、もしかすると睡眠、
    というものについて知っている人がいるかもしれません」

ヒトがかつて睡眠をとっていた、と発表されたとはいえ、世間一般における認知度は限りなく低い。
普通に生活していれば一生縁のない知識であるし、知らずとも問題はないためだ。

現に、クラスの半数以上がデルタの言葉に首をかしげている。
知っている、という顔をしている者も、
動物園やペットを通して知っている、という者が殆どだろう。

( "ゞ)「睡眠とは、主にヒト以外の生物がとる行動です。
    脳や体を休める働きをしています」

デレは少しだけ顔をうつむける。
現代において、睡眠を取る人間はいない。
その事実がとても恐ろしく感じられた。

( "ゞ)「しかし、昔はヒトも睡眠をとっていました。
    かつてはそうでない、という意見もあったようですが、今は違います」

デルタはデレを手招きする。
彼女はこっそりと深呼吸をし、少し早足で担任の横へつく。

( "ゞ)「彼女は、現在、睡眠を取る必要のある唯一の人間です」

48 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:09:27.698 ID:sLW7pJSn0
  
教室中に声が溢れる。

睡眠そのものに疑問を投げる者。
人間が眠る、という事実に驚いている者。
デルタの言葉を疑っている者。

全員が全員、違った反応をしている。
そして、それらは全て、デレが今後生きていく上で何度も見ることになるであろう反応なのだ。

ζ(゚д゚*ζ「えっと」

喧騒の中、デレが声を出す。
彼女の声は届かない。

ζ(>д<*ζ「河合デレです!」

普段の声量では届かない。
そう察した彼女は、腹に力を入れて大きな声を出した。
デレの声が全員の鼓膜を揺らしたのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「えっと、始めまして」

まずは挨拶。
言いたいことも、言わなければならないこともある。
しかし、それらは学校生活の中ででも話せることだ。

だから、最初の一歩だけは間違えずに踏み出さなければならない。
かつて、ツンがデレに言ってくれた言葉がある。

女の子の武器は笑顔なのだ、と。

49 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:10:08.987 ID:sLW7pJSn0
  
ζ(゚ワ゚*ζ「アタシはみんなと同じように学校に来ます。
       でも、夜は寝ます。それだけです」

何度も検査を受けたが、それ以外の異常はなく、
脳の動きも然程、代わりがあるわけではないらしい。

ζ(゚ー゚*ζ「なので、仲良くしてください」

最後にお辞儀をする。
そして、慌てて顔を上げ、一つだけ付け足した。

ζ(゚д゚;ζ「あ、でも、学校にくるのは初めてなので、
       色々教えてもらえると嬉しいです!」

知能の面では周囲と大差なくとも、
培ってきた常識の面ではどうかわからない。
施設にいた人達は大丈夫だと言ってくれていたが、
同じ空間にいるからこそ生まれるカーストがある、とデレは幼くして確信していたのだ。
  _
( ゚∀゚)「オレは長岡ジョルジュ!」

一番前の席に座っていた男の子が突然立ち上がり、名乗りを上げた。
  _
( ゚∀゚)「好きな食べ物はからあげ! 嫌いな物はピーマン!」

クラス中が彼に注目していた。
デレでさえ、目を丸くして彼を注視している。

51 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:10:52.527 ID:sLW7pJSn0
  _
( ゚∀゚)「オレは学校に来るとか当たり前すぎて、
    何を教えてやったらいいかぜんっぜんわかんねぇ」

ジョルジュは男らしく太い眉毛をくいっとあげた。
その動きがやけにコミカルで、デレは思わず笑みを浮かべてしまう。
  _
( ゚∀゚)「だから、オレのことを教えました!」

堂々と、腰に手を当てて言う。
他にも質問があればどうぞ、と続けられ、クラス中が爆笑の嵐に巻き込まれる。
おそらくは同校出身であろう者達からは、ひっこめー、と叫ばれている始末だ。

( ・∀-)「あー、笑った、笑った」

目尻に浮かんだ涙を拭いながら、
もう一人、優男風の男の子が立ち上がる。

( ・∀・)「ボクは徳野モララー。
      パエリヤが好き。嫌いなものは特にないから、手料理待ってます」

川 ゚ -゚)「私は素直クール。
     クーとでも呼んでくれ。
     食べ物に好き嫌いはない。趣味は読書だ」

次々に生徒が立ち上がり、自己紹介をしていく。
真面目な者、笑いに走る者、と様々ではあるが、
誰一人としてデレを茶化すような物言いだけはしなかった。

ζ(゚д゚*ζ「えっ、えっと?」

困惑するデレを横目に、総勢二十九名の自己紹介が滞りなく終了する。
全員が立ち上がり、彼女を見た。

52 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:11:23.709 ID:sLW7pJSn0
  
ζ(゚д゚*ζ「あの……」

これは改めて自己紹介をしたほうがいいのだろうか。
デレがそんなことを頭の端で考え始めたとき、
一番初めに立ち上がった男の子、ジョルジュが口を開いた。
  _
( ゚∀゚)「よろしく」

彼の言葉を合図に、全員が頭を下げる。
そこに強制の色はなく、誰もが自主的にそれを選択したのだということがわかった。
何とも圧巻される光景ではあるが、これ以上ない誠意の伝え方でもあり、
デレの胸を真っ直ぐに貫いた。

彼らはわからないなりに、デレを受け入れてくれたのだ。
ならば、彼女も応えなくてはなるまい。

じわりと浮かびそうになる涙を必死に押さえ、
デレは満面の笑みを浮かべる。

ζ(^ワ^*ζ「よろしくお願いします!」

53 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:12:18.125 ID:sLW7pJSn0
  
その日はクラスの顔合わせだけで終わる予定だったというのに、
デルタが教室から出ると同時にクラスメイト全員がデレに群がってきた。
誰もが少し変わった友人と話してみたくてしかたがなかったらしい。
  _
( ゚∀゚)「なあ、寝るってどんな感じなんだ?」

ミセ*゚ー゚)リ「どのくらい寝てるの?」

('A`)「どういうときに寝るんだ?」

(゚、゚トソン「眠る、というのは本当なのですか?」

ζ(゚-゚;ζ「えっと、えっと……」

他人と接したことがないわけではないが、
これ程、大勢の人間と一度に対面したのは初めてなわけで、
デレの脳がキャパオーバーを起こすのは必然であった。

顔を硬直させ、意味のない音で必死に間を繋ぐ。
その間に紡ぐべき言葉を考えるのだけれど、
どうにも上手くいかない。

早く早くと心中が叫び、それが焦りを生んでデレから言葉を消していく。

54 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:13:07.525 ID:sLW7pJSn0
  
(;・∀・)「お前ら一つずつ聞いてやれよ。
      何言ってんのかわっかんねーよ」

四方八方から飛んでくる質問を遮ってくれらのはモララーだった。
傍から聞いていても、ただの騒音と化していた質問責めを見かねたらしい。
 _
(;゚∀゚)「わ、悪い……」

ζ(゚ー゚;ζ「ううん。あたしこそ、ちゃんと言えばよかったね。ごめん」

モララーの言葉はあまりにも正論で、生徒達は口々に謝罪を述べていく。
眠る、という一点さえなければ、彼女は普通の同級生でしかない。
一度に二十何人もの質問を聞き取れるはずがなかったのだ。

川;゚ -゚)「気が急いてしまってな」

(;'A`)「ごめんな。考えてみたら、これから少なくとも一年は同じクラスなんだよな」

話を聞く時間も、話をする時間も充分にある。
何も今日という日に拘ることはないのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「でも、今日たくさんお話したら、
       今日たくさんお友達ができるから嬉しいな」
  _
( ゚∀゚)「バッカ。お前バッカだな」

ζ(゚ぺ*ζ「馬鹿って何よー」

55 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:14:02.751 ID:sLW7pJSn0
  _
( ゚∀゚)+「オレらはクラスメイト。
     つまり友達、だろ?」

親指を自身に向け、キラリと白い歯を輝かせる。
キザったらしい台詞とポーズのはずなのに、
決まりきらないところが何ともジョルジュらしい。

ζ(゚ー゚*ζ「…………友達」

( ・∀・)「あの馬鹿は放っておいていいよ」

でも、とモララーは続ける。

( ・∀・)「ボクらはキミと仲良くなりたいと思ってるから、
      あとはキミが同じように思っていてくれれば、それで友達になれると思うんだけど」

どうかな?
と、彼はウインクをして問いかけてくる。
こちらはキザなポーズも台詞もバッチリ決まっていた。

ζ(゚ー゚*ζ「うん。あたし、仲良くなりたい」

周囲にいるクラスメイト達を見る。
みんな違う顔をして、けれど、嫌悪の表情は一つもなく、デレをその目に映してくれている。

ζ(゚ワ゚*ζ「だから、みんな友達!」

56 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:14:43.805 ID:sLW7pJSn0
  
ζ(゚ー゚*ζ「ただいまー」

ξ゚⊿゚)ξ「おかえりなさい」

昼を過ぎる前に帰宅したデレを迎えたのは、
本日、わざわざ休みをとって家にいてくれたツンだ。

デレにとっては初めての学校。
何が起こるか全くわからない、と言ってもよく、
緊急事態に備えてできるだけ家で待機していてください、
と医者から言われていたのだ。

ξ゚ー゚)ξ「学校はどうだった?」

ζ(゚ー゚*ζ「楽しかった!」

制服を脱ぎながら答える。
流石にブーンがこの場にいれば、彼女も部屋で制服を脱いだのだろうけれど、
今は母であるツンしかいないため、気にする必要がなかったようだ。

ζ(゚ー゚*ζ「みんなと友達になってね、色んな話をしたの。
       カラオケとかテーマパークとか!」

施設にいたデレとはいえ、娯楽を楽しむための場所に行ったことがないわけではない。
ただ、共に楽しみ、思い出話を共有する相手、伝える相手がいなかっただけ。

58 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:15:41.495 ID:sLW7pJSn0
  
ζ(^ー^*ζ「今度、一緒にカラオケ行くんだー」

ξ゚⊿゚)ξ「あらあら。さっそく遊びの約束?」

ζ(゚、゚*ζ「ちゃんと寝る時間には帰ってくるよ」

ξ゚⊿゚)ξ「当然でしょ」

眠らなくていいツン達と違い、デレには睡眠が必要だ。
ある程度ならば我慢もできるが、一定以上を越えると殆ど強制的に眠ってしまう。
かつてのヒトは、それを居眠りだとか昼寝だとか呼んでいたらしい。

そうなった場合、困るのはデレ自身だ。
場所によっては風邪をひいたり、体を痛めたりする。
眠気に耐えることができたとしても、
睡眠を我慢するのはとても辛いことだ、と彼女自身が言っていた。。

ξ゚⊿゚)ξ「ちゃんと時間を守れるなら母さんは何も言いませんよ」

ζ(゚ワ゚*ζ「やったー!」

59 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:16:13.031 ID:sLW7pJSn0
  
ξ゚⊿゚)ξ「こらこら、跳ね回る前に着替えなさい」

ζ(゚д゚*ζ「はーい」

制服をハンガーにかけ、部屋用の服に着替える。
肌触りがよく、体に負担をかけない軽さの服は、
今日卸したばかりの新品だ。

ζ(゚ー゚*ζ「みんな良い人ばかりでさぁ」

ξ゚⊿゚)ξ「良いじゃない」

ζ(゚ー゚*ζ「うん。あたしのことも受け入れてくれて、
       友達だ、って言ってくれたの」

デレとツンは一緒にソファに座る。
座った人間が最も快適に腰掛けることができる形に変化するそれは、
二人のことを柔らかく包み込んでくれた。

ζ(゚ー゚*ζ「でも、すごい質問責めにあっちゃった」

ふぅ、と息を吐いてみせるが、
出された空気に疲労の色は見えない。
どちらかといえば、自慢げな様子さえ感じ取れた。

60 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:17:03.763 ID:sLW7pJSn0
  
ζ(゚ー゚*ζ「みんな一斉に色々聞くの。
       もう、何言ってるのかぜーんぜんわかんなくて、
       とっても困っちゃった」

ξ゚⊿゚)ξ「お疲れ様」

ζ(゚ー゚*ζ「ううん。アタシが困ってたらモララー君って子が、
       みんなを説得してくれたの。
       一気に話しても答えられないよ、って」

目元を赤らめながら話す。
困っているところを颯爽と助けにくる、というシチュエーションは、
童話の中に登場する王子様のようではないか。

ξ゚⊿゚)ξ「イケメンだった?」

ζ(゚ー゚*ζ「うん!」

ξ゚⊿゚)ξ「良かったじゃない」

ζ(゚ワ゚*ζ「母さんは気が早いってー。
      モララー君のこと、そんな目でアタシ見てないよ」

ξ゚⊿゚)ξ「馬鹿ねぇ。良い男は早めに捕まえておかないと、
      他の子に取られちゃっても知らないわよ?」

ζ(゚ぺ*ζ「もー。モララー君はアタシの所有物じゃないの!」

61 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:17:45.926 ID:sLW7pJSn0
  
ζ(゚ー゚*ζ「それで、アタシへの質問は順番にしよう、ってことになったの」

順番はランダムアプリで決めた。
休み時間毎に一つずつ質問していけば、
半月もしないうちに全員の順番が回ってくる、というわけだ。

考えている質問を先に誰かがしてしまい、
質問がなくなればパスを使ってもいい、とのことだったので、
もしかすると一週間もしないうちに質問コーナーは終わってしまうかもしれない。

ζ(゚ー゚*ζ「嬉しいなぁ。みんながアタシと話したい、って思ってくれてる」

唯一の、という言葉が悪い方向に流れなくてよかった。
デレは心の底から思っている。

外界とあまり関わりがなかったとはいえ、
遊びに出たときや本を通して人と社会というものを知ってきた。
時として、人は人を脅かすことさえあるのだ、と彼女は理解している。

ζ(゚ー゚*ζ「怖い、っていう気持ちなんて吹き飛んじゃった!」

ξ゚⊿゚)ξ「デレは繊細な子だから、私もお父さんも心配してたのよ」

ツンは少し意地悪気に笑った。

ξ゚ー゚)ξ「あなたがイジメられたー、もう学校に行かないーって、
      言い出すんじゃないか、ってね」

ζ(゚ぺ*ζ「言わない! 駄々こねるような年じゃないし!」

63 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:19:50.199 ID:sLW7pJSn0
  
思いっきり口をへの字にしてデレは反論する。
すぐムキになるところが子供なのだ、とツンはあえて口にしない。

その代わり、指で軽くデレの額を突く。
嗜めるようなその行動に、彼女はまたむくれた顔をしてみせた。

ζ(゚ぺ*ζ「もおー」

ξ゚ー゚)ξ「私の可愛い可愛い子供だから心配してるのよ」

ζ(゚ー゚*ζ「可愛い可愛いお母さんの子だからイジメられたりしないよーっだ」

ξ゚ー゚)ξ「それもそうね」

二人はクスクスと笑いあう。
カーテンが開けられた窓からは暖かな日差しが入り込み、
家族の空間を静かに包み込んでくれていた。

ζ(゚ー゚*ζ「お母さん」

ξ゚⊿゚)ξ「なあに」

ζ(^ー^*ζ「へへ、何でもない」

ここは彼女達の家だ。
帰る時間を気にかけることもなく、
意味のない話をだらだら続けながら
父の帰りを待つことだけをすることが許された場所。

64 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:20:55.352 ID:sLW7pJSn0
  _
( ゚∀゚)「で、昨日の続きなんだけどさ」

栄えある質問第一号はジョルジュが勝ち取っていた。
休み時間というか、朝のHRが始まる前の時間に彼は接触を計ってきたのだ。

だが、それをルール違反と取るものはいないらしく、
クラスメイト達に加え、彼らに会いにきていた別のクラスの者達もそっと耳をそばだてている。
デレの体質については早くも学校中に広まっている、と見てよさそうだ。

ζ(゚ー゚;ζ「と、突然だねぇ……」
  _
( ゚∀゚)「別にいいだろ? 時間は取らせねぇし」

ζ(゚ー゚;ζ「う、うーん。別にいいけど……」

時間がかかるか否かを決めるのはデレであるはずだ。
無論、無駄に時間を取らせるつもりはないけれど、
生まれ持った感覚が違うため、上手に説明できるかどうかは未知数だといえる。

鳥に何故空を飛べるのか、と問うたとして、
原理をきめ細かに説明してくれる鳥はそう多くないだろう。

ζ(゚ー゚*ζ「頑張ってみるけど、期待はしないでね?」
  _
( ゚∀゚)「期待しかしてないぞ?」

ζ(゚ー゚;ζ「プレッシャーだなぁ……」

65 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:21:32.580 ID:sLW7pJSn0
  _
( ゚∀゚)「そんでよぉ、寝るってどんな感じなんだ?」

デレの感じているプレッシャーもなんのその。
ジョルジュは真正面から質問をぶつけてくる。

少しくらい心の準備をさせてほしい、
という気持ちをこめて言葉を返していたのだけれど、
どうやら彼には伝わらなかったらしい。

ζ(゚ー゚*ζ「どんな感じ、か……」

質問を受けたからには返さなくてはならない。
これはルール、というわけではないのだが、
回答者としての心情がそうさせる。

せっかく自分に興味を持ってくれているのだ。
少しでも意義のある言葉を返したいと思ってしまう。

ζ(-д-;ζ「うーん」

しかし、気持ちとは裏腹に、
彼女の思考は上手いまとまりを見せてくれない。

大体からして、施設にいたときからこの手の質問はされていたが、
今のところデレ自身が満足のいく答えを出せたことがない。

67 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:23:04.432 ID:sLW7pJSn0
  
ひとまず、という答えを出したことはあれども、
これだ、と思えるものはまだない。

眠れるが故に、眠る必要のない者の感覚がわからないのが原因だ。
どの感覚ならば共有できるのか、という線引きが曖昧だった。

ζ(゚ー゚*ζ「こう……落ちる? みたいな」
  _,
( ゚∀゚)「は?」

ζ(゚ー゚;ζ「いや! 気持ちはわかるよ?
      でも、中々いい伝え方が思いつかないの!」

デレは慌てて両手を胸の前で振る。
クラスの面々からも疑問符つきの視線が突き刺さってくるようだった。

川 ゚ -゚)「デレの言葉は漠然としていてよくわからんぞ」
  _
( ゚∀゚)「もっと具体的にオナッシャッス」

ζ(゚ー゚;ζ「簡単に言ってくれるけど、難しいんだよ?」

ジョルジュと、隣の席に座っていたクールに言われ、
彼女は再び言葉を紡いでいく。

ζ(゚ー゚*ζ「寝る直前って、ふわふわした感じがするの。
       で、その後、静かに落ちて……沈んで? いく感じ」

彼女が毎夜のように感じている浮遊感と、
まどろみに溶け込むような沈殿感。
それらを言葉として伝えるのは非常に難しい。

68 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:24:15.406 ID:sLW7pJSn0
  _
( ゚∀゚)「浮いて、沈む、ねぇ……。
    プールみたいなもんか?」

( ・∀・)「なるほど。水ならば浮くし沈む、と」

ζ(゚ー゚*ζ「近い、のかなぁ?
       もっと柔からいイメージなんだけど……」

少し暖かで、優しく包み込んでくれる。
デレにとって睡眠とはそういうイメージを付与されたものだった。
頭を悩ませるデレに対し、ジョルジュは頭を掻きながら次の言葉を投げる。
  _
( ゚∀゚)「ていうかよぉ、寝る前じゃなくて、
    寝てる最中のことを聞きたいんだけど」

ζ(゚ー゚*ζ「えっ」

ジョルジュの言葉に、デレは目を瞬かせる。
周囲からは、複数の質問はルール違反だ、という声が上がっているが、
彼女の耳には届かない。

眠る直前ならばともかく、眠っている最中。
それは考えたことがなかったし、学者達からも受けたことのない質問だった。

彼らは研究から、眠っている最中というのは意識がない状態だと知っていた。
対して、ジョルジュを含めたクラスメイト達は何も知らない一般人。
眠っていることと、意識がないことに繋がりはない。

