mesimarja
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lw´‐ _‐ノvと過ごした冬の夏のようです
1 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/04/03(日) 21:55:11.411 ID:Ay5AiMcAa
昨日はすでに過ぎ去った。明日はまだ来ていない。



          lw´‐ _‐ノvと過ごした冬の夏のようです



                    私たちの手の中には、今日だけがある。


2 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 21:56:21.223 ID:Ay5AiMcAa
『4月 末日

はじめまして。私の名前は、タチバナ・ミセリです。
今月から一年間、こうして日記……月記?をつけることにしました。
日本に移り住んで、もう三週間が過ぎました。
おばあ様が心配していたようなひどい外省人排斥は、まだ受けていません。
もしかしたら、お母様のおかげで、大和民族っぽい顔をしているからなのかな。
スクールの人達も、(私のような流れ者が多いとはいえ、)親切にしてくれています。
アルバイトを探すのは、ちょっと苦労したけれど、どうにか雇ってくれるお店を見つけました。
まだまだ慣れるまで時間がかかりそうだけれど、必死で生きています。
一年後には帝大生になれるよう、頑張るぞー!


3 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 21:56:56.549 ID:Ay5AiMcAa
『5月 末日
日本生活二ヶ月目、突然ですが、恋をしました。帝大生の、素敵な男の人です。
図書館で困っていた私を助けて以来だから、三週間は恋しています。
国家の理想を語る真剣な眼差しが、寝ても覚めても頭から離れないのです。
さて、日本暮らしも一か月を過ぎ、私の生活は落ち着いてきました。
お母様の仰った通り、日本の食事はとても美味しいです。
近くに同じ外省人の方が開いているお店があって、故郷の香辛料もそこで手に入ります。
なかなか軌道に乗っているのではないか、と言うと、調子に乗りすぎでしょうか。
ともかく、たまにホームシックに陥ること以外は何の不自由も(あとお金も)ありません。
つつましくもお勉強を重ねる日々、そして最近はそんな私がちょっと好きです。
11ヵ月後には帝大生になれるよう、頑張ります!


4 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 21:57:16.788 ID:Ay5AiMcAa
『6月










』 

5 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 21:57:40.937 ID:Ay5AiMcAa
――数十年前、地球は風邪をひいた。
私達がごほごほ咳き込むように各地に台風を飛ばし、私達が鼻水を流すように大雨を降らせた。
それに加えて高熱も出た。今の地球は、私が生まれる前に比べて、数度くらい暖かいんだとか。

風邪を引いて熱が出るのは、体のなかの風邪ウイルスを殺す為だと聞いたことがある。
もちろん、死に絶えた生き物は多かった。でも、その陰では、増えた生き物もたくさんいる。
たぶん、自然界をトータルで見ると、それほど致命的なダメージではないんだと思う。
共食いを始めた生き物は人類だけだった。きっと地球の熱は人類を殺そうとしていたに違いない。


ミセ*゚ー゚)リ「……暑ーい……」


電車を下りると、もう夕方にもなるのに、30度を超える熱気が全身を包んだ。
人類史は厳しい冬を迎え、私達は異常に暑い夏を迎えつつあるというわけだ。

6 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 21:57:49.793 ID:Ay5AiMcAa
――数十年前、地球は風邪をひいた。
私達がごほごほ咳き込むように各地に台風を飛ばし、私達が鼻水を流すように大雨を降らせた。
それに加えて高熱も出た。今の地球は、私が生まれる前に比べて、数度くらい暖かいんだとか。

風邪を引いて熱が出るのは、体のなかの風邪ウイルスを殺す為だと聞いたことがある。
もちろん、死に絶えた生き物は多かった。でも、その陰では、増えた生き物もたくさんいる。
たぶん、自然界をトータルで見ると、それほど致命的なダメージではないんだと思う。
共食いを始めた生き物は人類だけだった。きっと地球の熱は人類を殺そうとしていたに違いない。


ミセ*゚ー゚)リ「……暑ーい……」


電車を下りると、もう夕方にもなるのに、30度を超える熱気が全身を包んだ。
人類史は厳しい冬を迎え、私達は異常に暑い夏を迎えつつあるというわけだ。

8 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 21:58:14.458 ID:Ay5AiMcAa
駒ケ崎駅から寄宿舎までは徒歩で二十分ほど。
近くまではバスも出ているけれど、そんな余裕がある留学生は居ないので、スクール生はほとんど利用しない。
そんなわけで私たち貧乏学生は今日もこの炎天下の中、長いコンクリート・ロードを歩くのである。
眩い光が降り注ぐ逃げ場の無い焦熱地獄の中、国策で植えられた街路樹が何より心強い。


ミセ*゚ー゚)リ「おっと、忘れてた。お夕飯の食材……」

『――しかして、蒙昧なる佐藤政権が取った移民政策により、映えある大日本国の栄誉は――』


食事の時間ほど、日本に来てよかったと感じることはない。
四季があって海の幸と山の幸に恵まれている上に、技術力があるおかげで農作物も高水準。
そもそも、もともと外国との交流が盛んだったからか、食の選択肢が段違いに広い。


ミセ*;゚ー゚)リ「……ええと確か今日は大根が残っていたはずだから……」

『――今こそ国益を害する薄汚い侵略者共を駆逐し、日の昇る国の栄光を――』


バイトで稼いだ生活費は、ほとんど全額が食費に消えてしまう。
まあ、そこは必要経費だから仕方ない。お母様曰く、美食は心を育てる畑なんだとか。

ああ、なんて素晴らしいのだろう、私の人生。

9 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 21:59:12.575 ID:Ay5AiMcAa
ミセ*;-ー)リ「……うん、そろそろイワシが美味しい季節だったはずだし、それで……」

д('A`#)『――我らの力を結集し、今こそ我らが祖国に住まう寄生虫を一掃しようではないか――』

ミセ#゚д゚)リ「うるせえええ! 人がせっかく幸せな気分に浸ってんのに!」


商店街のど真中、拡声器を片手に大声を張り上げるバカ者共に、聞こえない程度の小声で呟く。
私は顔が良いから(日本人っぽいという意味で)、まきこまれることは無いけれど、でも不愉快だ。

彼らはいわゆる、極右というやつだ。
北陸に流れ弾の核ミサイルが着弾してからというもの、この手の輩が爆増したのだという。
この炎天下の中、数十人がかりで詰襟を着込むな。暑苦しくて仕方ない。


ミセ#゚д゚)リ「だいたい私達が何をしたってのさ、頭にくるなあもう!」

J( 'ー`)し「ごめんねえ、ちょっと悪い時にあたっちゃったみたいで」

ミセ#゚д゚)リ「いやいや、おかみさんは悪くないよ! あの連中ときたら! イワシってある?」

10 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 21:59:37.187 ID:Ay5AiMcAa
J( 'ー`)し「それでもやっぱり、身内の恥だからねえ。朝方ほとんど売れちゃったから、良いのは少ないわよ」

ミセ#゚д゚)リ「……三尾ください」

ミセ#゚д゚)リ「……そういうものですか?」

J( 'ー`)し「そうねえ。外人外人って言って、ミセリちゃんみたいな良い子も居るのに。はい、三尾で二百円」

ミセ*゚д゚)リ「えっ、何それ安っ!」

J( 'ー`)し「留学生がお金の余裕なんて無いでしょ。どうせ今日は売れ残りそうだから、それで良いわ」

ミセ*゚ー゚)リ「やたっ! ありがと、おかみさん!」

J( 'ー`)し「はいはい、またいらっしゃい。……ウチのバカ息子を許してやってね」

ミセ*゚ー゚)リ「うん、わかっ……息子さん?」

J( 'ー`)し「ほら、あの真中で拡声器持ってる子。どこで間違っちゃったのかしら」

д('A`#)『今も塩見政権は過去佐藤政権の犯した過ちを繰り返そうと~~』

ミセ*゚ー゚)リ「むむむ……まあ、おかみさんに免じてですね。身内って、そういう意味だったの」

J( 'ー`)し「そういう意味。まいどさん、御贔屓に」

ミセ*゚ー゚)リ「へへ、また来るね」

11 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:01:32.461 ID:Ay5AiMcAa
世界規模で災害が頻発して最初に吹き飛んだのは、東の大国・中華連邦共和国だった。
もともとひっ迫気味だった経済が、世界中の不況のあおりを全身で受けて、爆発したのだ。

ひとたび連鎖が起こるとあとは早かった。
全世界の経済が連鎖に連鎖して、どこも火の車と化し、小さな国から順に暴走してゆく。
あっちで経済封鎖が起こり、こっちで反発が起こり、そっちで戦争が起こる。

落ち目のアメリカが虚勢ばかりの中国と殴り合う。
中国べったりの東ヨーロッパことEEUが便乗し西ヨーロッパことWEUと支援者のアメリカを殴る。
もはや漁夫の利など言っていられないロシアが中国側で参戦してアメリカを殴る。
WEUが嫌いで仕方無いアフリカ諸国連合が感情に任せてアメリカを殴る。
アメリカが嫌いで仕方ないアラブ諸国連合が感情に任せてアメリカを殴る。
落ち目とはいえ大国アメリカが、中国とロシアとEEUとアラブ・アフリカ諸国連合を纏めて殴り返す。
中国はどさくさに紛れてアジア諸島国からカツアゲを始め、日本含むアジア共同体はアメリカ側として殴られる。
この殴り合いを、私達人類は第三次世界大戦と呼んだ。


(゜д゜@「あら、ミセリちゃんじゃないの。おかえりなさい」

ミセ*゚ー゚)リ「ただいまー。今日もなかなか酷かったね、商店街の」

(゜д゜@「あらやだ、またやってたのね」

ミセ*゚ー゚)リ「うん、げんなりしちゃった」

12 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:02:24.900 ID:Ay5AiMcAa
(゜д゜@「……知ってるかしら? 最近、不法入国が多くて、この辺りでもかなり摘発されてるらしいわよ?」

ミセ*゚ー゚)リ「「まじですか。ああ、それで」

(゜д゜@「いやねえ、ミセリちゃんも気をつけないと、難癖つけられてしょっ引かれちゃうかも」

ミセ*゚ー゚)リ「えー、でも、私はちゃんと手続きしてきたよ」

(゜д゜@「関係無いわよ、あの差別主義者達には。問題を起こしたことにされて、在留取り消しにされちゃうわ」

ミセ*;゚ー゚)リ「お、おおう……それは怖い……気をつけます」


百数十年ぶりの世界大戦は、疲れ切った米中露東欧西欧が共同で相互不干渉宣言を出し、あっさりと終わった。
きっかけからして継戦能力がどこにも無かったのが、不幸中の幸いだったというわけだ。

残ったのは世界中に飛び散った火種と焼け跡ばかり。もちろん地球の引いた風邪も治っていない。
今日も世界のどこかではミサイルが飛び交っているんだろうけれど、我々人類は意外とタフに生き残っています。


(゜д゜@「あらやだ、すっかり忘れてたわ。ミセリちゃんにお役所から封筒が届いてたわ」

14 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:06:16.538 ID:Ay5AiMcAa
ミセ*゚ー゚)リ「ありがと。……なんだろ、これ」

(゜д゜@「……もし何かあったら私を呼びなさいね。ミセリちゃんが真面目な留学生だって証言してあげるから」

ミセ*;゚ー゚)リ「やめて! 縁起でもないから!」

(^д^@「あらやだ、ほんの冗談よ」

ミセ*゚ー゚)リ「もー。……ありがと、アラヤダさん」


お役所からの封筒。
まさか、本当に退去命令だとかじゃないだろうな。
階段を昇りながら、固く封された口を破り開ける。

……今のところ素行不良は起していないから、いきなり追放はされないだろうけど。
臆病な仔山羊の私を脅かす恐怖の封筒、開けてみると中身はぺらぺらの紙が一枚だけ。

15 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:06:36.720 ID:Ay5AiMcAa
ミセ*゚ー゚)リ「私しってるんだ、こういうのは短ければ短いほど危ないことが書いてあるって」


ああ、読まずに食べてしまいたい。けれど、そうも言っていられない。
意を決し、息を吸い込み、吐き出すと同時に決した意がかき消える。

まずは冷たい緑茶だ。玄米茶でもいい。
せめてもの現実逃避をしながら、ひんやりしたドアノブを引く。
誰か私の代わりに読んでくれないものか。残念ながら一人暮らしの現状では叶わないけれど。


ミセ*゚ー゚)リ「ただいまー……」

「おかえりー、遅かったね」


一人暮らしの、現状――
驚きのあまり、全身が硬直した。

16 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:06:59.662 ID:Ay5AiMcAa
ミセ*゚ー゚)リ「……あ、ごめんなさい、お部屋間違えちゃったみたい」


急いでドアを閉める。表札を確認、部屋番号は、206、間違いない、私の部屋だ。

左手の封筒が書類ごとぐしゃぐしゃに潰れている。しょうがない、さっきから暑さで手汗が滲んでいるし。
うん、暑い。暑いよね。だから、幻覚と幻聴だ。よく考えたらさっきも鍵は開けてないんだから、ドアが開くはずがないもの。

落ち着いてポケットから鍵を取り出し、取り落とし、拾って鍵穴に差し込む前に、ドアは内側から押し開けられた。


ミセ*;>-<)リ「ふぎゃ、痛っつつ……」

lw´‐ _‐ノv「あれ、そこに居たのか。ごめんごめん」


鼻を押さえて蹲る私、見下ろす女性。
ああ、ダメだ、これダメなやつだ。選択を間違えた。素早く逃げて警察を呼ぶべきだった。
もう何もかも手遅れだ。逃げ切れない。口封じされる。そんで朝刊の隅にちっちゃく「移民が死体で発見、物取りの犯行」とか書かれるんだ。


lw´‐ _‐ノv「なにしてるのさ、入っておいでよ」


ああ、短い人生だったなあ。私は素直に従った。きっと抵抗しても無意味だよね。
……後で思い返すと恥ずかしい限りだけれど。とにもかくにも、これが彼女とのファーストコンタクトだった。

17 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:07:27.555 ID:Ay5AiMcAa
『        居住命令         』

ミセ*;゚ー゚)リ「……マジで?」

lw´‐ _‐ノv「マジです」

居住命令。お役所からの書類には、四文字のタイトル。
私は両手で書類を握りしめ、眼を皿のようにして読んだ。
隅から隅まで、一言たりとも見落さないように、視線でハチの巣みたいな穴を開けられるくらい、必死で読んだ。

その結果の第一声が、「マジで?」の一言だったというわけだ。
書類に書かれていることを要約すると、つまり。


ミセ*゚ー゚)リ「これからこの部屋に、あなたも住むってこと……ですか? ええと……シューさん」

lw´‐ _‐ノv「はい。そういうことです、タチバナ・ミセリ。嫌ですか?」


頭を抱える私、すらりと背筋を伸ばす彼女・シューさん。
このクソ暑い中だというのに黒い長袖を着込み、肌は透き通るような白。
その無表情に浮かぶのは微かな憂い……否、哀しみ……否、喜び……だめだ、表情は全く読めない。

18 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:08:00.276 ID:Ay5AiMcAa
ミセ*;-ー-)リ「嫌って言うか、さすがに、ちょっと心の準備がしたかったというか……良いんだけど」

lw´‐ _‐ノv「ん、意外とあっさり受け入れるんですね」

ミセ*゚ー゚)リ「そりゃあ、だって、お役所がそう言ってるんですし」


自慢じゃないけれど……本当に自慢することじゃないけれど、これでも適応力と従順さには自信がある。

生まれ故郷の村が温暖化の影響で海に沈んでも、私は生き伸びましたし。
第二の故郷たる移住先が東側勢力の絨毯爆撃で火の海に沈んでも、私は生き伸びましたし。

それに、祖国が完全崩壊した難民の私達を受け入れて、あまつさえ教育の機会までくれるこの国には、いちおう心から感謝していますし。


lw´‐ _‐ノv「ほっとしました。もし断られたりしたら、と思うと……」

ミセ*゚ー゚)リ「あ、いやいや、私も移民の外人さんですし、そこはお互い様で……」


長い睫毛。
少し気恥ずかしくて、私は書類を読み返すふりをした。
細々とした説明は、じつのところ、まだ完全には呑み込めていない。


ミセ*゚ー゚)リ「あの、まだ、いろいろと聞かなきゃいけないと思うんだけど……」

19 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:08:26.017 ID:Ay5AiMcAa
lw´‐ _‐ノv「私に答えられることならなんでも答えますよ」

ミセ*゚ー゚)リ「それじゃあ、その、……ええと、ここに住むんですよね?」

lw´‐ _‐ノv「はい」

ミセ*゚ー゚)リ「荷物とか、持ってきていないんですか? 着替えとか、そういうの」

lw´‐ _‐ノv「最低限は持ってますよ、ほら」


シューさんは部屋の一角を指差した。
もともと物が少ない私の部屋なのに、言われるまで気付かない程度。
せいぜい1メートルかける30センチほどの、四角く平たい布張りの鞄が一つだけ。


ミセ;*゚ー゚)リ「いやいや、いやいやいや、あれだけ?」

lw´‐ _‐ノv「そうです。持ち物に縛られる人生なんて、ろくなものじゃないですから」

ミセ*゚ー゚)リ「おお、なんかカッコいい……でも、それじゃ寝袋みたいなものなんて、もちろん無いですよね」



寝るところが無いのは流石に困るだろう、そう思ったんだけれど。

20 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:09:08.186 ID:Ay5AiMcAa
lw´‐ _‐ノv「それなら心配要りませんよ。寝床ならもう用意してありますから」

ミセ*゚ー゚)リ「おおー、って、え、どこに?」


よくぞ聞いてくれましたとばかりに、彼女は奥の部屋の扉を……ちょっと待って、そこは私のベッドルームのはず。
唖然とする暇は、少しだけはあった。夕方のうす暗い部屋をLEDが照らし、それを見るまで。


ミセ*;゚д゚)リ「おま、これっ」

lw´‐ _‐ノv「どやぁ、丸三時間も費やしたぜ!」


そう、私の愛用のベッドの真上に掛けられた見事なハンモックを見るまでは。

21 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:09:08.809 ID:Ay5AiMcAa
lw´‐ _‐ノv「それなら心配要りませんよ。寝床ならもう用意してありますから」

ミセ*゚ー゚)リ「おおー、って、え、どこに?」


よくぞ聞いてくれましたとばかりに、彼女は奥の部屋の扉を……ちょっと待って、そこは私のベッドルームのはず。
唖然とする暇は、少しだけはあった。夕方のうす暗い部屋をLEDが照らし、それを見るまで。


ミセ*;゚д゚)リ「おま、これっ」

lw´‐ _‐ノv「どやぁ、丸三時間も費やしたぜ!」


そう、私の愛用のベッドの真上に掛けられた見事なハンモックを見るまでは。

22 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:09:59.410 ID:Ay5AiMcAa
lw´‐ _‐ノv「快適そうでしょ。布だけなら500円も出せば買えるし、我ながら良い出来だと思うんですが」

ミセ*;゚д゚)リ「えっ、いや、それはちょっと、流石に……だって、ええー……?」

lw´‐ _‐ノv「なかなか寝心地が良いんですよ、これでも」


シューさんはハンモックに飛び乗り、私は止める間もなくて。
窓の手すりと、壁だか天井に勝手に取り付けられたフックが、女性一人分の体重を受けて軋む。
おい、まさか壁、それ、穴あけたんじゃなかろうな?


