mesimarja
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( ´ー`)街角のようです
1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 21:51:59.81 ID:a1qkoqAD0

 街に夕焼けが差し込み、居並ぶ建物の壁を赤く照らしていた。
 ネーヨは腰掛けていたベンチからゆっくりと立ち上がった。

( ´ー`)「…さて、そろそろ」


 秋の太陽はおおいそぎ。
 周りを赤く染め上げたと思ったら、次の瞬間には、その姿を早々と西の地平線へと隠してしまう。

 それは、大自然の草原の真ん中でも、
 ここのような大都会の57番街の路上でも同じだった。





     ( ´ー`)街角のようです



2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 21:55:24.82 ID:a1qkoqAD0

 一枚の枯葉が彼の肩に落ちてきた。
 見上げたネーヨの目に、もうすっかり装いを秋色の赤と黄に変えた街路樹が飛び込んできた。

 冷たい風が吹いて、ネーヨはひとつ身震いした。
 夏用の薄いジャケットのボタンを上まで留めて、喉が絞まるのにも我慢した。


 目下のところ彼は、二つの問題に大いに悩まされていた。
 寒さと、空腹である。


4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 21:58:21.84 ID:a1qkoqAD0

 彼は何からも自由だった。
 家、仕事、家族、友人、学校。
 そういったもろもろの束縛から、すべからく彼は逃れ去ることに成功したのだ。

 そして、自由は、その代償として、高額な支払いを要求してきた。

 腹が減っても、料理が毎食分きちんきちんと支給されることはなかった。
 いくら夜の風が寒くなっても、屋根と布団はネーヨに提供されなかった。
 そろそろ冬服が欲しくなる季節だったが、着ているものはぺらぺらの安い夏服だった。

 持っている金が無くなった時点で、自由は、ネーヨとの友好関係にピリオドを打った。
 ついこの間までネーヨの最高の親友だった自由は、
 今では、いつまでもつきまとって彼を苦しめ続けるだけの存在になっていた。

 もはやネーヨは、自由という悪友から逃れたくても、それすらできない状況になっていたのだ。


5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 22:00:20.36 ID:a1qkoqAD0

 そこで彼は、今日も、寒さと空腹という二大問題を解決するために、
 座りなれた57番街のベンチを離れ、ごみごみした街へ出る決意をしたのである。

 これらの諸問題を解決するには、簡単な方法がたくさんあった。
 みな、ネーヨが生活の必要に迫られて、自主的に開発した方法である。

( ´ー`)(寒さ問題は、寝るときまでに解決すればいい。
     さしあたっては空腹対策に取り掛からなければならない)


 ネーヨはふらふらと57番街を出て行き、
 交差点を渡って、太くにぎやかなアーネム通りに立つ。

 そのまま向きを変えて、人波で混み合ったアーネム通りを北へと向かった。


7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 22:02:22.28 ID:a1qkoqAD0

 最新のしゃれた外装を取り入れた、真っ白にまばゆい料理店の前で、ネーヨは足を止めた。
 看板には大きく「バーボン・ハウス」と書かれている。

 西日に照らされたメニュー写真には、
 焼きたてのうまそうな牛肉と、緑と赤の対比が綺麗なつけあわせ野菜、たくさんの副菜の小皿と、
 ガラス器に盛られたアイスクリームが写っている。