69 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:24:40.363 ID:sLW7pJSn0
  
ζ(゚ー゚*ζ「……眠ってるときに夢を見ることもあるけど、
       感覚とか意識とかはないかな」
  _
( ゚∀゚)「えっ」

('A`)「夢を見る、ってどういうことだ?」

( ・∀・)「眠ってるときは希望でいっぱい、ってこと?」

川 ゚ -゚)「おいおい、質問が質問を呼んでどうする。
     順番を決めた意味がなくなるじゃないか」

( ・∀・)「それはそうだけど、夢を見てる、って気になりすぎるでしょ」
  _
( ゚∀゚)「そうだそうだ!」

( "ゞ)「なら、真面目に授業を受けましょうね」

やんやか言い合っている最中、教室にデルタが入ってくる。
彼の声に気づき、生徒達が時計を見ると、
HRの開始時間を数分過ぎたところだった。

別のクラスの生徒達は驚きながらも自身の教室へと駆け戻っていく。
残されたのは静まり返った教室と、クラスメイト達。

70 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:26:04.540 ID:sLW7pJSn0
  
( "ゞ)「先生は担当じゃないので詳しくは知りませんが、
    歴史や生物の授業で睡眠については取り扱います。
    本人から話を聞くことも大切でしょうけれど、
    科学的な観点からの観察や学びも大切ですよ」

睡眠に関する史料は依然として少なく、
教科書を通して学べることはそう多くない。
そのあたりを補うためにデレへの問いかけが必要になることはあるだろう。

だが、問いかけとは下地となる知識があってこそ意味を成す。
好奇心だけを糧にした無を問いかけに変換したところで、
要領の得ない謎を生み出すばかりだ。

( "ゞ)「わかりましたね?
    では、本日から本格的に授業を始めていきますよ」

(゚、゚トソン「次は私の番ですからね」
  _
( ゚∀゚)「オレの質問タイムあれで終了?
    納得いかねぇ……」

( ・∀・)「一巡し終わったら次はどうするか考えようか」
  _
( ゚∀゚)「思った以上に色んな質問が出てきそうで、
     二順目が気が遠くなるほど長ぇんだけど」

生徒達は各自席につき、HRを始める態勢に入った。
一日のおよそ半分を使用する学校での時間は始まったばかりだ。

71 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:26:31.985 ID:sLW7pJSn0
  
('A`)「なあ、夢ってこれのことか?」

昼休み、クラスでデレがお弁当を食べていると、
ドクオが生物の教科書アプリを開いたタブレット片手に近づいてきていた。
  _
( ゚∀゚)「いーけないんだ、いけないんだ!
    ドクオ、ルール違反だぞー」

(;'A`)「雑談の一つと思ってくれよ」

そんな会話をしつつも、ジョルジュはデレとドクオに近づいてくる。
まだ四分の一日程度の学校生活ではあるが、
早くもジョルジュという男の性質が浮き彫りになり始めていた。

良くも悪くもクラスの中心であり、そう在れるように行動する男。
好奇心が旺盛なのだろう。
興味がひかれる方向へスタスタと足を進める様子は
雄々しささえあるような気がしてならない。

( ・∀・)「なになに?」

開かれていたページは、後ろから数えた方が早いくらいの場所だ。
生物の起源やら何やらの基礎を全て終え、
人間の身体、という単元をさらに越えたページ。

そこに、ひっそりと数ページ、睡眠、と書かれた章があった。

72 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:27:13.659 ID:sLW7pJSn0
  
川 ゚ -゚)「眠りが浅いときに見る幻覚?」
  _
( ゚∀゚)「お前、毎日幻覚見てんの?」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ……。
      夢と幻覚と一緒にしちゃうのは乱暴な気がする」

('A`)「じゃあ、何なんだ?」

ζ(゚ー゚;ζ「そういわれましても……」

( ・∀・)「おおよそ意味のない内容である、って書かれてるね」

ミセ*゚ー゚)リ「夢ってどんなの?」

ζ(゚ー゚;ζ「えっと、えっと」
  _
( ゚∀゚)「おーっと、そこまでそこまでー。
    それ以上の質問は、事務所であるジョルジュを通してくださいねー」

新たな質問責めの予感にデレが慄いていると、
ジョルジュが友人達と彼女の間に割って入ってきた。
意外と周囲の機微をよく見ているらしい。

73 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:27:51.231 ID:sLW7pJSn0
  _
( ゚∀゚)「お前もちゃんと口に出さねぇと伝わんないんだからな。
    嫌なことはちゃんと言えよな」

ζ(゚ー゚*ζ「うん。ごめんね。ありがとう」
  _
( ゚∀゚)「どういたしまして」

ジョルジュは自然な動作でデレの頭を撫でる。
そのせいで、せっかく綺麗にセットした髪型がぐしゃぐしゃになってしまう。

ζ(゚д゚*ζ「あー! 髪が!」
 _
(;゚∀゚)「うお! ビックリしたぁ」

ζ(゚д゚*ζ「もう、髪がぐしゃぐしゃだよ……」
  _
( ゚∀゚)「あ? んなことで騒ぐなよ。
    お前細かい奴だなぁ」

そう言った彼はデレの髪をさらにかき混ぜる。
二つに結っていた髪が緩み、細い線同士が絡み合う。

ξ(゚д゚ 从 「…………」

( ・∀・)「すごいことになってしまった」
  _
( ゚∀゚)「真顔がギャグ」

川 ゚ -゚)「怒ってる……のか?」

ξ(゚д゚#从「怒ってます」

76 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:29:29.015 ID:sLW7pJSn0
  
( "ゞ)「河合さん」

ζ(゚ー゚*ζ「はい」

デルタが声をかけてきたのは、
入学してから二ヶ月が経とうとしていた放課後のことだった。

このとき、既にデレはクラスメイト達からの質問コーナーを終了させていた。
次々に投げられる質問に殆ど明確な答えを返すことのできないまま一巡目を終え
今は二巡目と称した雑談に花を咲かせる毎日だ。

( "ゞ)「体の調子はいかがですか」

ζ(゚ー゚*ζ「とっても元気ですよ」

( "ゞ)「そうですか。それはよかった」

彼は微笑み、しきりに頷く。
世界唯一を持った女の子、という事実は、デレを大切に扱う充分な理由となる。
だが、同じくらい、自身の生徒、という肩書きは彼女を大切にさせる素となるのだ。

( "ゞ)「私は眠らないのでわからないのですが、
    デレさんは平均八時間ほど睡眠を取ると聞きましてね」

ζ(゚ー゚*ζ「時々夜更かしもしちゃうんですよ?」

77 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:30:04.777 ID:sLW7pJSn0
  
睡眠時間に関してクラスメイトに告げたのは、一ヶ月と少し前のことだ。
質問の一つとして、どの程度の時間が睡眠に消費されるのか、ということを問われた。
その答えは、デレにとって数少ない、嘘偽りも想像も何もない、
真実だけを伝えることのできる貴重な問いかけであった。

( "ゞ)「うちでおよそ十一時間。睡眠に八時間。
    残された時間は五時間足らず。
    宿題もありますし、大変でしょう」

ζ(゚ー゚*ζ「でもみんなと一緒に授業を受けるのは楽しいですよ」

デレがおよそ八時間眠る、と告げたとき、クラスメイト達は驚愕を露にしていた。
現代人からしてみれば、八時間が無為に過ごされているのと変わらない。
その時間でどれだけのことができるのか、と考えれば、気が動転するのも仕方のないことだった。

( "ゞ)「無理はしないでくださいね」

ζ(゚ー゚*ζ「はーい」
  _
( ゚∀゚)「あ、おいデレー!」

ζ(゚ー゚*ζ「なーにー?」
  _
( ゚∀゚)「カラオケ! 行こうぜ!」

ζ(゚ー゚*ζ「わかったー!」

78 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:30:43.260 ID:sLW7pJSn0
  
朝からカラオケの話をしていたので、
誘いがかかるのではないかと思っていたら案の定だ。

先日、開発されたシンガーロイドの新曲が入るのだとクールが言っていた。
時事情報をメインに搭載されたかのシンガーロイドはポップながらも毒のある曲を歌うのだ、と
情報通の彼女は豪語し、ソレの歌う過去の風刺をするような歌詞が実に愉快だとも口にしていた。

( "ゞ)「ちゃんと親御さんに連絡するんですよ」

ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫でーす!」
  _
( ゚∀゚)「デルちゃんったら過保護なんだからぁ!」

二人はパタパタと廊下を駆けていく。
見れば、向こう側には他のクラスメイト達が彼ら二人を待っている姿が目に映る。

( "ゞ)「廊下は走らない」
  _
( ゚∀゚)「あいよー!」

ζ(゚ー゚*ζ「返事だけなんだから」
  _
( ゚∀゚)「じゃあ、お前も歩けよ」

ζ(゚ー゚*ζ「ジョルジュ君が歩いたらね!」

79 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:31:09.849 ID:sLW7pJSn0
  
川 ゚ -゚)「何を話していたんだ?」

ζ(゚ー゚*ζ「体調のこと」

( ・∀・)「どこか悪いの?」

ζ(゚ー゚*ζ「ううん。ただ、寝る時間があるから心配してくれたみたい」

( ・∀・)「あー、八時間」

ζ(゚ー゚*ζ「それそ……」

一瞬、言葉に詰まる。
彼女はわずかに目線を下に向け、目を細めた。
細い手は口元へ。

○。ζ(>∩<*ζ ファ...

吐き出された息は静かに消える。
  _
( ゚∀゚)「どうした?」

川 ゚ -゚)「クシャミか」

ζ(゚ー゚*ζ「え、あくび……」

80 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:31:55.630 ID:sLW7pJSn0
  
( ・∀・)「あくび?」

ζ(゚ー゚*ζ「眠たい時とか暇な時に出るの」

周りが疑問符を浮かべるので思い返してみるが、
そう言われてみれば、周囲の人達があくびをしている姿を見たことがない。

ζ(゚、゚*ζ「そっか、みんなはあくびも出ないんだ。
      何だか不思議ー」

川 ゚ -゚)「というか、お前は今眠たいのか?」

ζ(゚ー゚*ζ「んー、ちょっとだけ」

学校生活にも慣れ、友達付き合いも増えた。
こうして、みんなで出かけることも多い。

ただ、眠らない彼らとずっと一緒にいる、というのは難しい。
彼らが遊び通してそのまま登校してくるとして、
デレがそれに合わせるのはまず不可能といえる。

そんなことをした日には、授業中の居眠りは必至。
間抜けな顔をして涎を垂らしでもしたら最悪だ。
  _
( ゚∀゚)「どうする? 今日は帰るか?」

ζ(゚ー゚*ζ「ううん。このくらい平気」

81 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:32:33.620 ID:sLW7pJSn0
  
嘘ではない。
多少の睡眠不足で体調を崩す、ということはない。
不具合といえば、暖かい日中に眠気が襲ってくることくらいだろう。

( ・∀・)「無理はしないようにね」

ζ(゚ー゚*ζ「ありがとう。疲れたら帰らせてもらうから大丈夫だよ」
  _
( ゚∀゚)「デレは貧弱だからなぁ」

ζ(゚д゚*ζ「誰が貧弱よ。誰が!」
 _
(;゚∀゚)「イテッ!」

軽くジョルジュの脛を蹴ってやる。
学校指定のパンプスはそこそこの強度があるので、当たると結構痛いのだ。
 _
(#゚∀゚)「デーレー!」

ζ(゚ワ゚*ζ「キャー!」

( ・∀・)そ「あっ、お前ら先に行くなよー!」

川;゚ -゚)「おぉ、デレ早い……」

82 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:33:40.852 ID:sLW7pJSn0
  
どれだけ文明が発達しようとも、
地球は太陽をぐるりと回り、世界には四季がある。

都心部の温度はある程度調節されているが、
自然との調和を目指したこの国では、差し込む太陽の光や
流れるままに在る天気に対して手を加えるようなマネをしないでいた。

そのおかげで、春は桜が咲き誇り、
夏は焼け付くような太陽と蝉の声がそこかしこに響くのだ。
  _
( ゚∀゚)「もうすぐ一学期が終わるなぁ」

( ・∀・)「夏休み、何処行く?」

川 ゚ -゚)「夏といったら海だろ。
     想朔の海がこの間、大規模浄化したらしいぞ」

ζ(゚ー゚*ζ「今なら綺麗な海になってるってことだね」

( ・∀・)「じゃあ、一つは海に決定しようか」

川 ゚ -゚)「潮の流れ的に、夏休みに入って一週間以内には行きたいものだ」

想朔の海は他の場所から流れてきたゴミが留まりやすい場所にあった。
ゴミの終着点、とまではいわないが、
交通量が非常に多い中継地点、といったところか。

83 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:34:12.889 ID:sLW7pJSn0
  
ζ(゚ー゚*ζ「何でゴミを海に捨てちゃうんだろうねぇ」

( ・∀・)「近くにゴミ箱がないからじゃない?」

ζ(゚ぺ*ζ「なら、海辺にゴミ箱をたくさん設置すればいいだけじゃない」

デレは口をへの字にして反論する。
数日もあれば有害物質を浄化することができるようになっているとはいえ、
大規模な浄化はそう頻繁に行われるわけではない。

その間、苦しんでいる海の生物がたくさんいるのだ。
浄化に資金がかかるというのであれば、汚染の元凶を少しでも断ち切ってやるべきだろう。

一人一人の心がけが、大きな力を生む。
悪意のない行動が、最も性質が悪い。
  _
( ゚∀゚)「その手があったか」

川 ゚ -゚)「いくつくらい置けば全員の目に留まるんだろうな」

( ・∀・)「海岸沿いも長いからねぇ」

ζ(゚д゚*ζ「ゴミ箱がないなら持って帰る!
      お魚さん達が苦しんでるんだよ」

84 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:35:10.142 ID:sLW7pJSn0
  
( ・∀・)「苦しんでる?」

ζ(゚д゚*ζ「ほら、これ!」

川 ゚ -゚)「どれどれ?」

デレが取り出したのは、美術の時間、時たま使用される教科書アプリだ。
文字よりも過去の芸術作品が多く掲載されているそれは、
生徒間での評判があまりよくない。

同じ遺伝子を受け継いだ人間であるはずなのに、
どうにも過去のヒトの感性というものは理解しがたいものがある。
星と星を繋げ、そこに熊やら獅子を見出す、というのは不可解極まりないモノの一つだ。
  _
( ゚∀゚)「何だ? これ」

ζ(゚д゚*ζ「昔のポスターの再現だって」

表示されているのは一枚の絵だ。
砂浜のようなところに、大小様々なゴミと共に、数尾の魚が打ち上げられていた。
どの魚も、不自然に腹が膨らんでいる。

添えられた文字は古代文字であるため解読ができないが、
絵の隣に翻訳された文章が掲載されていた。

【命を持たぬモノは食べられない】

85 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:35:52.092 ID:sLW7pJSn0
  
要領を得ないポスターだ、と思った。
デレ以外の三人全員が、だ。

たとえ、命を持たぬ人工食であったとしても、
口で咀嚼し、胃に落とし込めば栄養として胃や腸が吸収してくれる。
命のあるモノしかたべない、というナチュラリストも存在しているが、
現代においては相当な希少種だといえた。

ζ(゚д゚*ζ「このお魚さんはゴミを食べて死んじゃったんだよ」

川 ゚ -゚)「ほう」

クーはデレを見る。
彼女の見解に興味があるようだ。

ζ(゚д゚ ζ「餌よりもゴミの方が多くて、口に入っちゃったんだと思う。
       プラスチックなんかは消化できなくて、体の中に詰まって、
       そのまま……」
  _
( ゚∀゚)「なるほどなぁ」

( ・∀・)「デレちゃんには芸術の才能があるのかもしれないね」

ζ(゚д゚*ζ「え、何で?」

川 ゚ -゚)「感受性が豊かだからこそ、
     この絵一枚でそこまで考えられるのだろ」

86 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:37:07.459 ID:sLW7pJSn0
   
デレは小さく首を傾げた。

確かに、この教科書にも絵の解説は載っていない。
しかしながら、少し考えればデレと同じ考えにいきつくはずだ。

現在、ゴミとして排出されるものの殆どが自然に溶け還るような物質で作られているため、
環境汚染についてピンとこないのはわからなくもない。
だとしても、だ。
ゴミと死んだ魚。そして、痛烈なまでに鋭い言葉。

過去の人類と感性や生活が変わっているとはいえ、
察しがつきそうなものだろうに。

(´・ω・`)「おーい、もうチャイムがなるぞー」
  _
( ゚∀゚)「っと、んじゃ、また次の休憩で!」

次は生物の時間だ。
少し早めにやってきた担当教員、ショボンに声をかけられ、
ジョルジュはそそくさと自分の席へ帰っていく。

授業中、あまりにも騒がしい彼の席は、先頭の列、ど真ん中。
何度席替えをしようとも動くことのない特等席として常にそこにあった。

87 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:39:07.729 ID:sLW7pJSn0
  
(´・ω・`)「それでは今日の授業を始める」

ショボンは黒板に蝶と鼠を描きだす。
上手いとはいえないが、特徴を捉えたいい絵だといえた。

(´・ω・`)「この間の授業までに、植物の話や生物の定義について
     話してきたね。今日からは動物について話していくよ」

彼は描いた絵の下に、無脊椎動物、脊椎動物、という単語を足す。
しばらくの間、その両者についての説明が行われた。
生徒達は各々、描かれた図をノートに記入していく。
電子の音と、液晶に打ち込んでいくタップ音が静かに響いていた。

(´・ω・`)「基本的に生物は三つの欲を持っているとされている。
     さて、誰にしようかな……」

クラスをぐるっと見回したショボンは、
教室の隅の席にいるモララーへ目を向ける。

(´・ω・`)「じゃあ、モララー君。
     わからなくてもいいから、答えてみて」

( ・∀・)「えっと……食欲?」

(´・ω・`)「正解」

88 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:39:28.354 ID:sLW7pJSn0
  
(´・ω・`)「じゃあ、次はジョルジュ」
  _
( ゚∀゚)「性欲!」

(´・ω・`)「正解。でも、そんな大きな声はいらなかったね」
  _
( ゚∀゚)「だって、性欲ねぇと子孫繁栄できねぇもんな!」

(´・ω・`)「ちょっと黙ろうか」

わざわざ席を立って、大きな声で答えた彼に、
ショボンはため息をつく。

答えそのものは正解であるし、
生物としての本能である「性欲」に恥じらいを感じる必要はない。

ただ、一般的にいえば、性的な言葉を
公共の場で口にするということは憚られて然るべきこと。
その感覚をジョルジュには一刻も早く身につけてもらいたいものだ。

(´・ω・`)「じゃあ、最後はデレさん」

ζ(゚ー゚;ζ「えっ!」

89 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:40:13.335 ID:sLW7pJSn0
  
デレは驚愕の声を上げる。
答えがわからなかったわけではない。

実に勤勉な彼女は、毎日の予習復習をかかさないのだ。
故に、答えも知っている。
しかしながら、その答えを自身が言うとなれば話はまた変わる。

ζ(゚、゚*ζ「……睡眠欲」

眠らないのはヒトと機械と、極一部の生物だけ。
鳥類、哺乳類、爬虫類、両生類、魚類……。
睡眠を必要としない種は多い。

極一部の生物がそれを不要としているものの、
まだまだ睡眠を必須とする生き物の方が大多数を占めている。

(´・ω・`)「正解。
     一年の最後でもやるけど、
     昔はヒトにもその欲求があったんだよね。
     今じゃすっかり失われて、眠るのはデレさんだけになってるけど」