ミセ*;゚д゚)リ「おま、それ紐がぎしぎし言ってるじゃん! 明らかに設計ミスだよ!」

lw´‐ _‐ノv「何をバカな! もし万が一が落っこちてもいいように、ほら、安全マットまで!」

ミセ*;゚д゚)リ「まさか私のベッドのことか? そこに寝てるはずの私の安全は!?」

lw´‐ _‐ノv b

ミセ*#゚д゚)リ「下りろ! そんで今すぐはずせ!」

24 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:11:17.885 ID:Ay5AiMcAa
……

無理矢理はずさせたハンモックの残骸は、今は寝室の窓を覆う役目を負っている。
カーテンなんぞ買うお金は無かったから少しだけありがたかったのは、まぁ、黙っておこう。


ミセ*゚ー゚)リ「……さて、改めてですが」

lw´‐ _‐ノv「私に答えられることなら何でも答えますよ」


まだやるかこんにゃろう。
シューさんは私の抗議の視線を涼しい無表情で受け流す。


ミセ*゚ー゚)リ「質問はもういいよ! それより、寝るところとか、食べるものとかの話!」

lw´‐ _‐ノv「そうですね、私としては、今日はソファでもお借りできればいいかと思ってたんだけど」

ミセ*゚ー゚)リ「……やめて、言わないで、わかってるから」

lw´‐ _‐ノv「そうですね、それじゃ、お前んち本当に何もねえな広めの犬小屋と大差ないじゃんっていうのは心にしまっておきます」

ミセ*゚ー゚)リ「そっか、ハハハッ、そこまで言われるとは流石に思ってなかったな」


まあ確かに、家具は部屋にちゃぶ台と冷蔵庫・炊飯器しかありませんし、ぐうの音も出ませんよ。

25 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:12:19.708 ID:Ay5AiMcAa
lw´‐ _‐ノv「ええと、多分その書類にもあると思いますが、お家賃は少し安く抑えられるはずです」

ミセ*゚ー゚)リ「いや、そういう話じゃなく……って、マジで!?」


改めて確認すると、ぺらぺらの紙きれの下の方に、居住費の記載があった。

3月と4月はそれぞれ3万円、日本に来たときの説明通り。
本来ならこのお部屋は二人部屋とかなんとか聞いた事があったんだけれど、運悪く相方が居なかったとか。

で、今後お支払いしなければならない金額の方はと言いますと、4万円を納入のこと、だとか。


ミセ*;゚ー゚)リ「高くなってるじゃん!」

lw´‐ _‐ノv「二人で4万円ですからね?」

ミセ*゚ー゚)リ「……え、シューさんもお金出してくれるの?」

lw´‐ _‐ノv「もちろん」

26 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:14:09.774 ID:Ay5AiMcAa
ミセ*゚ー゚)リ「正直、シューさんって私並みに貧乏してると思ってた」

lw´‐ _‐ノv「これでも昼間はお仕事してますし」

ミセ*゚ー゚)リ「え、スクール生じゃないんだ」

lw´‐ _‐ノv「じゃないです。もう22です」

ミセ*;゚ー゚)リ「うっそ、私より5歳も年上なの!?」


5歳も年上なのに、その生活力の乏しさは一体どういうことなのかと。
私がためらう間に、シューさんはひらひらと、軽く手を振って立ち上がった。


lw´‐ _‐ノv「今日のところは挨拶だけってことで、明日からお邪魔することにします、よろしく、タチバナ・ミセリ」

ミセ*゚ー゚)リ「え、あ、うん。待って、宿とか大丈夫なの?」

lw´‐ _‐ノv「問題ないですよ、あてはありますから」

ミセ*;゚д゚)リ「じゃハンモックなんて作るなよ!」

lw´‐ _‐ノv「また明日からお願いします」


玄関が開き、閉じる音。ご丁寧に、鍵も掛けてくれたみたい。なんで持ってるのかは知りたくない。
こうして奇妙な二人暮らしは始まった……んだけれど、しばらくはシューさんの変人っぷりに振りまわされる日々だった。

27 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:15:05.626 ID:Ay5AiMcAa
翌日。共同生活、1日目。水曜日。

午後6時すぎにスクールから帰宅、居間にも寝室にもまだシューさんの姿は無い。

部屋の隅には例の黒い鞄があって、冷蔵庫には海苔が巻かれた御握りが二つ。
これは食べても良いということだろうか。少し悩んだけれど、とりあえずそのまま放置。
ラップが掛けられていたけど、もともと家にはなかったから、シューさんが買ってきたのだろう。

なかなか細かい所で気が利く女性だ。これは評価を改めねばなるまい。

偉そうなことを考え、その後は10時過ぎまで復習に費やし、身支度を整えてベッドに入って電気を消した。

結局、シューさんは現れなかった。
仕事もしているそうだし、忙しかったんだろうか。

一日過ごすところに当てがあるとか言っていたし、この家で居心地悪く過ごすのは嫌なのかも。

ひょっとしたら、昨日一日の出来事は夢か何かだったのかな。
ああ、でも、お家賃が4万円になってたりしてたら、もっと嫌だ。

……うとうとしていると、私の視界の隅で、すっ、何かが動いた。
私は頭だけを動かし、常夜灯の照らすオレンジ色の闇を眺めた。

すうう――静かなノイズ。
押し入れが静かに開き、病的に白く細い腕がゆっくりと這い出てきて。


ハソ;゚д゚)ソ「ぴぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

28 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:16:17.803 ID:Ay5AiMcAa
ハソ#゚д゚)ソ「てんめぇこの野郎、そういう心臓に悪いこと本当にやめろ! 今度やったら泣くぞ、これから毎晩夜泣きするぞ!」

lw´‐ _‐ノv「い、いやぁ、まさかそこまで驚くとは思わなかったもので……」


寝巻のシューさんが正座し、寝巻の私が小声で怒鳴る。
なにせ寄宿舎の壁はとても薄いのだ。下手に大声を出せば隣の部屋どころか建物中に響き渡る。

もちろん、さっきの私の悲鳴なんかは、スクール仲間を含む住民全員の耳に届いただろう。
実際とても優しい何人かは、自分の危険も顧みず、慌ててすっ飛んできてくれた。

空っぽだった押し入れは昼間のうちに改装(?)されたようで、布団一式に衣装掛けを設えたうえにランプも吊るされ、挙句に壁紙まで貼ってあった。
一畳程度のスペースで、よくぞここまでやるもんだ。

ちなみに、今回の座敷童子もどき事件については、本人も悪気はまったく無かったらしい。
なんでも昨日は眠れなかったらしく、午前中に押し入れを整備してから、ずっと寝ていたとか。


ハソ;-д)ソ「はぁ……なんかもう、眠気も引いたし、お腹すいてきちゃった」

lw´‐ _‐ノv「あれ、食べなかったんですか?」

29 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:16:45.764 ID:Ay5AiMcAa
ハソ゚д゚)ソ「何を……って、ああ、おにぎりか。だって二つあったし」

lw´‐ _‐ノv「?」

ハソ゚д゚)ソ「一緒に食べようってことじゃなかったの?」


……え、なんでびっくりするの?
お互いに顔を見合わせたまま数秒、シューさんは静かに頷いた。


lw´‐ _‐ノv「……そうですね。食べましょう」

ハソ゚ー゚)ソ「おっけー、それじゃ、温めてくるね」


外の廊下、共用のレンジで二個のおにぎりを温めて、部屋に戻るまで数分程。
相変わらず正座しているシューさんを見て、私はなぜだか、ちょっと安心した。

具材なしの塩むすびと、シューさんの淹れてくれたお茶。
この静かなお夜食で、私はシューさんと、少しは仲良くなれた気がする。

32 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:30:25.378 ID:Ay5AiMcAa
共同生活、二日目。金曜日。
お仕事は昼からだというシューさんを押し入れに放置し、私はアルバイトの朝。

顔よし、髪型よし、服装よし。鞄は持った。鍵も持った。
今朝がた炊いたお米は、私の朝食と昼のお弁当の分が減っても、まだ一食分ほどはある。

一応、いちおう書置きくらいは残しておこう。
あ、あとついでに御夕飯の買い出しもお願いしてみよう。
御夕飯は今日は私に合わせてもらうとして、相談するのは明日から。
あと鍵の場所……は心配いらないか。帰りの時間もいちおう書いておこう。

こうして長々と書き残したメモが、ほとんど何の役にも立たなかったと知ったのは、帰宅後だった。


ミセ*゚ー゚)リ「じゃがいも、ニンジン、玉ねぎ、安ければお肉も、とか書いた気がするんだけど……」

lw´‐ _‐ノv「……てへっ」


ナス、トマト、パプリカ、サヤエンドウ、ニンニク、アサリ。
残念ながら、一品たりとも揃っていない。しかもちょっとお高い食材もちらほら。
もっとも、食材の買い物リストだと分かってくれただけでも恩の字と言ったところだろう。というのも。


ミセ*゚ー゚)リ「文字が読めないなら、先にそう言ってくれればよかったのに……」


なんとこの女、これだけ流暢にしゃべっておいて、漢字はおろか、ひらがなカタカナすら読めないのである。

33 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:31:13.987 ID:Ay5AiMcAa
lw´‐ _‐ノv「てっへぺろ。言い忘れていました」

ミセ*゚ー゚)リ「びっくりしたよ、もう。てっきり日本語はかなりできるものだと」


驚くには驚いたけれど、無文字文化圏からの移民ならばさもありなん。
私にしても、祖母と母のお陰で読み書きは問題ないけれど、故郷の識字率はそこまで高くもない。


lw´‐ _‐ノv「そうでもないですよ。まだ日本で働きはじめて一年ほどですし」

ミセ*゚ー゚)リ「へえ、そうなん……って、一年!? 一年でそんなに喋れるの!?」

lw´‐ _‐ノv「私、天才なので」

ミセ*゚ー゚)リ「羨ましいくらい自信家! よく日本に来る気になったよね」

lw´‐ _‐ノv「そうですね、人生は挑戦ですから」

ミセ*゚ー゚)リ「カッコいいなー、スパッと言いきれるなんて」

lw´‐ _‐ノv「私、天才なので」


おいおい、リサーチが甘いな天才ちゃん。
お世辞をお世辞と理解できない者に日本は十年早いぜ。

34 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:31:54.072 ID:Ay5AiMcAa
ミセ*;゚ー゚)リ「それはもういいよ! まだ読み書きもできないくせに……」

lw´‐ _‐ノv「むむ、失礼な。これでも、喋るだけなら割といろいろ喋るんですよ」

ミセ*゚ー゚)リ「へえ、それじゃあ……Tar neak mok pi protes nia?」

lw´‐ _‐ノv「んー…… Khnom mok pi prates tara mueyotieta」

ミセ*゚ー゚)リ そ


凍りついた私のドヤ顔、シューさんは無表情。
この人こわい。


lw´‐ _‐ノv「私、天才なので」

ミセ*゚ー゚)リ「え、それ完璧に喋れるの? それじゃあ……」


調子に乗ってメモ帳に故郷の文字を書こうとした私、困った様子の無表情シューさん。
もしや、あれだけ流暢に喋って、ついでに発音まで完璧にしておいて。


lw´‐ _‐ノv「読めません。私、天才ですが、聞くのと喋るの専用なんです」

ミセ*゚ー゚)リ「う……そりゃまた難儀な」

35 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:32:31.345 ID:Ay5AiMcAa
lw´‐ _‐ノv「あ、勿論、私の故郷の言葉なら書けますよ?」

ミセ*゚ー゚)リ「シューさんの故郷って」


シューさんは私のペンを使い、チラシの裏で作ったメモ帳にさらさらと……って、うわ、速いし雑!
十秒足らずの間に大判メモ帳は直線と曲線とで埋まり、私が驚く間にシューさんは二枚目に移っている。


lw´‐ _‐ノv「ほら、こんな風に」

ミセ*゚ー゚)リ「それ適当に書いたんじゃないだろうな?」

lw´‐ _‐ノv「むむ、心外な」


心外なとか言いつつ全くの無表情なので心外そうには見えない。
だってどう見ても子供の落書きじゃん、そう口にする前に閃いた。


ミセ*゚ー゚)リ「じゃあそれ、読みあげてみてよ」

lw´‐ _‐ノv「いいですが、私の故郷の言葉はわかるんですか?」


こんにゃろう。

37 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:33:37.996 ID:Ay5AiMcAa
ミセ*゚ー゚)リ「ぐっ、こんにゃろう、小賢しい。それじゃ私に分かる言葉に訳してよ」

lw´‐ _‐ノv「『同居人タチバナ・ミセリは私が日本語を読めないと知るや、完全に見下した態度を取り始めた』」

ミセ*;゚д゚)リそ

lw´‐ _‐ノv「『冷たく嘲る視線。既に身分差は決してしまった。これから愚かな私は奴隷に、賢い彼女は女王様になる』」

ミセ*;゚д゚)リ「しないよ! ならないよ! 無表情の裏でどんだけ闇を抱えてるんだよ!」

lw´‐ _‐ノv「『しかし彼女は所詮貧乏スクール生。いずれ社会人たる我が金の力に不様にひれ伏すことになるだろう』」

ミセ*;゚д゚)リ「それもない! 敬語の裏でどんだけ悪意を募らせてるんだよ!」

lw´‐ _‐ノv「そういうわけで、ミセリが毎晩ノートに書き溜めてる私小説は読まないから、安心して下さい」

ミセ*;゚ー゚)リ「あれは日記! 小説じゃないから!」

38 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:34:22.056 ID:Ay5AiMcAa
ともかく、シューさんは読み書きができないと判明した。
もちろん見下すはずはない。というか、私の母語すらもすらすら喋る彼女には、むしろ畏敬の念ばかりである。


lw´‐ _‐ノv「うーん……私も日記、つけてみようかな」

ミセ*゚ー゚)リ「無理して張り合わなくてもいいんだからね?」

lw´‐ _‐ノv「かっちーん。書きます、決めました、書きます」


どうしよう、畏敬の念が冷めつつある。
私達はその晩、翌日のことを簡単に相談して、シューさんの作ったご飯を食べて、眠りに着いた。

シューさんのパエリアはものすごく美味しかったです。


ミセ*゚ー゚)リ「それにしても……」


暗い部屋、ベッドの中で、独り言。
「Tara mueyotieta」――別の星から来たと、彼女は言った。
昼間の間に何をしているかも、まだ知らない。あの人は一体、何者なんだろう。

39 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:35:18.389 ID:Ay5AiMcAa
共同生活三日目。金曜日。
我が家は三カ月遅れのシュントウである。

食事については、二人で話し合った結果、先に帰った方が作ろうということに。
私もシューさんも携帯電話は無いので、不慮の事態には対応できず、やむなしといったところ。

買い出しの問題は残っているけれど、家賃が削れて少しゆとりができた現在、少しくらい食材を買いためしても罰はあたるまい。


ミセ*゚ー゚)リ「よーし、やるぞー!」


とりあえず昨日の様子からすると、シューさんの料理スキルはなかなか高めの模様なので、私も頑張らねば。
そんな決意の吶喊だったのだけれど、ああ、運が悪いというか。


(゚、゚トソン「……あの、ミセリ、何をやるんですか?」

ミセ*;-ー-)リ「や、その、つまり……宇宙人対策?」


スクールの友達に、全てまるっと聞かれてしまいました。

40 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:35:49.941 ID:Ay5AiMcAa
ミセ*゚ー゚)リ「というわけで、連れてきました。こちら都村和さん、スクール生です」

(゚、゚トソン「はじめまして。ミセリにはお世話になっています」

lw´‐ _‐ノv「いえいえそんな、うちのミセリがご迷惑をおかけしていないかしら」

ミセ*;゚ー゚)リ「いやいや、私のお母様じゃないんだから!」

(゚、゚トソン「迷惑だなんてそんな、成績も良いし真面目で助かっていますよ」

ミセ*;゚ー゚)リ「お前は先生か!」


意気投合の様子。とりあえず一安心。
私は相変わらず正座を崩さないシューさんの目の前に、買い集めてきた食べ物を並べる。


lw´‐ _‐ノv「ニンジン、玉ねぎ、白菜、長ねぎ、コンニャク、豆腐、鶏肉……?」

ミセ*゚ー゚)リ「そうです! 今日は三人だし、鍋にしましょう!」

lw´‐ _‐ノv「え、やだよ。このクソ暑いのに」

(゚、゚トソン「ほら! 普通はこうなるんですよ!」


そんなばかな。

42 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:37:09.852 ID:Ay5AiMcAa
ミセ*;゚ー゚)リ「で、でも、お母様は三人寄れば鍋日和って……」

(゚、゚トソン「聞いたこともないですよ、そんなの。だいたい、鍋日和とか言って、今の気温が何度あると思っているんですか?」

lw´‐ _‐ノv「今現在およそ28度ですね。今日は涼しめのようです」

ミセ*;゚ー゚)リ「ぐ、ぐぬぬ……とにかく今日は鍋! 鍋しようよ!」

(゚、゚トソン「冷や奴と浅漬、あとは……どうします?」

lw´‐ _‐ノv「鶏肉はローストして、ネギを付け合わせにしましょう。こんにゃくは後日刻んで炊き込みご飯にします」

ミセ*;゚ー゚)リ「な、鍋……」

(゚、゚トソン「いいですね。では早速準備に……」

ミセ*;;ー;)リ「鍋……」

(゚、゚;トソン「わ、わかりましたよ! なにも泣くことはないじゃないですか!」


勝訴。また勝ってしまった。
虚しい勝利だった。敗北が知りたいものだ。

43 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:38:58.575 ID:Ay5AiMcAa
lw´‐ _‐ノv「トソンさんは……はむっ……はふっはふっ……なぜ、帝国大学を?」