( ´ー`)「ふむ、悪くないね」

 ネーヨはメニューの金額欄にさして注意を払うこともせず、
 今夜の食事をこの店で摂ることを決意した。


8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 22:04:45.06 ID:a1qkoqAD0

 店のドアの前で、ネーヨは腕組みをして、考え込んでいた。

 自分がその料理を食べているところ、そして食べてから店を出るプロセスを、
 ネーヨは頭の中で組み立て、想像する。

 まず席に着いたら、「表のメニューにあったコースを」などと言って、料理を注文する。
 出されたものは、存分に味わって食べる。

 焼いたステーキは、まだ鉄板の上で脂が跳ねているうちに食べること。
 ときどき野菜に手を出して、上質な肉の味に舌が慣れてしまわないようにすること。

 アイスクリームに手をつける前に、十分に口の中を冷ますこと。

 食べ終わっても、怪しげなそぶりは一切見せないこと。
 給仕すべての注意が逸れる、一瞬のチャンスを見逃さないこと。

 席を立つときは、伝票を残して立たないこと。
 店を出るときは、あくまで堂々と、決して急いで駆け出したりはしないこと。

 それだけのルールさえ守れば、彼の今夜のディナーは、十分に彼を満足させてくれるだろう。


10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 22:08:12.20 ID:a1qkoqAD0

 ネーヨはレストランのドアを開け、中に入った。
 震えるほど寒かった外とは違って、暖かい空気の塊が、毛布のように彼を出迎えてくれていた。

 店内は落ち着いた雰囲気だった。
 静かに食事と酒を楽しんでいる大人たちが、騒がしい声を上げたりもせず、
 思い思いの時間を過ごしているようだった。

 テーブルについて、出された水を飲み、
 あらかじめ頭の中でシミュレートしておいた通りに注文を済ませる。


 ステーキは確かに美味かった。

( ´ー`)(上等な肉だなあ。このコース、本当はいくらするんだろうなあ…)

 食事には、たっぷり一時間ほどを費やした。


 出された料理をすべて平らげてから、ネーヨはおもむろに立ち上がり、
 給仕たちの目が離れた一瞬の隙をついて、店の出口へと何食わぬ顔で歩いていった。


11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 22:10:05.50 ID:a1qkoqAD0

 ふと、後ろから腕を掴まれた。
 にやにやと気味の悪い笑みを作った給仕長が、ネーヨの腕を強い力で捕まえていた。
  _
( ゚∀゚)「やっぱりな」

 給仕長は、脇にいた若い給仕に喋りかけた。
  _
( ゚∀゚)「な、俺が言ったとおりだろ。このガキは食い逃げだって」

( ・∀・)「いやー、まじっすねー」
  _
( ゚∀゚)「俺は目つきをみりゃ、そいつがどんな奴かはわかるんだ」

( ・∀・)「警察呼びますか?」


 ネーヨは一瞬ぴくりとして、給仕にむかって言った。。

( ´ー`)「あ、警察は勘弁してもらえます?」


12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 22:12:05.34 ID:a1qkoqAD0
  _
( ゚∀゚)「はぁ? 食い逃げが何言ってやがる」

( ´ー`)「つかまったら、たぶん家に帰されちゃうんで…
     それだけは嫌なんで…」

 そうなのだ。
 どうしようもない悪友に成り果ててしまった『自由』君だが、
 それでも、ネーヨにとってはまだまだかけがえのない価値を持つ友達だったのだ。

 家、という響きは、ネーヨにとって悪夢以外の何者でもなかった。

( ・∀・)「は? なに舐めたこと言って…」

 言いかけたモララーを、給仕長は手で制した。
  _
( ゚∀゚)「家出か…」


 ネーヨの腕をしっかりと掴んだまま、給仕長はその動きを止め、考え込んだ。


13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 22:14:05.23 ID:a1qkoqAD0

 ややあって、給仕長はひとり大きく頷いた。
  _
( ゚∀゚)「まあ、よく考えてみたら、おめえみたいな薄汚ねえガキに、おまわりを呼ぶなんてもったいねえや。
    なあ、モララー?」

( ・∀・)「あ、そっすね」
  _
( ゚∀゚)「手を貸してくれやモララー。裏口で、ちょいとよ」


 冷たいコンクリート敷きの、建物の隙間の裏路地にネーヨは放り出された。
 それから腹に、腕に、背中に、足に、二人の給仕からの力強い蹴りを受けた。
  _
( ゚∀゚)「二度とそのツラ見せるなよ」