ζ(゚、゚*ζ「そう、ですね」

(;´・ω・`)「あ、ごめん。もしかして、答えたくなかった?」

ζ(゚、゚*ζ「いいえ。別に、そういうわけじゃないんですけど」

90 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:44:24.655 ID:sLW7pJSn0
   
答えたくなかったわけではない。
ただ、口にしてしまうことで、自分が他人とは違うのだ、
ということを改めて認識しなければいけなかったことを苦に思っているだけ。

クラスメイトも先生も、両親も、皆みんな受け入れてくれている。
受け入れきれていないのは、当の本人であるデレだけだ。

(´・ω・`)「……とにかく、他の生物には睡眠、というものが残っているんだ。
     何故、現代まで彼らが睡眠を必要とする進化を続けてきたのか、
     生きるために睡眠を必要とする理由はなにか。
     全てが謎のままだ」

高度な文明と科学を得た現代においても、
不明瞭なことは山のように存在している。

(´・ω・`)「まあ、進化の全てが合理的であるわけではないからね。
     動物達は人間と違って時計を持たない分、
     睡眠によって時間の管理をしている、という説が今は有力だよ」

そこまで話したところで、授業の本筋である、動物の体の作りや、
進化の過程、といったことに話が戻っていく。
デレも落ち着かぬ気持ちを切り替え、ショボンの講義に耳を傾けていた。

91 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:45:14.863 ID:sLW7pJSn0
  
夏が盛ると中学校は長期休暇に入る。
これは遥か昔からの慣習で、暑い部屋に子供を閉じ込めておくのは
非常に危険である、という考えから生まれた休暇だ。

室内温度の設定だけではなく、
着る服や装飾品によって外での気温にも対応できるようになった現代では、
これほど長い休みは必要とされていない。

しかし、わざわざ失くす必要もないだろう、という考えのもと、
今の時代の子供達にも長い休みが与えられているのだ。
  _
( ゚∀゚)「海ー!」

川 ゚ -゚)「おぉ、まだ綺麗だな」

ζ(゚ー゚*ζ「すっごーい!」

(;・∀・)「お前ら! 準備体操!」

近隣の海にまでやってきた四人のうち三人は、
我先にと海水の中へ身を投じていく。

盛大な水飛沫と共に、緩やかな波が砂浜へと押し寄せる。
三人を止めようとしていたモララーは、頭から飛沫を被る結果となった。

92 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:46:30.976 ID:sLW7pJSn0
  
( #・∀・)「ボクの話を少しは聞けよ」
  _
(メ゚∀゚)「何でオレだけ殴られたの?」

( ・∀・)「目立つから」
  _
(メ゚∀゚)「ヤダ、理不尽」

頭の天辺からつま先まで、
仲良く水浸しになった四人は波際で軽く体を伸ばす。

何かあれば近くに設置されているロボットが助けてくれるとはいえ、
平穏無事に遊びを楽しめるのであれば、それに越したことはないだろう。

ζ(゚ー゚*ζ「よーし! リ・トライ!」

準備運動を終えたデレは少しだけ海から距離をとった。
オレンジを基調としたフリルで構成されたセパレートの水着が、
風と彼女の跳ねるような動きによって緩やかに揺れる。

川 ゚ -゚)「スリー!」
  _
( ゚∀゚)「ツー!」

( ・∀・)「え? あ、ワン!」

93 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:47:04.578 ID:sLW7pJSn0
  
ζ(>ワ<*ζ「ゴー!」

デレの細い足が砂を蹴り上げる。
一、二、と、きめ細かな砂に足を埋めては再び蹴り上げ、海へ近づいていく。

波の一つ手前で彼女は力一杯飛び上がった。

( ・∀-)そ「うわっ!」

ドボン、という音と共に、
先ほどと同等の水飛沫が上がる。

ζ(゚ー゚*ζ「どう?」
  _
( ゚∀゚)「百点!」

川 ゚ -゚)「実にいい飛び込みだった」

水面から顔を出したデレが尋ねると、
二人は頭の上に大きな丸を作って応える。

(;・∀・)「もー、危ないよ?」

ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫、大丈夫!」

94 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:47:56.697 ID:sLW7pJSn0
   
( ・∀・)「デレちゃんって意外と思い切りがいいというか、
      活発というか……。色々すごいよねぇ」

ζ(゚ー゚*ζ「え、アタシ大人しそう?」

黒の海パンを装備したモララーは、
しみじみとした様子で言った。

( ・∀・)「窓辺で小説とか読んでそうなイメージ」
  _
( ゚∀゚)「あ、わかる」

彼の言葉に頷いたのは、
黄色をメインにしたド派手な海パンを履いているジョルジュだった。
  _
( ゚∀゚)「始めましてのときなんてさ、
    キョドキョドして、他人と接しなれてません!
    インドア派です! って雰囲気バリバリだったのになぁ」

川 ゚ -゚)「ひと月も経たないうちに馴染んでたけどな」
  _
( ゚∀゚)「確かにそーだった」

肯定の言葉を出しつつも、ジョルジュの目線はクールの胸元に寄せられている。
デレとは違い、発達を見せ始めている胸はわずかにふくらみをみせており、
黒の水着を魅惑的に張り詰めさせていた。

95 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:48:43.700 ID:sLW7pJSn0
   
川 ゚ -゚)「体育の成績は平均だったが、
     いつも楽しそうにやっているのは好感がわく」

ζ(゚ー゚*ζ「えへへ。走ったりするのは好きだよ」
  _
(メ゚∀゚)「また殴られた」

( ・∀・)「自業自得って言葉知ってる?」

ジョルジュは頬を押さえる。
あからさまな視線がクールの怒りを買い、
彼女から熱烈なストレートを頂いてしまったのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「昔は本を読むのも好きだったんだけどね」

川 ゚ -゚)「今は嫌いなのか?」

ζ(゚ー゚*ζ「そんなことないよ!
       ただ……」

( ・∀・)「ただ?」

わずかにデレが言い澱む。
モララーが先を促すと、彼女は小さな苦笑いを顔に浮かべた。

ζ(゚ー゚*ζ「……一人じゃなくなったから、
       みんなと外で遊ぶほうが楽しいな、って」

96 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:49:17.310 ID:sLW7pJSn0
  _
( ゚∀゚)「デレ……!」

軟禁されていたわけではないけれど、
何となく同世代の子供と接することができなかった。

楽しげに学校の話をされたとしても、
返す言葉がないのだと気づいてしまったのだ。
かといって、一人きりで遊ぶには外は広すぎる。

周りが楽しく遊んでいるのに、
仲間に入れない、というのは辛いことだ。

川 ゚ -゚)「遊ぼうか」

( ・∀・)「そうだね。何しようか」

クールがデレの手を引き、
モララーは彼女の隣に立つ。
  _
( ゚∀゚)「サーフボード借りるか?」

ζ(゚ー゚*ζ「あれってコツがいるんじゃないの?」

( ・∀・)「立つのがちょっとね。
      でも基本的にはセンサーが波を捕まえてくれるし、
      すっごく楽しいよ」

川 ゚ -゚)「私は未経験だ。
     だが、楽しそうだな」

99 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:50:03.998 ID:sLW7pJSn0
   
ワイワイと四人は言葉を交わしながら、
少し離れたところに建っている店舗へと足を運ぶ。
今のところはサーフボードのレンタルが最大の目的となっているが、
必要となれば何でも揃うので、ボールやら小型船やらのレンタルも視野に入れておく。

ζ(^ー^*ζ「サーフィンは初めてだから楽しみ!」

デレは一つ、嘘をついた。

友達が出来たから本を読まなくなったのではない。
彼女は、読書を楽しい、と思えなくなったから、それを手に取らなくなってしまったのだ。

幼い頃はどれも目新しく、
自分の知らない世界を作り上げてくれる本が大好きだった。

しかし、デレは気づいてしまった。
本の中にある世界はどれもよく似ていて、代わり映えがない。
時として、同じ本を読んでしまったのではないか、と錯覚してしまうことすらあった。

ならば、荒唐無稽で、予測のつかない夢を思い返しているほうが、
ずっとずっと楽しかった。
  _
( ゚∀゚)「楽しみっていえば、モララーはあれ買った?」

( ・∀・)「どれだよ」

100 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:51:23.709 ID:sLW7pJSn0
  _
( ゚∀゚)「少年ホライゾン」

( ・∀・)「あぁ、買ったよ」
  _
( ゚∀゚)「今週、メッチャクチャおもしろくなかった?」

彼らが話しているのは、週刊の漫画雑誌のことだ。
十代の男子向けに作られ、恋愛や冒険、
わずかなエロスといったデータによって生成された漫画が、
毎週おおよそ五百ページほど掲載されている。

( ・∀・)「わかる。来週が楽しみだよなぁ」

川 ゚ -゚)「どんなのだったんだ?」
  _
( ゚∀゚)「お前買ってねぇのかよ!」

ジョルジュがニヤニヤ笑いながらクールに問いかける。

川 ゚ -゚)「私は月刊オムライス派だ」

月刊オムライスは少女向けの漫画雑誌。
苦しみを乗り越え、最後には主人公が報われる、
といったパターンの少女漫画ばかりだが、人気は高い。
  _
( ゚∀゚)「『ブンロット』って漫画がさ、
    ヒロインを救出した、ってところで、
    背後から謎の影が――! って終わり方してたんだよ」

川 ゚ -゚)「それは……気になるな」

101 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:52:04.240 ID:sLW7pJSn0
   
だっろー、と叫ぶジョルジュを横目に、
デレは胸中でひっそりと呟く。

その影は味方の影で、主人公とヒロインはほっと一息をつく。
その途端、敵のアジトが崩れ始め、三人は共に脱出に向けて走り出す。

いつも通りの王道だ。

王道が悪いとはいわない。
多くを楽しませられるからこそ、王を冠することができる展開だ。

しかしながら、この広い世界に、
それしか溢れていない、というのも些か問題だろう。
もう少しひねた作品があってもいいだろうに。

やはり、感情なきロボットにそこまで求めるのは酷というものなのだろうか。

ζ(゚ー゚*ζ「あ、ほらほらサーフボード選ぼうよ!」
  _
( ゚∀゚)「よっしゃ。オレ、一番星!」

デレが店内を指差すと、真っ先にジョルジュが飛び込み、
大きな星が一つ描かれたサーフボードを手に取った。

( ・∀・)「ボクは何でもいいや」

川 ゚ -゚)「私はこの青で」

103 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:53:33.537 ID:sLW7pJSn0
  
デレは花柄を、モララーは黒に赤のラインが入ったボードを選んだ。
  _
( ゚∀゚)「っしゃ、行くぞ!」

ζ(゚ー゚*ζ「おーう!」

二人は砂浜を駆け、ザバザバと波を掻き分ける。
いくらセンサーが波を捕まえてくれるとはいっても、
浅瀬で楽しむことができるようなスポーツではない。
沖にまでは自力でいかなければならないのが、サーフィンの辛いところだ。

ζ(゚ー゚*ζ「どうせなら、上に乗ってるだけで前にも
      進んでくれるようなボードにしてくれたらいいのにねぇ」
  _
( ゚∀゚)「それって、船でよくね?」

ζ(゚д゚*ζ「えー? 波のあるところまで自動で行ってくれるとか、
      便利でいいと思うんだけどなぁ」

( ・∀・)「一理在る」

二人の右隣に並んだモララーが会話に割り込んでくる。
見れば、彼は自分達の後方を指差していた。

( ・∀・)「そうであったなら、クーがあんなに苦労することはなかった」
  _
( ゚∀゚)「え」

104 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:54:52.814 ID:sLW7pJSn0
  
川  д )「ま、まって……」
  _
( ゚∀゚)「あっちゃー」

足がつく場所はとうに越えた。
今、三人はボードを目の前に浮かせながらバタ足だけで進んでいるような状態だ。
それがクールには堪えたらしい。

顔をうつむけ、肩を上下にしている様子を見れば、
彼女がどれほど極限的な状況に身を置いているのか理解できてしまう。

ζ(゚ー゚;ζ「く、クーちゃん!」

慌ててデレが近づく。
  _
( ゚∀゚)「こりゃ先は長そうだな」

( ・∀・)「無理そうならボール遊びに切り替えよう」
  _
( ゚∀゚)「それがよさそうだ」

二人は顔を見合わせ、肩をすくめてからデレの後を追う。
いくらなんでも、クールを置いて先へ行くわけにはいかない。

105 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:56:09.240 ID:sLW7pJSn0
  
楽しい夏が終われば、次にやってくるのは文化祭。
生徒達は休み明けのテストに苦しみながらも、
次のお祭り騒ぎに向け、着々と準備を進めていく。

ζ(゚ー゚*ζ「ワッフル屋かぁ」

( ・∀・)「嫌い?」

ζ(´ー`*ζ「好きすぎて困ってる~」
  _
( ゚∀゚)「やーい、デブー!」

ζ(゚ー゚#ζ「あ?」
 _
(;゚∀゚)「ヒッ」

普段、ほわほわとしている彼女から、途方もない怒気を感じ取り、
ジョルジュは思わず後ずさりをする。

彼らの様子を目にしたクラスメイト達からは、
暖かい視線を頂くこととなった。

川 ゚ -゚)「今日、材料の買出しに行くが、
    良かったらデレも一緒に行ってくれないか?
    色んな味を試してみたいから、一人でも多く発案者が欲しい」

106 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:56:39.372 ID:sLW7pJSn0
  
クラスにおけるクールの役割は、
材料集めと新商品開発だ。

つまり、大量の材料を集め、
それらを適当にミックスした生地やらソースを作りだし、
商品として置けるものを探し出せ、とのことだ。

生贄、もとい、考える頭は一つでも多いに限る。
そこで、彼女はデレを指名したのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「うーん、ごめん。
       今日はやめておくね」

川 ゚ -゚)「そうか、残念だ」
  _
( ゚∀゚)「何々? デレ、用事か? 彼氏か?」

付き合いの良い部類に入っていたデレが、
クールの誘いを断った、ということに対してジョルジュはいらぬ詮索をする。

恋の話を聞きたい、などという可愛らしい感情ではなく、
好奇心旺盛な出歯亀、と評すのが似合いだ。

ζ(゚ー゚*ζ「違う違う」

デレは軽く手を横に振る。

107 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:57:04.789 ID:sLW7pJSn0
  
ζ(゚ー゚*ζ「最近、ちょっと寝不足なの。
       だから、早めに帰って早めに寝ようかなぁ、って」

( ・∀・)「あー」

気のない返事になってしまったが、
それも致しかたのないこと。

モララーには寝不足の感覚がわからない。
大変なんだろう、ということだけはデレから聞かされて知っているが、
共感も同意も、ツッコミすらできやしない。
  _
( ゚∀゚)「最近、多くね?」

ζ(゚ー゚*ζ「冬が近づいて、日が落ちるのが早くなると、
       同じように眠くなる時間も早くなるんだよねぇ……」

川 ゚ -゚)「なら冬は冬眠でもするのか?」

ζ(゚ー゚*ζ「流石にそこまではしないよ」

( ・∀・)「何にせよ、眠るってのは大変だね」

ζ(゚ー゚*ζ「うん。もっとみんなと遊びたいのに」
  _
( ゚∀゚)「お前が寝てる間、オレ達がたーっくさん遊んでてやるよ!」

ζ(゚、゚*ζ「もー!」

108 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:58:01.072 ID:sLW7pJSn0
  
そんな風に時間が過ぎ、
行われた文化祭は中々の成功を収めた。

中でも、デレが時間の合間に作ったキュウイソースが好評で、
学校中からそれを目当てに客がやってくる程だった。

打ち上げには当然、デレも参加したのだが、
結局最後まで参加し続けることはできず、
無念の帰宅を果たすこととなる。

もっとも、クラスの打ち上げは翌日の昼まで続いていた、
というのだから、どうあがいてもデレが最後まで参加することは不可能だったといえる。
  _
( ゚∀゚)「最後の方なんて、お前を讃える会ができてたぞ」

ζ(゚、゚;ζ「何それ」

川 ゚ -゚)「名前のままだが」

( ・∀・)「デレちゃんのおかげで、うちのクラスが表彰されたからね。
      キミはボクらのヒーローになったってわけ」

ζ(゚ー゚;ζ「たかがソース一つで大げさな……」

思わず恐縮してしまう。
昔、キュウイジャムなるものの作り方を見た記憶があったので、
それを応用して作っただけのソースだ。
過剰評価にも程があるというものだろう。

109 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:58:36.799 ID:sLW7pJSn0
  _
( ゚∀゚)「いいじゃん。褒められてんだからさ」

ζ(゚ー゚*ζ「それは嬉しいけど」

実力以上の評価というのは、どうにもむず痒い。
デレは軽く頬を掻く。

( ・∀・)「実際問題、デレちゃんはすごいよ。
      そんな発想が! って感じのことよく言うし」

ζ(゚、゚*ζ「それって褒めてる?」

川 ゚ -゚)「無論だ」

想定の斜め上、と言われてもあまり嬉しさはない。
ただでさえ、デレは周りの人間とは根本的な部分で相違がある。
できることならば、他の点においては平々凡々でいたい気持ちがあった。
  _
( ゚∀゚)「お前といると飽きないしな」

ζ(゚、゚*ζ「いった!」

ジョルジュに背を叩かれ、デレは思わずのけぞる。
軽く叩いたつもりだったのだろうけれど、
男子の力で叩かれるとそれなりに痛い。
  _
( ゚∀゚)「あ、悪い」

ζ(゚ー゚*ζ「もー! 仕返しだ!」

一発では足りず、二発、三発と殴ってやる。
その様子をクールとモララーは笑いながら眺めているのであった。

111 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 22:59:14.108 ID:sLW7pJSn0
  
(´・ω・`)「今日はいよいよ、睡眠についての授業を行うよ」

正月休みが終わり、中学一年もそろそろ終わり、という時期、
順調に進んだショボンの授業は、睡眠の単元に入った。

(´・ω・`)「まず、昔、ボクらヒトも眠っていました。
     そうじゃなかった、って説もあったってのは、もう聞いたかな」
  _
( ゚∀゚)「デルちゃんが言ってたな」

(´・ω・`)「デルタ先生、ね」

相も変わらずな席についているジョルジュに
ショボンは嗜めるように言葉を返す。
しかし、その言葉も届いていないのか、
彼は謝罪もなくニコニコと前を手の中にあるペンを回すばかり。

(´・ω・`)「……とにかく、だ。
     ヒトは睡眠を必要としない進化を遂げました。
     何故でしょうか。はい、ドクオ君」

('A`)「え、っと……」

ドクオは視線を彷徨わせながら考える。
睡眠を必要としない自分と、睡眠を必要とするデレを比べてみた。
何が違うのか。
どのような利点があったか。

('A`)「……時間が、たくさん、使える、から?」

112 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:00:39.567 ID:sLW7pJSn0
  
(´・ω・`)「なるほど。それもあるかもしれないね。
     実は、この問題も答えは明らかになっていないんだ」

どの時点からヒトが睡眠を必要としなくなったのか、
その過程すら現代まで伝わっていない。
進化の理由などわかるはずもなかった。

(´・ω・`)「これは歴史の授業でまた聞くことになるだろうけど、
     昔の論文や研究書って残っていないものが多いんだ。
     おかげで、つい最近までヒトが眠っていたかどうかでさえ
     答えが見つかっていなかった、ってわけ」

( ・∀・)「デレちゃんを調べてもわからないんですか?」

ζ(゚ー゚*ζ「えっ」

調べる、という言葉に悪意は見えない。
だが、一個人としてのデレからしてみれば、
自分の体を好き勝手に調べられる、というのは、決して楽しくない事態だ。

(´・ω・`)「わからない。
     ヒトの睡眠とその他の生物の睡眠が殆ど同じだった、
     ってことくらいしかね」

デレの体は進化前の状態であり、
過程や、当時の精神状態をそのまま持って生まれたわけではない。
彼女の体一つをどれだけ調べてみても、
かつての人間の全てを知ることはできないだろう。