(゚、゚トソン「んくっ、……学びたい分野が、あっつ……、帝国大学で、最も盛んだからです」

ミセ*;゚ー゚)リ「せめて食べるか喋るかどっちかに決めろ! 火傷するぞ!」

lw´‐ _‐ノv「はふっ……はっ……」

(゚、゚トソン「ん……はっ、あっ……んちゅっ……」

ミセ*;゚д゚)リ「二人とも食う方選ぶのかよ!」


蓋を開けてみれば結局、二人は私以上の勢いでハシを滑らせ、肉を野菜を豆腐をかっさらってゆくのであった。
何という事だ、なけなしのお金を叩いたお肉(トソンちゃんと共同出資)は瞬く間に二人の胃袋に消えてしまった。

会話を再開したのは、コンニャクを争い、しらたきを争い、白菜を争い、その決着がついてからだった。


ミセ*゚ー゚)リ「なんだよう、結局ほとんど二人で食べてるじゃん」

lw´‐ _‐ノv「ふぃぃ……美味い料理こそ人生の醍醐味ですから。味わわないのは罪です。さて、帝国大学でしたね」

(゚、゚トソン「帝国大学です」

44 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:39:44.515 ID:Ay5AiMcAa
帝国大学。ていこくだいがく。
日本トップクラスの頭脳にして、ありがたくも私達周辺国民にも門戸を開いておられる偉大な大学校様。

学びを望む僕達君達は一年間の大学付属スクール生活の末、入学試験の受験機会を頂戴し、生涯を賭けた試験に臨むもので。
私とトソンちゃんを含め、スクール生はだいたい一万人ちょい。うち移民は一千人くらい。
スクール生以外に入学試験が開かれていない現在、この一万人のみが目下のライバルであり、将来の学友となりうるのであった。


ミセ*゚ー゚)リ「トソンちゃんは本当に優秀なんだよ」

lw´‐ _‐ノv「へぇ、さすがは帝大志望ですね。うちのミセリに爪の垢でも煎じて飲ませたいくらい」

ミセ*;゚д゚)リ「私も帝大志望なんですけど!? つーかそれまだ続けるのか!」


照れたように顔を背けるトソンちゃん。
そういう小芝居は要らないよ。お前はその程度で怯むタマじゃないだろ。


(゚、゚トソン「シューさんは、大学には?」

45 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:40:15.886 ID:Ay5AiMcAa
lw´‐ _‐ノv「ええと、地元の大学に。もう卒業しましたよ」

ミセ*゚ー゚)リ「え、マジで」


もちろん、歳を考えれば不思議でもないんだけど。
でもシューさんからは知的な感じがしないといったら失礼というか。


lw´‐ _‐ノv「あ、今ちょっと失礼なことを考えたでしょう。私、天才なのに」

(゚、゚トソン「いえいえ、私はそんな事は。私は。……地元って?」

lw´‐ _‐ノv「ええと、生まれはNE35-138付近にある大型の月です。太陽に呑み込まれて消滅しました」

(゚、゚トソン「え、えぬ……は?」


うん、やっぱりこの人、アホなんじゃないかな。


lw´‐ _‐ノv「まぁ、詮索を受けたくないこともあるんですよ。このご時世ですから。ご容赦ください」

46 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:40:42.587 ID:Ay5AiMcAa
ミセ*゚ー゚)リ「? どうして?」

(゚、゚トソン「まあまあ、やめておきましょう。それじゃ普段はどんなお仕事を?」

lw´‐ _‐ノv「異星の住民を観察しています」

(゚、゚トソン「それも秘密ということですね」

lw´‐ _‐ノv「はい。……あなたは、本当に優秀ですね」

(゚、゚トソン「え、いえ、そんなこと……」


顔を背けるトソンちゃん。ああ、これガチで照れてる反応だ。シューさん、恐ろしい子。
何やら二人だけで会話が成立してるし、話に入れない私は一人、鍋に浮かんだくずきりをつつくのであった。


(゚、゚トソン「ここに住んでいるということは周辺国民ですよね? 日本には長いんですか?」

lw´‐ _‐ノv「そうですね、こうして語るに不自由しない程度には」

(゚、゚トソン「ええ、本当、日本人と変わらないです」

lw´‐ _‐ノv「でも、それを言うならミセリの方がずっとすごいですよ」

ミセ*゚ー゚)リ「え、私?」


急に話を振るな。くずきりが逃げちゃうだろ。

47 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:41:18.430 ID:Ay5AiMcAa
lw´‐ _‐ノv「ミセリは、日本に来てからまだ数カ月ですよね」

ミセ*゚ー゚)リ「なんで知って……ああ、お役所か。私は、お母様が日本人だから」


だから、きっちり教育を受けたところはある。日本語はもとより、歴史含む諸学問もばっちりだ。
それに環境に日本文化がいっぱいあったから、並みの外人さんじゃあ私にゃ太刀打ちできないぜ。


lw´‐ _‐ノv「それにしても、これだけ精通しているのは大したものだと思いますよ」

(゚、゚トソン「そうですね、こう見えてミセリはやればできる子ですから」

ミセ*゚ー゚)リ「えへへ……ちょっと引っかかる言い方だけど、ありがと」


どう見えているのか問い詰めたい気持ちは、この際だから置いておこう。
褒められて伸びるミセリ耳は聞き心地の良い所だけ吸収するのである。

と、まあ、こんな感じで鍋会は終了のこと。
外はすっかり暗いし、窓からは涼しげな空気(24度前後)が入って来ている。
「女の子の一人歩きは危ない」と言ってトソンちゃんを駅まで送り届けて、帰ってからお片づけ。


lw´‐ _‐ノv「ねえ、ミセリ。都村さんは何故、トソンちゃんと呼ばれているんですか?」

48 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:41:56.944 ID:Ay5AiMcAa
ミセ*゚ー゚)リ「うん? ええと、名字と引っかけてなんだけど」


そっか、シューさん、日本語は読めないんだ。
読み違えというか、ええと、異音同字というか、どう説明したものか。


ミセ*゚ー゚)リ「ツムラ、って、漢字で書くと――『都』――『村』、なんだけど」

lw´‐ _‐ノv「へえ、それじゃあ……この文字がト、こっちがソンとも読めるんですか?」

ミセ*゚ー゚)リ「そうそう。最初は周りがからかって、ドクター・ワトソンなんて言ってたんだけど」

lw´‐ _‐ノv「ふふ、私にはむしろホームズに見えましたよ、ねえミセリ」

ミセ*゚ー゚)リ「う、うん」

lw´‐ _‐ノv「まあ、鍋が美味しかったから、よしとします」

ミセ*゚ー゚)リ「ぐぬぬ……」


どうやら私の「才女トソンちゃんをぶつけてシューさんの素性を探ろう」大作戦はツルツルスケスケだった模様。
シューさんはちょっと上機嫌に黒っぽしいノートを広げる。

49 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:42:40.641 ID:Ay5AiMcAa
ミセ*゚ー゚)リ「なにそのノート、って、待って分かった、昨日言ってた日記でしょ」

lw´‐ _‐ノv「ぴんぽん、正解です。今からここにミセリの悪巧みを書き記します」

ミセ*;゚ー゚)リ「悪巧み言うなし! ……ごめんよう、一回やってみたかったんだって」

lw´‐ _‐ノv「鍋を?」

ミセ*゚ー゚)リ「鍋を。友達と」

lw´‐ _‐ノv「……」


無表情。相変わらずよくわからない。
でも、今考えてるのは多分。


ミセ*゚ー゚)リ「今、私をかわいそうな奴みたいに思わなかった?」

lw´‐ _‐ノv「……いや……そんな……つもりは無い………………済まぬ」

ミセ*゚ー゚)リ「ちっくしょう」

51 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:43:09.294 ID:Ay5AiMcAa
私はノートに月記用の日記を残し、シューさんはノートに日記風の落書きを残す。

その後は学習ノートを開き、じゃこじゃこと復習の時間。
シューさんはよくわからない落書きを、相変わらずすごい速さで書いている。

気がつくと、シューさんが居る日常が、いつも通りになっている。人間って不思議。
瞬きの少ない無表情を覗き見、ノートに目を戻し、意識をアメリカ史に戻した。

今日一日で、シューさんの謎はもっと増えた、気がする。


lw´‐ _‐ノv「……おっと、いけない、ウトウトしていた」

ミセ*;゚ー゚)リ「せめて顔に変化を出せ! カカシみたいにフリーズするな!」


こうして私達の日々はつつがなく過ぎてゆく。

52 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:43:48.877 ID:Ay5AiMcAa
共同生活四日目。土曜日。
土曜日と日曜日は、スクールはお休み。

天下の帝国大学様も休みが欲しい、というとちょっと語弊はあるかもしれない。
研究や学会に費やす時間が欲しいため、付属のスクールも巻添え休日ということだ。

もちろん、我ら学生にとっても休日とは即ち自由に『お勉強する』ための時間に過ぎないのでして。
私は今日もシューさんを押し入れに放置し、重い教科書鞄を掴んで町へと繰り出すのであります。


ミセ*゚ー゚)リ「おはようございます、モララー先輩」

( ・∀・)「ミセリさん。おはよう」


こちらの素敵な殿方はモララーさん。本名・世貝良一さん。
帝国大学の二年生さん、すなわち私の未来の先輩(予定)。

一月前にここで困っていた私を助けてくれて以来、週に一度のペースで勉強を見てくれている。
曰く、「教えることが何より勉強になる」んだとか。私のようなぼっち移民には有難すぎるお方だ。


( ・∀・)「今日も歴史学? それとも政治学?」

ミセ*゚ー゚)リ「ええと、歴史の方をお願いします」

53 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:44:14.558 ID:Ay5AiMcAa
休日の午前なのにというか、だからこそというか、帝大附属図書館は今日もそこそこ盛況の模様。

モララーさんは読んでいた本を閉じ、隣の椅子を引いてくれた。
さすがイケメン、細かい配慮がなんとも憎い。


ミセ*゚ー゚)リ「失礼しまーす……」

( ・∀・)「じゃ、始めようか。まず先週の復習からだけど――」


こうして私達の甘美にして高貴なる学問の逢瀬がはじまるのでありました。
声を抑えたモララーさんの美声が、ああ、私の頭蓋に染みわたってゆくようで。
まるで蜘蛛の巣のように、きめ細かく、繊細で、強靭で、抜け目のない知識の渦。
捕えられた私は小さな羽虫、足掻き、身を捩り、小さな眼に暗い深淵を見るのです。

ぐるぐる、ぐるぐる、twidle、twidle。ああ、今なら私、空だって飛んでいけそう。


ミセ*‘ー‘)リ「たいへん、モララーさん。私、なにがわからないかがわからないわ」

( ;‐∀‐)「……もう一度、今度はもう少しゆっくり説明するよ」


こんな調子で勉強会という名のデート(だと勝手に思っている)は夕方まで続いた。
モララーさんが疲れに疲れた様子で終了宣言を出した頃には、既に時間は夕方6時。
最初にモララーさんが閉じた本は、もちろんずっと閉じられたままだった。

55 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:45:22.172 ID:Ay5AiMcAa
( ・∀・)「さて、俺はこの後どこかで晩飯にするけど、ミセリさんも来る?」

ミセ*゚ー゚)リ「えっと、私は家で用意してあるから……」

( ・∀・)「そっか。一人暮らしだったっけ」

ミセ*゚ー゚)リ「うん、そうなんだけど……」


最近、変な人と二人暮らしになったよ。
なんてことはちょっと言いにくい。そもそも、実はまだ、私が外省人だとも明かしていないし。

そして、そんなことより、なんとモララーさんから食事のお誘い!
気持ちとしては嬉しいんだけれど、懐事情はノーの一声。でも一回くらいなら。しかし、お金。

どうしたものか、思いあぐねる私の視界の隅っこに、変なものが映った。
こちらに向かって歩いてくる見覚えのある黒い装いは……おい、なんで帝国大学前にいるんだ。


( ;・∀・)「ミセリさん?」

ミセ*゚ー゚)リ「はっ、え、あ、はい!」

lw´‐ _‐ノv「!」


向こうもこちらに気付いたようだ。
なんだ、私をつけ狙ってたわけじゃないのか。それじゃ尚更どうしよう。

56 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:47:08.668 ID:Ay5AiMcAa
( ・∀・)「ミセリさん?」

ミセ*;゚ー゚)リ「いや全然、今ちょっと、米国トランプ政権の影響と顛末が頭でトランプルされてまして」

( ・∀・)「ん、ああ、確かにアレは一日で理解できる内容でもないからね……っと失礼」

lw´‐ _‐ノv「いえ、こちらこそ」

( ・∀・)「……まあ、彼も就任前にはかなり批判されていたらしいからね」

ミセ*゚ー゚)リ「あ、うん、そうなんですね」


するっと通り抜けるシューさん。いったい何を考えているんだろう。


lw( ・∀・)「それじゃ、せめてお茶でも……」

ミセ*゚ー゚)リ「いや、本当に……ッ!?」

lw´‐( ・∀・)「?」


いや本当に、いったい何を考えているんだろう。
必死で平静を取り繕う私、不思議そうなモララーさん、無表情のシューさん、惑星直列の図である。

57 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:47:57.359 ID:Ay5AiMcAa
ミセ*゚ー゚)リ「あ、あの、復習とか、その、あるから」

lw´‐н( ・∀・)「うん? そっか」

ミセ*;゚ー゚)リ「……ええー……」


御断りしますと継ごうとした句が、驚きに飲まれて消えた。
背後霊シューさんは頬に手を当て……怒ったように? 口元を歪めよった。
無表情以外のシューさんなんて新鮮というか、どうせ演技だし無表情にカウントすべきですよね。


lw´‐н( ・∀・)「どうかしたの、さっきから」

ミセ*゚ー゚)リ「や、全然何もというか、その、急なお誘いで、嬉しくて、驚いちゃって」

lw´‐д(*・∀・)「そ、そう!」

lw´‐д‐ノvb(*・∀・)「復習したいところがあるなら付き合うよ、一人より二人さ」

ミセ*゚ー゚)リ「お、おう、ありがとう……ございます」


背後霊は去った。彼女にも彼女の都合があるのだ。なんだったんだろう。
ともかく私はモララーさんと喫茶店で……つまり、これはデートだろうか。
やたらと高いコーヒーを飲みつつ、私達は今日の復習に励むのであった。

58 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:48:58.580 ID:Ay5AiMcAa
ミセ*゚д゚)リ「ただいま! シューさんっ!」

lw´‐ _‐ノv「おや、おかえりなさい。帰って来たんですね。てっきり今晩は」

ミセ#゚д゚)リ「言うな! それ以上は言うな! ……なんだったのさ、あの顔芸は!」

lw´‐ _‐ノv「ダーとニェットの頭文字です」

ミセ*;゚д゚)リ「芸が細かすぎる! 伝わらねーよ!」

lw´‐ _‐ノv「何をぐずぐずと躊躇っていたんですか、この小娘?」

ミセ*;゚ー゚)リ「こ、こむす……ぐぬぬ、その、お金とか、服装とか」


すっげぇ露骨に溜息つかれた。


lw´‐ _‐ノv「いいですか小娘、人生とは機会です。機会とはいつだって簡単に失われてしまうものです」

ミセ*;゚ー゚)リ「二人称を小娘にするのお願いだからやめて! わかったから!」

lw´‐ _‐ノv「いいですか、次からは全部受けなさい。お残しはママが許しませんよ」


誰がママだ。
抗議する気にもなれず、私はとりあえず鞄を肩から下した。

59 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:49:20.856 ID:Ay5AiMcAa
ミセ*゚ー゚)リ「シューさんは今日、なんであんなところに?」

lw´‐ _‐ノv「内緒です……が、そうですね、簡単に言うと先生方にウチの娘は真面目に頑張ってるかーって聞こうと」

ミセ*;゚ー゚)リ「過保護! それ今思いついただろ!」

lw´‐ _‐ノv「で、『残念ながら』ってなったら祖国に強制送還する手続きを」

ミセ*;゚д゚)リ「スパルタだなおい!」


ふと見ると、シューさんは相変わらずの正座なんだけれど、その手元には分厚い紙の束があった。
覗きこむと、どうやら例の、何語かわからない文字を書いているらしく、なかなかの量になっている。


ミセ*゚ー゚)リ「日記? ずいぶん長いね」


シューさんは軽く頷き、ペンをくるりと回した。
私はシューさんの正面に座る。ふと黒い鞄が目につく。


ミセ*゚ー゚)リ「ねえシューさん。あれ、なに?」

60 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:50:07.886 ID:Ay5AiMcAa
lw´‐ _‐ノv「ああ、あれですか。もう一人の私です」

ミセ*゚ー゚)リ「なにさ、それー」


シューさんは口もとに手を当て、考え込む仕草。
何かロクでもないことをされそうな嫌な予感を私は全力で押し殺した。


lw´‐ _‐ノv「気になるなら、明日の朝にでもお見せしますよ。ちょうどお休みですし」

ミセ*゚ー゚)リ「えー……じゃ楽しみにしてるよ。私は明日も図書館に行くから、その前にね」

lw´‐ _‐ノv「あれ、それなら起こした方が良いですか?」

ミセ*゚ー゚)リ「起こしてくれるの? じゃあ、7時ごろにお願い」


そう言って私は着替えと風呂と今日の復習を済ませ、日記を付ける。

ああ、出来る事ならば一日戻ってこの時の私を張っ倒したい。そう思ったのは翌日の朝。
早朝も早朝だと言うのに、美しく甲高く悲鳴っぽい音に叩き起こされた時だった。

61 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:55:51.615 ID:Ay5AiMcAa
共同生活五日目。日曜日。
ベッドから転げ落ちた私。
寝ぼけた頭が轟音を聞いて最初に思い出したのは、第二の故郷を襲った爆撃だったのだけれど。


ハソ;゚д゚)ソ「何、何事!? テロか! 空襲か!?」

lw´‐ _‐ノv=)n=ョ「いいえ、ミセリ。これは福音です」
   _う~ ノ

ハソ゚д゚)ソ ……バイオリン?
       /
lw´‐ _‐ノv≠)n=ョ
   _う~ ノ ス
ハソ#゚д゚)ソ「 や め ろ !」


きっと私の怒鳴り声は、シューさんの演奏よりずっと響いたと思う。

62 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:56:54.683 ID:Ay5AiMcAa
ハソ´д`)ソ「すみません、朝からとんだご迷惑を……」