 それだけ言って、給仕長は裏口のドアを閉めた。


15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 22:16:05.59 ID:a1qkoqAD0

 生ゴミのにおいのするバケツにすがって、ネーヨはよろよろと立ち上がった。

( ´ー`)「ははははは…」

 わけもなくネーヨは、乾いた笑い声を漏らした。
 誰に向けられた笑い声なのかは、自分でもよくわかっていなかった。

 口の中に血の味がした。
 ネーヨはそれを、ぐいっと拭った。

 手の甲に血が少しついた。

 さっき食べた上等の肉の味など、とうにかき消されてしまっていた。


16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 22:18:08.22 ID:a1qkoqAD0

 裏路地を出て、ネーヨはふたたびアーネム通りへと出た。

 時刻は既に夜だった。
 青暗い夜の歩道を、街灯と商店の明かりが、オレンジに照らしていた。

 洗練された秋服をびしっと着込んだ人間たちが、そうした明かりに照らされて、歩道を忙しく行き交っていた。

 ネーヨもそうした人々に混じって歩きながら、
 第二の問題『寒さ』を解決するための行動をとることにした。


17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 22:20:12.25 ID:a1qkoqAD0

 考えられる最も贅沢な方法は、宿に入ることである。
 そうすれば、プライバシーの守られた落ち着ける環境の下、ふかふかのベッドにすらありつけることになる。

 だがネーヨは、そこまでの贅沢を要求するつもりはなかった。
 せめて朝方まで店を開けている酒場か何かで、秋の夜露と冷たい風を防げればいい、と考えていた。

 そして、この両者のいずれのコースを選ぶにしても、
 必要なものはただ一つ。

 金、だった。


19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 22:22:32.56 ID:a1qkoqAD0

 ネーヨは、この街路において、どこに金があるのかはよく知っていた。
 人々のふところの中だ。

 だが、ありかは知っていても、それを手に入れるのは、いつだって容易なことじゃない。

 今だって、こんなにネーヨが頑張って街行く人々の懐を狙っているというのに、
 金を持ってそうな紳士や淑女はみな、ネーヨのことを避けて歩くのである。

 鳥の羽飾りのついた帽子を被った貴婦人が、ネーヨの姿をみて露骨に顔をしかめた。
 隣を歩いていた連れの男性が、怒ったように杖の先でネーヨを叩き、追い払った。



 ネーヨは人通りの多いアーネム通りを、三回ほど北から南へと往復した。
 だが、今日に限ってどうしたわけか、たった一つの財布すら、ネーヨの手の中には転がり込んでこなかった。

 さっきレストランで叩きのめされたときに、服が破れて汚れてしまったせいだろうか。
 顔に、血の跡がついているせいだろうか。

 街路を行く人々は、皆あからさまにネーヨを警戒し、その周りを避けて通っていくのだった。


21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 22:25:21.19 ID:a1qkoqAD0

 ネーヨは歩きつかれて、足を止めた。

 ネーヨが歩道の真ん中で足を止めていても、人々は変わらず北へ行き、南へ行き、
 せわしなくその足を動かして、どこかへ向かっている。

 彼らには用事があるのだ。
 彼らには行くところがあるのだ。

 友達の待つプール・バー。
 家族の待つ暖かい家。

 立ち止まったネーヨを除いて、アーネム通りを歩く人はみな、どこかしらに行くところがあるのだ。


( ´ー`)「ははははは…」

 また、笑いが出てきた。
 疲れた足が、がくがくと震えてきた。

 ようし、俺も帰るか。
 座りなれた、57番街のベンチによ。

 そこで、あたたかい新聞紙を体の上に乗せて、朝までぐっすりと眠るのさ。
 ここ一週間ほど寒くてぜんぜん眠れてないから、今日あたりは、溜まった眠気できっとぐっすりと眠れるさ。


22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 22:27:12.11 ID:a1qkoqAD0

「どうしたの、お兄ちゃん?」

 脇から突然声をかけられ、びっくりしてネーヨは振り向いた。


 少女がいた。街路脇に、座っていた。
 青い大きな目を持った、かわいらしい少女だった。

(*゚ー゚)「お兄ちゃん、さっきもここを通ったね。
    何度も何度も、ここを通ってたね」

( ´ー`)「え? 何でそんなこと知って…」

 言いながら、ネーヨは少女の姿を観察し、そして、なんとなく納得した。


23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 22:30:17.95 ID:a1qkoqAD0

 少女は薄汚れていた。
 綺麗な顔立ちには煤のような汚れが浮き、全身を包んでいるだぼついた服は染みと鉤裂きだらけだ。

 年は、十にもなっていないだろう。
 痩せている中にも、子供らしいぽってりとした様子が頬には伺える。

( ´ー`)(この子は、ずっとここに座ってたんだな)