113 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:01:09.873 ID:sLW7pJSn0
   
(´・ω・`)「睡眠には大きく二つの眠りがあって、
     浅い眠りと深い眠り」

レム、とノンレム、の文字が書き出される。

(´・ω・`)「浅い眠りの時、脳の一部は活性化していて、
     眼球が動き、本人は夢と呼ばれるものを見ている状態になっている、
     ってことで合っているかな?」

ζ(゚ー゚*ζ「た、たぶん……」

ショボンの質問に、デレは曖昧な答えを返す。
彼女は目を閉じて夢を見ているだけであって、
自身の眼球の動きや、眠りのシステムについて詳しいわけではない。
科学的な質問は専門外にも程がある。

(´・ω・`)「かつてはこの夢を使って占いが行われていたらしいよ。
     どんな占いなのかまではボクも知らないけど」

川 ゚ -゚)「占い?」

( ・∀・)「ほら、歴史でやったじゃん。
      骨の占いとか、星の占いとか」
  _
( ゚∀゚)「あの意味わっかんねぇやつな」

114 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:01:50.656 ID:sLW7pJSn0
  
その気になりさえすれば、全ての事象に関して制御が可能になった現代では、
占いなどという根拠の欠片もないものは残っていない。

歴史の授業で聞いたような記憶もあるが、
嘘くさい、という印象を残すばかりで、細かなことを覚えている生徒はいなかった。

唯一、デレだけが、夢のある話だ、と感じはしたのだが、
記憶はそこまでで止まっている。

(´・ω・`)「科学が発達しきっていなかった時代だから、
     多少の不合理や非現実的な考え方は仕方がないよ。
     それこそ、宗教なんてその代表格だったわけだし」

ζ(゚ー゚*ζ「宗教?」

(´・ω・`)「あれ? まだそこまでやってない?」

ショボンは首を傾げるが、
本当にそうしたいのは生徒達のほうだ。
急に見知らぬ単語を出されても困る。

(´・ω・`)「昔はね、カミサマってのを信じてたんだって。
     悪いことがあるとカミサマが助けてくれたり、
     辛いことがあるのはカミサマの試練なんだ、って信じたり」
  _
( ゚∀゚)「結局、カミサマって何なんだ?」

115 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:02:21.026 ID:sLW7pJSn0
  
(´・ω・`)「そこまではボクも知らないよ。
     詳しく知りたいなら、ミルナ先生に聞いてごらん」

歴史を担当としているミルナは寡黙で有名だ。
授業でも横道にそれた話は絶対にしない。
生徒達の私語に注意をすることもなく、
常にマイペースに授業を進め、想定通りの場所まで続ける。

際立った人気はないものの、
密やかな好感度は高め、といった風な先生だ。
  _
( ゚∀゚)「や、そこまでは別に」

川 ゚ -゚)「どうせ授業でやるだろ」

(´・ω・`)「うん。だと思うよ。
     当時の争いを説明するのに必須だし」

( ・∀・)「領土争いに?」

(´・ω・`)「それだけじゃないんだよ。
     というか、そろそろボクは生物の話がしたい。
     歴史は専門外なんだって」
  _
( ゚∀゚)「せんせー! 戦争って何で起きてたんですかー!」

(´・ω・`)「もう、知らないってば。
     そういうことは専門の先生に聞いて」

116 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:02:52.627 ID:sLW7pJSn0
   

  _
( ゚∀゚)「今日でこのクラスともお別れだなぁ」

ζ(゚ー゚*ζ「そう考えると寂しいね。
       同じ学校にいるのには変わりないのに」

三月も半ば。
長くも短い中学一年生に終わりが訪れた。

デレは睡眠というハンデを背負いながらも、
行事や授業、全てを滞りなくこなすことができた。
友人もたくさんできた。
中でも、ジョルジュやクール、モララーは一番の友達といっていい。

同じ学校にいるとはいえ、彼らと違うクラスになってしまうのは、
とても寂しく、悲しいことだといえた。

ζ(゚ー゚*ζ「また、みんなで一緒に遊ぼうね」
  _
( ゚∀゚)「それなんだけどよぉ」

ジョルジュは乱暴に頭を掻く。
何か言いたいらしいが、上手く言葉にならないようだ。

ζ(゚ー゚*ζ「ジョルジュ君?」
  _
( ゚∀゚)「みんなで、ってのもいいけどさ」

快活な眉がわずかに下がっている。
いつも真っ直ぐで強気な目が、今日ばかりは何故か弱々しく見えた。

117 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:03:15.507 ID:sLW7pJSn0
  


  _
( ゚∀゚)「オレと、ってのは、駄目?」


ζ(゚、゚*ζ「え?」



  

119 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:04:29.606 ID:sLW7pJSn0
  _,
( -∀-)「……だ、だからさ」

ジョルジュは一度、強く瞼を閉じる。
眉間にしわが寄った。
  _
( //∀/)「つ、付き合ってください、って、こと、
      なんだ、けど」

瞬間、ジョルジュの顔が真っ赤に染まる。
林檎よりも、夕日よりも赤い。

ζ(/、//ζ「え、え……。
      えぇ……?」

つられてデレの顔も赤く染まる。
彼女もまた、この世に存在する何よりも赤い顔を見せていた。
  _
( //∀/)「返事は!」

ζ(/、//ζ「ちょっと待ってよぉ!」

急かされ、デレは反発の声を上げる。
向こうは心の準備を行った後の告白だったのだろうけれど、
デレからしてみれば晴天の霹靂だ。

動揺しないはずがない。

120 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:04:57.142 ID:sLW7pJSn0
   
ζ(/、//ζ「えっと、えっと……」
  _
( //∀/)「まだかよ!」

二人っきりの教室で、
真っ赤な顔をした男女が顔をうつむかせ、
もじもじとしている。

それだけで、結果なんてわかりそうなものだが、
本人達にはそれがわからない。

当事者というのは、自身を客観的に見れないものだ。
特に、顔を真っ赤にして、正常な思考回路を失っているのならば尚更。

ζ(/ー//ζ「よ、よろしく、お願いします……」
  _
( *゚∀゚)「えっ、そ、それって」

ζ(/、//ζ「これ以上は無理!
       察して! お願い!」
  _
( *゚∀゚)「や、やった!!」

ジョルジュは飛び跳ね、
デレはさらに顔をうつむかせる。
そのまま小さくなって消えてしまいそうな勢いだ。

121 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:05:17.828 ID:sLW7pJSn0
  
川 ゚ -゚)「で、付き合い始めた、と」

( ・∀・)「えー、本当にいいの?
      後悔しない?」

交際開始を伝えると、
二人はあっさりとそれを受け入れた。
もともと、デレとジョルジュが互いに想いを寄せつつあることに
気がついていたらしい。
  _
( ゚∀゚)「デレはこれからも色々大変だろうからな。
    オレが支えてやるんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「よろしくね!」

( ・∀・)「まあ、キミらが仲良しなのはいいことだよ。
      ジョルジュ、ちゃんと大事にしてあげるんだよ」
  _
( ゚∀゚)「わかってるって!」

川 ゚ -゚)「泣かせたら殴る。
     浮気したらちょん切る」
 _
(;゚∀゚)「こわっ」

122 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:05:55.174 ID:sLW7pJSn0
  
ζ(゚ー゚*ζ「というわけで彼氏です」
  _
( ゚∀゚)「よろしくお願いします」
  _,
( ^ω^)「は?」

ξ゚⊿゚)ξ「あらあら」

交際開始から一ヶ月が経過していた。

たかが恋人。
わざわざ紹介する必要もあるまい、と
デレは思っていたのだが、ジョルジュたっての希望により、
両親に紹介することとなった。

ツンの方は口元に手をあて、
どこか嬉しそうにあらあら、と言うばかりであったが、
父親であるブーンは真逆の反応を見せていた。

声は低く、眉は寄せられ、
歓迎どころか拒絶の意思しか感じられない。

ζ(゚ー゚;ζ「お、お父さん」
  _,
( ^ω^)「いやいや。
      度胸は認めるよ? 度胸は。
      でも、それだけだよねぇ」

123 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:06:38.722 ID:sLW7pJSn0
  _
( ゚∀゚)「ボクは娘さんを幸せにします」
  _,
( ^ω^)「中学生の分際で何言ってるんだお?
      ぶん殴られたいのかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「そりゃあんたよ」

(  ω )「ぐあ」

全身から攻撃的なオーラを出しているブーンの顔面に、
ツンの拳がめり込む。

ξ゚⊿゚)ξ「親馬鹿なのはいいけど、
      ちょっとは相手も認めてあげなさいな。
      デレが好きになった子なんだから」
  _
( *゚∀゚)「あ、ありがとうございます!」

ξ゚⊿゚)ξ「でも、その子は大変よ?
      普通の子とは少し違うし、心も繊細」
  _
( ゚∀゚)「わかっています」

ξ゚⊿゚)ξ「それでもいいの?」
  _
( ゚∀゚)「そんなデレだからこそ、です」

124 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:07:15.713 ID:sLW7pJSn0
  
ζ(゚ー゚*ζ「ジョルジュ君……」

ξ゚ー゚)ξ「その心意気や良し!
      また遊びにいらっしゃい。
      あの馬鹿はともかく、私は歓迎するわ」

ツンは笑顔で頷く。
自身の娘が特殊である故に、
その理解者である人間に対する信頼度は大きくなる。
  _
( ゚∀゚)「義父さんにも認めてもらえるよう、頑張ります!」

床の辺りから、
お前に義父さんと呼ばれる筋合いはない、という声が聞こえてきたが、
誰一人としてそれに反応することはなかった。

ζ(゚ー゚*ζ「お父さんのことはアタシとお母さんに任せて!
       絶対にジョルジュ君のことを認めさせるから」
  _
( ゚∀゚)「そりゃ頼もしいこった」

ζ(゚ー゚*ζ「そしたら、一緒に晩御飯食べようね」
  _
( ゚∀゚)「デレの手作りか?」

ζ(゚ワ゚*ζ「それまでにお料理覚えておくね!」

125 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:07:55.779 ID:sLW7pJSn0
  
ζ(゚ー゚*ζ「デート!」

川;゚ -゚)「急にどうした」

ζ(゚ー゚*ζ「ジョルジュ君とデートに行きたい」

川 ゚ -゚)「あぁ、それは良いな」

クラスは離れてしまったが、
今も交流の深いクール。
デレは下校途中、彼女にデートの相談を持ち出した。

ζ(゚ー゚*ζ「夜の間は一緒にいられないから、
       その分、お休みの日に色々したいの」

川 ゚ -゚)「そうか」

ζ(゚ー゚*ζ「だからデートしたいんだけど、
       どこか良いところしらない?」

川 ゚ -゚)「彼氏いない暦と年齢がイコールで繋がる私に聞くとはいい度胸だ」

ζ(゚ー゚*ζ「クーちゃんのはできない、じゃなくて、作らない、でしょ」

126 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:08:36.662 ID:sLW7pJSn0
  
常に冷静沈着。
整った顔に長身でモデルのような体型をしているクールは、
当然のごとく男子に人気がある。

しかしながら、彼女のお眼鏡にかなうものはおらず、
今のところ彼女に彼氏ができた、という話は一切ない。

川 ゚ -゚)「だとしても、だ。
     デートに良い場所なんて記憶にないぞ」

ζ(゚ぺ*ζ「うーん……」

デレの方としても、恋人ができたのはジョルジュが初めてであるし、
行動時間に限りがあるため、周辺施設に関しても疎い面がちらほら見受けられる。
二人っきりで楽しむに相応しい場所を知っているはずがなかった。

川 ゚ -゚)「ミセリとかに聞いてみたらどうだ?
     あいつはそっち方面に関しては中々の情報通だぞ」

ζ(゚ー゚*ζ「そっか! 確かにミセリちゃんなら色々知ってそう」

彼女も現在、違うクラスにいるのだが、
誰とでも親しい彼女なので今も交流があった。
ふらっと教室へ赴いたとしても、嫌な顔一つせずに受け入れてくれることだろう。

127 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:09:24.192 ID:sLW7pJSn0
  
ミセ*゚ー゚)リ「ふーん。ジョルジュとデートねぇ」

翌日、デレはさっそくミセリのもとを訪れた。
予想に違わず、突然やってきたデレを彼女は笑顔で迎え入れてくれる。

ζ(゚ー゚*ζ「良いところないかな?」

ミセ*゚ー゚)リ「あるよあるよー」

そういいながら、彼女は携帯電話を取り出す。
手のひらサイズ、真四角のそれは最新機種だ。
真横に取り付けられたスイッチを押せば、
電子画面が浮かび上がり、指で簡単操作が可能となっている。

ミセ*゚ー゚)リ「この辺りだと、まずは水族館」

表示されたデータには、ムードや満足度、楽しめる度、がABC評価されており、
それとは別に価格や注意事項、特質、といった点が記載されていた。
水族館はムードにA+、満足度と楽しめる度にはAがついている。
価格も中学生のお小遣いで充分な金額だ。

ミセ*゚ー゚)リ「あとは、植物園とか、展望台とかあるけど、
      ジョルジュ相手だとショーとかのある水族館がオススメかな」

ζ(゚ー゚*ζ「わぁ、たくさんあるんだね……」

デート場所候補が次々に表示されていく。
どれも評価は高いが、ミセリの言う通り、
ジョルジュのようなお騒がせムードメーカータイプには不向きなものが多い。

128 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:10:05.790 ID:sLW7pJSn0
  
ζ(^ー^*ζ「ありがとう! 参考にするね!」

ミセ*゚ー゚)リ「いえいえ、デート、頑張ってね」

ζ(゚ー゚*ζ「うん!」

あと数分で休み時間も終わる。
デレはミセリから候補のデータをいくつか送ってもらい、教室を後にした。
  _
( ゚∀゚)「よっ」

ζ(゚ー゚*ζ「あ! ジョルジュ君。どうしたの?」
  _
( ゚∀゚)「ダチんとこからの帰り」

現在、残念ながら二人は違うクラスだ。
交友関係も一年生時よりもぐっと広がり、
休み時間や放課後ともなれば、各々の友人との付き合いもある。

ζ(゚ー゚*ζ「次の授業、移動じゃない?
       大丈夫?」
  _
( ゚∀゚)「今日は移動ないから大丈夫ですー」

ζ(゚ー゚*ζ「そんなこと行って、この間、日付勘違いしてて、
       慌てて校庭に出て行ったじゃない」
 _
(;゚∀゚)「そ、それはそれだよ」

130 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:11:03.794 ID:sLW7pJSn0
  
ζ(゚ー゚*ζ「授業はちゃんと受けなくっちゃ駄目だよ?」
  _
( ゚∀゚)「デレは真面目だもんなぁ……」

ζ(゚、゚*ζ「ジョルジュ君が不真面目なの!」
  _
( ゚∀゚)「んなことねぇよ。
    だってさ、お前ってオレよりも活動時間短いじゃん?
    なのにオレよりメッチャ勉強しててさ、偉いよ」

ζ(゚、゚*ζ「…………」

ジョルジュは心の底から褒めてくれている。
だが、だからこそ、デレは無言になるしかない。

起きていられる時間が短いのに、と言われるのは、
少しばかり不服だった。

活動時間が何だというのだ。
仮に、デレが睡眠を必要としない人間だったとしよう。

きっと、彼女は今と同じくらい勉強をする。
残りの時間に遊びを詰め込むだけだ。

本当は、彼女だって遊びたい。
みんなと同じように、次の日がくるまで遊び通して、
そのまま学校に行きたい。
  _
( ゚∀゚)「っと、チャイムだ。
     じゃあオレも行くわ」

ζ(゚、゚*ζ「……うん。また、後でね」

131 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:11:38.477 ID:sLW7pJSn0
  
( ゚д゚ )「河合、席につけー」

ζ(゚ー゚;ζ「あ、はい!」

教室に戻ると、既にミルナが教卓の前に立っていた。
デレは小走りで自分の席へつく。

( ゚д゚ )「それでは、今日の授業を始めるぞ」

生徒達が歴史の教科書アプリを開く。
他のクラスと比べ、デレのいるクラスは大人しい生徒が多いらしく、
どの科目の授業であっても、比較的静かに進行していた。

( ゚д゚ )「今日から消失期に入るぞ」

中学一年から今までにかけて、
歴史の授業では史料が残っている時代について学んできた。
今日からは、それらが殆ど残っていない時代に入っていく。

( ゚д゚ )「今まで学んできた時代では、石や壁に彫られた絵や文字。
    保存状態の良い紙や布といったものに印刷、刺繍されたものが
    史料として残っていた。では、この時代からそれらが何故消えさったのか」

ミルナは画面に『デジタル』と書く。

( ゚д゚ )「デジタル化だ。
    他にも、紙の質が変わった、というのも理由になるが、
    大まかな原因はデジタル化にある」

132 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:13:02.303 ID:sLW7pJSn0
  
そこから、ミルナは淡々と歴史を語っていく。
彼は教科書に載せられているのをそのまま語るわけではなく、
きちんと噛み砕いて生徒達に提供してくれる。

(゚、゚トソン「昔のデジタル物質の寿命が短かったのなら、
     何度も媒体を変え、保存すればよかったのでは?」

( ゚д゚ )「本当に必要である、と判断されたものは今も残っている。
    消失期、と言うが、全部が全部消え去ったわけじゃない」

ただし、人間同士の争いによって消えてしまった史料が多いのも事実であった。
論文に関してはいくつか残されているものもあるが、
芸術面に関わるものは優先順位が低かったのか、
政府や高位の人間によって保存されていたものは一握り程度もなかった。

かろうじて教科書に載っているのは、残された一握り以下の一つであったり、
名も残らぬ一般が何らかの思いによって残したもの達だ。

( ゚д゚ )「残された史料の中には、戦争を厭うようなものも多い。
    我々の先祖は、人同士で争うことの愚かさを常に説いていたようだ」

その結果もむなしく、史料のそこかしこに様々な戦争が記載されていた。
国家間の争いから、国内の内乱まで。数を数えることが馬鹿らしくなる程の量だ。

( ゚д゚ )「そのおかげで、今の我々の生活があるのかもしれないな」

134 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:13:35.625 ID:sLW7pJSn0
  
(゚、゚トソン「今は戦争なんてないもんね」

从'ー'从「うん。犯罪者も殆どいないもんね~」

(,,゚Д゚)「人が人を殺したり、傷つけたりするなんて、
    そんな馬鹿らしいことしないよな」

教室は俄かに盛り上がりを見せる。
平和な世界は素晴らしい、と口々に言い合っていた。

人が争いを好んだのは遠い昔のことで、
今の子供達には想像もつかないような世界の話だ。
どこの国も科学に満たされ、領土の大小に拘らず同等の利益を得ることが可能になっている。

最早、争う理由など、何処にも存在していない。

( ゚д゚ )「科学の進歩だな。
    昔は神頼みなんてものがあったが、今じゃそれも必要ない」

二年に上がったばかりの頃に、神についての話があった。
その時も、クラス全員が馬鹿馬鹿しい、と口にしていたものだ。

偶像に頼ったところで、何も生まれはしない。
心の拠り所にして何になるのだ、と。

136 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:14:35.592 ID:sLW7pJSn0
  
ζ(゚ー゚*ζ「……神様、かぁ」

デレは虚空を見る。
かつて、神は様々な姿で描かれたという。
中には、森羅万象、全ての物に神は宿る、とした人々もいたらしい。
その考え方はとても好ましいものだな、とデレは思った。

現代に生きる人々は、あまり恐れを抱かない。
外は常に光に満ちているし、贅沢を望まなければ
最低限の生活は常に保障されている。

死した先にあるものが無なのだろうと確信しているが故に恐怖を抱かない。
確定している未来に対し、足掻きもがくことは無駄な労力でしかない。

けれども、どうしても、デレは恐れを取り払うことができなかった。

未来を考えれば不意に不安が襲ってくる。
その先に待つ死について考えれば、
夜がきても眠れないことがあるほどだ。

ζ(゚ー゚*ζ「神様、どうか、初めてのデートが成功しますように」

デレは祈る。
それを、過去の人は信仰と呼んだらしい。

137 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:15:14.818 ID:sLW7pJSn0
  
勉強と睡眠の合間を縫って考え抜かれたデートは、
春と夏の境目のとある日曜日に決行となった。
場所は、勧められた通りの水族館。
  _
( ゚∀゚)「おー、この水族館来るの初めてだわ」