( ^ω^)「いやいや、大丈夫だお。何事もなかったなら良かったお」
 ( ,,^Д^)「本当、この間の悲鳴の時もすごく心配したんだから」

ハソ´д`)ソ「本当に本当にすみません……」

(,,゚Д゚)「いやいや、構わんぞ。じゃあ俺達は帰るからな」

ハソ´д`)ソ「はい……また何かあったらよろしくお願いします……」


深々と頭を下げ、肺の息を吐き切る。
一気に疲れた気がする。おかしいな、日曜の朝なのに。

扉を閉め、崩れ落ちる私。の耳に、優しいバイオリンの音色。


ハソ´д`)ソ「……怒る気力もないー……」


気力のない私の耳に染みわたる四弦――ああ畜生、けっこう上手いのがムカつく。
私はのろのろとリビングに戻った。

63 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:58:03.764 ID:Ay5AiMcAa
ハソ゚д゚)ソ「……さて、言い分を聞こうか」

lw´‐ _‐ノv「ここは角部屋、隣室の荒巻さんは日課のジョギングで外出中。よほど叫ばなければ近所迷惑にはならない」

ハソ;゚д゚)ソ そ 「近隣の動向まで掌握してる!?」

lw´‐ _‐ノv「人生とは音楽です。それゆえ私は音楽への努力を欠かさないのです」

ハソ;゚д゚)ソ「だからって、その、そういうのは、ぐぬぬぬぬ……公園! 近所の公園でやれ!」


だめだ、まだ頭が起きてないみたい。
うまいこと切り返せず頭を抱える私、無表情のまま淡々と弓を片付けるシューさん。
床に散った、なにやら白っぽい粉みたいなものもふき取るのは流石の一声だけど。


ハソ゚д゚)ソ「その鞄は楽器ケースだったのね。さぞ大事なものでも入っているのかと思ったら……」

 l w ´ ‐ _ ‐ ノ v 「ミセリ。人生とは、音楽です」

ハソ;゚д゚)ソ「わかった、私が悪かった! 大事だね! だから無表情のまま近付いてくるのやめて!」

64 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:58:26.375 ID:Ay5AiMcAa
……とはいえ、実はこの時まだ私は、シューさんの底力をあんまり分かってなかったんだよなぁ。
気付かされたのは、帝国大付属図書館に本を返し、少し勉強し、昼夕飯の買い出しをして家に帰る途中。

近所の公園が、やたらと騒がしい。
ので、行ってみると。


(*^ω^)「イヤッフゥウウウウウ!」lw´‐ _‐ノv「いええい!」 (*,,^Д^)「ふらぁぁぁ!」

ミセ*;゚ー゚)リ「な、何事……何語!?」


おい、お前ら一体どこからわいてきた。楽器なんて隠し持ってたのか。
私が見たのは、数十人からの住民が集結して、音楽に興じている姿だった。

66 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 22:59:25.986 ID:Ay5AiMcAa
(*^ω^)「おっ、ミセリちゃんだお! おぅい!」

ミセ*;゚ー゚)リ「げっ、見つかった」

(*,,゚Д゚)「つれなくするなよゴルァ! 今日のお勉強は終わりか?」
从#'ー'从「その話題はやめろぉ!」
( ^ω^)「ミセリちゃんはお前と違って優秀なんだお!」

ミセ*;゚ー゚)リ「優秀なのは真面目にやってるからです! いろいろ聞きたい事があるんですが!」

( ^ω^)「おっお! これはバウロンって楽器だお! ブーンの故郷の!」
ミセ*;゚ー゚)リ「そんなことは聞いてねーよ!」
 (*,,^Д^)「今歌ってたのは僕の国の民謡だお! 順番に歌ってるんだお!」
从'ー'从「ちょ、口調口調!」

ミセ*;゚ー゚)リ「お、おう、そうか。なんで急に楽器なんて?」

lw´‐ _‐ノv「朝2回も言ったじゃん」

ミセ*゚ー゚)リ


人生は、音楽だ。
調子に乗った楽団・烏合の衆は数時間もぶっ続けで演奏し、私は聴衆に交じって手拍子を打つ。
こうして私達は、騒ぎを聞き付けた官憲がすっ飛んで来るまでの数時間、全力で人生を楽しんだ。

67 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:00:36.936 ID:Ay5AiMcAa
lw´‐ _‐ノv「ファック! クソムカつくぜ、国家の犬どもめ! 次に有ったらギコのギターをケツの穴に突っ込んでやる!」

ミセ*;゚ー゚)リ「女の子がそんなこと言っちゃいけません! あとそんなことしたらギコ君もキレるよ!」

lw´‐ _‐ノv「ハッハーン! キレるのはギブソンで掘られる官憲のア○ルの方さ!」

ミセ*;゚ー゚)リ「やめなさい! なんで急にロックなのさ! バイオリンなんて弾いてたくせに!」


とはいえ、文句を言いたい気持ちは分からんでもない。分かる。文句言いたい。

国家権力様の言い分としては、移民の私達が談合する様子が認められないのだということです。
私達は当然、みんなで音楽を持ち寄って楽しんでいただけなんだから、ガタガタ言われる筋合いはないと緩ーく反発します。

結局なんだかんだ揉めた上で、結局は公園での音楽は許容という一見は温情な措置に落ち着いたんですが。
「要は正式に移民の集会を禁止できるまで泳がせとこうかって腹だお」というのはブーン君の言。
「都政は相変わらず国と違って極短な排外主義だから」というのはタカラさんの言。
「ケツにギコのサンをギブしてやるぜ!」というのはシューさんの言。
「お願いですからやめて下さい」というのはギコ君の言。


lw´‐ _‐ノv「ふう……落ち着きました。ご飯にしましょう」

ミセ*゚ー゚)リ「変わり身はええなおい」

68 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:01:05.500 ID:Ay5AiMcAa
lw´‐ _‐ノv「いつまでも嘆いてもいられませんよ。人生には悲劇がつきものです」

ミセ*゚ー゚)リ「シューさんの人生シリーズだね」

lw´‐ _‐ノv「とはいえ、少し不思議ではあります」

ミセ*゚ー゚)リ「ん?」


ミセリはなぜ、あのような露骨な嫌がらせを受けてなお、平然としていられるんですか?

私は答えに窮した。
ギコ君もブーン君も、タカラさんも、シューさんでさえ、不快感を見せているのに――そう、私は。


ミセ*゚ー゚)リ「……気にもならないよ。気にしていられるほど余裕が無いから、かなぁ」

lw´‐ _‐ノv「……」

ミセ*゚ー゚)リ「いやまあ、でも、シューさんほどじゃないけど、私も少しはムカついたよ?」

lw´‐ _‐ノv「なぜですか?」

ミセ*゚ー゚)リ「え? そりゃあ……私だって、日本人として大学教育を受けるために頑張ってるんだから」


なんの為に。私は、自分のなかに浮かんだ問いに答えられなかった。
シューさんは何も言わず、ただいつもの無表情で私を見つめるだけだった。

69 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:01:43.874 ID:Ay5AiMcAa
ミセ*゚ー゚)リ「……ごめん、ちょっとわかんない」

lw´‐ _‐ノv「いいんですよ。謝ることなどありません。急いで答えを見つける必要もありません」

ミセ*゚ー゚)リ「……うん」


シューさんは黒いノートを開き、さらさらと落書きを残してゆく。
私の中に、かすかな印が残っているのを感じた。


ミセ*゚ー゚)リ「私は」


シューさんは何も言わずに、ペンを走らせるだけだ。

70 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:02:29.090 ID:Ay5AiMcAa
『6月 末日

今月は不思議な事がたくさんありました。
お役所からの急な命令、引っ越してきたシューさん。
無表情で、この暑いのに毎日長袖で、食事と音楽をこよなく愛する変な人です。
最初はすごく困ったんだけど、(私も毒されてきたのか)今は慣れたものです。
毎日新鮮なことばかりで、なんとかこのバカみたいに暑い夏も乗り切れそう。

さて、いよいよ来月末には志望学部別のクラス再編があります。
トソンちゃんは経済系、ブーン君やギコ君は工学系。私はというと、どうするべきか決めかねています。
興味があるのは政治系だけれど、私の頭ではどうにも、社会科系の科目が理解できないのです。
得意の数字を生かした方がきっと成功しやすいんだろうな、なんて、トソンちゃんに言ったら渋い顔をされたけど。

世貝先輩とはなかなか上手くいっています。
お忙しいでしょう時間を裂いて勉強に付き合ってくれる彼には、ただただ感謝でいっぱいです。
今は頂いてばかりだから、いつかは恩返ししたいです。
私が外省人だということは、早めに打ち明けなければならないと思っています。
いつか勇気を出せる時が来たら、必ず、と。

こんな私を、明日からも応援していてください。


71 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/04/03(日) 23:05:14.343 ID:Ay5AiMcAa
終わったっぽい感じなのはここまでが第一話だったから


貝 ・ 良・一
もら・ら・ー

74 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:16:27.644 ID:Ay5AiMcAa
『7月












75 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:17:12.989 ID:Ay5AiMcAa
ミセ*゚ー゚)リ「そうだなー、最近は忙しそうだけど……」

(゚、゚トソン「はい」


夏本番。今日も地球は暑い。
この広くて緑いっぱいの帝国大キャンパスにおいても、太陽は容赦なく照りつけています。
ちょっと前に気温が40度を超えたとか報道されて以来、私達の生活は無駄に暑さを増したよう。

明るい木漏れ日の下を歩く私とトソンちゃんは揃いも揃って薄手の長袖です。
先月からの同居人に影響されたとかじゃなく、直射日光を避けた方が涼しく感じるのです。

そんな私とトソンちゃんの会話なんですが。


ミセ*゚ー゚)リ「……猫。公園で野良猫と戯れてるの、前の日曜日に見た」


今日は偶然にも、その同居人の話題でした。

76 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:18:10.512 ID:Ay5AiMcAa
lw´‐ _‐ノvと過ごした冬の夏、のようです 
(゚、゚*トソン「野良猫? 公園って、狛ケ崎公園ですか?」


身を乗り出してくるトソンちゃん。
私はゆるやかに一歩距離をとり、トソンちゃんは一歩距離をつめる。


ミセ*゚ー゚)リ「う、うん。トソンちゃんって、そんなに猫好きだっけ……?」

(゚、゚トソン「……別に好きというわけでは。キャリアの為に面識を持っておきたいだけです」

ミセ*;゚ー゚)リ「それは勝手にすればいいと思うけど、将来に繋がる面会にはならないと思うな」

(゚、゚トソン「まあまあ。ミセリ、この後は暇ですね? 案内を!」

ミセ*;゚ー゚)リ「べ、勉強……ごめんなさい暇です暇でしたから! なんなら三人で鍋でも!」

(゚、゚;トソン「い、いや、鍋は流石にちょっと」

77 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:18:55.959 ID:Ay5AiMcAa
狛ケ崎駅に電車が滑り込んだのは、午後の3時過ぎくらい。
ゆるく空調の利いた車内からの気温差は、降り立った私達をどろどろに融かすに足るものだ。
いつか誰かが言っていた通り、便利すぎることは必ずしも幸福につながるわけではない。

げんなりしつつもどうにかこうにか狛ケ崎公園に辿りついたのはおよそ15分後。


(゚、゚トソン「……はぁ……」


目当てのお猫様がご留守と知って、トソンちゃんから魂が抜けたのも、その時間。
現在の我々はと言うと、近隣の子供たちに交じって噴水の水に足を浸し、避暑に勤しんでいるのです。


(゚、゚トソン「それにしても、こうも暑いとアイスでも食べたくなりますね。ねえミセリ、」

ミセ*゚ー゚)リ「嫌だよ?」

(゚、゚トソン「ちっ」


遠くからけたたましい街宣が聞こえてくる。
私は足を噴水に浸したまま、仰向けに倒れ込んだ。照りつける日差しが今日も眩しい。


ミセ*゚ー゚)リ「あの人たちは、今度は何を騒いでるの?」

78 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:19:27.288 ID:Ay5AiMcAa
(゚、゚トソン「あれ、知らないんですか?」

ミセ*゚ー゚)リ「何を?」

(゚、゚トソン「WEUとロシア。北海地域の連続テロを巡って、また緊張し始めてるんだとか」

ミセ*゚ー゚)リ「んー……知らないや」


うちにはテレビみたいな電気喰らいの高級品はありません。
ラジオは、壊れてなければまだ動くと思うけど、確か電池切れ。

そんなわけで、地球の反対側のニュースがうちに届くまではかなり時間がかかるのであった。
街宣が私には情報源として機能するだなんて、なかなか気の利いた冗談じゃないかな。


ミセ*゚ー゚)リ「それで、日本でテロを起こしそうな我々外省人も便乗して排除しようってとこ?」

(゚、゚トソン「……そうです」


風が吹いたら移民排斥である。
もっとも都政はともかく、国政は右寄り中道といった感じで、すぐにどうこうされることは無さそうだけれど。

79 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:19:51.691 ID:Ay5AiMcAa
ミセ*゚ー゚)リ「この暑いのに、元気だよねー……」

(゚、゚トソン「ミセリは、最近すこし元気が無さそうですが」

ミセ*゚ー゚)リ「……そう?」


子供たちのはしゃぎまわる声が公園の空に抜けてゆく。
言われてみれば確かに最近は、今一つ活力が足りないかもしれない。暑さに勝てない。


ミセ*゚ー゚)リ「暑いし?」

(゚、゚トソン「それだけじゃないでしょう?」

ミセ*゚ー゚)リ「あー……うん、まあ……そっすね。要は進路の悩みみたいな」


トソンちゃんも仰向けに転がった。
ほんの一瞬、騒音が遠ざかったような感じがした。

80 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:20:15.704 ID:Ay5AiMcAa
ミセ*゚ー゚)リ「ほれ、私って社会科のできない子ちゃんじゃないですか」

(゚、゚トソン「補って余りあるくらい数学ができますけどね」

ミセ*゚ー゚)リ「照れるなこんにゃろう。……やりたいことと噛み合わないっていうか」

(゚、゚トソン「ミセリもそんな事を考えるんですね」

ミセ*゚ー゚)リ「うん、まぁ……うん?」

(゚、゚トソン「まあ、好きにするといいと思いますよ。どうせ知識は無駄になりませんし」


それに、ミセリならどの道、合格するでしょう。
トソンちゃんは事もなげに言う。


ミセ*゚ー゚)リ「んー……そうだと助かるんだけどねー……」

(゚、゚トソン「それに、ミセリには良い先生がついているんですよね?」

ミセ*;゚ー゚)リ「う……あの……はい」

81 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:20:41.396 ID:Ay5AiMcAa
(゚、゚トソン「最近は、その世貝大先生とはどうなんですか?」

ミセ*゚ー゚)リ「んー、かなり基本的なところを教えて貰ってるよ。この前は法精神だとか」

(゚、゚トソン「いやいや、そうじゃなくて。ミセリ、世貝先輩のこと好きなんですよね?」

ミセ*゚ー゚)リ「うん、まあ、そうなんだけれど」


改めて指摘されるとけっこう心に来るものがある。
あるけれど、その程度のことで怯む私でもないのです。


ミセ*゚ー゚)リ「そうだよね、モララー先輩の事もなんとかしないと……」

(゚、゚トソン「なんとか?」

ミセ*゚ー゚)リ「……私、まだ外省人だって言ってないんだよね」

(゚、゚トソン「なんだ、そんな事ですか。私はついてっきり、あの男が私のミセリに強引に言い寄っているのかと」

ミセ*゚ー゚)リ「……いや、そんなことは」

(゚、゚トソン「あるんですか!?」

ミセ*;゚ー゚)リ「い、いやいや! 無い! 無いから!」

82 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:21:22.045 ID:Ay5AiMcAa
ミセ*゚ー゚)リ「まーなんにしても、学力を最優先で保たねばなんですが」

(゚、゚トソン「その為の元気が無さそうだから心配しているんです」

ミセ*゚ー゚)リ「……えー、そこまで?」

(゚、゚トソン「そこまでです」

ミセ*゚ー゚)リ「うーん……夏だからね」

(゚、゚トソン「夏バテですか」

ミセ*゚ー゚)リ「夏バテです。……トソンちゃん、うちでご飯食べていかない?」

(゚、゚トソン「いいですよ、でも」


もうちょっと涼んでからで。そう言い残し、トソンちゃんは目を閉じた。
やがて子供達の声も遠ざかり、世界に私とトソンちゃんの二人だけになって、やがて私は一人になった。

目が覚めるまでに私は、魚の夢をみていた気がする。

83 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:22:03.401 ID:Ay5AiMcAa
シューさんは最近、帰りが遅い。
大抵は夜の10時を過ぎるし、朝だって私が起きるより先に居なくなっている。
本人が言うには仕事が込んでるんだとか。でも相変わらず、どこで何をしているかは教えてくれない。

ご飯も要らないとか言うし、私としてはちょっとさみしいんだけど、まあ仕方ない。
……本当に仕事なんだろうな、どこかの家にお邪魔してるんじゃなくて。


lw´‐ _‐ノv「猫じゃないんですから」

ミセ*゚ー゚)リ「ごめんなさい」


試しにそう言ってみたところ、シューさんの反応はこれだ。
日曜日はなんとかお休みにできるそうで、今日もこうして冷えた緑茶をすすっているというわけです。


lw´‐ _‐ノv「まあでも、もうすぐ落ち着くと思います。寂しいのはわかりますが、こればかりは仕方ありませんよ」

ミセ*゚ー゚)リ「いやいや、寂しいとかありませんから」


またまた御冗談を。
確かにシューさんが来てから退屈してなかったのは事実ですが、もともと私は一人でも生きていけるタイプですし。
私はそれ以上なにも言わず、再び教科書と睨みあう。

84 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:22:27.018 ID:Ay5AiMcAa
シューさんは静かに緑茶を飲み、私は静かに勉強に励む、そんな時間が静かに流れる。
傍若無人と見せておいて、シューさんは私がノートに向かっている間は、一切の邪魔をしてこない。