 ネーヨは立ったまま、道端に座り込む小さなしぃを見下ろした。

 古い煙草の吸殻が、きたならしく道の端にたまっている。
 くしゃくしゃに丸められた何かの紙屑が、座り込むしぃのすぐ隣に落ちている。


24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 22:33:00.79 ID:a1qkoqAD0

( ´ー`)「きみ、こんな時間にこんなところで、どうしたの? 家は?」

(*゚ー゚)「家は近くだよ。
    でも、おかあさんが病気だから、ごはんがないの。だからいつも、ここにいるの。
    あたし、しぃって言うの。おにいちゃんは?」

( ´ー`)「お、俺? 俺は…」

 しぃは、戸惑っているネーヨの瞳を、下からじっと見上げている。


 壁に背を預け、ぺたんと地面に座り込んでいる、しぃ。

 アーネム通りを行き交う人々は、まるで少女がそこに存在していないかのように、
 彼女のことを全く気にもせずに、早足で歩き続けている。

 無理もない。
 ネーヨだって、何度も同じところを通り過ぎたはずなのに、しぃの存在には気づかなかったのだ。


25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 22:35:03.15 ID:a1qkoqAD0

(*゚ー゚)「ねえ、おにいちゃん」

 しぃは無邪気な声で、黙り込むネーヨに語りかけてきた。

(*゚ー゚)「あたしね、お腹空いてるの。
    お兄ちゃん、お金ちょうだい」

 しぃはそう言って、両手で包み込むように持っていた空のマグカップを、ネーヨのほうに突き出してきた。


 ネーヨは戸惑った。

 もちろん、このかわいそうな少女に、いくばくかの金を上げることはやぶさかではない。
 しかし、今のネーヨは、分けるべきいくばくの金も、自分の自由になるものではなかったのだ。