ζ(゚ー゚*ζ「何でもねぇ、サメのショーがあるんだって」
  _
( ゚∀゚)「そりゃ迫力満点だな!
    ビビんなよ? デレ」

ζ(゚、゚*ζ「そんなビビりじゃないよ1」
  _
( ゚∀゚)「そうかー? お前、暗いところ嫌いじゃん」

ζ(゚、゚*ζ「足元が見えないのが嫌なだけですー」
  _
( ゚∀゚)「学校の廊下でもビビってただろ。
    あんな何もない場所でさ」

ζ(゚ぺ*ζ「もー! アタシ先に行くからね!」
  _
( ゚∀゚)「図星さされたからって怒んなよー!」

そんな軽口を叩きながら、二人は水族館の中へ足を踏み入れた。

138 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:16:06.706 ID:sLW7pJSn0
   
ζ(゚ー゚*ζ「うわー! すごい!」

上下左右。
どこを見ても水。そして、魚達。

ライトの色なのか、綺麗なアクアマリンの色をした水槽。
その中で自由に泳ぐ魚達も皆美しい。

七色の鱗を光らせているものもいれば、
鮮やかな赤や黄色の尾をたなびかせている魚もいる。
どれもこれも、水族館へやってきた人を歓迎するに相応しい様相だ。
  _
( ゚∀゚)「あそこに魚の説明も載ってるみたいだぞ」

ζ(゚ー゚*ζ「どれどれー?」

少し歩いた先に、一本の柱があった。
目を凝らしてみれば、そこには文字がびっしりと書き込まれている。
どうやら、このゾーンで泳いでいる魚の説明のようだ。

ζ(゚ー゚*ζ「あのキラキラしてる子は『ラックス』って種類みたい」
  _
( ゚∀゚)「喰えんの?」

ζ(゚、゚*ζ「情緒がなーい」
  _
( ゚∀゚)「えっ」

ζ(゚ー゚*ζ「ジョルジュ君がそういう人ってのは知ってるけどね。
       でも残念。食用じゃないって」
  _
( ゚∀゚)「ちぇー」

140 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:16:44.495 ID:sLW7pJSn0
   
ζ(゚ー゚*ζ「ミニマクジラもいるよ」
  _
( ゚∀゚)「うおー、マジでちっせぇ」

親指の爪ほどの大きさしかない、世界最小の鯨だ。
あまりにも小さいため、他の魚とは別の水槽に入れられている。

ζ(゚ー゚*ζ「サメのゾーンは向こうだって。
      でも、ショーまでにはまだ時間もあるし、
      他をゆっくり回ろうか」
  _
( ゚∀゚)「了解」

デレの先導にされ、ジョルジュも魚達を見て回る。
中には凶暴な魚もおり、ガラスケース越しにこちらを威嚇してくるものまでいる始末。
鋭い牙にデレは驚き、思わずのけぞってしまった結果、尻餅をつくはめになってしまった。
  _
( ゚∀゚)「あーあ、これだからビビりちゃんは」

ζ(゚、゚;ζ「あれはしかたないよ~」
  _
( ゚∀゚)「はいはい。そういうことにしといてやるよっと」

ジョルジュは手を差し出し、デレはそれを掴む。
引き上げられるようにして立ち上がった彼女は、
軽くスカートの汚れを払った。

141 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:17:07.733 ID:sLW7pJSn0
  _
( ゚∀゚)「おー! すっげぇ迫力!」

ζ(゚、゚;ζ「ひ、ひえぇぇぇ……」

ジョルジュは拳を硬く握り、雄たけびを上げる。

場所はサメゾーン。
現在、ショーの真っ最中だ。

調教師がサメにまたがり、広いプールを縦横無尽に泳いでいる。
時折、観客を楽しませるためにベニヤ板やら、冷凍された大型の魚を投入し、
サメに噛み砕かせるのだが、それがまた大迫力で恐ろしい。

見学している者の多くは大興奮しているようだが、
デレはひたすら小さな悲鳴あをあげながら体を縮こまらせていた。
今ならばビビりといわれようが臆病者と蔑まれようが、
肯定のために首を上下に動かしたことだろう。
  _
( ゚∀゚)「見ろよデレ!」

ζ(゚-゚;ζ「み、見てますうううう」
  _
( ゚∀゚)「サメってすっげー!」

142 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:17:29.914 ID:sLW7pJSn0
  
ζ(゚ー゚*ζ「た、楽しかった?」
  _
( ゚∀゚)「おう!」

ζ(^ー^*ζ「そっか。アタシも楽しかった!」

サメのショーはともかくとして、
他の魚達を見ているのは楽しかった。

ジョルジュもそれなりに大小様々、美醜様々な魚に反応していたので、
それほど心配はしていなかったのだけれど、
こうしてはっきりと肯定を口に出してもらえると安心感が違う。
  _
( ゚∀゚)「あ、そうだ」

ζ(゚ー゚*ζ「ん?」

水族館を出る直前、ジョルジュが回れ右をした。
スタスタと歩いていく後姿をデレは小走りで追いかける。

ζ(゚ー゚*ζ「どうしたの?」
  _
( ゚∀゚)「忘れもん」

ζ(゚、゚*ζ「えっ、大丈夫?
      係りの人に聞いてみる?」
  _
( ゚∀゚)「ん、大丈夫」

143 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:18:06.833 ID:sLW7pJSn0
  
ジョルジュが向かったのは、
サメのショーが行われていた場所でも、
ミニマクジラがいた場所でもない。

ζ(゚ー゚*ζ「ここ……」

デレは看板を見上げる。
口元が緩んでしまうのを止めることができなかった。
  _
( ゚∀゚)「せっかくのデートだったわけだしな」

対して、ジョルジュは少しばかり気恥ずかしげに言う。
ぶっきらぼうな言い方ではあったが、その声には確かな愛情が見え隠れしていた。

そこは土産物売り場。
魚を模したぬいぐるみや、クッキーや飴、チョコといった食べ物まで揃っている。
店内を見れば、カップルらしき人影がちらほらと存在していた。
  _
( ゚∀゚)「記念になるもの、何か買っとかねぇと」

ζ(゚ー゚*ζ「……うん!」

ジョルジュはデレの手をとり、彼女はその手を握り返す。
しっかりと互いの手を繋いだ状態で二人は店に入っていった。

144 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:18:57.092 ID:sLW7pJSn0
  
ζ(゚ー゚*ζ「その時に購入したのがこちらになります」

デレは可愛らしいミニマクジラのバッヂを取り出す。
一分の一サイズのためかなり小さい品ではあるが、
その分どこにつけても違和感なく収まってくれる。

( ・∀・)「へー、あのジョルジュがお揃いの品をねぇ……」
  _
( ゚∀゚)「んだよ」

( ・∀・)「いえいえ。成長したんだなぁ、とか」

川 ゚ -゚)「私はてっきりサメの話ばかりでデレを退屈させるものだとばかり」
 _
(;゚∀゚)「お前らの中でオレの評価ってどうなってんの?」

恋人としては零点、との言葉が二人から同時に返ってくる。
ジョルジュはその場に突っ伏し、
デレはそんな彼を見て微笑みを浮かべた。

ζ(゚ー゚*ζ「ジョルジュ君も成長してるってことですなぁ」
  _
(  ∀ )「うっせ」

ζ(゚ー゚*ζ「格好いい彼氏が成長してくれて、
      アタシはとーっても嬉しいよ」
  _
( //∀/)「んじゃ、精々期待しとけ」

ζ(^ー^*ζ「はーい」

145 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:19:27.337 ID:sLW7pJSn0
  
それからまた数ヶ月が経った。
デレとジョルジュは、二人で夏祭りに行ったり、
友人達と共に花火を楽しんだりと、有意義な日々を過ごし、楽しい夏休みを終えた。

しかし、夏の終わりと共に、
彼ら二人の関係性は変化を見せ始めた。

ζ(゚ー゚*ζ「あ。ジョルジュ君。
      今度の日曜日、映画に行かない?」
  _
( ゚∀゚)「あ……、悪い。
    もう約束入れちまってるんだ」

ζ(゚、゚*ζ「そっかぁ……」

少しずつ、すれ違う時間が増えた。
睡眠を必要とするデレだ。
メッセージを送るにしても、通話をするにしても、時間が限られている。

約束を取り付けるタイミングがワンテンポ遅れてしまうのは、
どうにもできないことだった。
デレもそれをわかっているからこそ、
悲しげな顔をするだけで、ジョルジュを責めるようなマネはしない。

146 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:20:52.497 ID:sLW7pJSn0
  _
( ゚∀゚)「なあ、今度、星でも見に行かねぇ?」

ζ(゚、゚;ζ「ごめん。夜はちょっと……」
  _
( ゚∀゚)「……だよ、な」

恋人同士で星を見る。
それはとても心躍るイベントだ。
風情もある。良い雰囲気になることは間違いない。

しかし、次の日も学校があると考えれば、軽率に頷くことはできなかった。
デレには睡眠時間というものが必要なのだ。

ζ(゚、゚;ζ「……ごめん」
  _
( ゚∀゚)「いや、お前が悪いわけじゃねぇし」

ζ(゚、゚*ζ「でも……」
  _
( ^∀^)「いいんだって」

ジョルジュはデレの頭をぐちゃぐちゃに撫で回す。
その声は優しい。

148 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:22:22.305 ID:sLW7pJSn0
  
二人の距離は、少しずつではあるが、確実に離れつつあった。
それを感じているからこそ、二人は近づこうとする。
しかし、その度に感じるのだ。

彼らは同じ人間でありながら、
違う時間を生きている存在なのだ、と。

ζ(゚ー゚*ζ「行ってきまーす」

ξ゚⊿゚)ξ「気をつけてね」

そんな折のことだ。
デレは生まれて初めての修学旅行に旅立った。

二年全員で遠くの町へ泊まる。
そんなワクワクイベントに、デレの胸は跳ね回った。

四六時中、友人が隣にいるというのは、どれだけ楽しいことなのだろうか。
学校で顔を合わせているだけでも毎日が幸福に感じられるのだから、
いつもいつでも一緒となれば、幸福度はさらに上がるはず。

デレは無邪気に信じていた。

自身の体について失念していたわけではない。
ただ、学校生活も二年目を折り返すところまできた。

慣れきっていたのだ。
あたかも、自分が周囲と変わらないのではないか、と勘違いするまでに。

149 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:23:20.654 ID:sLW7pJSn0
  
( "ゞ)「では、デレさんはここで一時睡眠を取ってください」

ζ(゚、゚*ζ「はーい」

去年に引き続き、デレの担任となっていたデルタが言う。
現在、午後十時。
デレの瞼は徐々に落ちつつあった。

しかし、デレは眠ることを拒絶したい気持ちでいっぱいだった。

デルタの背後、少し離れた場所に、クラスメイト達が集まっている。
彼らはこれから、予定通りに科学館の見学に向かうのだ。

離脱するのは、睡眠を必要とするデレだけ。
彼らが見学を終え、つかの間の自由時間さえ終了し、
朝食を食べに再びこの旅館へ帰ってきたとき、
ようやく彼女と友人達は合流することができる。

川川゚) (・  )

中には見知った顔も見えた。
背中しか見えないが、どこか楽しそうな色を背負っているのは、
デレの気のせいではないだろう。

150 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:24:08.696 ID:sLW7pJSn0
  
置いていかれる。
デレはそう感じた。

しかし、だからといって、ここに残ってくれ、とはいえない。
彼女以外の人間は、これからも活動を続ける。
眠るデレの傍らで座り続けているわけにもいかないのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「いってらっしゃい」

友人達の背中に小さく告げ、
デレは指定された部屋へと向かう。

今時の旅館は、荷物の保管と整理、加えて食事や入浴等に利用されるのが一般的だ。
当たり前のことだが、眠るための道具が揃っているはずがない。
ベッドが欲しければラブホテルへ。
それが常識だ。

ζ(´、`*ζ「お布団……」

けれど、中学生のデレがラブホテルに入れるはずもなく、
学校と旅館が彼女のためにどうにか用意できたのは、
柔らかなソファと大きめのバスタオルが数枚。

寝転び心地は良いものの、眠るには些か狭く、
やや暖かめに設定されているとはいえ、バスタオルを掛け布団にというのは
どうにも心もとない感じがしてしまう。

151 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:25:10.264 ID:sLW7pJSn0
  
ζ(´、`*ζ「うぅ……。おやすみなさい……」

贅沢を言うことはできない。
自分以外の人間は眠る必要すらないのだから、
寝具が存在していないのは当然。

むしろ、ここまで都合してくれたことに感謝しなければならない。
デレは狭いソファに体を横たえ、
お腹の辺りと胸の辺りにバスタオルを被せる。

ζ(´、`*ζ「……家に、帰りたい、なぁ」

早くもホームシックにかかってしまった。
家に帰りさえすれば、広く暖かいベッドが彼女を待ってくれている。

物心ついたときにはベッドが存在していため、
それがないということがどれほど辛いのか、デレは理解していなかった。

しかし、今ならばわかる。
眠りが必要な人間にとって、寝具がない、というのがどれほど辛いことなのか。
それが、どれほどのストレスに繋がるのか。

152 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:25:57.503 ID:sLW7pJSn0
  
ζ(゚、゚*ζ「おはよー」

翌朝、身支度を整えたデレは、友人達と合流し、朝食を食べる。
食べ盛りの男子がいるという配慮からか、全体的に肉っ気が多い。
寝起きの胃には少々辛いものがあったが、
周囲を見てみれば、男子だけでなく女子も美味しい美味しい、と肉を頬張っている。

眠る、眠らない、ということは、
こんなところにまで拘ってくるのか、とデレはぼんやりと考えていた。

時間だけを見れば充分な睡眠が取れたはずだ。
だが、頭は何故だか寝不足を訴えている。

環境の変化に体が追いつかなかったのか、
そもそも寝具の具合が悪すぎたのか。
科学的な見解を持たぬデレにはわからないが、
今日の自分が本調子ではない、ということだけはハッキリとわかった。

ζ(´、`*ζ「ねむ……」
  _
( ゚∀゚)「大丈夫か?」

ζ(゚ー゚*ζ「……うん」
  _
( ゚∀゚)「いや、大丈夫に見えねぇわ」

153 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:27:25.980 ID:sLW7pJSn0
  
ジョルジュの言葉は正しい。
返事をしたものの、それは全くもって本心ではなかった。
本音を言っていいのであれば、今すぐに帰って寝たい。
デレの望みはそれだけだ。
  _
( ゚∀゚)「あと、古代技術の再現? とか見て、
     町の探索とかしたら帰れるから。
     もうちょい頑張れよ」

ζ(゚ー゚*ζ「……うん。ありがと」
  _
( ゚∀゚)「どういたしまして」

こうして、自分の不調に気づいてくれるジョルジュを見ると、
心臓の辺りがキュウとしてしまうのをデレは止められない。
彼は馬鹿な面が目立つし、粗野であるけれど、とても優しい人間なのだ。
  _
( ゚∀゚)「あとさ、帰ったら話あんだけど」

ζ(゚ー゚*ζ「うん」

だから、デレはジョルジュが何を話したいのか、
何となくではあるけれど、予想がついていた。

修学旅行中に言わない彼の優しさを知っていたから。

155 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:29:11.338 ID:sLW7pJSnH
  _
( ゚-゚)「別れよう」

修学旅行から帰ってきて二日後、
授業が全て終わった放課後のことだった。

ジョルジュはデレを校舎裏に呼び出し、
非常に言いづらそうにしながらも別れを切り出した。

ζ(_  _ ζ「…………う、ん」

デレは頷く。
顔を下に向けたまま、上げることができなくなってしまったが、
肯定の意を持った声は届いたはずだ。
  _
( ゚д゚)「ごめんな」

ζ(_  _ ζ「ジョルジュ君は悪くない」
  _
( ゚д゚)「でも……」

ζ(゚ー゚ ζ「いいの」

顔を上げる。
どうにか笑みを作ってはみたが、
上手くできている自信は一片たりとも見当たらない。

156 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:29:38.570 ID:sLW7pJSn0
  
ζ(゚ー゚ ζ「だって、アタシ達、時間が違うもんね」
  _
(  д )「……あぁ」

ジョルジュも精一杯悩んでくれたのだ。
その末に出た結論が、別れだっただけ。

分かたれた二つの時間を上手く寄せ合わせることができるほど、
彼らは器用でもなければ、大人でもなかった。
たかだか十代の恋。

将来を確約できるような歳ではない。
夢物語のような将来像を話すだけの、
甘っちょろい時代だ。

ζ(゚ー゚ ζ「今まで、ありがとう。
      楽し、かった、よ」
  _
(  ∀ )「そりゃ、こっちの台詞だよ。
     ありがとうな。楽しかった。幸せだった」


それでも、彼らにとっては、本気の恋だった。

157 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:30:35.900 ID:sLW7pJSn0
  
その日、デレは部屋で号泣した。
好きだという気持ちは残っていたし、
理屈や理性で全てを納得させることができるほど、
彼女は聡明ではなかった。

ξ゚⊿゚)ξ「失恋の一つや二つ経験して、
      ようやく大人になれるのよ」

( ;ω;)「デレー!
      大丈夫かお! パパの胸に飛び込んでくるお!」

ξ゚⊿゚)ξ「目はこすっちゃ駄目よ。
      たくさん泣いたら冷やしなさい。
      瞼が腫れたら、せっかくの可愛い顔が台無しになっちゃうわ」

( ^ω^)「でもデレはいつでも可愛いお!」

ξ゚⊿゚)ξ「ちょっと黙って」

部屋の外からツンやブーンが様々な言葉を投げてくれたが、
一つとして、彼女の心に残るものはない。

今、デレの心に残っているのは、
さよならを告げたジョルジュの声だけだ。

158 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:31:01.364 ID:sLW7pJSn0
  
川 ゚ -゚)「目が真っ赤だ」

登校途中に会ったクールがぽつりと呟いた。
昨日、冷やすよりも先に眠ってしまったため、
デレの目が赤くなり、わずかに腫れていた。

ζ(゚ー゚*ζ「え、そ、そうかな?」

見え透いたシラをきろうとするデレに、クールは小さなため息をつく。
深く詮索するな、と言われているのを感じ取ったらしい。
これでも一年以上の付き合いだ。
多少のことはわかるようになってきている。

川 ゚ -゚)「……一つだけ聞かせてほしい」

ζ(゚ー゚*ζ「なぁに?」

川 ゚ -゚)「私はあの馬鹿を殴ってもいいのか?」

ζ(゚ー゚*ζ「…………駄目」

川 ゚ -゚)「……そうか」

長い沈黙と、否定の言葉に、クールは是を返す。
デレが望まないのであれば、彼女は拳を振りかざさない。
たとえ、件の男がそれを望んでいた、としてもだ。

159 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:31:34.520 ID:sLW7pJSn0
  
ξ゚⊿゚)ξ「おかえり」

ζ(゚ー゚*ζ「ただいま」

一日を腫れた目で過ごした。
周囲の反応は様々で、
気づいた者、気づかなかった者。
励ましの言葉をかけてくれた者もいれば、
次はオレなんてどう? と茶化してきた者もいた。