時間が静かに流れる。
日が高く昇り、いつしか傾き、沈んでいた。
シューさんが音もたてずに静かに立ち上がり、私はつられて顔を上げる。


lw´‐ _‐ノv「ミセリ、夜ごはんは何がいいですか?」

ミセ*゚ー゚)リ「んー……あんまり食欲ないや」

lw´‐ _‐ノv「それじゃ私の好みに合わせて作りますね。食べますね?」

ミセ*゚ー゚)リ「んー……」

l w ´ ‐ _ ‐ ノ v 「 食 べ ま す ね ? 」

ミセ*;゚ー゚)リ「やめてやめて! 私が悪かったから! 食べるから!」


必死で頷く私。やむなし、彼女のこの攻撃から逃れられたことなどないのです。
私を心配してくれた、ような気もするんだけど、真意の程はわからないのが彼女の常。

台所に立つシューさん、どこか満足げに見えるのが、私には――。

85 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:22:51.926 ID:Ay5AiMcAa
ともかく、食卓に並んだ熱々のマーボーを見て、現金な私の胃袋が食欲を取り戻したのは、僅か数分後。


lw´‐ _‐ノv「ミセリが何を焦っているかまでは、はふっ、熱ッ、分かりませんが……」

ミセ*;゚ー゚)リ「いやいや、シューさんこそ焦って食べ過ぎだ! 美味しいけど!」


確かにシューさんの作ってくれた麻婆豆腐が美味しいのは認めざるをえない。
一口食べると暴力的な辛味が稲妻のように口内を荒れ狂い、二口も食べると全身を寒波が這いまわり震えあがらせる。
寒い。32度の室温すらも、只管、寒い。身体を駆け廻るスパイスの業火の前に、夏のぬるい暑さなど、何をも為さない。
三口。繊細に織上げられた深紅の芸術の前に、気付かされる。燃えたぎっているのは、極上の醤ではない。私自身だ。
燃えたぎっているのは、私の身体を駆け廻る血潮だ。共鳴しているのだ。私の身体を燃やせと、私の血潮が命じている。
猫科の猛獣の全身が一瞬の狩りに投入されるように、総ての味が、味蕾が、全てを賭して私を焼きつくそうとしている。
そして、それでも、それだけじゃない。凶悪な焔に焼かれる私に救いの手を差し伸べるのは、ああ、これも計算づくなの。
白米。真っ白な輝きはまるで慈悲深き天使の翼のように私に癒しを与えてくれる。――仮初の、その場しのぎの癒しを。
一口、二口、ああ、満たされることはない。私は今も感じている。とろみの付いた甜面醤の業火は決して消えない火種。
幾度となく焼き尽くされるとしりつつ、私は業火の渦へと歩みを進ませる。大皿へとスプーンを進ませる。そして、燃える。
感謝いたします、私の天使よ。お恨み申します、私の天使よ。私の白米よ。あなたは、私が膝を屈することすら許さない。
踊る銀のスプーンは、戦天使の命ずるまま挑み敗れ焼かれる私の掲げる脆く美しい刃。勇壮にして悲壮なる、剣の舞。
茶碗を、大皿を、米を、麻婆を、交互に、交互に、私のスプーンは掬い、私の口は咀嚼する。私は燃え上がり、また蘇る。
シューさんは横で顔色ひとつ変えずに淡々と食べていた。


lw´‐ _‐ノv「……ふぅ、御馳走様でした。気を張りすぎることはお勧めしませんよ。ミセリ、あなたはあなたであれば良い」

86 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:23:13.759 ID:Ay5AiMcAa
ミセ*゚ー゚)リ「ん……ありがと、よくわかんないけど、ちょっと元気出た。ごちそうさま。洗い物は私がやるよ」


私はシューさんの返事を待たず、すっかり空になった大皿にお茶碗ふたつを重ね、立ち上がった。

蛇口から細く流れる水が、薄い赤の油膜を押し流し、排水溝へ。
シューさんの言葉は、水のように、私の心に流れ込んできた。
心にこびりついた焦りは、そう簡単に流れて消えはしない。清廉な水は、脆く、弱い。

スポンジを手に取り、洗剤を落とした私の右手を、私の背中越しに、シューさんの右手が捕まえた。


lw´‐ _‐ノv「……そうですね。ミセリ、少しだけ元気の出るプレゼントを差し上げます」

ミセ*゚ー゚)リ「へ、プレゼントって、シューさん?」

lw´‐ _‐ノv「私のとっておきです。皆には内緒ですよ」


泡立てたスポンジを、私の手を使って、大皿の隅にくっ付ける。
そのまま右上に、弧を描くように短い線。右下に落ちて、小さな円。

87 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:23:46.109 ID:Ay5AiMcAa
ミセ*゚ー゚)リ「これって……」

lw´‐ _‐ノv「……『ミ』」

ミセ*゚ー゚)リ「!」


シューさんはそのまま、私の腕を右に引っ張る。
スポンジの泡の線は右上へ、僅かに反り返るように、長く尾を引く。終わりには、左回りの小さな円。


lw´‐ _‐ノv「『セ』、『リ』」


最後は右下。斜めの線は弧を描くように下向きに落ちる曲線。くるりと小さく、右回りの線。


ミセ*゚ー゚)リ「私の、名前」

lw´‐ _‐ノv「全部の文字は教えてあげられません。ごめんね」

ミセ*゚ー゚)リ「……ううん、ありがとう。すごく、嬉しい」


シューさんの身体がするりと離れる。
私は何も言えず、ただ白い泡の線が、壊れて細くなっていく姿を見つめた。

88 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:26:36.767 ID:Ay5AiMcAa
その夏、私にとっていくつかの嬉しいことと、悲しいことがあった。
一つ目の悲しいことは、帝大の夏休みが眼前に迫った、7月の終わりのことだ。

90 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:27:18.514 ID:Ay5AiMcAa
きっかけとなった会話は、覚えていない。
というのも、その時の私は少し、否、かなり、否、もの凄く舞い上がっていたから。


(゚、゚;トソン「……ねえミセリ」

ミセ*^ー^)リ「うん?」

(゚、゚;トソン「……いえ、なんでもありません。今日も暑いですねと言おうと思っていたんですが……」

ミセ*^ー^)リ「そうだね、暑いよね。嫌になっちゃう」

(゚、゚;トソン「………………聞いても?」

ミセ*^ー^)リ「うん? 仕方ないなあー」

(゚、゚トソン「ファック」

ミセ*;゚ー゚)リ そ

(゚、゚トソン「良いからキリキリ喋って下さい」

91 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:29:03.691 ID:Ay5AiMcAa
きっかけとなった会話は、覚えていない。
というのも、その時の私は少し、否、かなり、否、もの凄く舞い上がっていたから。


(゚、゚;トソン「……ねえミセリ」

ミセ*^ー^)リ「うん?」

(゚、゚;トソン「……いえ、なんでもありません。今日も暑いですねと言おうと思っていたんですが……」

ミセ*^ー^)リ「そうだね、暑いよね。嫌になっちゃう」

(゚、゚;トソン「………………聞いても?」

ミセ*^ー^)リ「うん? 仕方ないなあー」

(゚、゚トソン「ファック」

ミセ*;゚ー゚)リ そ

(゚、゚トソン「良いからキリキリ喋って下さい」

92 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:29:32.405 ID:Ay5AiMcAa
私は簡潔に、かつダイナミックに、熱く語った気がする。
トソンちゃんの、やや引き気味のリアクションは記憶にあるからだ。


(゚、゚トソン「要はモララー先輩が映画に誘ってくれたというだけでしょう?」

ミセ*;゚ー゚)リ「だけって! だけって言わないで! 『アルファベット・ウォーズ』の最新作なんだよ!?」

(゚、゚;トソン「そんなに熱くなるほどの映画なんですか?」

ミセ*゚ー゚)リ「当たり前だよ! トソンちゃんは――待って、トソンちゃん、ひょっとして見たこと無いの?」

(゚、゚トソン「ありませんが」

ミセ*゚ー゚)リ「そんな、まさか……」


数年しか過ごせなかった第二の故郷で、一度だけ見た『映画』、その10年越しの続編。
ただでさえ全世界の男達の血を滾らせた名作であり、加えて私には郷愁の情念が絡んで、もう何か頭がヤバい。

何せ、映画館だなんて滅多にいけませんでした。憧憬の先端だった場所です。
チケット代と財布とを見比べては諦めていた日々を考えれば、どれだけの喜びかもわかろうもの。
まして、私の渇きを察したように無料券を差し出してくれたのがモララー先輩だとくると、私はもう、この有様でありました。

93 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:30:51.832 ID:Ay5AiMcAa
ミセ*゚ー゚)リ「そういうわけで、私は今週末には至福の時を過ごすのです」

(゚、゚トソン「至福。ふむ……至福と言えば、ミセリ、服は?」

ミセ*゚ー゚)リ「え、服……服……っ!?」

(゚、゚トソン「……私、ミセリの服って、3種類くらいしか見てない気がするんですけれど」

ミセ* д)リ「……サンシュルイシカモッテマセン」

(-、-#トソン「ああ、やっぱりですか。この 馬 鹿 者 !」


トソンちゃんがここまで言うのは、かなり珍しいことだったみたい。
でも、できれば、教室中が振り返るような怒鳴り方は止めて欲しかった、なんて。
思い出すだけでも結構、かなり、物凄く恥ずかしいです。


(゚、゚#トソン「ミセリ、私は前にも言いましたよね! 華の乙女の咲くは一時、散れば誰そ有りて憐れまんや、否憐れむ者なし!」

ミセ*:゚ー゚)リ「い、いやでも、私達外省人スクール生には、そんなことにかまける時間なんてッ!」


あとお金、とは言えかった。
もし言ったとしても、トソンちゃんの性格ならきっと、そんなこと気にせず踏み越えてくる気がするから。
私が言いださないことが、最後の防衛線になっている気がするから。


(゚、゚#トソン「せからしかっ! とにかく着いて来なさい! いいですね、ミセリ!」

94 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:31:17.551 ID:Ay5AiMcAa
ミセ*゚ー゚)リ「で、でもトソンちゃん、私、服なんて」

(゚、゚トソン「いいえ、ダメです! ほら、きびきび歩く!」

ミセ*゚ー゚)リ「ああ、もう、どうにでもなあれ……」


こうして私はドナドナと、もとい、キビキビと歩かされ、呉服店に連れ込まれるのです。

トソンちゃんは日本人の、こう言ってはなんですが、良いとこのお嬢様。
彼女の行きつけと言うと……お腹痛い、百年紙幣たる福沢様が、ああお腹痛い……となるお店かと思ったのですが。


(゚、゚トソン「ほら、ミセリ! まずはこれ、着てみなさい!」

ミセ*;゚ー゚)リ「うっわ高そうな……って、あれ?」


なかなか綺麗な水色の半袖ブラウスの攻撃、私の胃が受けたダメージは予想していた20分の1程度。
これなら一年分のSP(サイフ・ポイント)を削りきられることなく一日を終えられそう。
私は驚いてトソンちゃんの顔を覗き返しました。


(゚、゚トソン「何を驚いているんです、古着ならこんなものでしょう」

ミセ*゚ー゚)リ「へ、古着……?」

95 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:31:38.308 ID:Ay5AiMcAa
(゚、゚トソン「? 嫌でした?」

ミセ*゚ー゚)リ「え、いや、そうじゃないけど、でもちょっと意外」


トソンちゃんが古着屋に詳しいとは、正直、思ってなかったから。
私が素直にそう言うと、トソンちゃんは少し不満そうに、整った眉を寄せた。


(゚、゚トソン「そりゃあ、使う事もありますよ。掘り出し物も多いし、何より、この雑然さが良いんです」

ミセ*゚ー゚)リ「雑然さ」

(゚、゚トソン「そう。例えば、これ」

ミセ*゚ー゚)リ「? そのスカートが何?」

(゚、゚トソン「新品で買うと、5万は下らないメーカーです。」

ミセ*゚ー゚)リ「ご……は、え?」

96 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:32:40.546 ID:Ay5AiMcAa
(゚、゚トソン「見る人が見ればわかりますけどね。ですが、ここではそんなの関係無く、実用性で値打ちが決められています」

ミセ*゚ー゚)リ「……うん」


すとん、と音を立てて、胸の内に何かが落ちたような気がした。
敵わないなぁ、トソンちゃんには。


(゚、゚トソン「どこか一色に凝り固まったブランドショップより、私はこうして、様々な商品に出会える店の方が……ミセリ?」

ミセ*゚ー゚)リ「ん、いや、トソンちゃんが素敵な理由がまた一つわかった気がして」

(゚、゚*トソン「……ほら、試着してきなさい、早く!」


私とブラウスとスカートを狭い部屋に閉じ込め、カーテンを閉めるトソンちゃん。
抵抗すらできない私が言われるがまま着替え、感想というか独り言を聞き、別の服を渡されるまでが1セット。
3セット目には服のサイズがぴったりになっていて、5セット目には私の顔に簡単な化粧までし始める。
彼女が満足したのは、野球で言うと延長三回までもつれ込むほどチェンジを繰り返した後だ。


ミセ*゚ー゚)リ「おお、おおう……誰だこの美少女」

(゚、゚トソン「……ハラショー……」


赤っぽしいロングスカート、深緑の長袖シャツ、風通しの良さげなジャケット、オリエンタルな……首飾り?

97 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:34:08.072 ID:Ay5AiMcAa
ミセ*゚ー゚)リ「うわ、すっげえ、何これオシャレ……ネックレス? こんなの初めて着けた。すっげえ……」

(゚、゚トソン「その程度のアクセントならいつもの、ムラサキ芋みたいな色のカットソーにも合うでしょう?」


こんにゃろう、私のお気に入りの一張羅に何てことを言うんだ。


ミセ*゚ー゚)リ「ぐぬぬ……まあ、素直に喜ぶとします。その、トソンちゃん」

(゚、゚トソン「礼は聞き入れません。どうせ言うなら大事なデートが終わってからにして下さい。ほら、着替えた着替えた!」

ミセ*゚ー゚)リ「……ありがとう」

(゚、゚トソン「聞こえませんよーだ」


トソンちゃんは首飾りだけをさっと受け取り、カーテンを閉めた。

礼は聞き入れません、だなんて、ずるいと思う。
着替え終わって試着室を出た私に、こっそり会計を済ませたネックレスを突き付けるのは、もっとずるい。

そんなことされたら、私、とても敵わないよ。
私は、すごく幸せで、幸せすぎて――だからきっと、どこかでバランスを取らなきゃいけなかったんだ。

98 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:36:45.208 ID:Ay5AiMcAa
それから三日後のことは、きっと死ぬまで忘れないと思う。


ミセ*゚ー゚)リ「……服よし、化粧良し、財布……は有っても無くても大差ないけど!」

lw´‐ _‐ノv「おお、気合いが入っていますね」

ミセ*゚ー゚)リ「有ったり前じゃない! 『アルファベット・ウォーズ』だよ! どれだけ夢見たことか!」

lw´‐ _‐ノv「ほー」

ミセ*゚ー゚)リ「ふっふっふ……。実に、長かった。あまりにも、長すぎた」


映画の名台詞を噛み締めるように口に出す私、緑茶を飲むシューさん。

時計はと見ると、電車の時間までもうあと二十分ほど。
万が一が無いように、そろそろ出発しておきたい時間だ。


lw´‐ _‐ノv「……まあ、楽しそうで何よりです」

ミセ*゚ー゚)リ「そうでしょ、うへへ……行ってきます」

lw´‐ _‐ノv「あ、待って、ミセリ」

99 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:37:28.270 ID:Ay5AiMcAa
ミセ*゚ー゚)リ「?」

lw´‐ _‐ノv「人生は冒険です。困難は付き物ですから」

ミセ*゚ー゚)リ「うん? ……ええと、よく分からないけど、頑張るよ」

lw´‐ _‐ノv「……どんな困難があるかは、私にも、予測できないけれど。だけど、私達はきっと……」


浮かれ切った私に、シューさんの言葉は最後まで届かず、頭をすり抜けていった。

100 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:38:01.643 ID:Ay5AiMcAa
ミセ*゚ー゚)リ「ーー! ~~!」

( ・∀・)「! ……!」

ミセ*^ー)リ

(*・∀・)「~~」


色々なことを、私は既に教わっていた。
色々なことを、私は既に知った気になっていた。
だけど、私はまだ、何も経験していなかったんだと思う。

どこかできっと、バランスを取らなきゃならなかったんだろう。
モララーさん、トソンちゃん、そしてシューさんに、大きすぎる幸せを貰ったこと。
そして、そのモララーさんを裏切るような、隠し事をしていたこと。

101 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:38:25.055 ID:Ay5AiMcAa
д('A`#)『ーー!』

  _,
ミセ*゚ -゚)リ

( ・∀・)「~~」

ミセ*゚ -゚)リ「!」

( ・~・)「~~」

ミセ* - )リ

( ・∀・)「?」

ミセ* - )リ「…………。~~?」

( ・∀・)「~~」

ミセ* ー;)リ「……」

( ;・A・)「!?」

ミセ*゚ー;)リ「――」

(l!l・A・)「!!」

102 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:42:06.125 ID:Ay5AiMcAa
昼前には自宅に着いた。
太陽がじりじりと外の地面を焦がし、やがて疲れて休みにつく。

どこかへ出かけていたシューさんが帰って来たのは、それからずっと経ってからだった。


lw´‐ _‐ノv「……ゆっくりで良いから、話してごらん」

「……街宣が来てたの。駅前に」

lw´‐ _‐ノv「……いつもの、デリカシーの無い連中ですね」

「私は、出来る限り、何でもないふりをしようとしたんだけど。でも、できなかった」

lw´‐ _‐ノv「できなかった?」

「きっと嫌な顔、しちゃったんだ。そしたら、モララー先輩は……」

lw´‐ _‐ノv「彼らの肩を持ったんですね」

「……うん。気持ちは分かる、って。ちょっとでも外省人を追い出したいと思ってしまうのは、日本人なら普通だって」

lw´‐ _‐ノv「それは……いいえ、完全に間違いではないでしょうね」

「私は、『外省人の友達に、素敵な人が居る』って、言ったらっ……!」

103 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:43:38.926 ID:Ay5AiMcAa
シューさんは布団越しに、私の背中をさすってくれた。


「モララーさんは、『凄いな』って……『この時世で、外省人と友達だって堂々と言えるのは、カッコいい』って」

lw´‐ _‐ノv「……悪気は、なかったんじゃないかな。風当たりが強くなっているのは、間違いないんですから」

「ん……そうかも。でも、最後まで聞けなくて、逃げてきちゃった……情けないよね」

lw´‐ _‐ノv「……いいえ、ミセリはよく頑張りました。もう小娘なんて呼べませんね」

「……ありがと」

lw´‐ _‐ノv「もう、知ってると思うけれど。悲しいことは、沢山あります。生きているなら」


シューさんの言うとおり。私はもう、知っている。
悲しいことは沢山あって、でも、私達はそれを乗り越えられるようにできているんだ。

でも。


「今はちょっと、時間が欲しいな。少しだけ、休みたいんだ」

104 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:44:17.512 ID:Ay5AiMcAa
lw´‐ _‐ノv「だめです。そんな時間はありません。明日は私に付き合って下さい」


こうして、たった一言で翌日……8月1日の私の予定は強引に埋められてしまった。
たった一週間の間にたくさんの悲しいことがあった、夏の終わりの月。
私とシューさんの、お別れの月。

105 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:44:55.924 ID:Ay5AiMcAa
『7月 末日
失恋しました。
頭の中がぐちゃぐちゃで、何かを考える気力がわいてきません
思い出したくないことばかりが浮かんできて、死んでしまいそうです。
今月は嬉しかったことも幸せだったことも沢山あるけれど、今はそれを思い出すのも辛いのです。
また後日、加筆します。

追記。
シューさんが明日どこかに連れて行ってくれるとのことです。気を使ってくれているのかもしれません。
変な人だと思っていたけれど、最近はそれ以上に、すごい人だと分かっています。尊敬しています。
これからも、色々と教えてもらえたらいいな、そう思っています。