( ´ー`)「あ、あの、俺…」


27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 22:37:13.79 ID:a1qkoqAD0

(*゚ー゚)「お金、くれないの…?」

 しぃの顔が、わずかに曇った。

( ´ー`)「い、いや、じ、実は…」


(*゚ー゚)「おかね、ないの?」

 しぃはそう言って、出していたマグカップを引っ込めた。


( ´ー`)「……」


29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 22:39:05.98 ID:a1qkoqAD0

(*゚ー゚)「ねえ、たべものでもいいよ。なにか、持って無いの?
    お兄ちゃん、びふてきのいい匂いがするよ?」

( ´ー`)「あ、それは…」

(*゚ー゚)「…だめ?」

 つぶらな二つの青い瞳が、ネーヨの顔を見つめていた。


 ネーヨはその視線に耐え切れなくなって、ぷい、と顔を逸らせた。

 二つの青い瞳に、悲しそうな色が浮かんだ。

(*゚ー゚)「…なにも、くれないの?」


 ネーヨはその場から駆け出したくなった。
 だが、彼の足は主人の言うことを聞かなくなっていた。

 二本の足はただぷるぷると震えるばかりで、ネーヨをその場所から頑として動かそうとしなかった。


31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 22:41:44.67 ID:a1qkoqAD0

 一つの大きな人影が、街灯の明かり先に立ち、しぃの体に影をかぶせてきた。

 上等な絹の男性用手袋をした手が伸びて、
 しぃの持つマグカップに、ちゃりん、という音がした。
 
 立派な身なりをした、恰幅のいい中年男性が、しぃの前に立っていた。


 しぃはマグカップを逆さにして、自分の手の上で振った。
 金色に輝く大きな金貨が、マグカップから出てきて、ぽとり、と掌の上に落ちた。

 しぃとネーヨは、目を丸くして、しぃの掌の上にある金貨を見つめた。


32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 22:44:31.70 ID:a1qkoqAD0

( ^ω^)「お嬢さん、それでなにか暖かいものでも食べるといいお」

 にこにこと笑顔を作って、太った中年男性は言った。

 しぃとネーヨは、同時に男のほうを見た。
 二人の取り巻きを連れた、ぴかぴかの黒い夜会服を着た紳士だった。


 取り巻きはへこへことしながら、紳士に向かってお世辞を言っている。

「いやあ、さすがは先生! 慈善の心にあふれていらっしゃいます!」

「政界の大物、ブーン代議士、夜の街角にて浮浪者の少女に大金貨一枚を恵む!
 これは実に先生の素晴らしいお人柄を物語る大ニュースですなあ」

 鳥撃ち帽をかぶった取り巻きは、『ブーン代議士』という言葉を言うとき、ひときわ声を大きくした。
 周りの通行人たちに聞かせるためだろうか。

( ^ω^)「はっはっは、いやあやめたまえよ、君たち。
      もうすぐやってくる選挙に向けたパフォーマンスみたいに思われちゃうじゃないか」


34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 22:47:12.08 ID:a1qkoqAD0

 取り巻きの一人が、脇に変えたバッグからマグネシウム・ライトとカメラを取り出した。
 新聞記者か何かだろうか。

 それを見て、ブーンはにやりと笑い、
 しぃに向かって、言った

( ^ω^)「おいお前…いや、お嬢さん、ブーンが金貨を恵んでや…いや、差し上げた記念に、
      ぜひ、握手をしてほしいお」

 ブーンはそう言って、手袋をした手を、しぃのほうに差し出した。
 新聞記者はカメラを構えて待機している。

 しぃは、おずおずと右手を差し出した。

 ブーンはその手をがしっと掴むと、しぃのほうは見ず、カメラのほうを向いて、にっこりと笑った。

 マグネシウムが焚かれ、シャッターが下りた。


35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 22:49:04.23 ID:a1qkoqAD0

 それきり、ブーンはしぃに声も掛けず、すたすたとその場を立ち去った。
 取り巻きの二人もあわてて後を追う。

 しぃは、自分の掌の中の金貨を呆然として見ている。


 ネーヨは立ち去るブーンの後姿を目で追っていた。

 そして、見てしまった。
 ブーンが右手に嵌めていた手袋を脱いで、街路にぽいとほうり捨てるのを。

 ネーヨはあわててしぃのほうを見た。
 しぃは、その光景を見てはいなかった。

 なぜか、ほっとした。


37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 22:51:04.28 ID:a1qkoqAD0

( ´ー`)(チッ…嫌なもんを見たぜ。
     ふざけたやつだ、あの野郎。
     政治家か。見え見えのパフォーマンス、ってやつだな)

 ネーヨは足元の小石を一つ蹴飛ばした。

( ´ー`)(ヘドが出るぜ、偽善者め。
     あいつは、あの金貨を、しぃのために出したんじゃない。
     自分の名誉を、金貨一枚ぶんだけ買ったんだ)

 むかむかしながら、ネーヨはしぃのほうを見た。


 しぃは、まだ、自分の手の中の金貨を見つめていた。
 うれしそうに、無邪気に目を輝かせ、金貨のきらめきを見つめていた。

 ネーヨは、頭を殴られたような衝撃を覚えた。


39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 22:53:04.61 ID:a1qkoqAD0

( ´ー`)(そうか…。
     あいつの偽善は、確かに唾棄すべきものだが、それは確かにしぃの空腹を救ったのだ)

 冷たい風が、街路を吹き渡った。
 ネーヨはひとつ身震いをした。

( ´ー`)(それに対し、俺はどうだろうか。この少女に何か一つでも与えることができただろうか。
     そうだ、やつの偽善はしぃを現実に救ったが、
     俺のこの燃える正義感は、しぃに何物をももたらさなかった…)