ただ、ジョルジュだけには会わなかった。
クラスが違う、というのも理由の一つなのだろうけれど、
それ以上に、避けられている、というのを感じた。

別れたばかりだ。
まだしばらくは奇妙な距離感が残るのだろう。

叶うことならば、デレはまた、ジョルジュと友人になりたかった。
恋人としては上手くやっていけない二人だが、
ただの友人としてならば、もっと上手くやれる気がした。

ζ(´、`*ζ「お母さん」

ξ゚⊿゚)ξ「はぁい?」

ζ(´、`*ζ「ちょっと、つかれた」

ξ゚⊿゚)ξ「そう。じゃあ、こっちへいらっしゃい」

160 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:32:10.499 ID:sLW7pJSn0
  
( ^ω^)「ただいまだおー」

ξ゚⊿゚)ξ「おかえり」

( ^ω^)「おっ?」

帰宅したブーンがリビングに入ると、
そこには愛しの妻が、最愛の娘に膝枕しいている姿があった。
どうやら、デレは眠っているらしく、規則的な寝息がかすかに聞こえてきた。

( ´ω`)「……デレ、可哀想に」

ξ゚⊿゚)ξ「失恋くらい誰でもするものよ」

( ´ω`)「でも……」

ξ゚⊿゚)ξ「デレより、あなたの方がよっぽど悲しんでるわね」

娘が落ち込んでいるのを見て楽しい気持ちになる親はいない。
とはいえ、ブーンの様子は少々過剰な面がある。
長年、一緒に暮らすことさえままならなかった反動だろう。

ここで嗜めてやるべきか、
寄り添ってやるべきか。
ツンは思考を巡らせる。

その時、インターフォンの音が鳴った。

161 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:32:38.378 ID:sLW7pJSn0
  
反射的に立ち上がろうとしたツンだったが、
膝の上にいる存在に気づき、動きを止める。

ξ゚⊿゚)ξ「あなた」

( ^ω^)「ボクが出るお」

二人の言葉は同時だった。
ツンは歩き出した夫の後姿に、小さな笑みを送る。

ブーンはスイッチを押し、外の人物を確認した。
映し出された人物に、彼は目を見開く。

(  ゚ω゚)「は?」

  _
( ゚∀゚)


そこに立っていたのは、ジョルジュだった。

162 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:33:07.989 ID:sLW7pJSn0
  
( ^ω^)「……どういうつもりだお?」

ζ(゚д゚ ζ「え、ジョ、ジョルジュ君?」

ブーンはジョルジュを家に招きいれた。
デレはツンに起こされ、混乱の渦中に突き落とされている。

目が覚めてみたら、別れたはずの彼氏が家の中にいるのだ。
驚きもするし、思考が上手く回らないのもしかたのないこと。
  _
( ゚∀゚)「ケジメを、つけにきました」

ジョルジュの目は真っ直ぐだ。
後ろ暗いところなどありはしない、とその目が告げている。

( ^ω^)「ほう?」
  _
( ゚∀゚)「オレは、デレを幸せにするって言いました。
     でもできなかった。
     甘かったんだ。オレも、デレも」

生きる時間のことを軽く見ていた。
睡眠というものをよく理解しきれていなかった。
二人の過ちはそれに尽きる。

163 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:33:38.634 ID:sLW7pJSn0
  _
( ゚∀゚)「これは、オレとデレの問題ですけど、
     お二人にも宣言した言葉に関しては、オレ達だけの問題じゃない」

言葉を守れなかったことに対するケジメは、
しっかりとつけなければならない。

( ^ω^)「……いい度胸だお。
      そこだけは、評価してやるお」

ζ(゚、゚;ζ「お、お父さん!」

ξ゚⊿゚)ξ「デレ」

拳を固めた父に、デレが駆け寄ろうとする。
それを止めたのはツンだった。

彼女は静かに首を横に振り、事態の静観を促す。
わずかな迷いを見せたデレであったが、
母が掴んでいる手を見て、静かに座る。

理解することはできなかったけれど、
こうしておくべきことなのだろう、と想像することだけはできた。

164 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:34:09.296 ID:sLW7pJSn0
   
( ^ω^)「歯ァ、食いしばれお」
  _
( ゚∀゚)「ウッス」

ブーンが拳を振りかぶる。
ジョルジュが体に力を入れた。

バキ、と音が響いたのは、
数秒してからのことだった。

ζ(゚д゚;ζ「ジョルジュ君!」

成熟しているとは言いがたいジョルジュの体が吹き飛び、床に崩れ落ちる。
デレの位置からは見えなかったが、
ジョルジュは口の端からわずかに血を流していた。

( ^ω^)「……これで勘弁してやるお」
  _
(  ∀ )「アザァッス」

口元の血をぬぐいながら、ゆっくりと上半身を起こす。
  _
( ゚∀゚)「デレ」

ζ(゚д゚;ζ「大丈夫?」
  _
( ゚∀゚)「オレら、友達に戻れるか?」

165 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:34:50.193 ID:sLW7pJSn0
   
立ち上がることもできないまま、
デレを直視しているジョルジュは、
もうすでに彼氏の面影を消していた。

床に座り込んでいる少年は、ただの友人だった。
いや、とても大切な、友人に戻っていた。

ζ(゚ー゚*ζ「……うん」

デレは頷く。
  _
( ^∀^)「そっか」

ジョルジュは笑った。
真っ白な歯をきらめかせ、清々しげに。
  _
( ゚∀゚)「んじゃ、また明日」

ζ(゚ー゚*ζ「また明日」

立ち上がったジョルジュは、少しばかりふらついていたが、
誰の助けを借りることも、
また、誰かの心配を受けることもなく、デレの自宅から出て行く。

その背中は、とても堂々としたものだった。

166 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:35:48.848 ID:sLW7pJSn0
  
( ・∀・)「キミ達は進学決めた?」

時が流れるのは早いもので、
デレ達は中学を卒業しようかという時期にまできていた。

川 ゚ -゚)「私はマスコミ系に行きたいんだ。
     生の人間を世界に発信したい」

ζ(゚ー゚*ζ「なら、文系? 機械系もいいよねぇ」
  _
( ゚∀゚)「オレは警察! 正義のヒーロー!」

( ・∀・)「ヒーローとはいうけど、今時、警察の仕事なんて
      機械では対処できない道案内とか、雑用とかが殆どじゃん。
      ジョルジュには丁度良い具合なのかもしれないけどさ」
  _
( ゚∀゚)「あ?」

( ・∀・)「何」

川 ゚ -゚)「そういうモララーはどうなんだ」

おかげさまでというか、何と言うか、
デレとジョルジュが別れた後、
クールとモララーは二人をあっさりと受け入れてくれた。

おかげで二人は今も友人として面白おかしく交流を続けている。
一年半の時を経て、それなりに成長もしたが、所詮は中学生。
成長といってもしれている。

167 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:36:55.951 ID:sLW7pJSn0
  
( ・∀・)「ボクはロボット工学かなぁ。
     文明、科学は頭打ちって言われてるけど、
     一番やりがいがある分野だろうし」

世界の文明や科学は行き着くところまで行き着いた。
それ故の平和であり、ここ数百年、成長も発達も見せない世界である。

新しい何かを生み出すことは大概の確率で不可能なものの、
停滞の中での最先端を見たい、というのならば、やはりロボットに携わるのが一番だ。
プログラミングされたことしか行うことができないとはいえども、
疲れを知らぬロボットを求める声は各方面から多数聞こえている。

おかげで、数年先までロボット産業の需要は確約されているも同然だ。
  _
( ゚∀゚)「デレはどーすんだ?」

ζ(゚ー゚*ζ「アタシ?」

デレは笑う。

ζ(゚ワ゚*ζ「歴史医療学者になりたい」

168 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:39:57.399 ID:sLW7pJSn0
  
ζ(゚ー゚*ζ「自分の体のことをもっとよく知ってみたいし、
      できることならみんなと同じような体になりたい」

長い長い歴史を研究する歴史学者の中でも、
医療に特化して調べたいのた、とデレはいう。

険しい道だ。
何せ、かつての医療を調べようと思えば、
消失期は避けて通れない。

当然、史料は極々少数しかなく、
言語も今とは違ったもとが使用されている。
史料を読み解く力や、データを解析する力に加え、医学的な知識も必要になるだろう。

多岐にわたる能力が必要とされ、容易くない努力が求められる。
しかし、彼女の決意は固く、揺ぎないものとなっていた。

川 ゚ -゚)「勤勉なデレならすぐにでもなれそうだ」
  _
( ゚∀゚)「眠る生活ってのも面白いと思うんだけどなぁ」

( ・∀・)「だけど、デレちゃんが医療歴史学者を目指すなら応援するよ。
      眠ることのできるキミだからこその発見もあるかもしれない。
      意外と、世界の発展に繋がるかもしれないしね」
  _
( ゚∀゚)「そりゃいい。今よりも便利な世の中なんて想像できねぇけど、
     夢があって悪くねぇ」

川 ゚ -゚)「デレは選ばれた者、というわけか。
     世界中に名を知らしめるときは呼んでくれ。
     独占インタビューを敢行する」

三人はクスクスと笑いあう。
現在、この瞬間こそが、世界の行く着く先である、ということを知っている。
これ以上を望むのは贅沢であるし、達成されることのない欲求とでしかないが、
だからこそ、口にするのが楽しくてしかたがなかった。

170 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:40:49.351 ID:sLW7pJSn0
   
かくして、四人はバラバラの道を歩み始めた。
距離も分野も、まったく違う高校に進学し、
そこからまた違う大学へと通いだす。

中には実家を出た者もいたが、
連絡だけはそれなりに取り合い続けていた。
ひと月以上の間を空けることなく、彼らのメッセージは飛び交い、
年に数度は直接顔を合わせることが当たり前になっていた。

他の友人ができようとも、頼りになる先輩が現れようとも、
中学時代の友人がどうでもいい存在になることだけはなかった。

川 ゚ー゚)「見たか、ジョルジュ」
  _
( ゚∀゚)「見ねぇわけねーだろ。
     毎日毎日、あぁもテレビにネットにって出てりゃよ」

( ・∀・)「逃した魚は大きかったねぇ」
  _
( ゚∀゚)「バッカ。んな打算であいつと付き合ってたわけじゃねーよ」

久々に会した三人は、数ヶ月の空白程度では変わらぬ気軽さを持って言葉を交し合う。
彼らにとってみれば互いは中学時代の友人でしかないが、
傍から見れば少々違った様相を見せている。

171 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:41:52.209 ID:sLW7pJSn0
  
彼らは中学の卒業前に口にした通りの道を歩み続け、
見事、その道で大成していた。

川 ゚ー゚)「私が撮ったデレはどうだ。
     可愛らしく撮れていただろ」

にんまりと笑いながら言うクールは、
凄腕のカメラマンであり、レポーターという地位を確立し、
連日あちらこちらへ忙しく走り回っている。

美人な顔立ちとスレンダーな体つきも
彼女の人気を支えている一要素であることは言うまでもない。
  _
( ゚∀゚)「ありゃあ素体がいいんだ」

ジョルジュも立派に警察官として生計をたてている。
近年、犯罪者の減少とロボットの活躍により、立場を奪われつつある警察官だが、
生まれ持った人懐っこさと、行動力をもって、
配属されている町のことなら隅から隅まで知り尽くしているスーパーポリスとして名を馳せた。

先日も、迷子の猫を見つけ出した上に、
その途中で保護した子供を無事親元まで届けきった実績を持つ。

( ・∀・)「キミって奥さんいるよね?
      まだデレちゃんにメロメロなわけ?」

ロボットの製作に携わるモララーは、
緻密な作業を得意とし、どのような設計にも瞬時に対応する能力を持つ。
奇抜に思えるような図案が送られてくる昨今、
彼のような存在は必要不可欠となっていた。

172 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:42:27.249 ID:sLW7pJSn0
  _
( ゚∀゚)「オレはあいつの信者一号みたいなとこあるからな」

( ・∀-)「それって胸を張っていうことじゃないよね」

モララーは片目を閉じて苦笑いを浮かべる。
彼女の恩恵を直接受けているモララーならばまだしも、
現状では恩恵どころか、仕事をロボットに奪われる危機に瀕している男の台詞ではない。

友人から恋人へ、そして良き友人となったデレを贔屓するのはわかるが、
それにしても愛が深すぎることはどうにも否めない。

川 ゚ -゚)「恋愛感情を捻らすと、男ってこうなるのか」

(;・∀・)「こいつみたいなレアケースを平均に分類しないでくれる?」

納得した様子を見せたクールだが、
同じ男としてモララーは否定の言葉を口にせずにはいられなかった。
拗らせる隙もないほど、異性に縁のない彼ではあるが、
ジョルジュのような存在と自身を同一系統のモノとしてほしくはない。
  _
( ゚∀゚)「あいつのことが嫌いになって別れたわけじゃねぇし。
     好きな奴が認められりゃ嬉しくもなるだろ」

川 ゚ -゚)「その気持ちはわかる」

( ・∀・)「まあ、わからなくはないよね」

174 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:43:24.884 ID:sLW7pJSn0
  
今日、この集まりにデレは参加していない。

歴史医療学者として、発明家として、同年代の誰よりも世間に名を知らしめた人物。
それが河合デレだった。

多忙な彼女を捕まえるのは容易なことではない。

( ・∀・)「空を飛ぶ車。
      あれもすごかったねぇ」

川 ゚ -゚)「法整備が必要だからまだ実用化には至っていないが、
     近いうちにそれも整うだろう。
     そうすれば、渋滞がなくなるだけでなく、人身事故の減少、
     移動スピードの上昇といった様々な利点が我々に与えられる」

この画期的な発明に対し、デレは謙遜の言葉を述べるばかりで、
少しも威張る素振りを見せなかった。
それがまた、世間からの好感度を上げる要素となり、
今や河合デレの名を知らぬのは、物を知らぬ幼子だけとなっている。
  _
( ゚∀゚)「なんだっけか。反重力装置を取り付けた車に、
     推進力を持たせたとかなんとか?」

( ・∀・)「詳しいことがわからないなら無理に話さなくていいんだぞ」
 _
(;゚∀゚)「わ、わわわかるわい!」

川 ゚ -゚)「簡単に言うと、浮かせて、進める方法を見つけたよ、ってことだ」
  _
( #゚∀゚)「わかってるって!」

川 ゚ -゚)「そうか? ならいいんだ」

175 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:44:09.927 ID:sLW7pJSn0
  _
( ゚∀゚)「そういえば、お前、脳写機はどうなったんだよ」

( ・∀・)「あぁ、ずいぶん上手く使えるようになったよ。
     こっちでも改良に改良を重ねてるしね」

川 ゚ -゚)「早く一般にも普及させてくれ。
     私もあれを使ってみたい」

脳写機はデレが発案した道具の一つで、
思い描いた図や絵、文章等を紙に映し出してくれる代物だ。
ただ、慣れなければ適切に使うことが難しい道具でもあった。

イメージのまますぎるのだ。
曖昧なイメージや、ニュアンスだけを意識した文章を紙に落とし込むと、
輪郭の曖昧な絵や単語単語が入り混じった奇怪な言葉が並ぶだけになってしまう。

モララーはそんな脳写機を少しでも早く実用に足る道具へ昇華させるため、
日々の研究を続けているのだ。
これが実用化されれば、様々な分野において
書類や図面のようなものの処理が迅速に進むようになる。
  _
( ゚∀゚)「っと、そろそろ始まるぞ」

ジョルジュはタブレットを操作すると、
ネットテレビを立体映像に切り替え、出現させる。

川 ゚ -゚)「あぁ、私もこの取材陣の一人になりたかった……」

( ・∀・)「担当みたいに追い掛け回してたら怒られたんだっけ?」

画面に映っているのは、
大勢の人間を前にして立っているデレの姿だ。
どことなく緊張した面持ちに見える。

176 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:44:38.401 ID:sLW7pJSn0
   
川 ゚ -゚)「怒られた、というのは正確ではない。
     新人に譲ってやれ、と言われたんだ」

どのような人物からの質問にも優しく丁寧に対応してくれるデレは、
マスコミ連中にもかなり好感を寄せられていた。

失敗の多いヒヨッコを宛がったとしても、
デレの方が上手くフォローし、必要不可欠な情報を分け与えて帰らせてくれるのだから、
新人育成の場としてはこの上ない好条件なのだ。
  _
( ゚∀゚)「クーもベテランの域に達する歳になったんだな……」

川 ゚ -゚)「歳じゃない。実力だ」

( ・∀・)「いや、ボクら相手にそこ意地張られてもさぁ。
      みーんな同じ年なわけで」

川 ゚ -゚)「歳じゃない」
 _
(;゚∀゚)「……お、おう。
    そだな。まだまだ、イケるよな」

川 ゚ -゚)「よくわかってるじゃないか」

177 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:45:42.064 ID:sLW7pJSn0
  
もう適齢期は過ぎているだろうに、
未だ積極的に恋人を作る気はないらしいクールだが、
やはり女として在ることに執着はあるらしい。

歳のことを言われると真顔で威圧してくるのだが、
その圧迫感に勝てた者はいないともっぱらの噂だ。

ζ(゚ー゚;ζ『えーっと、皆様。こんにちは』

タブレットからデレの声が聞こえてきた。
学生時代からあまり変わらない、どこか柔らかい声。

もう何度も大勢の人間の前に立ち、発表をしているだろうに、
彼女の声はわずかに震えていた。
初対面の人間にはわからないだろうけれど、
付き合いの長い三人には彼女が緊張していることがすぐにわかってしまう。
  _
( ゚∀゚)「お、静かにしろよクー」

川 ゚ -゚)「何故名指し」

( ・∀・)「はいはい。二人とも静かにー」

一瞬、火花を散らした両者だが、
間に割って入ったモララーの声に目の位置を変える。
計三対の目が立体映像を注視していた。

178 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:46:19.645 ID:sLW7pJSn0
  
ζ(゚ー゚*ζ『こうして皆様に集まっていただき、とても光栄に感じております。
       さて、どちら様方も大変お忙しいことかと思いますので、
       手短にすませてしまおう、と考えています。

       この度、私は土地の問題について一つ、提案をさせていただきました。
       昨今、この国は、いいえ、世界中の国々は、
       新たな住宅地開発や農地開拓ができない、という問題を抱えていました。

       そのために必要なのは、たった三つの要素です。
       あちらにいらっしゃるお三方が、その三つを提供してくださります。

       反重力研究開発、盛岡デミタスさんと、
       土地製造開発、眉墨シャキンさん。
       そして、空気圧制御技術、高岡ハインリッヒさん。

       私は、このお三方の持つ技術によって、
       新たな土地を空へ浮かべることを提案いたします。
       海を狭めるでもなく、川や湖を埋め立てるわけでもない。
       全く新しい空間に、人が住み、生活できるスペースを作るのです。

       しかし、そのことによって、地上に降り注ぐ太陽光の遮断される可能性を回避しなければなりません。
       そこれ、高岡さんの持つ技術を使い、
       遥か上空でも我々が生活できるような酸素や空気圧、気温を整えてもらいます』

179 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:46:44.197 ID:sLW7pJSn0
  
電子に変換された声が語るのは、
画期的としか言いようがない提案であった。

地球の人口は緩やかに減少しつつあるが、
それでも不思議と土地は足りていなかった。

汚染の影響もあるだろうけれど、浄化する技術は確立されている。
建築物の耐久年数も上がっているため、
次々に家を移り変わっていかなければならない、ということもない。

人に対して地上が狭すぎる、ということはなかったはずなのだ。
しかし、現実問題として行く地を失った人間は笛つつあり、
食料を調達するために必要な土が減りつつあった。

デレはそんな問題を解決してくれたのだ。
  _
( ゚∀゚)「――なるほどな」

ジョルジュはゆっくりと息を吐き出しながら呟く。
ここ数年、何度も何度もあった、デレの驚くべき発想。

知らぬうちに体は強張り、全身全霊を持ってデレの声を追ってしまっていた。
息と共に筋肉が緩和していくが、体中に心地良い倦怠感が残っている。

( ・∀・)「理に適っている。
      でも、三つを合わせるなんて、誰も思いつかなかった」

川 ゚ -゚)「これでまた一歩、人類が未来に進んだな」

180 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:47:21.387 ID:sLW7pJSn0
  _
( ゚∀゚)「しっかし、アイツは歴史医療学者っつーよりも、
    発明家としてのほうが名前を知られてるんじゃねぇの?」