106 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします:2016/04/03(日) 23:46:26.870 ID:Ay5AiMcAa
第三話までの予定だったので
あと一話と少しでした

107 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:47:53.621 ID:Ay5AiMcAa
『8月












109 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:48:34.693 ID:Ay5AiMcAa
ちょっと大切な人のところに行くから。
シューさんはそう言って、私におめかしを強要しました。
つい先日にも着たばかりの新しい古着に身を包み、渡辺さんに教わった通りにお化粧をしまして。
もちろん首元には、新たに人生最大の宝物に加わったネックレスも忘れません。


lw´‐ _‐ノv「準備は良いですか、ミセリ?」

ミセ*゚ー゚)リ「うん、ばっちり。……どこに行くかすら知らないけどね」


長旅の準備をする必要はない。私が持っている情報は、これだけ。
昨日のうちに聞けば教えてくれたのかもしれない気がするけれど、それは言っても詮無きかな。
シューさんはというと、いつもより黒っぽしく露出の少ない服装で、お前それ死ぬほど暑いだろと言うに言えずでしたが。


lw´‐ _‐ノv「では、行きましょう。日が昇りきる前に駅に行き着きたいですね。クソ暑いのは御免です」

ミセ*;゚ー゚)リ「あ、やっぱり暑いんすね……それ、持っていくの?」

lw´‐ _‐ノv「これですか?」

110 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:48:57.256 ID:Ay5AiMcAa
シューさんは肩掛け鞄の他に、革張りのヴァイオリンケースを片手に持っている。
小さな楽器とは言え、手に持って運ぶとなるとそれなりに重いはずだ。


lw´‐ _‐ノv「ぜひ、今の私を聴かせてあげたいですから」

ミセ*゚ー゚)リ「へー……シューさんって時々かっこいいよね」

lw´‐ _‐ノv「何を言いますか。私は常にカッコいいですよ」

ミセ*゚ー゚)リ「はいはい。シューさんはいつもカッコいいですね」


シューさんはいつも、カッコいい。
掴みどころ無く飄々としているようで、芯が通っているんだ。
私なんかじゃ、とても追い付けない。

斜め前を歩くシューさんの、スッと伸びた背中。丈は私と変わらないはずなのに。


lw´‐ _‐ノv「――いいですね、ミセリ?」


気付くと、そのシューさんは、券売機の前で私を振り返っていた。
参った。家を出てから一切の記憶が無い。

111 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:49:28.017 ID:Ay5AiMcAa
ミセ*゚ー゚)リ「……え、ごめん、なに?」

lw´‐ _‐ノv「こういう場合ははい、と答えておけばいいんですよ」

ミセ*゚ー゚)リ「? じゃあ、はい」

lw´‐ _‐ノv「今回は私の都合なので旅の費用は私に出させてもらいます、そう言いました」


シューさんはいつの間にか用意していた乗車券を私に差し出した。
私がボーっとしていたことも織り込み済みだったらしい。やりよる。


ミセ*゚ー゚)リ「……それじゃあ、お言葉に甘えて……って、何これ9870円!?」


ご丁寧にも帰りの分も用意してあるという周到ぶりである。
2人でしめて40,000円という旅費の時点で、正直ちょっとお腹が痛い。
何より、そもそも、それだけあれば何処まで行けるやら。


ミセ*゚ー゚)リ「この……ええと、キンザンまで行くの?」

lw´‐ _‐ノv「そうです。ここからだと片道だいたい8時間くらいかな」


向こうに着く頃にはきっと日差しも落ち着いているはず。
シューさんは涼しい顔でそう言ってのけた。

112 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:49:45.540 ID:Ay5AiMcAa
旅路は意外にも、そう退屈はしなかった。

私はシューさんの事をあまり深く知らなかったし、シューさんは私のスクール生活に興味津々だった。
どんな勉強をしているのか、周りの皆とは打ち解けているか、トソンちゃんやブーン君はどうしているか。

シューさんの知識は驚くほど幅広く、深い。
文学や芸術はもとより専門的な数学の話や経済学、歴史学に至るまで、シューさんは全てに興味を示し、答えた。
中でも言語に関しては、私以上に私の祖国とその周辺のことばを知り尽くしていて、舌を巻かされたものだ。

車窓から覗く景色は、緑から灰色、灰色から緑に移り変わり、三度目の乗り換えを済ませた頃には一面の緑だった。

夏。夏の緑。
うだる暑さの中にあってなお、青々と茂る緑。
地球の、人類の冬なんて笑い飛ばすように、青々と茂る緑。

午後のゆるやかな日差しの下、列車はゆっくりと走りだしてゆく。
気付けば私は、柔らかなまどろみの中に沈んでいった。
魚の私は、明るい空を見上げながら、深く、寂しい海の底へ――。


lw´‐ _‐ノv「――ミセリ。次の駅がカナヤマです。降りる準備を」

113 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:50:03.277 ID:Ay5AiMcAa
それなりに込みあった電車で、それなりに大きな駅に止まったのに、降りる客はほとんど居なかった。
そこそこ立派な町並みの中、降り立ったホームから電車が西へと走り去り、静けさが残る。

出迎えは、いくぶん穏やかな猛暑。
改札を抜けると、、広いホームにはまばらな人影があるばかりだった。


ミセ*゚ー゚)リ「へー、なんて言うか……もの寂しいところだね」

lw´‐ _‐ノv「これでも昔は、かなり栄えた大都市だったんですよ。復興の向きもありますが、このご時世ですから」

ミセ*゚ー゚)リ「昔はって……」


言いかけて、言葉が勝手に止まった。
駅の壁に、簡単な地図が掛けられている。

遅まきながら、自分がどこに居るかがようやく分かった。
ここは、地獄だった場所だ。中国からの、最新型のミサイルが直撃して、一面の地獄になった場所だ。


ミセ*゚ー゚)リ「その、シューさん、会いたい人って」

lw´‐ _‐ノv「もうちょっと先ですよ。ここからは、バスで行きます」

114 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:50:24.473 ID:Ay5AiMcAa
ミセ*゚ー゚)リ「……住んでる人、居るんだね」

lw´‐ _‐ノv「外れの方まで行けば、ですけれどね」

ミセ*゚ー゚)リ「……」


私はただ黙って頷いた。

見渡す限り、空き地ばかりだ。
土地の売買に、政府がかなりの制限を掛けたのだとシューさんは言う。
この辺りは流石に除染はかなり進んでいるけれど、それでも、人は帰って来れないのだと。

やがて小さなバスが止まり、私達と、他に数人の乗客が乗り込む。


ミセ*゚ー゚)リ「どこまで行くの?」

lw´‐ _‐ノv「終点の、星林除染区までです」

115 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:50:44.345 ID:Ay5AiMcAa
ミセ*゚ー゚)リ「除染区って……」

lw´‐ _‐ノv「除染作業の最前線ということですよ。数百人規模の除染隊員が今日も頑張っています」

ミセ*゚ー゚)リ「それじゃ、このバスに乗ってる人も?」


窓の外の風景が、次々と置き去られてゆく。
シューさんはただ、静かな目で風景を見送っている。


lw´‐ _‐ノv「……義務」

ミセ*゚ー゚)リ「え?」

lw´‐ _‐ノv「人生は、義務だそうです。辛くとも、苦しくとも、果たさねばならない、義務」

ミセ*゚ー゚)リ


投げ出す事は、許されない。冷たい声でシューさんは呟く。

――シューさんも人生が義務だと思っているの?
ただ一言の質問は、なぜか喉につっかえて、出てこなかった。

117 名前:再投稿 ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:53:11.488 ID:Ay5AiMcAa
(*゚∀゚)「啊啊,小歌!隔了好久!」

lw´‐ _‐ノv「久不見、親愛的。瘦了?」

(*゚∀゚)「妳說什麼。朋友?」

lw´‐ _‐ノv「一樣的妳。ミセリ、柬埔寨系。能說日語」

(*゚∀゚)「? 啊ー、誠然……」


ミセリって単語だけ、どうにか聞き取れた。

星林でシューさんが訪れたのは、停留所か少し離れた小さなコンテナハウス。
30代くらいに見える綺麗な女性と、流暢な……中国語?でシューさんは挨拶を交わした。

女性は私を上から下まで眺めると、嬉しそうに声を上げた。


(*゚∀゚)「あ、あー……ミセリちゃん」

ミセ*゚ー゚)リ「は、はい! ミセリです!」

118 名前:再投稿 ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:53:41.182 ID:Ay5AiMcAa
(*゚∀゚)「おー、通じた! 日本語久しぶりだ!私はちゃんとしゃぺってるかな? 可愛いなー、何歳? 学生?」

ミセ*゚ー゚)リ「え、えっと」

lw´‐ _‐ノv「こちらつーさん。何年か前からこの一帯を除染してる」

(*゚∀゚)「宜しくだよー、除染したいもの有ったら言ってねー、頑張って処理するよー」

ミセ*;゚ー゚)リ「普通の女の子は除染したいものなんて持ってないと思う!」


つーさんは無邪気に笑い、私の肩をばしばし叩く。ちょっと痛い。
助けを求めて振り返ると、シューさんは素知らぬ顔でふらふらと歩き去っていくところだった。


(*゚∀゚)「アイツはいっつもあんな感じだから気にする必要ないよー。どうせすぐ帰ってくるさー」

ミセ*゚ー゚)リ「ああ、シューさんはこちらでもご迷惑を……」

119 名前:再投稿 ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:54:21.160 ID:Ay5AiMcAa
つーさんは笑顔で私をコンテナハウスに招き入れ、座布団を引っ張り出して床に放り出し、勧めてくれた。
手狭で雑多な空間。正座すると、彼女の生活感が間近に出迎えてくれているような気がする。


(*゚∀゚)「もうシューのすることには慣れたよー。それより、日本語上手だねー」

ミセ*゚ー゚)リ「あ、うん、私、日本人が混じってるから」

(*゚∀゚)「ハーフかー! 日本人にしか見えないよー! 可愛いなー!」

ミセ*゚ー゚)リ「お、おおう、ありがと……つーさんは、中国の人?」

(*゚∀゚)「中国人だけど中国て言われるの嫌だよー! 大陸人と一緒にしないでー!」

ミセ*゚ー゚)リ「おおう、それじゃあ、南中国から?」

(*゚∀゚)「うん。南沙では一緒に戦った同士だよー!」

ミセ*゚ー゚)リ「なんと、これは失礼しました」


つーさんは困った顔で、溜息をつく。
前大戦で、大国・中華連邦の一部は本国と決裂し、西側日本側についた経緯がある。
彼らの大半は、つーさんのように、中国人とくくられることを嫌がるものだ。


(*゚∀゚)「日本の人みんな私見て大陸のスパイ言います。仕方ないよー」

120 名前:再投稿 ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:54:44.270 ID:Ay5AiMcAa
ミセ*゚ー゚)リ「や、それは大変なご苦労を……」

(*゚∀゚)「その点ここなら、私が中国人と気にする人居ません。そもそも中国人のせいで人居ません」


ごめんよー。申し訳なさそうな声音を作るつーさん。
思わず笑ってしまった。なかなかブラックなユーモアだ。


ミセ*゚ー゚)リ「ま、前向きですね」

(*゚∀゚)「ポジティブだよー。人生に困難はツキモノだもの、乗り越えてこそ人生です」

ミセ*゚ー゚)リ

(*゚∀゚)「啊、ごめんごめん、そう言えばお茶も出してないねー」

ミセ*゚ー゚)リ「いやそんな、お気遣いなく」

(*゚∀゚)「そうはいかないよー、台湾人は歓迎が大好きだよー。今日は二人ともここに泊っていくの?」

ミセ*゚ー゚)リ「えっと、分かんない。シューさんだし」

(*゚∀゚)「分かんないかー、シューだもんなー」


シューさんというのは、ひょっとして物凄く便利な単語なんじゃなかろうか。
私とつーさんは、顔を見合せて笑った。あの不思議な女性が今、不思議な縁で私達を結び付けてくれている。

121 名前:再投稿 ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:55:04.567 ID:Ay5AiMcAa
ミセ*゚ー゚)リ「シューさんは今、どこに?」

(*゚∀゚)「たぶん私みたいな除染作業員のところ回ってるよー」

ミセ*゚ー゚)リ「へー、みんな台湾の人?」

(*゚∀゚)「違うと思うなー。どいつもこいつもナニ喋ってるか分からないよー」

ミセ*゚ー゚)リ「おおう、そりゃまた難儀な」


そんな光景、想像するだに恐ろしい。
そう思いかけて、ふと自分のことと、スクールの皆を思い出した。

ブーン君もギコ君もタカラ君も、あるいはトソンちゃんやモララーさんも、同じ日本語で話しているだけだ。
本当はすごくバラバラなんだ。バラバラの私達が、ゆるやかに、強く、結びついているだけだ。


(*゚∀゚)「そろそろダンナが帰ってくるから、晩御飯にするよー。ちょと座っててな」

ミセ*゚ー゚)リ「あ、はい、すいません」


腕によりをかけるよー、陽気な声がコンテナの奥から聞こえてくる。
改めて見渡すと、手狭な部屋の中には、彼女の故郷を思わせる幾つもの宝物があるようだ。
私は棚の、一冊の大きな背表紙に手を伸ばした。アルバムだろうか。簡素な表紙を――

122 名前:再投稿 ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:55:22.179 ID:Ay5AiMcAa
(*゚∀゚)「ミセリちゃん、苦手な食べ物とかある?」


――開こうとした手を、慌てて止めた。
何か人の心に土足で踏み込もうとしていたような後ろめたさが、波紋のように心に広がる。


ミセ*゚ー゚)リ「え、あ、はい、いいえ、無いです!」

(*゚∀゚)「辛いものとか平気?」

ミセ*゚ー゚)リ「平気! 大好き!」

(*゚∀゚)「良かったー! 今日はマーボーだよー!」

ミセ*゚ー゚)リ「え、本当? やたっ!」


つーさんは楽しそうに厨房に戻る。
アルバムは、開かずに棚に返してしまった。
麻婆。私は写真よりも今の彼女の姿の方を見たかったから。
シューさんとフサさん――つーさんの旦那さんが帰ってきたのは、私とつーさんの至福の食事が終わった後だった。


ミ,,゚Д゚彡「先に食べてるなんて酷いんだから!」

lw´‐ _‐ノv「まあまあ、ミセリの食い意地は筋金入りですから、仕方ありませんよ」

ミセ*゚ー゚)リ「ぐっ……何も言い返せないっ……!」

123 名前:再投稿 ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:55:48.301 ID:Ay5AiMcAa
シューさんはただ一言、一泊だけしていきます、そう言った。
つーさんもフサさんももっと長くいるように勧めてくれたけれど、シューさんは「わりと忙しいので」とだけ言って断った。

二人ともシューさんとは、それほど長い付き合いというわけではないらしい。
良くはわからないけれど、シューさんの「仕事」の関係での付き合いだとか。

不思議そうな顔をしていたのであろう私には、「以前、今の私とミセリのような関係でした」とだけ教えてくれた。

シューさんのことをもっと知ることが出来る、最大のチャンスだったのかもしれない。
だけど、私の頭からは、そんなことはすっかり追い出されてしまっていた。


ハソ*゚ー゚)ソ「シューさん」

lw´‐ _‐ノv「……」


寝巻とお風呂までお借りして、客用の布団を出して貰って、ありがたい限りの中で私は、すでに微眠んでいる。
シューさんはすぐ隣、つーさんの布団を借りている。つーさんはフサさんの懐に潜り込んでいるらしい。

呼びかけへの返事はなかった。
私の声が小さすぎて、聞こえていなかったのかもしれない。

つーさん達と出会って、私は初めて気付いた。
シューさんもいつか、モララー先輩との別れがあったように、私の前から居なくなってしまうんだろう。

124 名前:再投稿 ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:56:16.081 ID:Ay5AiMcAa
翌朝、私は大寝坊した。
目が覚めるともう既に日は高く昇り、シューさんつーさんの姿は無い。
寝起きでぼさぼさの髪、乱れた寝巻のまま、私はゆっくりと身体を起こし、そしてフサさんと目が合った。


ミ,,゚Д゚彡「あっ」

ハソ ゚д゚)ソ「おっ……」

ミ,,゚Д゚彡「い、いや、何も見てないから!」

ハソ*゚д゚)ソ「……」


悲鳴を上げずに済む程度には、私もいろいろと体験してきた人生だ。
慌てて背を向けるフサさんを、わたしはシューさんをモデルにした冷静な瞳で見つめる。
フサさんは恐る恐るといった様子で振り返り、真っ先に髪の毛だけをまとめ直し終えた私を見て、また慌てて背を向ける。

紳士的な人だ。つーさんはさぞ、大切にされていることだろう。ちょっと羨ましい。

125 名前:再投稿 ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:56:37.881 ID:Ay5AiMcAa
ミセ*゚ー゚)リ「シューさんも一言かけてくれればよかったのに……」

ミ,,゚Д゚彡「仕方ないんだから。シューちゃんだし」

ミセ*゚ー゚)リ「そっか、シューさんだもんね」


なんとも便利な言葉だ。
私は用意していただいた……パン?を頬張りつつ、ありがたくも便利な言葉を噛み締めた。

聞くとどうやら、シューさんとつーさんは二人、星林の奥に向かったのだと言う。
いつもの革張りの鞄も無くなっている。シューさんの言っていた演奏を聞かせたい相手というのが、そこに居るのだろう。

聞くとどうやらつーさんもフサさんも今日はお仕事が休みだとか。
貴重な休日を私達に費やさせてしまい、申し訳ないやらありがたいやらで胸一杯である。

しかし、そう言ってみると、この気のいいスラブ系の大男は、


ミ,,゚Д゚彡「全然いいから! 僕達はミセリちゃん達が喜んでくれれば何よりだから!」


とのこと。つくづく紳士的な男性である。
そう言いつつも彼は、仕事道具なのだろう、装備の手入れに余念が無い。

126 名前:再投稿 ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:57:00.238 ID:Ay5AiMcAa
ミセ*゚ー゚)リ「シューさん、いつ帰ってくるのかな」

ミ,,゚Д゚彡「んー、そろそろじゃない? もう出て行ってから四時間くらい経つし」

ミセ*゚ー゚)リ「うえ、そんなに早くから行ってるの?」


不覚。まったく気付かなかった。
今だいたい11時過ぎだから、7時ごろには出て行った計算になる。

……うん、私が寝坊助すぎでしたね。


ミ,,゚Д゚彡「もともとミセリちゃんを起こすつもりじゃなかったみたいだから、仕方ないんじゃないかな」

ミセ*゚ー゚)リ「ぬぬ。ますます私は何の為にここへ……」

ミ,,゚Д゚彡「う、うーん……シューちゃんだから」

ミセ*゚ー゚)リ「……そっか、シューさんだもんね」


シューさんだから。
だからきっと、私が気付いていないだけで、何か意味があるんだろう。


ミ,,゚Д゚彡「シューちゃんとは長い付き合いなの?」

127 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:57:21.481 ID:Ay5AiMcAa
ミセ*゚ー゚)リ「ううん、全然。まだ二カ月くらいだよ」