 体中が、かっと熱くなった。 


 気づくと、ネーヨの目からは、涙がこぼれていた。
 拳を握り締め、しぃに背を向けて、大粒の涙をいくつか目から漏らしていた。


41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 22:55:13.17 ID:a1qkoqAD0

(*゚ー゚)「お兄ちゃん!」

 ネーヨの背中に、しぃが元気よく声を掛けてきた。
 ネーヨはどきりとして、とっさに目元をぬぐい、振り向いた。

( ´ー`)「な、何だい?」

 しぃは、元気よく掌をネーヨのほうに突き出してきた。
 その上には、さっきの金貨が乗っていて、街灯の光を受けて、ぴかぴかと光を放っている。

(*゚ー゚)「おかね、はんぶん、あげる!」

(;´ー`)「…は?」

(*゚ー゚)「お兄ちゃんも、おかね、ないんでしょう?
    だから、泣いているんでしょう?
    はんぶん、あげる! だから、泣き止んで!」

 そう言って、しぃは、一枚の金貨をまっすぐにネーヨに差し出している。


44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 22:57:40.44 ID:a1qkoqAD0

 小さな青い瞳が、まっすぐにネーヨのほうを向いていた。
 ネーヨは今度こそ耐えられなかった。

 一声叫んで、ネーヨは駆け出した。

 しぃの瞳から逃れるために。
 ぴかぴか光る金貨の輝きから逃れるために。

 ネーヨはアーネム通りを、一目散に駆け抜けた。


 何人かの通行人とぶつかって、文句を言われた。
 車道に出て、馬車をびっくりさせ、御者に怒鳴りつけられた。

 それでもネーヨは走り続けた。


 ネーヨは、あの薄汚い政治家のことを思い返していた。
 そして、しぃに何もできなかった自分自身のことを。

 自分は、あの薄汚い政治家以下の存在なのだ、という現実を、かみ締めていた。


46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 22:59:38.48 ID:a1qkoqAD0

( ´ー`)(…俺はいま、どこに駆けているのだ)

 走りながら、ネーヨは思った。

( ´ー`)(この方向は、57番街の方向ではないのか。
     お前は、また、お前の安住の地に戻る気か)

 57番街のベンチ。
 長い街頭生活の末に、ネーヨが見つけた安全な寝場所だった。

 そう、そこに帰りさえすれば、とりあえずの安全と安定は待っていた。

( ´ー`)(安定…。変わらぬ日常。
     すり、かっぱらい、食い逃げ、置き引きの毎日…。
     ほそぼそと、自分の食うものだけを稼ぐ毎日…)


 ネーヨははたと思い立って、足を止めた。

( ´ー`)(しぃ一人すら救えぬ、何も与えることのできない、
     下劣な政治家にすら劣る、俺の毎日…)