川 ゚ -゚)「残念ながら、な。
     うちの社でも、発明家の河合デレ、で通ってる」

( ・∀・)「うわー、デレちゃん聞いたら悲しむだろうなぁ」

歴史医療学者としての能力が低いわけではない。
むしろ、そちらの方面でも新たな史料の発見、解読に成功し、
学会で注目を浴びたことがある。

ただ、発明家としての力がずば抜けていたし、
それは一般市民の生活に直結するようなものが多かった。
認知度に差ができてしまうのも無理はない。

川 ゚ -゚)「歴史に関心のある人間はもともと少ない。
     その中でも、医療系統の話ともなれば、
     存在を知る人間からして限られてしまう」
  _
( ゚∀゚)「数の力だけはどうにもなんねぇしな」

人々から賞賛を受けている発明家デレではあるが、
彼女自身は、発明かとして名を馳せるのを嫌う傾向にあった。

ζ(゚ー゚*ζ『皆様。私がしたことなんて、歴史を紐解いただけなんです。
      技術はもとより、殆どのアイディアも、史料が示してくれているものです』

最後の締めに入ったデレの声が聞こえてくる。

181 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:47:50.430 ID:sLW7pJSn0
   
デレは大勢の人々に対して、
また、ジョルジュ達に対して、いつも言っていた。

人々を幸せに導いている発明の中に、
自分の力が介入しているものなどほんの一欠けら程もないのだ、と。
  _
( ゚∀゚)「謙遜は美徳だっつーけどよ、
     あいつはもっと自分に自信を持つべきだよな」

( ・∀・)「まったくだ。最初の発明を成したときから今まで、
      彼女の姿勢は全く変わっていない。
      数を重ねてきたのだから、そろそろ胸を張ってもいいだろうに」

川 ゚ -゚)「それができないからこそ、私達が力を貸すのだろ?」

クールは呆れたような、しかし愛おしげな音を零す。

最初、人類を大きく前進させる術を思いついたデレは、
科学者に繋がりのあるモララーを頼った。
彼は勿論、快く協力者を探したのだが、肝心のデレが問題だった。

自身のアイディアを技術者に託したかと思えば、
そのまま身を引こうとしてしまったのだ。

慌てたモララーがクールとジョルジュに連絡をいれ、
ジョルジュがデレを足止めしている間に、
クールがマスコミ方面から外堀を埋めていなければ、
今のように彼女の活躍を大勢の人間が知ることはなかっただろう。

182 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:48:20.362 ID:sLW7pJSn0
   
ζ(゚ー゚*ζ『私からは以上です。
       何か、質問があれ、ば――――』

ガタン、と音がした。

ジョルジュは目を見開き、
クールは眉間にしわを寄せる。
同僚へ連絡を取るため、電話を取り出したのはモララーだった。

『デレさん?』

『おい! 誰か!』

『中継を一時中断してください!』

男女様々な声がテレビ越しに聞こえてくる。
数秒後、映像が途切れた。
 _
(;゚∀゚)「おい、これって生放送だったよな」

川;゚ -゚)「あぁ」
 _
(;゚∀゚)「っつーことは……」

(;・∀・)「連絡とれた!
     急に倒れて、目を閉じてるって。
     息はあるけど、専門家がいないからただ寝ているのか、
     体調の問題かはわからないって言ってる!」
  _
( #゚∀゚)「バッカ! いくらデレが寝るつったって、
     倒れるような寝かたはしねーよ!
     病院! 医者呼べっつっとけ!」

183 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:48:55.922 ID:sLW7pJSn0
   
バタバタと三人は席を立ち、
デレが送り届けられるであろう病院へと向かう。
身体能力の高いジョルジュが先陣を切りながら走り、
昔とは違い、体力を充分につけたクールがそれを追う。

一人、モララーだけはタクシーを捕まえ、
車中で同僚に指示を出しながら向かうこととなった。

誰も何も言わなかったけれど、
各々自分が成すべきこと、出来ることを判断しての行動だ。

( ・∀・)「デレちゃんのご両親は数年前に他界してる。
      旦那さんもいない。
      想朔病院へボク含め三人が向かってるから、
      詳しいことはボクらが聞くよ。だから一通りの検査をしておいて。
      特に脳。眠るってことが体調に影響を及ぼしているなら、
      脳にも影響が出ているかもしれない」

モララーの専門は機械が相手だ。
人体に関しての知識は、一般人に毛が生えた程度。
ただし、眠ること、それに関することの知識だけは
少しばかり多めに有していた。

彼女が不調で倒れたとき、
専門家以外で助けられるのは自分達になるのだろう、と
大学に入った辺りからずっと考えてきていたのだ。

184 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:49:28.356 ID:sLW7pJSn0
 _
(;゚∀゚)「最近、アイツから何か聞いてるか?」

川 ゚ -゚)「特には」
 _
(;゚∀゚)「オレもだよ! ちっくしょ。
    急に倒れるって何だ? 前々から体調が悪かったんなら、
    こっちにも一報送っておくのがマナーだろ!」

空き缶を蹴飛ばしながら、ジョルジュは大通りを走り抜ける。
いつもの癖で、デザインよりも機能性重視なアンチショックシューズを履いていたことが幸いした。
体に負担がかからないため、いくらでも全速力を出し続けることができる。

川 ゚ -゚)「どんなマナーだ。
     お前だって風邪ひいたくらいじゃメッセージを送ってこないだろ」
 _
(;゚∀゚)「オレはいーの!」

川 ゚ー゚)「馬鹿だなぁ」

デレに対するジョルジュの過保護さは目に余るものがある。
しかし、それに対して彼の妻が何も言わないのは、
懐の大きさもあるだろうけれど、それ以上に、彼の思いが最早恋愛感情に留まらず、
父性愛めいていることが一番の原因だ。

古くからの友人達も、ジョルジュの妻も、そのことを口にはしない。
そのためか、彼があまりにも愚かであるからか、
彼自身はデレに対して父性を持って接していることに全く気づいていない。

185 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:50:04.631 ID:sLW7pJSn0
 _
(;゚∀゚)「オレは、昔、親父さんに頼まれてんだ!」

川 ゚ -゚)「何度も聞いたよ」

ブーンが六十二年の生を終えるとき、
デレの隣にジョルジュはそっと寄り添った。
母であるツンも体調が思わしくなく、ブーンと同じ病院に入院しており、
泣き崩れるデレに寄り添ってやれるのは友人くらいしかいなかったのだ。

死の間際、ジョルジュはブーンから娘を託された。
特殊な体に生まれてしまったデレを、
彼女が今まで生きた中で唯一愛し愛される関係となったジョルジュへ。

既に恋人関係になかったジョルジュへ託すのは申し訳ない、と言いながらも、
ブーンは退く気のない眼差しを持ってデレのこれからを頼んだ。
 _
(;゚∀゚)「だから、オレは、オレだけは、
    アイツが元気で幸せな一生を終えるまで見届けなくちゃいけねぇんだ」

川 ゚ -゚)「……私達よりも、デレは長く生きるぞ」
 _
(;゚∀゚)「残されたアイツは泣くかな?
    でも、それでも、生きててほしいよ」

川 ゚ -゚)「矛盾している」
 _
(;゚∀゚)「うっせー! 難しいことはわからん!
    デレの一生を見届けたい!
    だが、オレより先に死んでほしくもない! 以上!」

186 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:50:52.318 ID:sLW7pJSn0
  
ようやく、二人が病院にたどり着くと、
殆ど同時にモララーを乗せたタクシーがやってくる。

( ・∀・)「1023号!」
 _
(;゚∀゚)「了解!」

川 ゚ -゚)「病院の中では走るな」

駆け込もうとしたジョルジュの首根っこを引っ掴み、
クールは早足で病院へ入っていく。
ただ、彼女の眼光があまりにも鋭すぎたため、
病院の待ちうけにいた人々が小さく悲鳴を上げてしまう結果となった。

エレベーターを使い、廊下を歩き、
三人はデレがいるらしい病室へとやってきた。
検査は既にすんでおり、中にはデレと医者がいるはずだ。
 _
(;゚∀゚)「デレ!」

【+  】ゞ゚)「院内では静かにお願いします」

川 ゚ -゚)「すみません」

有名人であるデレに配慮してくれたのか、
1023号室は個室となっていた。
そこそこ広い空間の端に、デレが眠るクッションが置かれている。

人が三人は寝転ぶことができそうなクッションは、
床ずれ等々を起こさぬようにできており、彼女の体全体を優しく包み込んでいた。

187 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:51:38.333 ID:sLW7pJSn0
  
【+  】ゞ゚)「ご友人の方々ですか?」

川 ゚ -゚)「はい」

( ・∀・)「それで、デレちゃんは……」

医者は片目にかけた医療用眼鏡越しに
一分一秒で変化するデレの体を観察している。
眼鏡の内側は、めまぐるしく変わる数値で一杯だ。

【+  】ゞ゚)「原因はわかりませんが、あらゆる数値に乱れが出ています。
       血糖値や血圧はが上昇傾向にあり、ホルモンのバランスも非常に乱れています」

様々な病気を仮定し、検査を行ってみたものの、
今まで蓄積されてきたデータの中にあるいずれともデレの症状は一致しなかった。
近年、新たな細菌やウイルスは発見されてこなかったが、
ここにきて、それらが新たな進化を遂げたとしても不思議はない。
 _
(;゚∀゚)「そ、そんな……」

医者からの説明に、ジョルジュは顔を青くする。
金で治る病気であれば、いくらでも助けてやれる。
だが、未知のモノが相手では、どうしようもできない。

全てを医者に託し、時間の経過を待つか、
穏やかに死ぬことのできる安楽死を選んでやるか。

そのどちらかしかジョルジュは選ぶことができないのだ。

188 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:52:04.321 ID:sLW7pJSn0
   
ζ(-、゚*ζ「んっ……」

絶望するジョルジュの隣で、デレが小さく声を上げた。
もぞもぞと動き、彼女は上半身を起こす。

ζ(゚ー゚*ζ「……あれ? ジョルジュ君?」
 _
(;゚∀゚)「デ、デレ……」

ζ(゚ー゚;ζ「あ、も、もしかして、アタシ寝てた?」

(;・∀・)「えっと、うーん」

眠る、という定義は未だ曖昧だ。
デレにしかわからぬ感覚であるが故に、
倒れたといっていいのか、突如眠ったといえばいいのかがわからない。

川 ゚ -゚)「お前は倒れたんだ」

ζ(゚ー゚;ζ「あー……」
 _
(;゚∀゚)「体は大丈夫か?
    痛いところとか」

190 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:52:33.234 ID:sLW7pJSn0
  
ζ(゚ー゚;ζ「大丈夫、大丈夫。
      最近、色々あって眠ってなかっただけだから」

【+  】ゞ゚)「デレさん」

ζ(゚ー゚*ζ「はい?」

医者に声をかけられ、彼女はそちらへ顔を向ける。
受け答えに問題はなさそうだが、彼女の顔色は心なしか暗い。

【+  】ゞ゚)「私としては、入院をオススメします」

ζ(゚ー゚*ζ「えっ」

【+  】ゞ゚)「検査の結果、あなたの体には謎のダメージが確認されています。
       脳にも悪い影響を及ぼしています。
       原因を究明し、治療を受けるべきです」

ζ(゚ー゚*ζ「…………えっと」

デレは視線を落とす。
その目は、まるで全てを知っているかのように澄んでいた。

ζ(゚ー゚*ζ「いいです」

191 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:53:05.983 ID:sLW7pJSn0
 _
(;゚∀゚)「おい」

ζ(^ー^*ζ「大丈夫。眠るアタシのことは、アタシが一番よくわかってるから」

川 ゚ -゚)「……本当か?」

素人目に見ても、デレの顔色は芳しくない。
原因がわからないにしても、病院で養生するのは悪い選択肢ではないはずだ。

( ・∀・)「でも、キミは急に倒れたんだよ?」

ζ(゚ー゚*ζ「心配しすぎだって。
      ちょっと寝てなかっただけ。寝不足、ってやつ」
 _
(;゚∀゚)「それにしたって倒れるような寝方だったぞ」

ζ(゚ー゚*ζ「そういうこともあるの!」

言い切られてしまうと、反論する術がジョルジュ達にはない。
この場にいる者、医者も含め、睡眠ということを知っているのは、
経験的にも、学術的にもデレが一番だ。

ζ(゚ー゚*ζ「んー。でもそうだなぁ」

デレはそっとクッションから足を降ろし、立ち上がる。
それなりに身長が伸びた彼女の背丈は、ジョルジュよりも少しばかり高い。
寝る子は育つ、と言ったのは、いつかのデレだった。

192 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:53:59.610 ID:sLW7pJSn0
  
ζ(゚ー゚*ζ「もし、アタシに何かあったら」
 _
(;゚∀゚)「縁起でもないこと言うな」

ζ(゚ー゚*ζ「もしも、だよ」

デレはジョルジュの手を握る。
暖かな体温は、彼女の生をじんわりとジョルジュへ伝えてくれた。

ζ(゚ワ゚*ζ「その時は、アタシの持ってるもの、ぜーんぶ三人で分けて」

川 ゚ -゚)「私達にも?」

ζ(゚ー゚*ζ「もっちろん」

仲の良い友人は何人もいるけれど、
心を預けてもいいと思えたのは、ジョルジュ達だけだった、とデレは言う。

( ・∀・)「……デレちゃん。
      キミの気持ちは嬉しいけど、
      ボクらとしては、キミが生きているほうがずっとずっと嬉しい、
      ってことだけは、忘れないでよね」

vζ(^ー^*ζ「だいじょーぶっ!」

デレはピースをして笑う。

194 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:54:35.735 ID:sLW7pJSn0
   



それはきっと、全てを知り、全てを終える覚悟を決めていたからこそ、
浮かべることの出来る笑みだったのだろう。


ジョルジュ達のもとに、悲しい訃報が届いたのは、
デレが倒れてからわずか二日後のことだった。



  

196 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:55:43.420 ID:sLW7pJSn0
  
川 ゚ -゚)「……あの馬鹿」

大々的に行われた葬儀も無事に終了し、
デレの遺体はバラバラに分解され、然るべき施設へと送られた。

眠りを得た唯一の彼女の姿を残して欲しい、という声もあったが、
大多数の善良なる意見により、彼女の体は現代人と全く同じ方法を持って
処理されることとなったのだ。

彼女の体の一部は誰かに移植され、別の部分は研究に生かされる。
どうにもできない部分に関してのみ、分解され、地に還ることとなるのだ。

( ;∀;)「あぁ、やっぱりあの時、無理やりにでも入院させておくべきだった」
  _
(  ∀ )「んなこと言ったって、アイツの決意は変えられなかった。
     言うだけ無駄だ。もう、つまんねぇこと言うんじゃねーよ」

( ;∀;)「でも、でもぉ……」

葬儀の最中から今まで、モララーは泣き通しだった。
さめざめと泣く姿は、見る者全ての胸を打つ。

泣いてはいないものの、ジョルジュの姿も相当なもので、
生気を失った目をして呆然としているばかりだ。
応答はするものの、彼の視線が何処を向き、何を見ているのかはさっぱりわからない。

そんな中、気丈に自分を保っているのはクールだった。
赤く泣き腫らした目をしているものの、その目にはもう涙はなく、
しっかりと前を見据えている。

197 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:56:31.180 ID:sLW7pJSn0
   
川 ゚ -゚)「お前達、忘れたわけではあるまいな」

( ;∀;)「うん……」
  _
(  ∀ )「……あぁ」

彼らが最後に聞いたデレの言葉。
全てを分け合ってくれ、という遺言。

彼女は本気だったらしく、自宅からは同じ旨が記された遺言状が出てきた。
三人が真っ先にデレの死を知ることができたのも、
一枚の紙があったからこそのことだ。

川 ゚ -゚)「なら、泣き止め。
    哀れったらしい顔をやめろ。
    私まで感傷に浸りたくなってしまう」

全員が同じように涙に暮れてしまっては、
いつまで経ってもデレが残してくれたモノに手をつけられなくなってしまう。
誰かが引っ張らなければいけない。

クールはそのことをよく理解していた。
損な役回りではあるけれど、自分がその役を負わなければならないことも、
よく知っていたのだ。

川 ゚ -゚)「行くぞ」

彼女は率先して歩き出す。
男共はその後に続く。

向かう先はデレの自宅だ。

199 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:57:06.700 ID:sLW7pJSn0
  
死因は心臓麻痺だったという。
そこに至った原因は相変わらず不明のままだ。

だが、かつてのヒトは寝不足から様々な不調を患うことがあったらしい、と
デレの葬式にきていた歴史研究家は言っていた。

ジョルジュ達にはわからないが、
眠らないことによる不調でデレが死んだとするならば、
失われた治療法に嘆きを向けるしかない。

川 ゚ -゚)「鍵は」
  _
(  ∀ )「……ん」

ジョルジュがカードを渡す。
デレの家はカードキーと網膜認証によって開閉される造りだが、
彼女亡き今、この家はカードキーのみでも解錠される。

クールの手によって扉が開かれる。
部屋の内側からは、今も彼女が生きていることを錯覚させるような生活臭が仄かに漂ってきた。

壁紙についた甘いクッキーの匂いに、
しおれ始めている花の芳しさ。
部屋干しされている服からは柔軟剤の香り。

200 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:57:37.825 ID:sLW7pJSn0
  
室内は整然としており、デレの几帳面な性格がよく反映されていた。
机の上にはメモ書きや翻訳文の走り書きが散乱しているが、
ゴミの類は一切見受けられない。

キャビネットには家族三人が映った立体写真が飾られており、
その前に線香が置かれている。

川 ゚ -゚)「綺麗なものだな」
  _
(  ∀ )「散らかす奴じゃねーしな」

( ;∀;)「…………うん」

死を感じていたから片付けたのだろうか。
モララーは頭の片隅で考えたが、言葉を飲み込む。
口にしてしまえば最後、この部屋から出て行くことさえできなくなってしまいそうだった。

川 ゚ -゚)「この部屋の物を分け合わなければならない」

( ;∀;)「そう、だね」

いらない、とは言えない。
その言葉は、デレを否定することに繋がる。

三人はのろのろと部屋を物色して回ることにした。
欲するモノ、というよりは、
手にしていることができるモノ、を探すために。

201 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:58:37.271 ID:sLW7pJSn0
  
デレの部屋には様々なものがあった。
電子書籍を詰め込んだタブレット、
スイッチ一つで完璧な調理をしてくれる機械。
体を一瞬で綺麗にしてくれるスモーク缶。

だが、それらは一般家庭でも手を伸ばせば手に入れられるようなものばかりで、
発明家として名を馳せた女性の家には到底思えない。

もっとも、三人が欲するのは世界に唯一のものではなく、
いつかの未来、それを眺めて笑えるようなものだったため、
ありふれた物でも何ら問題はなかった。

欲しいと思えるものを見繕い、
残った家財はくじでも作って適当にわける。
デレには申し訳ないが、家は売りに出させてもらい、得たお金を三等分する。

全てを終わらせた後は、
各々心の整理がつくまでの時間を過ごせばいい。
心の深いところにいた友人とはいえ、ふた月も経たぬうちに整理してしまえるはずだ。

悲しみに押しつぶされそうになりながらも、
そんなことを思っていた。

( ;∀;)「ふ、ふたり、とも……」

モララーが、一冊の本を恭しく抱きしめながらやってくるまでは。

202 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:59:02.116 ID:sLW7pJSn0
   
川 ゚ -゚)「それは?」

( ;∀;)「日記、みたい……」

モララーが袖で涙を拭う。
声は震えているが、
どうにかとめどなく流れる水を止めることには成功したらしい。

( ・∀・)「デレちゃんが、自分で書いたみたい」

パラ、と表紙を開けると、
遊び紙の部分にデレ直筆と思われる文章があった。
彼女は電子ノートを使うことも多々あったけれど、
後々にまで残る紙やペンを好んで使っていた。
  _
(  ∀ )「でっけぇ日記帳だな」

記された文章は、このノートが確かに日記帳であることを伝えていた。
しかし、その分厚さといったら五cmは優に超える。
毎日小まめに書いていたとしても、一年分では足りないだろう。

( ・∀・)「日付を見ると、十年前から書いてたみたい」

川 ゚ -゚)「……読むか?」

( ・∀・)「それを、デレちゃんが望んでいるみたいだし」

203 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 23:59:40.993 ID:sLW7pJSn0
  
ジョルジュ君、クーちゃん、モララー君へ


この日記を見てくれているということは、
私は死んでしまったのだと思います。

三人に家のものを全部譲る、と遺言を書いておいたので、
どのタイミングで私が死んだにせよ、
この家にやってきて、日記を発見してくれていると思います。

もし、私の方が長生きしていて、
ジョルジュ君達じゃない人がこの日記を見てしまったというなら、
お手数かとは思いますが、どうぞ何もなかったことにして、
この日記を燃やしてください。

さて、ひとまず、三人がこの日記を見てくれている、という前提で
文章を進めたいと思います。

この日記には、私の十数年間が記されているかと思います。
嬉しかったこと、楽しかったこと、悲しかったこと。
発見したこと、知ったこと、思いついたこと。

全て知って欲しいと思います。
そして、その上で、選択してほしいと思います。

三人に、こんなことを託してしまい、ごめんなさい。
でも、私はみんなを信頼しています。
どんな結果であったとしても、後悔はしません。


デレより

204 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/28(月) 00:00:16.049 ID:MvzU0oQI0
■■■■年■■月■■日

大学を無事卒業!
ジョルジュ君達は一足先に社会人になっちゃったし、
私も頑張ろう!