ミ,,゚Д゚彡「あれ、そうなの? すごく信頼してるように見えたから」

ミセ*゚ー゚)リ「信頼」


信頼。信頼してる。
改めて口に出すのはちょっと抵抗があるんだけれど。
でも、こんなところまでのこのこ着いて来るくらいだから。


ミセ*゚ー゚)リ「うん、信頼してる。と思う」

ミ,,゚Д゚彡「ギコハハハ! 何よりなんだから! シューちゃんは人を裏切って騙すような人じゃないんだから!」

ミセ*゚ー゚)リ「そだね」


フサさんは豪快に笑い、装備の手入れに戻った。
朝食を食べ終えた私が覗きこんでいると、彼は笑いながら、一つ一つの道具を説明してくれた。

話はずいぶんと盛り上がり、土の話、瓦礫の話からカビの養殖まで、シューさん達が帰ってくるまでずっと続いた。

128 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:57:44.732 ID:Ay5AiMcAa
ミセ*゚ー゚)リ「本当にお世話になりました」


私は深々と頭を下げる。
こんなにも気持ちのいい人々との出会いは、滅多にない。


(*゚∀゚)「いえいえ! また来るといいね! 待ってるよ!」
ミ,,゚Д゚彡「遠慮はいらないんだから、いつでも遊びにきてほしいんだから!」

lw´‐ _‐ノv「また気が向いたら来ます。ネーヨにも宜しく」


シューさんは振り返ることなく、停留所に回り込んできたバスに乗り込む。
つーさん達は、私達の乗ったバスが見えなくなるまで、手を振ってくれていた。


lw´‐ _‐ノv「どうでした、ミセリ」

ミセ*゚ー゚)リ「ん……素敵な人達だったね。私……なんで、あの人たち……どうして……」

lw´‐ _‐ノv「その答えは、ミセリ、既に知っているはずです」


ぼろぼろで、形にならない私の問いに、それでもシューさんは静かに頷いて答えた。
だから私はミセリをここに連れてきたんです、と。

129 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:58:12.490 ID:Ay5AiMcAa
それから八時間をかけ、狛ケ崎駅についた時にはすでに夜の九時を回っていた。
シューさんは用事があるからと言って駅から別行動をとり、私は一人、家路に着く。

生温い風が頬をなでる。
静けさに心が不安を訴え、理性がそれを処理してゆく。

一歩、また一歩と我が家が近付くにつれ、不安は力を増してゆく。

最後の角を曲がった、その瞬間に、心臓が大きく跳ねた。


ミセ*;゚д゚)リ「な、何……これ……」


寄宿舎は、さながら超大型の局地的台風に見舞われたような有様だった。
ガラスは片っ端から叩き割られ、植木は引き抜かれ、壁にはいくつも罅が走っている。

駆け寄ろうとした足は、積み上げられたガラクタの前で止まった。
残らずスクラップにされた自転車だと気付くまで、少し時間がかかった。


ミセ*;゚д゚)リ「なんで、なんでこんな……なんでさ!」


ラッカーで落書き塗れにされた扉を、必死で叩く。
一階管理人室。いつも私達を支えてくれた、アラヤダさんの部屋。

返事は無かった。

130 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:58:35.298 ID:Ay5AiMcAa
ミセ*;д;)リ「なんで、こんな……」

(;゚ω゚)「み、ミセリちゃん! 落ち着くお!」

ミセ*;д;)リ「ぶうんぐん……でも、落ぢ着いでなんで……」

(;゚ω゚)「アラヤダさんは無事だから安心して、とにかく静かにしてくれお! 騒いじゃまずいお!」


ブーン君の声で、私の心に冷たい何かが流れ込んできた。
燃え上がっていた感情が、炎をそのままに、一部で冷えてゆく。

これは台風なんかじゃないんだ。自然災害なんかじゃない。
爆撃なんだ。私達は、最前線に居る。


(;゚ω゚)「お、落ち着いた……?」

ミセ*;д;)リ「……落ち着いた。説明して」

(;゚ω゚)「お、それじゃ、着いて来るお」

131 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:59:10.916 ID:Ay5AiMcAa
ブーン君は昨日から、彼女さんの家に身を寄せているらしい。
寄宿舎が窓から見えるマンションの一室に、私は連れ込まれた。

夜分遅くだというのに、ブーン君の彼女さんは嫌な顔一つせず、私を迎え入れてくれた。


ミセ*゚ ‐゚)リ「何があったの?」

( ^ω^)「……順を追って説明するお。昨日、テロがあったのは知ってるおね?」


私は首を横に振った。
星林に居た私に、そんな話は何も伝わってきていない。


( ^ω^)「その、東京で毒ガステロがあったんだお。何百人も死んだ」

ミセ*゚ ‐゚)リ「!」

( ^ω^)「犯人は不法侵入してきた東側の人間だお。外省人の移民を装って生活してたんだとかで」

ミセ*゚ ‐゚)リ「……何も知らなかった」

( ^ω^)「それで、暴動が起こったんだお。僕達が寄宿舎で不法移民をかくまっているんじゃないかって、それで……」


かくまうも何も、正当な移民を装われてしまえば、私達にも察知する術は無いのに。
とにかく、寄宿舎はそのテロリストの巻添えを受けてめちゃくちゃな破壊にあったということだ。

132 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/03(日) 23:59:30.713 ID:Ay5AiMcAa
ミセ*゚ ‐゚)リ「いま暴動は、どうなってるの?」

( ^ω^)「分からないお。今日は不気味なくらい何もなかったけど……」


警察隊は遅くまで出てこなかったらしい。
いったい何をしていたんだというと、テロの方にかなりの人手を取られていたのだとのこと。

ブーン君はこのマンションから、寄宿舎が大騒ぎの渦に飲まれる様を、ただ見ているしあかできなかったそうだ。


ミセ*゚ ‐゚)リ「寄宿舎の皆は?」

( ^ω^)「無事だお。連絡がつかなかったのはミセリちゃん達だけ。全員、無事だお」

ミセ*゚ー゚)リ「……そっか。良かった」


なんでも、テロが起こった昨日の朝のうちに、アラヤダさんから都内に近付かないようにと通達があったそう。
アラヤダさんの謎の人脈というか情報網というかに助けられた形だ。


ミセ*゚ー゚)リ「それじゃ、私は寄宿舎に戻るよ」

( ^ω^)「……は?」

133 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/04(月) 00:00:34.634 ID:nyjGNNE+a
ミセ*゚ー゚)リ「え、だって、暴動はもう一旦は収まったんでしょ?」

( ^ω^)「そ、そうだろうけど、それでも危ねーお!」

ミセ*゚ー゚)リ「だったら尚更、戻らないと。シューさんはまだ、何も知らないんだから」

(;^ω^)「ば、バカ! もしかしたらシューが、その――」

ミセ*゚ー゚)リ「わかってるよ、そんなの。でも私はシューさんを信じる」

(;^ω^)「……そうかお。朝になったら、ここに安全確認に来てくれお。スクールは休校で、そのまま夏休みだお」

ミセ*゚ー゚)リ「おっけー。美味しいお茶、御馳走様でした」


外の風は、幾分の涼しさをはらんでいた。

積み上げられたスクラップ自転車を乗り越え、私は寄宿舎へ。
壁は一面にラッカーが吹きつけられ、ところどころを叩き壊され、何部屋かはドアさえ壊されている。

私の住む206号室は、比較的ダメージが少なかった。
もちろん窓ガラスは外からの投石で破られていたけれど、それくらいだ。

まずは石とガラスを適当にベランダに放り出し、ベッドに身を投げようとして、流石にそれは止めた。
幸いにも、一晩過ごせる場所は他にもある。私は押し入れを開け、シューさんの寝床に身を投げた。
あんにゃろう、壁紙どころか天井まで模様替えしていやがる。
シューさんお手製の星天井を眺めるうちに、私は深い眠りに落ちていった。

134 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/04(月) 00:00:53.020 ID:nyjGNNE+a
夢の中で魚の私は、夜空に浮かぶ星を眺めていた。
ブーン君が言おうとして喉につっかえさせた言葉は、私の中にもあって、私を苛んでいる。
私は既に溺れかけていた。近付いていた星空が、遠く離れて行く。

135 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/04(月) 00:01:18.624 ID:nyjGNNE+a
朝になっても、シューさんは戻っていなかった。
きっと無事だろうと思う気持ちが半分、ここに帰ってくることはないだろうという奇妙な確信が半分。
着替えを済ませ、前日の約束通りツンさん、ブーンさんの彼女さんの家に顔を出し、近所の公園へ。

考えておきたいことが幾つもあって、でも、その気力すらなくて。
うだる暑さから逃げるように、足が勝手に狛ケ崎公園へと向いただけだ。


ミセ*゚ー゚)リ「信じる、なんて言ったんだけどなー……」


ツンさんの家の新聞を見ると、一面には大きくテロの報道があった。

毒ガス。
被害にあった人達の苦しみは、想像を絶するものだっただろう。

噴水に両足を突っこんだまま、全身を芝生に投げ出す。
いつかのような陽気な音楽は、公園には響かない。


ミセ*゚ー゚)リ「どこ行っちゃったのかなー……」

「それはこっちのセリフです」

ミセ*゚ー゚)リ「へ?」

(゚、゚#トソン「どれだけ心配したと思っているんですか、この馬鹿者!」

136 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/04(月) 00:01:42.625 ID:nyjGNNE+a
ミセ*゚ー゚)リ「トソンちゃん? なんでここに?」

(‐、‐#トソン「丸二日も連絡を絶っておいて、第一声がそれですか?」

ミセ*゚ー゚)リ「え、いや、その……ごめんなさい……」


トソンちゃんは私の頭を一度軽くぶつと、靴を脱いで隣に腰かける。
私は身を起こし、いつかのようにふたり、水辺に並んだ。

子供達の声は、今はしない。


(゚、゚トソン「ブーンから連絡がありました。あなたが見つかったって」

ミセ*゚ー゚)リ「迷子の犬じゃないんだから」

(゚、゚トソン「似たようなものです。今朝はブーンが止めるのも聞かずに出て行ったそうですね」

ミセ*゚ー゚)リ「や、それは……そうだっけ、覚えてないや」

(゚、゚トソン「この馬鹿者は……」

ミセ*゚ー゚)リ「ごめんなさい……へへへ」

137 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/04(月) 00:02:02.924 ID:nyjGNNE+a
(゚、゚トソン「どこに居たんですか?」

ミセ*゚ー゚)リ「んー……西の方? シューさんの星に」

(゚、゚トソン「ああ、ミセリもすっかり宇宙の電波に毒されてしまったんですね」

ミセ*゚ー゚)リ「星林って分かる?」


トソンちゃんは驚いて私の顔を覗き返した。


(゚、゚トソン「星……って、そういう事なんですか!? ミセリ、体調は平気ですか!?」

ミセ*゚ー゚)リ「う、うん、身体は元気だよ」

(゚、゚トソン「はあ……そういう危ないことは控えて下さい」

ミセ*゚ー゚)リ「え、ええと」

(゚、゚トソン「返事!」

ミセ*;゚ー゚)リ「は、はい、ごめんなさい!」


今日は、というか、この前から叱られっぱなしだ。
トソンちゃんは呆れた顔で溜息をつき、頭をなでてくれた。

138 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/04(月) 00:03:18.520 ID:nyjGNNE+a
(゚、゚トソン「ミセリが元気なら、とりあえず、それでいいです。モララー先輩には悪いことをしてしまいました」

ミセ*゚ー゚)リ「モララー先輩? なんで?」

(゚、゚;トソン「いや、その……」


珍しく口ごもるトソンちゃん。
私の方は、モララーさんとのことなんてすっかり忘れてしまっていたので、寝耳に水の反応。


(゚、゚;トソン「彼が、その、スクールに来て、ミセリを傷つけるようなことをしてしまったとかホザいたので」

ミセ*゚ー゚)リ「え、あ、うん、そんなこともあったね」

(‐、‐;トソン「ミセリも来ていないので、その……強引にアレされたんだと思い込んで、ついカッとなってしまって」

ミセ*゚ー゚)リ「う、ん……ん?」

(=、=;トソン「顔面を、その、グーで、ポカっと……」

ミセ*;゚ー゚)リ「……本当は?」

(、=;トソン「………………ボッコボコに」

ミセ*;゚д゚)リ「可哀想過ぎる! モララー先輩はそんなに悪い人じゃねえよ!」

140 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/04(月) 00:03:40.547 ID:nyjGNNE+a
(゚、゚トソン「ところで、その……シューさんからは、何もされませんでしたか?」

ミセ*゚ー゚)リ「トソンちゃんも疑うんだね」

(゚、゚トソン「……疑いたいわけじゃないですよ」

ミセ*゚ー゚)リ「私もそんな感じ」


不意打ちでトソンちゃんの右手首を掴む。
驚いたトソンちゃんは小さく震えた。たった一言のために、緊張しすぎだよ。


ミセ*゚ー゚)リ「正直ハタから見てても疑わしいもん、シューさん。そりゃあ考えちゃうよ」


シューさんも、移民を装ったテロリストの一人だったんじゃないかって。


ミセ*゚ー゚)リ「そもそも異星から来たとか何ヶ国語も話せるとか日本語じゃ自分の名前も書けないとか、胡散臭すぎたよ!」

(゚、゚トソン「う……ですが、その……」

ミセ*゚ー゚)リ「いいえ、この際文句を言いきります! あんにゃろうこの前の祭りの日に家に金魚何十匹も掬ってきてさ」

(゚、゚トソン「うわ、それはまた……どうしたんですか、その金魚」

141 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/04(月) 00:04:17.785 ID:nyjGNNE+a
ミセ*゚ー゚)リ「仕方ないからうちに置いといたよ。でもちょっとずつ減ってて、どうしてたと思う?」

(゚、゚トソン「え? ええと……食べてた?」

ミセ*;゚д゚)リ「シューさんをそんな目で見てたの!? 正解は、ここの噴水に放流して野良猫に狩らせてた、でした」

(゚、゚トソン「それはまた随分と……羨ましいけれど、うーん……」

ミセ*゚ー゚)リ「変なことばっかりするんだもん。変なことばっかりだけどさ、でも……」


でも、沢山のことを教えてくれた。


ミセ*゚ー゚)リ「……うん、私は、シューさんが良い移民さんだって信じるよ」

(゚、゚トソン「はあ……ミセリらしいですね。それじゃ私もそうします」

ミセ*゚ー゚)リ「おー、さっすがトソンちゃん! 我が親友!」

(゚、゚トソン「む……その、とにかく、シューさんが見つからないことには何にもなりませんよ」

ミセ*゚ー゚)リ「んー……そうだね。まあ、見つけるにしても、探しようがないけど」

(゚、゚トソン「シューさんですからね」

ミセ*゚ー゚)リ「シューさんだからね」

142 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/04(月) 00:04:36.956 ID:nyjGNNE+a
そのあと私達はいくつか約束をして、トソンちゃんは帰路に着いた。
ただでさえ不安ばかりの状況のなか、よく来てくれたと思う。

シューさんはきっとどこかで、いつものように飄々と過ごしているはずだ。
どこか楽観的な考えは、すぐに掻き消されてしまった。

テロがあって、暴動があって、それから丸一日の平和。

落ち着いた、そう思うべきではなかった。
言うなれば、鉄砲に弾を込める時間が必要だっただけだ。
鉄砲に弾を込めて、引き金を引く時間が必要だっただけだ。

駅までトソンちゃんを送り届けて寄宿舎まで帰ってきたたあとだ。
まるで夏祭りをやり直すかのような大歓声が、夕暮れも終わりを迎える狛ケ崎の一角で立ち昇った。

143 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/04(月) 00:05:50.231 ID:nyjGNNE+a
ミセ*;゚ー゚)リ「……うげ、まさか今の、狼群の遠吠えみたいなのって」


家に入ろうとした足を止めず、寄宿舎をスルーする道を選んだのは良い判断だったと思う。
というのも、ちょうど通りの向こうに覆面をつけた暴徒の先兵がちらっと見えたからだった。
しかし私は慌てない、走らない、騒がない。避難なれした一流の外省人は、この程度では追い詰められやしないのだ。
だからほら、こうして三人組の詰襟が肩のぶつかる距離まで近づいても、


Ω「ん……おい、こんなところで何してる?」

ミセ*゚ー゚)リ「え、何って、家に帰るところですけど」

Ω「なんだ紛らわしい! ……じゃあ急いで帰れ、巻き込まれないうちにな」

ミセ*゚ー゚)リ「巻き込まれるって?」

Ω「移民狩りにだよ。ほら、行った行った!」


と、こんなふうに私はスルー。
そもそも私は見た目はほぼ日本人だし言葉だってペラペラ、襲われる要素は無いのです。
ですが、世の中にはぶっこく余裕のないデブも居るというのが困りもので。


( ;゚ω゚)「ミセリちゃん!? 何をモタモタしてるお! そいつら暴徒だお、早く逃げるお!」

ミセ*;゚ー゚)リ そ

144 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/04(月) 00:06:38.743 ID:nyjGNNE+a
Ω「おい、テロリストが何か叫んでるぞ!」
Ω「お前、連中の仲間か!?」

ミセ#;゚д゚)リ「ふっざけ、おま、バッ……! お前のせいでバレちゃっただろーが!」

( ;゚ω゚)「アッー!?」


腕を掴んできた暴徒の顔面にグーを叩きこみ、怯んだ隙に全力で走る。
ちくしょうあのバカ、頭はそこそこ良いのに、どうしてあんなにバカなんだ。


Ω「ひっ……一人向こうに逃げていったぞ! 鼻がぁっ!」
Ω「捕まえて見せしめにしろ!」

ミセ*;゚д゚)リ「ふざ、ふざけんな、畜生!」


必死で走って路地を抜け、角を曲がり、必死で逃げる。
鬼ごっこは長くは続かなかった。続く路地に入ったところで、私は足を止めた。

建物とブロック塀に挟まれた路地、その行く先には別のブロック塀。
塀と壁の隙間は、あまりに細い。暴徒達のあげる咆哮が一瞬だけ遠くなった気がした。


ミセ*;゚ー゚)リ「はは……マジかよ、ここに来て行き止まりッスか」

('A`)「追い詰めたぞ、引き摺り出してやる!」
っΩ バッ

もう覚悟を決めた。こうなったからには仕方が無い。拳一つだ。

145 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/04(月) 00:07:29.212 ID:nyjGNNE+a
Ω「おい、通りを回り込め! 向こうに抜けて警察署に逃げ込むつもりだ!」