48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 23:02:06.89 ID:a1qkoqAD0

 ネーヨはその場に泣き崩れた。
 こんな気持ちになったのは、家出をして自由を得て以来、初めてのことだった。

 自然と、こんな路上生活をはじめることになったきっかけのことが、思い出された。

 家出をしたときは、とにかく必死だった。
 とにかくあんな家庭からは逃れたかった。
 それしか、考えていなかった。

 すべてを捨てた。
 学校も、家も、友人も。そして、自分自身の人生も。

 ネーヨにとって重荷でしかなかったそれらを、景気よくすべて、投げ捨てた。

 捨てて捨てて、すべてを捨てて。
 それでいいと思っていた。

 なのに、今は…


 ネーヨはいつまでも、その場にうずくまって丸くなり、肩を震わせ続けていた。


50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 23:04:09.21 ID:a1qkoqAD0

 どれくらいそうしていただろうか。

 騒がしかったアーネム通りの喧騒も、いつしかやわらいで行き、
 行き交う人の影もまばらになってきた。


 時計屋の店先の飾り時計が、十二時を打った。
 日が変わったのだ。


 通り沿いの商店は、あらかた鎧戸が下ろされている。
 数件の飲食店以外はもう店を閉めているのだ。

 ネーヨは、その頃になってようやく、立ち上がった。
 唇をかみ締め、拳を握り締めていた。

 そして、ある種の決意をうかがわせる足取りで、いずこかへと歩み去って行った。


53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 23:06:06.16 ID:a1qkoqAD0

 アーネム通りにも人通りがすっかり少なくなった頃。
 月が高く天に上る頃、バーボン・ハウスはその日の営業を終えることにした。

( ・∀・)「あーっ、今日も忙しかったっすねー」
  _
( ゚∀゚)「おうお疲れ。そろそろ看板をしまうか…」

 給仕長は入り口を開け、外に出た。

  _
( ゚∀゚)「!!」

 入り口の前、人通りの絶えたアーネム通り。
 そこには、夕べの食い逃げ少年が立っていた。

  _
( ゚∀゚)「…何だてめえ。二度とそのツラ見せるな、と言ったはずだぜ」

 給仕長は拳をつくり、ゆっくりと少年のほうへと歩みを進めた。


56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 23:08:16.18 ID:a1qkoqAD0

 少年はがばり、と給仕長の前に体を投げ出した。

( ´ー`)「さっきは申し訳ありませんでした!!
     お願いです! 僕をここで使ってください!!」

( ・∀・)「…は?」

 給仕長とモララーは、頭を地面にこすり付ける少年を、上から見下ろした。


 モララーは足を挙げ、土下座するネーヨの頭をぐりぐりと踏みつけた。

( ・∀・)「ふざけてるの? 食い逃げを雇う店があると思ってんの?」

 モララーがネーヨの脇腹を、勢いよく蹴った。
 ぐふっ、とネーヨは声を上げた。


57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 23:10:06.36 ID:a1qkoqAD0

( ・∀・)「警察に突き出されなかっただけ、ありがたいと思わなきゃあ」

 モララーはしゃがみこんで、ネーヨの髪を鷲づかみにし、土下座するその顔を無理矢理あげさせた。
 鼻から血を流しながら、ネーヨは必死に給仕長のほうを向いて、言った。

( ´ー`)「お、お願いです。僕を、使って…」

 モララーは髪を掴んだまま、ネーヨの顔を街路の石畳にたたきつけた。
 鈍い音が響いた。
  _
( ゚∀゚)「…よせ」

( ・∀・)「え? でもこいつ…」
  _
( ゚∀゚)「よせっつってんだろ!!」

 給仕長が声を荒げた。
 モララーはようやく、しぶしぶといった様子でネーヨの髪から手を放した。


60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 23:12:14.27 ID:a1qkoqAD0
  _
( ゚∀゚)「おいガキ。立て」

 ネーヨは地面に手をついて、ふらふらと立ち上がった。
 鼻からはとめどなく血が流れている。額の一部が割れて、そこからも血が流れている。

( ´ー`)「お゛ね゛がいです」

 喉に入った血のせいで、言葉が濁った。
 それでも、ネーヨはまっすぐに給仕長と向き合い、言った。

 ネーヨと給仕長は、しばし、見つめあった。
 その目には、ふしぎな光があった。
 食い逃げをしたときの、店員の隙をうかがっていた濁った目つきとは、明らかに違った…。