この決意を忘れないように、今日から日記を書こうと思う。
研究者たるもの、日々のメモが大事だからね。

何十年後かにも見えれるよう、紙とペンにしてみました。
筆跡とかで月日を感じるのも悪くないよね。


-----------------------------------

■■■■年■■月■■日

史料を探すって大変。
わかってたことだけど、もう何ヶ月も経つのに全然進展しない……。
現代医学のほうもちょっとずつ勉強してるけど、
やっぱり難しいなぁ……。

私の体のこと、もっとちゃんと知りたいのに。
そうしたら、いつか皆みたいに眠らない体になれるかもしれない。

神様! 私のことをお助けください!

なんてね。
困ったときの神頼み、なんて、皆はしないんだもん。
すごいなぁ。

205 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/28(月) 00:00:54.804 ID:MvzU0oQI0
    
■■■■年■■月■■日

久しぶりにジョルジュ君達と会った!

前々から思ってたけど、私が一番背が高くなるなんてビックリだよね。
ジョルジュ君なんて運動もできたし
もっと大きくなるとばっかり思ってたもん。

というか、私が大きくなりすぎ、なのかな?
思えば周りよりも私ちょっと大きい。

でも、胸はクーちゃんのほうが大きくて悔しい……。

-----------------------------------

■■■■年■■月■■日

クーちゃんがジョルジュ君を取材してた!
すっごいやりにくそうな顔してるジョルジュ君面白い!

またみんなで遊びたいなぁ。

そういえば、ジョルジュ君、彼女できたって聞いたし、
今度みんなで見に行こう! そうしよう!

206 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/28(月) 00:01:33.372 ID:MvzU0oQI0
   
■■■■年■■月■■日

医療系の史料じゃないけど、新しいものが見つかった!
昔の人が信仰した神様の話。

学校で習ったよりも、ずっと多くてたくさんの神様や宗教が書かれてた。
あとは天国とか地獄とか。
すごい。昔の人はそんなことをたくさん考えたんだ。

死んだらどうなるか。
私はずっと怖かったけど。
昔の人はこうやって克服していったんだ。

でも、神様のせいで争うくらいなら、
今みたいに神様が信じられていなくて、
平和な世界の方がいいなぁ。

-----------------------------------

■■■■年■■月■■日

史料を見ていたら、昔の人が考えた未来図が見つかった。
色々すごいことが書いてて笑っちゃったけど、
中にはビックリするようなアイディアもあった。

思わずモララー君に相談しにいったら、あれよあれよと言う間に
実現しちゃうっぽいんだからすごい。
でも、私のアイディアじゃないし、後はモララー君がやってくれればよかったのに。

208 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/28(月) 00:01:55.276 ID:MvzU0oQI0
   
■■■■年■■月■■日

もう! もう!
信じられない!
クーちゃんったら酷い!
気づいたら私が取材陣に囲まれてるなんて!

モララー君もジョルジュ君も皆皆グルだったんだ!
私の成果じゃないって何度言っても、みんな納得してくれないし……。
もう! 史料を解読しただけなのに!

-----------------------------------

■■■■年■■月■■日

少しずつ史料も見つかるようになってきた。
私に協力してくれる人が増えたのは嬉しいけど、
みーんな私のことを発明家、って言うのはちょっとなぁ。

私のアイディアなんてほんの少しなのに。
というか、誰でも思いつきそう。
モララー君を含め、ツテがあるから実現してえるだけだって言ってるのに。

空飛ぶ車なんて最たるもの。
浮かせる技術も、前へ進める技術も揃ってて、あとは合わせるだけなのに。

209 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/28(月) 00:02:21.025 ID:MvzU0oQI0
   
■■■■年■■月■■日

お父さんが倒れた。


-----------------------------------

■■■■年■■月■■日

死んじゃった。
お父さん、死んじゃった。


-----------------------------------

■■■■年■■月■■日

子供の方が長く生きるのはしかたないこと。
でも、悲しい。

お父さんの体はバラバラになっちゃった。
人の役にたつって、わかってるけど、悲しい。
お母さんは何で悲しくないんだろう。
私はこんなに寂しくて悲しいのに。

210 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/28(月) 00:02:50.846 ID:MvzU0oQI0
   
■■■■年■■月■■日

昔の人は、お墓を作ったって聞いた。
死んだ人が化けてでないように、供養するんだって。

オバケなんていない、ってみんな言う。
でも、私はいてほしいよ。
お父さんに会いたい。

-----------------------------------

■■■■年■■月■■日

お母さんも死んじゃった。
悲しい寂しい辛い

-----------------------------------

■■■■年■■月■■日

たぶんだけど、昔の人はこんな思いをどうにかするために
お墓を作ったんじゃないのかな
忘れないように忘れなくてすむように
気持ちをぶつけるために

神様
お父さんとお母さんは天国にいますか?
私は死んだら二人に会えますか?

211 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/28(月) 00:03:24.227 ID:MvzU0oQI0
   
■■■■年■■月■■日

最近、眠りが浅い。
もしかして、成長にしたがって、眠る体質が消えてるのかな?

-----------------------------------

■■■■年■■月■■日

眠い。
日中も眠くてしかたがないのに、
どうしてだか眠れない。

集中力がもたない。
とてもねむい。

-----------------------------------

■■■■年■■月■■日

ぼんやりすることが増えた。
色々考えてるはずなのに上手くまとまらない。

今日こそはぐっすり眠りたい。

213 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/28(月) 00:03:51.699 ID:MvzU0oQI0
  
■■■■年■■月■■日

睡眠導入剤、というものを史料でみつけた。
昔の人も、眠れなくなることがあったらしい。
たぶん、わたしもそう。

少しゆっくりすることにした。

-----------------------------------

■■■■年■■月■■日

少し眠れるようになった。
でも、あまり長くはもたない気がする。

この世界はやっぱりちょっと眩しすぎる。
私が眠っている間に、たくさんのことが変わってしまう。

-----------------------------------

■■■■年■■月■■日

医療系の史料もたくさん集まるようになった。
私も昔に比べて、ずいぶん知識が増えた気がする。
でも、これは間違いであってほしい。

215 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/28(月) 00:04:37.798 ID:MvzU0oQI0
  
■■■■年■■月■■日

私一人の考えだから、正しいかはわからない。
でも、一つの可能性として、このことは誰かに知っていてほしい。

抱え込むには、誰かに直接伝えるには大きすぎることだから、
ここに残しておきます。
たぶん、私はみんなより先に死んじゃう気がするから、
そしたら、みんなにこれを読んでもらいたい。

結論からいいます。
現代の人々は、昔の人よりもずっと劣ってしまっています。

私の脳は眠ることでダメージを修復しています。
体の疲れに関しても同様です。

でも、眠れない今の人達は修復できないまま。
平均寿命が八十を越えていた昔に比べ、今は五十後半にまで落ちているのも、
それが原因だと思われます。

もしかすると、身長に関してもそうかも。
私が大きくなったのは、眠れるからかもしれません。

今、マウスを使って不眠実験をした人の記録はありますか?
少なくとも、私がこれを書いているときにはありません。
ですが、それをした、という史料が発見されました。

結果、二週間ほどで皮膚に腫瘍ができ、四週間経った後に死亡したそうです。
私達は眠りに関心を持ちませんでした。
しかし、本来、眠りとは生物にとって必要不可欠なものだったのです。

216 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/28(月) 00:05:04.004 ID:MvzU0oQI0
  
ダメージを修復できなくなった現代人の体は、
眠らぬままでも生きられるように進化、あるいは退化しました。

皆さんの脳は、外からの情報に酷く鈍くなってしまっています。
傷つくことがなければ、傷を癒す必要もなくなる。

そのため、人の気持ちにはできるだけ鈍く、
負に落ち込む感情は少なく、
余計なことを考えてしまわぬように想像力は失われてしまった、と考えられます。

私のアイディアが画期的に見えるのはそのためでしょう。
その証拠に、昔々の史料には、私の想像を遥かに越えるようなもので溢れていました。

文明は頭打ちになどなっていないのです。
我々が先に進む力を失っているだけです。

再びヒトが眠れるようになれば、もっと素晴らしく、
もっとずっと先へ進めるはずなのです。

……でも、それが正しい、と
私は断言することができません。

217 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/28(月) 00:06:44.624 ID:MvzU0oQI0
   
今の生活はどうですか?
私はそれほど不自由を感じていません。

史料の中にあるような飢餓や天災はなく、
人々はそれなりに幸せを謳歌していることかと思います。

先に進む必要はあるのでしょうか。

また、眠ることによって脳を活性化させれば、
再び争いが始まることかと思います。
現代人は痛みに鈍く、誰かを強く長く恨むことも妬むこともありません。

誰もが緩やかに生き、死ぬことができる世界を悪だといえるほど
私は偉い人間ではないのです。

この世界にヒトとして生まれた私ですが、
ある意味では皆と違う生物なのかもしれません。

ですので、私は今の皆さんに警鐘を鳴らすことはできません。
私のせいで、争いのある世界に戻ってしまったら、
今の平和が失われてしまい、多くの悲しみが生まれてしまったら。

そう考えると悲しくてしかたがないのです。

ですので、ジョルジュ君、クーちゃん、モララー君。
三人に決めて欲しいんです。

この世界をどうするか。
この世界に、「ヒト」として生まれてきたみんなに、決めてほしい。

私の日記を発表して、眠る方法を探すのは簡単だと思います。
睡眠導入剤の作り方も記しておきます。

218 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/28(月) 00:07:12.610 ID:MvzU0oQI0
  
■■■■年■■月■■日

今日、中継の途中に倒れちゃった。
ジョルジュ君達が駆けつけてくれた。
嬉しかった。

でも、私はもう長くないと思う。

原因不明、ってお医者さんは言ってたけど、
これは寝不足のせい。

免疫力が落ちたり、バランスが崩れたり……。

誰も悪くないけど、
この世界は私にとって少し辛すぎた。

言葉一つに悪意を疑ってしまうし、
縋るものが少なすぎる。
眩しくて、うるさい世界。

できれば、天国は静かだといいなぁ。

219 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/28(月) 00:07:46.077 ID:MvzU0oQI0
   
川;゚ -゚)「……」
  _
( ゚∀゚)「……」

( ・∀・)「……」

三人は、分厚い日記帳を最後まで読みきった。
数時間ではすまない時間がかかったが、
仕事に関しては数日後まで有給を取っているので問題ない。

現時点で問題なのは、
彼らの中に渦巻く何とも言えない感情だ。

クールは珍しく目に見えてうろたえていた。
大切な友が残した大切な日記。

そこに記されていたのは、
あまりにも生身で、あまりにも真っ直ぐな、
デレの生き様と感情だった。

そこに冗談が混じっていないことは、
赤の他人が見てもわかることだろう。

220 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/28(月) 00:08:23.353 ID:MvzU0oQI0
  
固唾を呑んだクールは、そっと自身の左右に目をやる。

ジョルジュもモララーも、
目立った変化を見せていない。

全てを受け止めているのか、
今もなお、デレの言葉を噛み砕いている最中なのか。

( ・∀・)「……どうする?」

言葉を発したのはモララーだった。
何かを断定することなく、
また、日記帳に書かれたことに関して論議するでもなく、
ただ問いかけた。

川;゚ -゚)「どう、って」

( ・∀・)「選ぶのは、ボクらだよ」

モララーは数ページ戻り、
一等長く書き連ねられた日付の最後、
デレが三人に選択を託した文章をなぞる。

( ・∀・)「発表するなら、ボクがする。
      キミには報道してもらいたい」

かつて、デレの成果を世間に知らしめたときのように。
デレ亡き今、ジョルジュに課せられた役目は失われているけれど。

221 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/28(月) 00:09:06.552 ID:MvzU0oQI0
   
川;゚ -゚)「だが……」

クールは口ごもる。
デレを信用していないわけではない。

だが、自分達の脳が、遥か昔よりも劣っている、と言われ、
すんなりと受け止めることのできる人間がこの世界にどれだけいるというのだ。

( ・∀・)「人類は成長しなければならない。
      彼女一人の手によって、ここ数年でめまぐるしい発展を得た。
      なら、世界中の人間が彼女になれれば、どれだけ変わる?
      ボクはそれが見たい」

そう告げる彼の目は、研究者としての目だった。
ロボットを専門に扱っているが、
それは、そこが世界の最先端である、と信じていたからにすぎない。

まだ先に何かがあるといわれれば、
手を伸ばさずにはいられなかった。
かつての人々ならば、その思いをロマンとでも呼んだのだろうか。

川;゚ -゚)「待て! そもそも、これはデレの憶測にすぎない!
     憶測で人々を混乱に陥れるわけには――」

( ・∀・)「彼女は天才だった。
     アイディアもそうだけど、あれだけの史料を解読しきったこともそうだ。
     ボクは彼女の才能と能力を信じてる」

222 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/28(月) 00:09:58.428 ID:MvzU0oQI0
  
二人の間に火花が散る。
どちらも退くことのできない思いを抱えていた。

感情面が低下している脳であったとしても、
世界を変革するような事実を前にしてしまえば、
一生分の働きをしてくれるくらいには機能してくれている。

川;゚ -゚)「わかっているのか? この日記一つで、
     世界がどうなってしまうのか」

( ・∀・)「わからないよ。だからこそ、その先を見るんだ」

川;゚ -゚)「だから! その先の地獄絵図を、
     ちゃんと考えているのか、と聞いている」

( ・∀・)「考えてないよ。想像もつかない。
      本当はキミも考えれてないんでしょ?
      デレちゃんの描く最悪を思い浮かべてるだけだ」

川;゚ -゚)「そうさ、それの何が悪い。
     デレが示した最悪を、私は回避したい!」

緊迫する二人の空気。
そこに水を差したのは、
今までずっと黙っていたジョルジュの一声だった。

  _
( ゚∀゚)「――墓、作ってやりてぇなぁ」

225 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/28(月) 00:13:01.871 ID:MvzU0oQI0
   
二人はジョルジュを見る。
彼らの視線を感じ、ジョルジュは小さく笑ってみせた。
  _
( ゚∀゚)「オレは馬鹿だからさ、何にも考えれねぇよ。
     アイツの描く最悪も、先ってやつも」

遠い目をした彼が見るのは、
発達した未来でもなければ、争いに溢れた未来でもない。
  _
( ゚∀゚)「だったら、せめて、アイツが望んだ墓、ってやつを作ってやりたい」

天国だとかいう場所に行ってしまった彼女をジョルジュは見ていた。

両親が死んだとき、デレは墓を求めていたらしい。
感情をぶつける先として、縋る場所として。

今となってはもう遅いのだろうけれど、
現代人でしかないジョルジュには、
感情をぶつける先も、縋る場所も必要ないのだけれど。

供養、というやつのために必要なものをデレに捧げてやりたい。
そう、思えた。

226 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/28(月) 00:13:38.540 ID:MvzU0oQI0
  
( -∀-)「……そうだね」

川 - _-)「……あぁ、それがいい」

二人は瞼を下ろし、明るい笑顔のデレを思い浮かべる。
世界だとか、未来だとか、
そんな、彼らの頭では想像もできないことよりも、
もっと優先すべきことが、ここには存在していた。

静かに彼らは目を開け、互いを見る。
答えは決まった。

( ・∀・)「お墓ってやつについて調べないとね」

川 ゚ -゚)「私も色々とあたってみる」
  _
( ゚∀゚)「墓ってどんなやつなんだろうかねぇ」

( ・∀・)「それを調べるんだよ」

川 ゚ -゚)「場所や材料が必要になったらお前に頼むから、
     ちゃんと探して揃えるんだぞ」
  _
( ゚∀゚)「任しとけ」

三人は日記を部屋に残し、
デレの自宅を後にした。

227 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/28(月) 00:14:47.868 ID:MvzU0oQI0
  
数年後、墓というものを調べた三人は、
見事デレのために墓を完成させた。

海の見える丘に作られた墓は、
西洋風、というやつらしく、横長の墓石で出来ている。

河合デレの名と没年が刻まれた石の前には、
色とりどりの花が供えられていた。

本当は、花の種類にも決まりがあるらしいのだが、
昔と今では手に入る種類が違いすぎたため、
各々デレに似合うだろう花を携えてきた。

誰もが明るい色、
とりわけ、黄色や橙色の花をメインに据え、
間に白や紫といった色が差されている。

花束の傍らに置かれているのは、いつかのミニマクジラのバッヂだ。
二つ、寄り添うように並んでいる。
  _
( ゚∀゚)「どうだ、満足してくれてるか?」

川 ゚ -゚)「小まめに掃除にくるからな」

( ・∀・)「いつかボクらが眠ったら、
      キミのところに行けるのかな?」

死とは、現代人に残された唯一の眠りだ。

228 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/03/28(月) 00:15:22.322 ID:MvzU0oQI0
   
川 ゚ -゚)「さあ、デレ。
     ゆっくり眠ってくれ」

クールは鞄から日記を取り出した。
五cm以上はある、あの日記だ。

結局、彼らは日記の中身を公開しないことに決めた。
誰も言葉にはださなかったけれど、
バラバラになってしまったデレの遺体の代わりにすることにしたのだ。

( ・∀・)「さようなら。
      また、いつか」

モララーが日記に火をつける。
様々な埋葬法を見つけることができた中で、
彼らは火葬を選んだ。

地面の中で蝕まれるよりも、
煙となって天に消えていくほうが、
美しい死に様に思えたのだ。

  _
( ゚∀゚)「おやすみ、デレ」



      ζ(-、-*ζは眠るようです    END

コメント

コメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する



プロフィール

K-AYUMU

Author:K-AYUMU

最近の記事

最近のコメント

カテゴリー

リンク

ユーザタグ

カ行 タ行 ア行 ちんこ ハ行 サ行 マ行 ナ行 英数字  ^ω^) ('A`) ラ行 1レス ワ行 (´・ω・`) ショボーン ヤ行 ブーン ショボン トソン 'ー`)し ξ゚⊿゚)ξ (,゚Д゚) ドクオ まんこ (=゚д゚) J( 1レス カラマロス大佐 シュー ミセリ (-_-) いよう 川д川 人狼 (∪^ω^) 世紀末 ツンデレ 

FC2カウンター

ブログ内検索

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。