Ω「おう!」

('A`#)「んのクソアマぁ……」


こうして都合良くバラけてくれたから、これで殴り倒す相手は二人。
しかし一人は鼻血をだらだらさせて、見るからにご機嫌斜めの様子である。

捕まったら何とも考えたくもないことになるだろう、私は覚悟を決めて、足元に転がる瓦礫をひっ掴んだ。


('A゚)「覚悟しrくぁwせdrftgyふじこlp;@:「」」

ミセ#゚д゚)リ「おぉやったるぁああ……って、あれ?」


鼻血を流す暴徒のおっさんは、脱力しきったように膝をつき、ブロック塀に沿って崩折れた。
残ったもう一人の詰襟暴徒が、彼の脇に黒い、警棒のようなものを押し当てている。
そのまま彼……彼? 覆面さんは覆面を顔の半分まで押し上げ、わざとらしく口もとに片手を当て、


(A)「に、逃げろぉおおおおおおおおおお!! 移民仲間がウジャウジャ出てきやがった!」

146 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/04(月) 00:09:55.942 ID:nyjGNNE+a
「な、何だと!? 待ってろ、皆を呼んでくる!」

ミセ*;゚д゚)リ「え……ええー……?」


もちろん、私にはウジャウジャ湧いてくる仲間など居ない。
回り込んでいた暴徒君はあっさり引き返し、残ったのは私達二人。路地と覆面と私。
身構える私を、覆面さんはちょいちょいと手招きする。


ミセ*;゚д゚)リ「な、何?」

(A)「あ゛、あ゛ぁー……怪我はありませんか、ミセリ?」

ミセ*;゚д゚)リ「え……あ、おま、はあ!?」

lw´‐ _‐ノv「よっ……と。この人達、何が楽しくてこんな窮屈な覆面をしているんでしょうね」
っΩ

唖然とする私の手を引いて、シューさんは急ぎ足で路地を抜ける。

どこに行っていたんだとか、何をしていたんだとか、聞きたいことは山ほどあった。
だけど、何かを聞くほどの余裕は、残念ながら、息切れ激しい今の私にはなかった。
ここ最近ずっと運動不足だったのが災いしまくっていて、ちくしょう、忌々しいFFタンパク質め。

147 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/04(月) 00:10:29.208 ID:nyjGNNE+a
lw´‐ _‐ノv「今回の暴動に対しては機動隊も動いています。今日一日は都心に避難を」

ミセ*;゚д゚)リ「お、おう……シューさんは?」

lw´‐ _‐ノv「近くまで送って行きます。ほら急いで下さい、ミセリ……ミセリ?」


強引に腕を引くシューさん、思ったよりもずっと力強いその手に、私は足を踏ん張って抵抗した。


ミセ*;゚ー゚)リ「ちょ、ちょっと打ち合わせ、っていうか、段取りの確認っていうか、あれしたいんだけど、いい?」

lw´‐ _‐ノv「……仕方ありませんね、十秒だけですよ」

ミセ*;゚ー゚)リ「えっ十秒、あの、ええと、シューさんって、本当にまっとうな移民なの?」

lw´‐ _‐ノv「本当はまっとうな移民じゃありません。さぁ急いで」

ミセ*;゚д゚)リ「お、おま……! いや、もう何でもいいや、助けてくれるなら何でもいいや」

lw´‐ _‐ノv「いい判断です」


辺りはもうすっかり暗く、少し前を歩くシューさんの詰襟姿も夜の色に溶けかけている。
暴徒の歓声はいつしか狛ケ崎中に広まったようだ。爆発音が時おり響き、暗い空をチカチカと点滅させている。

148 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/04(月) 00:10:51.426 ID:nyjGNNE+a
ミセ*;゚ー゚)リ「シューさん、ひょっとして、こうなるのは分かってたの?」

lw´‐ _‐ノv「いいえ。一昨日のものまでは想定していましたが、今日は不意を突かれました」


それ以上聞くことはできなかった。
群衆の咆哮が近くで上がり、シューさんが忌々しげに舌打ちする。

爆発の音に混じり、今や発砲音までもが響いてきていた。


lw´‐ _‐ノv「全く、これだから過激派政党は……」

ミセ*;゚ー゚)リ「な、なに、何が起こってるの?」

lw´‐ _‐ノv「警察隊が到着しているんでしょう。彼らは都政の属ですから」


簡単に発砲許可が下りるんです。
私は自分が一気に青ざめたとわかった。


ミセ*;゚ー゚)リ「そ、そんなの、どっちもヒートアップするだけに決まってるじゃん!」

lw´‐ _‐ノv「そうですね。確かにちょっと、まずいことにはなっています」


シューさんは事もなげに言う。
私は思わず、ぷっと吹き出してしまった。

149 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/04(月) 00:11:39.883 ID:nyjGNNE+a
ミセ*;゚ー゚)リ「……よくそんなに落ち着いてられるねー」

lw´‐ _‐ノv「慣れですよね、お互い様です。ゲームみたいなものですよ」

ミセ*;゚ー゚)リ「ゲームて」

lw´‐ _‐ノv「ゲームみたいなものですよ、生きるということは。ちょっとの困難は付き物で、ほら、ちゃんとゴールも」


シューさんは遠く、ぼんやりと明るい一角を指した。
いつの間にか、狛ケ崎駅が見えるところまで近づいていたらしい。


ミセ*;゚ー゚)リ「疲れたよ、今日は本当に……」

lw´‐ _‐ノv「そうですね。私も疲れました。早いとこ抜け出して温かいお風呂に入りたい」

ミセ*;゚ー゚)リ「あはは、いいねそれ。また今度は、温泉にでも行こうよ。トソンちゃんも誘ってさ」

lw´‐ _‐ノv「良いですね。行きましょう」

ミセ*;゚ー゚)リ「うん、約束ね」


シューさんが足を止める。目の前に大柄な白い輸送車が停まった。
警察隊。私はどこか夢でもみているような気持ちで彼らを見ていた。


lw´‐ _‐ノv「さて、ここでお別れのようですね。お元気で、ミセリ。ああ、私のことは心配しなくていいですから」

150 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/04(月) 00:12:37.144 ID:nyjGNNE+a
ミセ*;゚ー゚)リ「お別れって、どういう……」


盾を構えた男が数人下りてくる。
何か言うより先に彼らは私をつかみ、シューさんから引き離した。

驚く暇も無かった。シューさんの手はあっさりと私から離れ、私の視界から消える。


ミセ*;゚д゚)リ「ちょ、何、なんで……離して」

「はいはい、落ち着いて下さい! もう大丈夫ですからね!」


暴徒一名確保。市民を保護。冗談のような言葉が、次々と出てくる。

シューさんの姿が、一瞬だけ、男達の足の隙間から覗いた。
銃口を突き付けて引き倒され、頭をアスファルトに擦りつけられる姿だった。

羨ましいくらい綺麗な白い首筋に、黒い警棒が添えられる。

151 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/04(月) 00:13:12.017 ID:nyjGNNE+a
ミセ#;゚д゚)リ「やめろ、離せ! おい!」

「うおっ、何をする!」


そこからは無我夢中だった。
警吏に飛び掛かり、その手から警棒を奪い取った。
バチバチと高圧電流が流れる警棒を、素手で掴んだ私の両手が、びりびり痺れる。

いつもの無表情じゃないシューさんを見たのは、久しぶりだった。
驚き、慌てるシューさん。おお、新鮮だ。強く組み伏せられて気を失う直前に、私は初めて彼女の怒号を聞いた。

152 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/04(月) 00:13:47.703 ID:nyjGNNE+a
「本っ当に、申し訳ありませんでした!」

ハソ*゚ー゚)ソ「あ、いや、私はみなさんに保護して頂いた側なので……」


とか何とか上手いこと言ってなんとか頭を上げて貰うのが、状況を理解して最初の作業。
丸一日も寝ていたのだというから、随分ときつく締められたのだろう。生きてて良かった。

私の行動は……公務執行妨害に当たる……当たるはずだから、深々と頭を下げられるのは具合が悪い。
彼らが言うにはどうやら、詰襟を着込んでいたシューさんは暴徒で、庇った私もその仲間だと判断したんだとか。

私がカッコ悪く気絶している間に私の持ち物から移民証が見つかり、これはまずいと確認が飛び、私は無実と判明。
なにせ暴徒と言えば反移民を掲げて日本社会と戦う日本人集団なのだから、移民の私が関わりあるはずなどない。
シューさんについてはどんな話術からか、「暴徒から逃れるために暴徒から奪った服を着ていた」ことにされていた。

ところで、そのシューさんがどうなったかは、私はよくわかっていない。
「まともな移民ではない」、シューさんはそう言っていたが、それが本当なら当然、かなりマズいはずだ。
ただの冗談だったのか、あるいは上手く官憲を誤魔化しているのか、私にその話題はまだ振られなかった。
「大した怪我はしていなかったから入院はしなかった」とだけ、警察病院のお医者様から伝えられた。

私が退院できたのは、二日後だ。
すぐに出られると思っていたが、むしろ事務的な手続きに時間がかかったらしい。

153 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/04(月) 00:14:28.136 ID:nyjGNNE+a
ミセ*゚ー゚)リ「すいませんどうも、長らくお世話になりまして」

「はい、もう世話したくないから二度と来ないでね」


狛ケ崎市内はかなり荒れたらしい。
逮捕者は一晩でなんと四桁にもおよび、死者は暴徒・外省人ともに二桁を超える。
襲撃された建物は私の住んでいた寄宿舎を含めて100棟以上。うち全焼が20棟ほど、半焼までふくめると50棟ほど。

これだけの大暴動――もっとも地球が風邪を引いてからはよくある程度の騒動だが――に発展した事情もある、らしい。
かなり普通じゃない方法で扇動した連中が居たんだとか、そんな噂を教えてくれたのは、私を気絶させた警官さんだ。

それでも、そんな裏事情も含めて、この世界では良くあることだ。

そんな状況で私があっさり釈放されたのには、正当な表事情がある。身元保証嘆願だ。
誰が集めてくれたのかは知らないけれど、何十人分もの署名を集めて、提出してくれたということで。
私を信じて、私の潔白を保証してくれる人が、何十人も居たということだ。

トソンちゃん……都村和ちゃん、ブーン君、ギコ君を筆頭に、スクールの皆の名前。世貝先輩に、茂木先生も。
管理人の新谷田さん、魚屋さんや八百屋さん、果てはつーさん達の名前まで束ねられた上に、監視官の印。白野優歌さんという方らしい。

こうして私の潔白は認められ、皆に支えられる生活に帰ってこれたという事だ。

154 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/04(月) 00:14:51.241 ID:nyjGNNE+a
ミセ*゚ー゚)リ「あーらーやーだーさーん! ただいま帰りました!」

(゜д゜@「ミセリちゃん!? 無事だったのね!」


私の知り合いは、奇跡的にも、誰ひとり被害に遭うことなく暴動をやりすごしたそうだ。
ブーン君なんかは、ツンさんの家のドアを挟んで暴徒とやりあったそうだけれど、間一髪で警吏隊に助けられたという。

これを機に狛ケ崎を離れた人も少なくなくて、外省人はもちろん、日本人も同じことだ。
魚屋の女将さんも引っ越してしまったと知ったときには、私もひどく悲しかったものだ。

それでも私達は、意外とタフに生きている。これからも、タフに、しぶとく生きてゆく。

155 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/04(月) 00:15:09.974 ID:nyjGNNE+a
ミセ*゚ー゚)リ「ただいまー……」

返事はない。


シューさんは結局、そのまま居なくなってしまった。
退院した私が帰ったとき、散乱していたガラスは綺麗に片づけられ、カーテンは新しく分厚いものが掛けられていた。
石でも投げつけられて、窓を叩き割られたとしても、ガラスが飛び散らないように、ということだろう。

テーブルには何やら分厚い紙の束が置かれていて、一番上には私が習った三文字が記されていた。
シューさん流の手紙のつもりだろうか。それならせめて、私が読める字で書いてほしかった。

押し入れを開けると、何も無くなっていた。
ファンシーな壁紙も服もランプも、天井の手描きの星も、その痕跡すら残っていない。

私は探しにも行かなかったし、待つこともしなかった。

後で役所に問い合わせてわかったことだが、あの居住命令も偽物だったそうだ。
二人で取り決めたお家賃2万円の10カ月分、20万円がきっちり先に納入されていたことも、その時に初めて知った。
変なところで律義というか、それがシューさんらしい。

156 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/04(月) 00:16:02.080 ID:nyjGNNE+a
こうして、シューさんと過ごした夏は終わった。

シューさんの残した落書きはほぼ読めなかったが、最後にたった一文だけ、私のわかる言葉が添えられていた。
たった一文だけの言葉は、何年も経った今も、私の心に残っている。

くじけそうになる私を、卑屈になる私を、奮い立たせてくれている。


『                    Life is Life,  Fight for It.                    』

158 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/04(月) 00:17:32.739 ID:nyjGNNE+a
『8月 












159 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/04(月) 00:17:47.214 ID:nyjGNNE+a
『9月 












160 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/04(月) 00:18:15.528 ID:nyjGNNE+a
『10月 












161 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/04(月) 00:18:30.007 ID:nyjGNNE+a
『11月 












162 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/04(月) 00:18:49.388 ID:nyjGNNE+a
『12月 












163 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/04(月) 00:19:08.057 ID:nyjGNNE+a
『1月 












164 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/04(月) 00:19:22.439 ID:nyjGNNE+a
『2月 












165 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/04(月) 00:20:13.307 ID:nyjGNNE+a
『3月 末日

合格しました。










166 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/04(月) 00:24:35.546 ID:nyjGNNE+a
『6月』

168 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/04(月) 00:25:23.601 ID:nyjGNNE+a
「ここ、いいかい?」

ミセ*゚ー゚)リ「どうぞ」

「ありがとうね、お嬢ちゃん」


列車が走り始めて数分ほど老紳士は彼女を眺めていた。
彼女は老紳士の視線に気づくと、顔を上げ、視線で問いかける。
老紳士は咳払いを一つして、こう尋ねた。


「もし間違いだったらすまないが、お嬢ちゃん、ひょっとして外省人かい?」


彼女は目を丸くして、静かに頷く。


ミセ*゚ー゚)リ「びっくりした。一目で気付かれたのは初めてです」

169 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/04(月) 00:25:48.618 ID:nyjGNNE+a
「これでも昔、外で仕事をしていたのでね」

ミセ*゚ー゚)リ「それは……いえ、それでは、気付くのも道理ですね」


彼女は老紳士から視線を逸らし、窓の外に目を向けた。
窓の外を流れるのは、最後に彼女が見てから、もう五年も経つ景色だった。


「日本で働いているのかね?」

ミセ*゚ー゚)リ「はい。といっても、今年からですが」

「そうか、それは……それは素晴らしい」

170 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/04(月) 00:26:14.924 ID:nyjGNNE+a
ミセ*゚ー゚)リ「そうですね。ずっと就きたかった仕事ですから」

「ふっふ、そうか。私達も嬉しいよ」

ミセ*゚ー゚)リ「ありがとう、ございます」


紳士は懐かしそうに目を細めた。
彼女はなんとなく気恥ずかしくて、目を逸らした。


「いいや、礼を言うのは我々の方だよ。お嬢さん。お嬢さんは我々の夢を一緒に叶えてくれたんだから」

ミセ*゚ー゚)リ「……?」

「馬鹿げた夢だと笑われて、非国民だと石を投げられて、それでも……我々が忘れられなかった夢だ」

ミセ*゚ー゚)リ「私一人の力じゃないですよ。お爺さん、あなた達の力だって」

「……ああ、そうだったらいいね」


紳士は目を閉じ、長く息を吐いた。
彼女は再び窓の外に目をやった。荒れ果てた地を、暑い夏の中を、行き交う人々の姿が目に映る。

やがて列車は緩やかに速度を落としはじめた。

171 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/04(月) 00:26:46.298 ID:nyjGNNE+a
ミセ*゚ー゚)リ「それじゃ、私はここで。良い旅を」

「お嬢さんこそ……ああ、お嬢さんには、ここが出発点なのだな」

ミセ*゚ー゚)リ「はい」

「良い旅を。良い人生を」

ミセ*゚ー゚)リ「人生……ふふ、ありがとうございます」


彼女はホームに降り立ち、列車は再びゆるやかに加速してゆく。

振り返ると、紳士は窓の外を眺めていた。
一瞬だけ目があうと、紳士は目を細め、にっこりと笑った。

彼女は改札を出て、歩き始めた。

172 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/04(月) 00:29:42.532 ID:nyjGNNE+a
……

手紙の文字を読めるようになったのは、数年前だ。
大学でノートに何気なく書いた『ミセリ』の落書き三文字を見て難なく解読したのは、トソンちゃんだった。

どこか知らない国の言葉、どころではなく、なんと日本語の変則文字だったという。
知らなければ分かるはずが無いとは言え、あっさりペテンに掛けられていたと知った時の悔しさと言ったら。

それから勉強して、手紙に残されていた幾つかの手掛かりをもとに、自分の人生を決めた。
私の力になってくれた人達のように、私も誰かの力になりたい。
シューさんと過ごしている間は漠然としていた私の願いが、翼を得たように生き生きと動きはじめた。

困難は、少なくなかった。だが、そんなものは、何でもなかった。

私の人生は、冒険だ。チャンスだ。そして、私の人生は私の人生だ。
難関とされる国家試験に合格し、純日本民族限定と噂された採用枠をもぎ取り、小さなバッジを手に入れた。


ミセ*゚ー゚)リ「ふぇぇ、今日も暑いよぅ……」


地球が風邪を引いて、人類は冬を迎えて。火種と焼け跡ばかりが残った戦争が過ぎて。
そうして今も困難のど真ん中に居るんだけれど、それでも私達は、タフに生き残っている。

私は今から、いつかの嘆願書を集めてくれた監理官、シラノ・ユウカさんに――
――優しい歌だなんて、似合いすぎる名前の新しい上司に、赴任の挨拶に行くところだ。

これから私達二人が過ごす二度目の冬の夏も、きっと楽しくなる。

174 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/04(月) 00:33:45.363 ID:nyjGNNE+a
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1456585367/
ブン動会(2016プチ紅白)参加表明作

さあ後は主催者の期間終了報告が来る前にスレをDATに沈めるだけです

175 名前: ◆TDGxVFEpa. :2016/04/04(月) 00:34:59.691 ID:nyjGNNE+a
ご支援ありがとうございました

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