 やがて、給仕長はふっと笑った。
  _
( ゚∀゚)「二度とツラ見せんなって言っただろ!」

 そう叫んで、思い切りネーヨの頬を、拳で殴りつけた。


61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 23:14:16.02 ID:a1qkoqAD0

 ネーヨの体は街路に吹き飛ばされた。
 血しぶきが、その体の後を追った。

 が、それでもネーヨは立ち上がった。

 震える足を自分の両拳で叩き、腫れ上がった瞼をしっかり開きながら、立ち上がった。

 そして、よろよろと二、三歩あるいて、給仕長の前に立った。

  _
( ゚∀゚)「…俺の命令を破るやつは、いまみたいに殴り倒すからな」

 前に立ったネーヨに、給仕長は言った。
  _
( ゚∀゚)「しばらく給料はねえぞ。地位は、店の中でいちばん下っ端からだ」

 ネーヨは声を出そうとした。だが、出てきたのは折れた歯だけだった。
 だから、給仕長の言葉への同意を表すために、こくりと一つ頷いた。

 給仕長は何も言わず、振り返ると、すたすたと店の中に帰っていった。
 モララーはネーヨのほうを一瞥すると、給仕長の後につづいて、店の中に入っていった。

 ネーヨはぎゅっと拳を握り締めると、二人の後につづいて、閉店した店の中に飛び込んだ。


64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 23:16:23.81 ID:a1qkoqAD0

 一ヶ月が経った。
 冬の装いをした昼のアーネム通りを、息せき切って駆ける少年の姿があった。

 少年はとある街路の一角にくると、きょろきょろと、せわしなく辺りを見渡した。

( ´ー`)「たしか、このへんだったと思うんだが……」

 少年は綺麗なショーウィンドーでもなく、居並ぶ店のしゃれた造りの看板でもなく、
 ただ汚い裏路地の一本一本を覗き込みながら走っていた。


 彼の手には、コッペパンが一つ握られていた。
 銅貨一枚ぶんのパンだ。
 少年がもらったはじめての給金。
 それを、通りのパン屋で、焼きたてのコッペパンに換えたのだ。

 半分に割って、二人で食べよう。
 少年は、そう思っていた。


65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 23:18:46.50 ID:a1qkoqAD0

 だが、肝心の相手が、見つからない。

( ´ー`)「くそっ、あのときは夜だったからな…。
     たしか、このへんだったと思うんだが」

 ネーヨは立ち止まり、はぁ、はぁと息をついて、あたりを見渡した。


「…お兄ちゃん?」

 ふいに、背後から声がかかる。
 あのときと同じだ。


 ネーヨは、ばっ、と振り向いた。

(*゚ー゚)「あ、やっぱりお兄ちゃんだ!
    よかったー! 心配してたんだよ!」

 摘んできた野の花を籠に入れ、それを売り物にして街路に立っていたしぃが、
 ネーヨの後ろに佇んでいた。


67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 23:21:13.97 ID:a1qkoqAD0

( ´ー`)「や、やあしぃちゃん…」

 どぎまぎしつつも平静を装って、ネーヨは返事をした。

(*゚ー゚)「ねえ、大丈夫なの?」

( ´ー`)「大丈夫? 何が?」

(*゚ー゚)「どこか、怪我でもしてたの?
     あのとき、一声叫んで駆けて行っちゃったじゃない」

( ´ー`)「ああ…」

 いつかの晩。
 そのときのことを思い出して、ネーヨは少し気恥ずかしくなった。


73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 23:24:49.71 ID:a1qkoqAD0

( ´ー`)「うん、大丈夫。もう大丈夫さ」

(*゚ー゚)「そっか。よかったー!」


( ´ー`)「ありがとう。君のおかげだ」

(*゚ー゚)「え? あたし、何もしてないよ?」

( ´ー`)「いや、君のおかげだ。君と出会えた、おかげなんだ…」


 ネーヨはパン屋の名前が入った小さな袋から、焼きたてのコッペパンを取り出した。

( ´ー`)「だから、お礼に、お食事をご一緒願えないかな?
      こんな小さなパンを半分こ、なんだけど…」

 しぃの目が輝いた。
 そして、元気よく、

(*゚ー゚)「うん!」

 といって、大きく頷いた。

 ネーヨは、その青い目の視線を、しっかりと受け止めた。
 そして、今度こそ、大きな笑顔を、彼女に向かって送ったのだ。


75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 23:25:13.87 ID:a1qkoqAD0
( ´ー`)街角のようです おしまい。

84 名前:afo ◆2z7bKNbsWo :2008/07/26(土) 23:31:14.85 ID:a1qkoqAD0
しえんありがとーございます!
ネーヨというキャラはずいぶん好きです。
しぃはかわいいです。

よんでくださって、ありがとうございます。

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/26(土) 23:35:12.37 ID:a1qkoqAD0
また途中送信してしもた
enterだけで書き込まれてしまうんだな…

あとがきが消えちゃったけど、なんか不要な気がしてきたのでやめます。
もう一度、よんでくれた人にありがとうです。

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